説明

凍結防止特性を有する表面コーティング

本発明は、マトリックスおよびその中に組み入れられた活性ポリマーを含むコーティングにおいて、活性ポリマーがマトリックスに共有結合していること、ならびに活性ポリマーが本明細書による構造単位を含有すること、ならびに場合により架橋剤および/またはカップリング試薬が含有されていることを特徴とするコーティングに関する。このコーティングは、抜群の凍結防止特性を示す。さらに本発明は、当該コーティングを含む成形体および装置;当該コーティング、成形体および装置の製造方法および使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結防止特性を有する表面コーティング、当該コーティングを含む成形体および装置、当該コーティング、成形体および装置の製造方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
表面の凍結(「フリージング」)、またはそのような凍結の防止もしくは遅延は、公知であって、大いに研究されている領域である。望ましくない凍結は、非常に様々な表面において生じ、例えば、エネルギー発生設備(風力発電設備の回転翼など)、輸送機関(翼表面および回転体の表面、窓など)、およびパッケージの表面が挙げられよう。
【0003】
GB1494090(特許文献1)は、特定の水性分散液および熱硬化性樹脂を含有する硬化可能な組成物ならびにそれをコーティングされた基材について記載している。しかしながら、この文書には、活性ポリマーが共有結合によってマトリックス中に組み入れられているコーティングは開示されていない。さらに、前記文書は、開示されたコーティングの凍結防止特性を開示していない。
【0004】
EP0979833(特許文献2)は、特定のアクリレート誘導体を含有する水性分散液、および増粘剤としてのその使用について開示している。R1が水素を表さないことから、そこに開示された化合物は、本発明の式(Ia)の化合物と区別される。さらに、前記文書では表面コーティングについても凍結防止特性についても取り上げられていない。
【0005】
DE20023628(特許文献3)(および同様にUS7003920(特許文献4))は、吸着性防霜層と組み合わされた透明窓ガラスを開示している。しかしながら前記保護層では、共有結合によって活性ポリマーをマトリックス中に組み入れるようになされていない。
【0006】
Applied Thermal Engineering, 20 (2000) 737(非特許文献1)は、凍結を遅延させるコーティングについて記載している。コーティングとして、VPおよびMMAのような親水性ポリマーが、場合によりPIBから成る未架橋マトリックスと組み合わせて使用される。しかしながら活性ポリマーが共有結合によってマトリックス中に組み入れられているコーティングは開示されていない。そのように製造されたコーティングは、わずかな効果および不良な機械的特性(接着性)を示す上に、厚い層厚で塗布される。
【0007】
EP1198432(特許文献5)は、メソ多孔性材料または有機/無機吸着材料のいずれかと組み合わされた親水性ポリマーから成る混合物を含有する不凍化コーティングを記載している。この文書に記載された成分は、物理的混合物として存在する。このコーティングの耐久性は、様々な使用において不十分であることが証明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】GB1494090
【特許文献2】EP0979833
【特許文献3】DE20023628
【特許文献4】US7003920
【特許文献5】EP1198432
【特許文献6】E−A−102006049804
【特許文献7】US6034208
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Applied Thermal Engineering, 20 (2000) 737
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それゆえに、本発明の課題は、前記問題の一つまたは複数を解決する、代替的な凍結防止コーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、下記のような、特に請求項1、2、7、11の特徴によるコーティングを提供することによって解決される。本発明のさらなる態様は、独立請求項および本明細書に述べられている。有利な形態は、従属請求項および本明細書に述べられている。本発明の枠内で、様々な実施形態と好ましい範囲とを任意に組み合わせることができる。さらに、特定の実施形態、範囲または定義は、適用されないか、または除外されることがある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の枠内で重要な概念を、以下に詳しく説明する。したがって、特定の文脈から反対のことが何も判明しない限り、この説明が用いられるものとする。
【0013】
「ゾル−ゲル」という概念は一般に公知であり、特に金属前駆体または半金属前駆体の加水分解および縮合(「ゾル−ゲル過程」)によって形成されるゾルーゲルを含む。ゾル−ゲル過程は、コロイド分散液、いわゆるゾルから非金属無機コーティングまたはハイブリッドポリマーコーティングを製造するために適した方法である。第1の基本反応において、それらのゾルから溶液中にきわめて微細な粒子が生成する。ゲルと呼ばれるのは、金属前駆体または半金属前駆体から成るネットワークである。式(IV)
11MR12a−n (IV)
[式中、
11は、互いに独立して、加水分解不可能な基、例えばC1〜C8アルキル、特にメチルおよびエチルを表し;
12は、互いに独立して、加水分解可能な基、例えばC1〜C8アルコキシ、特にメトキシおよびエトキシを表し;
Mは、Si、Al、ZrおよびFeを含む群からの元素を表し;
aは、4を表す(MがSi、Zrを表す場合)か、または3を表し(MがAl、Feを表す場合);
nは、0、1、2、3を表す]
で示される前駆体が適切である。
【0014】
ゾル−ゲルは、1種類の前駆体から成るか、または様々な前駆体の混合物から成ることが可能である。ケイ素アルコキシドが使用される場合、上記一般式の好ましいシランは、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランである(n=0)。テトラアルコキシシランとトリアルコキシ有機シラン(n=1)の混合物が特に適切である。したがって好ましい前駆体は、
SiR12(IVa)とR11SiR12 (IVb)
[式中、R11およびR12は、前記の意味を有する]の混合物を含有する。本発明の製造方法では、前記ゾルを含有するコーティング組成物が、対応する表面に塗布される。
【0015】
「ポリマー」という概念は、一般に公知であり、特に、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリレートの群からの工業用ポリマーを含む。ポリマーは、ホモポリマー、コポリマーまたは配合物として存在してもよい。
【0016】
「基材」という概念は、一般に公知であり、特にコーティング可能な固体表面を有する全ての物体を含む。したがって基材という概念は、特定の機能または寸法とは分離している。基材は、「コーティングされていない」か、または「コーティングされている」ことがある。「コーティングされていない」という表現は、本発明の外層を欠如する基材を示すが、他の層(例えば塗膜、オーバープリントなど)の存在を排除するものではない。
【0017】
「官能基」という概念は、一般に公知であり、それを担持する分子の物性および反応挙動に決定的に作用する、分子中の原子群を示す。化合物(ポリマー、モノマー、前駆体など)が「官能化されている」または「官能化されていない」と呼ばれる場合、これは、官能基の存在または不在に関連する。官能化がある場合、これは、特に、所望の効果を達成するためのこの官能基の有効量を意味する。本発明の枠内でこの表現は、特に、ゾル−ゲルまたはポリマーに共有結合している基を表す。
【0018】
「凍結防止」(「氷結防止」)という概念は、「凍結防止コーティング」という複合表現でも一般に公知である。凍結防止は、表面の凍結が阻止または遅延されることを意味する。理論に縛られていると感じることなく、本件における「凍結防止」の効果は、親水性ポリマーが大量の水を取り込むことができる能力によって説明することができる。ポリマーの親水性は、凝縮した水によってポリマー表面が層状に湿ることを引き起こす。取り込まれた水の凍結が抑制され、表面の凍結は回避または遅延される。
【0019】
したがって本発明は、第1の態様では、マトリックスおよびその中に組み入れられた活性ポリマーを含む(すなわち含有するまたはそれから成る)コーティングにおいて、
(i)マトリックスが架橋しているか、または(ii)活性ポリマーが架橋しているか、または(iii)活性ポリマーがマトリックスに共有結合しているかのいずれかであること;ならびに
架橋した活性ポリマー(ii)の場合、マトリックスがなくてもよいこと;ならびに
活性ポリマーが、式
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

