説明

分岐状ポリエステルの製造方法

【課題】高い反応率で分岐状ポリエステルを製造する方法を提供すること。
【解決手段】(A)2価カルボン酸エステルと、(B)水酸基を3個以上含有するアルコールとを、水不溶有機溶媒の存在下で、酵素触媒を用いてエステル交換反応させる際に、(B)成分に対して水を3〜35質量%加えることを特徴とする分岐構造を有するポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはポリエステルの重合に反応阻害物質として働くと考えられる水を適量添加することにより、効率的に分岐状ポリエステルを重合することができる、分岐状ポリエステルの製造方法に関する。本発明の製造方法により得られる分岐状ポリエステルは、塗膜形成材料、記憶材料用化合物、インキ原料、塗料、生分解性ポリマー等の原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
分岐状ポリマーの物性は、直鎖状ポリマーの物性とは大きく異なるため、様々な応用が期待されこれまで多くの検討がなされてきた。これまでの報告ではポリエステルの製造において反応阻害物質として働くと考えられる水の除去に問題点を残していた。また、水溶媒中でのポリエステルの重合方法が提案されているが、重合率が低いなど反応性が乏しいことが問題とされていた(非特許文献1)。
【0003】
これに関する文献として、水中で、ほぼ等モル当量の多価カルボン酸ポリオールから、加水分解酵素を作用させて比較的低温でポリエステルを提供することが報告されている(特許文献1〜2)。また従来、水系媒体中では困難とされていた高分子量体且つトナー特性に優れたポリエステル樹脂の製造方法が報告されている(特許文献3)。さらに無溶媒中でポリエステルを製造する方法が報告されている(特許文献4)。
【0004】
また、加水分解酵素を用いて、ゲル化を生じることなく分岐状ポリエステルを製造する方法が報告されている。また超分岐性の水溶性又は水分散性のポリエステルを製造する方法が報告されている(特許文献5〜6)。
【0005】
さらに、ポリアルキレンアルカノエート及び(3−ヒドロキシアルカノエート)を、再重合可能な環状体を主成分とするオリゴマーに変換する方法、及びオリゴマーからもとのポリマーを製造する方法が報告されている。また、加水分解酵素を用いて、ポリエステル直鎖オリゴマーを、環状エステルオリゴマーに変換することを特徴とする製造方法が報告されている(特許文献7〜8)。
【0006】
さらにまた、加水分解酵素を用いて、減圧条件下で不活化気体を供給しながら、溶剤の非存在下でポリエステルを高い反応率で製造する方法が報告されている。また、加水分解酵素を用いて、60℃以上の加熱条件下、500ミリバールを越える圧力条件下で反応させることにより、極めて高い分岐度を有するポリエステルを製造することを特徴とする製造する方法が報告されている(特許文献9〜10)。
【0007】
分子量1000以下のジカルボン酸あるいはジカルボン酸誘導体と分子量1000以下で3価以上の脂肪族アルコールとを加水分解酵素の存在下に反応させることを特徴とするポリエステルの製造方法もまた報告されている(特許文献11)。
【0008】
繰り返し単位として、(i)少なくとも1種の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、またはその誘導体の残基;あるいは(ii)(a)少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体の残基、(b)少なくとも1種の脂肪族ヒドロキシアミン、ジオール、ポリオール、ジアミンまたはポリアミンの残基、および所望により(c)少なくとも1種の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸またはその誘導体の残基を含むポリエステルの製造方法であって、(i)で定義した成分または(ii)で定義した成分を、溶剤の不在下で、かつリパーゼの存在下で反応させることからなるポリエステルの製造方法もまた報告されている(特許文献12)。
【0009】
【特許文献1】特開平10−195185号公報
【特許文献2】特開2004−189797号公報
【特許文献3】特開2006−169509号公報
【特許文献4】特開平11−313692号公報
【特許文献5】特開2005−536608号公報
【特許文献6】特表2005−536608号公報
【特許文献7】特開2002−320499号公報
【特許文献8】特開2005−524401号公報
【特許文献9】特開2005−224143号公報
【特許文献10】特願2003−554905号公報
【特許文献11】特開2000−41692号公報
【特許文献12】特表平8−503850号公報
【非特許文献1】S. Kobayashi, H. Uyama, S. Suda, S. Namekawa, Chem. Lett., 1997, 105.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い反応率で分岐状ポリエステルを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポリエステルの製造において従来反応阻害物質として働くと考えられてきた水を特定量添加し、加水分解酵素を用いて、2価カルボン酸エステルと水酸基と3個以上含有するアルコールとをエステル交換することにより、分岐状ポリエステルを効率よく製造できることがわかった。
すなわち、本発明は、(A)2価カルボン酸エステルと、(B)水酸基を3個以上含有するアルコールとを、水不溶有機溶媒の存在下で、酵素触媒を用いてエステル交換反応させる際に、(B)成分に対して水を3〜35質量%加えることを特徴とする分岐構造を有するポリエステルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、緩和な条件において高い反応率で分岐状ポリエステルを合成できる。本発明の製造方法により得られる分岐状ポリエステルは、ゲル化を生じることが少なく、各種有機溶剤に対する溶解性に優れる。本発明は、酵素反応を用いるため、低エネルギー消費でかつ環境受容型である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において用いられる2価カルボン酸エステル(A)は、例えば、下記一般式(1)又は(2)で表されるものを使用できる。








