分子間相互作用計測装置及び方法
【課題】 リアルタイムで測定を行うことができ、多数の被検溶液をハイスループットで測定することができる分子間相互作用計測装置及び方法を提供する。
【解決手段】 容器に収容された試料から発せられる光を測定し、試料の物理的、あるいは化学的な性質を測定する測定装置において、試験サンプル、試薬、洗浄液の少なくとも1つの溶液をそれぞれ供給する溶液供給手段を有する分子間相互作用計測装置である。
【解決手段】 容器に収容された試料から発せられる光を測定し、試料の物理的、あるいは化学的な性質を測定する測定装置において、試験サンプル、試薬、洗浄液の少なくとも1つの溶液をそれぞれ供給する溶液供給手段を有する分子間相互作用計測装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の結合、分解および解離反応の過程をリアルタイム、または、ハイスループットで測定することが可能な分子間相互作用を計測するための装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、分子間相互作用を解析する手法として、FCS(蛍光相関分光法)やFIDA(蛍光強度分布解析法)等が知られている(例えば、非特許文献1参照)。これらの解析手法では、ともに、サンプルを複数の溶液に混合した後、96あるいは384等のマルチウエルのタイタープレートにサンプルを分注し測定する。そして、この測定では、溶液を分注したウエルを所定の測定部に載置して、微小な位置合わせ、サンプルへの焦点合わせが必要である。
【非特許文献1】Biophysical Journal Vol. 79 Dec.2000 2858-2866
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、従来のFCS、FIDA測定装置では、測定用の容器に溶液を添加して調整した後に、その容器を測定部に載置して、測定しようとするウエルが所定の位置になるように精度良く調整し、更に、フォーカッシングを行う必要がある。しかしながら、これらの調整には時間を要するため、溶液調整後直ちにリアルタイムで測定を行うことは困難であった。従って、急激に起こる反応系に対処することはできず、また、一連の反応を順次展開していく実験、あるいは途中で反応を止めるような実験を行うことができなかった。
【0004】
さらに、事前準備として上述のように種々の工程(ウエルへの位置合わせ、フォーカッシングなど)が必要であったため、多数の被検溶液をハイスループットで測定することも困難であった。
【0005】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであって、リアルタイムで測定を行うことができ、多数の被検溶液をハイスループットで測定することができる分子間相互作用計測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明に係る請求項1に記載の分子間相互作用計測装置は、容器に収容された試料から発せられる光を測定し、試料の物理的、あるいは化学的な性質を測定する測定装置において、試験サンプル、試薬、洗浄液の少なくとも1つの溶液をそれぞれ供給する溶液供給手段を有する。
【0007】
また、本発明に係る請求項2に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、供給した少なくとも1つの溶液を攪拌する攪拌手段をさらに有する。
【0008】
また、本発明に係る請求項3に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、供給された溶液の温度を制御する温度制御手段を更に有する。
【0009】
また、本発明に係る請求項4に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、供給された溶液を排出する溶液排出手段をさらに具備している。
【0010】
また、本発明に係る請求項5に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、供給された溶液を保持する保持手段と、前記保持手段を洗浄する洗浄手段と、前記溶液に光を集光する集光手段とを更に有し、前記保持手段に前記集光手段が接続されている。
【0011】
また、本発明に係る請求項6に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、前記溶液排出手段の排出動作は、コンピュータによって制御される。
【0012】
また、本発明に係る請求項7に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、前記コンピュータは、入力された一連の測定条件に基づいて、分子間相互作用計測装置の動作を制御する。
【0013】
また、本発明に係る請求項8に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、手動で前記溶液を注入できる手動注入手段を具備する。
【0014】
また、本発明に係る請求項9に記載の分子間相互作用計測方法は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置を用いて分子間における相互作用を計測する方法において、 複数の試料と、当該複数の試料の各々の分子と結合または前記分子を分解することができる少なくとも1つの物質とを順次混合して、複数の試験混合物を作成する工程と、前記少なくとも1つの物質と前記分子との結合及び分解状態を測定する工程とを備えた。
【0015】
また、本発明に係る請求項10に記載の分子間相互作用計測方法は、上記記載の発明である分子間相互作用計測方法において、前記試料は、核酸、ペプチド、酵素基質からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を蛍光標識したものであり、前記物質は、タンパク質、抗体、ペプチド、核酸からなる群から選ばれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リアルタイムで測定を行うことができ、多数の被検溶液をハイスループットで測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る分子間相互作用計測装置1の構成を示す図である。分子間相互作用計測装置1は、1分子蛍光分析装置2、インジェクション装置3及び制御装置4を備えている。そして、1分子蛍光分析装置2には測定部5が設けられ、インジェクション装置3には複数の溶液容器6と排出容器7が備えられている。
【0018】
1分子蛍光分析装置2は、FCSあるいはFIDAを用いて分子間の相互作用を計測する。インジェクション装置3は、1分子蛍光分析装置2に溶液を供給するとともに、測定に使用した溶液を排液として回収する。制御装置4は、分子間相互作用計測装置1の動作を統括して制御する。この制御装置4により、分子間相互作用計測装置1は自動で動作する。
【0019】
そして、測定部5は、試料溶液を受け入れて、位置調整を行い、排液を排出などする機構を備えている。溶液容器6は、試料溶液を貯蔵する。排出容器7は、排液を貯蔵する。
【0020】
図2は、測定部5の構成を示す斜視図である。測定チャンバ10は、試料溶液を受け入れて保持し、排液を排出する。そして、測定チャンバ10には、インジェクション装置3から供給される溶液を受け入れるための溶液受入部11と測定後の溶液をインジェクション装置3に排出するための溶液排出部12が設けられている。また、この測定チャンバ10には、試料に対して励起光を収束させ、試料から発せられた蛍光を解析装置に導くための対物レンズ13が接続されている。
【0021】
図2に示すように、溶液受入部11は複数設けられており、複数の溶液を供給することができる。複数の溶液として、サンプル、バッファー、洗浄液等を供給することが可能である。対物レンズ13は液浸対物レンズを用いることが好ましく、対物レンズ13と測定チャンバ10の間に、媒質として、水やオイルを用いることができる。
【0022】
測定溶液を保持する手段である測定チャンバ10と測定溶液からの信号を取得する手段である対物レンズ13とは、対物レンズ13と測定チャンバ10との相対的な位置が変わらないように固定されている。ただし、固定されていても装置のセットアップのためのわずかな移動は可能な状態であってもよい。したがって、対物レンズ13と測定チャンバ10が一体に構成されていても良く、別体で固定されていても良い。対物レンズと測定チャンバ10が一体に構成されている場合に、好ましい液浸媒質であるオイルを、両者の間に封入しておくことができる。
【0023】
図3は、分子間相互作用計測装置1における、溶液の供給、排出、洗浄及び混合機能を説明するためのブロック図である。図3を参照しつつ、構成と動作について説明する。
