説明

分散シミュレーションシステム

【課題】単純送受関係分散シミュレーションは送信機能のデータ更新周期が受信機能の探知周期に合わず、異なる探知周期の受信機能で、探知周期が必要周期に満たないものは、データ更新不足が発生し、要求周期を全必要周期の最小値にすると、必要周期値が大きい受信機能に不要なデータ更新が発生する。
【解決手段】分散した複数の模擬機能と、各模擬機能に共通基盤機能を提供する分散シミュレーション基盤とで構成され、模擬機能は模擬結果データを所定間隔で更新し送信する送信模擬機能と、模擬結果データを受信し、必要データクラスの受信周期を分散シミュレーション基盤に通知する複数の受信模擬機能とでなり、分散シミュレーション基盤は通知されたデータクラス受信周期を基に更新模擬結果データから必要数の論理的送信スロットを該当データクラス対応で作成、各送信スロットに受信模擬機能を割当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の分散した模擬機能と、これらの模擬機能に対して模擬機能間のデータ通信制御や時間進行制御などの共通基盤となる機能を提供する分散シミュレーション基盤とで構成される分散シミュレーションシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、米軍を中心として標準化された分散シミュレーションシステムのアーキテクチャであるHigh Level Architecture(HLA)が存在する(非特許文献1)。HLAでは、分散シミュレーションを構成する個々の模擬機能をフェデレートと呼び、フェデレートに対して模擬機能間のデータ通信制御や時間進行制御などの共通基盤となる機能を提供する分散シミュレーション基盤をRun‐Time Infrastructure(RTI)と呼ぶ。HLAに基づく分散シミュレーションでは、システム構成の柔軟性・変更容易性の向上を目的に、各フェデレートは自フェデレートが送信するデータの送信先フェデレートの情報を持たず、データの送受関係をRTIが一元管理する形式をとっており、その実現手段として、Publish/Subscribe Model(公開/購読モデル)に基づく送受関連付けの仕組みを採用している。
【0003】
図1に、HLAにおける分散シミュレーションの例を示し、図2、図3に公開/購読モデルによる分散シミュレーションの動作例を示す。図1、図2、図3において、101は航空機の模擬を行うフェデレートAである。102は航空管制レーダの模擬を行うフェデレートBである。103はRTIである。104は、各フェデレートとRTIとの間のHLAインタフェースである。
【0004】
続いて図2の例を用いて公開/購読宣言の動作について説明する。フェデレートA101は航空機を模擬しており、模擬結果である航空機位置情報を他のフェデレートに対して送信する役割が与えられている。またフェデレートB102は航空管制レーダを模擬しており、他の航空機を模擬するフェデレートからの航空機位置情報を受信して探知の模擬を行う役割が与えられている。
このようなフェデレートが分散シミュレーションを構成する場合、まず、フェデレートA101は、RTI103に対して、自身が他のフェデレートに対して送信するデータのデータクラス“位置情報”の公開を、HLAインタフェース104を介して通知する(201)。また、フェデレートB102は、RTI103に対して、自身が他のフェデレートから受信するデータのデータクラス“位置情報”の購読を、HLAインタフェース104を介して通知する(202)。RTI103は、フェデレートA101のデータクラス“位置情報”公開201と、フェデレートB102のデータクラス“位置情報”購読202を基に、同じデータクラスの公開と購読を宣言したフェデレート間で通信の送受関係が成立すると判断し、RTI103内部においてフェデレートA101とフェデレートB102間の送受関係を作成する。
【0005】
続いて図3に示す例を用いて公開/購読宣言が行われた後の動作について説明する。フェデレートA101は、航空機の模擬機能を実行し、その実行結果として航空機の位置情報が更新されると、RTI103に対して、HLAインタフェース104を介して位置情報の値をデータインスタンスとして更新送信を行う(301)。RTI103は、位置情報データインスタンスの更新送信を受信すると、位置情報の種類に基づき作成された送受関係を参照し、当該データインスタンスの受信側となるフェデレートB102に対して、HLAインタフェース104を介して位置情報データインスタンスの更新反映送信を行う(302)。
【0006】
