説明

分岐状高分子化合物

【課題】剛直鎖高分子の特徴である高い弾性率、低い線膨張率、高い耐熱性などは残しつつ、異方性がない高分子を提供すること。
【解決手段】−OH、−COOH、−OCOCH3を3〜6個有するベンゼン、ナフタレン及びトリフェニレンの置換化合物群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと、(1)芳香族ジヒドロキシ化合物、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーとを重合してなる重合体であって、且つ前記ベンゼン、ナフタレン及びトリフェニレンの置換化合物群から選ばれるモノマー由来の構成単位を分岐の起点とする分岐状高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐状剛直鎖高分子化合物、その成形体およびそのフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエステルは、剛直な主鎖を有していることから、他に類を見ない高い弾性率、低い線膨張係数、高い耐熱性などの特徴的物性を示すことが知られており、工業的にも、広く活用されるに至っている。しかしながら、その剛直な分子構造ゆえに成形品の流動方向に係る異方性が生成するのもその特徴である。具体的には、射出成形品では線膨張係数が成形品の部位や方向によって異なったり、ウェルド強度が弱くなったりすることが問題になることがあった。また、フィルムにおいても、成膜方向によって線膨張係数や機械的強度、電気特性などが異なることが問題となっていた。
下記特許文献1では、異方性を是正するために芳香族ポリエステルをフィルムに成膜した後、特定の温度、圧力で加圧することで異方性をなくすることを開示している。しかしながら、この方法では、加圧という工程が追加で必要である上、加圧条件を慎重に選ぶ必要があり、加圧条件によっては十分な均一性が得られなく、また、均一なフィルムが得られた場合も、フィルムが高温に曝された場合、異方性が現れるといった問題があった。
【特許文献1】特開平4−308737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、剛直鎖高分子化合物の特徴である高い弾性率、低い線膨張率、高い耐熱性などは残しつつ、異方性がない高分子化合物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち、本発明は、
[1]下記化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと、(1)芳香族ジヒドロキシ、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーとを重合してなる重合体であって、且つ上記化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物群から選ばれるモノマー由来の構成単位を分岐の起点とする重合体であることを特徴とする分岐状高分子化合物、
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、X1〜6のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、X7〜14のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、X15〜20のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
[2] (1)芳香族ジヒドロキシ、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーが、下記化学式で表される化合物から選ばれることを特徴とする上記[1]記載の分岐状高分子化合物、
【0011】
【化4】

【0012】
(式中、X,Yは、独立して、それぞれ、水素、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。Zは、−O−、−CH−、−S−である。)
【0013】
【化5】

【0014】
(式中、Xは、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。)
【0015】
【化6】

【0016】
(式中、Xは、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。)
【0017】
【化7】

【0018】
[3] [1]又は[2]記載の分岐状高分子化合物からなる成形品、
[4] [1]又は[2]記載の分岐状高分子化合物からなるフィルム、
である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の分岐状高分子化合物を使用すると、高弾性率、低線膨張係数、高耐熱などの特性を持ち、かつ線膨張係数、機械的強度、電気特性などの異方性がなくウェルド強度も強い成形品が得られる。また、線膨張係数、機械的強度、電気特性などの異方性がないフィルムを効率よく成膜できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明でいう分岐状高分子化合物とは、下記化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと、(1)芳香族ジヒドロキシ、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーとを重合してなる重合体であって、上記化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物群から選ばれる化合物由来の構成単位を分岐の起点とする重合体であり、該化合物の−OH基、−COOH基、−OCOCH基と、(1)芳香族ジヒドロキシ、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーの官能基とが化学結合し、さらに(1)芳香族ジヒドロキシ、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーが重合してなる分岐を有する高分子化合物である。
【0021】
【化8】

【0022】
(式中、X1〜6のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0023】
【化9】

【0024】
(式中、X7〜14のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0025】
【化10】

【0026】
(式中、X15〜20のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
本発明において用いられる(1)芳香族ジヒドロキシとしては、下記に例示される化合物が挙げられる。
【0027】
【化11】

