凝固性磁性粒子、及びその使用方法、並びに凝固体形成システム
【課題】所望の位置に簡便に凝固体を形成可能な凝固性磁性粒子、及びその使用方法、並びに凝固体形成システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る凝固体形成システムは、磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子10と、凝固体形成手段80によって凝固体2を形成可能な凝固性化合物11と、を少なくとも含有する凝固性磁性粒子1と、非凝固状態の凝固性磁性粒子1を所望の位置に集積させる磁気照射手段70と、所望の位置に、凝固性磁性粒子1の凝固体を形成する凝固体形成手段80とを備えるものである。
【解決手段】本発明に係る凝固体形成システムは、磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子10と、凝固体形成手段80によって凝固体2を形成可能な凝固性化合物11と、を少なくとも含有する凝固性磁性粒子1と、非凝固状態の凝固性磁性粒子1を所望の位置に集積させる磁気照射手段70と、所望の位置に、凝固性磁性粒子1の凝固体を形成する凝固体形成手段80とを備えるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固性化合物が組み込まれた凝固性磁性粒子、及びその使用方法に関する。また、前述の凝固性磁性粒子を利用した凝固体形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳動脈瘤は、動脈の血管壁が瘤状に変化したものであり、好発部位は、血圧が強くかかる脳動脈の分岐点である。一般に、脳動脈瘤のサイズは、1mm〜30mm程度である。動脈瘤の血管壁は、中膜を欠いているので破綻しやすく、クモ膜下腔に存在する脳動脈瘤は、クモ膜下出血の最大の原因となっている。脳動脈瘤が未破裂の状態においては、殆どが無症状であるが、脳動脈瘤が破裂すると、激しい頭痛、吐き気と嘔吐、意識の消失などの症状が発生し、最悪死亡に至る。脳動脈瘤や脳動脈奇形などの脳血管疾患の治療においては、従来より、クリッピング術や、コイル塞栓術が施されてきた。
【0003】
クリッピング術(図9A参照)は、いわゆる開頭手術である。手術は、動脈瘤101に到達するために頭蓋骨の一部を取り、脳組織を剥離して脳動脈瘤と正常な血管102の境をクリップ110で閉鎖し、その後、頭蓋骨を元通りにして皮膚を縫合することにより行われる。手術を施すことによって、血液が脳動脈瘤101に流れ込むことを防ぐことが可能となる。
【0004】
コイル塞栓術は、リアルタイムのX線透視画像下で血管を視覚化し、図9Bに示すように、血管102の内腔からプラチナ製コイル120を用いて脳動脈瘤101を治療する方法である。開頭を行わないので低侵襲であるという点において優れた治療法である。治療は、まず、カテーテル121を足の付け根の大腿動脈から挿入し、大動脈を通り頭部の脳動脈瘤101まで誘導する。そして、このカテーテル121を通して塞栓物質である細線のプラチナ製コイル120を脳動脈瘤101の中に詰め込む。これによって、脳動脈瘤101内に血液が流れ込むのを遮断することができる。プラチナ製コイル120は、X線透視下で視認が可能で、脳動脈瘤101の形状に一致するように柔軟な構造になっている。
【0005】
特許文献1においては、コイルを動脈瘤内に挿入し、その後、マイクロカテーテルにより磁性粒子を動脈瘤内に注入することにより動脈瘤閉塞を行う方法が提案されている。磁性粒子は、Fe2O3及び/又はFe3O4を主成分とするものであり、動脈瘤閉塞は、動脈瘤内に挿入されたコイルに、磁力によって磁性粒子を凝集させることにより行う。なお、特許文献2、特許文献3、非特許文献1については、後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−187932号公報
【特許文献2】特許4183047号
【特許文献3】PCT/JP0011/000638
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Namiki, Y. et al. Nature Nanotechnology, 2009, 4, 598 - 606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脳幹部をはじめ、手術により致死的になりやすい個所に発生する脳動脈奇形に対する摘出術や、分葉広頚型脳動脈瘤に対するクリッピング術は、脳深部への外科的アプローチが難しいという問題があった。また、コイル塞栓術は、脳動脈瘤頚部の完全遮断が難しいという問題があった。また、コイル塞栓術は、コイルを挿入する高度な技術が必要であった。このため、より簡便な治療法の開発が可能な医用材料が切望されていた。
【0009】
なお、上記においては、脳血管疾患における問題点について述べたが、所望の位置に凝固体を形成したい分野全般において同様の課題が生じ得る。
【0010】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所望の位置に簡便に凝固体を形成可能な凝固性磁性粒子、及びその使用方法、並びに凝固体形成システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る凝固体形成システムは、磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子と、凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも含有する凝固性磁性粒子と、非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を、所望の位置に集積させる磁気照射手段と、前記凝固性磁性粒子の凝固体を前記所望の位置に形成する前記凝固体形成手段と、を備えるものである。
【0012】
本発明に係る凝固体形成システムによれば、磁気照射手段を利用して凝固性磁性粒子を集積させ、外部から凝固体形成手段を印加する方法によって、所望の位置に凝固体を形成させることができる。しかも、磁気照射タイミングや凝固体形成手段の印加タイミング等を時間的・空間的に外部からコントロールできる。すなわち、狙った箇所において狙ったタイミングで効果的に凝固体を形成することができる。従って、利便性・操作性において優れている。
【0013】
本発明に係る凝固性磁性粒子の使用方法は、凝固体形成手段の印加により凝固体を形成する凝固性磁性粒子の使用方法であって、前記凝固性磁性粒子は、磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子と、前記凝固体形成手段の印加によって凝固体を形成可能な凝固性化合物とを少なくとも備え、非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を、磁気照射手段を利用して所望の位置に集積させ、前記凝固体形成手段を前記所望の位置に印加することにより前記凝固性磁性粒子の凝固体を形成するものである。
【0014】
本発明に係る凝固性磁性粒子は、凝固体形成手段の印加により凝固体を形成する凝固性磁性粒子であって、磁気照射によって集積可能な磁性粒子と、前記凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも備えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望の位置に簡便に凝固体を形成可能な凝固性磁性粒子、及びその使用方法、並びに凝固体形成システムを提供することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の模式的説明図。
【図1B】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の一部分解図。
【図2】第1実施形態に係る凝固体形成システムのフローチャート図。
【図3A】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式図。
【図3B】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式図。
【図4】第1実施形態に係る磁気照射手段の一例を示す要部の部分分解図。
【図5A】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図5B】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図5C】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図6A】第2実施形態に係る磁性粒子の模式的説明図。
【図6B】図6AのVIB−VIB切断部における斜視図。
【図7】第3実施形態に係る凝固性磁性粒子の一例を示す模式的断面図。
【図8A】第4実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図8B】第4実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図9A】従来例に係る脳動脈瘤の治療方法の説明図。
【図9B】従来例に係る脳動脈瘤の治療方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る凝固性磁性粒子の使用方法は、凝固体形成手段により非凝固状態の凝固性磁性粒子から凝固体を形成するものである。凝固性磁性粒子は、磁気照射によって集積可能な磁性粒子と、凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物とを少なくとも備える。凝固体は、まず、非凝固状態の凝固性磁性粒子を、磁気照射手段を利用して所望の位置に集積させ、当該位置に、凝固体形成手段を印加することにより凝固性磁性粒子の凝固体を形成することによって得られる。これによって、所望の位置に簡便に凝固体を形成することができる。
【0018】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは必ずしも一致しない。また、以降の実施形態及び実施例において、同一の要素部材には同一符号を付し、適宜その説明を省略する。また、下記の実施形態は、互いに好適に組み合わせられる。
【0019】
[第1実施形態]
図1Aは、第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の模式的説明図であり、図1Bは、凝固性磁性粒子の一部分解図である。凝固性磁性粒子1は、図1A、図1Bに示すように、磁性粒子10の表面の少なくとも一部が凝固性化合物11によって被覆された粒子である。
【0020】
磁性粒子10としては、(1)凝固性化合物11と結合して凝固性磁性粒子1を形成する、(2)磁力集積手段によって、集積可能な磁性を有する、という条件を満たすものであれば、特に限定されずに適用することができる。生体内で用いる用途の場合には、生体に悪影響を及ぼさないものを用いる。
【0021】
