説明

凹凸状多孔質構造体およびその製造方法

【課題】化学的処理により、アルミニウムもしくはその合金の表層部の少なくとも一部に形成される凹凸状多孔質構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属を、直接アルミニウム材料に接触させながら酸に浸漬することにより、アルミニウム表面に凹凸構造を有する多孔質の細孔を形成する。前記の酸としては塩酸、硫酸、硝酸、蓚酸及び酢酸から選ばれる少なくとも1種とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムもしくはその合金の表面に形成させた凹凸状多孔質構造体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムもしくはその合金(以下総称して「アルミニウム系」ということもある)に表面処理を行い細孔を形成する方法として、一般に、硫酸やシュウ酸の水溶液を電解浴としてアルミニウム等の表面に陽極酸化被膜を形成させる、いわゆる「アルマイト処理」が行われている(特許文献1)。このアルマイト処理は、細孔を有する耐食性の厚い被膜が得られる反面、工程が複雑で、しかも設備費および電力コストが高いという問題がある。また、アルマイト処理においては10〜20nmの細孔が形成されるものの、表面積が大きくない。
【0003】
そのため、処理液に浸漬するだけで被膜形成ができ、工程,設備が比較的簡単で処理コストが安い化学的処理の利用が望ましい。そこで、このような化学的処理として、例えば、アミン溶液にアルミニウム等を浸漬後、熱水処理することにより、表面に水和酸化被膜を形成させる、いわゆる「ベーマイト法」による処理が行われている(特許文献2)。これら先行文献は表面処理により、アルミニウムあるいはその合金に被膜を形成させ耐食性を高めることを目的にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−328467号公報
【特許文献2】特開昭52−9642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ベーマイト法による処理は、アルマイト処理と比べて工程・設備が簡単であり、処理コストも安く、省エネルギーの点でも有利であるものの、熱水処理を行う工程が必要であり製造に手間がかかる他、被膜の形成が必ずしも規則正しいものではなく、凹凸状多孔質構造体は得られない。
【0006】
このように、従来法によるアルミニウムの表面処理においては、数nm〜数100nmレベルの孔径であり、かつ表面積の大きい多孔質構造体は作りえず、簡便な方法で得られる当該構造体およびその製造方法が求められていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、化学的処理により、アルミニウムもしくはその合金(以後、総称して「アルミニウム系」ということもある)の表層部の少なくとも一部に形成される網目多孔質構造体およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、アルミニウム系材料に化学的な処理を施し、細孔を形成させることを目的として一連の研究を重ねる過程で、アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属を、直接アルミニウム材料に接触させながら、酸に浸漬することにより、アルミニウム表面に均一でかつ堅牢な凹凸構造が形成できることことを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
「発明1」 アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属を、直接アルミニウム材料に接触させながら酸に浸漬してすることにより、アルミニウム表面に凹凸構造を有する多孔質の細孔を形成することを特徴とする多孔質構造体の製造方法。
「発明2」
発明1に記載の酸が、塩酸、硫酸、硝酸、蓚酸または酢酸よりなる群の少なくとも一つであることを特徴とする発明1に記載の凹凸状多孔質構造体の製造方法。
「発明3」
アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属が、亜鉛、錫、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、タンタル、タングステン、レリウム、イリジウム、銅、銀、金、ルテニウム、白金、パラジウム、鉛、ビスマスよりなる群の少なくとも一つ、またはこれらの少なくとも1種類以上からなる合金であることを特徴とする発明1または発明2に記載の凹凸状多孔質構造体の製造方法。