【0014】
【化1】

【0015】
上記式(1)及び(2)において、R1及びR2は互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、フェニル基、水酸基およびアミンから選択される。このうち、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、フェニル基、水酸基、アミンが好ましい。またS1及びS2は互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、ジビニル、およびフェニル基から選択される。このうち、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、イソブチル、ジビニルが好ましい。nは1〜10、好ましくは1〜8、mは1〜10、好ましくは1〜5の整数である。
【0016】
上記単量体(A)として、より具体的には、例えばマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジフェニル、マロン酸ジビニル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジフェニル、コハク酸ジビニル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸、ジエチル、グルタル酸ジフェニル、グルタル酸ジビニル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジフェニル、アジピン酸ジビニル、ピメリン酸メチル、スベリン酸メチル、アゼライン酸メチル、セバシン酸メチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジイソブチル、セバシン酸ジフェニル、セバシン酸ジビニル、ウンデカンジカルボン酸メチル、ドデカンジカルボン酸ジメチル、テトラデカンジカルボン酸メチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジフェニル、アジピン酸ジビニル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジフェニル、イタコン酸ジビニル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ジビニル、リンゴ酸ジメチル、リンゴ酸ジメチル、リンゴ酸ジフェニル、リンゴ酸ジビニルを挙げることができる。また、本発明では2種類以上の2価カルボン酸エステルを混合してもよい。
【0017】
上記2価カルボン酸エステルの中でも、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジビニル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジフェニル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、グルタル酸ジビニル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジビニル、セバシン酸メチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジイソブチル、セバシン酸ジビニル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジビニル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジビニル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジビニル、リンゴ酸ジメチル、リンゴ酸ジエチル、リンゴ酸ジビニルの中から1種類以上選択して、重合することが分岐状ポリエステルの製造に好ましい。
【0018】
さらに上記2価カルボン酸エステルのうち、マロン酸ジメチル、マロン酸ジビニル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジビニル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジビニル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジビニル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジビニル、リンゴ酸ジメチル、リンゴ酸ジビニルの中から1種類以上選択して、重合することが分岐状ポリエステルの製造に更に好ましい。
【0019】
本発明において用いられる水酸基を3個以上含有するアルコール(B)として、より具体的には、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミン等が挙げられる。また、本発明では2種類以上の水酸基を3個以上有するアルコールを混合してもよい。上記多価アルコールのうち、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンより、1種類のみ選択して用いることが、分岐状ポリエステルの製造に好ましく、グリセリンを用いることが分岐状ポリエステルの製造に更に好ましい。
【0020】