[式中、
は、水素またはC1〜C6アルキルを表し、
Aは、C2〜C4アルキレン基を表し、
Bは、C2〜C4アルキレン基を表すが、但し、AはBと異なり、
x、yは、互いに独立して1〜100の整数を表し、
およびRは、互いに独立して水素もしくはC1〜C6アルキルを表すか、またはRおよびRは、窒素原子およびカルボニル基と一緒になって5、6もしくは7個の環原子の環(すなわちラクタム)を形成し、
およびRは、互いに独立して水素、C1〜C6アルキルもしくはC1〜C6シクロアルキルを表すか、またはRおよびRは、窒素原子と一緒になって5、6もしくは7個の環原子を有する環を形成し、
は、水素またはC1〜C6アルキルを表す]の構造単位を含有すること;ならびに
場合により架橋剤および/またはカップリング試薬が含有されること
を特徴とするコーティングに関する。
【0023】
公知のコーティングと比べて、本発明のコーティングは、改善された特性プロファイル、特に改善された凍結防止特性および/または改善された保存性および/またはより薄い層厚を有する。本発明のこの態様を以下に説明する。
【0024】
本発明の特に適切な実施形態を以下に説明する。
【0025】
層厚:本発明のコーティングの層厚は、重要ではなく、広い範囲内で変動しうる。ポリマーから成るマトリックスベースのコーティングは、典型的には0.5〜1000μm、好ましくは10〜80μmの厚さを有し;ゾル−ゲルから成るマトリックスベースのコーティングは、典型的には0.1〜100μm、好ましくは0.5〜10μmの厚さを有し;マトリックスを有さないコーティングは、典型的には0.1〜100μm、好ましくは0.5〜10μmの厚さを有する。公知のコーティングと比べて、本発明のコーティングは、凍結防止効果にマイナスに作用することなく、明らかに薄い層厚で塗布することができる。
【0026】
活性ポリマー:本発明によれば、活性ポリマーの選択が決定的に重要である。本発明のコーティングは、活性ポリマーを含有し;これらの活性ポリマーは表面上およびマトリックス内部に(「組み入れられて」)、好ましくは有効量で存在する。ポリマーの量は、広い範囲内で変動しうる。有利な形態では、活性ポリマー対マトリックスの比は、20:70〜98:2、特に有利には55:45〜90:10の範囲にある。この範囲内では、コーティングの良好な凍結防止特性も良好な保存性も獲得できることが示された。そのようなポリマーに適切な構造単位を以下に説明する;ポリマーは、有利には、式(Ia)のアクリレートおよび/または式(Ib)のビニルアミドおよび/または式(Ic)のアクリルアミド、ならびに場合により架橋剤(例えば式(IIa)および/または(IIb))ならびに場合によりカップリング試薬(例えば式(III))を含有する(またはそれらから成る)。それぞれの場合に、一つまたは複数の異なる前記成分が存在してもよい。
【0027】
アクリレート(Ia):一実施形態では、活性ポリマーは、式(Ia)
【0028】
【化4】

[式中、
は、水素またはC〜Cアルキルであり、
Aは、C〜Cアルキレン基であり、
Bは、C〜Cアルキレン基であるが、但し、AはBと異なり、
x、yは、互いに独立して1〜100の整数を意味する]
の構造単位を1から100mol%の間で含有する。
【0029】
は、好ましい一実施形態では水素またはメチルを表す。
【0030】
AおよびBは、C〜Cアルキレン基を表すが、但し、AはBに等しくない。すなわち、式(Ia)の構造単位は、最大200個のC〜Cアルコキシ単位でアルコキシル化されていることが可能であって、その際、エチレンオキシド、プロピレンオキシドもしくはブチレンオキシドからの少なくとも2種によるブロックアルコキシル化、またはエチレンオキシド、プロピレンオキシドもしくはブチレンオキシドからの少なくとも2種による(ランダム)混合アルコキシル化のいずれかであってもよい。
【0031】
AおよびBは、好ましい一実施形態では、エチレン基またはプロピレン基を表す。特に好ましくは、Aはプロピレン基であり、Bはエチレン基である。特にAはプロピレン基であり、Bはエチレン基であり、その際、x=1〜5であり、y=3〜40である。
【0032】
EOおよびPOを用いたランダム混合アルコキシル化の場合、エチレン基対プロピレン基の比は、好ましくは5:95〜95:5、特に好ましくは20:80〜80:20、特に40:60〜60:40である。
【0033】
活性ポリマーは、式(Ia)の構造単位を例えば2〜99、好ましくは5〜95、特に20〜80、特別には40〜60mol%含有する。
【0034】
式(Ia)による構造単位の構造に応じて、与えられた条件に対応し、特定の活性ポリマーとして適切に凍結防止特性に作用できるように、活性ポリマーの特性を改変することができる。式(Ia)の化合物においてAがプロパン−1,2−ジイルを、Bがエタン−1,2−ジイルを、Xが1〜3(好ましくは2)を、yが3〜7(好ましくは5)を、Rがメチルを表す場合に、特に良い結果が得られた。
【0035】
式(Ia)の構造単位をベースとするポリマーの製造は、それ自体公知であり、アルコキシル化アクリル酸誘導体またはアルコキシル化メタクリル酸誘導体の重合によって生成することができる(以下のアクリル酸という概念はメタクリル酸も意味する)。これらは、アクリル酸または2−アルキルアクリル酸、あるいはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはブチレングリコールのアクリル酸モノエステル(2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートもしくは2−ヒドロキシブチルアクリレート)、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはブチレングリコールの2−アルキルアクリル酸モノエステル(2−ヒドロキシエチル−2−アルキルアクリレート、2−ヒドロキシプロピル−2−アルキルアクリレートもしくは2−ヒドロキシブチル−2−アルキルアクリレート)のアルコキシル化によって入手可能である。特に好ましくは、アルコキシル化アクリル酸誘導体は、2−ヒドロキシプロピルアクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル−2−アルキルアクリレートのDMC触媒アルコキシル化によって、特別には2−ヒドロキシプロピル−2−メタクリレートのDMC触媒アルコキシル化によって製造される。DMC触媒は、従来のアルカリ触媒アルコキシル化とは対照的に、望まれない副生成物を避けて、詳細に規定された特性を有するモノマーの非常に特異的な合成を可能にする。DE−A−102006049804(特許文献6)およびUS6034208(特許文献7)に、DMC触媒の利点が教示されている。
【0036】
ビニルアミド(Ib):さらなる一実施形態では、活性ポリマーは、式(Ib)
【0037】
【化5】

