説明

分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法、及びデンドリマー化合物の分散粒子を表面に有する基板

【課題】デンドリマー化合物の粒子を基板の表面に高度に分散された状態で配置させる手段、及びそのような手段で作製され、デンドリマー化合物の粒子が高度に分散された状態で表面に配置された基板を提供すること。
【解決手段】フェニルアゾメチンデンドリマー化合物を溶媒に溶解させて溶液を調製し、当該溶液を基板の表面に塗布する塗布工程と、前記基板の表面に塗布された溶液から溶媒を揮発させる揮発工程とを含み、前記溶液に含まれる前記フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度が5μmol/L以下である、分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法、及びデンドリマー化合物の分散粒子を表面に有する基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品、電子機能材料、環境適合材料等のための素材として金属ナノ粒子が注目されている。ナノ粒子は、一般に10nm以下の微粒子であり、それ自身が医薬品、電子機能材料、環境適合材料等として有効であるだけでなく、これらを合成するための触媒としても優れた活性を備える。このような特性は、ナノ粒子が10nm以下の微粒子であることに基づく量子効果や、微粒子であることに伴う活性表面積の増大によってもたらされるものである。しかしながら、金属を微粒子化することは、微粒子化に伴って粒子同士の凝集作用が増大することから一般に困難である。
【0003】
このような背景から、ナノ粒子の製造方法としてデンドリマー化合物を鋳型として用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。不対電子対を有する窒素原子等を骨格に有するデンドリマー化合物は、ルイス酸との錯形成が可能であり、その分子内に様々な分子や原子を取り込むことができる。
【0004】
特許文献2では、デンドリマー化合物のそのような特性を利用し、まず、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の全てのイミン部位にロジウム等の金属化合物を配位させて錯体を形成させた後に、溶液中で、その錯体に含まれる金属化合物を還元して金属ナノ粒子を作製することが提案されている。このような方法によれば、金属ナノ粒子はフェニルアゾメチンデンドリマーの内部で安定化されるので、金属ナノ粒子が凝集することに伴う触媒作用等の活性低下を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−508484号公報
【特許文献2】特開2008−100987号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Higuchi,S.Shiki,K.Ariga,K.Yamamoto,J.Am.Chem.Soc.,2001,123,4414−4420
【非特許文献2】K.Yamamoto,T.Imaoka,W.−J.Chun,O.Enoki,H.Katoh,M.Takenaga,A.Sonoi,Nature Chem.,2009,1,397−402
【非特許文献3】N.Satoh,T.Nakashima,K.Kamikura,K.Yamamoto,Nature Nanotech,2008,3,106−111
【非特許文献4】I.Nakamula,Y.Yamanoi,T.Imaoka,K.Yamamoto,H.Nishihara,Angew.Chem.,Int.Ed.,2011,50,5830−5833
【非特許文献5】D.Liu,H.Zhang,P.C.M.Grim,S.DeFeyter,U.−M.Wiesler,A.J.Berresheim,K.Mullen,and F.C.DeSchryver,Langmuir、2002,18、2385−2391
【非特許文献6】M.Sano,J.Okamura,A.Ikeda,and S.Shinkai,Langmuir.2001,17,1807−1810
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献2に記載された手順で作製された金属ナノ粒子を内包するデンドリマー化合物は、その化合物の溶液が所望の基板表面に塗布されて、当該基板表面にデンドリマー化合物の粒子を形成させる(デンドリマー化合物を基板に塗布することの一例として、非特許文献5及び6を参照)。これにより、その基板表面にはデンドリマー化合物に内包される金属ナノ粒子による触媒作用が付与される。このとき、金属ナノ粒子の特性を最大限に発現させるためには、基板の表面で、金属ナノ粒子を内包するデンドリマー化合物が1分子ずつ配置されていることが理想であるが、現実には、この化合物の複数分子からなる塊状の凝集体として配置されることになる。この場合、金属ナノ粒子が凝集した状態で基板の表面に存在するのと同じことになり、金属ナノ粒子としての特性が大きく減殺されることになる。しかしながら、これまでデンドリマー化合物を高度に分散された状態で基板表面に配置する方法は提案されていないのが実情である。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、デンドリマー化合物の粒子を基板の表面に高度に分散された状態で配置させる手段、及びそのような手段で作製され、デンドリマー化合物の粒子が高度に分散された状態で表面に配置された基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、デンドリマー化合物としてフェニルアゾメチンデンドリマー化合物を使用し、かつ、このフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の溶液を基板の表面に塗布してその粒子を基板の表面に析出させる際、上記溶液におけるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度を5μmol/L以下とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第1の態様は、下記一般式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物を溶媒に溶解させて溶液を調製し、当該溶液を基板の表面に塗布する塗布工程と、前記基板の表面に塗布された溶液から溶媒を揮発させる揮発工程とを含み、前記溶液に含まれる前記フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度が5μmol/L以下である、分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法である。
【化1】

