説明

分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法

【課題】粘度平均分子量のバラツキが少なく、熱安定性に優れ、色相の良好な成形品が得られる分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】二価フェノール化合物、三価以上のフェノール化合物である分岐剤、一価フェノール類、およびホスゲンを用いて、アルカリ水溶液および有機溶媒の存在下で界面重合反応法により分岐状ポリカーボネート樹脂を製造する方法において、分岐剤中のアルコール含有量が200ppm以下であり、且つ分岐剤の水酸化ナトリウム水溶液(14重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に分岐剤を25重量%濃度で溶解した水溶液)のAPHAが250以下である分岐剤を使用することを特徴とする分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は界面重合法による分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。さらに詳しくは、品質安定性に優れ、且つ押出成形、ブロー成形、射出成形、真空成形する際、熱安定性に優れ、色相の良好な成形品が得られる分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールA等から製造される直鎖状ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、機械特性に優れ、幅広い用途で使用されている。しかし、該直鎖状ポリカーボネート樹脂を押出成形、ブロー成形、射出成形、真空成形等の用途に用いた場合は、溶融張力が低いため成形品に厚みむらが生じたり、ドローダウンを生じたりして満足な成形品が得られない場合がある。
【0003】
これを解決する方法としては、ポリカーボネート樹脂重合時に3個以上の官能基を有する分岐剤を添加して得た分岐状ポリカーボネート樹脂を用いる方法が開示されている(特許文献1参照)。
しかしながら、このような分岐状ポリカーボネート樹脂を通常使用されている分岐剤で製造した場合、分子量が伸び難い問題を引き起こす。また、アルカリ水溶液に溶解して用いた場合、分岐剤は着色しやすく、着色した分岐剤を用いると得られた分岐状ポリカーボネート樹脂の色相が悪くなることが問題となる。
【0004】
従来より、色相の優れた分岐状ポリカーボネート樹脂を得る方法としては、分岐剤のメタノール溶液のb値がある範囲内である分岐剤を使用する方法(特許文献2)や硫黄含有量の低い特殊な分岐剤を用いる方法(特許文献3)が知られている。
しかしながら、いずれの方法においても粘度平均分子量が伸び難く、分子量のバラツキが大きく、かつ熱安定性および色相の改善効果も不十分であることから、更に品質に優れた分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−047228号公報
【特許文献2】特開2005−336332号公報
【特許文献3】特許第3026707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、粘度平均分子量のバラツキが少なく、熱安定性に優れ、色相の良好な成形品が得られる分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、分岐剤中のアルコール含有量を減少し、さらに分岐剤/NaOH水溶液のAPHAが250以下である分岐剤を使用することにより、本発明の目的が達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
1.二価フェノール化合物、三価以上のフェノール化合物である分岐剤、一価フェノール類、およびホスゲンを用いて、アルカリ水溶液および有機溶媒の存在下で界面重合反応法により分岐状ポリカーボネート樹脂を製造する方法において、分岐剤中のアルコール含有量が200ppm以下であり、且つ分岐剤の水酸化ナトリウム水溶液(14重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に分岐剤を25重量%濃度で溶解した水溶液)のAPHAが250以下である分岐剤を使用することを特徴とする分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法、
2.二価フェノール化合物および分岐剤を溶解したアルカリ水溶液に、有機溶媒の存在下ホスゲンを吹き込み反応させて、粘度平均分子量1.5×10〜6.5×10のオリゴマー溶液を得、該オリゴマー溶液に一価フェノール類を投入し乳化させた後、無攪拌下で重合させる前項1記載の分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法、および
3.ホスゲンを吹き込む際、下記式(1)で示されるアルカリ量であり、アルカリ水溶液中のアルカリ濃度が5.5〜12重量%である前項1記載の分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法、
1.9B+3.0C ≦ A ≦ 2.5B+3.35C (1)
アルカリのモル数:A
二価フェノール化合物のモル数:B
三価フェノール化合物のモル数:C