[式中、RおよびRは、互いに独立して水素もしくはC〜Cアルキルを意味するか、または
式中、RおよびRは、窒素原子およびカルボニル基と一緒になって5、6もしくは7個の環原子の環(すなわちラクタム)を形成する]の構造単位を1から100mol%の間で含有する。
【0038】
およびRは、好ましくはそのときどきに合計で少なくとも1個、特に少なくとも2個の炭素原子を含有する。
【0039】
その際に、例としてとりわけN−ビニルホルムアミド(NVF)、N−ビニルメチルホルムアミド、N−ビニルメチルアセトアミド(VIMA)、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン(NVP)、5−メチル−N−ビニルピロリドン、N−ビニルバレロラクタム、N−ビニル−イミダゾールおよびN−ビニルカプロラクタムが挙げられよう。本発明の好ましい一実施形態では、式(I)の構造単位は、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、ビニルピロリドンおよびビニルカプロラクタムから誘導される。
【0040】
式(Ib)の構造単位をベースとするポリマーは、対応するビニルモノマーの重合によって入手可能である;これらは、公知の方法で製造することができる。
【0041】
式(Ib)の構造単位の好ましい量は、2から99、好ましくは5から95、特に20から80、特別には40から60mol%の間である。
【0042】
一実施形態では、式(Ib)の構造単位および式(Ia)の構造単位は、合計100mol%である。その種のコポリマーは、それ自体公知であるか、または公知の方法によって製造可能である。
【0043】
式(Ib)による構造単位の構造に応じて、与えられた条件に対応し、特定の活性ポリマーとして適切に凍結防止特性に作用できるように、活性ポリマーの特性を改変することができる。化合物(Ib)としてNVPが使用された場合に、特に良い結果が得られた。
【0044】
アクリルアミド(Ic):さらなる一実施形態では、活性ポリマーは、式(Ic)
【0045】
【化6】

[式中、
およびRは、互いに独立して水素、C〜CアルキルもしくはC〜Cシクロアルキルを意味するか、または窒素原子と一緒になって5、6もしくは7個の環原子を有する環を形成し、
は、水素またはC〜Cアルキルを意味する]の構造単位を1から100mol%の間で含有する。
【0046】
およびRは、好ましくはそのときどきに合計で少なくとも1個、特に少なくとも2個の炭素原子を含有する。
【0047】
式(Ic)の構造単位は、好ましくは(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)−アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−ジメチルアミノ−メタクリレート、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルモルホリンおよびN−アクリロイルピペリジンから誘導される。
【0048】
式(Ic)の構造単位の好ましい量は、2から99、好ましくは5から95、特に20から80、特別には40から60mol%の間である。
【0049】
一実施形態では、式(Ia)および(Ic)の構造単位は合計100mol%である。
【0050】
式(Ic)による構造単位の構造に応じて、与えられた条件に対応し、特定の活性ポリマーとして適切に凍結防止特性に作用できるように、活性ポリマーの特性を改変することができる。
【0051】
式(Ic)の構造単位をベースとするポリマーは、対応するアクリル−モノマーの重合によって入手可能であり;これらは、公知の方法で製造することができる。
【0052】
さらなる実施形態では、活性ポリマーは、(i)式(Ia);または(ii)式(Ia)および(Ib);または(iii)式(Ia)および(Ic);または(iv)式(Ia)および(Ib)および(Ic)の構造単位を含有する。好ましい一実施形態では、活性ポリマーは、式(Ia)および(Ib)の構造単位を含有する。
【0053】
さらなる一実施形態では、式(Ia)、(Ib)および(Ic)の構造単位は、合計で100mol%である。
【0054】
さらなる一実施形態では、式(Ia)、(Ib)、(Ic)の構造単位およびカップリング試薬(III)が、合計で100mol%である。
【0055】
さらなる構造単位:式(Ia)、(Ib)および(Ic)の構造単位に加えて、活性ポリマーは、さらなる、それと異なる構造単位を含有することができる。このさらなる実施形態では、式(Ia)、(Ib)および(Ic)の構造単位、ならびに下記の「さらなる」構造単位が、合計で100mol%である。このさらなる構造単位は、O、N、SまたはPを含有するオレフィン不飽和モノマーから誘導される構造単位である。好ましくは、ポリマーは、酸素、硫黄または窒素含有、特に酸素または窒素含有コモノマーを含有する。
【0056】
適切なさらなる構造単位は、例えばスチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS(登録商標))、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸およびマレイン酸(およびその無水物)、ならびに前記酸と1価および2価対イオンとの塩から誘導される構造単位である。対イオンとして、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアルキルアンモニウムまたはテトラアルキルアンモニウムが好ましくは使用され、その際、アミンのアルキル置換基は、互いに独立して、0〜3個のヒドロキシアルキル基を有することがあるC1〜C22アルキル基を意味し、そのアルキル鎖長はC2〜C10の範囲内を変動しうる。追加的に、種々のエトキシル化度を有する、1〜3か所でエトキシル化されたアンモニウム化合物も使用されることがある。ナトリウムおよびアンモニウムが対イオンとして特に好ましい。前記酸のモル分率の中和度は、100%と異なることもある。0から100%の間の全ての中和度が適切であり、70から100%の間の範囲が特に好ましい。さらに、適切なモノマーとして、アクリル酸またはメタクリル酸と、炭素数C1〜C22を有する脂肪族、芳香族または脂環式アルコールとのエステルが考慮の対象となる。さらなる適切なモノマーは、2−ビニル−ピリジン、4−ビニル−ピリジン、酢酸ビニル、メタクリル酸グリシジルエステル、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびDADMACである。そのようなさらなる構造単位の割合は、例えば1〜99、好ましくは1.2〜80、特に1.5〜60、特別には1.7〜40mol%である。一実施形態では、式(II)の構造単位およびこのさらなる構造単位が、合計で100mol%である。
【0057】
マトリックス:本発明によれば、マトリックスの選択は重要ではないため、当業者に周知の多数の物質を使用することができる。適切な物質は、ポリマー層(例えばポリウレタン、ポリアクリレート、エポキシド)およびゾル−ゲル型の層でありうる。適切な層の選択は、とりわけ基材および選択される活性ポリマーに依存し、当業者が簡単な実験で決定することができる。ゾル−ゲル型の層は、特に良好な効果を示し、非常に柔軟に利用および製造可能であることから、好ましい。
【0058】
架橋:本発明のコーティングの活性ポリマーまたはマトリックスまたは活性ポリマーおよびマトリックスのいずれかが架橋されている。架橋の様式は使用される物質に依存する。活性ポリマーおよび/またはマトリックスが部分架橋している場合、特に良好な結果が得られる。架橋の程度(非架橋、部分架橋、完全架橋)は、様々なそれ自体公知の方法によって決定することができる。
【0059】
活性ポリマーの架橋は、有利には膨潤度によって決定される。その際、適切な架橋度は、ネットワークへの水の吸収がまだ可能な範囲にある。
【0060】
ゾル−ゲル層の架橋は、有利にはIR分光法によって決定される。その際、適切な相対架橋度は、最大80%、好ましくは15〜80%の範囲にある。
【0061】
有利な一実施形態では、本発明は、活性ポリマーおよびマトリックスを含む、本明細書記載のコーティングに関し、その際、
a.マトリックスは、ゾル−ゲルおよびポリマー層を含む群から選択され;
b.活性ポリマーは、式(Ia)、(Ib)および/または(Ic)の構造単位を1〜100重要%含有し;
c.活性ポリマーは、前記マトリックスに共有結合的に組み入れられている。
【0062】
活性ポリマーは、それ自体公知の方法および方式で、例えば(c1)カップリング試薬を用いたポリマーの反応(図1参照)または(c2)官能化されているマトリックスと活性ポリマーの直接反応(図2参照)によって、前記マトリックスに共有結合的に組み入れることができる。理論に縛られていると感じることなく、マトリックスへの活性ポリマーの共有結合が本発明のコーティングの特性プロファイルの驚くべき改善につながることが想定される。この実施形態を、以下に詳細に説明し、図1および2に図示する。図中、(P)は、式(I)の構造単位を有する活性ポリマーを、(K)はカップリング試薬を、(M)はマトリックスを、(fM)は官能化されているマトリックスを、そして(S)は基材を示す。
【0063】
カップリング試薬(III)による共有結合(変形形態c1):本発明に関連して「カップリング試薬」という概念は、マトリックスへの活性ポリマーの共有結合を引き起こすような化合物を意味する。一実施形態では、活性ポリマーは、特にイソシアネート官能化シラン(IIIa)およびアジドスルホニル官能化シラン(IIIb)を含む群からの、1種または複数種のカップリング試薬を含有する。原則として全てのその種のシランが適し、式(IIIa)および/または(IIIb)
【0064】
【化7】

