説明

分布状態の評価方法

【課題】試料中の特定点の分布状態を、試料の一部ではなく広い範囲にわたって、客観的に、常に一定の尺度で、定量評価するための分布状態の評価方法を分布状態の評価方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる分布状態の評価方法は、試料中の特定点の分布状態を評価する方法であって、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察することにより得られた各観察領域での観察結果を示すデータCに基づき、観察番号1〜nまでの各観察領域でのデータCの数値和をSとするとき、x=logn、y=logSとして得られる線形近似直線の傾きと決定係数とを導出して、前記傾きおよび決定係数の値に基づき、試料中の特定点の分布状態を定量評価する、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分布状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料内の特定物質や特定空孔などの特定点の分布状態は、当該試料の物性に影響を与えるものであるため、これを適切に評価する方法が求められている。
試料内の特定点の分布状態を判断する方法としては、従来、顕微鏡写真や、SEM(走査型電子顕微鏡)によるSEM像や組成像、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ、X線マイクロアナライザ)で撮像したX線像(元素濃度分布像)などを観察して、定性的に判断する方法が知られている。
また、試料内の特定点の分布状態を定量的に判断する方法も知られている。
すなわち、上記のごときSEMやEPMAで撮像した画像を2値化し、画像上に任意の直線を設定して、その直線に接触する粒子を抽出し、抽出した2粒子の重心間距離の標準偏差を求めて、これらから分散状態を評価する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
複数の原料を所定の混合比(設定混合比)で混合してなる材料組織をSEMで撮像した全体画像を複数の領域に分割し、各領域について材料組織の表面における原料の分布を表す画像データを求めるとともに、これらの画像データから各領域における原料の混合比を求め、各領域における混合比の、上記の所定の混合比(設定混合比)からのずれの大きさに関するヒストグラムを作成し、各領域のヒストグラムから得た標準偏差により、混合分散性を評価する方法が知られている(特許文献2参照)。
複数の物質から構成される材料について、材料中に含有される所定の物質の分布状態を画像化し、得られた全体画像を複数の領域に均等に分割し、前記各領域における検出強度の平均値に有意差が認められない最小の領域を求め、前記最小の領域の大きさを表す絶対値により分散性を評価する方法も知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−74924号公報
【特許文献2】特開平8−271402号公報
【特許文献3】特開2000−155089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、単に試料を観察するだけの定性評価では客観性に欠ける。
また、特許文献1〜3の技術のごとき定量評価においても、以下のような問題がある。
すなわち、特許文献1の技術では、画像上に、任意の直線を如何に設定するかによって、結果が大きく異なってしまう。
特許文献2の技術は、複数の原料を所定の混合比で混合して形成された評価試料において、その分散度合いを評価するものであるので、混合比が未知の材料の評価を行うことができない。また、混合比が既知であっても、標準偏差という相対的な指標により評価を行うものであるため、混合比の異なる材料間や異種物質(元素)間での比較を行うことができないという問題もある。
【0006】
