説明

刃先交換式溝入れ工具

【課題】部品点数を増大させることなく工具本体の先端部の剛性を十分に確保して、加工精度を高めることができる刃先交換式溝入れ工具を提供する。
【解決手段】切れ刃を有する切削インサート20と、軸状をなし、先端部3に前記切削インサート20が着脱自在に装着される工具本体1と、を備える刃先交換式溝入れ工具30であって、前記工具本体1の先端部3が突出する方向を突出方向Xとして、前記先端部3には、少なくとも前記突出方向Xを向く先端面3Eに開口するとともに、前記切削インサート20を装着するインサート取付座4に連通するスリット部37が形成されており、前記スリット部37は、前記突出方向Xを向く第1壁面37Aと、該第1壁面37Aに交差して連なる第2壁面37Dと、を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換式溝入れ工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料等からなる被削材を回転軸線回りに回転させて、この被削材の外周面や回転軸線を中心に形成された加工穴の内周面などに、切削インサートの切れ刃で溝入れ加工を施す刃先交換式溝入れ工具が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。この種の刃先交換式溝入れ工具は、鋼材等からなる軸状の工具本体の先端部に、超硬合金等からなる棒状の切削インサートが着脱自在に装着されている。この工具本体の先端部には、切削インサートを装着する直方体穴状のインサート取付座と、該インサート取付座に隣り合うように形成されて該先端部を上下に分割するスリット部とが設けられている。
【0003】
スリット部の天壁面には、前記先端部の上面に開口するとともにクランプネジが挿通される貫通孔が形成されている。また、スリット部の底壁面には、前記貫通孔に略同軸とされて雌ネジ加工が施されたネジ孔が形成されている。そして、工具本体のインサート取付座に切削インサートを挿入した状態で、クランプネジを締め付けることにより、スリット部の天壁面が底壁面へ向けて弾性変形するとともにインサート取付座の天壁面が底壁面に向けて弾性変形しつつ近づいていき、切削インサートが工具本体に固定支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−263846号公報
【特許文献2】特許第3971377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の刃先交換式溝入れ工具においては、次のような課題を有していた。
工具本体の先端部は、スリット部によって上下に分割されていることから、該先端部の剛性が十分に確保されているとは言えず、高送り加工等の切削時において、ビビリ振動が発生することがあった。このようなビビリ振動が生じると、被削材の加工面精度を十分に確保することができない。
【0006】
また、特許文献2に記載の刃先交換式溝入れ工具においては、スリット部にピン部材を挿入しており、クランプネジの締め込みを必要以上に行わないよう規制している。しかしながら、このようなピン部材を用いてもビビリ振動を防止することは難しかった。すなわち、ピン部材は、スリット部の天壁面と底壁面との間隔を狭めない方向に規制してはいるものの、前記間隔を拡げる方向の外力に対しては規制する効果がなく、前記先端部の剛性を十分に高められるとは言えなかった。またこの場合、部品点数が増えて管理が煩雑となるとともに、ピン部材を差し込む作業や調整等が必要となる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、部品点数を増大させることなく工具本体の先端部の剛性を十分に確保して、加工精度を高めることができる刃先交換式溝入れ工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、切れ刃を有する切削インサートと、軸状をなし、先端部に前記切削インサートが着脱自在に装着される工具本体と、を備える刃先交換式溝入れ工具であって、前記工具本体の先端部が突出する方向を突出方向として、前記先端部には、少なくとも前記突出方向を向く先端面に開口するとともに、前記切削インサートを装着するインサート取付座に連通するスリット部が形成されており、前記スリット部は、前記突出方向を向く第1壁面と、該第1壁面に交差して連なる第2壁面と、を有していることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、工具本体の先端部には、少なくとも先端面に開口してスリット部が形成されている。スリット部は、切削インサートを装着するインサート取付座に連通して形成されており、突出方向を向く第1壁面と、この第1壁面に交差して連なる第2壁面とを有している。このように、第1、第2壁面同士が交差して形成されていることにより、スリット部には、その最奥部(突出方向とは反対側の奥部)よりも突出方向に突出する部位が形成されることになる。前記突出する部位は、工具本体の先端部を例えば上下に連結する領域を増大させるから、該先端部の剛性が高められるのである。このような構成により、例えば高送り加工等の切削時においても、ビビリ振動が発生することが防止され、切削の加工精度が高められる。
【0010】
詳しくは、スリット部に第1、第2壁面が形成されていることによって、切削時に、例えばスリット部内において上下に向かい合う天壁面と底壁面との間隔が拡げられるようなことが防止される。また、切削インサートを支持する前記先端部の断面積が増大することになり、切削時に該切削インサートが受ける荷重が広範囲に分散されて、工具本体の静剛性が向上する。さらに、工具本体の固有振動数が高められて共振が生じ難くなることから、安定して高精度の切削加工が行える。
そして、このように優れた効果を奏しながらも、部品点数を増大させることはなく、部材管理や製造が容易である。
【0011】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記第1壁面と前記第2壁面との交差角が、180°未満に設定されることとしてもよい。