【0028】
(式中、X,Yは、独立して、それぞれ、水素、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。Zは、−O−、−CH−、−S−である。)
(2)芳香族ジカルボン酸としては、下記に例示される化合物が挙げられる。
【0029】
【化12】

【0030】
(式中、Xは、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。)
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、下記に例示される化合物が挙げられる。
【0031】
【化13】

【0032】
(式中、Xは、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。)
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸としては、下記に例示される化合物が挙げられる。
【0033】
【化14】

【0034】
また、本発明において、3〜6個の官能基を有し、分岐の起点となるモノマーとして用いられる化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物としては、下記に例示する化合物が挙げられる。
【0035】
【化15】

【0036】
【化16】

【0037】
化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物の添加量は、化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物群から選ばれるモノマーと、(1)芳香族ジヒドロキシ、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれるモノマーの合計量に対して、成形品の異方性の観点から0.1モル%以上が好ましく、成形する際の加工性の観点から3モル%以下が好ましい。さらに好ましくは0.3〜2モル%、特に好ましくは0.5〜1.5モル%である。
本発明の分岐状高分子化合物の重合方法は、分岐の起点となるモノマーとして使用する化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物(以下、分岐モノマーという。)に起因する架橋構造を形成させないよう配慮した方法、例えば、該モノマーの添加時期、該モノマーの添加比率などを工夫した重合方法であれば、通常の芳香族ポリエステルの重合方法、芳香族ポリアミドの重合方法でよい。
【0038】
分岐状高分子化合物が芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミド、芳香族ポリアミドの場合、上記(1)〜(4)に示すモノマー群から適切な組み合わせ、割合でモノマーを選択し、触媒の存在下、または非存在下、加熱して重合を進め、重合がある程度進んだ段階で分岐モノマーを添加してさらに重合を進める方法、また、分岐モノマーの(1)〜(4)のモノマーに対する割合を低く(例えば2モル%以下)し、初期から(1)〜(4)のモノマーと分岐モノマーとをあらかじめ混合しておき、重合に供する方法、また、さらに別の方法は、(1)〜(4)に示すモノマー群から適切な組み合わせ、割合でモノマーを選択し、触媒の存在下、または非存在下、加熱して重合を進め、ポリマーとして取り出し、これを、改めて、分岐モノマーと適切な割合で、混合し、溶媒に溶解して化学反応させて、分岐高分子化合物を完成させる方法などが挙げられる。重合時、通常、無水酢酸を存在させる。酢酸をさらに溶媒として存在させることも行われる。(1)〜(4)のモノマーは、無水酢酸などで、エステル化したものを用いることも通常なされる。分岐モノマーも同様にエステル化したものを反応に供しても良い。この場合、重合時に無水酢酸や酢酸を存在させる必要はない。重合や化学反応後に触媒や、反応副生物を除去することが望ましい。
【0039】
本発明の分岐状高分子化合物を成形品およびフィルムの材料として用いる際に、他のポリマーを添加しても良い。添加できるポリマーは特に制限はない。また、(1)〜(4)のモノマーからなる、分岐モノマーと反応しなかった結果生成した鎖状剛直鎖高分子が、ある程度存在する可能性があるが、本発明の目的を阻害しない限り、存在していても問題ない。
本発明の目的を損なわない範囲で、鎖状剛直鎖高分子を積極的に添加することもできる。分岐状高分子化合物100重量部に対して、鎖状剛直鎖高分子の添加割合は、0〜2000重量部、好ましくは0〜500重量部、さらに好ましくは、0〜100重量部である。その他、添加しても良いポリマーは、スーパーエンプラ、エンプラ、汎用プラスチック、ゴムのいずれも良く、具体的には、スーパーエンプラとしては、ポリイミド、液晶ポリエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられ、エンプラとしては、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン等が挙げられ、汎用プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ゴム強化ポリスチレン、ABS等が挙げられ、ゴムとしては、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンブロック共重合ゴム、水素添加スチレンブタジエンブロック共重合ゴム等が挙げられる。