【0024】
溶液を受け入れるための測定容器14は、積載部15上に載置されている。そして、測定容器14には、超音波振動子16が設けられ、測定容器内の溶液、洗浄液を攪拌する。この積載部15には、流水通路17が接続され、温度調節機構18を介して所定温度に制御された温水がポンプ19により循環され、溶液の温度を制御する。
【0025】
溶液は、インジェクション装置3の溶液容器6からポンプ20によって、測定容器14に供給される。なお、溶液の供給経路には、3方弁21が設けられている。そこで、この3方弁21を切り替えることによって、ユーザは、手動で溶液を測定容器14に供給することもできる。また、積載部15には対物レンズ13が固定手段22を介して接続されている。
【0026】
なお、この図3に示す各機構は、制御装置4からの制御信号(不図示)によって制御され自動で溶液の供給、排出、洗浄及び混合を行う。本装置を用いた後述する実施例では、制御装置4に一連の測定条件を入力する。この入力データには、例えば、励起波長、測定波長、励起光のパワー、測定間隔、測定回数、測定時間、溶液(タンク)の選択、溶液を添加するタイミング、溶液の添加量、添加する溶液の温度、測定チャンバ10の温度・溶液の排出タイミング、排出量(排出バルブの空いている時間)、攪拌タイミング、攪拌瞬間、攪拌パワー(周超音波の場合は周波数)等が含まれる。
【0027】
〔実施例1〕
続いて、本装置を用いて解析を行った実施例について説明する。
【0028】
(1)溶液は、図4に示す以下の溶液a〜fを用いて調整した。
【0029】
溶液a:ヒト培養細胞からヒトDNAを抽出し、20ng/μlに調製した。
【0030】
溶液b:HPAー1プライマー(5’一ACT TAC Agg CCC TgC CTCT−3’)を10μMに調製した。
【0031】
溶液c:EvoBlue(蛍光色素)を5’端にラベルしたHPA−1プライマー((EB)一5’−AgC Cgg Agt gCA ATC CTC Tgー3’)を10μMに調製した。
【0032】
溶液d:TITANIUM Taq DNAポリメラーゼ
溶液e:2mMのdNTPs
溶液f:10×PCR Buffer
(2)サンプル溶液Aは次の手順で調整した。
【0033】
PCR(核酸の増幅)は、溶液aを1μl、溶液bを2μl、溶液cを2μl、溶液dを1μl、溶液eを2.5μl、溶液fを2.5μl抽出し、これに純水15μlを加えて、全体として25μlの溶液とした。
【0034】
次に、このようにして調整した溶液を図5に示すように、94℃で2分保持後、(94℃で80秒、74℃で30秒)を30回繰り返し、74℃で5分保持後、4℃で保持した。これによりPCR産物として160bpの核酸を生成することができる。
【0035】
(3)核酸の精製
続いて、得られた溶液に含まれている一本鎖DNAを除去するために、Exonuclease Iを上記PCR産物25μlに対して3〜5μl加える。同時にMgCl2を最終濃度が10mMになるように添加し、37℃で1時間程度反応させる。その後、QIAquick PCR精製キットを用いて、未反応のプライマー、核酸、酵素等を取り除く。精製後、3%アガロース/TAEで泳動してバンドを確認し、全て2本鎖DNAであることを確認する。精製した2本鎖DNAを濃度が5nMになるようにTE緩衝液で希釈した。
【0036】
(4)反応溶液の調整
SSB(大腸菌の1本鎖DNA結合タンパク質)をTE緩衝液にて10倍に希釈する(200ng/μl)。また、ネガティブコントロールとして、TE緩衝液(50mM Tris−HC1(pH7.4),1mM EDTA,1mM DTT, 0.2M NaCl,50% glycerol)を調整した。
【0037】
図6には、調整した反応溶液Aと反応溶液Bの組み合わせを示している。
【0038】
精製した二本鎖DNAの一部を95℃で5分間変性した後、急冷し(エタノール+氷中で5分程度)、一本鎖DNAとする(ssDNA)。また、精製した二本鎖DNAの一部をそのまま用いた(dsDNA)。図6に示すように、反応は溶液A 19μlに対して溶液Bを1μlを添加した。
【0039】
(5)測定結果
図2の装置の溶液受入部Aから40℃に保温された測定チャンバ10に、図6に示した区分1の溶液Aを注入する。次に、区分1の溶液Bを投入口Bから注入し、反応液を混合した。その後、直ちに1分子蛍光分析装置にて測定した。
【0040】
測定条件:633nm、15秒/回、100マイクロW、10回測定した。測定後、直ちに溶液受入部Cから洗浄液のTE緩衝液を注入して洗浄を行なった。この一連の手順を、区分2から4の組み合わせについて実施した。
【0041】
その結果を図7に示す。図7の(1)は、一本鎖DNAの拡散時間の推移を示し、図7の(2)は、二本鎖DNAの拡散時間の推移を示している。
【0042】
図7の(1)の測定結果を比較すると、右のグラフに示すように溶液BにSSBが含まれている場合には、左のグラフに示すように溶液BにSSBが含まれていない場合に比べて拡散時間は約55%増加し、1本鎖DNAとSSBが結合して分子量が大きくなったことが分かる。図7の(2)の測定結果を比較すると、右のグラフに示すように溶液BにSSBが含まれている場合には、左のグラフに示すように溶液BにSSBが含まれていない場合に比べて拡散時間の違いは約4%で、誤差範囲内と考えられ、SSBは2本鎖DNAにはほとんど結合していないことが示された。このように、SSBとDNAの結合に関して、1本鎖および2本鎖DNAへの結合の特異性が短時間で確認することができた。
【0043】
また、更に詳細に解析を行った結果、一本鎖DNAに二本鎖DNAが含まれている可能性はほとんどないと考えられる(一本鎖DNAは96%以上存在した)。また、90%以上の一本鎖DNAがSSBと結合していると考えられる。
【0044】
また、従来は溶液を混合した後に、測定部にセットして測定していたため、サンプルの載置、フォーカッシング、溶液投入、洗浄に時間がかかっていたので、30分以上の時間必要であった。しかし、この装置を用いることで予め位置合わせ、焦点を合わせておくことで時間の短縮化につながり、10分の測定時間で測定可能となった。
【0045】
〔実施例2〕
次に第2の実施例について説明する。第2の実施例では、実施例1での溶液bの代わりに、22merのNFκBプライマー(5’−AgTTgAggggACTTTCCCAggC)、溶液cの代わりに、TAMRA(蛍光色素)標識した22merのNFκBプライマー(5’一AgTTgAggggACTTTCCCAggC)を用いた他は、実施例1と同様にしてDNAの増幅と精製を行い、1本鎖DNA(ssDNA)をサンプル溶液として用いた。
【0046】
反応溶液は、SSB:2.5マイクロg/mlを1/20に希釈したものを使用した。SSB−TE 緩衝液:SSB 50mMTris−HCl(pH7.4), 1mM EDTA, 1mM DTT, 0.2M NaCl, 50%glycerolを1/20に希釈したものを使用した。2% Triton X−100(界面活性剤)/TE緩衝液、および2% SDS(界面活性剤)/TE緩衝液を使用した。
【0047】
図8に示す溶液をそれぞれ溶液容器にセットし、コンピュータ制御により自動的に、容器Aから測定チャンバ10(40℃)に2本鎖DNA用液を注入した。測定開始後7分後に容器Bから1/20 SSB/ TE溶液を添加し、22分後に容器Cから2% Triton X−100/TE緩衝液を添加し、皿に、38分後にイオン性界面活性剤である2% SDS/TE緩衝液を添加した。測定条件は543nm 15秒/開 250回200マイクロW。はかり定終了後は、測定チャンバ10内の溶液を排出容器に回収し、更に、容器Eから洗浄液を供給して測定チャンバ10内を洗浄した。
【0048】
測定結果を図9、図10に示す。
【0049】
図9に示すように、測定開始から6分後に1/20 SSBを添加したところ拡散時間 が1.3倍増加し、DNAとSSBの特異的な結合が見られた。また、測定開始から22分後に非イオン系界面活性剤であるTriton−X100を添加したところ、拡散時間は約360μsでほぼ同じであった。さらに、測定開始から38分後に陰イオン系界面活性剤であるSDSを添加したところ、拡散時間は減少し、約800μsとなった。
【0050】
図10に示すように、本発明では反応前、反応時、反応後の3つの工程におけるリアルタイムの詳細な変化を測定することが可能である。これに対して、従来の方法ではマイクロプレートにサンプルとSSBを添加して装置にセットしていたため結合反応直後のデータ取得が不可能で、反応終了後に相当する拡散時間約380μsというデータしか取得できなかった。
【0051】
