説明

凹部付き基板の製造方法及び投写用スクリーン

【課題】形成される凹部の形状を均一にすることが可能な凹部付き基板の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の凹部を有する凹部付き基板の製造方法であって、複数の開口部を有するマスク層を基板上に形成するマスク層形成工程S2と、開口部を介して基板にエッチングを施し、凹部を形成するエッチング工程S3,S6と、凹部を酸性溶液で洗浄する洗浄工程S4,S7と、マスク層を除去するマスク層除去工程S8とを含むことを特徴とする凹部付き基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹部付き基板の製造方法及び投写用スクリーンに関する。
【0002】
従来、複数の凹部を有する凹部付き基板の製造方法であって、複数の開口部を有するマスク層を基板上に形成するマスク層形成工程と、開口部を介して基板にエッチングを施し、凹部を形成するエッチング工程と、マスク層を除去するマスク層除去工程とを含む凹部付き基板の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
従来の凹部付き基板の製造方法によれば、微小な凹部を有する凹部付き基板(主にガラスからなるもの。)を製造することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−287373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の凹部付き基板の製造方法においては、工程の途中で凹部に生じる副生成物の存在により、形成される凹部の形状を均一にすることが困難となることがある。
【0005】
そこで、本発明は上記の問題を解決するためになされたもので、形成される凹部の形状を均一にすることが可能な凹部付き基板の製造方法を提供することを目的とする。また、上記のような凹部付き基板を用いて製造した投写用スクリーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者による鋭意研究の結果、凹部に生じる副生成物はエッチングに用いる溶液(以下、エッチング溶液という。)と基板に含まれる物質(カルシウム等)とが反応して生じる不溶性の塩であり、当該副生成物は酸性溶液を用いることにより除去可能であることが判明した。本発明はこれを踏まえて完成されたものである。本発明は、以下の構成要素からなる。
【0007】
[1]本発明の凹部付き基板の製造方法は、複数の凹部を有する凹部付き基板の製造方法であって、複数の開口部を有するマスク層を基板上に形成するマスク層形成工程と、前記開口部を介して前記基板にエッチングを施し、凹部を形成するエッチング工程と、前記凹部を酸性溶液で洗浄する洗浄工程と、前記マスク層を除去するマスク層除去工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
このため、本発明の凹部付き基板の製造方法によれば、凹部を酸性溶液で洗浄する洗浄工程を含むため、工程の途中で凹部に生じる副生成物を除去することが可能であり、その結果、形成される凹部の形状を均一にすることが可能となる。
【0009】
また、本発明の凹部付き基板の製造方法によれば、エッチング工程と洗浄工程とを別に含むため、エッチングが完全に終了した後に副生成物を除去することになることから、形成される凹部の形状を一層均一にすることが可能となる。
【0010】
本発明の凹部付き基板の製造方法は、特にガラスからなる凹部付き基板の製造に好適に用いることができる。ガラスとしては、ソーダガラス(ソーダ石灰ガラスともいう。)、カリウムガラス、石英ガラス、鉛ガラス、結晶性ガラス、ホウ珪酸ガラス等を挙げることができる。
【0011】
本発明の凹部付き基板の製造方法で製造された凹部付き基板は、投写用スクリーンを製造するために特に好適に用いることができる。投写用スクリーンにおいて、投写光を使用者の方へ向けて反射する凹部(いわゆるマイクロレンズ)を形成するためである。
【0012】
[2]本発明の凹部付き基板の製造方法においては、前記エッチング工程と、前記洗浄工程とをこの順番で少なくとも一回繰り返すことが好ましい。
【0013】
本発明の凹部付き基板の製造方法によれば、エッチング工程を少なくとも一回繰り返すことにより、様々な大きさの凹部を形成することが可能となる。
【0014】
また、エッチング工程と洗浄工程とをこの順番で繰り返すため、エッチング工程の度に洗浄工程を行って副生成物を除去し、繰り返しエッチング工程を行っても形成される凹部の形状を一層均一にすることが可能となる。
【0015】
[3]本発明の凹部付き基板の製造方法においては、複数回繰り返す前記エッチング工程のうちあるエッチング工程とその1つ後のエッチング工程との間に実施する工程であって、前記開口部の開口面積を拡大する開口部拡大工程をさらに含むことが好ましい。
【0016】
ところで、上記[2]のようにエッチング工程を繰り返す場合、途中でマスク層が凹部表面に落着し、エッチングを阻害することがある。一方、上記のような方法とすることにより、マスク層がエッチングを阻害するのを抑制することが可能となる。