特許文献1〜3のいずれの技術も、1枚の画像の処理について工夫したものであって、どの部位を撮像するかという選択の際に主観が入り込む可能性があり、また、撮像部位以外の部位におけるばらつきを反映した評価が得られない。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、試料中の特定点の分布状態を、試料の一部ではなく広い範囲にわたって、客観的に、常に一定の尺度で、定量評価するための分布状態の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行い、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察することにより得られた各観察領域での観察結果を示すデータCを用いることにより、試料の一部ではなく全体的な均質性を評価できること、そして、これらのデータに基づき試料中の特定点の分布状態を定量評価するに当たり、各観察領域での前記データCに基づく後述の数値和Sを用いることで、各領域間での分布状態のばらつきを反映させることができること、さらには、各観察領域の観察順序を示す値であるn(したがって、nは1以上の自然数である。以下、これを「観察番号」ということがある)の対数値と前記数値和Sの対数値を用いて、これから線形近似曲線を得、その傾きと決定係数を評価するようにすることで、測定項目や試料の種類を問わず、傾きと決定係数が1に近いか否かという一定の尺度で評価することができること、の知見を得て、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明にかかる分布状態の評価方法は、試料中の特定点の分布状態を評価する方法であって、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察することにより得られた各観察領域での観察結果を示すデータCに基づき、下式により数値和Sを得て、x=logn、y=logSとして得られる線形近似直線の傾きと決定係数とを導出し、前記傾きおよび決定係数の値に基づき、試料中の特定点の分布状態を定量評価する、ことを特徴とする。
【0009】
【数1】

【0010】
(ただし、Ckは、k番目に観察した観察領域でのデータCである。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察するので、試料の一部ではなく広い範囲にわたって評価が行われるとともに、特定の部分を評価者が任意に選択して評価する手法と比べて、客観性が高い。さらに、前記観察番号の対数値と前記数値和の対数値を用いて、これから線形近似曲線を得、その傾きと決定係数を評価するようにすることで、測定項目や試料の種類を問わず、傾きと決定係数を同じ尺度、すなわち、傾きが1に近いか否か、決定係数が1に近いか否か、という一定の尺度で、定量評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかる線形近似直線を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例にかかる線形近似直線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔本方法を適用する試料〕
本発明にかかる分布状態の評価方法は、試料中の特定点の分布状態を評価する方法である。
ここにいう試料とは、特に限定されるものではなく、例えば、1種または2種以上の特定の物質が分散したものや、空孔が生じているものであって、これらの分布状態の評価が求められるあらゆる試料が含まれる。
【0014】
したがって、前記特定点とは、各観察領域における特定物質からなる点を意味するほか、特定の空孔からなる点を意味するなどもある。そして、分布状態とは、観察領域中の特定点の占有面積、観察領域中の特定点の数、観察領域中の特定点の平均径(平均粒径や平均孔径)、観察領域を均等に分割した場合において各区画間の分布状態に有意差が認められないときの最小の区画を表す値など、従来から知られている様々な意味に解することができる。
試料中に分散した物質は、粒子状、繊維状、鱗片状、不定形状など、どのような形状であっても良い。試料中に生じた空孔の形状も、同様に、どのような形状であっても良い。
【0015】
試料中に物質が分布したものの例としては、マトリクス(母材)材料と各種機能性粒子を分散させて高機能材料としたいわゆる粒子分散系材料が挙げられ、このような機能性粒子としては、例えば、機械的特性(硬度、強度、弾性、線膨張係数、圧縮復元性、引き裂き強度、摩擦磨耗特性など)、熱的特性(熱伝達性、断熱性など)、電気的特性(電気伝導性、圧電性、絶縁破壊電圧、誘電性など)、磁気的特性(磁化率など)、光学的特性(光透過性、屈折率、光散乱性など)、振動特性(音波伝達性、音波減衰性、遮音性、制振など)、あるいは、これら以外(ガス透過特性など)の種々の機能性を付与するために添加される機能性粒子が挙げられる。より具体的には、例えば、黒鉛、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、マイカ、亜鉛華などや、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース系繊維、各種高分子粒子(これらは、例えば、機械的特性向上に好適に用いられる)、鉄、ニッケル、コバルト、ぺロブスカイト系化合物(これらは、例えば、磁気的特性向上に好適に用いられる)、中空粒子(例えば、圧電性、断熱性、遮音性などの機能性付与に好適に用いられる)、クレイ(例えば、ガス透過特性などの機能性付与に好適に用いられる)などが挙げられる。