以上の実施例では、核酸、ペプチド、酵素の反応を計測する場合について説明したが、糖鎖、リガンドの反応においても同様に適用することが可能である。
【0052】
〔実施の形態の効果〕
本実施の形態の分子間相互作用計測装置は、反応する生体物質の1つまたはそれ以上の分子を、溶液中でより生体内に近い環境下で計測することができる。さらに1つまたはそれ以上の試料を反応途中に添加・混合できるために、混合後、急速に起こる反応に対して、少量のサンプルでその挙動を見逃すことなくリアルタイムに計測できる。
【0053】
生物学的試料を極微小領域における分子のゆらぎ、または分子の蛍光強度、または蛍光偏光度から分子の大きさと分子数を測定する装置において、一つまたはそれ以上の試験サンプルと溶液を供給する手段を有するので、あらかじめ測定可能な状態(例えば位置合わせ、フォーカシング)にしておけるので反応させる溶液を添加した直後から測定可能となる。さらに、溶液AとBを混合したときに濃度が高すぎる場合には、供給口からバッファー等を供給し、適切な濃度とした後に測定することができる。
【0054】
さらに、本装置は攪拌する手段を有しており、例えばモーター、ピペッティング、超音波等を用いると、溶液とサンプルを均一に混合することができる。従って、反応溶液内の溶液を均一な状態で測定できる。
【0055】
さらに、温度制御手段を有しているので、反応の温度を任意の温度に制御可能となる。例えば、生体内での反応を測定したい時は37℃に設定することが出来る。
【0056】
さらに、溶液の排出手段を具備しているので、多量の溶液を順次添加することが出来る。また、測定終了後には、バッファー、蒸留水等で洗浄を行うことで、次のサンプルを迅速に測定できる。
【0057】
更に、測定溶液を保持する手段と、測定溶液を保持する手段を洗浄する手段と、測定溶液からの光を取得する手段を有し、測定溶液を保持する手段と測定溶液からの光を取得する手段が固定されているので、あらかじめ測定可能な状態(例えば位置合わせ、フォーカシングを調整した状態)としておき、測定部の洗浄手段を有しているので、測定終了後に迅速に洗浄を行なえば、多数の被検溶液をハイスループットで測定可能である。ここで、測定部を複数備えている場合は、ある測定部を洗浄中に、これ以外の測定部にある被検溶液の測定を行うことが可能であり、洗浄時間をふくめたトータルの測定時間が短縮可能となる。
【0058】
固定された検出セル・チャンバーを用いることで、レーザー焦点が固定となり、したがって、マルチタイタープレートの場合に比べて、高速でしかも、オートフォーカス機能や設備が不要となるため、時間およびコストの軽減につながる。
【0059】
排出手段として開閉型のコックを用い、自動で開閉するように構成している。測定終了後に洗浄液を供給し、洗浄液を自動で排出できるので、次の測定を更に迅速にハイスループットな測定ができる。
【0060】
サンプル溶液の添加、混合(結合反応)、測定、測定後のデータ解析、洗浄をすべてコンピュータ上にあらかじめ入力することで自動で制御することができる。また、多数のパラメータを自動で制御することが可能となる。したがって、精度、再現性が高い測定が可能となる。
【0061】
手動でサンプルを注入できる手段を具備しているとインジェクション装置が不要となり、簡単な装置構成とすることができるので安価に装置を提供することができる。
【0062】
前記1つまたはそれ以上の物質は、核酸、ペプチド、酵素基質、などからなる群に蛍光標識することを特徴とし、1つまたはそれ以上の物質と相互作用解析の対象をタンパク質、抗体、ペプチド、核酸等の生体分子の組み合わせからなるものを測定可能である。
【0063】
なお、本発明の分子間相互作用計測装置および方法は、以下に示すような種々の測定手法に適用することができる。
【0064】
蛍光分子の拡散運動(または現象)を観察するためにFCS解析を行なう場合は、XY座標の1点あたり10〜数十秒の計測が必要となることがある。そのためには、レーザ光を長く照射するために生じてしまう蛍光分子の蛍光退色や細胞へのダメージを避けるために、退色の起こりにくい蛍光色素を使用する、もしくは散乱光を計測する手法を用いることで、蛍光標識の必要がなくなる。また励起のための光源の波長を近赤外もしくは赤外をもちいるか、2光子励起法を用いることによって細胞へのダメージを防ぐ。あるいは、細胞のごく微小な領域を走査することによっても、退色や細胞へのダメージを防ぎながら、FCS解析をすることが可能である。
【0065】
蛍光相互相関分光解析法(FxCS)は、分子の相互作用を解析するための手法として、異なる分子をそれぞれ分光特性の異なる蛍光色素にて標識し、それぞれの蛍光シグナル相互の相関を解析する手法である。この手法を用いてそれぞれの分子からの時系列蛍光シグナルで相互相関解析を実行し、異なる分子の動きに同時性があるかどうかを確認することができる。本解析法は、分子が相互に作用を及ぼしても大きさにあまり変化が無いため、拡散状態の変化を検出しにくい場合に適用すると効果的である。
【0066】
蛍光強度分布解析(FIDA)は、FCSと同様のプロセスを用いて得られる蛍光シグナルを統計分布解析することによって、蛍光の1分子あたりの強度および計測している領域に存在する分子の数を算出する解析手法である。この解析法は自己相関関数を求めないため、計測時間が短くても、比較的精度良く解析をすることが可能である。従って、FCS解析で10秒〜数十秒計測時間を必要とする大きな分子の計測あるいは細胞内の計測には、FIDA解析は特に有用である。またFIDA解析は蛍光強度分布解析により蛍光分子1分子あたりの蛍光強度および観測する共焦点領域中に存在する蛍光分子の数を算出することが可能である。
【0067】
仮に蛍光標識された分子が、他の分子と相互作用した場合、分子の構造などが変化するため分子を標識している蛍光色素の環境が変化する場合がある。その際には蛍光色素からのシグナルが変化する。蛍光強度が大きくなるかもしくは小さくなるかは、蛍光色素によって異なる。また、複数の蛍光分子が会合したり、あるいは他の分子に複数の蛍光分子が相互作用する場合は、検出される蛍光分子の数は少なくなる。また、酵素によって蛍光分子が分解される場合には検出される蛍光分子の数が増える。このようにFIDAを用いて、蛍光強度及び蛍光分子の数を算出することで、蛍光分子の相互作用についての知見を得ることが可能である。
【0068】
上述のFCS解析、FxCS解析、FIDA解析は解析する手法はそれぞれ異なるが、その解析に使用する蛍光シグナルの時系列データは同一である。従って、目的の試料について、画像、FCS解析、FxCS解析、FIDA解析を同時に行なうことも可能である。これらを同時に解析することで、蛍光分子の拡散などの動きの情報と同時に、蛍光強度の変化に関する知見も得ることが可能である。たとえば分子の相互作用の際に分子の構造変化や存在環境の変化が生じ、その場合に蛍光強度が変化することがある。FCS解析にて大きさの変化を観測すると同時にFIDAを行なうことで蛍光分子の周囲の環境変化による蛍光強度の変化なども知ることができる。
【0069】
2種類の異なる分光特性をもつ蛍光色素で標識された蛍光分子を使用しFIDA解析を行なうと蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の計測が可能である。FRET計測は2種類の異なる分子間の相互作用を確認するとき用いられる。この場合は分光素子を用いてそれぞれの波長毎に分離した蛍光シグナルを検出する。
【0070】
次に、FRET計測を行なう場合の試料解析装置の構成について説明する。FRET計測を行なう場合は、1もしくは2種類の異なる波長特性をもつ励起光を使用する。従って、試料解析装置は、試料からの波長の異なる複数の蛍光シグナルを分光するためのダイクロイックミラーもしくは分光素子と、波長毎の蛍光を検出する光検出器とを備えていることが望ましい。試料の反応の時間変化を測定すれば、相互作用する試料の結合の強さだけでなく、結合の速さや解離の速さなどの情報も得ることが可能となる。また、細胞計測において、目的の場所のみを蛍光標識することで、目的の試料の拡散を調べることも可能となる。蛍光強度分布解析はシグナルを検出する計測時間が0.1から0.5秒程度で充分であり、励起光を走査しながら細胞画像を取得する時間内で解析が可能である。
【0071】
もし、相互作用は起こっているが、FRETが観測されなかった場合には、各蛍光分子を励起する波長の光を同時に照射し、蛍光相互相関解析(FxCs)を行なう。そして各分子からの蛍光シグナルについてFxCSを実行して、相互作用しているかどうかを検出する。
【0072】
蛍光シグナルを偏光素子を用い入射光の偏光方向に対して平行な成分と垂直な成分に分けて検出し、蛍光1分子あたりの蛍光偏光度解析(FIDA−polarization)を行なうと分子の運動の速さがわかり、結果として分子の大きさや蛍光分子の存在している溶媒の粘度を知ることができる。蛍光偏光度解析では、たとえば直交偏光成分を検出して各成分ごとに蛍光強度を求める。これから、蛍光偏光度を算出し、計測している分子がどれくらいの速さで回転しているかを知ることができる。