磁性粒子10は、例えば、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(Fe2O3)、一酸化鉄(FeO)、窒化鉄、鉄(Fe)、FePt粒子、FePt粒子と他の磁性金属元素を含む粒子、ニッケル、コバルト、コバルト白金クロム合金、バリウムフェライト合金、マンガンアルミ合金、鉄白金合金、鉄パラジウム合金、コバルト白金合金、鉄ネオジムボロン合金、及びサマリウムコバルト合金等の粒子が挙げられる。磁力による集積効率を高める観点からは、強磁性粒子であることが好ましい。生体内利用を目的とした場合には、毒性による有害事象を回避する必要がある。かかる観点を考慮すると、磁性粒子として、マグネタイト(四酸化三鉄・Fe3 O4 )やマグヘマイト(γー三酸化二鉄・γーFe2 O3 )、一酸化鉄、窒化鉄、鉄や、鉄白金合金などを用いることが好ましい。磁性粒子10は、1種類のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0022】
凝固性化合物11は、(i)凝固体形成手段の印加により凝固性磁性粒子1の凝固体が形成可能な化合物であって、(ii)少なくとも磁性粒子10の一部を被覆しているものとする。
【0023】
凝固体形成手段は、これを印加することによって凝固性磁性粒子の凝固体が形成可能なものであれば特に限定されない。凝固体形成手段の一例として、活性光線照射、熱印加手段、超音波印加手段等を挙げることができる。これらは、単独で用いても併用して用いてもよい。ここで、活性光線とは、紫外光、可視光、赤外光、放射線、ラジオ波等も含むものとする。熱印加手段としては、赤外光照射の他、交流磁場照射による発熱などの間接的な発熱も含むものとする。また、超音波印加手段は、いわゆる音響等も含むものとする。
【0024】
凝固性化合物11は、例えば、紫外線や熱に反応して、硬化性を有する光硬化性モノマー、光硬化性オリゴマー、光硬化性ポリマー、熱硬化性モノマー、熱硬化性オリゴマー、熱硬化性ポリマーが好適に利用できる。凝固性化合物11中に含まれる好適な官能基の例としては、単官能アクリレート、2官能アクリレート、多官能アクリレート、単官能メタクリレート、2官能メタクリレート、多官能メタクリレート、ウレタンアクリレート、グリシジル、アリル等が挙げられる。凝固性化合物11の具体例としては、スリーボンド3113B 紫外線硬化性エポキシ樹脂(スリーボンド社製)、スリーボンド3114 紫外線硬化性エポキシ樹脂、スリーボンド3163 紫外線硬化性シリコーン樹脂、スリーボンド3170B 可視光硬化性樹脂、スリーボンド社製の3000シリーズ等が挙げられる。凝固性化合物11は、1種単独、若しくは2種以上を併用して用いることができる。
【0025】
なお、凝固性化合物11は、磁性粒子10に直接被覆されていなくてもよい。すなわち、磁性粒子10を他の被覆層によってコートし、その上層に凝固性化合物が形成されていてもよい。また、凝固体形成手段の印加によって凝固体の形成が可能であれば、凝固性化合物11が最表層に形成されていなくてもよい。また、本明細書における「凝固体」とは、ゲルのように系全体として固体状になっているものも含むものとする。
【0026】
凝固性磁性粒子1の形成方法は、特に限定されず、公知の方法を制限なく利用できる。例えば、(i)複数の反応基を有する磁性粒子10に、反応基を介して凝固性化合物11を直接結合させる、(ii)磁性粒子10を被覆するポリマーの側鎖として凝固性化合物11を導入する、(iii)磁性粒子10を被覆するポリマーの側鎖等の官能基に共有結合などにより凝固性化合物11を結合させる、(iv)脂質等の被覆層に直接、若しくは反応基等を介して凝固性化合物11を結合させることにより凝固性磁性粒子1を得ることができる。特許文献2や非特許文献1に開示した自己会合型磁性脂質ナノ粒子、若しくは脂質被覆磁性ナノ粒子やポリマー被覆磁性ナノ粒子に、凝固性化合物11を導入したものを凝固性磁性粒子1として用いてもよい。
【0027】
凝固性化合物11が組み込まれた脂質層の好適な例としては、中性脂質、陽性荷電脂質、陰性荷電脂質などを挙げることができる。中性脂質としては、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、セレブロシド等が挙げられる。陽性荷電脂質としては、例えば、DOTAP(1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonio propane)、DC−6−14(O,O'-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride、DC-Chol(3beta-N-(N,N,-dimethyl-aminoethane)carbamol cholesterol)、TMAG(N-(α-trimethylammonioacetyl)didodecyl-D-glutamate chloride)、DOTMA(N-2,3-di-oleyloxypropyl-N,N,N-trimethylammonium)、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DDAB(didodecyl-ammonium bromide)、DOSPA(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminum trifluoroacetane)等が挙げられる。
【0028】
凝固性化合物が組み込まれたポリマー層の好適な例としては、ブロック共重合体(スチレン-イソプレン-スチレン、スチレン-ブタンジエン-スチレン)、アルブミン、ドコサヘキサエン酸、ポリグルタミン酸、ポリエチレングリコール・ポリアスパラギン酸、ポリエチレングリコール・ポリアスパラギン酸の側鎖に疎水基・親水基の一方、若しくは両方を修飾したブロックコポリマー、ポリエチレングリコール・ポリ(ジエチレントリアミン)、ポリエチレングリコール-ポリ(β-ベンジル アスパルテート)を挙げることができる。無論、これらに限定されるものではなく、公知の材料を制限なく適用することができる。
【0029】
複数の反応基を有する磁性粒子10に、その反応基を介して凝固性化合物11を結合させる場合の反応基としては、例えば、以下の反応基が挙げられる。すなわち、アピジン-ビオチン系結合、エポキシ基、トシル基、エステル基、チオール基、アミノ基、ハロゲン化アシル基、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、アルデヒド基、マレイミド基、ビニルスルホン基、ベンゾトリアゾールカーボネート基、プロモアセトアミド基などである。磁性粒子10をシランカップリング剤により表面修飾し、反応基を有するシランカップリング剤に対し、前記反応基と結合する官能基を有する凝固性化合物やポリマー等によって被覆するようにしてもよい。
【0030】
シランカップリング剤の反応基の例としては、アミノ基、イソシアナト基、グリシジル基、アクリル基、メタクリロイル基、メルカプト基、ヒドロキシル基、ビニル基、スチリル基等が挙げられる。シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニロトリエトキシシラン等、公知のシランカップリング剤を好適に適用できる。
【0031】
凝固性磁性粒子1を生体内で利用する場合には、表層が親水性であることが好ましい。凝固性化合物11自身が親水性を有していてもよいし、ポリマーや脂質等の被覆層に親水性ユニットを導入してもよい。
【0032】
凝固性磁性粒子1の平均粒径は、用途やニーズに応じて適宜設計可能であり、特に限定されない。血管疾患の治療に利用する場合には、動脈血管の粒径を考慮すると、例えば、1nm〜10000nm程度である。磁気集積能の観点から、凝固性磁性粒子1の粒径は、10nm以上、5000nm以下程度であることが好ましい。
【0033】
次に、凝固性磁性粒子1の使用方法の一例として、図2〜図5Cを用いつつ、脳動脈瘤の治療に適用する場合を例にとって説明する。また、ここでは、紫外光によって凝固体を形成可能な凝固性化合物を有する凝固性磁性粒子について説明する。なお、凝固性磁性粒子1の使用方法としては、この例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で広範囲な利用が可能である。また、凝固体形成手段は、紫外光照射に限定されるものではない。
【0034】
まず、凝固性磁性粒子1を用意する(Step1)。凝固性磁性粒子1は、適当な媒体に溶解あるいは分散させることが取り扱い容易性の観点から好適である。磁性粒子に結合した凝固性化合物と、磁性粒子に結合していない液状の凝固性化合物の混合体を用いてもよい。また、凝固性磁性粒子1自体が液状等の流動性があるものを用いてもよい。これらの場合には、媒体等は用いなくてもよい。血管内で流動性を確保したい場合には、生理的食塩水等の流動性媒体に分散させることが好ましい。カテーテルなどによって静脈を介さずに直接患部に磁性体を供給する場合には、流動性の低い(粘度の高い)半流動性媒体を用いてもよい。これらの媒体には、必要に応じて、重合開始剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、分散安定剤、硬化剤、接着剤、接着助剤、抗菌剤、治療等に利用する薬等(以下、「添加剤」と称する)が添加されていてもよい。これらの添加剤は、必要に応じて磁気照射手段によって集積可能な磁性粒子との複合粒子とすることが好ましい。これによって、凝固体形成を高効率で行うことができる。
【0035】
上述した重合開始剤、架橋剤、分散安定剤、硬化剤、硬化触媒等の添加剤は、公知のものを制限なく利用することができる。架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N'−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;ジクミルペルオキシド、ジターシャリブチルペルオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p'−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4'−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;メチロール基を持つアルキルフェノール樹脂;などが挙げられる。また、架橋助剤としては、特に限定されないが、例えば、亜鉛華、ステアリン酸などが挙げられる。架橋促進剤としては、特に限定されないが、例えば、グアニジン系;アルデヒド−アミン系;アルデヒド−アンモニア系;チアゾール系;スルフェンアミド系;チオ尿素系;チウラム系;などの各架橋促進剤を用いることができる。架橋助剤および架橋促進剤は、それぞれ2種以上併用して用いてもよい。
【0036】
次いで、足の付け根の大腿動脈からマイクロカテーテル61を挿入し、マイクロカテーテル61を大動脈経由で頭部の脳動脈瘤まで誘導する。そして、マイクロカテーテル61から凝固性磁性粒子1を脳動脈瘤52内に注入する(Step2、図5A参照)。なお、凝固性磁性粒子1を脳動脈瘤に送達する方法として、マイクロカテーテルを用いる例を説明したが、公知の送達法を制限なく利用できる。例えば、マイクロカテーテル以外のチューブや注射針等によって注入してもよい。
【0037】
凝固性磁性粒子1を注入する際には、ターゲットとする脳動脈瘤52に対して、体外に設置された2箇所の磁気照射手段70から磁気71を照射する(Step2、図5B参照)。脳動脈瘤52の位置の確認と磁気照射手段70の位置の調整は、リアルタイムでX線透視によって視認しながら実施する。磁気71の照射は、ターゲットである脳動脈瘤52に照射領域を限定して行う。
【0038】