「発明4」
凹凸構造をアルミ表面から0.1〜30μmの深さで形成することを特徴とする発明1乃至発明3のいずれか1項に記載の凹凸状多孔質構造体の製造方法。
「発明5」
アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属を、直接アルミニウム材料に接触させながら酸に浸漬してすることにより形成した凹凸構造を有する多孔質構造体であって、当該凹凸状多孔質構造が、孔径5〜500nm、深さ0.05〜10μmの細孔であることを特徴とする多孔質構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の凹凸状多孔質体は、その多孔質が担体として有用であることより、その多孔質の中に、触媒、色素、吸着性、親水性、撥水性の機能性を有する微粒子を担持固定化することにより当該機能を有する機能性材料として有用である。本発明の製造方法により、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒を混合した混合塩基溶液でアルミニウム系材料を処理するという簡便な方法で当該凹凸状多孔質体を容易に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の凹凸状多孔質構造体およびその製造方法について詳しく説明する。
【0012】
本発明の凹凸状多孔質構造体は、アルミニウム系材料を対象とし、その表面の少なくとも一部に凹凸状微細多孔質の細孔を生成させたものである。
【0013】
本発明で用いるアルミニウム材料は、本発明の対象となるアルミニウム系材料は、純度99.9%以上の純アルミニウムおよび各種のアルミニウム合金である。上記アルミニウム合金としては、具体的には、A1050,A1070,A1080,A1100,A1200等のような微量のSi,Fe,Cu,Mn,Mg等を含む合金、A2014,A2017,A2024等のような特にCuを多く含む合金、A5052,A5083,A5154のような特にMgを多く含む合金、A7075,A7N01等のような特にZnを多く含む合金、ADC12等のような多量のSiを含む鋳物用合金等、各種の合金があげられる。上記アルミニウム等は、その形状等を問わない。また、アルミニウム系材料として,アルミニウム箔、インゴット、プレート、パイプ、アルミニウム繊維、ダイキャストこれらのアルミニウム等からなる中間製品,アルミニウム等からなる完成品の全てが本発明のアルミニウム等の範疇に含まれる。
【0014】
本発明に用いるアルミニウム材料は、表面に酸化アルミニウムの被膜が形成されていないものを用いる必要がある。一般に未処理のアルミニウム金属表面は、速やかに大気中の酸素分子と反応するため、表面に数nmの酸化物のバリアー層を形成している。このバリア層は、酸に対しても耐久性があり薬液処理に長時間を要するため、酸化被膜を除去する必要がある。表面を粗面化する前処理は、アルミニウム部材の表面の酸化アルミニウム被膜を除去するために必要であり、反応を速やかに進行させるために有効である。
【0015】
粗面化には、サンドブラスト、ワイヤー掛け、サンドペーパ等による機械的な粗面化処理等があるが、簡便にはサンドぺーパ研磨による機械加工等で表面を粗面化することができる。粗面度はサンドペーパの番手は特に制限はないが番手に係わらず、酸化アルミニウム被膜が除去されればよく、表面から数十nmを研磨すれば本目的は達成できる。例えば、サンドペーパの番手は#100〜3000まで使用できるが、特に#400〜800が好適である。#200より以下の粗目では表面の研磨傷が目立ち、商品価値を損ねる、また#1000以上は微細すぎて研磨に時間を要するため#400〜800が好適である。
【0016】
本発明の前処理としての粗面化において、凹凸部の平均粗さ(Ra)は特に制約はないが、適度の深さの凹凸構造にした表面の粗面化は、平均粗さ約5μm前後に抑える程度が望ましい。Raが30μm以上の深い機械的粗面化では次工程での薬品処理時に最深部の浸食が激しく凹凸が均質化せず、部材の強度に影響する懸念がありまたアルミニウム部材の反射光で加工傷が肉眼で目立ち商品価値が劣る。また0.1μm未満では平滑すぎて次工程の薬品処理での反応が円滑に進みにくく、長時間の処理時間を要する。従って上記の平均粗さ0.1〜30μmの範囲が好ましく、最適には、0.1〜10μmの範囲が好ましい。
【0017】