【0073】
励起光の振動成分の方向と平行に振動する偏光成分I//、直角に振動する偏光成分I⊥とすると蛍光偏光度Pは式(1)で表わされる。
【0074】
P=(I//−I⊥)/(I//+ I⊥) ・・・式(1)
蛍光偏光度Pは、蛍光分子の回転の速さ(回転拡散)を知る上での目安となるパラメータである。分子の大きさが小さく回転が速い場合はPは小さい。また、分子が大きくなる、もしくは分子の回りの溶媒の粘度が高くなるなどで分子の回転が遅くなるとPが大きくなる。たとえば分子間相互作用が起こっていれば、蛍光偏光度は高くなる。また目的の蛍光分子が細胞膜、オルガネラ、細胞骨格などに捕捉されるなど、動きが制限されると蛍光偏光度は高くなる。目的の蛍光分子が膜や核内に移動するなど、分子の溶媒環境が変化し、溶媒の粘度が高い場所へ移動すると蛍光偏光度は高くなり、逆に溶媒粘度が低い場所へ移動すると蛍光偏光度は小さくなる。このような蛍光分子の挙動を蛍光偏光度から観測することができる。
【0075】
なお、蛍光偏光解析は蛍光強度分布解析から回転拡散を見ているため、観測点1点あたりの計測時間を0.1から数秒と短縮することができる。そのため、画像取得のための励起光走査の際にデータを取得することが可能である。
【0076】
化学発光、生物発光は、分子が光を発する現象である。特に細胞機能の解析においては、細胞内のカルシウムイオン濃度変化の観測が頻繁に行なわれている。この際に、あらかじめ標識された分子を用いなくとも、蛍光分子、たとえばエコーリンやルシフェラーゼなどのカルシウムイオン濃度の測定に利用される発光タンパク質などを用いても良い。発光タンパク質は遺伝子工学的に細胞内に導入でき、カルシウムイオン濃度感受性色素とは異なり、目的の細胞内の器官に発現させることが可能である。
【0077】
これらの蛍光分子では、酸化反応によって発光のためのエネルギーが与えられるので、蛍光分子を励起するための光源を必要としない。従って、これらの分子を測定する装置では、励起光を必要せず発光を検出するための光学系のみを必要とする。
【0078】
蛍光寿命計測は、溶媒緩和を見るのに適した計測法である。蛍光分子の蛍光寿命はその蛍光分子の周りの溶媒環境に影響される。蛍光分子が他の分子と相互作用して結合したり、もしくは相互作用によって分子の高次構造が変化すると、その蛍光分子の周囲の環境が親水的な状態から疎水的な状態に変化する。このような蛍光分子の局所的な溶媒環境の変化によってその蛍光分子の蛍光寿命が変化する。
【0079】
たとえば、細胞内の蛍光標識分子が他の分子と相互作用したり、細胞内で何かの刺激によって目的の分子が活性化され蛍光分子が細胞質から細胞膜やオルガネラの膜内に入りこんだり、蛍光分子の構造そのものが変化したりすると、蛍光分子の周りの環境(極性)が変化することがある。
【0080】
蛍光分子の蛍光寿命の計測はこのような知見を得るには重要な計測法である。また、蛍光寿命計測は、蛍光分子の励起をごく短いパルス光を用いて行なうため、励起光による細胞へのダメージも少なくすることが可能である。
【0081】
また試料を蛍光標識することができない場合には、散乱計測を行なう方法もある。これは分子に光を照射しその散乱光を観測することで、分子の大きさを知る方法である。散乱計測は、目的の分子を標識することなく観測するので、たとえば蛍光分子によって目的の分子の活性が失われたり、活性に変化が起こったりする危険がない。目的の分子が他の分子と相互作用すると分子の大きさが変化する(この場合は大きくなる)。分子の大きさの変化に伴い散乱が変化する。この変化を観測することによって、分子の相互作用や分子の分解などを見ることができるのである。
【0082】
散乱計測によって分子の他の分子との相互作用の検出や分解の検出を行なうことができる。また細胞内にあらかじめラテックスや金粒子を注入しておき、細胞からの開口放出や抱食などの減少について細胞質内での局在や拡散などを見ることが可能である。また、ラテックスや金、銀、その他の誘電体粒子を、蛍光物質の変わりに種々の物質に標識して、照明光を照射し、散乱光により検出を行うこともできる。これらの計測方法の場合は蛍光標識を行なわないので、毒性がない、粒子を用いる場合でも金を用いれば毒性に関しては問題ない。また蛍光退色の影響もないので細胞の動きを長時間観測する場合には有利である。さらに、励起波長を選ばないので、細胞へのダメージの少ない波長を用いて計測することができ、他の蛍光標識分子を用いる場合はそれと同様の波長を用いて計測することが可能である。
【0083】
燐光検出の場合は分子が光を発する時間が蛍光よりも長い(10−4 〜10秒)。そのため、燐光観測には蛍光分子を励起する励起光を遮断しておく必要がある。この場合はレーザ光のシャッターを用い蛍光分子を励起する時は観測せず、分子を励起後シャッターを閉じる制御装置を用い計測を行なえば良い。
【0084】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1の実施の形態に係る分子間相互作用計測装置の構成を示す図。
【図2】測定部の構成を示す斜視図。
【図3】分子間相互作用計測装置における、溶液の供給、排出、洗浄及び混合機能を説明するためのブロック図。
【図4】調整に用いる溶液を示す図。
【図5】溶液の調整シーケンスを示す図。
【図6】調整した反応溶液Aと反応溶液Bの組み合わせを示す図。
【図7】計測結果を示す図。
【図8】調整した溶液の組み合わせを示す図。
【図9】測定結果を示す図。
【図10】測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0086】
1…分子間相互作用計測装置、2…1分子蛍光分析装置、3…インジェクション装置、4…制御装置、6…溶液容器、7…排出容器、10…測定チャンバ、11…溶液受入部、12…溶液排出部、13…対物レンズ、14…測定容器、15…積載部、16…超音波振動子、18…温度調節機構、21…三方弁。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の結合、分解および解離反応の過程をリアルタイム、または、ハイスループットで測定することが可能な分子間相互作用を計測するための装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、分子間相互作用を解析する手法として、FCS(蛍光相関分光法)やFIDA(蛍光強度分布解析法)等が知られている(例えば、非特許文献1参照)。これらの解析手法では、ともに、サンプルを複数の溶液に混合した後、96あるいは384等のマルチウエルのタイタープレートにサンプルを分注し測定する。そして、この測定では、溶液を分注したウエルを所定の測定部に載置して、微小な位置合わせ、サンプルへの焦点合わせが必要である。
【非特許文献1】Biophysical Journal Vol. 79 Dec.2000 2858-2866
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、従来のFCS、FIDA測定装置では、測定用の容器に溶液を添加して調整した後に、その容器を測定部に載置して、測定しようとするウエルが所定の位置になるように精度良く調整し、更に、フォーカッシングを行う必要がある。しかしながら、これらの調整には時間を要するため、溶液調整後直ちにリアルタイムで測定を行うことは困難であった。従って、急激に起こる反応系に対処することはできず、また、一連の反応を順次展開していく実験、あるいは途中で反応を止めるような実験を行うことができなかった。
【0004】
さらに、事前準備として上述のように種々の工程(ウエルへの位置合わせ、フォーカッシングなど)が必要であったため、多数の被検溶液をハイスループットで測定することも困難であった。
【0005】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであって、リアルタイムで測定を行うことができ、多数の被検溶液をハイスループットで測定することができる分子間相互作用計測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明に係る請求項1に記載の分子間相互作用計測装置は、容器に収容された試料から発せられる光を測定し、試料の物理的、あるいは化学的な性質を測定する測定装置において、試験サンプル、試薬、洗浄液の少なくとも1つの溶液をそれぞれ供給する溶液供給手段を有する。
【0007】
