説明

凍結濃縮装置

【課題】より溶質の取り込みが少ない氷結晶を形成する凍結濃縮装置を提供すること。
【解決手段】凍結濃縮装置100は、被濃縮液を冷却し被濃縮液中の水分を凍結させて当該被濃縮液を濃縮する凍結器1と、微細気泡を発生し被濃縮液に供給する微細気泡発生手段2と、を備える。微細気泡発生手段2により被濃縮液に供給された微細気泡が、被濃縮液中の水分が氷結晶を形成する際の核となることにより、過冷却状態の発生を抑制することができる。したがって、過冷却状態からの解放時の急速凍結の発生を抑制できることから、溶質の取り込みが少ない氷結晶を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中の水と溶質との凝固点の差を利用して、氷結晶を析出させて分離することにより水溶液の濃度を高める凍結濃縮法は、他の濃縮方法に比べて、溶質の変化や損失が少なく、濃縮操作中における微生物増殖の心配がないことから、飲料・液状食品に含まれる成分の濃縮や、排水処理における汚濁物質の処理等に幅広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−28455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような凍結濃縮方法においては、被濃縮液をより高濃縮することが求められる。凍結濃縮方法において被濃縮液を効率的に濃縮するためには、溶質の取り込みが少ない良質の氷結晶を形成することが必要である。
【0004】
しかしながら、被濃縮液が過冷却状態となり、何らかの刺激等による過冷却解放がなされた場合には急速凍結が発生し、このときに形成される氷結晶は溶質の取り込みが多くなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、より溶質の取り込みが少ない氷結晶を形成することができる凍結濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る凍結濃縮装置は、被濃縮液を冷却し被濃縮液中の水分を凍結させて当該被濃縮液を濃縮する凍結器と、微細気泡を発生し被濃縮液に供給する微細気泡発生手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記の凍結濃縮装置によれば、微細気泡発生手段により被濃縮液に供給された微細気泡が、被濃縮液中の水分が氷結晶を形成する際の核となることにより、過冷却状態の発生を抑制することができる。したがって、過冷却状態からの解放時の急速凍結の発生を抑制できることから、溶質の取り込みが少ない氷結晶を得ることができる。
【0008】
ここで、微細気泡発生手段により供給される微細気泡の気泡径は、0.1μm〜100μmであることが好ましい。
【0009】
微細気泡の気泡径を上記の範囲とすることで、微細気泡供給手段から供給される微細気泡が、被濃縮液中に長時間滞留することができるため、過冷却状態の発生の抑制効果をさらに高めることができる。また、断熱性のある微細気泡が被濃縮液中に滞留することにより、被濃縮液中の水の伝熱速度が抑制されることから凍結速度が遅くなり、氷結晶への溶質の取り込みを一層減らすことができる。さらに、被濃縮液中に微細気泡が滞留することにより、微細気泡の近傍においてキャビテーション現象が生起される結果、被濃縮液中の溶質が良好に撹拌されて、氷結晶への溶質の取り込みが抑制され、溶質の取り込みが少ない氷結晶を得ることができる。
【0010】
また、本発明に係る凍結濃縮装置は、微細気泡発生手段の微細気泡の供給量を制御する制御手段をさらに備える態様とすることが好ましい。
【0011】
制御手段によって微細気泡発生手段の微細気泡の供給量を制御する構成とすることにより、例えば被濃縮液の溶質の濃度等に応じて微細気泡の供給量を変更することができ、より溶質の取り込みが少ない氷結晶を得ることが可能となる。
【0012】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成としては、具体的には、凍結器の入口と出口とに接続され、凍結器に対して被濃縮液を循環させる循環流路と、凍結器内に設けられて被濃縮液にその表面が接触し、被濃縮液を冷却するための冷媒によって冷却される凍結板と、を備え、循環流路により被濃縮液を循環させながら、凍結板の表面に氷結晶を形成させて被濃縮液を濃縮させる所謂界面前進凍結濃縮装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より溶質の取り込みが少ない氷結晶を形成することができる凍結濃縮装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の第一実施形態に係る凍結濃縮装置100を示す概略構成図である。