【0017】
開口部拡大工程は、数回繰り返すエッチング工程のうちあるエッチング工程とその1つ後のエッチング工程との間に実施すればよく、つまり、洗浄工程の前に実施してもよく、洗浄工程の後に実施してもよい。
【0018】
開口部拡大工程は、例えば、粘着テープや粘着ローラーといった粘着体や、レーザー、水圧、サンドブラストといった物理的手段を用いて実施することができる。
【0019】
[4]本発明の凹部付き基板の製造方法においては、前記酸性溶液は、硫酸及び酢酸を含む水溶液からなることが好ましい。
【0020】
このような方法とすることにより、特に副生成物が基板中に含まれるカルシウム由来のものである場合に、当該副生成物を高い効率で除去することが可能となる。
【0021】
[5]本発明の凹部付き基板の製造方法においては、前記酸性溶液は、濃度が1vol%〜50vol%の範囲内にある硫酸水溶液と、濃度が1vol%〜50vol%の範囲内にある酢酸水溶液とを混合して製造されたものであることが好ましい。
【0022】
このような方法とすることにより、特に副生成物が基板中に含まれるカルシウム由来のものである場合に、当該副生成物をより高い効率で除去することが可能となる。
【0023】
なお、硫酸水溶液の濃度を1vol%〜50vol%の範囲内としたのは、当該濃度が1vol%より小さい場合、副生成物を十分除去することができないことがあるからであり、当該濃度が50vol%より大きい場合、マスク層を傷めるおそれがあり、また、硫酸とアルカリ成分との塩が発生してしまうおそれがあるからである。また、上記水溶液において、酢酸水溶液の濃度を1vol%〜50vol%の範囲内としたのは、当該濃度が1vol%より小さい場合、副生成物を十分除去することができないことがあるからであり、当該濃度が50vol%より大きい場合、マスク層を傷めるおそれがあるからである。
【0024】
上記観点からは、酸性溶液は、濃度が2vol%〜30vol%の範囲内にある硫酸水溶液と、濃度が2vol%〜30vol%の範囲内にある酢酸水溶液とを混合して製造されたものであることが一層好ましく、濃度が4vol%〜20vol%の範囲内にある硫酸水溶液と、濃度が4vol%〜20vol%の範囲内にある酢酸水溶液とを混合して製造されたものであることがより一層好ましい。
【0025】
[6]本発明の凹部付き基板の製造方法においては、前記基板は、ソーダガラスからなることが好ましい。
【0026】
ソーダガラスは比較的安価であるため、上記のような方法とすることにより、凹部付き基板の製造コストを低減することが可能となる。
【0027】
なお、ソーダガラスはカルシウムを含むため、エッチング工程において副生成物が生成しやすいという性質がある。このため、本発明は、上記[6]の場合に特に好適に用いることができる。
【0028】
[7]本発明の凹部付き基板の製造方法においては、前記洗浄工程は、前記基板を前記酸性溶液に浸漬することにより実施することが好ましい。
【0029】
このような方法とすることにより、凹部全体に対して比較的均一に酸性溶液を行き渡らせることが可能となり、その結果、より確実に副生成物を除去することが可能となる。
【0030】
[8]本発明の凹部付き基板の製造方法においては、前記洗浄工程は、前記基板に前記酸性溶液を噴射することにより実施することが好ましい。
【0031】
このような方法とすることにより、比較的少ない酸性溶液で洗浄工程を実施することが可能となり、その結果、廃液を比較的少なくすることが可能となる。
【0032】
[9]本発明の投写用スクリーンは、複数の凹部又は複数の凸部を有する投写用スクリーンであって、本発明の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を、型として用いて製造されたことを特徴とする。
【0033】
本発明の投写用スクリーンによれば、形成される凹部の形状を均一にすることが可能な本発明の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を用いて製造されたため、凹部又は凸部の形状を均一にし、投写光を精密に反射することが可能な投写用スクリーンとなる。
【0034】
「型として用いる」とは、凹部付き基板を原型又は反転型として用いることをいう。つまり、上記[9]における投写用スクリーンは、本発明の凹部付き基板そのものは構成要素として有しないものである。
【0035】
上記[9]の投写用スクリーンは、例えば、本発明の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板又は当該凹部付き基板を型として製造された成形型(この場合、複数の凹部に対応する凸部を有する)を用いて、樹脂等に凹部又は凸部の形状を転写することにより製造することができる。この場合、転写したものをそのまま投写用スクリーンとしてもよいし、加工して投写用スクリーンとしてもよい。
【0036】
[10]本発明の投写用スクリーンは、複数の凹部を有する投写用スクリーンであって、
請求項1〜8のいずれかに記載の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を、スクリーン本体として用いて製造されたことを特徴とする。