【0065】
【化8】

[式中、
10は、1〜20個のC原子を有する二官能性炭化水素基、好ましくはC6〜10アリール基、C1〜10アルカンジイル基、C3〜10シクロアルキル基を表す。
は、互いに独立して加水分解可能な基、例えばC1〜8アルコキシ、特にメトキシおよびエトキシを表す]のシランが好ましい。
【0066】
したがって、共有結合した活性ポリマーは、式(I)の構造単位に加えて、カップリング試薬、すなわち例えば式(IIIa)または(IIIb)の化合物との反応によって誘導されるさらなる構造単位を含有する。この構造単位は、活性ポリマーとマトリックスの共有結合を引き起こす。式(IIIb)の化合物の場合、コーティングの硬化時に(例えば160℃の範囲の温度)、分子から分子状窒素が分離し、その際ニトレンが形成することが想定される。次に、形成したニトレンは、活性ポリマーの1つのCH−結合に組み入れられることができ(挿入反応)、その結果、共有結合を引き起こす。そのようなさらなる構造単位の割合は、例えば1〜99、好ましくは1.2〜80、特に1.5〜60、特別には1.7〜40mol%である。一実施形態では、式(I)の構造単位ならびに式(IIIa)および/または(IIIb)のこれらのさらなる構造単位は、合計で100mol%である。
【0067】
カップリング試薬、特に式(IIIa)および(IIIb)の化合物は、一般に公知であり、公知の方法にしたがって製造することができる。
【0068】
カップリング試薬、特に式(IIIa)および(IIIb)の化合物は、ゾル−ゲルの群から選択されるマトリックスとの結合に特に適する。
【0069】
本発明のコーティングがカップリング試薬を含有する場合、a)活性ポリマー対マトリックスの比は、有利には30:70〜98:2(w/w)の範囲であり、かつ/またはb)前記ポリマーは、好ましくは、式(IIIa)および/もしくは(IIIb)のカップリング試薬を10〜50重量%含有する。
【0070】
官能化されているマトリックスによる共有結合(c2):官能化されているマトリックス、特に官能化されているゾル−ゲルまたは官能化されているポリマー層へのポリマーの直接共有結合は、それ自体公知であるか、または公知の方法に類似して実施することができる。本発明に関連して、「官能化されているマトリックス」という概念は、特にマトリックスへの活性ポリマーの共有結合を引き起こすような化合物を表す。一実施形態では、マトリックスは、イソシアネートを含む群から選択される官能基の有効量を含有する。その種の官能基の量は、広い範囲内で変動することが可能であり、与えられた成分および所望の活性プロファイルに基づいて一連の実験で最適化することができる。この実施形態では、ゾル−ゲルは、マトリックスとして特に適切である。
【0071】
さらなる有利な一実施形態では、本発明は、活性ポリマーおよび場合によりマトリックスを含む、本明細書記載のコーティングに関し、その際
a.マトリックスは、ゾル−ゲルおよびポリマー層を含む群から選択され;
b.活性ポリマーは、式(Ia)、(Ib)および/または(Ic)の構造単位を1〜100重量%含有し;
c.活性ポリマーは、架橋剤を用いた反応によって架橋されている。
【0072】
本発明に関連して、「架橋剤」という概念は、活性ポリマーの二次元および/または三次元架橋を引き起こすような化合物を表す。理論に縛られていると感じることなく、活性ポリマーの架橋が本発明のコーティングの特性プロファイルの驚くべき改善につながることが想定される。この実施形態を以下に詳細に説明する。
【0073】
架橋剤(II):一実施形態では、活性ポリマーは、1種または複数種の架橋剤;特にジイソシアネートおよびジグリシジルエーテルを含む群からの架橋剤を含有する。原則として全てのジイソシアネートおよび全てのグリシジルエーテルが架橋剤として適切であり;式(IIa)のジイソシアネートおよび式(IIb)のグリシジルエーテルが好ましい。式(II)のような化合物は、一般に公知であり、公知の方法にしたがって製造することができる。
【0074】
式(IIa)
【0075】
【化9】