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法で得られた分岐状ポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量のバラツキが小さく、かつ色相、熱安定性、耐ドローダウン性に優れていることから、かかる分岐状ポリカーボネート樹脂は、押出成形、ブロー成形、射出成形、真空成形等の成形も安定して行うことができるため、種々の用途に好適に用いられ、その効果は格別なものがある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用される二価フェノール化合物の代表的な例は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上併用してもよい。なかでも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0011】
本発明で使用される分岐剤は、アルコール含有量が200ppm以下であり、好ましくは150ppm以下であり、より好ましくは100ppm以下である。含有されるアルコール成分としてはメタノール、エタノール等が挙げられ、特にメタノール含有量が少ないことが好ましい。分岐剤のアルコール含有量が200ppmより多いと、反応の際にホスゲンの分解が促進され、分岐状ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が伸び難くなり、分子量のバラツキが大きくなる。分岐剤中のアルコール含有量は各種方法によって200ppm以下に調整することができる。例えば、減圧乾燥を十分行うことにより得ることが出来る。
【0012】
本発明で使用される分岐剤は、14重量%NaOH水溶液1重量部に対し分岐剤0.33重量部溶解した水溶液(分岐剤を25重量%濃度で溶解した水溶液)でのAPHAが250以下であり、好ましくは200以下であり、より好ましくは150以下である。分岐剤のNaOH水溶液のAPHAが250を超えるものを用いると、熱安定性および色相が悪化するので好ましくない。これは、分岐剤中に含有する鉄分等の不純物による影響と思われる。分岐剤のNaOH水溶液のAPHAを250以下に調整する方法としては、例えば分岐剤を有機溶媒に溶解し、該有機溶媒溶液1容量部に対しpH7未満の酸性水溶液0.1容量部以上を加えて混合した後、分液して有機溶媒溶液を回収し、回収した該有機溶媒溶液にNaOH水溶液を加えて攪拌し、分岐剤を有機溶媒溶液からNaoH水溶液に抽出し、分液することで、APHAが250以下の分岐剤のNaOH水溶液を得ることが出来る。
【0013】
本発明で使用される分岐剤は3価以上の多価フェノール化合物又はそれらの誘導体であり、代表的な例は、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノ−ル、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、トリスフェノール、ビス(2,4−ジヒドロキシルフェニル)ケトン、フロログルシン、フロログルシド、イサンチンビスフェノール、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ペンテン、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、2,4,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2,4,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4−トリヒドロキシジフェニルエーテル、2,2,4,4−テトラヒドロキシジフェニルエーテル、2,4,4−トリスヒドロキシフェニル−2−プロパン、2,2−ビス(2,4−ジヒドロキシ)プロパン、2,2,4,4−テトラヒドロキシジフェニルメタン、1−〔α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α,α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、α、α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、2,2−ビス〔4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕−プロパン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−イソプロピロベンジル)−4−イソプロピルフェノール、ビス〔2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−5−イソプロピロベンジル)−5−メチルフェニル〕メタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,4,7−トリヒドロキシフラバン、2,4,4−トリメチル−2,4,7−トリヒドロキシフラバン、1,3−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニルイソプロピル)ベンゼン、5−ブロモイサチン、トリメリト酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びこれらの酸クロライド等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上併用してもよい。なかでも、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。前記の多価フェノール類は固形物およびまた溶融物を、あるいは固形物およびまたは溶融物を用いることができる。