機械的な粗面化は、アルミニウム部材の予備洗浄や脱脂及び精密洗浄も不要となり、簡便な切削屑の洗浄で充分である。これは製造工程の簡便化やコスト低減を図ることができる。
【0018】
以上、機械的粗面化を説明してきたが、場合によっては、表面の活性化のためにスパッタエッチング、プラズマ照射の乾式処理でも可能であり、また、それらと機械的方法を組み合わせても良い。
アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属を、アルミニウム材料と直接接触させながら、酸に浸漬して凹凸構造を有する膜を形成する工程(薬品処理工程ともいう)を有する。この工程は、アルミニウム材料にアルミニウム以外のイオン化傾向が小なる異種金属を直接接触させながら、酸等の薬品中に浸漬させる工程である。
【0019】
接触させる異種金属としては、アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属が用いられる。具体的には、亜鉛、錫、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、タンタル、タングステン、レリウム、イリジウム、銅、銀、金、ルテニウム、白金、パラジウム、鉛、ビスマス、またはこれらの少なくとも1種類以上からなる合金が適用可能である。なかでもアルミニウムに対しては特にニッケル、クロム、鉄、及びこれらを含むステンレス鋼が好適である。
【0020】
この異種金属と接触させながら、酸に浸漬させる工程において、接触面では局部電池を形成してイオン化傾向の卑なるアルミニウムだけが選択的に浸食され特異的に数μmの凹凸を形成する。
【0021】
通常、電解腐食と云われており、自然界でも多く散見されるが、この電解腐食を積極的に利用して、規則的なフラクタル凹凸構造を形成させる手段を用いて、アルミニウム部材と異種金属を接触させることにより接触面だけを選択的に凹凸形状を形成させ、その凹凸形状の表面に撥水被膜を付与させることにより、撥水性に優れ、着霜防止性能に優れるたアルミニウム部材が得られる。
【0022】
通常のブラスト処理やサンドペーパー掛けのような機械研磨のみではV字型の擦過筋やバリ(毛羽立ち)のある表面積の少ない単調な凹凸構造になりやすい。しかし、この異種金属との接合における電解腐食による凹凸構造は、アルミニウム表面から数十μmの深さにわたり金属の結晶粒界が脱離した立方体のレプリカ構造(抜け殻)を形成し、凹凸が連続に結合し、機械的強度も保持した、表面積が処理前の10〜200倍の大きな堅牢な幾何学的フラクタルな凹凸構造が得られる。また、この構造の断面の最深部の深さが処理前の表面から1〜30μmであることを特徴としている。
【0023】
また、異種金属との接着は、異種の金属を接合して(結束等)おればよく、ボルトによる固定や接着剤等による固定操作は何ら必要なく、異種金属と数mm以内の距離程度でも充分に電解腐食としての本目的は達成できる。
【0024】
この方法は複雑な装置や形状でも適用でき、たとえば曲面や、パイプ内面でも、異種金属の板、粉末、短超繊維、ワイヤー等をアルミニウム部材に充填して接触させながら薬品処理するだけで充分に電解腐食は可能である。
【0025】
薬品処理用として使用される、酸は、一般の工業製品が適用でき、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、蓚酸、酢酸よりなる群の少なくとも1種が好適に用いられる。他の無機酸や有機酸でも可能であるが、中でも無機酸が有効で特に塩酸が好ましい。
【0026】
また、用いる酸を溶液として使用する時の溶媒としては、アルコール、エーテル等の有機溶媒、水、またはそれらの混合溶媒の使用が可能であるが、特に水溶媒が好ましい。
【0027】
用いる薬品の濃度は、例えば塩酸では、10〜30℃の温度範囲で、0.1〜2mol/lの濃度範囲で用いられるが、特に0.1〜0.5mol/lの範囲が好ましい。濃度が0.1mol/l未満だと希薄すぎて反応に時間を要し、また2mol/lを超える高濃度では局部腐食が生じやすく、均一な凹凸が形成しずらい。その他の酸においても、溶媒や薬品の種類により適宜濃度を調整して電解腐食を進行させることができる。
【0028】
アルミニウム材料と異種金属を薬品に浸漬する時間は、薬品の濃度や温度にも依存するが、30分から60分が望ましい。時間が短すぎると反応が進行せず、アルミニウム材料表面に充分な凹凸構造を有する膜を形成できない。また、浸漬時間が長い場合は、反応が進行しすぎてアルミニウム表面の腐食しまい好ましくない。
【0029】