[式中、Rは、1〜20個のC原子を有する二官能性炭化水素基を表す]のジイソシアネートが好ましい。Rは、好ましくはC〜C10アリール基、C〜C10アルカンジイル基、C〜C10シクロアルキル基を表す。適切なジイソシアネートの例としてMDI、TDI(トリル−2,4−ジイソシアネート)、HDIおよびIPDI、特にTDIが挙げられよう。
【0076】
式(IIb)
【0077】
【化10】

[式中、Rは、1〜20個のC原子および0〜4個のO原子を有する、二官能性の、場合により置換された炭化水素基を表す]のジグリシジルエーテルが好ましい。Rは、好ましくはC6〜10アリール基、C1〜10アルカンジイル基、C3〜10シクロアルキル基または(C6〜10アリール)−(C1〜10アルカンジイル)−(C6〜10アリール)基を表す。Rは、特に好ましくはフェニルまたはビスフェニル−Aを表す。
【0078】
したがって、架橋した活性ポリマーは、式(I)(すなわち(Ia)(Ib)および(Ic))の構造単位に加えて、架橋剤との、つまり例えば式(IIa)および/または(IIb)の化合物との反応によって誘導されるさらなる構造単位を含有する。これらの構造単位は、活性ポリマーの架橋を引き起こす。そのようなさらなる構造単位の割合は、例えば1〜99、好ましくは1.2〜80、特に1.5〜60、特別には1.7〜40mol%である。一実施形態では、式(I)の構造単位、および式(II)の化合物から誘導されたこれらのさらなる構造単位が、合計して100mol%である。
【0079】
本発明のコーティングが架橋されている場合、本発明は、有利な一実施形態において、マトリックスを含有しないコーティングに関する。
【0080】
本発明のコーティングが架橋されている場合、活性ポリマーは、有利には式(I)の構造単位、特に、ラクタム、好ましくはカプロラクタムが含有される式(I)の構造単位を10〜90重量%含有する。
【0081】
さらなる有利な一実施形態では、本発明は、活性ポリマーおよびマトリックスを含む、本明細書記載のコーティングであって、
a.マトリックスがゾル−ゲルおよびポリマー層を含む群から選択され;
b.マトリックスが、IR分光学的に決定された、80%未満、好ましくは15〜80%の相対架橋度を有し;
c.活性ポリマーが、式(Ia)、(Ib)および/または(Ic)の構造単位を1〜100重量%、好ましくは40〜100重量%含有する
コーティングに関する。
【0082】
この実施形態では、本発明は、マトリックスが架橋しており、活性ポリマーが非本質的に架橋しているか、または架橋しておらず、好ましくは架橋していないようなコーティングに関する。理論に縛られていると感じることなく、マトリックスの架橋が本発明のコーティングの特性プロファイルの驚くべき改善につながることが想定される。この実施形態を、以下に詳細に説明する。
【0083】
有利な一形態では、本発明は、活性ポリマー対マトリックスの比が30:70〜98:2、好ましくは55:45〜70:30(w/w)の範囲にあるようなコーティングに関する。
【0084】
有利な一形態では、本発明は、前記マトリックスがゾル−ゲルを含む群から選択されているようなコーティングに関する。
【0085】
有利な一形態では、本発明は、前記マトリックスがポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリレートを含む群から選択されているポリマーであるようなコーティングに関する。
【0086】
有利な一形態では、本発明は、前記ポリマーが、ラクタム、好ましくはカプロラクタムが含有される式(Ib)の構造単位を40〜60重量%含有するようなコーティングに関する。
【0087】
有利な一形態では、本発明は、前記ポリマーが、式(IIb)[式中、Rはビスフェニル−A基である]の架橋剤を追加的に10〜50重量%含有するようなコーティングに関する。
【0088】
第2の態様では、本発明は、基材の最外コーティングとして前記コーティングを含む成形体または装置に関する。以下に本発明のこの態様を説明する。
【0089】
基材:本発明によれば、基材の選択は重要でなく、したがって当業者に周知の多数の基材を使用することができる。適切な基材は、コーティング可能な表面を有し、そのような表面は、金属材料、セラミック材料、ガラス状材料、ポリマー材料およびセルロース含有材料を含む群から選択することができる。本発明に関連して好ましい金属材料は、アルミニウム、鉄およびチタンの合金である。本発明に関連して好ましいポリマー材料は、ポリマー、重縮合物、重付加物、樹脂および複合材(例えばGFK)である。好ましいセルロース含有/リグニン含有材料は、紙、厚紙、木である。基材自体は、複数の層から構築されていても(「サンドイッチ構造」)、既にコーティング(例えばラッカー塗装、オーバープリント)を含有しても、機械的に処理されていても(例えば研磨)、かつ/または化学処理(例えば腐食、活性化)されていてもよい。
【0090】
成形体:すでに最初に述べたように、非常に様々な装置において、これに凍結防止特性を与える必要性がある。したがって、本発明は、最も広い意味でそのような装置に関する。特に、i)エネルギー発生設備およびエネルギー供給設備、ii)輸送機関、iii)食料部門、iv)測定機構および調節機構、v)熱伝達システム、vi)石油および天然ガス輸送において使用される装置が含まれる。例えば以下の装置/機構が挙げられよう:
・ エネルギー発生設備およびエネルギー供給設備:高圧送電線、風力発電設備の回転翼
・ 輸送機関および輸送装置:飛行機の主翼、さらには回転翼、胴体、アンテナ、窓。自動車の窓;船の船体、さらにはマスト、舵付きフィンおよび艤装;鉄道車両の外面;交通標識の表面。
・ 食料部門:冷蔵機器の裏張り、食料品のパッケージ。
・ 測定機構および調節機構:センサー。
・ 熱伝達システム:氷泥の輸送装置;太陽光発電設備の表面;熱交換器の表面。
・ 石油および天然ガス輸送:ガス水和物の形成を防止するために、石油および天然ガスの輸送時ににガスと接触する表面。
【0091】
本発明によれば、本明細書に記載されたコーティングは、装置を全面または部分的に覆うことが可能である。被覆度は、とりわけ技術的必要性に依存する。つまり、回転翼では、十分な効果を獲得するために前縁をコーティングすることで十分である場合があり;それに対して窓のコーティングでは、全面またはほぼ全面のコーティングが有利である。凍結防止特性を保証するためには、本明細書記載のコーティングが最外(最上)層として存在することが重要である。
【0092】
本明細書記載のコーティングの基材上への結合は、共有結合、イオン結合、双極子相互作用またはvdW相互作用によって行うことができる。ゾル−ゲルは、好ましくは共有相互作用を介して基材上に結合され;ポリマーは、主として双極子相互作用またはvdW相互作用に基づいて基材上に接着する。
【0093】
