説明

分岐アルキルブロミドの安定化方法、および分岐アルキルブロミド組成物

【課題】 分岐アルキルブロミドは、異性化および分解を容易に起こすことにより、長期保存する際に解決すべき問題がある。異性化および分解を抑制し、該化合物を長期間高純度に保持できる、新たな安定化方法および安定化された組成物の提供を目的とする。
【解決手段】 分枝アルキルブロミドに、エポキシド類、ニトロアルカン類、アミン類およびエーテル類からなる郡より選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.001〜5.0重量%の範囲で添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬,農薬,染料,香料,その他の有機合成原料として工業的に重要な分岐アルキルブロミドの安定化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分岐アルキルブロミドは、容易に異性化および分解が進行することがあり、特に異性体類の増加は、分岐アルキルブロミドの急激な純度低下をもたらし、その商品価値を著しく損なってしまう。このように、分岐アルキルブロミドは保存安定性が悪いことから、医薬,農薬,染料,香料等のファインケミカル製品を製造するにあたり、かかる異性体類を含んだ分岐アルキルブロミドを使用することは、品質の低下、収率の低下、不純物の増加等の弊害をもたらすことになる。従って、安定剤を用いることにより分岐アルキルブロミドの異性化および分解を抑制し、分岐アルキルブロミドを高純度に保持しておくことは、不可欠なことである。また、古くから、アルキルブロミド類に対し安定剤を添加する方法(例えば、特許文献1〜4参照)が知られているが、いずれもアルキルブロミドと使用する機器の金属との接触による分解を抑制する方法であり、分岐アルキルブロミドの保存時の安定性向上に関する方法については確立されていない。
【0003】
【特許文献1】特許第2576933号
【特許文献2】特表2001−509541
【特許文献3】特表2000−506211
【特許文献4】特開2000−26897
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、分岐アルキルブロミドを保存する際に、異性化および分解を抑制し、分岐アルキルブロミドを長期間高純度に保持できる新たな分岐アルキルブロミドの安定化方法および安定化された組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、従来の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、分岐アルキルブロミドに特定の安定剤を添加することにより、前記課題を解決し、分岐アルキルブロミドを長期間高純度に保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、下記一般式(1)
【0007】
【化1】

(式中、R,Rは、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素基、またはR,Rが結合した脂肪族環式炭化水素基を示し、Rは水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素基を示す。)
で表される分枝アルキルブロミドに、エポキシド類、ニトロアルカン類、アミン類およびエーテル類からなる郡より選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.001〜5.0重量%の範囲で添加することを特徴とする分枝アルキルブロミドの安定化方法および分岐アルキルブロミド組成物に関する。
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の分岐アルキルブロミドに添加するエポキシド類は特に限定されないが、例えば、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ペンテンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、シクロペンテンオキサイド、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、スチレンオキサイド等が挙げられる。
【0010】
ニトロアルカン類としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン等が挙げられる。
【0011】
アミン類としては、例えば、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、イソプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、アニリン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン等が挙げられる。
【0012】