【0012】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、スリット部の第1、第2壁面同士のなす交差角が、180°未満に設定されている。すなわち、スリット部において第1、第2壁面同士が交差する部位には凹部が形成されているとともに、少なくとも第1、第2壁面のいずれかにおける該凹部から離間した位置には、前記突出する部位が形成されることになる。この場合、前記突出する部位が先端部における例えば側面近傍に位置して該先端部の剛性を確保しつつも、スリット部の形成領域が十分に確保される。スリット部の形成領域が確保されることにより、該スリット部に対応する先端部の部分が弾性変形してたわみやすくなるとともに、このスリット部に連通するインサート取付座の間隔が狭められやすくなって、切削インサートに対する締め付け力が十分に確保される。従って、インサート取付座に対する切削インサートの着座安定性が向上する。
【0013】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記インサート取付座は、前記先端部における前記突出方向に垂直な幅方向を向く両側面のうち一側面側に配置され、前記第1壁面は、前記一側面に連なるとともに、前記幅方向に沿うように延びており、前記第2壁面は、前記第1壁面における前記幅方向の前記一側面側とは反対の他側面側の端部から前記先端面に向けて、前記突出方向に沿うように延びていることとしてもよい。
【0014】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、スリット部の第1壁面が、前記先端部の幅方向に沿うように延びており、該第1壁面における他側面側の端部に連なる第2壁面が、前記突出方向に沿うように延びて形成されている。すなわち、スリット部の第1、第2壁面同士が互いに略直交するように連なっていることから、工具本体の先端部における他側面側部分に前記突出する部位を形成できるとともに、該スリット部の形成領域が十分に確保される。これにより、工具本体の先端部の剛性を確保しつつも、該先端部の一側面側部分がよりたわみやすくなり、インサート取付座に対する切削インサートの着座安定性が向上する。
【0015】
また、スリット部の第2壁面が突出方向に延びていることにより、前記先端部が上下に連結される他側面側部分の肉厚を、該先端部の先端面まで確保しやすくなる。詳しくは、例えば、前記先端部の他側面が突出方向へ向かうに従い漸次一側面側へ向けて傾斜してテーパ状に形成されているような場合であっても、該先端部が上下に連結される他側面側部分の肉厚を先端面付近まで十分に確保できる。よって、工具本体の先端部の剛性が確実に高められるとともにビビリ振動が防止されて、加工精度が向上する。
【0016】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記インサート取付座は、前記先端部における前記突出方向に垂直な幅方向を向く両側面のうち一側面側に配置され、前記第1壁面は、前記一側面に連なるとともに、該一側面側から前記幅方向の前記一側面側とは反対の他側面側に向かうに従い漸次前記突出方向とは反対側へ向けて延びており、前記第2壁面は、前記第1壁面の前記他側面側の端部から該他側面側に向かうに従い漸次前記突出方向へ向けて延びていることとしてもよい。
【0017】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、スリット部において第1、第2壁面同士の交差する部位が凹部とされるとともに、第1壁面の一側面側部分及び第2壁面の他側面側部分に、前記突出する部位がそれぞれ形成されることになる。これにより、前記先端部における断面2次モーメントが高められて、該先端部の剛性が十分に確保される。
【0018】
また、スリット部の第1壁面と第2壁面とが先端部における幅方向の中央付近で交差して凹部を形成するように連なることになり、工具本体の先端部の剛性を確保しつつも該スリット部の形成領域を十分に確保できる。これにより、先端部の一側面側がたわみやすくなり、インサート取付座に対する切削インサートの着座安定性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、部品点数を増大させることなく工具本体の先端部の剛性を十分に確保して、加工精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具の要部を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具の要部を示す(a)上面図、及び、(b)側面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具の要部を示す(a)正面図、及び、(b)側面図である。
【図5】図3のA−A断面を示す図である。
【図6】図4のB−B断面を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具のスリット部を示す(a)正面図、及び、(b)側面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具の要部を示す断面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を示す斜視図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を示す分解斜視図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具の要部を示す(a)上面図、及び、(b)正面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具の要部を示す側面図である。
【図13】図11のC−C断面を示す図である。
【図14】図12のD−D断面を示す図である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を示す斜視図である。
【図16】本発明の第4の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を示す分解斜視図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具の要部を示す上面図である。
【図18】本発明の第4の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具の要部を示す(a)側面図、及び、(b)正面図である。
【図19】図17のE−E断面を示す図である。
【図20】図18のF−F断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