(上記一般式(1)中のAは、フェニルアゾメチンデンドリマーの中核分子基であり、次式
【化2】

の構造で表され、Rは、置換基を有してもよい芳香族基を表し、pは、Rへの結合数を表し;
上記一般式(1)中のBは、前記Aに対して1個のアゾメチン結合を形成する次式
【化3】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
上記一般式(1)中のRは、末端基として前記Bにアゾメチン結合を形成する次式
【化4】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
nは、フェニルアゾメチンデンドリマーの前記Bの構造を介しての世代数を表し;
mは、フェニルアゾメチンデンドリマーの末端基Rの数を表し、n=0のときはm=pであり、n≧1のときはm=2pである。)
【0011】
また、本発明の第2の態様は、下記一般式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の分散粒子を表面に有する基板であって、AFM(原子間力顕微鏡)の観察から算出された、前記分散粒子の平面視平均粒径が60nm未満であり、前記分散粒子の前記基板表面からの平均高さが5nm未満である、デンドリマー化合物の分散粒子を表面に有する基板である。
【化5】

(上記一般式(1)中のAは、フェニルアゾメチンデンドリマーの中核分子基であり、次式
【化6】

の構造で表され、Rは、置換基を有してもよい芳香族基を表し、pは、Rへの結合数を表し;
上記一般式(1)中のBは、前記Aに対して1個のアゾメチン結合を形成する次式
【化7】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
上記一般式(1)中のRは、末端基として前記Bにアゾメチン結合を形成する次式
【化8】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
nは、フェニルアゾメチンデンドリマーの前記Bの構造を介しての世代数を表し;
mは、フェニルアゾメチンデンドリマーの末端基Rの数を表し、n=0のときはm=pであり、n≧1のときはm=2pである。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、デンドリマー化合物の粒子を基板の表面に高度に分散された状態で配置させる手段、及びそのような手段で作製され、デンドリマー化合物の粒子が高度に分散された状態で表面に配置された基板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法>
以下、本発明の分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と適宜省略する。)の一実施形態について説明する。本発明の製造方法は、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の溶液を基板の表面に塗布する塗布工程と、その基板の表面に塗布された溶液から溶媒を揮発させる揮発工程とを含む。これらの工程を経ることにより、基板の表面に、高度に分散されたフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子を配置することができる。ここで、「高度に分散された」とは、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の溶液から形成された粒子が、1分子から数十分子程度のフェニルアゾメチンデンドリマー分子で構成されることを意味する。以下、これらの工程について説明する。
【0014】
[塗布工程]
塗布工程は、下記式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物を溶媒に溶解させて溶液を調製し、当該溶液を基板の表面に塗布する工程である。
【化9】

【0015】
上記一般式(1)中のAは、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の中核分子基であり、フェニルアゾメチンデンドリマー分子は、この中核分子基を中心として、外側に向かって上記一般式(1)中のBで表される単位の連鎖を成長させる。その結果、成長後のフェニルアゾメチンデンドリマー分子は、上記Aを中心として、上記Bが連鎖して放射状に成長した構造を有する。B及び後述するRが連鎖する回数を「世代」と呼び、中核分子基Aに隣接する世代を第1世代として、外側に向かって世代数が増加していく。上記一般式(1)中のAは、次式
【化10】

