説明

分子認識センサ

【課題】装置の複雑化及びコストの上昇を招くことなく、温度及び湿度のような外乱の影響を排除できる分子認識センサを得ること。
【解決手段】ポンプ12の起動により配管13に送り込まれた試料水に、標識発光物質添加部14からの標識発光物質が添加され、この試料水が標識発光物質反応部15に送られる。すると、試料水中のカビ臭物質と標識発光物質とが反応して両者が結合した後、これらを含む試料水が反応後試料導入部16内に導入される。反応後試料導入部16内に配設されている認識材料17の鋳型部は、標識発光物質と結合したカビ臭物質を捕捉する。そして、光検出部20は、光の照射及び受光によりカビ臭物質の存在を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子インプリンティングにより作成された認識材料を用いて、任意の環境下における認識対象分子の存在の有無を検出する分子認識センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境測定などの分野においては、化学物質の計測・識別などに様々な分析機器やセンサが開発、使用されている。これらセンサにおいて近年注目されている技術に、分子インプリンティングがある。これは、有機化合物合成技術を用いてセンサ素子に分子認識機能を持たせ、化学物質を検出するための技術である。
【0003】
すなわち、分子インプリンティングは、認識、識別、あるいは捕捉しようとする対象分子(以下、本明細書では「認識対象分子」と呼ぶ)と架橋剤、重合開始剤などとを共存させた条件で重合反応させ、その重合反応物から認識対象分子を抽出することにより、この認識対象分子を捕捉可能な鋳型部を有する材料(以下、本明細書では「認識材料」と呼ぶ)を作成する技術である。
【0004】
このような分子インプリンティングにより作成された認識材料を利用して認識対象分子を検知する技術として、例えば、特許文献1あるいは特許文献2に開示されたものがある。特許文献1の技術は、上水道分野で問題となっているカビ臭物質を認識対象分子とするものであり、水晶振動子表面に固着した認識材料がその鋳型部でカビ臭物質を捕捉したときに、共振周波数が一定レベル以上変化することを利用してカビ臭物質の存在を検知しようとするものである。また、特許文献2の技術は、シックハウスの原因物質となるアセトアルデヒドを認識対象分子とするものであり、認識材料を水晶振動子表面に固着する構成を有するという点では特許文献1と同様である。但し、この特許文献2では、認識材料として鋳型部を有するもの(測定用素子)と有さないもの(参照用素子)との2種類を作成しておき、前者の周波数変化と後者の周波数変化との差に基づき、温度及び湿度の影響を排除して精度を高めるという工夫がなされている。
【特許文献1】特許第3243937号公報
【特許文献2】特開2002−39934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、認識材料を水晶振動子表面に固着した構成を有する分子認識センサは、温度及び湿度のような外乱の影響が大きくなってしまうという欠点を有している。特許文献2に係る分子認識センサは、このような欠点を参照用素子を追加することにより補おうとしているが、このような参照用素子を追加することは一方で装置の複雑化及びコストの上昇を伴うことになる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、装置の複雑化及びコストの上昇を招くことなく、温度及び湿度のような外乱の影響を排除できる分子認識センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、請求項1記載の発明は、分子インプリンティングにより作成された認識材料を認識対象分子が存在する可能性のある環境下に設け、この認識材料が有する鋳型部に認識対象分子が捕捉されたときの所定物理量の変化に基づき、認識対象分子の有無を検出する分子認識センサにおいて、前記認識対象分子を含む可能性のある試料に対して標識発光物質を添加する標識発光物質添加部と、前記試料中の認識対象分子と前記添加された標識発光物質とを反応させる標識発光物質反応部と、前記標識発光物質反応部からの反応後試料を導入し、この導入した反応後試料に接触するように前記認識材料が配設された反応後試料導入部と、前記反応後試料導入部に配設された前記認識材料に対して発光を行う発光器、及び該発光に基づき該認識材料から発せられる光を受光する受光器を有する光検出部と、を備え、前記所定物理量の変化として前記受光器の受光量の変化を用いた、ことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記認識材料の鋳型部は、複数種類の前記認識対象分子を捕捉可能なものである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記構成により、装置の複雑化及びコストの上昇を招くことなく、温度及び湿度のような外乱の影響を排除できる分子認識センサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明に係る分子認識センサの認識材料の具体的作成方法につき説明する。