また、本発明に係る請求項2に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、供給した少なくとも1つの溶液を攪拌する攪拌手段をさらに有する。
【0008】
また、本発明に係る請求項3に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、供給された溶液の温度を制御する温度制御手段を更に有する。
【0009】
また、本発明に係る請求項4に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、供給された溶液を排出する溶液排出手段をさらに具備している。
【0010】
また、本発明に係る請求項5に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、供給された溶液を保持する保持手段と、前記保持手段を洗浄する洗浄手段と、前記溶液に光を集光する集光手段とを更に有し、前記保持手段に前記集光手段が接続されている。
【0011】
また、本発明に係る請求項6に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、前記溶液排出手段の排出動作は、コンピュータによって制御される。
【0012】
また、本発明に係る請求項7に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、前記コンピュータは、入力された一連の測定条件に基づいて、分子間相互作用計測装置の動作を制御する。
【0013】
また、本発明に係る請求項8に記載の分子間相互作用計測装置は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置において、手動で前記溶液を注入できる手動注入手段を具備する。
【0014】
また、本発明に係る請求項9に記載の分子間相互作用計測方法は、上記記載の発明である分子間相互作用計測装置を用いて分子間における相互作用を計測する方法において、 複数の試料と、当該複数の試料の各々の分子と結合または前記分子を分解することができる少なくとも1つの物質とを順次混合して、複数の試験混合物を作成する工程と、前記少なくとも1つの物質と前記分子との結合及び分解状態を測定する工程とを備えた。
【0015】
また、本発明に係る請求項10に記載の分子間相互作用計測方法は、上記記載の発明である分子間相互作用計測方法において、前記試料は、核酸、ペプチド、酵素基質からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を蛍光標識したものであり、前記物質は、タンパク質、抗体、ペプチド、核酸からなる群から選ばれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リアルタイムで測定を行うことができ、多数の被検溶液をハイスループットで測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る分子間相互作用計測装置1の構成を示す図である。分子間相互作用計測装置1は、1分子蛍光分析装置2、インジェクション装置3及び制御装置4を備えている。そして、1分子蛍光分析装置2には測定部5が設けられ、インジェクション装置3には複数の溶液容器6と排出容器7が備えられている。
【0018】
1分子蛍光分析装置2は、FCSあるいはFIDAを用いて分子間の相互作用を計測する。インジェクション装置3は、1分子蛍光分析装置2に溶液を供給するとともに、測定に使用した溶液を排液として回収する。制御装置4は、分子間相互作用計測装置1の動作を統括して制御する。この制御装置4により、分子間相互作用計測装置1は自動で動作する。
【0019】
そして、測定部5は、試料溶液を受け入れて、位置調整を行い、排液を排出などする機構を備えている。溶液容器6は、試料溶液を貯蔵する。排出容器7は、排液を貯蔵する。
【0020】
図2は、測定部5の構成を示す斜視図である。測定チャンバ10は、試料溶液を受け入れて保持し、排液を排出する。そして、測定チャンバ10には、インジェクション装置3から供給される溶液を受け入れるための溶液受入部11と測定後の溶液をインジェクション装置3に排出するための溶液排出部12が設けられている。また、この測定チャンバ10には、試料に対して励起光を収束させ、試料から発せられた蛍光を解析装置に導くための対物レンズ13が接続されている。
【0021】
図2に示すように、溶液受入部11は複数設けられており、複数の溶液を供給することができる。複数の溶液として、サンプル、バッファー、洗浄液等を供給することが可能である。対物レンズ13は液浸対物レンズを用いることが好ましく、対物レンズ13と測定チャンバ10の間に、媒質として、水やオイルを用いることができる。
【0022】
測定溶液を保持する手段である測定チャンバ10と測定溶液からの信号を取得する手段である対物レンズ13とは、対物レンズ13と測定チャンバ10との相対的な位置が変わらないように固定されている。ただし、固定されていても装置のセットアップのためのわずかな移動は可能な状態であってもよい。したがって、対物レンズ13と測定チャンバ10が一体に構成されていても良く、別体で固定されていても良い。対物レンズと測定チャンバ10が一体に構成されている場合に、好ましい液浸媒質であるオイルを、両者の間に封入しておくことができる。
【0023】
図3は、分子間相互作用計測装置1における、溶液の供給、排出、洗浄及び混合機能を説明するためのブロック図である。図3を参照しつつ、構成と動作について説明する。
【0024】
溶液を受け入れるための測定容器14は、積載部15上に載置されている。そして、測定容器14には、超音波振動子16が設けられ、測定容器内の溶液、洗浄液を攪拌する。この積載部15には、流水通路17が接続され、温度調節機構18を介して所定温度に制御された温水がポンプ19により循環され、溶液の温度を制御する。
【0025】
溶液は、インジェクション装置3の溶液容器6からポンプ20によって、測定容器14に供給される。なお、溶液の供給経路には、3方弁21が設けられている。そこで、この3方弁21を切り替えることによって、ユーザは、手動で溶液を測定容器14に供給することもできる。また、積載部15には対物レンズ13が固定手段22を介して接続されている。
【0026】
なお、この図3に示す各機構は、制御装置4からの制御信号(不図示)によって制御され自動で溶液の供給、排出、洗浄及び混合を行う。本装置を用いた後述する実施例では、制御装置4に一連の測定条件を入力する。この入力データには、例えば、励起波長、測定波長、励起光のパワー、測定間隔、測定回数、測定時間、溶液(タンク)の選択、溶液を添加するタイミング、溶液の添加量、添加する溶液の温度、測定チャンバ10の温度・溶液の排出タイミング、排出量(排出バルブの空いている時間)、攪拌タイミング、攪拌瞬間、攪拌パワー(周超音波の場合は周波数)等が含まれる。
【0027】
〔実施例1〕
続いて、本装置を用いて解析を行った実施例について説明する。
【0028】
(1)溶液は、図4に示す以下の溶液a〜fを用いて調整した。
【0029】
溶液a:ヒト培養細胞からヒトDNAを抽出し、20ng/μlに調製した。
【0030】
溶液b:HPAー1プライマー(5’一ACT TAC Agg CCC TgC CTCT−3’)を10μMに調製した。
【0031】
溶液c:EvoBlue(蛍光色素)を5’端にラベルしたHPA−1プライマー((EB)一5’−AgC Cgg Agt gCA ATC CTC Tgー3’)を10μMに調製した。
【0032】
溶液d:TITANIUM Taq DNAポリメラーゼ
溶液e:2mMのdNTPs
溶液f:10×PCR Buffer
(2)サンプル溶液Aは次の手順で調整した。
【0033】
PCR(核酸の増幅)は、溶液aを1μl、溶液bを2μl、溶液cを2μl、溶液dを1μl、溶液eを2.5μl、溶液fを2.5μl抽出し、これに純水15μlを加えて、全体として25μlの溶液とした。
【0034】
次に、このようにして調整した溶液を図5に示すように、94℃で2分保持後、(94℃で80秒、74℃で30秒)を30回繰り返し、74℃で5分保持後、4℃で保持した。これによりPCR産物として160bpの核酸を生成することができる。
【0035】
(3)核酸の精製
続いて、得られた溶液に含まれている一本鎖DNAを除去するために、Exonuclease Iを上記PCR産物25μlに対して3〜5μl加える。同時にMgCl2を最終濃度が10mMになるように添加し、37℃で1時間程度反応させる。その後、QIAquick PCR精製キットを用いて、未反応のプライマー、核酸、酵素等を取り除く。精製後、3%アガロース/TAEで泳動してバンドを確認し、全て2本鎖DNAであることを確認する。精製した2本鎖DNAを濃度が5nMになるようにTE緩衝液で希釈した。