図1〜図7は、本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具30を示している。この刃先交換式溝入れ工具30は、例えば略円柱状をなす被削材の外周面等に、外径溝入れ加工や突っ切り加工等を行うものである。刃先交換式溝入れ工具30は、棒状をなしその上面の両端部に一対の切れ刃21を有する切削インサート20と、軸状をなしその先端部3に切削インサート20が着脱自在に装着される工具本体1と、を備えている。切削インサート20は、一対の切れ刃21のうち一方の切れ刃21Aを工具本体1の先端部3から被削材(不図示)側へ突出させて、該工具本体1に装着される。
【0022】
工具本体1は、鋼材等から形成されており、その先端部3以外の中央部及び基端部が略直方体状をなしてシャンク部2とされている。刃先交換式溝入れ工具30は、シャンク部2が回り止めされた状態で保持されることにより、自動盤等の工作機械(不図示)に固定支持される。
【0023】
図3(a)の上面視において、工具本体1の先端部3は、シャンク部2から被削材側へ向けて突出している。以下の説明においては、工具本体1の先端部3がシャンク部2から突出する方向(図3、図4等に矢印Xで示す方向)を突出方向Xとする。また、図3(a)に示すように、切削インサート20を切れ刃21の配置された上面側から見るとともに、工具本体1をシャンク部2の上面2A側から見て、突出方向Xに垂直な向きを先端部3の幅方向Yとする。また、図3(b)に示すように、これら突出方向X及び幅方向Yに垂直な向きを先端部3の高さ方向Zとする。
【0024】
この刃先交換式溝入れ工具30は、シャンク部2が先端部3の突出方向Xに沿うように延びて該先端部3の基端側に連なっており、工具本体1全体が突出方向Xに延在して形成されている。
【0025】
図3(b)に示すように、工具本体1の先端部3において高さ方向Zを向く上下面3A、3Bは、シャンク部2の上下面2A、2Bよりも該高さ方向Zに沿う外側へそれぞれ突出して形成されている。すなわち、先端部3の上下面3A、3B間の距離(先端部3の高さ寸法)は、シャンク部2の上下面2A、2B間の距離(シャンク部2の高さ寸法)よりも大きく設定されている。詳しくは、先端部3の上面3Aは、シャンク部2の上面2Aよりも上側(図3(b)におけるZ方向の上側)へ突出して形成されており、先端部3の下面3Bは、シャンク部2の下面2Bよりも下側(図3(b)におけるZ方向の下側)へ突出して形成されている。また、先端部3の下面3Bがシャンク部2の下面2Bよりも下側へ突出する突出量(所謂アゴ寸法)は、例えば2mm程度に設定される。
【0026】
また、図3(a)に示すように、工具本体1の先端部3において幅方向Yを向く両側面3C、3Dは、上下面3A、3Bに略垂直とされているとともに、シャンク部2の両側面2C、2Dに面一に連なるようにそれぞれ形成されている。すなわち、先端部3の両側面3C、3D間の距離(先端部3の幅寸法)は、シャンク部2の両側面2C、2D間の距離(シャンク部2の幅寸法)と同一に設定されている。以下の説明においては、先端部3の両側面3C、3Dのうち、切削インサート20を装着するインサート取付座4が配置されているとともに一側を向く面(図3(a)においてY方向の上側を向く面)を一側面3Cとし、この一側面3Cとは反対側(他側)を向く面(図3(a)においてY方向の下側を向く面)を他側面3Dとする。また、シャンク部2における両側面2C、2Dのうち、先端部3の一側面3Cに連なるとともに一側を向く面を一側面2C、先端部3の他側面3Dに連なるとともに他側を向く面を他側面2Dとする。
【0027】
先端部3の一側面3Cとシャンク部2の一側面2Cとは、互いに同一平面内に形成されている。また、先端部3の一側面3Cは、後述する上顎部5及び下顎部6の一側を向く側面を形成している。また、先端部3の他側面3Dは、そのシャンク部2側の端部が該シャンク部2の他側面2Dに面一とされており、その中央部から先端部にかけては、突出方向Xへ向かうに従い漸次一側面3C側へ向かうように傾斜してテーパ状に形成されている。
【0028】
また、図3(a)(b)に示すように、工具本体1の先端部3において突出方向Xを向く先端面3Eは、凹曲面状に形成されている。詳しくは、図3(b)の側面視に示すように、先端部3の先端面3Eは、X方向及びZ方向を含む断面形状が略円弧状をなしており、その中心が切削インサート20の切れ刃21A付近に設定されている。すなわち、先端部3の先端面3Eは、そのZ方向の切れ刃21Aに対応する部分が最もシャンク部2側に窪んで形成されている。そして、先端面3Eにおいて前記部分よりも上側に位置する上部は、前記部分よりも上方へ向かうに従い漸次突出方向Xへ向かい傾斜して断面凹曲線状に形成されている。また、先端面3Eにおいて前記部分よりも下側に位置する下部は、前記部分よりも下方へ向かうに従い漸次突出方向Xへ向かい傾斜して断面凹曲線状に形成されている。また、先端面3Eの前記下部は、前記上部よりも突出方向Xに突出して形成されている。
【0029】
また、図3(a)(b)に示すように、工具本体1の先端部3には、先端面3Eから突出方向Xへ突出して上顎部5及び下顎部6が形成されている。先端部3の上顎部5と下顎部6とは、互いに上下方向(Z方向)に対向配置されているとともに、先端面3Eにおける一側面3C側の端部に形成されている。図3(b)において、先端部3の上顎部5及び下顎部6は、略三角形板状又は略扇形板状にそれぞれ形成されている。上顎部5の上面は、シャンク部2側から突出方向Xへ向かうに従い漸次下面3B側へ向けて傾斜して形成されている。また、下顎部6は、上顎部5よりも突出方向Xに突出して形成されている。
【0030】
先端部3の上顎部5と下顎部6との間には隙間が設けられており、切削インサート20が着脱自在に装着されるインサート取付座4とされている。工具本体1は、このインサート取付座4に切削インサート20を装着して、該切削インサート20を先端部3の一側面3Cに沿うように配置している。
【0031】
図2、図3(b)及び図4(b)に示すように、インサート取付座4は、略直方体穴状をなしており、先端部3の一側面3C側に位置しているとともに突出方向Xに沿って延びている。インサート取付座4は、その先端部(突出方向X側の端部)及び中央部が、上顎部5と下顎部6との間に位置しているとともにY方向の両側に開口されている。また、インサート取付座4の先端部は、突出方向Xにも開口されている。また、インサート取付座4の基端部(シャンク部2側の端部)は、上面2A(3A)と下面2B(3B)との間に位置しているとともに一側面3Cに開口されている。
【0032】