例えば、ジメタクリル酸エチレングリコールを架橋剤として用い、認識対象分子に化学的に結合する物質(例えばメタクリル酸)と認識対象分子とを重合させて、認識対象分子の分子構造などを記憶させた有機化合物を作成する。
【0011】
この場合、認識対象分子は1種類に限ることはなく、数種類同時に存在させた条件下で重合させてもよい。類似構造を持つ物質はその化学的特性も類似しているものが多く、それらを同時に存在させた条件で重合させることにより、その類似化学種をまとめて認識することが可能となる。
【0012】
例えば、トリアジン系除草剤農薬は、図1(a)に示すような基本骨格をもち、その側鎖の種類によって、図1(b)の表に掲げるように、アトラジン、シマジン、シアナジン、プロメトリン、アメトリンなどがある。これら全てを認識対象分子として共存させた条件で、クロロホルム、メタクリル酸、ジメタクリル酸エチレングリコール、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)などと混合し、混合液を真空脱泡後、窒素ガスで置換する。雰囲気温度を0〜10℃程度に設定し、波長365nm近傍の紫外線を10〜20時間程度照射して重合体を形成させる。粉砕して微粒子形状とし、酢酸−メタノール混合溶液などの極性溶媒で洗浄し、重合体中から対象物質を抽出、乾燥させることにより、これらトリアジン系除草剤農薬を認識できる有機化合物を得ることができる。
【0013】
重合は紫外線照射によるものではなく、40〜60℃程度の雰囲気中で加熱重合させてもよい。なお、合成した重合体は必ずしも粉砕する必要はなく、合成した重合体を薄膜状に切り取ってもよいし、重合時に薄膜として形成させてもよい。また、構造などは異なるが検知したい物質として同じ項目に属するような物質を同時に存在させた条件で重合させることにより、その種類の特定はできないが、それらのいずれかが存在することを認識することが可能となる。
【0014】
例えば、カビ臭物質として知られる、ジェオスミンおよび2−メチルイソボルネオールを認識対象分子とし、前述と同様な方法で重合反応を行うことにより、これらカビ臭物質を認識できる有機化合物を得ることができる。また、重合時に有機物の架橋剤を用いるのではなく、例えばケイ酸アルコキシドなどを用いて有機物質と無機物質との複合材料を得ることができる。予め対象物質とケイ酸アルコキシドを化学結合させて、対象物質に重合活性部位を付与しておき、ケイ酸アルコキシドの加水分解と縮重合を経由するゾルーゲル重合によって、対象物質がシリカに結合した有機物質と無機物質の複合体が形成され、化学的手段によって対象物質とケイ酸アルコキシドとの化学結合を切断することにより、認識材料を得ることができる。
【0015】
次に、上記のような認識材料を用いた本発明の分子認識センサの構成を説明する。図2は、本発明の第1の参考例の構成図である。この図において、認識対象分子すなわちカビ臭物質を含んでいる可能性のある試料水は、配管1の入口からポンプ2により蒸発槽3内部に送り込まれるようになっている。この蒸発槽3には温度調節器(図示せず)が取り付けられており、試料水の一部が蒸発して気体になる程度まで内部温度を上昇できるようになっている。蒸発槽3で発生した気体は配管4から図示を省略した次処理プロセスに送られるようになっているが、一部は連結管5を介して角速度センサ8が配設されている恒温槽6内に送り込まれるようになっている。この恒温槽6内に送り込まれた気体も配管7から図示を省略した次処理プロセスに送られるようになっている。
【0016】
角速度センサ8は、コリオリの力を利用したリング型振動子を有するものであり、一般には、自動車等の各種乗り物やロボット等の各種機器における姿勢制御、あるいはカメラなどの防振装置やGPSコンパス等に広く用いられているものである。そして、この角速度センサ8の振動子表面に上記の認識材料が固着されている。この認識材料の固着は、あらかじめ作成しておいた認識材料を振動子表面に接着することにより行ってもよいが、認識対象分子及び架橋剤を含んだ混合液を振動子表面に塗布し、この振動子表面上で重合反応を起こさせることにより認識材料を形成させるようにしてもよい。