【0036】
(4)反応溶液の調整
SSB(大腸菌の1本鎖DNA結合タンパク質)をTE緩衝液にて10倍に希釈する(200ng/μl)。また、ネガティブコントロールとして、TE緩衝液(50mM Tris−HC1(pH7.4),1mM EDTA,1mM DTT, 0.2M NaCl,50% glycerol)を調整した。
【0037】
図6には、調整した反応溶液Aと反応溶液Bの組み合わせを示している。
【0038】
精製した二本鎖DNAの一部を95℃で5分間変性した後、急冷し(エタノール+氷中で5分程度)、一本鎖DNAとする(ssDNA)。また、精製した二本鎖DNAの一部をそのまま用いた(dsDNA)。図6に示すように、反応は溶液A 19μlに対して溶液Bを1μlを添加した。
【0039】
(5)測定結果
図2の装置の溶液受入部Aから40℃に保温された測定チャンバ10に、図6に示した区分1の溶液Aを注入する。次に、区分1の溶液Bを投入口Bから注入し、反応液を混合した。その後、直ちに1分子蛍光分析装置にて測定した。
【0040】
測定条件:633nm、15秒/回、100マイクロW、10回測定した。測定後、直ちに溶液受入部Cから洗浄液のTE緩衝液を注入して洗浄を行なった。この一連の手順を、区分2から4の組み合わせについて実施した。
【0041】
その結果を図7に示す。図7の(1)は、一本鎖DNAの拡散時間の推移を示し、図7の(2)は、二本鎖DNAの拡散時間の推移を示している。
【0042】
図7の(1)の測定結果を比較すると、右のグラフに示すように溶液BにSSBが含まれている場合には、左のグラフに示すように溶液BにSSBが含まれていない場合に比べて拡散時間は約55%増加し、1本鎖DNAとSSBが結合して分子量が大きくなったことが分かる。図7の(2)の測定結果を比較すると、右のグラフに示すように溶液BにSSBが含まれている場合には、左のグラフに示すように溶液BにSSBが含まれていない場合に比べて拡散時間の違いは約4%で、誤差範囲内と考えられ、SSBは2本鎖DNAにはほとんど結合していないことが示された。このように、SSBとDNAの結合に関して、1本鎖および2本鎖DNAへの結合の特異性が短時間で確認することができた。
【0043】
また、更に詳細に解析を行った結果、一本鎖DNAに二本鎖DNAが含まれている可能性はほとんどないと考えられる(一本鎖DNAは96%以上存在した)。また、90%以上の一本鎖DNAがSSBと結合していると考えられる。
【0044】
また、従来は溶液を混合した後に、測定部にセットして測定していたため、サンプルの載置、フォーカッシング、溶液投入、洗浄に時間がかかっていたので、30分以上の時間必要であった。しかし、この装置を用いることで予め位置合わせ、焦点を合わせておくことで時間の短縮化につながり、10分の測定時間で測定可能となった。
【0045】
〔実施例2〕
次に第2の実施例について説明する。第2の実施例では、実施例1での溶液bの代わりに、22merのNFκBプライマー(5’−AgTTgAggggACTTTCCCAggC)、溶液cの代わりに、TAMRA(蛍光色素)標識した22merのNFκBプライマー(5’一AgTTgAggggACTTTCCCAggC)を用いた他は、実施例1と同様にしてDNAの増幅と精製を行い、1本鎖DNA(ssDNA)をサンプル溶液として用いた。
【0046】
反応溶液は、SSB:2.5マイクロg/mlを1/20に希釈したものを使用した。SSB−TE 緩衝液:SSB 50mMTris−HCl(pH7.4), 1mM EDTA, 1mM DTT, 0.2M NaCl, 50%glycerolを1/20に希釈したものを使用した。2% Triton X−100(界面活性剤)/TE緩衝液、および2% SDS(界面活性剤)/TE緩衝液を使用した。
【0047】
図8に示す溶液をそれぞれ溶液容器にセットし、コンピュータ制御により自動的に、容器Aから測定チャンバ10(40℃)に2本鎖DNA用液を注入した。測定開始後7分後に容器Bから1/20 SSB/ TE溶液を添加し、22分後に容器Cから2% Triton X−100/TE緩衝液を添加し、皿に、38分後にイオン性界面活性剤である2% SDS/TE緩衝液を添加した。測定条件は543nm 15秒/開 250回200マイクロW。はかり定終了後は、測定チャンバ10内の溶液を排出容器に回収し、更に、容器Eから洗浄液を供給して測定チャンバ10内を洗浄した。
【0048】
測定結果を図9、図10に示す。
【0049】
図9に示すように、測定開始から6分後に1/20 SSBを添加したところ拡散時間 が1.3倍増加し、DNAとSSBの特異的な結合が見られた。また、測定開始から22分後に非イオン系界面活性剤であるTriton−X100を添加したところ、拡散時間は約360μsでほぼ同じであった。さらに、測定開始から38分後に陰イオン系界面活性剤であるSDSを添加したところ、拡散時間は減少し、約800μsとなった。
【0050】
図10に示すように、本発明では反応前、反応時、反応後の3つの工程におけるリアルタイムの詳細な変化を測定することが可能である。これに対して、従来の方法ではマイクロプレートにサンプルとSSBを添加して装置にセットしていたため結合反応直後のデータ取得が不可能で、反応終了後に相当する拡散時間約380μsというデータしか取得できなかった。
【0051】
以上の実施例では、核酸、ペプチド、酵素の反応を計測する場合について説明したが、糖鎖、リガンドの反応においても同様に適用することが可能である。
【0052】
〔実施の形態の効果〕
本実施の形態の分子間相互作用計測装置は、反応する生体物質の1つまたはそれ以上の分子を、溶液中でより生体内に近い環境下で計測することができる。さらに1つまたはそれ以上の試料を反応途中に添加・混合できるために、混合後、急速に起こる反応に対して、少量のサンプルでその挙動を見逃すことなくリアルタイムに計測できる。
【0053】
生物学的試料を極微小領域における分子のゆらぎ、または分子の蛍光強度、または蛍光偏光度から分子の大きさと分子数を測定する装置において、一つまたはそれ以上の試験サンプルと溶液を供給する手段を有するので、あらかじめ測定可能な状態(例えば位置合わせ、フォーカシング)にしておけるので反応させる溶液を添加した直後から測定可能となる。さらに、溶液AとBを混合したときに濃度が高すぎる場合には、供給口からバッファー等を供給し、適切な濃度とした後に測定することができる。
【0054】
さらに、本装置は攪拌する手段を有しており、例えばモーター、ピペッティング、超音波等を用いると、溶液とサンプルを均一に混合することができる。従って、反応溶液内の溶液を均一な状態で測定できる。
【0055】
さらに、温度制御手段を有しているので、反応の温度を任意の温度に制御可能となる。例えば、生体内での反応を測定したい時は37℃に設定することが出来る。
【0056】
さらに、溶液の排出手段を具備しているので、多量の溶液を順次添加することが出来る。また、測定終了後には、バッファー、蒸留水等で洗浄を行うことで、次のサンプルを迅速に測定できる。
【0057】
更に、測定溶液を保持する手段と、測定溶液を保持する手段を洗浄する手段と、測定溶液からの光を取得する手段を有し、測定溶液を保持する手段と測定溶液からの光を取得する手段が固定されているので、あらかじめ測定可能な状態(例えば位置合わせ、フォーカシングを調整した状態)としておき、測定部の洗浄手段を有しているので、測定終了後に迅速に洗浄を行なえば、多数の被検溶液をハイスループットで測定可能である。ここで、測定部を複数備えている場合は、ある測定部を洗浄中に、これ以外の測定部にある被検溶液の測定を行うことが可能であり、洗浄時間をふくめたトータルの測定時間が短縮可能となる。
【0058】
固定された検出セル・チャンバーを用いることで、レーザー焦点が固定となり、したがって、マルチタイタープレートの場合に比べて、高速でしかも、オートフォーカス機能や設備が不要となるため、時間およびコストの軽減につながる。
【0059】
排出手段として開閉型のコックを用い、自動で開閉するように構成している。測定終了後に洗浄液を供給し、洗浄液を自動で排出できるので、次の測定を更に迅速にハイスループットな測定ができる。
【0060】
サンプル溶液の添加、混合(結合反応)、測定、測定後のデータ解析、洗浄をすべてコンピュータ上にあらかじめ入力することで自動で制御することができる。また、多数のパラメータを自動で制御することが可能となる。したがって、精度、再現性が高い測定が可能となる。
【0061】
手動でサンプルを注入できる手段を具備しているとインジェクション装置が不要となり、簡単な装置構成とすることができるので安価に装置を提供することができる。
【0062】