この様に、公開/購読モデルを用いることにより、分散シミュレーションに参加する個々のフェデレートが互いの存在や仕様を知らなくとも、RTIがフェデレートからのデータクラスに対する公開/購読宣言からフェデレート間の送受関係を作成し、実際にフェデレートがそのデータクラスのデータインスタンスを送信する際はRTIの仲介によってフェデレート間のデータインスタンス通信を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE 1516.1-2000 - Standard for Modeling and Simulation High Level Architecture(HLA) - Federate Interface Specification
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
HLAが用いている公開/購読モデルでは、送信側フェデレートと受信側フェデレートとが互いの仕様を全く知らずにシミュレーションを実行するが故の課題がある。
例えば、航空機を模擬し位置情報を外部に送信する航空機模擬フェデレートと、航空管制レーダを模擬し航空機模擬フェデレートからの位置情報を受信する航空管制レーダ模擬フェデレートからなる分散シミュレーションにおいて、航空管制レーダ模擬フェデレートは自身の探知周期に合わせて航空機模擬フェデレートから位置情報を受信したいとする。このような場合に、公開/購読モデルでは、次のような問題がある。
【0009】
まず、各フェデレートからの公開/購読宣言により、RTIにおいて位置情報というデータクラスに応じた送受関係が作成されるが、単純な送受関係のみでは購読を宣言した各々の航空管制レーダ模擬フェデレートの探知周期に対して位置情報データインスタンスの更新反映送信の周期を調整することができないため、航空管制レーダ模擬フェデレートが必要としている周期で位置情報データインスタンスを得ることができないという第一の問題点がある。
【0010】
また、第一の問題点を解決するために、航空管制レーダ模擬フェデレートが必要周期をRTIに通知し、RTIからその周期を航空機模擬フェデレートに要求周期として通知して、航空機模擬フェデレートのデータインスタンス更新送信において周期を調整するように改良したとする。このような改良を行ったとしても、異なる探知周期を模擬する航空管制レーダ模擬フェデレートが複数存在しているような場合には、ある航空管制レーダ模擬フェデレートのデータインスタンス要求周期が何れかの航空管制レーダ模擬フェデレートの必要周期に満たない場合には位置情報データインスタンスの更新不足が発生するという第二の問題点がある。
さらに、第二の問題点を解決するためにデータインスタンス要求周期を全必要周期の最小値に設定すると、必要周期値が大きい航空管制レーダ模擬フェデレートに対しては不要な位置情報データインスタンスの更新が発生するという第三の問題点がある。
【0011】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、分散シミュレーション基盤において、必要周期に応じて要求周期を決定するとともに、要求周期に基づく個数の送信スロットを作成して送信模擬機能と受信模擬機能間のデータ送受信の制御を行うことにより、上述の課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る分散シミュレーションシステムは、
模擬対象物体を模擬し、その模擬結果データを送信する複数の分散した送信模擬機能手段と、送信模擬機能手段の送信する模擬結果データを受信する複数の受信模擬機能手段と、送信模擬機能手段および受信模擬機能手段に対して少なくとも各模擬機能手段間のデータ通信制御および時間進行制御の共通基盤となる機能を提供する分散シミュレーション基盤とで構成される分散シミュレーションシステムにおいて、
上記各送信模擬機能手段は模擬結果データを所定の時間間隔で更新して、分散シミュレーション基盤に通知し、
上記各受信模擬機能手段は、自己の必要とするデータクラスの受信周期を分散シミュレーション基盤に通知し、
上記分散シミュレーション基盤は1つ以上の受信模擬機能から通知されたデータクラスの受信周期を基に、送信模擬機能手段からの更新模擬結果データにより必要数の論理的な送信スロットを該当データクラスに対応して作成し、各送信スロットに対して受信模擬機能手段を割当てる。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る分散シミュレーションシステムによれば、