【0017】
角速度センサ8からの信号は演算部9に出力され、演算部9はこの信号の入力に基づき認識対象分子検知のための演算を行う。そして、この演算結果は表示部10で表示されるようになっている。
【0018】
次に、図2の動作につき説明する。ポンプ2の起動により、配管1の入口からカビ臭物質を含んでいる可能性のある試料水が蒸発槽3内に送り込まれ、温度調節器で設定された温度まで加温される。加温された試料水の一部は蒸発されて気相となり、連結管5を介して恒温槽6内に送り込まれるが、もし試料水中にカビ臭物質が含まれていたならば、このカビ臭物質も同時に恒温槽6内に送り込まれる。
【0019】
恒温槽6内に配設されている角速度センサ8は、鋳型部により送り込まれてきたカビ臭物質の一部を捕捉するが、これにより角速度センサ8の振動子の角速度が変化する。演算部9は、角速度センサ8からの角速度検出信号を入力しており、このときの角速度変化が一定レベル以上である場合にカビ臭物質の存在を検知する。このときの検知信号は表示部10に出力され、表示部10はカビ臭物質が試料水中に含まれていることを画面上に表示する。
【0020】
上記の第1の参考例では、認識材料の鋳型部が認識対象分子を捕捉した後の、物理量変化の検出手段として従来の水晶振動子に代えて角速度センサを用いている。この角速度センサは、水晶振動子に比べて温度及び湿度等の外乱に強く、またコスト的にも有利であるという特質を有している。また、最近のセンサ技術の発達により、この角速度センサは、分子レベルの微少な質量変化についても検出可能になっている。角速度センサは、前述したように、一般的には各種乗り物や各種機器における姿勢制御等に用いられるものであるが、本発明では、認識材料と組み合わせることによって、カビ臭物質などの微小な認識対象分子を検出する手段として利用している。このように、本発明の第1の参考例では、角速度センサを通常想定されている一般的な用途とは全く異なる用途に用いることにより、装置の複雑化及びコストの上昇を招くことなく、温度及び湿度のような外乱の影響を排除できる分子認識センサを実現している。
【0021】
なお、第1の参考例では、物理量変化の検出手段として角速度センサを用いていることから、認識対象分子は、気相中に含まれるものであることが好ましく、加熱等の温度変化により発生するものの他に、放電などの電気現象により生じるものや、生体反応又は酵素反応等により生じるものも含まれる。したがって、図1における角速度センサ8が配設される場所は、必ずしも恒温槽6内に限定されるわけではなく、蒸発槽3も省略されることがあり得る。
【0022】
また、第1の参考例では、認識材料の鋳型部は、複数種類の認識対象分子が捕捉されるものであることを想定しており、演算部9は、角速度センサ8から検知信号を入力した場合、これら複数種類のうちの少なくともいずれかの認識対象分子が試料水中にふくまれていることを判別する。しかし、この認識対象分子を複数種類ではなく1種類のみに限定することも可能である。この場合には、演算部9は、角速度センサ8からの検知信号を入力した場合に、この認識対象分子の種類を明確に特定することができ、また、角速度の変化量から試料水中に含まれる認識対象分子の量をある程度推測することもできる。
【0023】
図3は、本発明の実施形態の構成図である。この実施形態は、試料水中に蛍光剤などの標識発光物質を添加し、これに光を当てたときの受光量の変化に基づき認識対象分子の存在を検知するようにしたものである。すなわち、図3において、カビ臭物質などの認識対象分子を含む可能性のある試料水は配管11の入口からポンプ12により配管13側へ送り込まれるようになっている。配管13には、標識発光物質添加部14が接続されており、配管13から送り込まれてきた試料水に蛍光剤などの標識発光物質が添加されるようになっている。この蛍光剤としては、例えば、フルオロセイン色素、ローダミン色素、インドシアニン色素、マレイミド色素、カルセイン色素、金属錯体形成蛍光物質等がある。また、蛍光剤以外の標識発光物質としては、例えば、環状ヒドラジド化合物(ルミノール系)、シュウ酸エステル系、アクリジウム系、ルシフェリン系などの化合物がある。
【0024】
標識発光物質添加部14からの標識発光物質が添加された試料水は標識発光物質反応部15に送られ、ここで所定時間滞留されて試料水中の認識対象分子と標識発光物質とが結合されるようになっている。なお、この標識発光物質反応部15内の環境は、試料水中の認識対象分子と標識発光物質との結合が容易に行われるように設定されている。