磁気照射手段70は、ターゲット部に磁気照射が可能であって、凝固性磁性粒子を所望の位置に集積可能なものとする。磁気照射手段70は、永久磁石、電磁石、超電導磁石等からなる磁石等の磁力発生手段を有する。取り扱い容易性の観点からは、電圧、若しくは電流を可変させることにより、磁場を可変可能な電磁石や超電導磁石を用いることが好ましい。また、装置の小型化の観点からは、永久磁石を用いることが好ましい。永久磁石の種類は、特に限定されるものではないが、一例として、フェライト、Ne−Fe−B合金、サマリウム−コバルト合金を挙げることができる。強力な磁力を要する場合には、Ne−Fe−B合金が好ましい。
【0039】
磁気照射領域を絞る手段としては、特に限定されない。簡便性の観点からは、ピンホール状の孔を有するシールド手段により磁石をシールドすることが好ましい。図4に、磁気照射手段70としてピンホール状のシールド手段を有する磁石の主要部の模式的分解斜視図を示す。この磁気照射手段70は、磁石72、シールド手段73、ケーシング74、ピンホール75を備える。
【0040】
シールド手段73は、磁力遮蔽部材により構成する。これにより、磁力線に指向性を付与させることが可能となる。シールド手段73は、例えば、ヨーク(継鉄)により構成する。無論、シールド機能を有する材料であればこれに限定されるものではない。シールド手段73を設けることにより、磁石72の磁力を増強し、他の部分の磁力の大幅な減衰を実現することができる。
【0041】
磁気照射手段70の磁力は、電磁石等の場合には、電源のオン・オフにより容易に制御できる。照射部前段にシールド手段の設置の有無によって調整してもよい。また、磁石72を移動自在に構成することによって、ターゲットに対して磁力のオン、オフを制御してもよい。
【0042】
第1実施形態によれば、磁気71の照射領域が脳動脈瘤52よりも広い場合でも、複数の磁気71を照射することによって、ターゲット部の磁力分布を高めることができる。その結果、凝固性磁性粒子1の集積をターゲット部に高濃度に集積させることができる。従って、脳動脈瘤52の大きさが小さい場合においても、患部に高効率で凝固性磁性粒子1を集積させることができる。無論、磁気照射手段70は、1箇所としても、3箇所以上としてもよい。磁気照射手段70の設置個数、脳動脈瘤のサイズ、脳動脈瘤の位置(磁気照射手段との離間距離)に応じて、適宜、磁気71の照射強度、照射領域等を最適化すればよい。
【0043】
次いで、凝固体形成手段80である紫外光81をターゲットの脳動脈瘤52にピンポイント的に印加する(Step3、図5C参照)。脳動脈瘤52の位置の確認と凝固体形成手段80の位置の調整は、リアルタイムでX線透視によって視認しながら、ターゲットである脳動脈瘤52に印加するように実施する。ターゲットにピンポイント的に紫外光を照射することによって、図5Cに示すように凝固体2が形成する。これは、紫外光照射によって、凝固性磁性粒子1間の凝固性化合物11が互いに結合し、ネットワーク構造を形成したためである。これによって、脳動脈瘤52に凝固体2が形成される。
【0044】
凝固体2は、異なる凝固性磁性粒子11の凝固性化合物11同士が架橋構造を形成することによって形成することができる。また、凝固体形成手段80の印加によって凝固性化合物11が粘着性を発現することによって、異なる凝固性磁性粒子11同士が接着することによって凝固体を形成してもよい。さらに、異なる凝固性磁性粒子11の凝固性化合物11同士が、架橋剤、接着剤、接着助剤、硬化剤等を介して結合されていてもよい。
【0045】
凝固体形成手段80は、活性光線照射手段の場合、例えば、レーザー光源である。所望の波長の光は、カットフィルター等を利用することにより容易に得られる。凝固体形成手段として熱印加手段を適用する場合の例として、赤外線レーザー光源や、交流磁場照射装置が挙げられる。また、超音波印加手段を適用する場合の例として、超音波照射装置が挙げられる。
【0046】
第1実施形態によれば、脳動脈瘤52内に磁気照射手段70を利用して凝固性磁性粒子を集積させ、外部から凝固体形成手段を印加する方法によって、脳動脈瘤内に血液が流れ込むのを効果的に遮断することができる。また、第1実施形態によれば、難治性等の特殊な事情がなければ、開頭せずに上述の方法によって治療できるので、低侵襲性において優れている。しかも、磁気照射タイミングや凝固体形成手段の印加タイミング等を時間的・空間的に外部からコントロールできる。すなわち、狙った箇所において効果的に治療を行うことができる。従って、利便性・操作性において優れている。また、コイル塞栓術に比して、コイルを詰め込む工程を省略できるのでより簡便である。
【0047】
なお、第1実施形態に係る凝固性磁性粒子1、磁気照射手段70、凝固体形成手段80等の例は一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、X線透視下で磁気照射手段70、凝固体形成手段80の照射位置の調整を行う例を説明したが、他の公知の確認手段を用いてもよい。例えば、脳外科手術によって、脳血管を露出させ、直接目視しながら行ってもよい。
【0048】
また、第1実施形態においては、脳動脈瘤における例について説明したが、腹部大動脈瘤・胸部大動脈瘤などの脳以外の治療にも利用できる。また、癌の血管自体を閉塞することにより、癌を壊死に導く癌血管塞栓治療などにも適用できる。また、組織増強、癒着防止等などにも適用できる。さらに、医用分野のみならず、細部を塞栓したい用途に広く本発明を適用できる。医用用途に用いる場合には、凝固性磁性粒子の凝固体がゴム弾性を示すことが好ましい。
【0049】
例えば、マイクロリアクターや、マイクロチューブ、細管などの狙った部位に、所望のタイミングで流動性のある塞栓物を磁力で誘導し、狙った部位に活性光線等の凝固体形成手段を適用して凝固体を形成させることにより、細部を閉塞する用途などに好適に適用できる。
【0050】
[第2実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる凝固性磁性粒子について説明する。第2実施形態に係る凝固体形成システムは、用いる凝固性磁性粒子が異なる以外は、上記第1実施形態と同様である。
【0051】
第2実施形態に係る凝固性磁性粒子に含有する磁性粒子10aは、内部に中空を有する籠状骨格を成すものである。図6Aに、第2実施形態に係る磁性粒子10aの一例を示す概念図を、図6Bに、図6AのVIB−VIB切断線における模式的斜視図を示す。第2実施形態に係る磁性粒子10aは、磁性籠状骨格12により構成されている。
【0052】
磁性籠状骨格12は、図6A,図6Bに示すように、概ね球状の骨格を成し、その内部は、中空構造13となっている。磁性籠状骨格12は、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)のいずれかを少なくとも一部に含むナノ粒子を含有する金属系ナノ粒子より成ることが好ましい。
【0053】
磁性籠状骨格12の好適な材料としては、下記のものを挙げることができる。(1)鉄白金合金(FePt)、コバルト白金合金(CoPt)、鉄パラジウム合金(FePd)、コバルト白金合金(CoPt)などの遷移金属−貴金属合金、(2)マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γー三酸化二鉄・γーFe2O3)、マンガン(Mn)フェライトを含めた酸化鉄系化合物、(3)鉄ネオジムボロン(NdFeB),サマリウムコバルト合金(SmCo)などの希土類−遷移金属合金、(4)鉄(Fe)、鉄コバルト合金(FeCo)、ニッケル鉄合金(NiFe)、(5)Fe16N2などの窒化鉄系化合物などの遷移金属合金などを挙げることができる。金属合金の他、金属酸化物を含む金属系ナノ粒子も好適に適用することができる。なお、上記例において、微量の他の元素が含まれているものも好適に適用することができる。例えば、鉄白金合金において、Cu、Agなどの第3元素を添加したものも好適に適用することができる。
【0054】
磁力による集積効率を高める観点からは、磁性籠状骨格12の材料が強磁性を示す金属系ナノ粒子であることが好ましい。生体内利用を目的とする場合には、毒性による有害事象を回避する観点より、Fe、Co、Niの少なくともいずれかを一部に含むナノ粒子として、マグネタイト(四酸化三鉄・Fe3O4)やマグヘマイト(γー三酸化二鉄・γーFe2O3)、一酸化鉄、窒化鉄、鉄、鉄白金合金、鉄パラジウム合金などを用いることが好ましい。
【0055】
磁性籠状骨格12の内部には、添加剤を内包させてもよい。なお、ここで云う添加剤とは、治療に用いられるいわゆる薬の他、重合開始剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、接着剤、接着助剤、安定保存剤、連鎖移動剤、硬化剤、抗菌剤等の薬剤を含むものとする。これらの添加剤は、公知のものを制限なく利用できる。また、添加剤は、単独で用いてもよいし、同一機能の薬剤を2種類以上併用したり、異なる機能の添加剤を2種以上併用して用いてもよい。
【0056】
磁性籠状骨格12には、多数の多孔体状の空隙14が形成されている。空隙14のサイズや形状は、磁性籠状骨格の骨格を維持できるものであれば特に限定されない。なお、磁性籠状骨格12の形状は、特に限定されるものではなく、後述する鋳型粒子の形状を制御することにより、例えば、楕円球形状としたり、棒形状としたりすることが可能である。
【0057】
第2実施形態に係る磁性籠状骨格12を有する磁性粒子は、磁性籠状骨格12は、焼結体とすることが好ましい。特に好ましくは、亜臨界状態、若しくは超臨界状態で水熱処理することによって得られた焼結体である。例えば、上記特許文献3に記載の方法により磁性籠状骨格12を有する磁性粒子を製造することができる。また、磁性籠状骨格12に被覆層を形成する方法、磁性粒子の内部に添加剤を内包する場合には、特許文献3に記載の方法により容易に調製することができる。上記第1実施形態と同様に、被覆層に凝固性化合物を組み込んだり、磁性籠状骨格12に反応基等を介して凝固性化合物を導入したりすることができる。
【0058】
第2実施形態に係る凝固性磁性粒子は、上記第1実施形態と同様の方法により凝固体を形成できる。また、磁性籠状骨格12の空隙14内に、重合性開始剤、架橋剤等を内包させ、凝固体形成手段80として超音波照射装置を用いて、内包された重合性開始剤や架橋剤等を空隙14から放出させて、凝固性化合物11と反応させて凝固体を形成させてもよい。また、凝固体形成手段80として赤外線レーザーや交流磁場照射装置を用いて、内包された重合性開始剤や架橋剤等を空隙14から放出させて、凝固性化合物11と反応させて凝固体を形成させてもよい。
【0059】
第2実施形態に係る凝固性磁性粒子によれば、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第2実施形態においては、添加剤を磁性粒子の内部に内包させることもできるので、治療に必要な薬等の有効成分を患部に注入したい場合に効率的である。また、重合開始剤や架橋剤、接着剤、接着助剤等を内包させることもできるので、凝固体の形成を高効率に実現することができる。
【0060】
[第3実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる凝固性磁性粒子について説明する。第3実施形態に係る凝固体形成システムは、上記実施形態と同様である。
【0061】
図7に、第3実施形態に係る凝固性磁性粒子1bの模式的概念図を示す。凝固性磁性粒子1bは、内包された分子集合体15と、この分子集合体15の少なくとも一部を被覆する被覆性磁性粒子含有層16とを備える。被覆性磁性粒子含有層16には、磁性粒子10bが含有されている。
【0062】
分子集合体15は、その名称のごとく分子集合体を構成するものである。分子集合体の好適な例としては、リポソーム、ミセル、ポリマーから構成される粒子を挙げることができる。分子集合体15を構成する分子集合体の形成方法は、特に限定されず、公知の技術を制限なく適用することができる。