【0016】
試料中に空孔が分布したものの例としては、加熱や化学反応により発泡させながら製造されるプラスチックやゴムの多孔質体などが挙げられる。
〔観察〕
試料の観察は、試料表面の観察であっても良いし、試料断面の観察であっても良い。ここにいう断面とは、試料を切断などしたときに切り口として現れる実際の切断面のみならず、断層撮影によって試料を切断などすることなく観察される断層面をも意味するものである。
この観察自体は、従来と同様の方法でよく、例えば、試料の表面や切断面を観察する手段として、顕微鏡、SEM(走査型電子顕微鏡)顕微鏡、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ、X線マイクロアナライザ)などの観察手段を用いたり、試料の断層面を観察する手段として、X線CTスキャン(コンピューター断層撮影法)、PET(ポジトロン断層撮影法)、NMR(核磁気共鳴)現象を使用したMRI(磁気共鳴撮影法)、超音波エコー画像検査などの断層撮影などの観察手段を用いたりすることにより行うことができ、顕微鏡による写真、SEMによるSEM像や組成像、EPMAで撮像したX線像(元素濃度分布像)、各種断層撮影による断層像など、画像化して観察することも含む。
【0017】
観察は、試料の一定方向に沿う複数の領域で行う。具体的には、試料の表面や断面を無作為に観察するのではなく、例えば、厚み方向、同一表面や同一断面での面方向などといった一定方向に沿う複数の領域で行う。
より具体的には、前記一定方向に沿う複数の領域とは、例えば、試料の厚み方向における一定方向で見た複数の領域、すなわち、試料の表面や裏面、断面といった厚み方向における異なる面間での複数の領域(各面での観察領域は、面全体であっても良いし、面の一部であっても良い)を意味するほか、試料の面方向における一定方向で見た複数の領域、すなわち、前記表面、裏面、断面の各面についての同一面上での複数の領域を意味する場合もあるのである。
【0018】
前記一定方向に沿う複数の領域の観察は、できるだけ、一定の間隔ごとに行うことが望ましい。
前記試料について、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察する際の当該観察方向が異なる複数の分布状態の評価結果を2つ以上組み合わせて、試料中の特定点の分布状態の総合的な評価を得るようにしてもよい。ここで、試料の一定方向とは、例えば、試料が立方体である場合において、そのひとつの厚み方向やこれに直交する厚み方向、斜め向きの厚み方向など試料の厚みに沿う方向を指すほか、試料の表面や断面の各面に沿う正方向や斜め方向を指す。試料が厚みの薄い面状体であっても、面方向に沿う一定方向のほか、薄いものではあるが、その厚みに沿う一定方向での観察を採用することが必要な場合もある。面方向に沿って観察することが必要なのは、その面が小さな面であって、その全面が観察機器の視覚範囲内に納まる場合は厚み方向での観察のみであっても良いであろうが、その面が極めて大きな面積である場合には、その全面が観察機器の視覚範囲内に納まらないので、その観察面に沿う一定方向で、ただし、場合により、その観察面には沿うが観察方向が異なる複数の一定方向で観察することもある。このような多様な見方に立ってそれぞれ一定方向に沿う複数の領域を観察することにより、試料をより多面的に評価することができる。
【0019】
例えば、試料中の特定点の分布状態が、層状となっていて、面方向では均一分布であるが、全体として下層側に偏っているような場合には、面方向だけで評価すれば均一と評価され、厚み方向だけで評価すれば不均一と評価されることになるが、これらを組み合わせることで、実際の層構造を3次元的に的確に理解することができる。
また、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察する際の方向が互いに逆方向(例えば、上面側から底面側での観察と底面側から上面側への観察)である場合の2つの分布状態の評価結果を得た場合に、その評価結果に大きな差がある場合には、領域ごとの分布状態のばらつきが大きいことが予測され、さらなる詳細な検討が好ましいことが示唆される。