【0014】
本発明において、分子量調節剤として用いられる一価フェノール類(末端停止剤)としてはどのような構造でもよく、特に制限はない。例えば、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、4−ヒドロキシベンゾフェノン、フェノール等が挙げられる。なかでも、p−tert−ブチルフェノールが好ましい。これらの一価フェノール類は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%以上末端に導入されることが望ましく、また、一価フェノールは単独または2種以上混合して用いてもよい。前記の一価フェノール類は固形物およびまたは溶融物を、あるいは固形物およびまたは溶融物をアルカリ水溶液または有機溶媒に溶解して加えることができる。
【0015】
本発明に用いるアルカリは例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等が好ましく用いられる。ホスゲン化反応時のアルカリ水溶液濃度としては5.5〜12重量%が好ましい。また、アルカリ量は下記式(1)で示す範囲が好ましい。アルカリ量がA<1.9B+3.0Cの場合は粘度平均分子量のバラツキが大きく、また粘度平均分子量伸長が低下し易く、A>2.5B+3.35Cの場合はホスゲンの分解およびクロロホーメート基が分解多くなり粘度平均分子量が伸長しないことがある。
1.9B+3.0C ≦ A ≦ 2.5B+3.35C (1)
アルカリのモル数:A
二価フェノール化合物のモル数:B
三価フェノール化合物のモル数:C
【0016】
有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、テトラクロルエタン、トリクロルエタン、ジクロルエタン、クロルベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素が用いられ、特に塩化メチレンが好ましく用いられる。
【0017】
本発明において、分岐状ポリカーボネート樹脂は、好適には下記の方法で製造される。
二価フェノール化合物および分岐剤を溶解したアルカリ水溶液に、有機溶媒の存在下ホスゲンを吹き込み反応させて、粘度平均分子量1.5×10〜6.5×10のオリゴマーを得、これに一価フェノール類を投入し乳化させた後、無攪拌下で重合させる方法である。
【0018】
また、反応促進のために反応触媒として、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を使用することも出来る。反応触媒を使用する際の触媒量は、二価フェノール化合物に対して0.0005〜0.05モル%が好ましい。0.0005モル%未満では触媒効果が期待できず、また0.05モル%越える場合はゲルが生成したりする。また触媒がクロロホーメート基と反応して熱的に不安定なウレタン結合が多くなると共に、触媒が残存することにより分岐状ポリカーボネート樹脂中の全N含有量が増大し、耐衝撃性、透明性、耐熱性が低下するので好ましくない。なお、上記反応は無触媒で行うことが好ましい。
【0019】
反応温度は通常0〜40℃好ましく、さらに15〜38℃が好ましい。反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9.0以上に保つのが好ましく、11.0〜13.8がさらに好ましい。
【0020】
上記の界面重合反応する際に一価フェノール類を投入後に乳化させる方法としては特に制限はないが、撹拌装置で撹拌する方法、またはアルカリ水溶液を添加する方法等が挙げられ、撹拌装置としては、パドル、プロペラ、タービンまたはカイ型翼等の単純な撹拌装置、ホモジナイザー、ミキサー、ホモミキサー等の高速撹拌機、スタティックミキサー、コロイドミル、オリフィスミキサー、フロージェットミキサー、超音波乳化装置等がある。なかでも無触媒で重合する方法においてはホモミキサー、スタティックミキサー等が好ましく用いられる。
【0021】
得られた分岐状ポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液は、次いで、該分岐状ポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液を洗浄、造粒、乾燥し、本発明の分岐状ポリカーボネート樹脂(パウダー)を得ることができる。さらに該パウダーを溶融押出してペレット化して本発明の分岐状ポリカーボネート樹脂(ペレット)が得られる。洗浄、造粒、乾燥などは特に制限はなく公知の方法が採用できる。
【0022】
本発明の製造方法で得られた分岐状ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は1.8×10〜3.2×10の範囲が好ましく、2.0×10〜2.7×10の範囲がより好ましい。分子量が3.2×10を越えると溶融張力が高くなり過ぎて成形性に劣り、分子量が1.8×10未満であると溶融張力が改善されず、押出成形やブロー成形が困難になるので好ましくない。また、分岐状ポリカーボネート樹脂は、押出成形用には粘度平均分子量2.15×10〜3.2×10、射出成形用には粘度平均分子量1.8×10〜2.8×10が昜成形性面から好ましく用いられる。
【0023】