の構造で表され、Rは、置換基を有してもよい芳香族基を表し、pは、Rへの結合数を表す。
【0016】
上記一般式(1)中のBは、上記Aに対して1個のアゾメチン結合を形成させる次式
【化11】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表す。このBは、フェニルアゾメチンデンドリマー分子の世代を構成し、中核分子基Aに直接結合するBが第1世代となる。
【0017】
上記一般式(1)中のRは、末端基として上記Bにアゾメチン結合を形成する次式
【化12】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表す。Rは、フェニルアゾメチンデンドリマー分子の放射状に伸びた構造の末端に位置することになり、上記Bと同様に世代を構成する。
【0018】
上記一般式(1)において、nは、フェニルアゾメチンデンドリマーの上記Bの構造を介しての世代数を表し、mは、フェニルアゾメチンデンドリマーの末端基Rの数を表し、n=0のときはm=pであり、n≧1のときはm=2pである。
【0019】
置換基を有してもよい芳香族基であるR、R及びRは、それぞれ独立に、その骨格構造として、フェニル基又はその類縁の構造であってよく、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ビフェニルアルキレン基、ビフェニルオキシ基、ビフェニルカルボニル基、フェニルアルキル基等の各種のものが挙げられる。これらの骨格は、置換基として、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、メトキシエチル基等のアルコキシアルキル基、アルキルチオ基、カルボニル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基等の各種の置換基が例示される。上記骨格は、これらの置換基を、任意に1又は複数有することができる。
【0020】
上記置換基の中でも、メトキシ基、アミノ基のような電子供与性の高い置換基、又はシアノ基、カルボニル基のような電子受容性の高い置換基が好ましい。
【0021】
上記式R(−N=)で表される中核部分において、pとしては、特に限定されないが、例えば1〜4の整数が挙げられる。また、上記一般式(1)におけるnは、0又は1以上の整数であるが、例えば2〜6であることが好ましく例示される。
【0022】
このようなフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の一形態として、下記式で表される化合物を挙げることができる。下記式で表される化合物は、世代数が4のフェニルアゾメチンデンドリマー化合物である。
【化13】