【0037】
本発明の投写用スクリーンによれば、形成される凹部の形状を均一にすることが可能な本発明の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を用いて製造されたため、凹部の形状を均一にし、投写光を精密に反射することが可能な投写用スクリーンとなる。
【0038】
「スクリーン本体」とは、投写用スクリーンの主要部、特に投写光が投写される面を構成する基材となるもののことをいう。つまり、上記[10]における投写用スクリーンは、本発明の凹部付き基板そのものを構成要素として有するものである。
【0039】
上記[10]の投写用スクリーンは、例えば、本発明の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を加工(塗装、蒸着等)することにより製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態における基板100及び凹部付き基板104を説明するために示す図。
【図2】実施形態に係る凹部付き基板の製造方法のフローチャート。
【図3】実施形態に係る凹部付き基板の製造方法を説明するために示す図。
【図4】実施形態に係る凹部付き基板の製造方法を説明するために示す図。
【図5】実施形態に係る凹部付き基板の製造方法を説明するために示す図。
【図6】実施形態に係る投写用スクリーン400を説明するために示す図。
【図7】実施形態に係る投写用スクリーン400の製造方法のフローチャート。
【図8】実施形態に係る投写用スクリーン400の製造方法を説明するために示す図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の凹部付き基板の製造方法及び投写用スクリーンについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0042】
[実施形態]
1.実施形態における基板及び凹部付き基板の構成
図1は、実施形態における基板100及び凹部付き基板104を説明するために示す図である。図1(a)は基板100の正面図であり、図1(b)は図1(a)のA1−A1断面図であり、図1(c)は凹部付き基板104の正面図であり、図1(d)は図1(c)ののA2−A2断面図である。なお、図1においては、説明を簡単にするために基板100の厚み及び凹部付き基板104の厚みを大きく表示している。これは、後述する図3〜図5、図8においても同様である。また、図1(c)及び図1(d)においては、説明を簡単にするために凹部を大きく表示し、さらに数を少なくして表示している。これも、後述する図3〜図6及び図8においても同様である。
【0043】
まず、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法で用いる基板100と、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法で製造する凹部付き基板104について説明する。
【0044】
基板100は、後述する基板準備工程S1で用意するものである。基板100はソーダガラス(ソーダ石灰ガラスともいう。)からなる。なお、ガラスとしては、カリウムガラス、石英ガラス、鉛ガラス、結晶性ガラス、ホウ珪酸ガラス等、他の種類のガラスも用いることができる。
本発明の凹部付き基板の製造方法においては、様々な形状や大きさの基板を用いることができるが、実施形態における基板100は、図1(a)及び図1(b)に示すように板状の形状を有し、その大きさは縦1.5m、横2.5m、厚さ10mmである。
【0045】
凹部付き基板104は、図1(c)及び図1(d)に示すように、同心円状に配置された複数の凹部152(一部にのみ記号を図示。)を有する。凹部152は、略球面状の内面を有する。当該内面は、例えば、直径0.4mmの球における表面に相当する面からなる。円周方向に隣接する凹部152の中心間の距離は、例えば、0.18mmである。径方向に隣接する凹部152の中心間の距離は、例えば、0.25mm〜0.8mmである。
【0046】
2.実施形態に係る凹部付き基板の製造方法
【0047】
図2は、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法のフローチャートである。
図3〜図5は、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法を説明するために示す図である。図3(a)〜図3(d)、図4(a)〜図4(d)及び図5(a)〜図5(c)は各工程図である。なお、各工程図は、図1(a)のA1−A1断面図に相当する断面図として図示している。また、説明を簡単にするために、各要素の大きさを大きく表示している。
【0048】
実施形態に係る凹部付き基板の製造方法は、複数の凹部を有する凹部付き基板104の製造方法であって、図2に示すように、基板準備工程S1と、マスク層形成工程S2と、エッチング工程S3と、洗浄工程S4と、開口部拡大工程S5と、エッチング工程S6と、洗浄工程S7と、マスク層除去工程S8とをこの順番で含む。つまり、当該方法においては、エッチング工程と洗浄工程とをこの順番で1回繰り返すことになる。以下、工程ごとに説明する。