【0040】
添加剤も一般的にポリマーに添加される添加剤は、使用できる。
成形品の成形方法は、必要な成形品形状を得られる成形方法であれば特に限定されない。一般に、射出成形、プレス成形、押出し成形、ブロー成形などが知られている。
本発明の分岐状高分子化合物をフィルムに成膜する方法は、特に限定されない。分岐状高分子化合物が芳香族ポリエステルの場合、溶融押出しし、Tダイを通してフィルムにする方法、円筒ダイを通してインフレーション法を用いてフィルムにする方法などが挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
攪拌機および減圧蒸留装置を備えた反応容器にp−アセトキシ安息香酸74.5モル%、6−アセトキシ−2−ナフトエ酸24.5モル%、1,3,5−アセトキシベンゼン1モル%を仕込み、容器内を窒素ガスで十分置換した後、窒素ガス気流下で、反応容器を250℃に昇温した。250℃で3時間重合し、さらに280℃に昇温、1時間15分攪拌しながら重合を継続した。さらに、温度を320℃に昇温し25分保持した。その後、徐々に減圧し、0.1〜0.2mmHg、320℃で30分維持した。再び窒素を充填し、反応容器内圧を常圧に戻した。その後、やや加圧にしつつ、紡口からストランド状に取り出し、水中冷却した後、カットしてポリマーを得た。
得られたポリマーは、光学的異方性の溶融相をほとんど形成しなかった。
ポリマーを、単軸押出機Tダイフィルム成膜機を使用して300℃で、厚さ約80μmのフィルムを得た。フィルムを押出し方向に平行な方向、垂直な方向に引き裂こうとしたが、いずれの方向にも引き裂けなかった。
【0042】
[比較例1]
p−アセトキシ安息香酸75モル%、6−アセトキシ−2−ナフトエ酸25モル%を仕込んだこと以外は、実施例1と同様にして重合し、ポリマーを得た。得られたポリマーは、光学的異方性の溶融相を形成した。
ポリマーを、単軸押出機Tダイフィルム成膜機を使用して300℃で、厚さ約80μmのフィルムを得た。フィルムを押出し方向に垂直な方向に引き裂こうとしたところ引き裂けなかった。これに対し、押出し方向に平行な方向に引き裂こうとしたところ、容易に引き裂けた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の分岐状高分子から得られる成形品、フィルムは、電気・電子分野、自動車分野その他の分野の部品に好適に使用できる。具体的には、コネクター、ICソケットなどのSMT部品、FPC、TABなどの電子回路基板、液晶、有機ELなどのディスプレー用フィルム、特にフレキシブルディスプレイ用フィルムなど、広範に使用可能である。これら部品は、最終的には、テレビ、携帯電話、コンピューター、掲示板、電子ペーパーなどに組み込まれて使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと、(1)芳香族ジヒドロキシ、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーとを重合してなる重合体であって、且つ上記化学式(I)、(II)及び(III)で表される化合物群から選ばれるモノマー由来の構成単位を分岐の起点とする重合体であることを特徴とする分岐状高分子化合物。
【化1】

(式中、X1〜6のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
【化2】

(式中、X7〜14のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
【化3】

(式中、X15〜20のうち3〜6個は、−OH、−COOH、−OCOCHから選ばれる基であり、残りは、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。)
【請求項2】
(1)芳香族ジヒドロキシ、(2)芳香族ジカルボン酸、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸並びに(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーが、下記化学式で表される化合物群から選ばれることを特徴とする請求項1記載の分岐状高分子化合物。
【化4】

(式中、X,Yは、独立して、それぞれ、水素、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。Zは、−O−、−CH−、−S−である。)
【化5】

(式中、Xは、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。)
【化6】

(式中、Xは、ハロゲン、低級アルキル基、水素原子がハロゲンまたは低級アルキル基で置換されていても良いフェニル基である。)
【化7】

【請求項3】
請求項1又は2記載の分岐状高分子化合物からなる成形品。
【請求項4】
請求項1又は2記載の分岐状高分子化合物からなるフィルム。