本実施形態のインサート取付座4は、突出方向Xへ向かうに従い漸次下面3Bから上面3Aへ向けて傾斜して形成されている。また、インサート取付座4の基端部には、突出方向Xを向く受け部4Aが形成されている。また、インサート取付座4において上下に向かい合う天壁面4B及び底壁面4Cは、図4(a)、図5に示すように、先端面3E側から見てそれぞれ凸V字状に形成されている。
【0033】
また、図4(a)、図5に示すように、工具本体1の先端部3における上下面3A、3Bの間には、インサート取付座4の他側面3D側に隣り合うとともに該インサート取付座4に連通し、インサート取付座4よりもZ方向に幅狭とされたスリット部37が形成されている。すなわち、スリット部37において上下に向かい合う天壁面37Bと底壁面37Cとの間隔は、インサート取付座4の天壁面4Bと底壁面4Cとの間隔よりも狭く形成されている。また、図5に示すように、スリット部37は、先端部3の他側面3D側から一側面3C側へ向かうに従い漸次下面3Bから上面3Aに向かうように傾斜して形成されている。尚、本実施形態とは反対に、スリット部37が、先端部3の他側面3D側から一側面3C側へ向かうに従い漸次上面3Aから下面3Bに向かうように傾斜して形成されていてもよい。詳しくは、図7(a)の正面視において、高さ方向Zに垂直な仮想水平面HSに対してスリット部37が傾斜する角度(仰俯角)θ2は、−5°≦θ2≦5°の範囲内に設定される。
【0034】
また、図7(b)の側面視に示すように、スリット部37は、突出方向Xへ向かうに従い漸次下面3Bから上面3Aに向かうように傾斜して形成されている。詳しくは、スリット部37は、インサート取付座4の延在する方向に対して略平行となるように傾斜している。尚、本実施形態とは反対に、インサート取付座4及びスリット部37が、突出方向Xへ向かうに従い漸次上面3Aから下面3Bに向かうように傾斜して形成されていても構わない。図7(b)の側面視において、前記仮想水平面HSに対してスリット部37が傾斜する角度(仰俯角)θ3は、−10°≦θ3≦10°の範囲内に設定される。
【0035】
図6に示すように、スリット部37の天壁面37B及び底壁面37Cは、略矩形状の平面にそれぞれ形成されており、互いに略平行とされている。図5に示すように、スリット部37の天壁面37Bには、先端部3の上面3Aに開口するとともにクランプネジ8が挿通される貫通孔8Aが形成されている。また、スリット部37の底壁面37Cには、貫通孔8Aに略同軸とされて内周面に雌ネジ加工が施されたネジ孔8Bが形成されている。
【0036】
また、図2、図7に示すように、スリット部37には、天壁面37Bと底壁面37Cとを上下に繋ぐとともに突出方向Xを向く奥壁面(第1壁面)37Aが形成されている。スリット部37の奥壁面37Aは、丸溝状又は凹曲面状をなしており、図6に示すように、幅方向Yに沿うように延びて形成されている。奥壁面37Aは、インサート取付座4を介して一側面3Cに連なっている。
【0037】
また、スリット部37には、天壁面37Bと底壁面37Cとを上下に繋ぐとともに幅方向Yのうち一側面3C側を向く側壁面(第2壁面)37Dが形成されている。スリット部37の側壁面37Dは、丸溝状又は凹曲面状をなしており、奥壁面37Aの他側面3D側の端部から先端面3Eに向けて、突出方向Xに沿うように延びて形成されている。側壁面37Dにおける突出方向Xの端部は、先端面3Eに連なっている。
図6に示すように、スリット部37の奥壁面37Aと側壁面37Dとは、滑らかに連なるように互いに交差しており、その交差部分が断面凹曲線状をなして、凹部を形成している。
【0038】
図2、図6に示すように、スリット部37は、インサート取付座4を介して一側面3Cに開口しているとともに、先端部3の先端面3Eに開口して形成されている。そして、図4(a)に示すように、工具本体1の先端部3を先端面3E側から見た正面視において(すなわち先端部3を突出方向Xとは反対側から見て)、スリット部37は、該先端部3の他側面3Dには開口されずに形成されている。すなわち、工具本体1の先端部3は、幅方向Yに沿う他側面3D側の部分において上下に連結されている。
【0039】
また、図6の上断面視において、奥壁面37Aと側壁面37Dとのなす角度(交差角)θ1は、180°未満に設定される。角度θ1は、例えば、70°≦θ1≦110°の範囲内に設定されることが好ましい。本実施形態では、角度θ1は90°程度に設定されている。尚、角度θ1を90°よりも小さくしたり大きくしたりする場合には、奥壁面37Aを幅方向Yに対して傾斜させたり、側壁面37Dを突出方向Xに対して傾斜させたり、これら奥壁面37A及び側壁面37Dをともに傾斜させたりすればよい。
【0040】
また、工具本体1の先端部3の一側面3Cからスリット部37の側壁面37Dまでの距離L1は、該先端部3の一側面3Cから他側面3Dまでの距離L2(先端部3の幅寸法)に対して、例えば、(0.6×L2)≦L1≦(0.9×L2)の範囲内に設定される。本実施形態では、距離L1は(0.8×L2)程度に設定されている。
尚、角度θ1、距離L1は、前述の範囲内に限定されるものではない。
【0041】
また、この刃先交換式溝入れ工具30に装着される切削インサート20は、超硬合金等の硬質材料からなり、図2及び図4(b)に示すように、全体に棒状に形成された所謂ドッグボーン型の切削インサートである。切削インサート20は、その延在方向が突出方向Xに沿うようにインサート取付座4に装着される。切削インサート20の上面(図4においてZ方向(上下方向)の上方を向く面)における前記延在方向の両端部には、略四角形状のすくい面22が一対形成されている。すくい面22は、その外周縁のうち前記延在方向の中央側以外の三方が切れ刃21とされている。
【0042】
また、図4(a)、図5に示すように、切削インサート20は、その上面における前記延在方向の中央部、及び、下面(図4においてZ方向の下方を向く面)全体が、該延在方向に垂直な断面でそれぞれ凹V字状に形成されている。このような切削インサート20の形状により、該切削インサート20がインサート取付座4の突出方向Xに開口する部位において天壁面4B及び底壁面4Cに摺接するように案内され、突出方向Xとは反対側へ向けて挿入される。
【0043】
図4(b)に示すように、インサート取付座4に挿入された切削インサート20は、その突出方向Xとは反対側を向く端面が受け部4Aに突き当てられて位置決めされる。この状態で、クランプネジ8を締め付けることにより、スリット部37の天壁面37Bが底壁面37Cへ向けて弾性変形しつつ近づくとともに、インサート取付座4の天壁面4Bが底壁面4Cへ向けて弾性変形しつつ近づいていく。