【0049】
(1)基板準備工程S1
基板準備工程S1は、図3(a)に示すように、凹部付き基板104の基となる基板100を準備する工程である。基板100については既に構成を説明したため、再度の説明は省略する。
【0050】
(2)マスク層形成工程S2
マスク層層形成工程S2は、複数の開口部120を有するマスク層112を基板上に形成する工程である。
まず、図3(b)に示すように、基板100の表面を薄膜110で覆う。薄膜110は、例えば、クロムからなる。
その後に、図3(c)に示すように、複数の開口部120を形成して薄膜110をマスク層112とする。開口部120は、例えば、レーザー発振器からのレーザーにより形成することができる。本発明においては、開口部の形状は、製造を目的とする凹部付き基板における凹部の形状や大きさにより、任意の形状とすることができる。実施形態における開口部120は、点状の微小孔である。
【0051】
(3)エッチング工程S3
エッチング工程S3は、図3(d)に示すように、開口部120を介して基板100にエッチングを施し、凹部122を形成する工程である。エッチングは、基板に適した種々の方法により実施できるが、例えば、一水素二フッ化アンモニウムを含むエッチング溶液によるウェットエッチングにより実施できる。このとき、エッチング溶液と基板100に含まれる物質(特にカルシウム)とが反応して、凹部122内に不溶性の塩である副生成物130が生成する。なお、符号102で図示するのは、凹部122が形成された基板である。
【0052】
(4)洗浄工程S4
洗浄工程S4は、凹部122を酸性溶液で洗浄する工程である。酸性溶液は、硫酸及び酢酸を含む水溶液からなる。さらに言えば、酸性溶液は、「濃度が1vol%〜50vol%(好ましくは2vol%〜30vol%、さらに好ましくは4vol%〜20vol%)の範囲内にあり、例えば10vol%の硫酸水溶液」と、「濃度が1vol%〜50vol%(好ましくは2vol%〜30vol%、さらに好ましくは4vol%〜20vol%)の範囲内にあり、例えば10vol%の酢酸水溶液」とを混合して製造されたものである。洗浄工程S4は、基板102を酸性溶液に浸漬することにより実施する。浸漬時間は、副生成物を十分に除去するという観点からは10分以上であることが好ましく、作業工程の短縮という観点からは20分以下であることが好ましく、例えば、15分とすることができる。洗浄工程S4を実施すると、図4(a)に示すように、副生成物130を除去することができる。副生成物130の除去は、副生成物130が酸性溶液に溶解することを利用して行われる。
【0053】
(5)開口部拡大工程S5
開口部拡大工程S5は、複数回繰り返すエッチング工程のうちあるエッチング工程(エッチング工程S3)とその1つ後のエッチング工程(エッチング工程S6)との間に実施する工程であって、途中でマスク層113が凹部122表面に落着するのを防ぐために開口部120の開口面積を広げる工程である。実施形態においては、まず、図4(b)に示すように、マスク層112の凹部122側表面に粘着テープ140を貼り付ける。次に、図4(c)に示すように、粘着テープ140を端から丁寧に剥がし、凹部122の周縁部に沿って開口部120の開口面積を広げ、より広い開口部150とする(図4(d)参照。)。なお、符号113で示すのは剥がれたマスク層であり、符号114で示すのは、広げられた開口部150が形成されたマスク層である。
開口部拡大工程は、粘着テープ以外にも、粘着ローラーのような粘着体や、レーザー、水圧、サンドブラストといった物理的手段を用いて実施することもできる。
【0054】
(6)エッチング工程S6
エッチング工程S6は、図5(a)に示すように、開口部150を介して基板102にエッチングを施し、既に形成されている凹部122よりも大きな凹部152を形成する工程である。符号104で図示するのは、凹部152が形成された基板である。エッチング工程S6は、上述のエッチング工程S3と基本的に同様の工程であるため、説明は省略する。
【0055】
(7)洗浄工程S7
洗浄工程S7は、凹部152を酸性溶液で洗浄する工程である。洗浄工程S7は、上述の洗浄工程S4と基本的に同様の工程であるため、説明は省略する。洗浄工程S7を実施すると、図5(b)に示すように、副生成物130を除去することができる。
【0056】
(8)マスク層除去工程S8
マスク層除去工程S8は、マスク層114を除去する工程である。当該工程により、実施形態における凹部付き基板104を製造することができる。マスク層114の除去のためには既知の方法を用いることができ、例えば、クロム除去液(硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含む混合物)で除去する方法を用いることができる。
【0057】
3.実施形態に係る投写用スクリーン400とその製造方法
図6は、実施形態に係る投写用スクリーン400を説明するために示す図である。図6(a)は投写用スクリーン400の正面図であり、図6(b)は図6(a)のA3−A3断面図である。
図7は、実施形態に係る投写用スクリーン400の製造方法のフローチャートである。