【0023】
上記式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物は、単分子化合物としては比較的大きな分子(例えば、4世代(n=3)のフェニルアゾメチンデンドリマー化合物であれば、直径約2nm程度である。)であり、分子内に、金属原子が配位することのできる窒素原子を所定の間隔で複数保有する。このため、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物は、単分子化合物としては比較的大きな分子サイズの内部に、複数個の金属元素を1原子ずつ規則的に配置させることができる。このように配置された複数個の金属原子は、例えば還元処理を施すことにより原子価0の金属原子となり、フェニルアゾメチンデンドリマーの内部で互いに結合して金属ナノ粒子を形成させる。
【0024】
また、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物は、その骨格が芳香環とアゾメチン結合によって構成されるので、剛直な球状分子である。そのため、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物では、溶液からフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子を形成させた際に分子内の空間が良好に維持され、その内部に金属ナノ粒子を好ましく保持することができる。
【0025】
フェニルアゾメチンデンドリマーを合成するには、公知の方法を使用することができる。このような方法として、例えば、ベンゾフェノンとジアミノベンゾフェノンとを、クロロベンゼン溶媒中において、塩化チタン及び塩基の存在下で反応させ、さらに、順次ジアミノベンゾフェノンと反応させて世代数を増加させる方法が挙げられるが、特に限定されない。
【0026】
本発明におけるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物は、その内部に金属原子が配位したものであっても、その内部に金属原子が配位していないものであってもよい。フェニルアゾメチンデンドリマー化合物に金属原子を配位させる場合、そのような金属原子として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、パラジウム、白金、ガリウム、バナジウム、金、銅等を例示することができる。これらの金属原子は、触媒活性等といった必要とされる特性を考慮して、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、本明細書において、「フェニルアゾメチンデンドリマー化合物」とは、その内部に金属原子が配位したものと、その内部に金属原子が配位していないものとの両方を含む。
【0027】
フェニルアゾメチンデンドリマー化合物を溶解させる溶媒は、一例として、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、四塩化炭素等の含塩素系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、アニソール等の芳香族系有機溶媒、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、リモネン、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の有機溶媒を挙げることができる。これらの中でも、含塩素系有機溶媒又は芳香族系有機溶媒が好ましく使用され、ジクロロメタン、クロロホルムがより好ましく使用される。これらを溶媒として選択することにより、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の溶液の均一性が向上し、後述する揮発工程において、高度に分散されたフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子を基板表面に配置させることができる。
【0028】
また、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物を溶解させる溶媒は、25℃における蒸気圧が、180mmHg以上であることが好ましく、250mmHg以上であることがより好ましい。上記の蒸気圧を有する溶媒を使用することにより、後述する揮発工程において、溶媒の揮発速度を適切なものとすることができ、高度に分散されたフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子を基板表面に配置させることができる。
【0029】
フェニルアゾメチンデンドリマー化合物を上記溶媒に溶解させて、溶液を調製する。このとき、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物を溶媒に溶解させる手段については特に限定されず、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。
【0030】
溶液中に含まれるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度は、5μmol/L以下であることが必要である。溶液中に含まれるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度を5μmol/L以下とすることにより、後述する揮発工程において、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物同士が過度に凝集し、基板の表面に大きな粒子が形成されたり、基板の表面にフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の膜が形成されたりすることが抑制され、高度に分散されたフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子を基板表面に配置させることができる。
【0031】
また、溶液中に含まれるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度の下限は、0.001μmol/Lであることが好ましく、0.01μmolであることがさらに好ましく、0.05μmolであることが最も好ましい。溶液中に含まれるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度が0.001μmol/L以上であることにより、基板の表面に、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子を確実に存在させることができ、所望の特性を付与することが可能になる。
【0032】
好ましくは、溶液中に含まれるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度が0.001μmol/L〜5μmol/Lであることを挙げることができ、より好ましくは、溶液中に含まれるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度が0.01μmol/L〜5μmol/Lであることを挙げることができる。さらに好ましくは、溶液中に含まれるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度が0.05μmol/L〜5μmol/Lであることを挙げることができる。