【0044】
この際、工具本体1の先端部3において天壁面37B、4Bが形成された上側部分は、該先端部3の他側面3D側部分を中心に回動するように底壁面37C、4Cが形成された下側部分に向けてたわむことになる。すなわち、クランプネジ8の締め付け時に、インサート取付座4の天壁面4Bが底壁面4Cに対して移動する移動量は、スリット部37の天壁面37Bが底壁面37Cに対して移動する移動量よりも大きくなる。また、スリット部37の天壁部37Bにおいては、その奥壁面37A又は側壁面37Dに隣接する領域の前記移動量よりも、奥壁面37A又は側壁面37Dから離間された領域の前記移動量が大きくなる。
【0045】
このように、天壁面37B、4Bと底壁面37C、4Cとの間隔が狭められて、切削インサート20が工具本体1の先端部3に固定支持される。切削インサート20が工具本体1のインサート取付座4に装着されると、図3に示すように、一対の切れ刃21のうち一方の切れ刃21Aが、先端部3の先端面3Eから突出方向Xに突出して配置される。切削時には、切削インサート20の切れ刃21Aが、工具本体1とともに突出方向Xに沿うように溝入れ方向に移動して、被削材の溝入れ加工に供される。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具30によれば、工具本体1の先端部3において、スリット部37が該先端部3の一側面3C及び先端面3Eに開口して形成されている。スリット部37は、切削インサート20を装着するインサート取付座4に連通して形成されており、突出方向Xを向く奥壁面37Aと、この奥壁面37Aに交差して連なる側壁面37Dとを有している。このように、奥壁面37Aと側壁面37Dとが交差して形成されていることにより、スリット部37には、その最奥部(本実施形態においては奥壁面37A)よりも突出方向Xに突出する部位が形成される。本実施形態では、前記突出する部位は、側壁面37Dが突出方向Xに延びることにより先端部3の他側面3D側部分に形成されている。前記突出する部位は、工具本体1の先端部3において上下に連結される領域を増大させるから、該先端部3の剛性が十分に確保される。このような構成により、例えば高送り加工等の切削時においても、ビビリ振動が発生することが防止され、切削の加工精度が高められる。
【0047】
詳しくは、工具本体1の先端部3が他側面3D側部分において上下に連結されていることによって、切削時に、スリット部37及びインサート取付座4の天壁面37B、4Bと底壁面37C、4Cとの間隔が高さ方向Zに拡げられるようなことが防止される。また、天壁面37B、4Bと底壁面37C、4Cとが、幅方向Y又は突出方向Xに相対的に移動するようなことが防止される。
【0048】
また、スリット部37の奥壁面37Aと側壁面37Dとのなす交差角θ1が、180°未満に設定されている。これにより、スリット部37において奥壁面37A、側壁面37D同士が交差する部位には凹部が形成されるとともに、側壁面37Dにおける該凹部から離間した位置には、前記突出する部位が形成されることになる。本実施形態においては、前記突出する部位が先端部3における他側面3D側部分に位置して該先端部3の剛性を確保しつつ、前記凹部が幅方向Yの中央付近に形成されることによってスリット部37の形成領域が十分に確保されている。
【0049】
これにより、切削インサート20をインサート取付座4に装着する際には、先端部3の前記上側部分の上顎部5が前記下側部分の下顎部6に向けてたわみやすくされている。詳しくは、先端部3の上顎部5は、インサート取付座4における突出方向X側の端部がよりたわみやすくされている。これにより、インサート取付座4の天壁面4B全体が切削インサート20の上面に密着するように当接されるとともに、該天壁面4Bに対向する底壁面4Cが該切削インサート20の下面に密着されて、インサート取付座4に対する切削インサート20の着座安定性が十分に確保される。
【0050】
さらに、本実施形態のように、スリット部37の奥壁面37Aが幅方向Yに沿うように延びているとともに、該奥壁面37Aの他側面3D側の端部に連なる側壁面37Dが突出方向Xに沿うように延びて、これら壁面37A、37D同士が互いに略直交するように連なっている場合には、下記のような優れた作用効果を奏することになる。すなわち、工具本体1の先端部3における他側面3D側部分に前記突出する部位を確実に形成できるとともに、該スリット部37の形成領域が十分に確保される。これにより、工具本体1の先端部3の剛性を確保しつつも、該先端部3の一側面3C側部分がよりたわみやすくなり、インサート取付座4に対する切削インサート20の着座安定性が向上する。
【0051】
また、スリット部37の側壁面37Dが突出方向Xに延びていることにより、先端部3が上下に連結される他側面3D側部分の肉厚を、該先端部3の先端面3Eまで確保しやすくなる。詳しくは、本実施形態のように、先端部3の他側面3Dが突出方向Xへ向かうに従い漸次一側面3C側へ向けて傾斜してテーパ状に形成されているような場合であっても、前記他側面3D側部分の肉厚を先端面3E付近まで十分に確保できる。よって、工具本体1の先端部3の剛性が確実に高められるとともにビビリ振動が防止されて、加工精度が向上する。
【0052】
また、切削インサート20を支持する先端部3の断面積(突出方向Xに垂直な断面の面積)が増大することになり、切削時に切削インサート20が被削材から受ける荷重(外力)が広範囲に分散されて、工具本体1の静剛性が向上する。詳しくは、本実施形態の刃先交換式溝入れ工具30においては、従来のように先端部3が上下に分割された刃先交換式溝入れ工具に対比して、静剛性が30%程度向上する。
【0053】
さらに、工具本体1の固有振動数が高められて共振が生じ難くなることから、安定して高精度の切削加工が行える。詳しくは、本実施形態の刃先交換式溝入れ工具30においては、従来のように先端部3が上下に分割された刃先交換式溝入れ工具に対比して、固有振動数が20%程度も高められることになり、ビビリ振動が抑制される。
そして、この刃先交換式溝入れ工具30は、前述のように優れた効果を奏しながらも、部品点数を増大させることはなく、部材管理や製造が容易である。
【0054】
また、角度θ1及び距離L1が前述の範囲内に設定されていることにより、例えば、工具本体1の先端部3の幅寸法L2が比較的小さく形成されるような場合であっても、先端部3の剛性を確保しつつスリット部37の形成領域を十分に確保できる。