図8は、実施形態に係る投写用スクリーン400の製造方法を説明するために示す図である。図8(a)〜図8(f)は各工程図である。なお、各工程図は、図6(a)のA3−A3断面図に相当する断面図として図示している。また、説明を簡単にするために、各要素の大きさを大きく表示している。
【0058】
実施形態に係る投写用スクリーン400は、図6に示すように、複数の凹部352(いわゆるマイクロレンズ)を有する投写用スクリーンであって、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板104を、型(原形)として用いて製造されるものである。なお、符号402で示すのは、プロジェクターからの投写光を使用者に向けて反射するための反射層である。投写用スクリーン400の製造方法は、図7に示すように、第1転写工程S9、第2転写工程S10及びスクリーン製造工程S11をこの順番で含む。以下、工程ごとに説明する。
【0059】
(1)第1転写工程S9
第1転写工程S9は、図8(a)〜図8(c)に示すように、転写により、凹部付き基板104から、複数の凹部152に対応する複数の凸部202を有する成形型200を製造する工程である。第1転写工程S9における転写は、微細な凹面を写し取ることが可能な方法により行われ、例えば、電鋳により行うことができる。成形型200は、例えば、ニッケルからなる。
【0060】
(2)第2転写工程S10
第2転写工程S10は、図8(d)及び図8(e)に示すように、転写により、成形型200からスクリーン本体300を形成する工程である。第2転写工程S10における転写は、例えば、成形型200の凸部202を樹脂シートに写し取ることにより行うことができる。樹脂シートとしては、例えば、塩化ビニールからなるものを用いることができる。
【0061】
(3)スクリーン製造工程S11
スクリーン製造工程S11は、第2転写工程S10で製造したスクリーン本体300から投写用スクリーン400を製造する工程である。スクリーン本体を投写用スクリーンとするためには既知の方法を用いることができ、例えば、斜方蒸着により凹部352に反射層402を形成することにより、図8(f)に示すように、投写用スクリーン400を製造することができる。反射層402は、例えば、アルミニウムを蒸着することにより形成することができる。投写用スクリーン400は、いわゆるフロント投写型プロジェクターとともに用いる投写用スクリーンである。
【0062】
4.実施形態に係る凹部付き基板の製造方法及び投写用スクリーン400の効果
【0063】
実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、凹部を酸性溶液で洗浄する洗浄工程S4,S7を含むため、工程の途中で凹部に生じる副生成物を除去することが可能となり、その結果、形成される凹部の形状を均一にすることが可能となる。
【0064】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、エッチング工程S3,S6と洗浄工程S4,S7とを別に含むため、エッチングが完全に終了した後に副生成物を除去することになることから、形成される凹部の形状を一層均一にすることが可能となる。
【0065】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、エッチング工程と洗浄工程とをこの順番で少なくとも一回繰り返すため、様々な大きさの凹部を形成することが可能となる。
【0066】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、エッチング工程と洗浄工程とをこの順番で繰り返すため、エッチング工程の度に洗浄工程を行って副生成物を除去し、繰り返しエッチング工程を行っても、形成される凹部の形状を一層均一にすることが可能となる。
【0067】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、あるエッチング工程(エッチング工程S3)とその1つ後のエッチング工程(エッチング工程S6)との間に実施する工程であって、開口部120の開口面積を拡大する開口部拡大工程S5を含むため、マスク層がエッチングを阻害するのを抑制することが可能となる。
【0068】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、酸性溶液が硫酸及び酢酸を含む水溶液からなるため、副生成物を高い効率で除去することが可能となる。
【0069】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、酸性溶液は、濃度が1vol%〜50vol%の範囲内にある硫酸水溶液と、濃度が1vol%〜50vol%の範囲内にある酢酸水溶液とを混合して製造されたものであるため、特に副生成物が基板中に含まれるカルシウム由来のものである場合に、副生成物をより高い効率で除去することが可能となる。