【0033】
調製された溶液は、基板の表面に塗布される。溶液が塗布される基板は、後述する揮発工程により、高度に分散されたフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子がその表面に配置されることになる。このような基板としては、特に限定されず、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、プラスチック基板等が例示されるが、得られた作製物の用途を考慮して適宜選択すればよい。
【0034】
調製された溶液を基板の表面に塗布する手段は、公知の手段を適宜使用すればよい。このような手段の一例として、はけ塗り法、ロールコーター法、グラビアコーター法、スピンコート法、浸漬法、ドロップレットキャスト法等が挙げられるが、特に限定されない。塗布後の基板表面における上記溶液の膜厚としては、0.5nm〜100nmを挙げることができる。
【0035】
[揮発工程]
上記塗布工程を経た基板は、揮発工程に付される。揮発工程は、基板の表面に塗布された溶液から溶媒を揮発させる工程である。この工程を経ることにより、溶液に含まれていたフェニルアゾメチンデンドリマー化合物が粒子として基板の表面に析出する。本発明では、上記の溶液を特に使用することにより、高度に分散された状態でこの粒子を基板の表面に析出させることができる。
【0036】
基板の表面に塗布された溶液から溶媒を揮発させる手段は、特に限定されない。このような手段としては、自然乾燥法、減圧乾燥法、加熱乾燥法、減圧加熱乾燥法等が例示できる。これらの中でも、自然乾燥法を好ましく例示することができる。
【0037】
既に説明したように、この工程を経ることにより、高度に分散されたフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子が基板の表面に析出して配置される。このとき、AFM(原子間力顕微鏡)の観察から算出された、上記分散された粒子の平面視平均粒径としては、60nm未満が挙げられる。なお、「平面視平均粒径」とは、基板を平面視した際の上記分散された粒子の平均粒径である。また、AFMの観察から算出された、上記分散された粒子の基板表面からの平均高さとしては、5nm未満が挙げられる。このような平均高さの数値から、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の粒子は、ほぼ1分子の高さで存在していることになり、高度に分散されていることが理解できる。
【0038】
<デンドリマー化合物の分散粒子を表面に有する基板>
上記で説明した本発明の製造方法で得られた基板もまた、本発明の一つである。この基板については上記で述べた通りであるので、ここでの説明を省略する。
【実施例】
【0039】
次に、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[フェニルアゾメチンデンドリマーの合成]
・2世代フェニルアゾメチンデンドロン前駆体(Pre−G2on)の合成
100mL三口フラスコに、ベンゾフェノン(4.62g、25.3mmol)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(2.5g、12.6mmol)、及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(8.49g、75.7mmol)を秤取り、セプタムをつけて閉鎖系にし、内部を窒素置換した。これにクロロベンゼン50mLを加え、オイルバス(125℃)により加熱を行いながら撹拌し、原料を溶解させた。滴下ロートからクロロベンゼン(2mL)に溶解させた四塩化チタン(2.01mL、1.84mL)を滴下し、残った四塩化チタンを2mLのクロロベンゼンで洗い流した。その後、内容液を4時間反応させ、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて反応終了を確認した後、三口フラスコを開放系にした状態で数時間撹拌することで四塩化チタンを失活させた。内容物をセライトで濾過することにより失活した四塩化チタンを除去し、セライトをクロロベンゼンで洗い流した後、回収した濾液から溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、クロロホルム:ヘキサン:酢酸エチル=4:4:1の混合溶媒にトリエチルアミンを2質量%添加したものを使用した。)で精製し、溶媒を留去して目的物である2世代フェニルアゾメチンデンドロン前駆体(Pre−G2on)を得た。
【0041】
・2世代フェニルアゾメチンデンドロン(G2on)の合成
ナスフラスコに、Pre−G2on(2.17g、3.98mmol)、過マンガン酸カリウム(1.19g、7.5mmol)、及び臭化テトラn−ブチルアンモニウム(2.42g、7.5mmol)を秤取り、容器を水浴につけた状態でジクロロエタン(25mL)を加えて撹拌した。1時間後、水浴を取り除き、2日間反応させた。反応終了後、飽和NaHSO水溶液を加えて過マンガン酸カリウムを失活させ、2重量%のトリエチルアミンを加えた飽和食塩水で分液を行い、臭化テトラn−ブチルアンモニウムを取り除いた。分液後、有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、クロロホルム:ヘキサン:酢酸エチル=4:4:1の混合溶媒にトリエチルアミンを2質量%添加したものを使用した。)で精製し、溶媒を留去して目的物である2世代フェニルアゾメチンデンドロン(G2on)を得た。
【0042】
・3世代フェニルアゾメチンデンドロン前駆体(Pre−G3on)の合成
100mL三口フラスコに、G2on(5.161g、9.55mmol)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.901g、4.54mmol)、及びDABCO(8.49g、7.57mmol)を秤取り、セプタムをつけて閉鎖系にし、内部を窒素置換した。これにクロロベンゼン50mLを加え、オイルバス(125℃)により加熱を行いながら撹拌し、原料を溶解させた。滴下ロートからクロロベンゼン(2mL)に溶解させた四塩化チタン(2.01mL、1.84mL)を滴下し、残った四塩化チタンを2mLのクロロベンゼンで洗い流した。その後、内容液を4時間反応させ、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて反応終了を確認した後、三口フラスコを開放系にした状態で数時間撹拌することで四塩化チタンを失活させた。内容物をセライトで濾過することにより失活した四塩化チタンを除去し、セライトをクロロベンゼンで洗い流した後、回収した濾液から溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、クロロホルム:ヘキサン:酢酸エチル=3:3:1の混合溶媒にトリエチルアミンを2質量%添加したものを使用した。)で精製し、溶媒を留去して目的物である3世代フェニルアゾメチンデンドロン前駆体(Pre−G3on)を得た。
【0043】
・3世代フェニルアゾメチンデンドロン(G3on)の合成