【0025】
標識発光物質反応部15において、標識発光物質との反応により、この標識発光物質が認識対象分子に結合した状態の試料(本明細書ではこれを「反応後試料」と呼ぶ)は、内部に認識材料17が配設された反応後試料導入部16に送り込まれるようになっている。この認識材料17は、既述した第1の参考例におけるものと基本的に同様の方法により作成されるものであるが、鋳型部の形成は、上記の標識発光物質と結合した状態の認識対象分子を、クロロホルム、メタクリル酸、ジメタクリル酸エチレングリコール、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)などと混合すること等により行う。これにより、標識発光物質と結合した認識対象分子を捕捉可能な機能を有する認識材料17を得ることができる。
【0026】
反応後試料導入部16付近には、発光器18及び受光器19を有する光検出部20が設置されている。そして、受光器19からの信号は演算部21に出力され、演算部21はこの信号の入力に基づき認識対象分子検知のための演算を行い、この演算結果が表示部22で表示されるようになっている。
【0027】
次に、図3の動作につき説明する。ポンプ12の起動により配管11の入口からカビ臭物質を含んでいる可能性のある試料水が配管13側に送り込まれる。そして、標識発光物質添加部14からの標識発光物質が添加された試料水が標識発光物質反応部15に送られる。このとき、もし試料水中にカビ臭物質が含まれていれば、このカビ臭物質と標識発光物質とが反応し、両者が結合する。次いで、標識発光物質反応部15からの反応後試料水が反応後試料導入部16内に導入される。
【0028】
すると、反応後試料導入部16内に配設されている認識材料17の鋳型部は、標識発光物質と結合した状態のカビ臭物質を捕捉する。そして、光検出部20の発光器18は、標識発光物質特有の波長を有する光を照射する。この光の照射によって、カビ臭物質に結合している標識発光物質は光を励起し、この励起光を受光器19が受光する。受光器19は、このときの受光量に対応する信号を演算部21に出力しており、演算部21はこの信号レベルが所定レベル以上である場合にカビ臭物質の存在を検知する。このときの検知信号は表示部22に出力され、表示部22はカビ臭物質が試料水中に含まれていることを画面上に表示する。
【0029】
上記の実施形態では、試料水に蛍光剤などの標識発光物質を添加して、これを認識対象分子に結合させるようにしておき、更にこの認識対象分子を鋳型部で捕捉した認識材料に対して発光作用を行ったときの受光量に基づき、この認識対象分子の存在を検知するようにしている。この実施形態に係る分子認識センサも、水晶振動子を用いた従来センサに比べて温度及び湿度等の外乱に強く、またコスト的にも有利なものとなっている。更に、既述した第1の参考例は、角速度センサを用いている構成上、温度及び湿度には強いが振動にはそれほど強くないという性質を有しているが、この実施形態は温度及び湿度のみならず振動にも強いというメリットを有している。
【0030】
なお、この実施形態では、認識材料が認識対象分子を検知するときの試料の状態は気相又は液相のいずれであってもよい。ただし、液相の場合には、認識対象分子は溶媒に溶存又は懸濁しているものとし、また、試料を認識材料に接触させる方式は、流通式又は回分式のいずれであってもよい。
【0031】
次に、本発明の第2の参考例につき説明する。この第2の参考例は、認識材料に認識対象分子が捕捉された場合の電気的特性を変化し得る機能を具備させておき、この電気的特性の変化の検出に基づき認識対象分子の存在を検知するようにしたものである。認識材料にこのように電気的特性を変化し得る機能を具備させるには、例えば2つの手法が考えられる。
【0032】
一つは、認識材料を重合により作成する際に、架橋剤に導電性高分子を用いる手法である。導電性高分子には、例えば、共役2重結合などで繋がった炭素原子鎖を骨格とし、π電子の非局在化によって半導体的な性質を示す共役系有機高分子がある。これらの具体例としては、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィドなどの鎖状共役導電性高分子を挙げることができ、また、アクリル酸誘導体からなる3次元のポリマーネットワークを持つ導電性高分子もある。
【0033】
他の手法は、認識材料を重合により作成する際に、認識対象分子及び架橋剤を含む混合液中に導電性物質を添加して重合反応を行う手法である。例えば、銅、銀、黒鉛などのナノオーダー粒径の導電性物質を高分子内に分散させて重合・合成を行う手法である。