【0016】
凍結濃縮装置100は、被濃縮液中の水分を凍結させる凍結器1と、凍結器1の入口と出口とに接続され、凍結器1に対して被濃縮液を循環させる循環ライン(循環流路)L1と、を具備している。
【0017】
凍結器1は、所謂界面前進凍結濃縮装置と称されるもので、被濃縮液が流れる凍結槽1aと、凍結槽1aに設けられ、被濃縮液にその表面が接触すると共に背面側が被濃縮液を冷却するための冷媒によって冷却される凍結板1bと、を有した構成とされる。凍結板1bは、ここでは、冷媒供給ラインにより循環する冷媒により冷却される。
【0018】
被濃縮液を循環させる循環ラインL1には、凍結器1よりも上流側に被濃縮液中へ微細気泡を供給する微細気泡供給手段2が接続されると共に、微細気泡供給手段2の上流側に循環ラインL1に空気を導入するための空気導入ラインL2と空気導入ラインL2の開閉を行うバルブV1が配設されており、空気導入ラインL2と微細気泡供給手段2との間に気液混合ポンプP1が接続されている。凍結器1よりも下流側には循環ラインL1中の気体を分離する気液分離器3が接続されていて、気液分離器3から循環ラインL1に排出された被濃縮液は、再び空気導入ラインL2との接続点に達する構成とされている。
【0019】
気液混合ポンプP1は、被濃縮液を循環ラインL1を通して凍結器1との間で循環させると共に、空気導入ラインL2から導入される空気を気液分離器3からの被濃縮液に混合させるものである。
【0020】
微細気泡供給手段2は、気液混合ポンプP1からの気液混合した被濃縮液中の空気を微細にして微細気泡とするもので、ここでは、被濃縮液中の空気に剪断を与えることにより微細気泡を形成する。
【0021】
気液分離器3は、その上部に排気ラインL3と排気ラインL3の開閉を行うバルブV2が接続され、循環ラインL1を流れる被濃縮液から分離された気体部分を、排気ラインL3から排出すると同時に、微細気泡が混入している液体部分を下流側へ流す。
【0022】
上記の構成を有する凍結濃縮装置100は、さらに制御手段4を備えている。この制御手段4は、被濃縮液の濃度に関する情報を取得し、その情報に基づいて微細気泡供給手段2により供給する微細気泡の供給量を制御する。
【0023】
このような構成を有する凍結濃縮装置100の作用について説明する。
【0024】
凍結濃縮装置100では、循環ラインL1により被濃縮液が凍結器1を循環する。循環ラインL1には空気導入ラインL2のバルブV1が開かれることにより空気が導入される。空気と被濃縮液は気液混合ポンプP1により混合され、この混合液が微細気泡供給手段2を通過する際に、混合液中の空気が微細気泡とされ、微細気泡が混入して凍結器1の凍結槽1aに供給される。微細気泡が混入する被濃縮液は凍結槽1a中を進みながら凍結板1bにより冷却され、凍結板1bの表面に氷結晶Sが形成され積層されていく。このように、被濃縮液は凍結器1で氷結晶Sが形成されることによって凍結濃縮される。そして、凍結器1から送出された被濃縮液において微細気泡の合泡や水面への浮上等によって被濃縮液から分離した気体部分は、気液分離器3により循環ラインL1から排気ラインL3へ除去される。なお、凍結板1bの表面に形成された氷結晶Sは、凍結器1及び循環ラインL1から被濃縮液を除去した後に、凍結板1bを加温し氷結晶Sを凍結板1bから落下させることによって除去される。また、被濃縮液を除去する前に、凍結板1bを加温することで氷結晶Sの表面を溶解し凍結板1bから剥離して被濃縮液中を浮上させることによって除去しても良い。
【0025】
上記の構成を有する凍結濃縮装置100にあっては、凍結器1へ供給される被濃縮液に微細気泡を供給することにより、この微細気泡が、被濃縮液中の水分が氷結晶を形成する際の核となり、したがって、過冷却状態の発生が抑制される。その結果、過冷却状態からの解放時の急速凍結の発生を抑制でき、溶質取り込みの少ない氷結晶を形成することができる。
【0026】