【0063】
被覆性磁性粒子含有層16は、分子集合体15の少なくとも一部を被覆する膜からなり、磁性粒子10bを含有している。被覆性磁性粒子含有層16の主成分を構成する膜の材料、及び製造方法は、特に制限なく利用することができる。但し、生体内利用を目的とした場合、毒性による有害事象回避のために、生体適合性を有する膜を適用することが好ましい。被覆性磁性粒子含有層16は、凝固性化合物を少なくとも一部に含む。被覆性磁性粒子含有層16は、凝固性化合物が組み込まれていない脂質層、ポリマー層などを具備していてもよい。凝固性化合物、脂質層、ポリマー層の好適な例としては、上記第1実施形態と同様である。分子集合体15、被覆性磁性粒子含有層16には、いわゆる薬、重合開始剤、架橋剤、安定剤等の添加剤により構成したり、内包させたりすることができる。
【0064】
磁性粒子10bは、被覆性磁性粒子含有層16内に取り込み易くする、安定性を増す、分散性を保つ等を目的としてその表面に修飾基などを設けることができる。例えば、疎水部に取り込みやすくするために、磁性粒子10bの表面に疎水性ポリマーなどを修飾することができる。
【0065】
第3実施形態に係る凝固性磁性粒子によれば、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
[第4実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる凝固体形成システムについて図8A,図8Bを用いつつ説明する。第4実施形態に係る凝固性磁性粒子は、上記第1実施形態に係る凝固性磁性粒子と同様である。
【0067】
第4実施形態に係る凝固体形成システムは、凝固性磁性粒子1を用意し、脳動脈瘤52に凝固性磁性粒子1をマイクロカテーテル61cを用いて注入する。注入の際には、ターゲットとする脳動脈瘤52に対し、マイクロカテーテル61cから、磁気71cを照射する。換言すると、第4実施形態に係るマイクロカテーテル61cは、磁気照射手段70cとしての機能も兼ね備えている(図8A参照)。すなわち、マイクロカテーテル61cの先端部に、磁気照射手段70cが設置されており、磁気を任意のタイミングでマイクロカテーテル61cの前方に照射可能な構成となっている。
【0068】
次いで、凝固体形成手段80cである紫外光をターゲットの脳動脈瘤52にピンポイント的に印加する(図8B参照)。第4実施形態に係るマイクロカテーテル61cには、先端部に凝固体形成手段80cである紫外光照射手段を備えている。例えば、マイクロカテーテル61cが光ファイバーを有しており、不図示のマイクロカテーテル61cの他端部側は、光源に接続されている。そして、マイクロカテーテル61cの前方に紫外光を任意のタイミングで照射可能な構成となっている。
【0069】
第4実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、マイクロカテーテル61cの先端部に磁気照射手段70cと凝固体形成手段80cを設けているので、磁気71の照射領域と凝固性磁性粒子1の注入領域の位置合わせの工程を省くことができる。また、紫外光81の照射領域と凝固性磁性粒子1の注入領域の位置合わせの工程を省くことができる。
【0070】
なお、第4実施形態においては、マイクロカテーテル61cに磁気照射手段と凝固体形成手段の両者を設ける構成を説明したが、いずれか一方をマイクロカテーテルに設け、もう一方を、第1実施形態のように外部から印加するようにしてもよい。また、凝固性磁性粒子を注射針等により脳動脈瘤に注入し、磁気照射手段と凝固体形成手段を備えたマイクロカテーテルを用いてもよい。また、磁気照射手段と凝固体形成手段を患部に直接挿入可能な細線の挿入治具を用いてもよい。
【0071】
[第5実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる凝固体形成システムについて説明する。第5実施形態に係る凝固性磁性粒子は、上記第1実施形態に係る凝固性磁性粒子と同様である。
【0072】
第5実施形態に係る凝固性磁性粒子は、凝固性磁性粒子1によって患部に分散試薬を静脈注射によって体内に注入する点において、上記実施形態と相違する。静脈注射によって血中に注入された凝固性磁性粒子1は、患部である脳動脈瘤に照射されている磁気71照射部に集積させる。そして、凝固性磁性粒子1がターゲット部に十分に集積されたことを確認後、凝固体形成手段80をターゲットの脳動脈瘤に印加する。この際、磁気照射手段70による磁気71の照射部と、凝固体形成手段80による紫外光81の照射部とが、ターゲットである脳動脈瘤以外の領域で重ならないようにすることが望ましい。これによって、磁気照射手段70と凝固体形成手段80の重畳印加領域のみに、凝固体2を形成することができる。
【0073】
なお、脳動脈瘤に凝固性磁性粒子1が十分に集積したのを確認後に凝固体形成手段80を印加する例を説明したが、凝固性磁性粒子1の集積途上で順次、凝固体形成手段80をターゲットの脳動脈瘤に印加することによって、凝固体2を形成してもよい。
【0074】
第5実施形態に係る凝固性磁性粒子1の使用方法によれば、マイクロカテーテルや針等を脳動脈瘤に挿入する必要がなく非侵襲で治療することができるという優れたメリットがある。
【0075】
≪実施例≫
磁性粒子として、シリカ-マグネタイト複合体(sicastar-M/-M-CT、粒子径1.5μm、Micromod社製)の分散水溶液を用意し、ロータリエバポレータを用いて、水分を除去することにより、乾燥シリカ-マグネタイト複合体を得た。次いで、可視光照射によりシリカに強い親和性を発揮する可視光硬化性樹脂(スリーボンド社製3170B)を暗所で均一になるまで良く混合した。引き続き、ネオジム磁石を用いて、乾燥シリカ-マグネタイト複合体に結合していない可視光硬化性樹脂を磁気的に除去することにより、可視光硬化性磁性粒子を調製した。そして、この可視光硬化性磁性粒子をシリンジに充填し、血管カテーテルにシリンジを接続した。
【0076】
次に、血管モデル 動脈瘤付き前循環モデル(RT?R?N?001およびREF.H+N?S?A?001の標準接続セット、株式会社トービ社製)の動脈瘤部にカテーテル先端を挿入した。そして、外部から動脈瘤部に磁場をかけた状態で、シリンジを押し出し、カテーテル先端から前述の可視光硬化性磁性粒子を動脈瘤に送り込み、磁気的に動脈瘤部に貯留させた。
【0077】
続いて、朝日分光社製キセノン光源(LAX-103)を光ファイバーに接続し、光ファイバー先端を動脈瘤部に導いて可視光を照射した。これにより、磁気的に貯留させた動脈瘤部の可視光硬化性磁性粒子が凝固体になることを確認した。
【符号の説明】
【0078】
1 凝固性磁性粒子
2 凝固体
10 磁性粒子
11 凝固性化合物
12 磁性籠状骨格
13 中空構造
14 空隙
15 分子集合体
16 被覆性磁性粒子含有層
50 脳
51 動脈
52 脳動脈瘤
61 マイクロカテーテル
70 磁気照射手段
71 磁気
72 磁石
73 シールド手段
74 ケーシング
75 ピンホール
80 凝固体形成手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固性化合物が組み込まれた凝固性磁性粒子、及びその使用方法に関する。また、前述の凝固性磁性粒子を利用した凝固体形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳動脈瘤は、動脈の血管壁が瘤状に変化したものであり、好発部位は、血圧が強くかかる脳動脈の分岐点である。一般に、脳動脈瘤のサイズは、1mm〜30mm程度である。動脈瘤の血管壁は、中膜を欠いているので破綻しやすく、クモ膜下腔に存在する脳動脈瘤は、クモ膜下出血の最大の原因となっている。脳動脈瘤が未破裂の状態においては、殆どが無症状であるが、脳動脈瘤が破裂すると、激しい頭痛、吐き気と嘔吐、意識の消失などの症状が発生し、最悪死亡に至る。脳動脈瘤や脳動脈奇形などの脳血管疾患の治療においては、従来より、クリッピング術や、コイル塞栓術が施されてきた。
【0003】
クリッピング術(図9A参照)は、いわゆる開頭手術である。手術は、動脈瘤101に到達するために頭蓋骨の一部を取り、脳組織を剥離して脳動脈瘤と正常な血管102の境をクリップ110で閉鎖し、その後、頭蓋骨を元通りにして皮膚を縫合することにより行われる。手術を施すことによって、血液が脳動脈瘤101に流れ込むことを防ぐことが可能となる。
【0004】
コイル塞栓術は、リアルタイムのX線透視画像下で血管を視覚化し、図9Bに示すように、血管102の内腔からプラチナ製コイル120を用いて脳動脈瘤101を治療する方法である。開頭を行わないので低侵襲であるという点において優れた治療法である。治療は、まず、カテーテル121を足の付け根の大腿動脈から挿入し、大動脈を通り頭部の脳動脈瘤101まで誘導する。そして、このカテーテル121を通して塞栓物質である細線のプラチナ製コイル120を脳動脈瘤101の中に詰め込む。これによって、脳動脈瘤101内に血液が流れ込むのを遮断することができる。プラチナ製コイル120は、X線透視下で視認が可能で、脳動脈瘤101の形状に一致するように柔軟な構造になっている。
【0005】
特許文献1においては、コイルを動脈瘤内に挿入し、その後、マイクロカテーテルにより磁性粒子を動脈瘤内に注入することにより動脈瘤閉塞を行う方法が提案されている。磁性粒子は、Fe2O3及び/又はFe3O4を主成分とするものであり、動脈瘤閉塞は、動脈瘤内に挿入されたコイルに、磁力によって磁性粒子を凝集させることにより行う。なお、特許文献2、特許文献3、非特許文献1については、後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−187932号公報
【特許文献2】特許4183047号
【特許文献3】PCT/JP0011/000638
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Namiki, Y. et al. Nature Nanotechnology, 2009, 4, 598 - 606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脳幹部をはじめ、手術により致死的になりやすい個所に発生する脳動脈奇形に対する摘出術や、分葉広頚型脳動脈瘤に対するクリッピング術は、脳深部への外科的アプローチが難しいという問題があった。また、コイル塞栓術は、脳動脈瘤頚部の完全遮断が難しいという問題があった。また、コイル塞栓術は、コイルを挿入する高度な技術が必要であった。このため、より簡便な治療法の開発が可能な医用材料が切望されていた。
【0009】
なお、上記においては、脳血管疾患における問題点について述べたが、所望の位置に凝固体を形成したい分野全般において同様の課題が生じ得る。
【0010】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所望の位置に簡便に凝固体を形成可能な凝固性磁性粒子、及びその使用方法、並びに凝固体形成システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る凝固体形成システムは、磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子と、凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも含有する凝固性磁性粒子と、非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を、所望の位置に集積させる磁気照射手段と、前記凝固性磁性粒子の凝固体を前記所望の位置に形成する前記凝固体形成手段と、を備えるものである。