前記1つまたはそれ以上の物質は、核酸、ペプチド、酵素基質、などからなる群に蛍光標識することを特徴とし、1つまたはそれ以上の物質と相互作用解析の対象をタンパク質、抗体、ペプチド、核酸等の生体分子の組み合わせからなるものを測定可能である。
【0063】
なお、本発明の分子間相互作用計測装置および方法は、以下に示すような種々の測定手法に適用することができる。
【0064】
蛍光分子の拡散運動(または現象)を観察するためにFCS解析を行なう場合は、XY座標の1点あたり10〜数十秒の計測が必要となることがある。そのためには、レーザ光を長く照射するために生じてしまう蛍光分子の蛍光退色や細胞へのダメージを避けるために、退色の起こりにくい蛍光色素を使用する、もしくは散乱光を計測する手法を用いることで、蛍光標識の必要がなくなる。また励起のための光源の波長を近赤外もしくは赤外をもちいるか、2光子励起法を用いることによって細胞へのダメージを防ぐ。あるいは、細胞のごく微小な領域を走査することによっても、退色や細胞へのダメージを防ぎながら、FCS解析をすることが可能である。
【0065】
蛍光相互相関分光解析法(FxCS)は、分子の相互作用を解析するための手法として、異なる分子をそれぞれ分光特性の異なる蛍光色素にて標識し、それぞれの蛍光シグナル相互の相関を解析する手法である。この手法を用いてそれぞれの分子からの時系列蛍光シグナルで相互相関解析を実行し、異なる分子の動きに同時性があるかどうかを確認することができる。本解析法は、分子が相互に作用を及ぼしても大きさにあまり変化が無いため、拡散状態の変化を検出しにくい場合に適用すると効果的である。
【0066】
蛍光強度分布解析(FIDA)は、FCSと同様のプロセスを用いて得られる蛍光シグナルを統計分布解析することによって、蛍光の1分子あたりの強度および計測している領域に存在する分子の数を算出する解析手法である。この解析法は自己相関関数を求めないため、計測時間が短くても、比較的精度良く解析をすることが可能である。従って、FCS解析で10秒〜数十秒計測時間を必要とする大きな分子の計測あるいは細胞内の計測には、FIDA解析は特に有用である。またFIDA解析は蛍光強度分布解析により蛍光分子1分子あたりの蛍光強度および観測する共焦点領域中に存在する蛍光分子の数を算出することが可能である。
【0067】
仮に蛍光標識された分子が、他の分子と相互作用した場合、分子の構造などが変化するため分子を標識している蛍光色素の環境が変化する場合がある。その際には蛍光色素からのシグナルが変化する。蛍光強度が大きくなるかもしくは小さくなるかは、蛍光色素によって異なる。また、複数の蛍光分子が会合したり、あるいは他の分子に複数の蛍光分子が相互作用する場合は、検出される蛍光分子の数は少なくなる。また、酵素によって蛍光分子が分解される場合には検出される蛍光分子の数が増える。このようにFIDAを用いて、蛍光強度及び蛍光分子の数を算出することで、蛍光分子の相互作用についての知見を得ることが可能である。
【0068】
上述のFCS解析、FxCS解析、FIDA解析は解析する手法はそれぞれ異なるが、その解析に使用する蛍光シグナルの時系列データは同一である。従って、目的の試料について、画像、FCS解析、FxCS解析、FIDA解析を同時に行なうことも可能である。これらを同時に解析することで、蛍光分子の拡散などの動きの情報と同時に、蛍光強度の変化に関する知見も得ることが可能である。たとえば分子の相互作用の際に分子の構造変化や存在環境の変化が生じ、その場合に蛍光強度が変化することがある。FCS解析にて大きさの変化を観測すると同時にFIDAを行なうことで蛍光分子の周囲の環境変化による蛍光強度の変化なども知ることができる。
【0069】
2種類の異なる分光特性をもつ蛍光色素で標識された蛍光分子を使用しFIDA解析を行なうと蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の計測が可能である。FRET計測は2種類の異なる分子間の相互作用を確認するとき用いられる。この場合は分光素子を用いてそれぞれの波長毎に分離した蛍光シグナルを検出する。
【0070】
次に、FRET計測を行なう場合の試料解析装置の構成について説明する。FRET計測を行なう場合は、1もしくは2種類の異なる波長特性をもつ励起光を使用する。従って、試料解析装置は、試料からの波長の異なる複数の蛍光シグナルを分光するためのダイクロイックミラーもしくは分光素子と、波長毎の蛍光を検出する光検出器とを備えていることが望ましい。試料の反応の時間変化を測定すれば、相互作用する試料の結合の強さだけでなく、結合の速さや解離の速さなどの情報も得ることが可能となる。また、細胞計測において、目的の場所のみを蛍光標識することで、目的の試料の拡散を調べることも可能となる。蛍光強度分布解析はシグナルを検出する計測時間が0.1から0.5秒程度で充分であり、励起光を走査しながら細胞画像を取得する時間内で解析が可能である。
【0071】
もし、相互作用は起こっているが、FRETが観測されなかった場合には、各蛍光分子を励起する波長の光を同時に照射し、蛍光相互相関解析(FxCs)を行なう。そして各分子からの蛍光シグナルについてFxCSを実行して、相互作用しているかどうかを検出する。
【0072】
蛍光シグナルを偏光素子を用い入射光の偏光方向に対して平行な成分と垂直な成分に分けて検出し、蛍光1分子あたりの蛍光偏光度解析(FIDA−polarization)を行なうと分子の運動の速さがわかり、結果として分子の大きさや蛍光分子の存在している溶媒の粘度を知ることができる。蛍光偏光度解析では、たとえば直交偏光成分を検出して各成分ごとに蛍光強度を求める。これから、蛍光偏光度を算出し、計測している分子がどれくらいの速さで回転しているかを知ることができる。
【0073】
励起光の振動成分の方向と平行に振動する偏光成分I//、直角に振動する偏光成分I⊥とすると蛍光偏光度Pは式(1)で表わされる。
【0074】
P=(I//−I⊥)/(I//+ I⊥) ・・・式(1)
蛍光偏光度Pは、蛍光分子の回転の速さ(回転拡散)を知る上での目安となるパラメータである。分子の大きさが小さく回転が速い場合はPは小さい。また、分子が大きくなる、もしくは分子の回りの溶媒の粘度が高くなるなどで分子の回転が遅くなるとPが大きくなる。たとえば分子間相互作用が起こっていれば、蛍光偏光度は高くなる。また目的の蛍光分子が細胞膜、オルガネラ、細胞骨格などに捕捉されるなど、動きが制限されると蛍光偏光度は高くなる。目的の蛍光分子が膜や核内に移動するなど、分子の溶媒環境が変化し、溶媒の粘度が高い場所へ移動すると蛍光偏光度は高くなり、逆に溶媒粘度が低い場所へ移動すると蛍光偏光度は小さくなる。このような蛍光分子の挙動を蛍光偏光度から観測することができる。
【0075】
なお、蛍光偏光解析は蛍光強度分布解析から回転拡散を見ているため、観測点1点あたりの計測時間を0.1から数秒と短縮することができる。そのため、画像取得のための励起光走査の際にデータを取得することが可能である。
【0076】
化学発光、生物発光は、分子が光を発する現象である。特に細胞機能の解析においては、細胞内のカルシウムイオン濃度変化の観測が頻繁に行なわれている。この際に、あらかじめ標識された分子を用いなくとも、蛍光分子、たとえばエコーリンやルシフェラーゼなどのカルシウムイオン濃度の測定に利用される発光タンパク質などを用いても良い。発光タンパク質は遺伝子工学的に細胞内に導入でき、カルシウムイオン濃度感受性色素とは異なり、目的の細胞内の器官に発現させることが可能である。
【0077】
これらの蛍光分子では、酸化反応によって発光のためのエネルギーが与えられるので、蛍光分子を励起するための光源を必要としない。従って、これらの分子を測定する装置では、励起光を必要せず発光を検出するための光学系のみを必要とする。
【0078】
蛍光寿命計測は、溶媒緩和を見るのに適した計測法である。蛍光分子の蛍光寿命はその蛍光分子の周りの溶媒環境に影響される。蛍光分子が他の分子と相互作用して結合したり、もしくは相互作用によって分子の高次構造が変化すると、その蛍光分子の周囲の環境が親水的な状態から疎水的な状態に変化する。このような蛍光分子の局所的な溶媒環境の変化によってその蛍光分子の蛍光寿命が変化する。
【0079】
たとえば、細胞内の蛍光標識分子が他の分子と相互作用したり、細胞内で何かの刺激によって目的の分子が活性化され蛍光分子が細胞質から細胞膜やオルガネラの膜内に入りこんだり、蛍光分子の構造そのものが変化したりすると、蛍光分子の周りの環境(極性)が変化することがある。
【0080】
蛍光分子の蛍光寿命の計測はこのような知見を得るには重要な計測法である。また、蛍光寿命計測は、蛍光分子の励起をごく短いパルス光を用いて行なうため、励起光による細胞へのダメージも少なくすることが可能である。
【0081】