ナスフラスコに、Pre−G3on(1.27g、1.02mmol)、過マンガン酸カリウム(0.95g、6.0mmol)、及び臭化テトラn−ブチルアンモニウム(1.95g、6.1mmol)を秤取り、容器を水浴につけた状態でジクロロエタン(25mL)を加えて撹拌した。1時間後、水浴を取り除き、3日間反応させた。反応終了後、飽和NaHSO水溶液を加えて過マンガン酸カリウムを失活させ、2質量%のトリエチルアミンを加えた飽和食塩水で分液を行い、臭化テトラn−ブチルアンモニウムを取り除いた。分液後、有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、クロロホルム:ヘキサン:酢酸エチル=3:3:1の混合溶媒にトリエチルアミンを2質量%添加したものを使用した。)で精製し、溶媒を留去して目的物である3世代フェニルアゾメチンデンドロン(G3on)を得た。
【0044】
・4世代フェニルアゾメチンデンドロン前駆体(Pre−G4on)の合成
100mL三口フラスコに、G3on(4.90g、3.9mmol)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.387g、1.95mmol)、及びDABCO(1.31g、11.7mmol)を秤取り、セプタムをつけて閉鎖系にし、内部を窒素置換した。これにクロロベンゼン20mLを加え、オイルバス(125℃)により加熱を行いながら撹拌し、原料を溶解させた。滴下ロートからクロロベンゼン(2mL)に溶解させた四塩化チタン(0.32mL、2.93mL)を滴下し、残った四塩化チタンを2mLのクロロベンゼンで洗い流した。その後、内容液を4時間反応させ、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて反応終了を確認した後、三口フラスコを開放系にした状態で数時間撹拌することで四塩化チタンを失活させた。内容物をセライトで濾過することにより失活した四塩化チタンを除去し、セライトをクロロベンゼンで洗い流した後、回収した濾液から溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、クロロホルム:ヘキサン:酢酸エチル=2:2:1の混合溶媒にトリエチルアミンを2質量%添加したものを使用した。)で精製し、溶媒を留去して目的物である4世代フェニルアゾメチンデンドロン前駆体(Pre−G4on)を得た。
【0045】
・4世代フェニルアゾメチンデンドロン(G4on)の合成
ナスフラスコに、Pre−G4on(4.62g、3.67mmol)、過マンガン酸カリウム(3.33g、21mmol)、及び臭化テトラn−ブチルアンモニウム(6.78g、21mmol)を秤取り、容器を水浴につけた状態でジクロロエタン(25mL)を加えて撹拌した。1時間後、水浴を取り除き、7日間反応させた。反応終了後、飽和NaHSO水溶液を加えて過マンガン酸カリウムを失活させ、2質量%のトリエチルアミンを加えた飽和食塩水で分液を行い、臭化テトラn−ブチルアンモニウムを取り除いた。分液後、有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、クロロホルム:ヘキサン:酢酸エチル=3:3:1の混合溶媒にトリエチルアミンを2質量%添加したものを使用した。)で精製してから溶媒を留去し、得られた固体をクロロホルム溶液(10質量%)としてからHPLCにより精製し、溶媒を留去した。得られた固体をクロロホルム溶液(10質量%)とし、10倍希釈量のエタノール存在下で再沈殿を行い、得られた固体を減圧濾過により回収して目的物である4世代フェニルアゾメチンデンドロン(G4on)を得た。
【0046】
・4世代フェニルアゾメチンデンドリマー(DPAG4er)の合成
p−フェニレンジアニリン(10.2mg)、G4on(500mg)、及びDABCO(245.5mg)を反応容器に秤取り、真空脱気後、容器にセプタムをつけて閉鎖系にし、内部を窒素置換した。これにクロロベンゼン20mLを加え、オイルバス(125℃)により加熱を行いながら撹拌し、原料を溶解させた。滴下ロートからクロロベンゼン(2mL)に溶解させた四塩化チタン(0.06mL、0.547mL)を滴下し、残った四塩化チタンを2mLのクロロベンゼンで洗い流した。その後、内容液を4時間反応させ、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて反応終了を確認した後、三口フラスコを開放系にした状態で数時間撹拌することで四塩化チタンを失活させた。内容物をセライトで濾過することにより失活した四塩化チタンを除去し、セライトをクロロベンゼンで洗い流した後、回収した濾液から溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、クロロホルム:ヘキサン:酢酸エチル=2:2:1の混合溶媒にトリエチルアミンを2質量%添加したものを使用した。)で精製してから溶媒を留去し、得られた固体をクロロホルム溶液(10質量%)としてからHPLCにより精製し、溶媒を留去した。得られた固体をクロロホルム溶液(10質量%)とし、10倍希釈量のメタノール存在下で再沈殿を行い、得られた固体を減圧濾過により回収して目的物である4世代フェニルアゾメチンデンドリマー(DPAG4er)を得た。この4世代フェニルアゾメチンデンドリマーを使用して、以下の試験を行った。
【0047】
表1に記載した各溶媒及び各濃度にて、フェニルアゾメチンデンドリマー(DPA4er)の溶液を調製した。これらの溶液のそれぞれについて、スピンコート法(滴下量1mL、回転数1500rpm)によりマイカ基板の表面に溶液を塗布し、さらに塗布された溶液に含まれる溶媒を自然乾燥させることにより、フェニルアゾメチンデンドリマーの粒子を基板の表面一面に分散させることに成功した。得られたマイカ基板の表面をAFM(原子間力顕微鏡;セイコーインスツルメンツ株式会社製、型番SPA400)にて観察し、形成されたフェニルアゾメチンデンドリマー粒子の平面視平均粒径及び基板からの高さの平均値を算出した。その結果を表1に示す。なお、「平面視平均粒径」とは、マイカ基板を平面視した際のフェニルアゾメチンデンドリマー粒子の平均粒径を意味する。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、溶液中のフェニルアゾメチンデンドリマーの濃度が5μmol/L以下である本発明の製造方法によれば、基板の表面に形成されたフェニルアゾメチンデンドリマー粒子の平面視平均粒径が60nm未満となり、高度に分散された粒子を基板の表面に形成できることがわかる。特に、これらの粒子の平均高さは4nm程度以下であり、高さ方向については、ほぼ単分子〜数分子で形成されていることがわかる。
【0050】
また、実施例2及び6、並びに実施例4及び7を比較すると、溶液中のフェニルアゾメチンデンドリマーの濃度が同じである場合、溶媒の蒸気圧が高いほど平均粒子径が小さくなることが理解される。このような観点で各実施例を参照すると、溶媒の25℃における蒸気圧が概ね180mmHg以上であれば、フェニルアゾメチンデンドリマー粒子のより高い分散を実現することができ、好ましいと理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物を溶媒に溶解させて溶液を調製し、当該溶液を基板の表面に塗布する塗布工程と、前記基板の表面に塗布された溶液から溶媒を揮発させる揮発工程とを含み、
前記溶液に含まれる前記フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の濃度が5μmol/L以下である、分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法。
【化1】