【0012】
本発明に係る凝固体形成システムによれば、磁気照射手段を利用して凝固性磁性粒子を集積させ、外部から凝固体形成手段を印加する方法によって、所望の位置に凝固体を形成させることができる。しかも、磁気照射タイミングや凝固体形成手段の印加タイミング等を時間的・空間的に外部からコントロールできる。すなわち、狙った箇所において狙ったタイミングで効果的に凝固体を形成することができる。従って、利便性・操作性において優れている。
【0013】
本発明に係る凝固性磁性粒子の使用方法は、凝固体形成手段の印加により凝固体を形成する凝固性磁性粒子の使用方法であって、前記凝固性磁性粒子は、磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子と、前記凝固体形成手段の印加によって凝固体を形成可能な凝固性化合物とを少なくとも備え、非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を、磁気照射手段を利用して所望の位置に集積させ、前記凝固体形成手段を前記所望の位置に印加することにより前記凝固性磁性粒子の凝固体を形成するものである。
【0014】
本発明に係る凝固性磁性粒子は、凝固体形成手段の印加により凝固体を形成する凝固性磁性粒子であって、磁気照射によって集積可能な磁性粒子と、前記凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも備えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望の位置に簡便に凝固体を形成可能な凝固性磁性粒子、及びその使用方法、並びに凝固体形成システムを提供することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の模式的説明図。
【図1B】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の一部分解図。
【図2】第1実施形態に係る凝固体形成システムのフローチャート図。
【図3A】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式図。
【図3B】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式図。
【図4】第1実施形態に係る磁気照射手段の一例を示す要部の部分分解図。
【図5A】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図5B】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図5C】第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図6A】第2実施形態に係る磁性粒子の模式的説明図。
【図6B】図6AのVIB−VIB切断部における斜視図。
【図7】第3実施形態に係る凝固性磁性粒子の一例を示す模式的断面図。
【図8A】第4実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図8B】第4実施形態に係る凝固性磁性粒子の使用方法の一例を示す模式的拡大図。
【図9A】従来例に係る脳動脈瘤の治療方法の説明図。
【図9B】従来例に係る脳動脈瘤の治療方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る凝固性磁性粒子の使用方法は、凝固体形成手段により非凝固状態の凝固性磁性粒子から凝固体を形成するものである。凝固性磁性粒子は、磁気照射によって集積可能な磁性粒子と、凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物とを少なくとも備える。凝固体は、まず、非凝固状態の凝固性磁性粒子を、磁気照射手段を利用して所望の位置に集積させ、当該位置に、凝固体形成手段を印加することにより凝固性磁性粒子の凝固体を形成することによって得られる。これによって、所望の位置に簡便に凝固体を形成することができる。
【0018】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは必ずしも一致しない。また、以降の実施形態及び実施例において、同一の要素部材には同一符号を付し、適宜その説明を省略する。また、下記の実施形態は、互いに好適に組み合わせられる。
【0019】
[第1実施形態]
図1Aは、第1実施形態に係る凝固性磁性粒子の模式的説明図であり、図1Bは、凝固性磁性粒子の一部分解図である。凝固性磁性粒子1は、図1A、図1Bに示すように、磁性粒子10の表面の少なくとも一部が凝固性化合物11によって被覆された粒子である。
【0020】
磁性粒子10としては、(1)凝固性化合物11と結合して凝固性磁性粒子1を形成する、(2)磁力集積手段によって、集積可能な磁性を有する、という条件を満たすものであれば、特に限定されずに適用することができる。生体内で用いる用途の場合には、生体に悪影響を及ぼさないものを用いる。
【0021】
磁性粒子10は、例えば、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(Fe2O3)、一酸化鉄(FeO)、窒化鉄、鉄(Fe)、FePt粒子、FePt粒子と他の磁性金属元素を含む粒子、ニッケル、コバルト、コバルト白金クロム合金、バリウムフェライト合金、マンガンアルミ合金、鉄白金合金、鉄パラジウム合金、コバルト白金合金、鉄ネオジムボロン合金、及びサマリウムコバルト合金等の粒子が挙げられる。磁力による集積効率を高める観点からは、強磁性粒子であることが好ましい。生体内利用を目的とした場合には、毒性による有害事象を回避する必要がある。かかる観点を考慮すると、磁性粒子として、マグネタイト(四酸化三鉄・Fe3 O4 )やマグヘマイト(γー三酸化二鉄・γーFe2 O3 )、一酸化鉄、窒化鉄、鉄や、鉄白金合金などを用いることが好ましい。磁性粒子10は、1種類のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0022】
凝固性化合物11は、(i)凝固体形成手段の印加により凝固性磁性粒子1の凝固体が形成可能な化合物であって、(ii)少なくとも磁性粒子10の一部を被覆しているものとする。
【0023】
凝固体形成手段は、これを印加することによって凝固性磁性粒子の凝固体が形成可能なものであれば特に限定されない。凝固体形成手段の一例として、活性光線照射、熱印加手段、超音波印加手段等を挙げることができる。これらは、単独で用いても併用して用いてもよい。ここで、活性光線とは、紫外光、可視光、赤外光、放射線、ラジオ波等も含むものとする。熱印加手段としては、赤外光照射の他、交流磁場照射による発熱などの間接的な発熱も含むものとする。また、超音波印加手段は、いわゆる音響等も含むものとする。
【0024】
凝固性化合物11は、例えば、紫外線や熱に反応して、硬化性を有する光硬化性モノマー、光硬化性オリゴマー、光硬化性ポリマー、熱硬化性モノマー、熱硬化性オリゴマー、熱硬化性ポリマーが好適に利用できる。凝固性化合物11中に含まれる好適な官能基の例としては、単官能アクリレート、2官能アクリレート、多官能アクリレート、単官能メタクリレート、2官能メタクリレート、多官能メタクリレート、ウレタンアクリレート、グリシジル、アリル等が挙げられる。凝固性化合物11の具体例としては、スリーボンド3113B 紫外線硬化性エポキシ樹脂(スリーボンド社製)、スリーボンド3114 紫外線硬化性エポキシ樹脂、スリーボンド3163 紫外線硬化性シリコーン樹脂、スリーボンド3170B 可視光硬化性樹脂、スリーボンド社製の3000シリーズ等が挙げられる。凝固性化合物11は、1種単独、若しくは2種以上を併用して用いることができる。
【0025】
なお、凝固性化合物11は、磁性粒子10に直接被覆されていなくてもよい。すなわち、磁性粒子10を他の被覆層によってコートし、その上層に凝固性化合物が形成されていてもよい。また、凝固体形成手段の印加によって凝固体の形成が可能であれば、凝固性化合物11が最表層に形成されていなくてもよい。また、本明細書における「凝固体」とは、ゲルのように系全体として固体状になっているものも含むものとする。
【0026】
凝固性磁性粒子1の形成方法は、特に限定されず、公知の方法を制限なく利用できる。例えば、(i)複数の反応基を有する磁性粒子10に、反応基を介して凝固性化合物11を直接結合させる、(ii)磁性粒子10を被覆するポリマーの側鎖として凝固性化合物11を導入する、(iii)磁性粒子10を被覆するポリマーの側鎖等の官能基に共有結合などにより凝固性化合物11を結合させる、(iv)脂質等の被覆層に直接、若しくは反応基等を介して凝固性化合物11を結合させることにより凝固性磁性粒子1を得ることができる。特許文献2や非特許文献1に開示した自己会合型磁性脂質ナノ粒子、若しくは脂質被覆磁性ナノ粒子やポリマー被覆磁性ナノ粒子に、凝固性化合物11を導入したものを凝固性磁性粒子1として用いてもよい。
【0027】
凝固性化合物11が組み込まれた脂質層の好適な例としては、中性脂質、陽性荷電脂質、陰性荷電脂質などを挙げることができる。中性脂質としては、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、セレブロシド等が挙げられる。陽性荷電脂質としては、例えば、DOTAP(1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonio propane)、DC−6−14(O,O'-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride、DC-Chol(3beta-N-(N,N,-dimethyl-aminoethane)carbamol cholesterol)、TMAG(N-(α-trimethylammonioacetyl)didodecyl-D-glutamate chloride)、DOTMA(N-2,3-di-oleyloxypropyl-N,N,N-trimethylammonium)、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DDAB(didodecyl-ammonium bromide)、DOSPA(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminum trifluoroacetane)等が挙げられる。
【0028】
凝固性化合物が組み込まれたポリマー層の好適な例としては、ブロック共重合体(スチレン-イソプレン-スチレン、スチレン-ブタンジエン-スチレン)、アルブミン、ドコサヘキサエン酸、ポリグルタミン酸、ポリエチレングリコール・ポリアスパラギン酸、ポリエチレングリコール・ポリアスパラギン酸の側鎖に疎水基・親水基の一方、若しくは両方を修飾したブロックコポリマー、ポリエチレングリコール・ポリ(ジエチレントリアミン)、ポリエチレングリコール-ポリ(β-ベンジル アスパルテート)を挙げることができる。無論、これらに限定されるものではなく、公知の材料を制限なく適用することができる。
【0029】