また試料を蛍光標識することができない場合には、散乱計測を行なう方法もある。これは分子に光を照射しその散乱光を観測することで、分子の大きさを知る方法である。散乱計測は、目的の分子を標識することなく観測するので、たとえば蛍光分子によって目的の分子の活性が失われたり、活性に変化が起こったりする危険がない。目的の分子が他の分子と相互作用すると分子の大きさが変化する(この場合は大きくなる)。分子の大きさの変化に伴い散乱が変化する。この変化を観測することによって、分子の相互作用や分子の分解などを見ることができるのである。
【0082】
散乱計測によって分子の他の分子との相互作用の検出や分解の検出を行なうことができる。また細胞内にあらかじめラテックスや金粒子を注入しておき、細胞からの開口放出や抱食などの減少について細胞質内での局在や拡散などを見ることが可能である。また、ラテックスや金、銀、その他の誘電体粒子を、蛍光物質の変わりに種々の物質に標識して、照明光を照射し、散乱光により検出を行うこともできる。これらの計測方法の場合は蛍光標識を行なわないので、毒性がない、粒子を用いる場合でも金を用いれば毒性に関しては問題ない。また蛍光退色の影響もないので細胞の動きを長時間観測する場合には有利である。さらに、励起波長を選ばないので、細胞へのダメージの少ない波長を用いて計測することができ、他の蛍光標識分子を用いる場合はそれと同様の波長を用いて計測することが可能である。
【0083】
燐光検出の場合は分子が光を発する時間が蛍光よりも長い(10−4 〜10秒)。そのため、燐光観測には蛍光分子を励起する励起光を遮断しておく必要がある。この場合はレーザ光のシャッターを用い蛍光分子を励起する時は観測せず、分子を励起後シャッターを閉じる制御装置を用い計測を行なえば良い。
【0084】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1の実施の形態に係る分子間相互作用計測装置の構成を示す図。
【図2】測定部の構成を示す斜視図。
【図3】分子間相互作用計測装置における、溶液の供給、排出、洗浄及び混合機能を説明するためのブロック図。
【図4】調整に用いる溶液を示す図。
【図5】溶液の調整シーケンスを示す図。
【図6】調整した反応溶液Aと反応溶液Bの組み合わせを示す図。
【図7】計測結果を示す図。
【図8】調整した溶液の組み合わせを示す図。
【図9】測定結果を示す図。
【図10】測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0086】
1…分子間相互作用計測装置、2…1分子蛍光分析装置、3…インジェクション装置、4…制御装置、6…溶液容器、7…排出容器、10…測定チャンバ、11…溶液受入部、12…溶液排出部、13…対物レンズ、14…測定容器、15…積載部、16…超音波振動子、18…温度調節機構、21…三方弁。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に収容された試料から発せられる光を測定し、試料の物理的、あるいは化学的な性質を測定する測定装置において、
試験サンプル、試薬、洗浄液の少なくとも1つの溶液をそれぞれ供給する溶液供給手段を有することを特徴とする分子間相互作用計測装置。
【請求項2】
供給した少なくとも1つの溶液を攪拌する攪拌手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項3】
供給された溶液の温度を制御する温度制御手段を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項4】
供給された溶液を排出する溶液排出手段をさらに具備していることを特徴とする請求項1または2に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項5】
供給された溶液を保持する保持手段と、前記保持手段を洗浄する洗浄手段と、前記溶液に光を集光する集光手段とを更に有し、前記保持手段に前記集光手段が接続されていることを特徴とする請求項4に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項6】
前記溶液排出手段の排出動作は、コンピュータによって制御されることを特徴とする請求項5に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項7】
前記コンピュータは、入力された一連の測定条件に基づいて、分子間相互作用計測装置の動作を制御することを特徴とする請求項6に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項8】
手動で前記溶液を注入できる手動注入手段を具備することを特徴とする請求項1に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の装置を用いて、分子間における相互作用を計測する方法において、
複数の試料と、当該複数の試料の各々の分子と結合または前記分子を分解することができる少なくとも1つの物質とを順次混合して、複数の試験混合物を作成する工程と、
前記少なくとも1つの物質と前記分子との結合及び分解状態を測定する工程と
を備えたことを特徴とする分子間相互作用計測方法。
【請求項10】
前記試料は、核酸、ペプチド、酵素基質からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を蛍光標識したものであり、
前記物質は、タンパク質、抗体、ペプチド、核酸からなる群から選ばれること
を特徴とする請求項9に記載の分子間相互作用計測方法。
【請求項1】
容器に収容された試料から発せられる光を測定し、試料の物理的、あるいは化学的な性質を測定する測定装置において、
試験サンプル、試薬、洗浄液の少なくとも1つの溶液をそれぞれ供給する溶液供給手段を有することを特徴とする分子間相互作用計測装置。
【請求項2】
供給した少なくとも1つの溶液を攪拌する攪拌手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項3】
供給された溶液の温度を制御する温度制御手段を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項4】
供給された溶液を排出する溶液排出手段をさらに具備していることを特徴とする請求項1または2に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項5】
供給された溶液を保持する保持手段と、前記保持手段を洗浄する洗浄手段と、前記溶液に光を集光する集光手段とを更に有し、前記保持手段に前記集光手段が接続されていることを特徴とする請求項4に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項6】
前記溶液排出手段の排出動作は、コンピュータによって制御されることを特徴とする請求項5に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項7】
前記コンピュータは、入力された一連の測定条件に基づいて、分子間相互作用計測装置の動作を制御することを特徴とする請求項6に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項8】
手動で前記溶液を注入できる手動注入手段を具備することを特徴とする請求項1に記載の分子間相互作用計測装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の装置を用いて、分子間における相互作用を計測する方法において、
複数の試料と、当該複数の試料の各々の分子と結合または前記分子を分解することができる少なくとも1つの物質とを順次混合して、複数の試験混合物を作成する工程と、
前記少なくとも1つの物質と前記分子との結合及び分解状態を測定する工程と
を備えたことを特徴とする分子間相互作用計測方法。
【請求項10】
前記試料は、核酸、ペプチド、酵素基質からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を蛍光標識したものであり、
前記物質は、タンパク質、抗体、ペプチド、核酸からなる群から選ばれること
を特徴とする請求項9に記載の分子間相互作用計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−105819(P2006−105819A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293893(P2004−293893)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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