【0020】
なお、この場合は、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察することにより得られる一連の観察データを一単位として定量評価を行うようにすることが必要である。
すなわち、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察することにより得られる一連の観察データを一単位とするものであるから、観察方向が異なる複数の分布状態の評価結果を2つ以上組み合わせて定量評価を行う場合においても、観察方向の異なる2以上の観察データを無作為に混在させて一体的に評価を行うことはできない。
〔各観察領域における特定点の分布状態の観察結果を示すデータCとその取り方〕
各観察領域における特定点の分布状態の観察結果を示すデータCとその取り方も従来と同様の方法が採用できる。
【0021】
前記データCとしては、例えば、上述のように、観察領域中の特定点の占有面積、観察領域中の特定点の数、観察領域中の特定点の平均径(平均粒径や平均孔径)、観察領域を均等に分割した場合において各区画間の分布状態に有意差が認められないときの最小の区画を表す値(例えば、上述の特許文献3に記載のごとき方法で得られる値)などが挙げられ、該データCの取り方としては、例えば、観察領域に存在する特定点を直接数えたり、あるいは、一旦画像化して、必要に応じ2値化処理などをしたのち、前記占有面積や前記平均径などを計測したりするなどにより行うことができる。
〔試料中における特定点の分布状態の定量評価〕
本発明は、各観察領域での観察結果を、客観的かつ信頼性の高い方法で定量化し得た点に顕著な技術的意義を有するものであり、具体的には、以下のような方法を採用する。
【0022】
試料の一定方向に沿う複数の領域を観察することにより得られた各観察領域での観察結果を示すデータCに基づき定量評価を行う。したがって、各観察領域での観察結果を無作為に利用するのではない。このようにすることによって、信頼性の高い評価結果が得られる。このようにしない場合(例えば、無作為に観察して得た複数のデータを利用した場合)には、実際とは異なる評価結果となってしまう可能性があり、信頼性が低下する。
次に、上のようにして得られる各観察領域でのデータCに基づき、下式により数値和Sを得る。
【0023】
【数2】

【0024】
(ただし、Ckは、k番目に観察した観察領域でのデータCである。)
そして、x=logn、y=logSとして得られる線形近似直線の傾きと決定係数とを導出する。
x=logn、y=logSとして線形近似直線を得る際において、n≦a(aは1以上の任意の自然数)のときのx、yの値を無視するようにしても良い。
上式の変形式である下式
【0025】
【数3】

【0026】
から分かるように、数値和Sは観察番号nが小さいほどCの影響が大きく(特に、n=1のときは、S=C)、逆に、観察番号nが大きくなるほどCの影響が小さくなるので、観察番号nが小さいものほど誤差を生じさせやすいことがわかる。したがって、観察番号nが小さいいくつかの観察データ(特に、n=1)を無視することで、より信頼性を高めることができるのである。
ただし、いくつかの観察データを無視することにすると、観察データの数が減り、その分だけ信頼性が低下してしまうことから、観察データを過剰に無視することは望ましくない。
【0027】
例えば、無視する観察データの割合は、全観察データの1/10以下、好ましくは1/100以下である。
x(=logn)、y(=logS)の値に基づき、統計学的に、例えば、最小自乗法などにより近似して回帰直線を得ることにより、該回帰直線(線形近似直線)の傾きと決定係数とを導出することができる。
ここで、上述のように対数をとっているのは、これにより、測定項目や試料の種類に関わらず、任意の数値和に対して、線形近似曲線の傾きが1に近いか否かという尺度での評価が可能となるからである。すなわち、試料中の特定点の分布状態が完全に均一であるとき、S=mn(mは測定項目や試料の種類に依存して決定される傾きであり、通常、m=C)となるが、両辺の対数をとると、logS=logmn=logn+logmとなり、mは傾きに関係のない定数として分離されるので、必ず、傾きが1の直線が得られる。
【0028】
したがって、測定項目や試料の種類に関わらず、線形近似直線の傾きが1に近いほど、試料中の特定点の分布状態が均一な状態に近いということになる。