【0034】
これらの手法により作成した認識材料の鋳型部が認識対象分子を捕捉すると、認識材料の電気的特性が変化し、所定の電気量が変化するため、この電気量の変化を検出することにより認識対象分子の存在を検知することができる。この所定の電気量としては、例えば、認識材料の静電容量、電流値、電圧値、電気伝導度などがあり、これらの電気量のうちどれを用いるかについては条件に応じて種々に設定することが可能である。例えば、静電容量、電流値、電圧値、電気伝導度の全てを検出するようにしてもよいし、あるいはこれらのどれか一つで足りることもあり得る。
【0035】
図4は、このような本発明の第2の参考例の構成図である。この図において、ガラス又はプラスチック等の材料により形成された基板23上に、認識対象分子を含む可能性のある試料水を導入するための流路24が配設されている。この流路24は、パイプ等の材料により形成してもよく、あるいは基板23の表面に彫った溝により形成してもよい。この流路24はマイクロポンプ25を介して試料導入部26に接続されている。そして、この試料導入部26内に、上記のように電気的特性を変化し得る機能が具備された認識材料27が配設されている。認識材料27には電極28a,28bが接続されており、電気量検出部29はこの電極28a,28bを介して、認識材料27の静電容量、電流値、電圧値、電気伝導度のうちの少なくともいずれか一つを含む電気量を検出するようになっている。また、電気量検出部29からの信号は演算部30に出力され、表示部31はこの信号の入力に基づき認識対象分子検知のための演算を行い、この演算結果が表示部31で表示されるようになっている。
【0036】
次に、図4の動作につき説明する。マイクロポンプ25の起動により、認識対象分子を含んでいる可能性のある試料水が流路24の入口から入り、試料導入部26へ導入される。試料水中にもし認識対象分子が含まれていれば、この試料導入部26に配設された認識材料27は、その鋳型部で認識対象分子を捕捉する。この捕捉により、認識材料27の電気的特性が変化し、所定の電気量の変化が電極28a,28b間の電位差として現れ、電気量検出部29により検出される。演算部30は、電気量検出部29が検出した電気量の変化が一定レベル以上である場合に認識対象分子の存在を検知する。このときの検知信号は表示部31に出力され、表示部31は認識対象分子が試料水中に含まれていることを画面上に表示する。
【0037】
上記のように、第2の参考例では、認識材料が認識対象分子を捕捉したときの電気的特性を変化させるようにしておき、この電気的特性の変化に基づき、認識対象分子の存在を検知するようにしている。したがって、この第2の参考例も、本発明の実施形態と同様に、温度及び湿度更には振動等の外乱に強く、またコスト的にも有利なものとなっている。また、認識材料が認識対象分子を検知するときの試料の状態は気相又は液相のいずれであってもよい。
【0038】
図5は、本発明の第3の参考例の要部構成図である。この図5は、図4における構成要素27〜29に対して置換可能な構成要素のみを図示したものである。すなわち、試料導入部26内にn-Si基板(半導体基板)32が配設されており、このn-Si基板32の一方の表面に薄膜状認識材料33及び第1の薄膜電極34が形成されている。なお、図5の図示では、認識材料33の上に電極34が形成されているように見えるが、これと垂直方向からの図示によれば認識材料33及び電極34は共にn-Si基板32の一方の表面に形成されている。つまり、認識材料33と試料水との接触スペースを充分に確保するために、認識材料33の全面が電極34により覆われることのないようになっている。
【0039】
また、n-Si基板32の他方の表面には第2の薄膜電極35が形成されている。この第2の薄膜電極35には、孔部36が設けられており、この孔部36に対向する位置に光照射手段としてのLED37が配設されている。そして、第1及び第2の薄膜電極34,35に電気量検出部としての光電流検出器38が配設されている。
【0040】
なお、薄膜状認識材料33は、有機化合物のみにより形成されたもの、又は有機化合物と無機化合物との複合により形成されたもののいずれであってもよいものとする。また、第1の薄膜電極34はAu電極、第2の薄膜電極35はAl電極であり、これらはいずれもスパッタリング等によりn-Si基板32の表面上に形成されたものである。
【0041】
次に、図5の動作につき説明する。試料導入部26内に認識対象分子を含んでいる試料水が導入されている状態では、LED37が孔部36に対して光を照射している。電極34,35間に配設されているn-Si基板32は積層構造体であり、この光照射によって両端間に電位差が生じて電極34,35間にバイアス電圧が印加された状態となる。