【0070】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、硫酸水溶液の濃度が1vol%〜50vol%の範囲内としたため、副生成物を十分除去することができないということもなく、また、マスク層を傷めるおそれもなく、さらにまた、硫酸とアルカリ成分との塩が発生してしまうこともない。また、酢酸水溶液の濃度を1vol%〜50vol%の範囲内としたため、副生成物を十分除去することができないということもなく、マスク層を傷めるおそれもない。
【0071】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、基板100がソーダガラスからなるため、凹部付き基板の製造コストを低減することが可能となる。
【0072】
また、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法によれば、洗浄工程は基板を酸性溶液に浸漬することにより実施するため、凹部全体に対して比較的均一に酸性溶液を行き渡らせることが可能となり、その結果、より確実に副生成物を除去することが可能となる。
【0073】
実施形態に係る投写用スクリーン400によれば、形成される凹部の形状を均一にすることが可能な本発明の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を用いて製造されたため、凹部の形状を均一にし、投写光を精密に反射することが可能な投写用スクリーンとなる。
【0074】
[実験例]
実験例においては、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法と基本的に同様の方法で製造した「本発明に係る凹部付き基板」と、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法から洗浄工程を除いた方法で製造した(つまり、従来の方法で製造した)「比較用の凹部付き基板」とを実際に作製し、歪みが生じた凹部(以下、歪み凹部という。)の数を数えることにより本発明の効果を確認した。
【0075】
実際に作製した凹部は微小であるため、歪み凹部の数は、レーザー顕微鏡(VK−9500、キーエンス社製)及び3次元画像測定器(UMAP Vision System Ultra 350、ミツトヨ社製)により数えた。
【0076】
その結果、「本発明の凹部付き基板」においては歪み凹部が見られなかった。一方、「比較用の凹部付き基板」においては1cmあたり平均24個の歪み凹部が見られた。したがって、本発明に係る凹部付き基板の製造方法によれば、凹部を酸性溶液で洗浄する洗浄工程を含むため、工程の途中で凹部に生じる副生成物を除去することが可能となり、その結果、形成される凹部の形状を均一にすることが可能となることを確認することができた。
【0077】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の様態において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0078】
(1)上記実施形態において記載した凹部の数、基板の材質や形状等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0079】
(2)上記実施形態においては、基板を酸性溶液に浸漬することにより実施する洗浄工程を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、基板に酸性溶液を噴射することにより実施する洗浄工程を用いてもよい。このような方法とすることにより、比較的少ない酸性溶液で洗浄工程を実施することが可能となり、その結果、廃液を比較的少なくすることが可能となる。
【0080】
(3)上記実施形態においては、図2に示す工程を含む凹部付き基板の製造方法を例にとって本発明の凹部付き基板の製造方法を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、他の工程(例えば、洗浄工程、検査工程や仕上工程)を含んでもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、既知の処理(超音波処理、加熱処理等)を工程中に行ってもよい。これは、図7に示す投写用スクリーンの製造方法においても同様である。
【0081】
(4)上記実施形態においては、実施形態に係る凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を、型として用いて製造された投写用スクリーン400を例にとって本発明の投写用スクリーンを説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を、スクリーン本体として用いて製造された投写用スクリーンとしてもよい。具体的には、例えば、凹部付き基板を塗装した後に凹部に斜方蒸着を行うことにより投写用スクリーンを製造することができる。このような構成とすることによっても、形成される凹部の形状を均一にすることが可能な本発明の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を用いて製造されたため、凹部の形状を均一にし、投写光を精密に反射することが可能な投写用スクリーンとなる。
【0082】