【0055】
前述した効果を具体的に示すと、例えば、外径φ22.5mm用の刃先交換式溝入れ工具30を使用した切削加工において、被削材の回転数:1000〜2000rpmで切削送り:0.05〜0.10mm/revの範囲内、及び、回転数:3000rpmで切削送り:0.08〜0.10mm/revの範囲内におけるビビリ振動が確実に防止される。また、回転数:1000rpmで切削送り:0.02mm/rev、及び、回転数:3000rpmで切削送り:0.05mm/revの設定におけるビビリ振動が抑制される。一方、従来のように、スリット部の奥壁面が幅方向Yに沿うように延びて先端部3を貫通しているとともに、該先端部3が上下に分割された刃先交換式溝入れ工具においては、回転数:1000〜3000rpmで切削送り:0.10mm/revにおけるビビリ振動は抑制されるものの、切削送り:0.08mm/rev以下の設定においては総じてビビリ振動が生じやすくなる。
【0056】
また、本実施形態の刃先交換式溝入れ工具30を使用して、被削材の回転数:2000rpm、切削送り:0.05mm/revにて切削した被削材の加工面は、算術平均粗さRa:0.09μm程度、最大高さRz:0.7μm程度に高精度に形成される。一方、従来のように先端部3が上下に分割された刃先交換式溝入れ工具においては、同様の設定で切削した被削材の加工面が、算術平均粗さRa:0.16μm程度、最大高さRz:1.5μm程度に形成される。
【0057】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具40について、図8を参照して説明する。尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
本実施形態の刃先交換式溝入れ工具40は、前述した刃先交換式溝入れ工具30とはスリット部47の形状が異なっている。
刃先交換式溝入れ工具40において、工具本体1の先端部3における上下面3A、3Bの間には、インサート取付座4の他側面3D側に隣り合うとともに、該インサート取付座4よりもZ方向に幅狭とされたスリット部47が形成されている。スリット部47において上下に向かい合う天壁面47Bと底壁面47Cとの間隔は、インサート取付座4の天壁面4Bと底壁面4Cとの間隔よりも狭く形成されている。
【0059】
図8に示すように、スリット部47の天壁面47B及び底壁面47Cは、略五角形状の平面にそれぞれ形成されており、互いに略平行とされている。また、スリット部47は、突出方向Xを向く奥壁面として、第1壁面47Aを備えている。またスリット部47は、第1壁面47Aに交差して連なる第2壁面47Dを備えており、該第2壁面47Dも突出方向Xを向く奥壁面とされている。これら第1、第2壁面47A、47Dは、丸溝状又は凹曲面状にそれぞれ形成されているとともに、スリット部47の天壁面47Bと底壁面47Cとを上下に繋いでいる。
【0060】
第1壁面47Aは、インサート取付座4を介して一側面3Cに連なるとともに、該一側面3C側から他側面3D側に向かうに従い漸次突出方向Xとは反対側へ向けて延びて形成されている。また、第2壁面47Dは、この第1壁面47Aの他側面3D側の端部から該他側面3D側に向かうに従い漸次突出方向Xへ向けて延びて形成されているとともに、先端面3Eに連なっている。図8に示すように、スリット部47の第1壁面47Aと第2壁面47Dとは、互いに交差して連なっているとともに、その交差部分に凹部を形成している。
【0061】
そして、スリット部47は、インサート取付座4を介して一側面3Cに開口しているとともに、先端部3の先端面3Eに開口して形成されている。また、工具本体1を先端部3の先端面3Eから見て(先端部3を突出方向Xとは反対側から見て)、スリット部47は、他側面3Dには開口されていない。すなわち、工具本体1の先端部3は、幅方向Yに沿う他側面3D側部分において上下に連結されている。
【0062】
また、図8の上断面視において、第1壁面47Aと第2壁面47Dとのなす角度(交差角)θ1は180°未満に設定されており、好ましくは、例えば、70°≦θ1≦110°の範囲内に設定される。本実施形態では、角度θ1は90°程度に設定されている。尚、角度θ1を90°よりも小さくしたり大きくしたりする場合には、第1壁面47A又は/及び第2壁面47Dを幅方向Yに対してより大きく或いは小さく傾斜させればよい。
尚、角度θ1は、前述の範囲内に限定されるものではない。
【0063】
本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具40によれば、スリット部47において第1、第2壁面47A、47D同士の交差する部位が凹部とされるとともに、第1壁面47Aの一側面3C側部分及び第2壁面47Dの他側面3D側部分に、前記突出する部位がそれぞれ形成されることになる。従って、これらの前記突出する部位が、先端部3の幅方向Yの両側において該先端部3を上下に連結することになり、この先端部3における断面2次モーメントが確実に高められて、該先端部3の剛性が十分に確保される。
【0064】
また、スリット部47の第1壁面47Aと第2壁面47Dとが先端部3における幅方向Yの中央付近で交差して凹部を形成するように連なることになり、工具本体1の先端部3の剛性を確保しつつも、該スリット部47の形成領域を十分に確保できる。これにより、先端部3の一側面3C側がたわみやすくなり、インサート取付座4に対する切削インサート20の着座安定性が向上する。
【0065】
また、角度θ1が前述の範囲内に設定されていることにより、例えば、工具本体1の先端部3の幅寸法が比較的小さく形成されるような場合であっても、先端部3の剛性を確保しつつスリット部47の形成領域を十分に確保できる。
【0066】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具50について、図9〜図14を参照して説明する。尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0067】
本実施形態の刃先交換式溝入れ工具50は、前述の刃先交換式溝入れ工具30、40とは工具本体1の形状及び切削インサート20の装着姿勢が異なっている。
この刃先交換式溝入れ工具50は、例えば、略円筒状をなす被削材の内周面等に、内径溝入れ加工等を行うものである。
【0068】