エーテル類としては、例えば、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン等が挙げられる。
【0013】
本発明に使用する分岐アルキルブロミドは特に限定されないが、2−メチルプロピルブロミド、2−メチルブチルブロミド、2−エチルブチルブロミド、2−メチルペンチルブロミド、2−エチルペンチルブロミド、2−プロピルペンチルブロミド、2,3−ジメチルブチルブロミド、2−エチル−3−メチルブチルブロミド、2−プロピル−3−メチルブチルブロミド、2−イソプロピル−3−メチルブチルブロミド、2−メチルヘキシルブロミド、2−エチルヘキシルブロミド、2−プロピルヘキシルブロミド、2−ブチルヘキシルブロミド、2,3−ジメチルペンチルブロミド、2,4−ジメチルペンチルブロミド、2,3,3−トリメチルブチルブロミド、2−エチル−3−メチルペンチルブロミド、2−エチル−4−メチルペンチルブロミド、2−エチル−3,3−ジメチルブチルブロミド、2−プロピル−3−メチルペンチルブロミド、2−プロピル−4−メチルペンチルブロミド、2−プロピル−3,3−ジメチルブチルブロミド、2−イソプロピルヘキシルブロミド、2−イソプロピル−3−メチルペンチルブロミド、2−イソプロピル−4−メチルペンチルブロミド、2−イソプロピル−3,3−ジメチルブチルブロミド、2−ブチル−3−メチルペンチルブロミド、2−ブチル−4−メチルペンチルブロミド、2−ブチル−3,3−ジメチルブチルブロミド、2−メチルヘプチルブロミド、2−エチルヘプチルブロミド、2−プロピルヘプチルブロミド、2−ブチルヘプチルブロミド、2−ペンチルヘキシルブロミド、2,3−ジメチルヘキシルブロミド、2,4−ジメチルヘキシルブロミド、2,5−ジメチルヘキシルブロミド、2,3,4−トリメチルペンチルブロミド、2−メチル−3−エチルペンチルブロミド、2,4,4−トリメチルペンチルブロミド、2−エチル−3−メチルヘキシルブロミド、2−エチル−4−メチルヘキシルブロミド、2−エチル−5−メチルヘキシルブロミド、2−エチル−4,4−ジメチルヘキシルブロミド、2,2−ジメチルプロピルブロミド、2,2−ジメチルブチルブロミド、2,2−ジエチルプロピルブロミド、2,2−ジエチルブチルブロミド、ブロモメチルシクロプロパン、1−メチルシクロプロピルメチルブロミド、1−エチルシクロプロピルメチルブロミド、1−プロピルシクロプロピルメチルブロミド、2−メチルシクロプロピルメチルブロミド、2−エチルシクロプロピルメチルブロミド、2,2−ジメチルシクロプロピルメチルブロミド、2,2−ジエチルシクロプロピルメチルブロミド、シクロブチルメチルブロミド、1−メチルシクロブチルメチルブロミド、1−エチルシクロブチルメチルブロミド、1−プロピルシクロブチルメチルブロミド、2−メチルシクロブチルメチルブロミド、2−エチルシクロブチルメチルブロミド、3−メチルシクロブチルメチルブロミド、3−エチルシクロブチルメチルブロミド、2,2−ジメチルシクロブチルメチルブロミド、2,2−ジエチルシクロブチルメチルブロミド、シクロペンチルメチルブロミド、1−メチルシクロペンチルメチルブロミド、1−エチルシクロペンチルメチルブロミド、1−プロピルシクロペンチルメチルブロミド、2−メチルシクロペンチルメチルブロミド、2−エチルシクロペンチルメチルブロミド、3−メチルシクロペンチルメチルブロミド、3−エチルシクロペンチルメチルブロミド、2,2−ジメチルシクロペンチルメチルブロミド、2,2−ジエチルシクロペンチルメチルブロミド、シクロヘキシルメチルブロミド、1−メチルシクロヘキシルメチルブロミド、1−エチルシクロヘキシルメチルブロミド、1−プロピルシクロヘキシルメチルブロミド、2−メチルシクロヘキシルメチルブロミド、2−エチルシクロヘキシルメチルブロミド、3−メチルシクロヘキシルメチルブロミド、3−エチルシクロヘキシルメチルブロミド、4−メチルシクロヘキシルメチルブロミド、4−エチルシクロヘキシルメチルブロミド、2,2−ジメチルシクロヘキシルメチルブロミド、2,2−ジエチルシクロヘキシルメチルブロミド、シクロペプチルメチルブロミド、1−メチルシクロヘプチルメチルブロミド、1−エチルシクロヘプチルメチルブロミド、1−プロピルシクロヘプチルメチルブロミド、2−メチルシクロヘプチルメチルブロミド、2−エチルシクロヘプチルメチルブロミド、3−メチルシクロヘプチルメチルブロミド、3−エチルシクロヘプチルメチルブロミド、4−メチルシクロヘプチルメチルブロミド、4−エチルシクロヘプチルメチルブロミド、2,2−ジメチルシクロヘプチルメチルブロミド、2,2−ジエチルシクロヘプチルメチルブロミド等の分岐アルキルブロミド類が例示される。
【0014】
本発明に使用する安定剤の添加量は、分岐アルキルブロミドに対して0.001〜5.0重量%の範囲である。特に0.005〜1.0重量%の範囲が実用上好ましい。0.001重量%より少ないと十分な安定化効果が得られない。また、5.0重量%より多い添加は、分岐アルキルブロミド以外の化合物を多量に含有することとなり、医薬,農薬,染料,香料等のファインケミカル製品の原料として使用するには不適当であり、また、経済的にも好ましくない。
