説明

刃物と鞘の係止構造

【課題】簡単な構造で、確実に機能する刃物と鞘の係止構造を実現する。
【解決手段】鋸などの刃物1の刃体3部分を先端から筒状の鞘4に挿入し、挿入した刃物の把持柄2を鞘4の一部に係合させる構造において、鞘4は弾性を有する合成樹脂材で扁平な筒状に成型する。鞘上部における表面板4aと裏面板4bの内接寸法は、挿入する刃物の把持柄2の厚み寸法と近似寸法とし、鞘の上部には、表面板4aと裏面板4bの対向位置に係合孔5を穿設する。鞘4に挿入する刃物の把持柄2の表裏両側面に、鞘に挿入した際に鞘の係合孔5に係合する係合突起6を形成する。係合突起6は円形、係合孔5は鞘の横幅方向の長孔とすることによって、刃物を反転させて鞘に挿入しても係合突起と係合孔を係合させ、右利き、左利きの両方に対応させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋸や鉈などの刃物、主として鋸を携行する際に、刃物の刃部を安全に収容する鞘と刃物との係止構造に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
鋸などの刃物は、安全のために鞘に挿入し、該鞘を腰にぶら下げて携行することが行われている。また、刃物が妄りに脱落しないように刃物と鞘には係止手段を設けるのが一般的である。
上記従来の刃物と鞘の係止手段は、例えば鞘の一部に刃物の柄部分を抱持するベルトを設けるものが知られている。特許文献1に開示されるように、鞘の上部にバネによって内方に付勢される係止体を配置し、係止体の爪を刃物の把持柄に形成した段部に係合させる構造が開示されている。
特許文献2には、鞘の挿入口付近に、先端にフック部を形成したC字形弾性枠板を嵌着し、鋸の柄首の螺着ネジにフック部を係止させる構造が開示されている。また、特許文献3には、鞘体の開口部に鞘体自体の弾性によって把持柄を保持する強制保持部を形成する思想が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−279836号公報
【特許文献2】特開2007−261244号公報
【特許文献3】実用新案登録第3033594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の、鞘の一部に刃物の柄部分を抱持するベルトを設けるものでは、作業中に一々ベルトを着脱する必要があり、取り扱いが面倒であった。また、特許文献1に記載された、バネによって内方に付勢される係止体を配置するものでは、鞘の構造が複雑であってコストアップとなり、製造が面倒であった。特許文献2に記載された、C字形弾性枠板を嵌着するものでは、ケースに対して別部品であるC字形弾性枠板を装着する必要がある。特許文献3に記載された鞘体自体の弾性によって把持柄を保持するものでは、鞘に別部品を装着する必要がない。しかしながら、特許文献2及び3に記載された発明では、常にC字形弾性枠板あるいは鞘の強制保持部が把持柄に対して弾性的に当接することになり、内部応力によって時間の経過とともにC字形弾性枠板あるいは鞘の強制保持部が変形する。この変形によって弾性力が弱くなり、十分な係止機能を果たすことが出来なくなるといった欠点があった。
【0005】
上記、従来技術の欠点に鑑み、本発明は、従来の把持柄と鞘の係止構造のように、別部品を装着する必要がなく比較的簡単な構造で実現することができるものであって、把持柄の変形、経年変化によって係止力が損なわれるようなことがなく、刃物の把持柄と鞘を長期にわたって安定的に係止することができる構造を提供することを目的とする発明である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、把持柄2付の刃物1の刃体3部分を先端から筒状の鞘4に挿入し、挿入した刃物1を鞘4の一部に係合させる構造に関するものである。
前記目的を達成する請求項1記載の発明は、鞘4は弾性を有する合成樹脂材で成型し、上部の表面板4aと裏面板4bの内接寸法が挿入する刃物1の把持柄2の厚み寸法と近似寸法である扁平な筒状とし、鞘4の上部には、表面板4aと裏面板4bの対向位置に係合孔5を穿設する。そして、鞘4に挿入する刃物1の把持柄2の表裏両面に、鞘4に挿入した際に前記鞘の係合孔5に係合する係合突起6を形成することによって、鞘4に挿入した刃物1を鞘に収容した状態に保持する。
【0007】
請求項2記載の発明は、把持柄2に形成する係合突起6を円形とし、鞘4に形成する係合孔5は、鞘4の横幅方向の長孔としたことである。