刃先交換式溝入れ工具50は、切削インサート20と、軸状に形成されその中心軸線Oに垂直な断面が略円形をなし、先端部3に切削インサート20が着脱自在に装着される工具本体1と、を備えている。この刃先交換式溝入れ工具50は、前述の実施形態とは先端部3(シャンク部2)の一側面3C(2C)と他側面3D(2D)の配置が異なっている。すなわち、図11(a)に示すように、先端部3においてインサート取付座4の位置する一側面3Cが幅方向Y(左右方向)の左側に配置されているとともに、他側面3DがY方向の右側に配置されている。
【0069】
刃先交換式溝入れ工具50は、シャンク部2が先端部3の突出方向Xに沿うように延びて該先端部3の基端側に連なっており、工具本体1全体が突出方向Xに延在して形成されている。工具本体1のシャンク部2は、上下面2A、2Bが略帯状の平面とされているとともに互いに平行に形成されている。刃先交換式溝入れ工具50は、これらの上下面2A、2Bによって回り止めされた状態でシャンク部2が保持されることにより、自動盤等の工作機械(不図示)に固定支持される。
【0070】
図11において、先端部3の先端面3Eは、略円形状の平面に形成されている。また、先端部3の一側面3C及び他側面3Dは、突出方向Xに垂直な断面がそれぞれ略凸曲線状をなしているとともに、シャンク部2の一側面2C、他側面2Dよりも中心軸線O側(径方向内側)へ後退して形成されている。先端部3の一側面3Cにおける突出方向X側の端部には、該先端部3の上側部分に形成された上顎部5と、該先端部3の下側部分に形成されているとともに、該上顎部5及び一側面3C、2Cよりも幅方向Yの一側面3C側(図11におけるY方向の左側)へ向けて突出する下顎部6と、が設けられている。先端部3の上顎部5と下顎部6とは、互いに上下方向(Z方向)に対向配置されている。
【0071】
先端部3の上顎部5は、該先端部3の先端面3E側から見て、略三角形状に形成されている。上顎部5の上面は、他側面3D側から一側面3C側へ向かうに従い漸次先端部3の上面3Aから下面3Bへ向けて傾斜して形成されている。また、先端部3の下顎部6は、該先端部3の先端面3E側から見て、略半円状又は略扇形状に形成されている。先端部3の上顎部5と下顎部6との間には隙間が設けられており、切削インサート20が着脱自在に装着されるインサート取付座4とされている。
【0072】
インサート取付座4は、先端部3の一側面3C側に位置しているとともに幅方向Yに沿って延びている。工具本体1は、このインサート取付座4に切削インサート20を装着して、該切削インサート20を先端部3の先端面3Eに沿うように配置している。図10に示すように、インサート取付座4は、幅方向Yの一側面3C側の端部が、該一側面3C側に開口されている。また、インサート取付座4の一側面3C側の端部は、先端面3E及び突出方向Xとは反対の方向にも開口されている。
【0073】
また、インサート取付座4の他側面3D側の端部は、上面3Aと下面3Bとの間に位置しているとともに先端面3Eに開口されている。また、インサート取付座4の他側面3D側の端部には、一側面3C側を向く受け部4Aが形成されている。
【0074】
また、図12〜図14に示すように、工具本体1の先端部3における上下面3A、3Bの間には、インサート取付座4の突出方向Xとは反対側に隣り合うとともに該インサート取付座4よりもZ方向に幅狭とされたスリット部57が形成されている。本実施形態のスリット部57は、前述した刃先交換式溝入れ工具30のスリット部37と同様に、幅方向Yに沿って延びる奥壁面(第1壁面)57Aと、突出方向Xに沿って延びる側壁面(第2壁面)57Dとを備えている。
【0075】
スリット部57の天壁面57B及び底壁面57Cは、略矩形状の平面にそれぞれ形成されており、互いに略平行とされている。また、スリット部57には、天壁面57Bと底壁面57Cとを上下に繋ぐとともに突出方向Xを向く奥壁面57Aが形成されている。スリット部57の奥壁面57Aは、幅方向Yに延びる丸溝状に形成されており、奥壁面57Aの一側面3C側の端部は、該一側面3Cに連なっている。
【0076】
また、スリット部57には、天壁面57Bと底壁面57Cとを上下に繋ぐとともに幅方向Yのうち一側面3C側を向く側壁面57Dが形成されている。スリット部57の側壁面57Dは、奥壁面57Aの他側面3D側の端部から突出方向Xに延びる丸溝状に形成されており、側壁面57Dの突出方向X側の端部は、インサート取付座4を介して先端面3Eに連なっている。図14に示すように、スリット部57の奥壁面57Aと側壁面57Dとは、滑らかに連なるように互いに交差しており、その交差部分が断面凹曲線状をなして、凹部を形成している。
【0077】
そして、スリット部57は、先端部3の一側面3Cに開口しているとともに、インサート取付座4を介して先端面3Eに開口して形成されている。また、工具本体1を先端部3の先端面3Eから見て(すなわち先端部3を突出方向Xとは反対側から見て)、スリット部57は、他側面3Dには開口されていない。すなわち、工具本体1の先端部3は、幅方向Yに沿う他側面3D側部分において上下に連結されている。
【0078】
また、図14の上断面視において、奥壁面57Aと側壁面57Dとのなす角度(交差角)θ1は180°未満に設定されており、好ましくは、例えば、70°≦θ1≦110°の範囲内に設定される。また、先端部3の一側面3Cから側壁面57Dまでの距離L1は、該先端部3の一側面3Cから他側面3Dまでの距離L2(先端部3の幅寸法)に対して、例えば、(0.6×L2)≦L1≦(0.9×L2)の範囲内に設定される。
尚、角度θ1、距離L1は、前述の範囲内に限定されるものではない。
【0079】
切削インサート20が幅方向Yに沿ってインサート取付座4に挿入された状態で、クランプネジ8を締め付けることにより、該切削インサート20は工具本体1の先端部3に固定支持される。切削インサート20が工具本体1のインサート取付座4に装着されると、図11に示すように、一対の切れ刃21のうち一方の切れ刃21Aが、先端部3の一側面3Cから先端部3の径方向外方へ向けて突出して配置される。切削時には、切削インサート20の切れ刃21Aが、工具本体1とともに幅方向Yのうち一側面3C側へ向けて溝入れ方向に移動して、被削材の溝入れ加工に供される。
【0080】
本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具50によれば、前述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0081】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具60について、図15〜図20を参照して説明する。尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0082】