上記オリゴマーまたは分岐状ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、塩化メチレン100mlにオリゴマーまたは分岐状ポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求められる。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0024】
本発明の製造方法で得られた分岐状ポリカーボネート樹脂には、リン系の熱安定性を配合することが好ましい。リン系の熱安定剤としては、例えば亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリスフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2.トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。)
【0025】
なかでも、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、及び4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)等が好ましく使用され、特にトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。これらは単独又は2種以上を混合して使用できる。これらの熱安定剤の配合量は、分岐状ポリカーボネート樹脂に対して、好ましくは10〜10000ppm、より好ましくは20〜1000ppmである。これらのリン系熱安定剤の配合量が10ppm未満の場合は熱安定性向上が十分でなく、10000ppmを超えると耐久性が低下するので好ましくない。
【0026】
前記熱安定剤を分岐状ポリカーボネート樹脂に配合する方法としては、分岐状ポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液に添加する方法、およびまたは分岐状ポリカーボネート樹脂パウダーに添加する方法や溶融押出機に供給する方法等のいずれの方法で加えてもよい。熱安定剤は、そのまま添加しても溶媒に溶解して添加しても構わない。
【0027】
本発明の製造方法で得られた分岐状ポリカーボネート樹脂は、分岐状ポリカーボネート樹脂に対して直鎖状ポリカーボネート樹脂を本発明の特性を損なわない範囲の量(好適には10重量%以下の量)をブレンドすることができる。
【0028】
本発明の製造方法で得られた分岐状ポリカーボネート樹脂には、本発明の特性を損なわない範囲で、さらに酸化防止剤、離型剤(脂肪酸エステル等)、耐候剤(紫外線吸収剤)、核剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、増白剤、抗菌剤、着色剤(顔料、染料等)、充填剤、強化剤、他樹脂やゴム等の重合体、難燃剤等の改質改良剤を適宜添加して用いることができる。シート分野で建材用途として用いる場合は耐候剤を配合することが望ましく、また、発泡シートでは、核剤を配合することが望ましい。耐候剤としては、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノ−ル、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられる。
【0029】
また、本発明の製造方法で得られた分岐状ポリカーボネート樹脂は、透明性およびドローダウン性に優れるので、種々の用途に好適に使用される。具体的には、射出成形、押出成形やブロー成形などの成形加工に好適である。かかる用途としては例えば、導光板、プリズムシート、照明機器などの電気・電子部品を挙げることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。特に断り書きのない場合、部は重量部を表す。なお、評価は次に示す方法で行った。
【0031】
(1)分岐剤中のアルコール含有量;サンプルを1.5g秤量した後、250℃で2時間加熱し、ガス1mlを採取した。そのガスを用いてGC/MS法により測定した。
【0032】
(2)APHA(分岐剤のアルカリ溶解色);分岐剤のNaOH水溶液(14重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に分岐剤を25%重量濃度で溶解した水溶液)を直径24mmの試験管に高さ15cmまで入れ、JIS K 6901・4・2・1のハーゼン色数法に準じて比色評価した。
【0033】
(3)溶解色;樹脂ペレット2.4gを塩化メチレン60gに溶解した溶液を直径24mmの試験管に高さ15cmまで入れ、JIS K 6901・4・2・1のハーゼン色数法に準じて比色評価した。ハーゼン色数値が低いほどポリマーの色相が優れる。
【0034】
(4)熱安定性;試料ペレットを120℃で5時間乾燥した後射出成形機(住友重機(株)製SG−150)を用い、シリンダー温度350℃、スクリュー回転数63rpm、射出速度40mm/sec、射出圧力90MPa、背圧1段目10MPa、2段目5MPa、金型温度80℃、型締め圧力80トン、金型冷却時間20、保圧90MPaで10秒、30MPaで10秒の条件で成形し、10分間滞留させたものとさせないものの試験片(縦70mm、横50mm、厚み2mm)をそれぞれ作成し、その色相の変化(△E)を測定した。色相の変化は、色差計(日本電色(株)製)でそれぞれのL、a、b値を測定し、下記式を用いて算出した。