複数の反応基を有する磁性粒子10に、その反応基を介して凝固性化合物11を結合させる場合の反応基としては、例えば、以下の反応基が挙げられる。すなわち、アピジン-ビオチン系結合、エポキシ基、トシル基、エステル基、チオール基、アミノ基、ハロゲン化アシル基、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、アルデヒド基、マレイミド基、ビニルスルホン基、ベンゾトリアゾールカーボネート基、プロモアセトアミド基などである。磁性粒子10をシランカップリング剤により表面修飾し、反応基を有するシランカップリング剤に対し、前記反応基と結合する官能基を有する凝固性化合物やポリマー等によって被覆するようにしてもよい。
【0030】
シランカップリング剤の反応基の例としては、アミノ基、イソシアナト基、グリシジル基、アクリル基、メタクリロイル基、メルカプト基、ヒドロキシル基、ビニル基、スチリル基等が挙げられる。シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニロトリエトキシシラン等、公知のシランカップリング剤を好適に適用できる。
【0031】
凝固性磁性粒子1を生体内で利用する場合には、表層が親水性であることが好ましい。凝固性化合物11自身が親水性を有していてもよいし、ポリマーや脂質等の被覆層に親水性ユニットを導入してもよい。
【0032】
凝固性磁性粒子1の平均粒径は、用途やニーズに応じて適宜設計可能であり、特に限定されない。血管疾患の治療に利用する場合には、動脈血管の粒径を考慮すると、例えば、1nm〜10000nm程度である。磁気集積能の観点から、凝固性磁性粒子1の粒径は、10nm以上、5000nm以下程度であることが好ましい。
【0033】
次に、凝固性磁性粒子1の使用方法の一例として、図2〜図5Cを用いつつ、脳動脈瘤の治療に適用する場合を例にとって説明する。また、ここでは、紫外光によって凝固体を形成可能な凝固性化合物を有する凝固性磁性粒子について説明する。なお、凝固性磁性粒子1の使用方法としては、この例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で広範囲な利用が可能である。また、凝固体形成手段は、紫外光照射に限定されるものではない。
【0034】
まず、凝固性磁性粒子1を用意する(Step1)。凝固性磁性粒子1は、適当な媒体に溶解あるいは分散させることが取り扱い容易性の観点から好適である。磁性粒子に結合した凝固性化合物と、磁性粒子に結合していない液状の凝固性化合物の混合体を用いてもよい。また、凝固性磁性粒子1自体が液状等の流動性があるものを用いてもよい。これらの場合には、媒体等は用いなくてもよい。血管内で流動性を確保したい場合には、生理的食塩水等の流動性媒体に分散させることが好ましい。カテーテルなどによって静脈を介さずに直接患部に磁性体を供給する場合には、流動性の低い(粘度の高い)半流動性媒体を用いてもよい。これらの媒体には、必要に応じて、重合開始剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、分散安定剤、硬化剤、接着剤、接着助剤、抗菌剤、治療等に利用する薬等(以下、「添加剤」と称する)が添加されていてもよい。これらの添加剤は、必要に応じて磁気照射手段によって集積可能な磁性粒子との複合粒子とすることが好ましい。これによって、凝固体形成を高効率で行うことができる。
【0035】
上述した重合開始剤、架橋剤、分散安定剤、硬化剤、硬化触媒等の添加剤は、公知のものを制限なく利用することができる。架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N'−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;ジクミルペルオキシド、ジターシャリブチルペルオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p'−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4'−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;メチロール基を持つアルキルフェノール樹脂;などが挙げられる。また、架橋助剤としては、特に限定されないが、例えば、亜鉛華、ステアリン酸などが挙げられる。架橋促進剤としては、特に限定されないが、例えば、グアニジン系;アルデヒド−アミン系;アルデヒド−アンモニア系;チアゾール系;スルフェンアミド系;チオ尿素系;チウラム系;などの各架橋促進剤を用いることができる。架橋助剤および架橋促進剤は、それぞれ2種以上併用して用いてもよい。
【0036】
次いで、足の付け根の大腿動脈からマイクロカテーテル61を挿入し、マイクロカテーテル61を大動脈経由で頭部の脳動脈瘤まで誘導する。そして、マイクロカテーテル61から凝固性磁性粒子1を脳動脈瘤52内に注入する(Step2、図5A参照)。なお、凝固性磁性粒子1を脳動脈瘤に送達する方法として、マイクロカテーテルを用いる例を説明したが、公知の送達法を制限なく利用できる。例えば、マイクロカテーテル以外のチューブや注射針等によって注入してもよい。
【0037】
凝固性磁性粒子1を注入する際には、ターゲットとする脳動脈瘤52に対して、体外に設置された2箇所の磁気照射手段70から磁気71を照射する(Step2、図5B参照)。脳動脈瘤52の位置の確認と磁気照射手段70の位置の調整は、リアルタイムでX線透視によって視認しながら実施する。磁気71の照射は、ターゲットである脳動脈瘤52に照射領域を限定して行う。
【0038】
磁気照射手段70は、ターゲット部に磁気照射が可能であって、凝固性磁性粒子を所望の位置に集積可能なものとする。磁気照射手段70は、永久磁石、電磁石、超電導磁石等からなる磁石等の磁力発生手段を有する。取り扱い容易性の観点からは、電圧、若しくは電流を可変させることにより、磁場を可変可能な電磁石や超電導磁石を用いることが好ましい。また、装置の小型化の観点からは、永久磁石を用いることが好ましい。永久磁石の種類は、特に限定されるものではないが、一例として、フェライト、Ne−Fe−B合金、サマリウム−コバルト合金を挙げることができる。強力な磁力を要する場合には、Ne−Fe−B合金が好ましい。
【0039】
磁気照射領域を絞る手段としては、特に限定されない。簡便性の観点からは、ピンホール状の孔を有するシールド手段により磁石をシールドすることが好ましい。図4に、磁気照射手段70としてピンホール状のシールド手段を有する磁石の主要部の模式的分解斜視図を示す。この磁気照射手段70は、磁石72、シールド手段73、ケーシング74、ピンホール75を備える。
【0040】
シールド手段73は、磁力遮蔽部材により構成する。これにより、磁力線に指向性を付与させることが可能となる。シールド手段73は、例えば、ヨーク(継鉄)により構成する。無論、シールド機能を有する材料であればこれに限定されるものではない。シールド手段73を設けることにより、磁石72の磁力を増強し、他の部分の磁力の大幅な減衰を実現することができる。
【0041】
磁気照射手段70の磁力は、電磁石等の場合には、電源のオン・オフにより容易に制御できる。照射部前段にシールド手段の設置の有無によって調整してもよい。また、磁石72を移動自在に構成することによって、ターゲットに対して磁力のオン、オフを制御してもよい。
【0042】
第1実施形態によれば、磁気71の照射領域が脳動脈瘤52よりも広い場合でも、複数の磁気71を照射することによって、ターゲット部の磁力分布を高めることができる。その結果、凝固性磁性粒子1の集積をターゲット部に高濃度に集積させることができる。従って、脳動脈瘤52の大きさが小さい場合においても、患部に高効率で凝固性磁性粒子1を集積させることができる。無論、磁気照射手段70は、1箇所としても、3箇所以上としてもよい。磁気照射手段70の設置個数、脳動脈瘤のサイズ、脳動脈瘤の位置(磁気照射手段との離間距離)に応じて、適宜、磁気71の照射強度、照射領域等を最適化すればよい。
【0043】
次いで、凝固体形成手段80である紫外光81をターゲットの脳動脈瘤52にピンポイント的に印加する(Step3、図5C参照)。脳動脈瘤52の位置の確認と凝固体形成手段80の位置の調整は、リアルタイムでX線透視によって視認しながら、ターゲットである脳動脈瘤52に印加するように実施する。ターゲットにピンポイント的に紫外光を照射することによって、図5Cに示すように凝固体2が形成する。これは、紫外光照射によって、凝固性磁性粒子1間の凝固性化合物11が互いに結合し、ネットワーク構造を形成したためである。これによって、脳動脈瘤52に凝固体2が形成される。
【0044】
凝固体2は、異なる凝固性磁性粒子11の凝固性化合物11同士が架橋構造を形成することによって形成することができる。また、凝固体形成手段80の印加によって凝固性化合物11が粘着性を発現することによって、異なる凝固性磁性粒子11同士が接着することによって凝固体を形成してもよい。さらに、異なる凝固性磁性粒子11の凝固性化合物11同士が、架橋剤、接着剤、接着助剤、硬化剤等を介して結合されていてもよい。
【0045】
凝固体形成手段80は、活性光線照射手段の場合、例えば、レーザー光源である。所望の波長の光は、カットフィルター等を利用することにより容易に得られる。凝固体形成手段として熱印加手段を適用する場合の例として、赤外線レーザー光源や、交流磁場照射装置が挙げられる。また、超音波印加手段を適用する場合の例として、超音波照射装置が挙げられる。
【0046】
第1実施形態によれば、脳動脈瘤52内に磁気照射手段70を利用して凝固性磁性粒子を集積させ、外部から凝固体形成手段を印加する方法によって、脳動脈瘤内に血液が流れ込むのを効果的に遮断することができる。また、第1実施形態によれば、難治性等の特殊な事情がなければ、開頭せずに上述の方法によって治療できるので、低侵襲性において優れている。しかも、磁気照射タイミングや凝固体形成手段の印加タイミング等を時間的・空間的に外部からコントロールできる。すなわち、狙った箇所において効果的に治療を行うことができる。従って、利便性・操作性において優れている。また、コイル塞栓術に比して、コイルを詰め込む工程を省略できるのでより簡便である。
【0047】
なお、第1実施形態に係る凝固性磁性粒子1、磁気照射手段70、凝固体形成手段80等の例は一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、X線透視下で磁気照射手段70、凝固体形成手段80の照射位置の調整を行う例を説明したが、他の公知の確認手段を用いてもよい。例えば、脳外科手術によって、脳血管を露出させ、直接目視しながら行ってもよい。
【0048】
また、第1実施形態においては、脳動脈瘤における例について説明したが、腹部大動脈瘤・胸部大動脈瘤などの脳以外の治療にも利用できる。また、癌の血管自体を閉塞することにより、癌を壊死に導く癌血管塞栓治療などにも適用できる。また、組織増強、癒着防止等などにも適用できる。さらに、医用分野のみならず、細部を塞栓したい用途に広く本発明を適用できる。医用用途に用いる場合には、凝固性磁性粒子の凝固体がゴム弾性を示すことが好ましい。
【0049】
例えば、マイクロリアクターや、マイクロチューブ、細管などの狙った部位に、所望のタイミングで流動性のある塞栓物を磁力で誘導し、狙った部位に活性光線等の凝固体形成手段を適用して凝固体を形成させることにより、細部を閉塞する用途などに好適に適用できる。
【0050】
[第2実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる凝固性磁性粒子について説明する。第2実施形態に係る凝固体形成システムは、用いる凝固性磁性粒子が異なる以外は、上記第1実施形態と同様である。