本実施形態の刃先交換式溝入れ工具60は、前述の刃先交換式溝入れ工具30、40、50とは工具本体1の先端部3の突出方向Xが異なっている。
この刃先交換式溝入れ工具60は、先端部3が被削材へ向けて突出する突出方向Xと、シャンク部2が延びる長手方向とが互いに異なって設定されている。
【0083】
詳しくは、図17に示すように、シャンク部2の長手方向に対して、先端部3の突出方向Xが角度αだけ傾斜している。角度αは、例えば、0°≦α≦90°の範囲内に設定される。本実施形態では、角度αは45°程度に設定されている。
尚、角度αは、前述の範囲内に限定されるものではない。
【0084】
図17の上面視に示すように、本実施形態においても前述の実施形態と同様に、突出方向Xに対して垂直な向きが先端部3の幅方向Yとされているが、その一方で、該幅方向Yはシャンク部2の長手方向に対して傾斜して設定されている。
また、図20に示すように、刃先交換式溝入れ工具60の先端部3におけるインサート取付座4及びスリット部37は、前述した刃先交換式溝入れ工具30のインサート取付座4及びスリット部37と同様の構成とされている。
【0085】
切削インサート20が、突出方向Xとは反対側に向けてインサート取付座4に挿入された状態で、クランプネジ8を締め付けることにより、該切削インサート20は工具本体1の先端部3に固定支持される。切削インサート20が工具本体1のインサート取付座4に装着されると、図17に示すように、一対の切れ刃21のうち一方の切れ刃21Aが、先端部3の先端面3Eから突出方向Xへ突出して配置される。切削時には、切削インサート20の切れ刃21Aが、工具本体1とともに突出方向Xに沿うように溝入れ方向に移動して、被削材の溝入れ加工に供される。
【0086】
本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具60によれば、前述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0087】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば、前述した実施形態では、刃先交換式溝入れ工具が、被削材の外周面又は内周面に対して溝入れ加工することとしたが、これに限定されるものではなく、例えば被削材に形成された端面に溝入れ加工する構成とされていても構わない。
【0088】
また、前述の実施形態では、スリット部の奥壁面や側壁面が、上断面視において直線状に延びていることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、スリット部の奥壁面や側壁面は、上断面視において直線状以外の凹曲線状等に形成されてもよい。
【0089】
また、第1の実施形態において、先端部3のアゴ寸法が2mm程度に設定されるとしたが、これに限定されるものではない。ただし、先端部3のアゴ寸法が2mm程度に設定された場合には、切削加工時のビビリ振動がより確実に防止されることから望ましい。
【0090】
また、前述の実施形態では、スリット部が先端部3の一側面3C及び先端面3Eに開口して形成されており、他側面3Dには開口されていないこととしたが、これに限定されるものではない。すなわち、スリット部は、少なくとも突出方向Xを向く先端面3Eに開口していればよく、先端部3を先端面3Eから見た正面視において、先端面3E、一側面3C及び他側面3Dに開口して形成されていても構わない。
【符号の説明】
【0091】
1 工具本体
3 先端部
3C 一側面
3D 他側面
3E 先端面
4 インサート取付座
20 切削インサート
21、21A 切れ刃
30、40、50、60 刃先交換式溝入れ工具
37、47、57 スリット部
37A、47A、57A 第1壁面
37D、47D、57D 第2壁面
X 先端部の突出方向
Y 先端部の幅方向
θ1 第1壁面と第2壁面との交差角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃を有する切削インサートと、軸状をなし、先端部に前記切削インサートが着脱自在に装着される工具本体と、を備える刃先交換式溝入れ工具であって、
前記工具本体の先端部が突出する方向を突出方向として、前記先端部には、少なくとも前記突出方向を向く先端面に開口するとともに、前記切削インサートを装着するインサート取付座に連通するスリット部が形成されており、
前記スリット部は、前記突出方向を向く第1壁面と、該第1壁面に交差して連なる第2壁面と、を有していることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項2】
請求項1に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記第1壁面と前記第2壁面との交差角が、180°未満に設定されることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記インサート取付座は、前記先端部における前記突出方向に垂直な幅方向を向く両側面のうち一側面側に配置され、
前記第1壁面は、前記一側面に連なるとともに、前記幅方向に沿うように延びており、
前記第2壁面は、前記第1壁面における前記幅方向の前記一側面側とは反対の他側面側の端部から前記先端面に向けて、前記突出方向に沿うように延びていることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記インサート取付座は、前記先端部における前記突出方向に垂直な幅方向を向く両側面のうち一側面側に配置され、
前記第1壁面は、前記一側面に連なるとともに、該一側面側から前記幅方向の前記一側面側とは反対の他側面側に向かうに従い漸次前記突出方向とは反対側へ向けて延びており、
前記第2壁面は、前記第1壁面の前記他側面側の端部から該他側面側に向かうに従い漸次前記突出方向へ向けて延びていることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−183534(P2011−183534A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53627(P2010−53627)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】