ここで、上記の凍結濃縮装置100において微細気泡供給手段2により供給される微細気泡の気泡径を0.1μm〜100μm(より好ましくは1〜50μm)とすることが好ましい。
【0027】
気泡径が0.1μm以下となる気泡を発生させるためには複雑な装置が必要となり、装置が高価となる。一方、気泡径が100μmよりも大きい場合には、微細気泡の滞留時間が短くなり、短時間で被濃縮液の表面に浮上してしまう。気泡径を上記の範囲とすることで滞留時間を長くすることができ、例えば、気泡径が上記の範囲で、微細気泡の体積と被濃縮液の体積との比が0.05となる量の微細気泡を静置水槽の被濃縮液に供給した場合、微細気泡の分散状態を数分以上維持することができる。
【0028】
このように、微細気泡を長時間被濃縮液中に滞留させることができるため、過冷却状態発生の抑制効果をより高めることができる。
【0029】
また、気泡径が上記の範囲であり断熱性のある微細気泡が凍結槽1aの被濃縮液中に滞留することにより、被濃縮液中の水の伝熱速度が抑制されることから凍結速度が遅くなり、氷結晶Sへの溶質の取り込みを一層減らすことができる。
【0030】
さらに、凍結槽1a中を進む被濃縮液中に気泡径が上記の範囲の微細気泡が滞留することにより、微細気泡の近傍においてキャビテーション現象が生起される結果、被濃縮液中の溶質が良好に撹拌されて、氷結晶Sへの溶質の取り込みがさらに抑制されるという効果も有する。
【0031】
また、制御手段4によって微細気泡供給手段2の微細気泡の供給量を制御することにより、被濃縮液の溶質の濃度に応じて微細気泡の供給量を変更することができ、例えば被濃縮液の濃度が高まることによる氷結晶Sへの溶質の取り込みの増加に対して微細気泡の供給量を増やすことにより溶質の取り込み量を減らすことが可能となるほか、過冷却が発生しやすい被濃縮液の濃縮初期(凍結板1bの冷却開始初期)に微細気泡の供給量を増やすことによって、過冷却状態の発生を抑制することが可能となる。また、濃縮度が上がるほど分離度が低下するため、凍結濃縮の進行と共に微細気泡の供給量を増加することが望ましい。
【0032】
このように、本実施形態においては、微細気泡供給手段2によって微細気泡が供給された被濃縮液を凍結器1において凍結濃縮するため、過冷却状態の発生を抑制することが可能となる。
【0033】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。図2は、本発明の第二実施形態に係る凍結濃縮装置200を示す概略構成図である。
【0034】
この凍結濃縮装置200が凍結濃縮装置100と異なる点は、気液分離器3に対して微細気泡供給手段2が設けられている点である。具体的には、気液分離器3に対して微細気泡供給ラインL4の循環流路が設けられ、この微細気泡供給ラインL4に、微細気泡供給手段2と、空気導入ラインL2及びバルブV1と、気液混合ポンプP1とが設けられている。そして、循環ラインL1には、循環ポンプP2が設けられていて、循環ポンプP2により被濃縮液が循環ラインL1を循環する。
【0035】
上記の構成を有する凍結濃縮装置200では、気液分離器3に対して微細気泡が供給される点以外は第一実施形態に係る凍結濃縮装置100と同じであり、第一実施形態と同様な効果を得ることができるというのは言うまでもない。
【0036】
以上、本発明を実施形態に基づき詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、界面前進凍結濃縮装置について説明したが、被濃縮液中に分散する多数の氷結晶の結晶成長を行うことにより被濃縮液の凍結濃縮を行う懸濁結晶法による凍結濃縮装置にも適用することができる。
【0037】
また、上記実施形態では、微細気泡供給手段2として気液混合された液体中の空気を剪断することにより微細気泡を被濃縮液中に供給しているが、例えば、加圧して気体を被濃縮液中に溶解した状態から、一気に定圧状態にすることで微細気泡を発生させる加圧溶解方式等の他の方式によって微細気泡を供給してもよい。
【0038】
さらに、上記実施形態においては、氷結晶を形成する際の核となること、凍結速度を遅くできること、キャビテーション現象を生起できることから、気泡径が0.1μm〜100μmの所謂マイクロバブルを供給するようにしているが、気泡径がミリ単位のミリバブルを供給してもよい。この場合は、ミリバブルが、氷結晶を形成する際の核となり、過冷却を防止できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を説明する。