請求項3記載の発明は、把持柄2の厚み寸法を、鞘4の表面板4aと裏面板4bの内接寸法以下とすることである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、鋸などの刃物1の刃体3を鞘4の上端開口部から挿入し、把持柄2の表裏両面に形成した係合突起6、6を鞘4の表面板4aと裏面板4bの間に押し込むと、係合突起6、6と、鞘4の表面板4aと、裏面板4bに穿設した係合孔5に係合し、この係合状態を維持することによって、刃体3が鞘4に係止され、安全に携行することができる。
【0009】
鞘4は、弾性を有する合成樹脂材で成型されていることと、鞘4上部の表面板4aと裏面板4bの内接寸法が、挿入する刃物1の把持柄2の厚み寸法と近似寸法であることによって、把持柄2の表裏両面に形成した係合突起6、6によって表面板4aと裏面板4bの間隔を無理なく押し開いて挿入し、係合孔5、5に係合させる。係合突起6が係合孔5に係合すると、表面板4aと裏面板4bの間隔が元の状態に復帰し、表面板4aと裏面板4bに無理な力が作用することなく係合孔5と係合突起6の係合状態を維持する。そのため、内部応力による経年変化や疲労で表面板4aと裏面板4bの間隔が広がるようなことがなく、長く係止機能を保持することができる。
【0010】
本発明に係る係止構造は、鞘4上部の表面板4aと裏面板4bに係合孔5、5を穿設することと、把持柄2の表裏両面に係合突起6、6を形成することによって実現するため、別部品などを必要とせず、非常に簡単な構造で係止構造を実現することができる効果がある。換言すれば、刃物と鞘の係止構造を安価に実現することができる効果がある。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、鞘4上部の表面板4aと裏面板4bに穿設する係合孔5、5を長孔とすることによって刃物1の向きを左右いずれの方向に挿入しても係合突起6を係合孔5に係合させることができる。換言すれば、鞘を腰の右、左いずれにぶら下げた状態(右利き、左利きのいずれの場合)でも使用することができる効果がある。
【0012】
把持柄2に形成する係合突起6が、鞘4へ挿入する状態における中心位置に形成されるものであれば、鞘4の幅方向の中心位置に穿設した円形の係合孔5に係合突起6が係合するが、握り易さ等を考慮して把持柄2そのものを変形させるのが普通であり、係合突起6は鞘4の幅方向の中心位置よりも多少変位した位置に配置されるのが普通である。 そのため、係合孔5を長孔とすることによって、刃物1を左右反対に鞘に挿入しても、係合孔5と係合突起6が係合する。これにより、右利き、左利きのいずれにも対応することが可能となる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、刃物1を鞘4に挿入するとき、把持柄の係合突起6、6によって鞘4の表面板4aと裏面板4bは押し広げられる、係合突起6が係合孔5に係合することによって、表面板4aと裏面板4bを押し広げる力がなくなるため、鞘4に変形を生じる可能性がなくなり係止機能を損なうことがない。したがって、より一層永く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、刃物と鞘を分離させた状態で示す正面図、
【図2】図2は、刃物を挿入した状態の鞘の縦断面図、
【図3】図3は、把持柄を挿入する状態を示す、鞘の上部のみの断面図、
【図4】図4は、刃物を左右反対に挿入する状態を示す鞘上部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る刃物と鞘の係止構造の実施形態を、添付の図面に基づいて説明する。
図1は、刃物と鞘を分離させた状態で示す正面図である。刃物1は、携帯用の鋸であって、刃体3の基部に湾曲させた把持柄2を装着している。
【0016】
鞘4は、弾性を有する合成樹脂材で一体に成型する。合成樹脂財で成型する鞘4は、扁平な筒状であって、上端の開口部4cから刃物1の刃体3を挿入し、鞘4の上部に把持柄2の一部を挿入させるものである。すなわち、刃物1が鋸である場合、刃体3が非常に薄いものであるため、図2に示すように筒状である鞘のうち、刃体3が挿入される部分は表面板4aと裏面板4bの間隔を狭く、鞘4の上部の表面板4aと裏面板4bの間隔は、把持柄2の先端部分を挿入することができる間隔に形成する。
【0017】
鞘4の裏面板4bの上端部分には、吊り下げ片7を取り付け、この吊り下げ片7を利用して作業者の腰ベルトなどに鞘を吊り下げて携行することができるようにしている。このとき、右利きの人は右側に、左利きの人は左側に鞘を吊り下げる。
