説明

凝集体及びその製造方法

【解決手段】珪素ナノ粒子が凝集してなる凝集体であって、その表面がSiF4で被覆された凝集体。
【効果】本発明によれば、珪素ナノ粒子が凝集してなり、珪素ナノ粒子が均一であり、その表面酸化が抑制された凝集体、凝集体の平均粒径や、珪素ナノ粒子の粒径の調製が容易で、簡便かつ大量に製造することができる上記凝集体の製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単色エネルギーエミッター、超高密度磁気記録、次世代ディスプレー、極薄高容量キャパシタ等に用いられる、珪素ナノ粒子が凝集してなる凝集体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
珪素ナノ粒子等の珪素は、単色エネルギーエミッター、デバイス(特許文献1:特表2005−500678号公報)、シリコンを含有する透明導電性薄膜(特許文献2:特開2004−087451号公報)等に用いられている。しかしながら、上記方法では、珪素ナノ粒子の平均粒径の調整が困難で、粒径の均一性の確保が困難であった。
以上のことから、珪素ナノ粒子の平均粒径の調整が容易で、単色エネルギーエミッター、超高密度磁気記録、次世代ディスプレー、極薄高容量キャパシタ等に好適な珪素ナノ粒子が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−500678号公報
【特許文献2】特開2004−087451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、珪素ナノ粒子が凝集してなる凝集体であって、珪素ナノ粒子が均一であり、その表面酸化が抑制された凝集体、凝集体の平均粒径や、珪素ナノ粒子の粒径の調製が容易で、簡便かつ大量に製造することができる上記凝集体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、珪素ナノ粒子が凝集してなり、表面がSiF4で被覆された凝集体とすることで、表面酸化を抑制できると共に、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子を、酸を含有するガスで処理することで、凝集体の平均粒径や、珪素ナノ粒子の粒径の調製が容易で、珪素ナノ粒子が均一となり、目的とする凝集体を簡便かつ大量に製造することができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は下記、凝集体及びその製造方法を提供する。
[1].珪素ナノ粒子が凝集してなる凝集体であって、その表面がSiF4で被覆された凝集体。
[2].凝集体が、平均粒径0.01〜10,000μmの粒子である[1]記載の凝集体。
[3].珪素ナノ粒子の粒径が、1〜100nmである[1]又は[2]記載の凝集体。
[4].珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子を、酸を含有するガスでエッチングすることを特徴とする[1]記載の凝集体の製造方法。
[5].酸がフッ化水素であることを特徴とする[4]記載の凝集体の製造方法。
[6].酸を含有するガスが、フッ化水素ガスと窒素ガスとを含む混合ガスであることを特徴とする[4]記載の凝集体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、珪素ナノ粒子が凝集してなり、珪素ナノ粒子が均一であり、その表面酸化が抑制された凝集体、凝集体の平均粒径や、珪素ナノ粒子の粒径の調製が容易で、簡便かつ大量に製造することができる上記凝集体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】エッチング処理装置の概略図である。
【図2】実施例1のエッチング処理後の粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1のエッチング処理前の複合粒子と、エッチング処理後の粒子のXRD回折チャートである。
【図4】Si粉末のXRD回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の凝集体は、珪素ナノ粒子が凝集してなり、表面がSiF4で被覆されたものである。この凝集体は、例えば、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子を、酸を含有するガスで処理することにより得ることができる。
【0010】
原料となる珪素ナノ粒子(以下、分散珪素ナノ粒子)が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子(以下、複合粒子)は、例えば、珪素の微粒子を珪素系化合物と混合したものを焼成する方法や、一般式SiOxで表される不均化前の酸化珪素粒子を、アルゴン等不活性な非酸化性雰囲気中、400℃以上、好適には800〜1,100℃の温度で熱処理し、不均化反応を行うことで得ることができる。特に後者の方法で得た材料は、分散珪素ナノ粒子(結晶)が均一に分散されるため好ましい。上記不均化反応により、分散珪素ナノ粒子のサイズを調整することができる。分散珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子中の酸化珪素については、二酸化珪素が好ましい。なお、透過電子顕微鏡によって、分散珪素ナノ粒子(結晶)が無定形の酸化珪素に分散していることが確認される。
【0011】