本発明で使用する酵素としては、加水分解酵素であれば特に限定されない。酵素の形態は特に限定されず、酵素を樹脂等の担体に担持させた固定化酵素として使用することもできるし、粉末として使用することもできる。加水分解酵素としてはリパーゼが好ましい。リパーゼとしては、シュードモナス(Psedomonas)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、キャンディダ(Candida)属、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギル(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、ムコール(Mucor)属等の微生物から得られる種々の起源のものを使用することができる。リパーゼの市販品としては例えば、Novozym、Lipozym(ノボザイムジャパン社製)、ニューラーゼ、ウマミザイム、プロレザー(天野エンザイム社製)等が挙げられる。本発明のポリエステル製造方法においては、2種類以上のリパーゼを併用してもよい。上記リパーゼのうち、シュードモナス(Psedomonas)属、キャンディダ(Candida)属、アスペルギル(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属の微生物由来のリパーゼを用いることが好ましく、シュードモナス(Psedomonas)属、キャンディダ(Candida)属、アスペルギル(Aspergillus)属を用いることが更に好ましい。
【0021】
本発明において用いられる加水分解酵素としてはリパーゼ以外に、Porcine Liver由来エステラーゼ、Rabbit Liver由来エステラーゼ、Human Plasma由来エステラーゼ等のエステラーゼ類、Porcine Liver由来ラクトナーゼ、Pseudomonas fluorescens由来ラクトナーゼ等のラクトナーゼ類、Aspergillus oryzae由来ヒドラーゼ、Porcine Liver由来ヒドラーゼ、Pseudomonas cepacia由来ヒドラーゼ等のヒドラーゼ類、Bovine pancreas由来プロテアーゼ、Bacillus licheniformis由来プロテアーゼ、Bacillus thermoproteolyticus rokko由来プロテアーゼ、Rhizopus species由来プロテアーゼ等のプロテアーゼ類、Papaya latex由来のパパイン等が挙げられる。
【0022】
本発明において用いる水不溶有機溶媒としては加水分解酵素の活性を妨げないものが好ましいが、具体的には、脂肪族炭化水素溶媒、例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン;芳香族炭化水素溶媒、例えばベンゼン、トルエン、ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、アニソール;ハロゲン化炭化水素溶媒、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素;エーテル系溶媒、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル;極性溶媒、例えばt−アミルアルコール、酢酸エチル等が挙げられる。上記溶媒のうち、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒又はエーテル系溶媒が好ましく、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフランを用いることが特に好ましく、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンを用いることが更に特に好ましい。
【0023】
本発明において、上記に挙げた水不溶有機溶剤と共に、水酸基を3個含有するアルコールに対して、特定量の水を加えることにより、加水分解酵素によって分岐状ポリエステルが合成される。本発明において、水は水不溶有機溶媒中で水滴を形成する。そして、(A)2価カルボン酸エステルは水不溶有機溶媒中に存在し、(B)水酸基を3個以上含有するアルコールは水滴中に存在する。水と水不溶有機溶媒との微小な界面で(A)と(B)とが重合する。反応場である微小な界面を形成する水滴中に(B)水酸基を3個以上含有するアルコールが存在することにより、水酸基がより反応しやすい状況になるため、水が存在しない場合に比べて、水が存在した方が分岐状のポリエステルが生成しやすいと考えられる。
水の添加量は、水酸基を3個含有するアルコールに対して3〜35質量%であり、10〜30質量%が好ましく、18〜25質量%が更に好ましい。水の添加量が3質量%より少ない場合、充分な数の分岐構造を有するポリエステルが得られにくくなる。これは、水不溶有機溶媒と水との界面で反応し得るアルコール(B)の数が少なくなってしまうためと考えられる。水の添加量が35質量%よりも多い場合、分岐構造のポリエステルが得られにくくなり、生成率も低下してしまう。これは、水不溶有機溶媒中に分散された水の粒子径が大きくなりすぎるため、水不溶有機溶媒と水との界面に存在するアルコール(B)の数が少なくなってしまい、換言すれば、水の粒子が大きすぎるため、アルコール(B)が界面に存在でにくくなるためであると考えられる。
【0024】
本発明において、2価カルボン酸エステル(A)と水酸基を3個以上含有するアルコール(B)との混合質量比率は、分岐度の高いポリエステルを得るには、(A)/(B)=30/70〜60/40とすることが好ましく、さらに45/55〜55/45とすることが好ましい。
【0025】
本発明において、2価カルボン酸エステル(A)と水酸基を3個以上含有するアルコール(B)との合計質量濃度は、分岐度の高いポリエステルを得るには、(A)と(B)と溶媒と、必要により使用するその他成分とを足し合わせた量に対して、10質量%から80質量%が好ましく、15質量%から70質量%が更に好ましい。
【0026】