さらに本発明は、凍結防止コーティングとしての、本明細書記載のコーティングの使用に関する。同じように本発明は、本明細書記載の外層を、凍結防止コーティングとして使用するための手法にも関する。
【0094】
第3の態様では、本発明は、本明細書記載のようなコーティング(またはコーティングされた基材)を製造するための方法に関する。コーティングされた基材の製造はそれ自体公知であるが、特定の、本明細書記載の成分にはまだ適用されていなかった。その製造方法は、原則として、本発明のコーティングのマトリックスおよび活性ポリマーが何から成るか次第である。
【0095】
したがって本発明は、本明細書記載のコーティングされた基材の製造方法において、a)コーティングされていない基材が提供され、場合により活性化され;b)本明細書記載のマトリックスおよび活性ポリマーを含有する組成物が提供され、iii)前記基材が前記組成物で、例えばディップコーティングまたはスプレーコーティングによりコーティングされることを特徴とする製造方法に関する。
【0096】
記載された製造方法の有利な実施形態を以下に詳細に説明する。さらに、様々な製造方法に関連して、例を教示する。
【0097】
ゾル−ゲル層:ゾル−ゲル型のマトリックスの場合、本発明のコーティングの製造は、i)ゾル−ゲルの提供およびコーティングされていない基材上へのこのゾル−ゲルの塗布、またはii)ゾル−ゲル前駆体の提供およびコーティングされていない基材上への塗布、それに続くゾル−ゲルの形成下での加水分解および縮合のいずれかを含む。対応する前駆体からのゾル−ゲルの製造は公知であるか、または加水分解および縮合される適切な前駆体の使用下で公知の方法に類似して行うことができる。ゾル−ゲルまたはゾル−ゲル前駆体の塗布は、それ自体公知であり、公知の方法に類似して、例えばスピンコーティング、ディップコーティング、スプレーまたはフラッドコーティングにより行うことができる。この方法のために使用される前駆体は、すでに本明細書記載の、式(I)の官能基を含有する。i)にしたがう製造が好ましい。
【0098】
ポリマー層:マトリックスがポリマー層である場合、本発明のコーティングの製造は、i)場合により液体中に分布しているポリマーの提供、およびコーティングされていない基材上へのこのポリマーの塗布、またはii)コーティングされていない基材上への、場合により液体中に分布しているモノマーの塗布とそれに続く重合、またはiii)官能化されていないが官能化可能なポリマー外層を有する基材の提供、およびこのポリマー層と式(I)の官能基を含有する化合物との反応のいずれかを含む。対応するモノマーから式(I)の官能基を含有するポリマーを製造することは公知であるか、またはポリマー形成反応(重合、重縮合、重付加)に供される適切なモノマーの使用下で公知の方法に類似して行うことができる。そのようなポリマー形成反応は、例えば触媒的に、ラジカル的に、光化学的に(例えばUVで)または熱的に開始することが可能である。さらに、式(I)の官能基を含有するモノマーが重合されるか(変形形態iおよびii)、または式(I)の官能基を含有しないモノマーが重合されて、そのように形成した官能化されていないポリマーが、一つまたは複数のさらなる反応で官能化されているポリマーに変換される(変形形態iii)ことも可能である。さらには、製造工程の経過中に、式(I)の官能基に保護基を備えることが不可欠または有利な場合がある。ポリマーまたは対応するモノマーの提供は、物質の形態または希釈された形態、すなわちポリマー/モノマーを含有する液体(懸濁液、エマルション、溶液)で行うことができる。ポリマーまたはモノマーのコーティングは、それ自体公知であり、公知の方法に類似して、例えばスピンコーティング、ディップコーティング、スプレーまたはフラッドコーティングにより行うことができる。
【0099】
活性ポリマー:活性ポリマーが構造単位を1種類だけ含有する場合(ホモポリマー)、その製造は公知であるか、または既に記載された。式(I)の構造単位を2種以上(すなわち(Ia)および/または(Ib)および/または(Ic))、場合により式(II)、および場合により式(III)を含有する活性ポリマーは、公知の方法に類似して製造することができる。つまり、その製造は、例えば対応するモノマーのラジカル重合によって、適切なラジカル開始剤の使用下で50〜150℃の間の温度で行うことができる。そのように製造されたポリマーの分子量は、1000〜10g/molの範囲内で変動することが可能であるが、1000〜400000g/molの間の分子量が好ましい。そのような重合は、希釈剤/溶媒の存在下で実施することができる。溶媒として水溶性モノアルコールまたはジアルコールのようなアルコール、例えばプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ならびにブチルグリコール、イソブチルグリコールおよびブチルジグリコールのようなオキシエチル化モノアルコールが適する。一般に重合の後は透明な溶液が形成する。
【0100】
追加的な工程段階:本明細書記載の製造方法に、追加的な、それ自体公知の精製段階、処理段階、および/または活性化段階が先行または後続してもよい。そのような追加的な段階は、とりわけ成分の選択に依存し、当業者に周知である。この追加的な段階は、機械的な方法(例えば研磨)または化学的な方法(例えば腐食、不動態化、活性化、酸洗い、プラズマ処理)でありうる。
【0101】
第4の態様では本発明は、方法a)コーティングされていない基材を含有する装置が提供され、この装置が本明細書記載のコーティングでコーティングされるか、または方法b)本明細書記載のコーティングを含有する基材が提供され、このコーティングされた基材が装置と結合されるかのいずれかを特徴とする、前記装置を製造するための方法に関する。
【0102】
この方法はそれ自体公知であるが、これまで特別なコーティングには適用されていない。方法a)およびb)は、装置上へのコーティングの塗布の点で異なる。
【0103】
方法a)によると、所望の装置がまず最初に製造、場合により準備(例えば精製または活性化)され、次にコーティングされる。これに関しては、全ての普通のコーティング方法、特に塗装、プリントまたは積層の分野で普通の方法が対象になる。この方法にしたがって、半製品または最終製品を製造することができる。
【0104】
方法b)によれば、まず中間産物(コーティングされた基材)が製造され、それが上記装置を生じるように半製品と結合される。これに関しては、全ての普通の素材結合、摩擦力結合または形状結合的な結合方法が対象になる。典型的には、コーティングされた装置を得るために、本発明のコーティングを備える柔軟なフィルムが対応する基材上に接着される。あるいは、コーティングされた装置を得るために、成形品がコーティングされ、これが、コーティングされていない基材上に接着、溶接、リベット締めなどによって固定されてもよい。
【0105】
本発明の実施方法:以下の非限定的な例によって、本発明をさらに説明する。
【0106】
1.合成
【0107】
【表1】