薬品処理による凹凸被膜の作製方法は、特に限定するものではないが、処理液中に水素が発生するため、浸漬槽内に静置してもよいし、部材により複雑な形状では、振動、エアーレション、バブリング、攪拌等により水素の脱気を確保しつつ、薬液との接触機会を増大させたり、また薬液を加温してもよく、特に限定されない。また、処理後の廃液は単に中和すれば廃液処理も簡便であり大幅なコスト削減が期待される。
【0030】
以下本発明を実施する際の具体的内容について、アルミニウム材料としてJIS 1100H26のアルミニウム板を、異種金属としてニッケル板を使用した場合を例に説明する。
【0031】
本発明において、アルミニウム板(サイズ10cm×10cm−0.2mm)の前処理として、表面を耐水サンドペーパにより、数十回均一に研磨処理した。純水で洗浄後、機械的方法により、表面の酸化アルミニウムの不動体被膜を除去するとアルミニウム部材の表面が粗面化されかつ酸化被膜が除去されるため一時的に親水性になることより次の工程の薬品処理に対して濡れ性がより向上する。
【0032】
上記の前処理に次いで、本発明の薬品処理を行う。まず、0.5mol/lの塩酸水溶液を500ml調製して、1Lの水槽に移液する。ニッケル板とアルミニウム材料を接触させバンドで固定し、上記塩酸溶液(液温10〜30℃)に浸漬させる。浸漬後数分でアルミニウムと酸の反応が進行し、アルミニウム表面より水素の小さい泡が発生し、同時にアルミニウムが塩酸溶液に溶解する。約60分間浸漬した後、水槽から引き上げ、イオン交換水で洗浄して、次いで60℃に乾燥させる。この工程により、外観は全面光沢のない暗灰色を呈したアルミニウム板が得られる。このアルミニウム板の表面をSEMで観察すると深さ15ミクロンの凹凸構造にエッチングされていることが確認できる。また、当該アルミニウム板の接触角を測定すると、水滴は瞬時に広がって0度であり、優れた親水性を示す。
【0033】
本発明の方法で形成した凹凸状多孔質体の表面を、走査型電子顕微鏡(以下、SEMという。)で観察したところ、孔径5〜500nm、深さ0.05〜10μmの細孔が規則正しく並んでいることが観測された。
【0034】
当該凹凸状多孔質構造体は、その多孔質が担体として有用であり、その多孔質の中に、触媒、色素、吸着性、親水性、撥水性等の機能性を有する微粒子を担持固定化することにより機能性を発現させることが可能である。
【0035】
微粒子の粒子径は、特に限定はされないが、5nm〜50μmが好ましい。平均粒径が5nm未満であると、微粒子過ぎて長期の塗布時間が必要で効率が悪くまた、微粒子の有する表面エネルギーが非常に大きくなり、単分散が困難で凝集しやすく取り扱いが非常に困難である。一方、微粒子の平均粒径が50μmを越えると、被膜上の凹凸状多孔質構造体の孔径よりも遥かに大きくなるために重力の影響が大きくなり孔径中に取り込まれた微粒子が保持しきれなくなり、摩擦により容易に剥がれてしまう等の問題が発生する。より好ましくは0.5〜40μm、さらに好ましくは0.05〜20μmである。
【0036】
なお、ここでいう粒子の粒径は所謂1次粒子の大きさを示し、微粒子同士が凝集した2次粒子の大きさを示しているのではない。親水膜においては、2次粒子の大きさは成膜に困難がなければ、特に限定されるものではない。
【0037】
前記の微粒子を凹凸状多孔質構造体に導入するにあたり、まず、微粒子の懸濁液を調製する。溶媒は微粒子の懸濁液を調製できるものであれば特に限定されないが、選択した微粒子の濡れ性等を勘案して適宜選択すればよい。具体的には、水、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のアルコール類、エチレングリコール、酢酸エステル、カルボン酸、低級炭化水素、脂肪族、芳香族等の一般溶剤、又はこれらの混合物よりなる混合物をよりなる溶媒を用いて微粒子が懸濁化された懸濁液を調製する。また、分散性を改良するために分散剤等を添加してもよい。
【0038】
凹凸状多孔質構造体に当該微粒子を担持固定化する方法としては、微粒子を導入できるものであれば特に限定されず、上記懸濁液をコーティングする方法、または該懸濁液を含浸させる方法が挙げられる。
【0039】
懸濁液をコーティングする方法としては、湿式ではディップコート、フローコート、スプレーコート、メッキ、無電界メッキ、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の手段で行うことができ、ディップコート、スプレーコート、メッキ、無電界メッキが簡便な方法として好適に用いられる。
【0040】