(上記一般式(1)中のAは、フェニルアゾメチンデンドリマーの中核分子基であり、次式
【化2】

の構造で表され、Rは、置換基を有してもよい芳香族基を表し、pは、Rへの結合数を表し;
上記一般式(1)中のBは、前記Aに対して1個のアゾメチン結合を形成する次式
【化3】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
上記一般式(1)中のRは、末端基として前記Bにアゾメチン結合を形成する次式
【化4】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
nは、フェニルアゾメチンデンドリマーの前記Bの構造を介しての世代数を表し;
mは、フェニルアゾメチンデンドリマーの末端基Rの数を表し、n=0のときはm=pであり、n≧1のときはm=2pである。)
【請求項2】
前記溶媒が、芳香族系又は含塩素系溶媒である請求項1記載の分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒の25℃における蒸気圧が、180mmHg以上である請求項1又は2記載の分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法。
【請求項4】
前記分散されたデンドリマー粒子の、AFM(原子間力顕微鏡)の観察から算出された、前記分散粒子の平面視平均粒径が60nm未満であり、前記分散粒子の前記基板表面からの平均高さが5nm未満である請求項1〜3のいずれか1項記載の分散されたデンドリマー化合物の粒子を表面に有する基板の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の分散粒子を表面に有する基板であって、AFM(原子間力顕微鏡)の観察から算出された、前記分散粒子の平面視平均粒径が60nm未満であり、前記分散粒子の前記基板表面からの平均高さが5nm未満である、デンドリマー化合物の分散粒子を表面に有する基板。
【化5】

(上記一般式(1)中のAは、フェニルアゾメチンデンドリマーの中核分子基であり、次式
【化6】

の構造で表され、Rは、置換基を有してもよい芳香族基を表し、pは、Rへの結合数を表し;
上記一般式(1)中のBは、前記Aに対して1個のアゾメチン結合を形成する次式
【化7】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
上記一般式(1)中のRは、末端基として前記Bにアゾメチン結合を形成する次式
【化8】

の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
nは、フェニルアゾメチンデンドリマーの前記Bの構造を介しての世代数を表し;
mは、フェニルアゾメチンデンドリマーの末端基Rの数を表し、n=0のときはm=pであり、n≧1のときはm=2pである。)

【公開番号】特開2013−34939(P2013−34939A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172578(P2011−172578)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】