なお、本発明において酸化珪素とは、非晶質の珪素酸化物の総称である。不均化前の酸化珪素は、一般式SiOx(1.0≦x≦1.10)で表される。酸化珪素は、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得ることができる。
【0012】
得られた複合粒子は、更に粉砕されて使用することができる。エッチング後の粒子は、珪素ナノ粒子が凝集しており、その凝集体はエッチング前の粒子の形状と同一である。よって、エッチング前に複合粒子を粉砕・分級しておくことにより、所定の粒径の凝集体を得ることができる。
【0013】
複合粒子を所定の粒径とするためには、公知の粉砕機と分級機が用いられる。粉砕機は、例えば、ボール、ビーズ等の粉砕媒体を運動させ、その運動エネルギーによる衝撃力や摩擦力、圧縮力を利用して被砕物を粉砕するボールミル、媒体撹拌ミルやローラによる圧縮力を利用して粉砕を行うローラミル、被砕物を高速で内張材に衝突もしくは粒子相互に衝突させ、その衝撃による衝撃力によって粉砕を行うジェットミル、ハンマー、ブレード、ピン等を固設したローターの回転による衝撃力を利用して被砕物を粉砕するハンマーミル、ピンミル、ディスクミル、剪断力を利用するコロイドミルや高圧湿式対向衝突式分散機「アルティマイザー」等が用いられる。粉砕は、湿式、乾式共に用いることができる。また、粉砕後に粒度分布を整えるため、乾式分級もしくは湿式分級、又はふるい分け分級が用いられる。乾式分級は、主として気流を用い、分散、分離(細粒子と粗粒子の分離)、捕集(固体と気体の分離)、排出のプロセスが逐次もしくは同時に行われ、粒子相互間の干渉、粒子の形状、気流の流れの乱れ、速度分布、静電気の影響等で分級効率を低下させないように、分級をする前に前処理(水分、分散性、湿度等の調整)を行うか、使用される気流の水分や酸素濃度を調整して用いられる。また、乾式で分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行われ、所望の粒度分布とすることが可能となる。好適な平均粒径は、後述する凝集体と同じである。
【0014】
複合粒子中の分散珪素ナノ粒子の粒径(サイズ)は、上述したように不均化反応により調整することができ、1〜100nmが好ましく、1〜30nmがより好ましく、3〜20nmがさらに好ましい。分散珪素ナノ粒子の粒径が小さすぎると、エッチング後の回収が難しくなり、エッチングの選択性も低下する。一方、製造性の点から、100nm以下とすることが好ましい。なお、分散珪素ナノ粒子の粒径は、X線回折における、2θ=28.4°付近のSiピークにより測定することができ、例えば、結晶子サイズ解析ソフト(Rigaku CSDA)で解析する。
【0015】
複合粒子を、酸を含有するガスでエッチング処理することで、目的とする凝集体を得ることができる。酸としてはフッ化水素が好ましく、ガスは、フッ化水素ガスと窒素ガスとを含む混合ガスがより好ましい。エッチング処理としては、複合粒子を反応器内に仕込み、酸を含有するガスを反応器内に供給し、この複合粒子を処理する方法が挙げられる。処理温度は20〜100℃が好ましく、この範囲でエッチングが好適に行われる。
【0016】
例えば、珪素ナノ粒子が二酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子を、フッ化水素を含有するガスでエッチング処理することで、フッ化水素が二酸化珪素と反応し、SiH4と水が生成する。これにより、上記複合粒子の二酸化珪素を選択的に除去することができ、分散珪素ナノ粒子が凝集した凝集体となる。さらに、その表面がSiF4で被覆されることにより、表面酸化を抑制することができる。なお、酸を含有するガスの量は、例えば、フッ化水素の場合、SiF4が出なくなるまで行うとよい。
【0017】
凝集体中の凝集した個々の珪素ナノ粒子の粒径(サイズ)は、上記分散珪素ナノ粒子とほぼ同じであり、1〜100nmが好ましく、1〜30nmがより好ましく、3〜20nmがさらに好ましい。この粒径は、透過電子顕微鏡観察により得ることができる。本発明においては、複合粒子中の分散珪素ナノ粒子の粒径(サイズ)を調整することで、凝集体中の凝集した個々の珪素ナノ粒子の粒径の調整が可能であり、粒径を均一にすることができる。
【0018】
凝集体は粒子が好ましく、その平均粒径は0.01〜10,000μmが好ましく、0.01〜100μmがより好ましく、0.01〜20μmがさらに好ましい。0.01未満の超微粒子は粉砕では困難となるおそれがあり、一方、大きすぎるとエッチング時に反応面積が小さくなってしまうおそれがある。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積平均粒子径で表すことができる。
【0019】
BET比表面積は20〜3,000m2/gが好ましく、100〜1,000m2/gがより好ましい。BET比表面積は凝集体中の凝集した個々の珪素ナノ粒子の粒径によって変化し、小さすぎるとナノ粒子としての効力を十分に発揮できず、3,000m2/gを超えるものは製造が困難である。
【0020】
本発明の凝集体は、珪素ナノ粒子の粒径が均一である点から、単色エネルギーエミッター、超高密度磁気記録、次世代ディスプレー、極薄高容量キャパシタ等に好適である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0022】
[実施例1]
酸化珪素をジョークラッシャーで粗砕後、ジェットミル(ホソカワミクロン100AFG)を使用して分級機回転数16,000rpmの条件で微粉砕後、分級機(日清エンジニアリングTC−15)で回転数8,000rpmの条件で微粉を除去して平均粒子径が5μm、BET比表面積が3.5m2/gの酸化珪素粒子を作製した。