【0051】
第2実施形態に係る凝固性磁性粒子に含有する磁性粒子10aは、内部に中空を有する籠状骨格を成すものである。図6Aに、第2実施形態に係る磁性粒子10aの一例を示す概念図を、図6Bに、図6AのVIB−VIB切断線における模式的斜視図を示す。第2実施形態に係る磁性粒子10aは、磁性籠状骨格12により構成されている。
【0052】
磁性籠状骨格12は、図6A,図6Bに示すように、概ね球状の骨格を成し、その内部は、中空構造13となっている。磁性籠状骨格12は、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)のいずれかを少なくとも一部に含むナノ粒子を含有する金属系ナノ粒子より成ることが好ましい。
【0053】
磁性籠状骨格12の好適な材料としては、下記のものを挙げることができる。(1)鉄白金合金(FePt)、コバルト白金合金(CoPt)、鉄パラジウム合金(FePd)、コバルト白金合金(CoPt)などの遷移金属−貴金属合金、(2)マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γー三酸化二鉄・γーFe2O3)、マンガン(Mn)フェライトを含めた酸化鉄系化合物、(3)鉄ネオジムボロン(NdFeB),サマリウムコバルト合金(SmCo)などの希土類−遷移金属合金、(4)鉄(Fe)、鉄コバルト合金(FeCo)、ニッケル鉄合金(NiFe)、(5)Fe16N2などの窒化鉄系化合物などの遷移金属合金などを挙げることができる。金属合金の他、金属酸化物を含む金属系ナノ粒子も好適に適用することができる。なお、上記例において、微量の他の元素が含まれているものも好適に適用することができる。例えば、鉄白金合金において、Cu、Agなどの第3元素を添加したものも好適に適用することができる。
【0054】
磁力による集積効率を高める観点からは、磁性籠状骨格12の材料が強磁性を示す金属系ナノ粒子であることが好ましい。生体内利用を目的とする場合には、毒性による有害事象を回避する観点より、Fe、Co、Niの少なくともいずれかを一部に含むナノ粒子として、マグネタイト(四酸化三鉄・Fe3O4)やマグヘマイト(γー三酸化二鉄・γーFe2O3)、一酸化鉄、窒化鉄、鉄、鉄白金合金、鉄パラジウム合金などを用いることが好ましい。
【0055】
磁性籠状骨格12の内部には、添加剤を内包させてもよい。なお、ここで云う添加剤とは、治療に用いられるいわゆる薬の他、重合開始剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、接着剤、接着助剤、安定保存剤、連鎖移動剤、硬化剤、抗菌剤等の薬剤を含むものとする。これらの添加剤は、公知のものを制限なく利用できる。また、添加剤は、単独で用いてもよいし、同一機能の薬剤を2種類以上併用したり、異なる機能の添加剤を2種以上併用して用いてもよい。
【0056】
磁性籠状骨格12には、多数の多孔体状の空隙14が形成されている。空隙14のサイズや形状は、磁性籠状骨格の骨格を維持できるものであれば特に限定されない。なお、磁性籠状骨格12の形状は、特に限定されるものではなく、後述する鋳型粒子の形状を制御することにより、例えば、楕円球形状としたり、棒形状としたりすることが可能である。
【0057】
第2実施形態に係る磁性籠状骨格12を有する磁性粒子は、磁性籠状骨格12は、焼結体とすることが好ましい。特に好ましくは、亜臨界状態、若しくは超臨界状態で水熱処理することによって得られた焼結体である。例えば、上記特許文献3に記載の方法により磁性籠状骨格12を有する磁性粒子を製造することができる。また、磁性籠状骨格12に被覆層を形成する方法、磁性粒子の内部に添加剤を内包する場合には、特許文献3に記載の方法により容易に調製することができる。上記第1実施形態と同様に、被覆層に凝固性化合物を組み込んだり、磁性籠状骨格12に反応基等を介して凝固性化合物を導入したりすることができる。
【0058】
第2実施形態に係る凝固性磁性粒子は、上記第1実施形態と同様の方法により凝固体を形成できる。また、磁性籠状骨格12の空隙14内に、重合性開始剤、架橋剤等を内包させ、凝固体形成手段80として超音波照射装置を用いて、内包された重合性開始剤や架橋剤等を空隙14から放出させて、凝固性化合物11と反応させて凝固体を形成させてもよい。また、凝固体形成手段80として赤外線レーザーや交流磁場照射装置を用いて、内包された重合性開始剤や架橋剤等を空隙14から放出させて、凝固性化合物11と反応させて凝固体を形成させてもよい。
【0059】
第2実施形態に係る凝固性磁性粒子によれば、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第2実施形態においては、添加剤を磁性粒子の内部に内包させることもできるので、治療に必要な薬等の有効成分を患部に注入したい場合に効率的である。また、重合開始剤や架橋剤、接着剤、接着助剤等を内包させることもできるので、凝固体の形成を高効率に実現することができる。
【0060】
[第3実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる凝固性磁性粒子について説明する。第3実施形態に係る凝固体形成システムは、上記実施形態と同様である。
【0061】
図7に、第3実施形態に係る凝固性磁性粒子1bの模式的概念図を示す。凝固性磁性粒子1bは、内包された分子集合体15と、この分子集合体15の少なくとも一部を被覆する被覆性磁性粒子含有層16とを備える。被覆性磁性粒子含有層16には、磁性粒子10bが含有されている。
【0062】
分子集合体15は、その名称のごとく分子集合体を構成するものである。分子集合体の好適な例としては、リポソーム、ミセル、ポリマーから構成される粒子を挙げることができる。分子集合体15を構成する分子集合体の形成方法は、特に限定されず、公知の技術を制限なく適用することができる。
【0063】
被覆性磁性粒子含有層16は、分子集合体15の少なくとも一部を被覆する膜からなり、磁性粒子10bを含有している。被覆性磁性粒子含有層16の主成分を構成する膜の材料、及び製造方法は、特に制限なく利用することができる。但し、生体内利用を目的とした場合、毒性による有害事象回避のために、生体適合性を有する膜を適用することが好ましい。被覆性磁性粒子含有層16は、凝固性化合物を少なくとも一部に含む。被覆性磁性粒子含有層16は、凝固性化合物が組み込まれていない脂質層、ポリマー層などを具備していてもよい。凝固性化合物、脂質層、ポリマー層の好適な例としては、上記第1実施形態と同様である。分子集合体15、被覆性磁性粒子含有層16には、いわゆる薬、重合開始剤、架橋剤、安定剤等の添加剤により構成したり、内包させたりすることができる。
【0064】
磁性粒子10bは、被覆性磁性粒子含有層16内に取り込み易くする、安定性を増す、分散性を保つ等を目的としてその表面に修飾基などを設けることができる。例えば、疎水部に取り込みやすくするために、磁性粒子10bの表面に疎水性ポリマーなどを修飾することができる。
【0065】
第3実施形態に係る凝固性磁性粒子によれば、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
[第4実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる凝固体形成システムについて図8A,図8Bを用いつつ説明する。第4実施形態に係る凝固性磁性粒子は、上記第1実施形態に係る凝固性磁性粒子と同様である。
【0067】
第4実施形態に係る凝固体形成システムは、凝固性磁性粒子1を用意し、脳動脈瘤52に凝固性磁性粒子1をマイクロカテーテル61cを用いて注入する。注入の際には、ターゲットとする脳動脈瘤52に対し、マイクロカテーテル61cから、磁気71cを照射する。換言すると、第4実施形態に係るマイクロカテーテル61cは、磁気照射手段70cとしての機能も兼ね備えている(図8A参照)。すなわち、マイクロカテーテル61cの先端部に、磁気照射手段70cが設置されており、磁気を任意のタイミングでマイクロカテーテル61cの前方に照射可能な構成となっている。
【0068】
次いで、凝固体形成手段80cである紫外光をターゲットの脳動脈瘤52にピンポイント的に印加する(図8B参照)。第4実施形態に係るマイクロカテーテル61cには、先端部に凝固体形成手段80cである紫外光照射手段を備えている。例えば、マイクロカテーテル61cが光ファイバーを有しており、不図示のマイクロカテーテル61cの他端部側は、光源に接続されている。そして、マイクロカテーテル61cの前方に紫外光を任意のタイミングで照射可能な構成となっている。
【0069】
第4実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、マイクロカテーテル61cの先端部に磁気照射手段70cと凝固体形成手段80cを設けているので、磁気71の照射領域と凝固性磁性粒子1の注入領域の位置合わせの工程を省くことができる。また、紫外光81の照射領域と凝固性磁性粒子1の注入領域の位置合わせの工程を省くことができる。
【0070】
なお、第4実施形態においては、マイクロカテーテル61cに磁気照射手段と凝固体形成手段の両者を設ける構成を説明したが、いずれか一方をマイクロカテーテルに設け、もう一方を、第1実施形態のように外部から印加するようにしてもよい。また、凝固性磁性粒子を注射針等により脳動脈瘤に注入し、磁気照射手段と凝固体形成手段を備えたマイクロカテーテルを用いてもよい。また、磁気照射手段と凝固体形成手段を患部に直接挿入可能な細線の挿入治具を用いてもよい。
【0071】
[第5実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる凝固体形成システムについて説明する。第5実施形態に係る凝固性磁性粒子は、上記第1実施形態に係る凝固性磁性粒子と同様である。
【0072】
第5実施形態に係る凝固性磁性粒子は、凝固性磁性粒子1によって患部に分散試薬を静脈注射によって体内に注入する点において、上記実施形態と相違する。静脈注射によって血中に注入された凝固性磁性粒子1は、患部である脳動脈瘤に照射されている磁気71照射部に集積させる。そして、凝固性磁性粒子1がターゲット部に十分に集積されたことを確認後、凝固体形成手段80をターゲットの脳動脈瘤に印加する。この際、磁気照射手段70による磁気71の照射部と、凝固体形成手段80による紫外光81の照射部とが、ターゲットである脳動脈瘤以外の領域で重ならないようにすることが望ましい。これによって、磁気照射手段70と凝固体形成手段80の重畳印加領域のみに、凝固体2を形成することができる。
【0073】
なお、脳動脈瘤に凝固性磁性粒子1が十分に集積したのを確認後に凝固体形成手段80を印加する例を説明したが、凝固性磁性粒子1の集積途上で順次、凝固体形成手段80をターゲットの脳動脈瘤に印加することによって、凝固体2を形成してもよい。
【0074】
第5実施形態に係る凝固性磁性粒子1の使用方法によれば、マイクロカテーテルや針等を脳動脈瘤に挿入する必要がなく非侵襲で治療することができるという優れたメリットがある。
【0075】
≪実施例≫
磁性粒子として、シリカ-マグネタイト複合体(sicastar-M/-M-CT、粒子径1.5μm、Micromod社製)の分散水溶液を用意し、ロータリエバポレータを用いて、水分を除去することにより、乾燥シリカ-マグネタイト複合体を得た。次いで、可視光照射によりシリカに強い親和性を発揮する可視光硬化性樹脂(スリーボンド社製3170B)を暗所で均一になるまで良く混合した。引き続き、ネオジム磁石を用いて、乾燥シリカ-マグネタイト複合体に結合していない可視光硬化性樹脂を磁気的に除去することにより、可視光硬化性磁性粒子を調製した。そして、この可視光硬化性磁性粒子をシリンジに充填し、血管カテーテルにシリンジを接続した。