また、決定係数は、各観察番号の対数値における数値和の対数値が、線形近似直線に近いほど1に近づき、逆に線形近似直線から離れている(ばらつきが大きい)ものほど、1を下回ることになる。
したがって、上記傾きが同じである場合には、この決定係数が1に近い方が、試料中の特定点の分布状態が均一な状態に近いということになる。
このようにして、前記傾きおよび決定係数の値に基づき、試料中の特定点の分布状態を定量評価する。
【0029】
〔本方法の適用例〕
本方法の適用例を説明する。
表1に示すような分布状態の異なるサンプル1〜3があるとする。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表1は、上述のようにして、各サンプル1〜3のそれぞれについて、試料の厚み方向における一定方向に沿う複数の領域を観察し、各観察領域ごとの観察画像を得ておいて、各画像から粒子占有面積率(%)を測定したものである。
粒子占有面積率の数値和は、サンプル1を例にとれば、
=C=0.55、
=C+C=0.55+0.55=1.10、
=C+C+C=0.55+0.55+0.55=1.65、・・・
というように、順次得ることができる。
【0032】
つぎに、観察番号の対数値(logn)、上記数値和の対数値(logS)を算出する。これを表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示す結果を、観察番号の対数を横軸xとし、上記数値和の対数を縦軸yとしてプロットしたものが図1である。
このプロットを線形近似すると、以下のとおりとなる。
サンプル1:y=x−0.260、R=1.000
サンプル2:y=0.818x−0.0887、R=0.954
サンプル3:y=0.731x+0.0516、R=0.966
上記のとおり、サンプル1は、傾き、決定係数(R)ともに1となっている。
これに対して、サンプル2,3は、傾きがともに1を下回っており、さらに、両者を比較すれば、サンプル2のほうが傾きが1に近いことがわかる。決定係数(R)はいずれも1を下回っている。
【0035】
ここで、サンプル1〜3は、例示のための比較的単純なデータであるので、表1に示す結果から、分散性の良否を判断することができ、具体的には、サンプル1は、全ての画像において粒子占有面積率の値が同じであり、粒子が完全に均質に分布したものであり、サンプル2,3は、粒子占有面積率が0.1の画像(疎な部分)と1.0の画像(密な部分)とが同じ数だけあるが、サンプル2では疎な部分と密な部分とが交互となっているのに対して、サンプル3では疎な部分と密な部分とがそれぞれ固まりとなって偏って存在しているため、サンプル3の方が分散性が悪いことが分かる。
したがって、上で導出した線形近似直線の傾きによれば、これが1に近いかどうかという尺度によって、分散性の良否を定量的に的確に評価できていることが分かる。
【0036】
なお、サンプル1〜3について、標準偏差を算出すると、サンプル1が0、サンプル2,3がともに0.474となることから、標準偏差では、サンプル2,3での分散性の違いが評価できないことが分かる。
観察数が極めて多い場合や観察データのばらつき具合が非常に複雑である場合などには、上のように、各観察データの個別の数値を比較したりするだけでは判断することが困難であるが、本発明の方法によれば、このような複雑な観察データを扱う場合にも、線形近似直線の傾きが1に近いかどうかという極めて明確な基準で定量評価することができる。
線形近似直線の傾きが同じ観察データが得られた場合には、いずれの試料の決定係数がより1に近いかという基準で評価することができる。決定係数は、プロットが線形近似直線から乖離しているほど1よりも小さい値となるからである。
【実施例】
【0037】
以下では、実際の試料に対して本発明にかかる評価方法を適用し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
すなわち、シリコーンゴム100重量部に酸化亜鉛60部を混合して音響材料を作製した。この音響材料は、外部から入射した音波の材料内での減衰を減少させることを目的として作製した。音波減衰を減少させるには、シリコーンゴム中の酸化亜鉛の分布状態を均質にすることが求められる。そこで、分散助剤を添加した試料(試料A)と無添加の試料(試料B)を作製して、酸化亜鉛の分布均一性と音波減衰特性の相関について検証した。
各試料はφ13×3mmに成型し、音波減衰を以下のようにして測定した。
【0038】