(5)上記実施形態においては、エッチング工程と洗浄工程とをこの順番で1回繰り返したが、本発明はこれに限定されるものではない。エッチング工程と洗浄工程とをこの順番で2回以上繰り返してもよい。また、エッチング工程と洗浄工程とをこの順番で繰り返さずに1回だけ実施してもよい。
【0083】
(6)上記実施形態においては、複数の凹部を有する投写用スクリーンを例にとって本発明の投写用スクリーンを説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、複数の凸部を有する投写用スクリーンとしてもよい。このような投写用スクリーンは、例えば、凹部付き基板から直接投写用スクリーン又はスクリーン本体を形成することにより製造することができる。
【0084】
(7)上記実施形態においては、洗浄工程の後に開口部拡大工程を実施したが、本発明はこれに限定されるものではない。洗浄工程の前に開口部拡大工程を実施してもよい。
【0085】
(8)上記実施形態においては、いわゆるフロント投写型プロジェクターとともに用いる投写用スクリーン400を例にとって本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。いわゆるリア投写型プロジェクターとともに用いる投写型スクリーンとしてもよい。
【符号の説明】
【0086】
100,102…基板、104…凹部付き基板、110…薄膜、112,114…マスク層、113…剥がれたマスク層、120,150…開口部、122…(基板の)凹部、130…副生成物、140…粘着テープ、152…(凹部付き基板の)凹部、200…成形型、202…凸部、300…スクリーン本体、352…(スクリーン本体の)凹部、400…投写用スクリーン、402…反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凹部を有する凹部付き基板の製造方法であって、
複数の開口部を有するマスク層を基板上に形成するマスク層形成工程と、
前記開口部を介して前記基板にエッチングを施し、凹部を形成するエッチング工程と、
前記凹部を酸性溶液で洗浄する洗浄工程と、
前記マスク層を除去するマスク層除去工程とを含むことを特徴とする凹部付き基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の凹部付き基板の製造方法において、
前記エッチング工程と、前記洗浄工程とをこの順番で少なくとも一回繰り返すことを特徴とする凹部付き基板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の凹部付き基板の製造方法であって、
複数回繰り返す前記エッチング工程のうちあるエッチング工程とその1つ後のエッチング工程との間に実施する工程であって、前記開口部の開口面積を拡大する開口部拡大工程をさらに含むことを特徴とする凹部付き基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の凹部付き基板の製造方法において、
前記酸性溶液は、硫酸及び酢酸を含む水溶液からなることを特徴とする凹部付き基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の凹部付き基板の製造方法において、
前記酸性溶液は、濃度が1vol%〜50vol%の範囲内にある硫酸水溶液と、濃度が1vol%〜50vol%の範囲内にある酢酸水溶液とを混合して製造されたものであることを特徴とする凹部付き基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の凹部付き基板の製造方法において、
前記基板は、ソーダガラスからなることを特徴とする凹部付き基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の凹部付き基板の製造方法において、
前記洗浄工程は、前記基板を前記酸性溶液に浸漬することにより実施することを特徴とする凹部付き基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の凹部付き基板の製造方法において、
前記洗浄工程は、前記基板に前記酸性溶液を噴射することにより実施することを特徴とする凹部付き基板の製造方法。
【請求項9】
複数の凹部又は複数の凸部を有する投写用スクリーンであって、
請求項1〜8のいずれかに記載の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を、型として用いて製造されたことを特徴とする投写用スクリーン。
【請求項10】
複数の凹部を有する投写用スクリーンであって、
請求項1〜8のいずれかに記載の凹部付き基板の製造方法により製造された凹部付き基板を、スクリーン本体として用いて製造されたことを特徴とする投写用スクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−242716(P2012−242716A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114421(P2011−114421)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】