懸濁液のコーティングは乾式で行うこともでき、静電塗装法により帯電させた粉体を反対に帯電させた試料に衝突させて効率よく付着させる手法や、ブラスト法により親水性微粒子を高速で吹き付けて微細孔に緻密に塗布する手法が好適に用いられる。
【0041】
懸濁液を含浸させる方法としては、常圧含浸法、減圧含浸法、加圧含浸法、ゾルゲル法、電気泳動法、浸漬超音波含浸法などがあり、常圧含浸法、減圧含浸法、加圧含浸法、浸漬超音波含親法が好適に用いられる。中でも、減圧加圧を併用する含浸法が好ましい。具体的な含浸法としては適当な真空容器中に凹凸状多孔質構造を形成したアルミニウム部材を置き、内部を減圧にしてから、当該微粒子の懸濁液を導入することによって表面細孔内に当該微粒子を密に充填することが出来る。また懸濁液を導入してから容器を加圧にしてより多くの微粒子を充填することもできる。また、浸漬超音波法も好適に用いられ、懸濁液に凹凸状多孔質構造を形成したアルミニウム部材を浸漬して、超音波をあてながら微粒子を導入するので、凹凸状多孔質構造の細部にまで微粒子が充填できる。
【0042】
コーティングあるいは含浸により微粒子を導入後、乾燥・加熱することにより、造膜することができ、微粒子を担持固定することができる。乾燥・加熱処理方法は、特に限定されないが、常温で乾燥してもよいし、または熱風で加熱乾燥してもよい。また乾燥後にアルミニウムの基材を100〜350℃まで加熱して更に乾燥する手法も用いられ、例えば、室温で30分乾燥後、150℃のオーブンで1時間程度加熱する方法が用いられる。このようにして、アルミニウム系複合機能性部材が製造できる。
【0043】
前記機能性を有する微粒子として、例えば吸着性を有する微粒子を担持することができ、10〜500nm程度の粒径を持つゼオライト(例えば、ゼオラム)を用いて充填、担持固定した場合は、吸着性機能を付与したアルミニウム部材とすることができる。
【0044】
触媒機能を有する微粒子として、例えば光触媒を担持することができ、酸化チタン(例えば、石原産業製STシリーズ)を用いて充填、担持固定した場合は、光触媒機能を付与したアルミニウム部材とすることができる。
【0045】
また、酸化触媒能を有する金属を導入した場合、有害ガス、揮発性有機化合物等を分解することが可能となり、環境浄化機能を有する部材とすることができる。かかる金属としては、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、マンガン等が挙げられ、当該金属塩の溶液を用いた含浸法が好適に用いられる。
【0046】
例えば白金を導入する場合は、塩化白金酸の水溶液に本発明の凹凸状多孔質構造形成したアルミニウム部材を浸漬して、塩化白金酸の結晶を凹凸状多孔質膜に充填し、次いで空気中で焼成して白金の酸化物粒子した後に還元することにより、充填、担持固定化することが可能である。
【0047】
上記のように本発明の凹凸状多孔質構造体は、微粒子を担持する担体として有用であり、機能性を有する微粒子を担持させることにより、容易に機能性を有するアルミニウム部材を製造できる。
【実施例】
【0048】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明するが、これらに限定されるものではない。なお、測定においては、以下の測定器を使用した。
「走査型電子顕微鏡」 (Scanning Electron Microscope、SEM) FE−SEM 日立製 S−4500型 加速電圧 10kv 。
【0049】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、係る実施例に限定されるものではない。なお、本実施例ではアルミニウム材料としてJIS1100H26のアルミニウム板(板厚0.15mm、10cm×10cm)を用いた。
【0050】
「実施例1」
アルミニウム板を前処理として#400サンドペーパで表裏とも粗面化して表面の酸化被膜を除去したところ表面粗さ8±0.6μmとなった。酸化被膜の除去に伴い、表面は親水性となった。
【0051】
このアルミニウム板をニッケル板(板厚0.1mm、10cm×10cm)で両面からはさみ、液温25℃で濃度0.5mol/l−HCl水溶液中に60分間浸漬し、凹凸状多孔質構造体を製造した。表面からアルミニウムの溶出量は1.2g/m2であった。SEM写真と吸水率より空隙率は43%であった。吸水率とは、多孔質体を純水に5分間浸漬して、引き上げ、10分間放置後のウェット重量をドライ重量で割ったものである。
【0052】
「実施例2」
アルミニウム不織布アルミニウム金属不織布