ΔE=[(L′−L)+(a′−a)+(b′−b)1/2
(L、a、bは滞留させないもの、L′、a′、b′は10分間滞留させたもの)
【0035】
(5)分岐状ポリカーボネート樹脂またはオリゴマーの粘度平均分子量(M);塩化メチレン100mlに分岐状ポリカーボネート樹脂またはオリゴマー0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0036】
[分岐剤の調整]
(1)条件1(実施例1に用いる分岐剤の調整)
(i)市販品の分岐剤1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(メタノール含有量250ppm)を減圧乾燥機で80℃、30torrで60分間乾燥を行い、メタノール含有量90ppmの1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンを得た。
(ii)該1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン1重量部を塩化メチレン3重量部に加えて溶解した後、イオン交換水に35.5重量%塩酸水溶液を加えてpH5に調整した水溶液1.5重量部を加え15分間混合した後、静置し、分液して、塩化メチレン溶液を回収した。該塩化メチレン溶液に対し、ハイドロサルファイトを予め0.1重量%を溶解した14重量%NaOH水溶液3.02重量部を加え、15分間混合した後、静置し、分液してAPHA150の分岐剤のNaOH水溶液4.02重量部を得た。
【0037】
(2)条件2(実施例2に用いる分岐剤の調整)
(i)市販品の分岐剤1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(メタノール含有量250ppm)を減圧乾燥機で80℃、30torrで45分間乾燥を行い、メタノール含有量130ppmの1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンを得た。
(ii)この分岐剤を用いて、条件1(ii)と同じ方法で調整し、APHA160の分岐剤のNaOH水溶液4.02重量部を得た。
【0038】
(3)条件3(比較例1に用いる分岐剤の調整)
(i)市販品の分岐剤1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(メタノール含有量250ppm)を減圧乾燥機で80℃、30torrで45分間乾燥を行い、メタノール含有量130ppmの1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンを得た。
(ii)この分岐剤1重量部を、ハイドロサルファイトを予め0.1重量%を溶解した14重量%NaOH水溶液3.02重量部に加え、APHA280の分岐剤のNaOH水溶液4.02重量部を得た。
【0039】
(4)条件4(比較例2に用いる分岐剤の調整)
(i)市販品の分岐剤1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(メタノール含有量250ppm)1重量部を塩化メチレン3重量部に加えて溶解した後、イオン交換水に35.5重量%塩酸水溶液を加えてpH5に調整した水溶液1.5重量部を加え15分間混合した後、静置し、分液して、塩化メチレン溶液を回収した。該塩化メチレン溶液に対し、ハイドロサルファイトを予め0.1重量%を溶解した14重量%NaOH水溶液3.02重量部を加え、15分間混合した後、静置し、分液してAPHA160の分岐剤のNaOH水溶液4.02重量部を得た。
【0040】
(5)条件5(比較例3に用いる分岐剤の調整)
(i)市販品の分岐剤1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(メタノール含有量250ppm)1重量部を、ハイドロサルファイトを予め0.1重量%を溶解した14重量%NaOH水溶液3.02重量部に加え、APHA270の分岐剤のNaOH水溶液4.02重量部を得た。
【0041】
[実施例1]
温度計、攪拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水2340部、25%水酸化ナトリウム水溶液947部、ハイドロサルファイト0.7部を仕込み、攪拌下にビスフェノールA710部を溶解した(ビスフェノールA溶液)。その後、塩化メチレンを2299部と48.5%水酸化ナトリウム水溶液112部、条件1で調整した分岐剤のNaOH水溶液38.1部を加えて15〜25℃でホスゲン354部を約90分かけて吹き込みホスゲン化反応を行った。得られたオリゴマーの粘度平均分子量は4.2×10であった。
ホスゲン化終了後、11%濃度のp−tert−ブチルフェノールの塩化メチレン溶液219部と48.5%水酸化ナトリウム水溶液88部を加えて、攪拌を停止し、10分間静置分離後、攪拌を行い乳化させ5分後、ホモミキサー(特殊機化工業(株))で回転数1200rpm、パス回数35回で処理し高乳化ドープを得た。該高乳化ドープを重合槽(攪拌機付き)で、無攪拌条件下、温度35℃で3時間反応し重合を終了した。