【0076】
次に、血管モデル 動脈瘤付き前循環モデル(RT?R?N?001およびREF.H+N?S?A?001の標準接続セット、株式会社トービ社製)の動脈瘤部にカテーテル先端を挿入した。そして、外部から動脈瘤部に磁場をかけた状態で、シリンジを押し出し、カテーテル先端から前述の可視光硬化性磁性粒子を動脈瘤に送り込み、磁気的に動脈瘤部に貯留させた。
【0077】
続いて、朝日分光社製キセノン光源(LAX-103)を光ファイバーに接続し、光ファイバー先端を動脈瘤部に導いて可視光を照射した。これにより、磁気的に貯留させた動脈瘤部の可視光硬化性磁性粒子が凝固体になることを確認した。
【符号の説明】
【0078】
1 凝固性磁性粒子
2 凝固体
10 磁性粒子
11 凝固性化合物
12 磁性籠状骨格
13 中空構造
14 空隙
15 分子集合体
16 被覆性磁性粒子含有層
50 脳
51 動脈
52 脳動脈瘤
61 マイクロカテーテル
70 磁気照射手段
71 磁気
72 磁石
73 シールド手段
74 ケーシング
75 ピンホール
80 凝固体形成手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子と、凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも含有する凝固性磁性粒子と、
非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を、所望の位置に集積させる磁気照射手段と、
前記凝固性磁性粒子の凝固体を前記所望の位置に形成する前記凝固体形成手段と、を備える凝固体形成システム。
【請求項2】
前記凝固体形成手段は、活性光線照射手段、熱印加手段、及び超音波印加手段の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の凝固体形成システム。
【請求項3】
前記凝固性磁性粒子は、添加剤を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の凝固体形成システム。
【請求項4】
前記所望の位置は、血管疾患部であり、
前記血管疾患部に非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を送達し、
前記血管疾患部に、前記凝固体形成手段、及び前記磁気照射手段を印加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の凝固体形成システム。
【請求項5】
前記凝固性磁性粒子は、媒体に分散されており、
前記媒体には、重合開始剤、架橋剤、架橋助剤、分散安定剤、硬化剤、接着剤、接着助剤、抗菌剤、治療薬の少なくともいずれかが添加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の凝固体形成システム。
【請求項6】
前記添加剤は、前記磁気照射手段によって集積可能な磁性粒子と複合体を形成していることを特徴とする請求項5に記載の凝固体形成システム。
【請求項7】
凝固体形成手段の印加により凝固体を形成する凝固性磁性粒子の使用方法であって、
前記凝固性磁性粒子は、磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子と、前記凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも備え、
非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を、磁気照射手段を利用して所望の位置に集積させ、
前記凝固体形成手段を前記所望の位置に印加することにより前記凝固性磁性粒子の凝固体を形成する凝固性磁性粒子の使用方法。
【請求項8】
前記凝固体形成手段は、活性光線照射手段、熱印加手段、及び超音波印加手段の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の凝固性磁性粒子の使用方法。
【請求項9】
前記凝固性磁性粒子は、添加剤を含有していることを特徴とする請求項7又は8に記載の凝固性磁性粒子の使用方法。
【請求項10】
前記所望の位置は、血管疾患部であり、
前記血管疾患部に、非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を送達し、
前記血管疾患部に、前記凝固体形成手段、及び前記磁気照射手段を印加することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の凝固性磁性粒子の使用方法。
【請求項11】
凝固体形成手段の印加により凝固体を形成する凝固性磁性粒子であって、
磁気照射によって集積可能な磁性粒子と、
前記凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも備える凝固性磁性粒子。
【請求項12】
前記凝固性化合物に、前記凝固体形成手段である活性光線照射手段、熱印加手段、及び超音波印加手段の少なくともいずれかを印加することによって凝固体が形成されることを特徴とする請求項11に記載の凝固性磁性粒子。
【請求項13】
前記凝固性磁性粒子は、添加剤を含有していることを特徴とする請求項11又は12に記載の凝固性磁性粒子。
【請求項14】
前記凝固性磁性粒子は、前記磁性粒子を被覆する被覆層を備え、
前記被覆層に前記凝固性化合物が組み込まれていることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の凝固性磁性粒子。
【請求項15】
前記磁性粒子は、内部に中空を有し、当該内部に、添加剤、若しくは前記凝固性化合物を含有していることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の凝固性磁性粒子。
【請求項1】
磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子と、凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも含有する凝固性磁性粒子と、
非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を、所望の位置に集積させる磁気照射手段と、
前記凝固性磁性粒子の凝固体を前記所望の位置に形成する前記凝固体形成手段と、を備える凝固体形成システム。
【請求項2】
前記凝固体形成手段は、活性光線照射手段、熱印加手段、及び超音波印加手段の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の凝固体形成システム。
【請求項3】
前記凝固性磁性粒子は、添加剤を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の凝固体形成システム。
【請求項4】
前記所望の位置は、血管疾患部であり、
前記血管疾患部に非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を送達し、
前記血管疾患部に、前記凝固体形成手段、及び前記磁気照射手段を印加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の凝固体形成システム。
【請求項5】
前記凝固性磁性粒子は、媒体に分散されており、
前記媒体には、重合開始剤、架橋剤、架橋助剤、分散安定剤、硬化剤、接着剤、接着助剤、抗菌剤、治療薬の少なくともいずれかが添加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の凝固体形成システム。
【請求項6】
前記添加剤は、前記磁気照射手段によって集積可能な磁性粒子と複合体を形成していることを特徴とする請求項5に記載の凝固体形成システム。
【請求項7】
凝固体形成手段の印加により凝固体を形成する凝固性磁性粒子の使用方法であって、
前記凝固性磁性粒子は、磁気照射の利用によって集積可能な磁性粒子と、前記凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも備え、
非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を、磁気照射手段を利用して所望の位置に集積させ、
前記凝固体形成手段を前記所望の位置に印加することにより前記凝固性磁性粒子の凝固体を形成する凝固性磁性粒子の使用方法。
【請求項8】
前記凝固体形成手段は、活性光線照射手段、熱印加手段、及び超音波印加手段の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の凝固性磁性粒子の使用方法。
【請求項9】
前記凝固性磁性粒子は、添加剤を含有していることを特徴とする請求項7又は8に記載の凝固性磁性粒子の使用方法。
【請求項10】
前記所望の位置は、血管疾患部であり、
前記血管疾患部に、非凝固状態の前記凝固性磁性粒子を送達し、
前記血管疾患部に、前記凝固体形成手段、及び前記磁気照射手段を印加することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の凝固性磁性粒子の使用方法。
【請求項11】
凝固体形成手段の印加により凝固体を形成する凝固性磁性粒子であって、
磁気照射によって集積可能な磁性粒子と、
前記凝固体形成手段によって凝固体を形成可能な凝固性化合物と、を少なくとも備える凝固性磁性粒子。
【請求項12】
前記凝固性化合物に、前記凝固体形成手段である活性光線照射手段、熱印加手段、及び超音波印加手段の少なくともいずれかを印加することによって凝固体が形成されることを特徴とする請求項11に記載の凝固性磁性粒子。
【請求項13】
前記凝固性磁性粒子は、添加剤を含有していることを特徴とする請求項11又は12に記載の凝固性磁性粒子。
【請求項14】
前記凝固性磁性粒子は、前記磁性粒子を被覆する被覆層を備え、
前記被覆層に前記凝固性化合物が組み込まれていることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の凝固性磁性粒子。
【請求項15】
前記磁性粒子は、内部に中空を有し、当該内部に、添加剤、若しくは前記凝固性化合物を含有していることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の凝固性磁性粒子。
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図1A】
【図1B】
【図6A】
【図6B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図1A】
【図1B】
【図6A】
【図6B】
【公開番号】特開2013−222(P2013−222A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132291(P2011−132291)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(501083643)学校法人慈恵大学 (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(501083643)学校法人慈恵大学 (20)
【Fターム(参考)】
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