【0040】
(実施例1)
図1に示す凍結濃縮装置を用いて、3重量%のNaCl溶液を被濃縮液として1時間凍結濃縮を行い、凍結濃縮後の被濃縮液の濃度と凍結板の表面に形成された氷結晶に含まれる溶質の濃度を測定した。凍結器の凍結槽の容積は1Lとし、凍結板中の冷媒の温度は−16℃とした。また、微細気泡供給手段としてマイクロバブル発生装置を用い、微細気泡の体積と被濃縮液の体積との比が0.05となるように微細気泡を供給した。
【0041】
その結果、凍結板の表面に形成された氷結晶に含まれるNaClの濃度は0.22重量%であり、被濃縮液のNaCl濃度は5.3重量%であった。
【0042】
(比較例1)
微細気泡供給手段を用いず、微細気泡を被濃縮液に供給しない点以外は実施例1と同様とした。
【0043】
その結果、凍結板の表面に形成された氷結晶に含まれるNaClの濃度は0.39重量%であり、被濃縮液のNaCl濃度は4.2重量%であった。
【0044】
実施例1と比較例1の結果より、微細気泡供給手段により微細気泡を被濃縮液に供給しながら凍結濃縮することにより、氷結晶への溶質の取り込みが少なくなり、被濃縮液を効率よく濃縮できることが確認できた。
【0045】
(実施例2)
凍結板中の冷媒の温度を−10℃とした点以外は実施例1と同様とし、5回の実験を行った。その結果、一度も過冷却現象は生じなかった。
【0046】
(比較例2)
凍結板中の冷媒の温度を−10℃とした点以外は比較例1と同様とした。その結果、5回の実験のうち2回の割合で過冷却現象が発生し、溶質の取り込み率の高いシャーベット状の氷結晶が形成された。
【0047】
実施例2と比較例2の結果より、凍結板中の冷媒の温度を過冷却の生じやすい状況とした場合にも、微細気泡供給手段により微細気泡を被濃縮液へ供給しながら凍結濃縮することにより、過冷却状態の発生が抑制されることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第一実施形態に係る凍結濃縮装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る凍結濃縮装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0049】
1…凍結器、2…微細気泡供給手段、3…気液分離器、100,200…凍結濃縮装置、L1…循環ライン、L2…空気導入ライン、L3…排気ライン、L4…微細気泡供給ライン、P1…気液混合ポンプ、P2…循環ポンプ、V1,V2…バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被濃縮液を冷却し被濃縮液中の水分を凍結させて当該被濃縮液を濃縮する凍結器と、
微細気泡を発生し前記被濃縮液に供給する微細気泡発生手段と、
を備えることを特徴とする凍結濃縮装置。
【請求項2】
前記微細気泡の気泡径が0.1μm〜100μmであることを特徴とする請求項1記載の凍結濃縮装置。
【請求項3】
前記微細気泡発生手段の前記微細気泡の供給量を制御する制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の凍結濃縮装置。
【請求項4】
前記凍結器の入口と出口とに接続され、前記凍結器に対して前記被濃縮液を循環させる循環流路と、
前記凍結器内に設けられて前記被濃縮液にその表面が接触し、前記被濃縮液を冷却するための冷媒によって冷却される凍結板と、を備え、
前記循環流路により前記被濃縮液を循環させながら、前記凍結板の表面に氷結晶を形成させて被濃縮液を濃縮させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の凍結濃縮装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−291671(P2009−291671A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144893(P2008−144893)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】