反応終了後、塩化メチレン5728部を加えて希釈した後、反応混合液から塩化メチレン相を分離し、分離した塩化メチレン相にイオン交換水5000部加え攪拌混合した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離した。この操作を水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで水洗浄を(4回)繰り返した後、SUS316L製のろ過精度1μmフィルターを用いて溶液温度38℃でろ過して精製ポリカーボネート樹脂溶液を得た。次に、該精製ポリカーボネート樹脂溶液をイオン交換水100L投入した1000Lニーダーで、液温75℃にて塩化メチレンを蒸発させて粉粒体を得た。該粉粒体25部と水75部を攪拌機付熱水処理槽に投入し、水温95℃で30分間攪拌混合した。
【0042】
次いで、該粉粒体と水の混合物を遠心分離機で分離して、塩化メチレン0.5重量%、水45重量%を含む粉粒体を得た。次に、該粉粒体を140℃にコントロールされているSUS316L製伝導受熱式溝型2軸攪拌連続乾燥機に50kg/hr(ポリカーボネート樹脂換算)で連続供給して、平均乾燥時間3時間の条件で乾燥して粉粒体を得た。
該粉粒体に対しトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.03重量%、高級脂肪酸ペンタエリスリトールエステルを0.3重量%、マクロレックスバイオレットB(アンスラキノン系染料)を0.000035重量%加え混合し、かかる粉粒体をベント式二軸押出機[東芝機械(株)製TEM−50B]によりシリンダー温度280℃、乾式真空ポンプを用いてベント吸引圧700Paで吸引脱気しながら溶融混練押出しペレットを得た。
このようにして得られた分岐状ポリカーボネート樹脂ペレットは分岐剤含有率0.95モル%、粘度平均分子量2.51×10であった。また、溶解色および熱安定性の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0043】
[実施例2]
条件2で調整した分岐剤のNaOH水溶液を用いた以外は実施例1と同様に行い評価した。その結果を表1に示した。
【0044】
[比較例1]
条件3で調整した分岐剤のNaOH水溶液を用いた以外は実施例1と同様に行い評価した。その結果を表1に示した。
【0045】
[比較例2]
条件4で調整した分岐剤のNaOH水溶液を用いた以外は実施例1と同様に行い評価した。その結果を表1に示した。
【0046】
[比較例3]
条件5で調整した分岐剤のNaOH水溶液を用いた以外は実施例1と同様に行い評価した。その結果を表1に示した。
【0047】
表1の結果から、本発明の効果を具体的に説明すると次の通りである。
実施例1および2は、分岐状ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量のバラツキが小さく、溶解色及び熱安定性ともに良好であった。
比較例1では、分岐状ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量のバラツキは小さいが、溶解色及び熱安定性はともに不十分であった。
比較例2では、分岐状ポリカーボネート樹脂の溶解色及び熱安定性は良好であったが、粘度平均分子量のバラツキは大きくなった。
比較例3では、分岐状ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量のバラツキが大きく、また溶解色及び熱安定性ともに不十分であった。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製造方法で得られた分岐状ポリカーボネート樹脂は、導光板、プリズムシート、照明機器などの電気・電子部品の用途に好適に使用され有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノール化合物、三価以上のフェノール化合物である分岐剤、一価フェノール類、およびホスゲンを用いて、アルカリ水溶液および有機溶媒の存在下で界面重合反応法により分岐状ポリカーボネート樹脂を製造する方法において、分岐剤中のアルコール含有量が200ppm以下であり、且つ分岐剤の水酸化ナトリウム水溶液(14重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に分岐剤を25重量%濃度で溶解した水溶液)のAPHAが250以下である分岐剤を使用することを特徴とする分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項2】
二価フェノール化合物および分岐剤を溶解したアルカリ水溶液に、有機溶媒の存在下ホスゲンを吹き込み反応させて、粘度平均分子量1.5×10〜6.5×10のオリゴマー溶液を得、該オリゴマー溶液に一価フェノール類を投入し乳化させた後、無攪拌下で重合させる請求項1記載の分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項3】
ホスゲンを吹き込む際、下記式(1)で示されるアルカリ量であり、アルカリ水溶液中のアルカリ濃度が5.5〜12重量%である請求項1記載の分岐状ポリカーボネート樹脂の製造方法。
1.9B+3.0C ≦ A ≦ 2.5B+3.35C (1)
アルカリのモル数:A
二価フェノール化合物のモル数:B
三価フェノール化合物のモル数:C

【公開番号】特開2011−213938(P2011−213938A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85077(P2010−85077)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】