すなわち、試料上面から周波数5MHzの音波を照射し、試料に音波を入射させ、試料を通過した音波を、照射面とは反対の試料底面側に設置した受信機で受信し、照射音波に対して受信音波がどれだけ減衰されているかを、音波減衰率(dB/mm)として算出した。
また、X線CT装置「SMX−160CTS」(島津製作所社製)を用いて、各試料の厚み方向における一定方向に沿って深さを違えて150個の断層像を得た。各断層像は、試料の各断層面全体(φ13mmの面全体)を観察したものであり、この観察に基づく各画像(断層像)について、酸化亜鉛粒子の粒子占有面積率を測定した。
【0039】
さらに、上述の要領で、観察番号n(n=1〜150)に対応する酸化亜鉛粒子の粒子占有面積率の数値和Sを得て、x=logn、y=logSとして、線形近似直線を作図した。このとき、n=1のデータは無視した。
得られた線形近似直線は、図2に示すとおりであり、これを数式で表せば、以下のとおりである。
試料A:y=1.029x+0.3738、(R=0.9994)
試料B:y=0.849x+0.7441、(R=0.9988)
上記結果を、音波減衰率の結果とともに下表にまとめた。
【0040】
【表3】

【0041】
表3の結果に見るように、試料Aの方が、近似直線の傾きが1に近く、より酸化亜鉛の分散状態が良好であると評価された。
すなわち、分散助剤を用いて酸化亜鉛をシリコーンゴム中に混合することにより、酸化亜鉛の分布均一性が向上することが、定量的に評価できた。
この結果は、音波減衰率の結果とも良く整合するものであった。すなわち、分散助剤を添加した試料Aの方が、分散助剤を添加しない試料Bよりも、音波減衰率が小さく、試料Aの方が、酸化亜鉛が均質に分散されていることが分かり、本発明の方法は、これを定量的に評価できている。
【0042】
以上のことから、本発明の手法を用いると、複合材料中の特定物質の分布状態を定量的に示すことができ、さらに、物性との相関も一致させることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明にかかる分布状態の評価方法は、マトリクス(母材)材料と各種機能性粒子を分散させて高機能材料としたいわゆる粒子分散系材料における粒子の分散状態や、多孔質体中の空孔の分布状態を定量評価する方法などとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の特定点の分布状態を評価する方法であって、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察することにより得られた各観察領域での観察結果を示すデータCに基づき、下式により数値和Sを得て、x=logn、y=logSとして得られる線形近似直線の傾きと決定係数とを導出し、前記傾きおよび決定係数の値に基づき、試料中の特定点の分布状態を定量評価する、ことを特徴とする、分布状態の評価方法。
【数1】


(ただし、Ckは、k番目に観察した観察領域でのデータCである。)
【請求項2】
前記線形近似直線の傾きと決定係数の値とに基づく試料中の特定点の分布状態の定量評価は、前記傾きが1に近いものほど分布が均質であると評価し、前記傾きが同じである2個以上の試料を対比する場合には、決定係数が1に近いものほど分布が均質であると評価する、請求項1に記載の分布状態の評価方法。
【請求項3】
x=logn、y=logSとして線形近似直線を得る際において、n≦a(aは1以上の任意の自然数)のときのx、yの値は無視するようにする、請求項1または2に記載の分布状態の評価方法。
【請求項4】
前記試料について、試料の一定方向に沿う複数の領域を観察する際の当該観察方向が異なる複数の分布状態の評価結果を2つ以上組み合わせて、試料中の特定点の分布状態の総合的な評価を得るようにする、請求項1から3までのいずれかに記載の分布状態の評価方法。
【請求項5】
前記各観察領域でのデータCが、観察領域中の特定点の占有面積、観察領域中の特定点の数、観察領域中の特定点の平均径、および、観察領域を均等に分割した場合において各区画間の分布状態に有意差が認められないときの最小の区画を表す値から選ばれる少なくとも1つである、請求項1から4までのいずれかに記載の分布状態の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−202729(P2012−202729A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65183(P2011−65183)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)