【0108】
変形形態A:50ml容ビーカーの中でポリビニルピロリドン(M=360000;表2)xgをp.a.エタノール40ml中に溶解する。溶解したポリマーにピペットでテトラエチルオルトシリケート(表2)ygを添加する。ゾル−ゲル過程を開始するために反応溶液を1mol/L塩酸0.5mlと混合する。反応混合物を室温で1時間撹拌する。
【0109】
変形形態B1/2:50ml容ビーカーの中でポリビニルピロリドン(M=360000;表参照)xgをp.a.エタノール40mlに溶解する。25ml容ビーカーの中で、p.a.エタノール10mlに溶解したテトラエチルオルトシリケート(表参照)ygを、加水分解を開始するために1mol/L塩酸0.5mlと混合する。1時間の反応時間の後に、予備加水分解されたテトラエチルオルトシリケートを、溶解したポリビニルピロリドンに添加する。反応混合物をさらに1時間室温で撹拌する。
基材を100℃で1時間硬化させる
基材を100℃で一晩硬化させる。
【0110】
【表2】

【0111】
変形形態C:50ml容ビーカーの中でコポリマー7.50gをp.a.エタノール40mlに溶解する。溶解したポリマーにピペットでテトラエチルオルトシリケート1.25gを添加する。ゾル−ゲル過程を開始するために、反応溶液を1mol/L塩酸0.5mlと混合し、次に室温で1時間撹拌する。
【0112】
変形形態D:50ml容ビーカーの中でコポリマー30gを無水THF 40mlに溶解し、(3−イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン3gと一晩反応させる。続いて、変換されたコポリマー20gに、エタノール20ml中のテトラエチルオルトシリケート7gを添加する。ゾル−ゲル過程を開始するために、反応溶液を1mol/L塩酸0.5mlと混合する。反応混合物を室温で1時間撹拌する。
この変形形態では、活性ポリマーは、ゾル−ゲル型のマトリックスと共有結合され、特に安定なコーティングを形成する、4番参照。
【0113】
変形形態E:テトラエチルオルトシリケート(TEOS)2.8gおよび6−アジドスルホニルヘキシル−トリエトキシシラン0.2gを無水エタノール10ml中に溶解させる。1モル濃度塩酸0.7mlをそれに添加し、その溶液を室温で2時間撹拌する。次に、ポリビニルピロリドン(PVP)2gを無水エタノール20mlに溶かした溶液をそれに添加し、室温で約22時間撹拌する。この溶液でスライドガラスをディップコーティングする。0.5時間風乾後に、コーティングされたスライドガラスを160℃で5時間硬化させる。
【0114】
2.分析
2.1 凍結防止試験
凍結防止効果を試験するために、コーティングされた基材を−20℃で120分間保存する。コーティングされた基材に、暖かく湿った空気を所定の時間間隔で供給する。この場合、コーティングされた基材を冷蔵室中で保存し;暖かく湿った空気を扉の開放によって供給した。続いて、基材のコーティングの凍結防止効果を試験する。さらに、コーティングされていない基材を用いて試験を実施する。その凍結を陰性対照として使用することができる。
【0115】
【表3】

【0116】
「xx」が付いた全ての試料は、上に挙げた試験の経過後に、「−」が付いたコーティングされていない対照に比べて顕著な凍結防止効果を示す(表3参照)。3日間−20℃で保存した後も、コーティングされた試料は盲検試料と対照的に無氷である。
【0117】
2.2 層厚
それぞれの層を塗布した後に、先行する層を2分間乾燥させる。層厚をマイクロメータねじ(0〜0.25mm)により測定する。製造業者が記載する測定精度は0.001mmである。それぞれ、コーティングされていない部分を3回、コーティングされた部分を3回測定し、続いて平均値を求める。その際に、スライドグラスの厚さの不均一さを考慮できるように、測定箇所を隣接させる。層厚は、以下の表から読み取ることができる。
【0118】
【表4】

【0119】
変形形態Eによるコーティングは、6.4±1.3μmの層厚を有する。
【0120】
2.3 有効性
試料を−20℃で保存する。記載の時間間隔でコーティングの有効性を検査する。
【0121】
有効性を以下の表から読み取ることができ、その際、表中、「○」=無氷、「K」=若干の氷晶を意味する。層は、すでに層厚3μmから有効性を示す。
【0122】
【表5】

【0123】
2.4 IR検査
IR分光法により、結合型Si−O−Si単位対遊離型Si−O単位の比を決定することが可能である。変形形態AによるゲルでIRバンドの以下の割当を行う:
2.4.1 ケイ酸骨組み材料:
798 SiO正四面体の環構造
950 Si−O−
1094 Si−O−Si伸縮振動
1635 H−O−H HO変角振動
3430 表面シラノール性水素のSi−OH伸縮振動およびSi−O−Siの振動構造
2.4.2 ポリビニルピロリドン:
1270 C−N原子価振動
1420 C=Oに隣接したC−H変角振動
1650 C=O
2900 飽和C−H
3400 O−H性の水
IRバンド相互の比から相対架橋度を推論する。表6参照。
【0124】
【表6】

【0125】
1094cm−1と950cm−1のバンドに、それぞれ結合型Si−O−Si単位と遊離型Si−O単位を割り当てることができる。この両方のバンドの相互の比から、ケイ酸骨組み物質の相対架橋状態に関して評定することができる。純粋なシリカゲルの場合、Si−O−Si対Si−Oの比にはSi−密度100が割り当てられる。PVP含量の増大をともなうさらなるゲルについては、純粋なTEOSと比較した場合、架橋の低下が結論できる。
【0126】
2.5 凍結防止効果
凍結防止効果は、ベースラインの15〜80%の相対架橋のときに記録することができる。15%未満の架橋は、与えられた条件下では実験的に決定不可能である。有効性のある、よりわずかな架橋も存在しうるが、その架橋は、この測定方法ではもはや解明することができない。架橋が増加すると効果は現れない。詳細な記述は表7から読み取ることができる。
【0127】
【表7】

【0128】
3. 活性ポリマー中でのモノマーの変動
カプロラクタムの比率が高いコポリマーを使用した。遊離OH基を介してコポリマーはゾル−ゲル−マトリックスに共有結合する。その際、コポリマーを(3−イソシアナトプロピル)トリエトキシシランと反応させ、続いてTEOSにより結合させる。
【0129】
【表8】

【0130】
吸水能がカプロラクタム単位の比率と共に増加し、それによって改善された氷結防止効果が達成されることが示される。
【0131】
イソシアネート含量 − 残量
イソシアネート基を、キシレンに溶解した過剰のジブチルアミンと混合する。脂肪族第二級アミンは、迅速かつ定量的にイソシアネートと反応して三置換尿素になる。続いて過剰のアミンを塩酸で逆滴定する。滴定の当量点は、滴定曲線の変曲点によって示される。
【0132】
結果の計算:
【0133】
【数1】