【0023】
この酸化珪素粒子をアルゴン通気中1,000℃・3時間熱処理した。この熱処理粒子は透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に均一に分散した構造が確認された。X線回折における、2θ=28.4°付近のSiピークを用いて結晶子サイズ解析ソフト(Rigaku CSDA)で解析したところ、珪素ナノ粒子の粒径は6.9nmであった。
【0024】
得られた珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造の複合粒子を、フッ化水素(HF)ガスで処理した。そのエッチング処理装置の概略図を図1に示す。上記複合粒子をSUS製の試料皿に50g仕込み、チャンバーにセットした。HFガス(無水フッ化水素酸、純度>99.9質量%)0.5L/min、窒素(N2)ガス0.5L/minを、それぞれマスフローコントローラー(MFC)で流量調整後に混合してチャンバーに通気した。処理温度は30〜35℃に調整した。チャンバーから出た排ガスはN2ガスで20倍に希釈してFT−IR(大塚電子IG−1000)で分析すると、HFが二酸化珪素と反応してSiF4と水が生成していることが確認された。
【0025】
排ガスモニターでSiF4が出なくなるまでHF、N2混合ガスを通気した後、チャンバー内をN2でパージした後、チャンバーを開けてエッチング処理粒子を回収した。見た目は茶色で変化なかったが、重量は16gに減少していた。このエッチング処理粒子の物性を測定したところ、平均粒径は5μmと変化がなかったが、BET比表面積は373m2/gと大きくなっていた。酸素濃度分析の結果、酸素0.1質量%で、選択的に二酸化珪素がHFによって除去されていることが確認できた。透過電子顕微鏡観察の結果、粒径約7nmの珪素ナノ粒子の凝集体であり、粒径は均一であった。透過電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0026】
エッチング処理前の複合粒子と、エッチング処理後の粒子のXRD回折チャートを図3に示す。また、Si粉末のXRD回折チャートを図4に示す。これによれば、SiO2のピークが消滅してSiピークのみとなっていることが確認できた。また、エッチング前は親水性であったがエッチング後は疎水性に変化しており、エッチング処理後の粒子は、Fを5,000ppm含有していた。この粉末をアルゴン通気下500℃で熱処理したところ、排ガスにSiF4が検出された。冷却後空気中に取り出すと、赤熱して白色の二酸化珪素に変化した。SiF4で表面が被覆されていたために表面酸化が抑制されていたことが判明した。
【0027】
[実施例2]
実施例1と同じ酸化珪素粉末を使用し、アルゴン通気中1,200℃・3時間熱処理した。この熱処理粒子は透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、XRDピークから解析した珪素ナノ粒子の粒径は13nmであった。
【0028】
次に、50gを実施例1と同様にHFでエッチングを行い、茶色粉末を16g得た。この粉末の物性は、平均粒径5μm、BET比表面積198m2/g、酸素濃度0.1質量%であった。透過電子顕微鏡観察の結果、粒径約13nmの珪素ナノ粒子の凝集体であり、粒径は均一であった。
【0029】
[実施例3]
実施例1と同じ酸化珪素粒子をビーズミル(ターボ工業製OBミル)で更に微粉砕し、平均粒径0.5μmの粒子を得た。これをアルゴン通気中1,000℃・3時間熱処理した。この熱処理粒子は透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、XRDピークから解析した珪素ナノ粒子の体積平均粒径は7.1nmであった。
【0030】
50gを実施例1と同様にHFでエッチングを行い、茶色粉末を16g得た。この粒子の物性は、平均粒径0.5μm、BET比表面積363m2/g、酸素濃度0.1質量%であった。透過電子顕微鏡観察の結果、粒径約7nmの珪素ナノ粒子の凝集体であり、粒径は均一であった。
【符号の説明】
【0031】
1 MFC
2 SUS配管
3 圧力計
4 熱伝対
5 チャンバー
6 分析器(FT−IR)
7 除害設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素ナノ粒子が凝集してなる凝集体であって、その表面がSiF4で被覆された凝集体。
【請求項2】
凝集体が、平均粒径0.01〜10,000μmの粒子である請求項1記載の凝集体。
【請求項3】
珪素ナノ粒子の粒径が、1〜100nmである請求項1又は2記載の凝集体。
【請求項4】
珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子を、酸を含有するガスでエッチングすることを特徴とする請求項1記載の凝集体の製造方法。
【請求項5】
酸がフッ化水素であることを特徴とする請求項4記載の凝集体の製造方法。
【請求項6】
酸を含有するガスが、フッ化水素ガスと窒素ガスとを含む混合ガスであることを特徴とする請求項4記載の凝集体の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256057(P2011−256057A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129775(P2010−129775)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】