アルミニウム系材料として、繊維の平均径が100μm、空隙率が44%、厚みが1mmのアルミニウム金属不織布(商品名「メタシリー」、サーマル社製)100g(予めリン酸・クロム酸で酸化被膜を除去したもの)を用いて、実施例1と同様に、ニッケル板(板厚0.1mm、10cm×10cm)で両面からはさみ、液温25℃で濃度0.5mol/l−HCl水溶液中に60分間浸漬し、表面に凹凸上多孔質構造を形成させた。
【0053】
「実施例3」 機能性アルミニウム部材の製造(ゼオライトの担持)
実施例2で得られた、表面に凹凸状多孔質構造を有するアルミニウム不織布に浸漬超音波含浸法にてゼオライト粒子の担持を行った。
【0054】
300mlのビーカーにゼオラム(東ソー・ゼオラム株式会社製)8gとり、純水150mlを加え、サンテック社UX−300型超音波分散機にて60分間分散させ、懸濁液を調製した。実施例2で得られた表面に凹凸状多孔質構造を有するアルミニウム不織布を上記懸濁液に1分浸漬させた後、3mm/secで引き上げて、120℃で1時間乾燥させた。乾燥後、表面の微細構造をSEMで観察したところ、凹凸状多孔質構造中にゼオライト微粒子が9.0g/mで均一に埋め込まれていた。
【0055】
「実施例4」
上記実施例3で得られた、表面に形成した凹凸状多孔質構造にゼオライトを埋め込み吸着性を付与したアルミニウム不織布を用いて、アルデヒドの吸着性試験を行った。
a.試験方法
コック付きの10Lデシケータに、実施例3で得られたゼオライトを担持したアルミニウム不織布を入れた。デシケータのコックを開き、シリンジにてアセトアルデヒドを注入し、初期濃度200ppmになるように調節した。初期値としてアセトアルデヒドの濃度を測定したところ183ppmであった。1時間経過後に、コックより気体を採取してアセトアルデヒドの濃度を測定したところ、112ppmに減少していた。更に3時間後に同様に測定したところ24ppm、24時間経過後では5ppmに低減しており、アセトアルデヒドがアルミニウム不織布凹凸状多孔質構造のゼオライトに吸着されたことが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の凹凸状多孔質構造体は、その多孔質が担体として有用であり、その多孔質の中に、触媒、色素、吸着性、親水性、撥水性の機能性を有する微粒子を担持固定化することにより当該機能を有する機能性材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属を、直接アルミニウム材料に接触させながら酸に浸漬してすることにより、アルミニウム表面に凹凸構造を有する多孔質の細孔を形成することを特徴とする多孔質構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸が、塩酸、硫酸、硝酸、蓚酸または酢酸よりなる群の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の凹凸状多孔質構造体の製造方法。
【請求項3】
アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属が、亜鉛、錫、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、タンタル、タングステン、レリウム、イリジウム、銅、銀、金、ルテニウム、白金、パラジウム、鉛、ビスマスよりなる群の少なくとも一つ、またはこれらの少なくとも1種類以上からなる合金であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の凹凸状多孔質構造体の製造方法。
【請求項4】
凹凸構造をアルミ表面から0.1〜30μmの深さで形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の凹凸状多孔質構造体の製造方法。
【請求項5】
アルミニウムよりイオン化傾向の小なる金属を、直接アルミニウム材料に接触させながら酸に浸漬してすることにより形成した凹凸構造を有する多孔質構造体であって、当該凹凸状多孔質構造が、孔径5〜500nm、深さ0.05〜10μmの細孔であることを特徴とする多孔質構造体。


【公開番号】特開2011−42829(P2011−42829A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191424(P2009−191424)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】