(NCO)=NCO含量(%)
a=実効値でのHCl標準溶液の使用量(ml)
b=試料でのHCl標準溶液の使用量(ml)
t=HCl標準溶液の力価
c=標準溶液の物質量濃度、ここではc=0.5mol/l
M=モル質量、NCO=42g/mol
EW=試料の正味重量(g)
【0134】
試料のイソシアネート残量は、投入量の0〜1.8%の間であることから、完全な変換と想定することができる。コポリマーは(3−イソシアナトプロピル)トリエトキシシランと結合し、続いて末端基を介してゾル−ゲルマトリックスと共有結合した。
【0135】
4. 耐水性試験
変形形態A〜Dにしたがってコーティングされたプレートを流水下に10〜15分間置き、続いて水浴中に2日間置いた。引き続きなおも凍結防止効果が観察される場合、試験に合格したものと見なす。
【0136】
【表9】

【0137】
変形形態Dにより記載された、活性ポリマーが共有結合しているコーティングは、耐水性試験に合格する。活性ポリマーが組み入れられている、変形形態A〜Cによるコーティングは、試験の進行中に溶解する。このことは、変形形態A〜Cもまた氷結防止特性を示すが、変形形態Dのような顕著な耐水性を有さないことを示している。
変形形態Eによるコーティングは、流水下でも水を満たしたビーカー中でも溶解しない。
【0138】
5. 層厚の変動
氷結防止特性に及ぼす、本発明のコーティングの層厚の影響を検討した。複数回のコーティングによって様々な層厚を実現した。吸水試験を環境チャンバー中で10℃および湿度80%で3日間実施した。3日後の重量増加から水の量を決定した。それからコーティングの吸水能を算出することができる。
【0139】
【表10】

【0140】
【表11】

【0141】
吸水量は、コーティングの層厚に大きく依存する(表10および11参照)。層厚の増加によって吸水を無限に増大することはできず、吸水量の値は、ある限界値に近づく。それに応じて、コーティング材料に関し、適切な層厚の選択によって最大の氷結防止効果を達成することができる。公知のコーティングに比べて、本明細書記載の本発明のコーティングは、非常に薄い層厚ですでに顕著な凍結防止効果を示す。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスおよびその中に組み入れられた活性ポリマーを含むコーティングにおいて、活性ポリマーが、
a.マトリックスに共有結合しており;
b.式(Ia)、(Ib)および(Ic)
【化1】

【化2】

【化3】

[式中、
は、水素またはC1〜C6アルキルを表し、
Aは、C2〜C4アルキレン基を表し、
Bは、C2〜C4アルキレン基を表すが、但し、AはBと異なり、
x、yは、互いに独立して1〜100の整数を表し、
およびRは、互いに独立して水素もしくはC1〜C6アルキルを表すか、またはRおよびRは、窒素原子およびカルボニル基と一緒になって5、6もしくは7個の環原子の環を形成し、
およびRは、互いに独立して水素、C1〜C6アルキルもしくはC1〜C6シクロアルキルを表すか、またはRおよびRは、窒素原子と一緒になって5、6もしくは7個の環原子を有する環を形成し、
は、水素またはC1〜C6アルキルを表す]
で表される式(I)の構造単位を含有し;
c.場合により架橋剤および/またはカップリング試薬が含有される
ことを特徴とするコーティング。
【請求項2】
a.マトリックスがゾル−ゲルおよびポリマー層を含む群から選択され;
b.活性ポリマーが式(Ia)、(Ib)および/または(Ic)の構造単位を1〜100重量%含有し;
c.活性ポリマーが、式(IIIa)または(IIIb)
【化4】

【化5】

[式中、
10は、1〜20個のC原子を有する二官能性炭化水素基を表し、
は、互いに独立して加水分解可能な基を表す]のカップリング試薬を用いた反応によって前記マトリックスに共有結合的に組み入れられている、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
活性ポリマー対マトリックスの比が30:70〜98:2(w/w)の範囲にある、請求項2に記載のコーティング。
【請求項4】
前記ポリマーが、式(I)の構造単位を40〜60重量%含有する、請求項2に記載のコーティング。
【請求項5】
前記ポリマーが、式(I)の構造単位を40〜60重量%含有し、前記構造単位がラクタム、好ましくはカプロラクタムを形成する、請求項2に記載のコーティング。
【請求項6】
前記ポリマーが、式(IIIa)または(IIIb)のカップリング試薬を10〜50重量%含有する、請求項2に記載のコーティング。
【請求項7】
前記ポリマーが、式(IIIa)または(IIIb)のカップリング試薬を10〜50重量%含有し、
がC1〜8アルコキシを、
10がC1〜10アルカンジイルを表す、請求項2に記載のコーティング。
【請求項8】
前記マトリックスが、ゾル−ゲルを含む群から選択されている、請求項2に記載のコーティング。
【請求項9】
活性ポリマーが、モル比1:2〜1:6の式(Ia)および(Ib)の構造単位から成る、請求項1に記載のコーティング。
【請求項10】
基材と、外層として請求項1〜9のいずれか一つに記載のコーティングとを含む成形体。
【請求項11】
基材の表面が、
a.金属材料、
b.セラミック材料、
c.ガラス状材料、
d.ポリマー材料、
e.セルロース含有材料
を含む群から選択される材料から成る、請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
a.風力発電設備の回転翼、高圧送電線;
b.飛行機の主翼、回転翼、胴体、アンテナ、窓;自動車の窓;船の船体、マスト、舵付きフィン、艤装;鉄道車両の外面;交通標識の表面;
c.冷蔵機器の裏張り;
d.食料品のパッケージ;
e.センサー;
f.氷泥の輸送装置;太陽光発電設備の表面;熱交換器の表面;
g.石油および天然ガスの輸送時にガスと接触する表面
を含む群から選択される、請求項10または11に記載の成形体を含む装置。
【請求項13】
凍結防止特性を有するコーティングを製造するための、請求項2に記載の活性ポリマーの使用。
【請求項14】
凍結防止特性を有する成形体または装置を提供するための、請求項1〜9のいずれか一つに記載のコーティングの使用。
【請求項15】
a.場合により活性化された基材を提供するステップ;
b.請求項1〜9のいずれか一つに記載のマトリックスおよび活性ポリマーを含有する組成物を提供するステップ;
c.前記組成物を用いて、好ましくはディップコーティングまたはスプレーコーティングにより基材をコーティングするステップ
を含む、請求項1〜9のいずれか一つに記載のコーティングの製造方法。

【公表番号】特表2013−516526(P2013−516526A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547416(P2012−547416)
【出願日】平成23年1月10日(2011.1.10)
【国際出願番号】PCT/CH2011/000003
【国際公開番号】WO2011/082500
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】