【0015】
安定剤を添加する時期は特に限定されることはなく、分岐アルキルブロミドの蒸留または濃縮後、蒸留または濃縮時、または予め分岐アルキルブロミドの受器に仕込み、その後蒸留または濃縮を行うこともできる。また、分岐アルキルブロミドの純度、濃度または不純物組成に関係なく安定剤を添加してもよく、分岐アルキルブロミドを溶媒に溶解させた状態で添加してもよい。
【0016】
本発明に関し、分岐アルキルブロミドを保存する温度範囲は0〜70℃、好ましくは10〜60℃の範囲である。
【0017】
本発明によれば、分岐アルキルブロミドの保存の際に特定の安定剤を添加することにより、長期に渡りその安定性を維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、医薬,農薬,洗浄,香料等の有用な原料として、工業的に重要な化合物である分岐アルキルブロミドの異性化および分解を抑制することができるため、分岐アルキルブロミドの安定化方法として有用である。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
なお、異性体類、分解生成物は、ガスクロマトグラフィーによる標品の測定およびGC−MSにて確認した。また、組成分析はいずれもガスクロマトグラフィーを用いて行った。
【0021】
ガスクロマトグラフィー測定に用いた装置を以下に示す。
【0022】
装置:GC−17A(島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム NEUTRA BOND−5(GLサイエンス製)
(0.32mmI.D.×30m)
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
GC−MS測定に用いた装置を以下に示す。
【0023】
装置:M−80B(日立製作所製)
カラム:キャピラリーカラム DB−1701 (J&W製)
(0.25mmI.D.×30m)
実施例1、比較例1
2−エチルブタノール 102.2g(1.0モル)をディーンスターク還流脱水装置、温度計および磁気攪拌子を装着した四つ口フラスコに入れ、オイルバスにつけて、攪拌しながら内温120℃で臭化水素ガス160g(2.0モル)を13時間かけて吹き込み、副生成する水をディーンスターク還流脱水装置にて除去しながら反応させた。得られた反応液を洗浄し、減圧蒸留を行った。その結果、2−エチルブチルブロミドを得た。ガスクロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、2−エチルブチルブロミドの純度は99.5%であり、異性体類が0.5%であった。
【0024】
上記の2−エチルブチルブロミドに安定剤を添加し、常圧、窒素雰囲気下、40℃で加熱処理をした。結果を表1に示す。
【0025】
実施例2、比較例2
2−エチルブタノール 204.3g(2.0モル)を還流コンデンサー、温度計および磁気攪拌子を装着した四つ口フラスコに入れ、オイルバスにつけて、攪拌しながら内温55℃で臭化水素ガス272g(3.4モル)を32時間かけて吹き込み、反応させた。次いで、得られた有機層に水20重量%を添加し、攪拌しながら内温を60℃に保ち、主異性体である3−ブロモ−3−メチルペンタンを5時間かけて加水分解反応させた。その結果、3−ブロモ−3−メチルペンタンが選択的に加水分解を受けて、割合が7.1%から0.1%にまで低減した。次いで、得られた加水分解反応液を洗浄し、減圧蒸留を行った。その結果、2−エチルブチルブロミドを得た。ガスクロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、2−エチルブチルブロミドの純度は98.6%であり、異性体類が1.4%であった。
【0026】
上記の2−エチルブチルブロミドに安定剤を添加し、常圧、窒素雰囲気下、40℃で加熱処理をした。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R,Rは、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素基、またはR,Rが結合した脂肪族環式炭化水素基を示し、Rは水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素基を示す。)
で表される分枝アルキルブロミドに、エポキシド類、ニトロアルカン類、アミン類およびエーテル類からなる郡より選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.001〜5.0重量%の範囲で添加することを特徴とする分枝アルキルブロミドの安定化方法。
【請求項2】
分岐アルキルブロミドに対して、エポキシド類、ニトロアルカン類、アミン類およびエーテル類からなる郡より選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.001〜5.0重量%含んでなることを特徴とする分岐アルキルブロミド組成物。