把持柄2の先端部分が挿入される鞘4の上部には、表面板4aと裏面板4bのそれぞれ対向位置に、係合孔5、5を穿設している。
【0018】
鞘4に挿入する刃物1の把持柄2には、表裏両側面に、前記した鞘4の係合孔5、5に係合する係合突起6、6を設けている。すなわち、刃物1を鞘4上端の開口部4cから挿入し、把持柄6の先方部分が、鞘4の上部に入り込んだときに、把持柄2の側面に形成した係合突起6、6が、鞘の上部に穿設した係合孔5、5に係合し、刃物1と鞘4の係合状態が維持され、安全に携行することができるものである。
【0019】
刃物1と鞘4の係合状態を確実に維持するために、鞘4の上部における係合孔5、5を穿設する部分の表面板4aと裏面板4bの間隔Wと、把持柄2の係合突起6、6を形成する部分の厚みTをほぼ等しい寸法に形成する。表面板4aと裏面板4bの間隔Wが、把持柄2の厚みTよりも微妙に大きなものであっても、表面板4aと裏面板4bの間隔を押し広げた状態で刃物1を保持することができるものであるが、把持柄2の厚みTが、表面板4aと裏面板4bの間隔以下であると、把持柄2の係合突起6、6で表面板4aと裏面板4bの間隔を押し広げながら挿入し、係合孔5、5に係合突起6、6が係合することによって元の間隔Wに復帰する。これにより、鞘4に内部応力が残留することがなくなり、鞘4の変形を回避することができる。したがって、鞘4に挿入した刃物1をいつまでも確実に保持することができる。ただし、鞘4の内側面と挿入した刃物の把持柄の間に大きな隙間が形成される状態は、携行時に把持柄がガタ付くため、なるべく隙間は小さいものであることが好ましい。
【0020】
鞘4に穿設する係合孔5、5は、係合突起6、6と係合するものであれば、係合孔及び係合突起のいずれもが円形であってもよい。しかしながら、図示実施形態では、係合突起6、6を円形とし係合孔5、5は鞘4の横幅方向の長孔としている。そして、係合孔5、5は、鞘4の横幅方向の略中心位置に配置している。
鞘4に形成した円形の係合孔5、5に、把持柄2に形成した円形の係合突起6、6を係合させるためには、係合孔5と係合突起6の位置を正確に合わせる必要がある。係合孔5と係合突起6の位置を合わせるには、鞘の横幅方向の中心位置に対応する把持柄2の表裏両面に、係合突起6、6を配置することによって、把持柄を左右反転させても鞘の中心に穿設した円形の係合孔5に係合させることができる。
【0021】
しかしながら、把持柄2を握り易い形状に湾曲させる場合、係合突起6は鞘の幅方向の中心位置からずれた位置に形成することになる。したがって、鞘4の表面板4a及び裏面板4bに穿設する係合孔5を横幅方向の長孔に形成することによって、図4に示すように刃物を実線で示す右利き用の挿入状態と、二点鎖線で示す左利き用の挿入状態のいずれの場合にも、係合突起6を係合孔5に係合させることができる。すなわち、図4における実線の挿入位置においては、係合突起6が係合孔5の左側に係合し、二点差線の挿入位置においては係合突起が係合孔5の右側に係合する。
【符号の説明】
【0022】
1…刃物、 2…把持柄、 3…刃体、 4…鞘、 4a…表面板、 4b…裏面板、 4c…開口部、 5…係合孔、 6…係合突起、 7…吊り下げ片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持柄付の刃物の刃体部分を先端から筒状の鞘に挿入し、挿入した刃物を鞘の一部に係合させる構造において、
鞘は弾性を有する合成樹脂材で成型し、上部における表面板と裏面板の内接寸法が、挿入する刃物の把持柄の厚み寸法と近似寸法である扁平な筒状とし、該鞘の上部には、表面板と裏面板の対向位置に係合孔を穿設するとともに、
鞘に挿入する刃物の把持柄の表裏両面に、鞘に挿入した際に前記鞘の係合孔に係合する係合突起を形成したことを特徴とする刃物と鞘の係止構造。
【請求項2】
把持柄に形成する係合突起を円形とし、鞘に形成する係合孔は、鞘の横幅方向の長孔としたことを特徴とする請求項1記載の刃物と鞘の係止構造。
【請求項3】
把持柄の厚み寸法は、鞘の表裏壁間の内接寸法以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の刃物と鞘の係止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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