【0042】
そして、試料水中の認識対象分子が薄膜状認識材料33の鋳型部に捕捉されると、n-Si基板32の有機化合物層の静電容量が変化し、これが電極34,35間のバイアス電圧の変化となって現れる。光電流検出器38は、このバイアス電圧の変化により生じる光電流の変化を検出し、その変化が一定レベル以上である場合に認識対象分子の存在を検知する。
【0043】
上記のように、図4の第2の参考例は、認識材料自体が認識対象分子捕捉時の電気的特性を変化させる構造を有していたのに対し、この図5の第3の参考例では、認識材料に半導体基板を組み合わせ、認識材料が認識対象分子を捕捉したときに、この半導体基板に電気的特性を変化させる構成としている。したがって、この第3の参考例も、第2の参考例と同様に、温度及び湿度更には振動等の外乱に強く、またコスト的にも有利なものとなる。また、この第3の参考例においても、認識材料が認識対象分子を検知するときの試料の状態は気相又は液相のいずれであってもよい。
【0044】
なお、上述した実施形態、並びに第2及び第3の参考例では、認識材料の鋳型部が複数種類の認識対象分子を捕捉可能なものであることを想定しているが、この捕捉可能な認識対象分子を複数種類ではなく1種類のみに限定し得ることは、第1の参考例と同様である。また、1種類に限定した場合には、認識対象分子の種類を明確に特定することができ、認識対象分子の量をある程度推測できることも同様である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の各実施形態における認識対象分子の具体例を示す説明図であり、(a)はトリアジン系農薬の基本骨格を示す化学式、(b)はトリアジン系農薬の名称及び側鎖を示す図表である。
【図2】本発明の第1の参考例の構成図。
【図3】本発明の実施形態の構成図。
【図4】本発明の第2の参考例の構成図。
【図5】本発明の第3の参考例の要部構成図。
【符号の説明】
【0046】
1 配管
2 ポンプ
3 蒸発槽
4 配管
5 連結管
6 恒温槽
7 配管
8 角速度センサ
9 演算部
10 表示部
11 配管
12 ポンプ
13 配管
14 標識発光物質添加部
15 標識発光物質反応部
16 反応後試料導入部
17 認識材料
18 発光器
19 受光器
20 光検出部
21 演算部
22 表示部
23 基板
24 流路
25 マイクロポンプ
26 試料導入部
27 認識材料
28a,28b 電極
29 電気量検出部
30 演算部
31 表示部
32 n-Si基板
33 薄膜状認識材料
34 第1の薄膜電極
35 第2の薄膜電極
36 孔部
37 LED
38 光電流検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子インプリンティングにより作成された認識材料を認識対象分子が存在する可能性のある環境下に設け、この認識材料が有する鋳型部に認識対象分子が捕捉されたときの所定物理量の変化に基づき、認識対象分子の有無を検出する分子認識センサにおいて、
前記認識対象分子を含む可能性のある試料に対して標識発光物質を添加する標識発光物質添加部と、
前記試料中の認識対象分子と前記添加された標識発光物質とを反応させる標識発光物質反応部と、
前記標識発光物質反応部からの反応後試料を導入し、この導入した反応後試料に接触するように前記認識材料が配設された反応後試料導入部と、
前記反応後試料導入部に配設された前記認識材料に対して発光を行う発光器、及び該発光に基づき該認識材料から発せられる光を受光する受光器を有する光検出部と、
を備え、前記所定物理量の変化として前記受光器の受光量の変化を用いた、
ことを特徴とする分子認識センサ。
【請求項2】
前記認識材料の鋳型部は、複数種類の前記認識対象分子を捕捉可能なものである、
ことを特徴とする請求項1記載の分子認識センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−111853(P2008−111853A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13540(P2008−13540)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【分割の表示】特願2003−351668(P2003−351668)の分割
【原出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】