本発明において、添加する加水分解酵素の量は、添加する2価カルボン酸エステル(A)と水酸基を3個以上含有するアルコール(B)の総質量に対して、0.01質量%から30質量%が好ましく、さらに安定したポリエステルの製造には、0.05質量%から15質量%が好ましく、0.1質量%から7質量%が更に好ましい。
【0027】
本発明において重合温度は、用いられる溶媒、加水分解酵素、2価カルボン酸エステル(A)と水酸基を3個以上有するアルコール(B)の種類によって適宜定められるが、25℃から170℃が好ましく、25℃から80℃が更に好ましい。
【0028】
本発明において重合時間は、用いられる溶媒、加水分解酵素、2価カルボン酸エステル(A)と水酸基を3個以上有するアルコール(B)の種類によって適宜定められるが、1時間から24時間が好ましく、3時間から15時間が更に好ましい。
【0029】
分岐状ポリエステルは、分子量が同じ直鎖ポリエステルに比べて粘度が低い。この特性により、分岐状ポリエステルは、インキ等、ポリマーを高濃度で使用する場合に、操作性の向上、吹きつけ特性の向上、吹き付けられたインキの平滑性の向上など多くの利点を有する。
理論上は、3つ以上の官能基を持ったモノマーであれば分岐状ポリマーを得ることが可能であるが、実際には、このようなモノマーを単に重合しても、立体障害等の影響から分岐状高分子を選択的に重合することは難しいことが一般的に知られている。そのため、分岐構造を有する高分子を重合可能な本発明は、工業的に価値があるプロセス技術だといえる。
本発明の製造方法により得られる分岐状ポリエステルの例を図1にCとして示す。Cでは、グリセリンの3つの官能基全てが反応しているが、Aは1つの官能基のみ、BとDは2つの官能基のみしかエステル交換反応をしていないため直鎖構造を示す。Cの量が高分子構造中に多く存在しているほど、分岐度の高い高分子だといえる。高分岐度になるほど高分子構造は球状に近くなり、例えば粘度特性などの物性値が直鎖状高分子と比べて大きく異なることがよく知られている。なお、A〜Dの各構造は、C13NMRにより測定することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
[実施例1]
冷却還流管、滴下ロート、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコにアジピン酸ジビニル 59.5g、グリセリン 27.6g及びNovozym435〔リパーゼ(キャンディダ アンタークティカ由来)固定化酵素〕を0.6g仕込み、トルエン溶媒260gを添加後に、グリセリンに対して20質量%量の水(10.5g)を添加し、20mL/分の窒素パージを設定して、攪拌しながら60℃で8時間反応させた。反応終了後に、クロロホルムを加えて不溶の固定化リパーゼをゼライトによって濾過し、濾液をエバポレーターによって減圧濃縮してポリエステルを得た。ポリエステルはクロロホルムに溶解した後に、大量のメタノールに溶解させて再沈殿させる方法によって精製した。得られたポリエステルの構造及び存在率は、C13NMRを用いて決定した。
表1に、図1に示す構造A〜Dの存在率と反応率とを示す。反応率は、ガスクロマトグラフィーを用いて、反応後に残存するアジピン酸ジビニルの濃度を測定して、算出した。
【0031】
[実施例2〜9 及び 比較例1〜8]
上記実施例1において、表1の仕込み組成となるように配合物と配合割合を代えた以外は、上記実施例1と同様の方法によって実施例2〜9及び比較例1〜8のポリエステルを得た。また得られた化合物の同定も、上記実施例1と同様に行なった。








【0032】
【表1】


【0033】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ポリエステルの分子構造を示す。A,B及びDが直鎖状ポリエステル構造、Cが分岐状ポリエステル構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2価カルボン酸エステルと、(B)水酸基を3個以上含有するアルコールとを、水不溶有機溶媒の存在下で、酵素触媒を用いてエステル交換反応させる際に、(B)成分に対して水を3〜35質量%加えることを特徴とする分岐構造を有するポリエステルの製造方法。
【請求項2】
酵素触媒がリパーゼであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
(A)2価カルボン酸エステルが、下記式(1)又は(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【化1】

(式(1)及び(2)において、R1及びR2は互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、フェニル基、水酸基およびアミンから選択される。S1及びS2は互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、ジビニル、およびフェニル基から選択される。nは1〜10、mは1〜10の整数である。)
【請求項4】
(B)水酸基を3個以上含有するアルコールが、グリセリン、トリメチロールエタン及びトリメチロールプロパンからなる群から選ばれる1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
水不溶有機溶媒が、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、エーテル系溶媒又は極性溶媒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。

【図1】
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