分散シミュレーション基盤が受信模擬機能から通知された購読周期通知に基づいて、論理的な送信スロットを作成し、この送信スロットに基づいて送信模擬機能と受信模擬機能間のデータ通信が行われることにより、送信模擬機能は、受信模擬機能が必要としているデータ更新周期の通知を受け、必要最低限の周期でデータインスタンスの更新を行うことができ、受信模擬機能に対するデータ送信タイミングの抜けを防ぐことができる。一方、受信模擬機能は、自分が分散シミュレーション基盤に通知した必要周期でデータ更新を受信することができ、不必要なタイミングでのデータ更新を受けないため、効率よく模擬処理を行うことが可能である。
また、分散シミュレーション基盤は、それぞれの受信模擬機能に対して、必要とされるタイミングでのみデータ送信を行うことにより、不要なデータ通信を削減するデータ通信フィルタリングを行うことが可能であり、分散シミュレーション全体を効率よく実行することが可能となる。
さらに、分散シミュレーション基盤に生成される送信スロットは、受信模擬機能から通知された周期値の時間単位に合わせた数が作成され、受信模擬機能の割り当てや送信模擬機能の送信は送信スロット番号で対応するため、時間的に高い精度で送信・受信が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】HLAにおける分散シミュレーション例の機能構成図である。
【図2】分散シミュレーションの公開/購読通知時の動作例を示す機能構成図である。
【図3】分散シミュレーションの公開/購読宣言後の動作例を示す機能構成図である。
【図4】この発明の実施の形態1による分散シミュレーションシステムの構成図である。
【図5】分散シミュレーションシステムにおける要求周期通知段階時の機能構成図である。
【図6】送信模擬機能からのデータインスタンス更新送信と受信模擬機能のデータインスタンス更新反映受信例の機能構成図である。
【図7】この発明の実施の形態2による分散シミュレーションシステムの機能構成図である。
【図8】シミュレーション実行中に受信模擬機能がデータクラスの購読を取り止めた場合の動作を示す機能構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図4はこの発明が適用される分散シミュレーションシステムの構成例を示すシステム構成図である。図において、401は航空機等の移動体を模擬し、その模擬結果である位置情報を他の模擬機能手段に送信する送信模擬機能手段である。402、403は航空管制レーダ等のセンサを模擬し、移動体の探知処理等を模擬するために他の送信模擬機能手段401が送信する移動体の位置情報を受信する受信模擬機能手段Aおよび受信模擬機能手段Bである。受信模擬機能手段A402は、周期的な探知処理を模擬する上で位置情報の受信周期として1000ミリ秒の受信周期を要求する。また、受信模擬機能手段B403は、同じく周期的な探知処理を模擬する上で位置情報の受信周期として250ミリ秒の受信周期を要求する。404は、送信模擬機能手段401と受信模擬機能手段A402、受信模擬機能手段B403間のデータ通信制御や時間進行制御などの共通基盤となる機能を提供する分散シミュレーション基盤である。
【0016】
次に動作について説明する。
図5は、図4に示される分散シミュレーションシステムのシミュレーション開始前やシミュレーション実行途中において、受信模擬機能手段A402、受信模擬機能手段B403が受信したい位置情報の要求周期を分散シミュレーション基盤404に通知する要求周期通知の段階を説明する図である。なお、この段階の前の段階において、位置情報データクラスの公開/購読宣言により送信模擬機能手段401と受信模擬機能手段A402、受信模擬機能手段B403の送受関係が分散シミュレーション基盤404において成立しているものとする。
【0017】
図5において、501は、受信模擬機能手段A402および受信模擬機能手段B403が分散シミュレーション基盤404に通知する購読周期通知である。502は、購読周期通知501に基づき分散シミュレーション基盤404において論理的に作成される送信スロットである。503は、該当データクラスの公開/購読宣言によって送受関係が成立している送信模擬機能手段401に対して、分散シミュレーション基盤404から購読周期通知501に基づき通知される被購読周期通知である。
【0018】
図5では、まず受信模擬機能手段A402、受信模擬機能手段B403が分散シミュレーション基盤404に対して購読周期通知501を通知する。購読周期通知501は、次の情報から構成される。
(1)必要周期を通知する該当データクラス
(2)必要周期値
【0019】
図5の例では、受信模擬機能手段A402が通知する購読周期通知の内容は、「(1)位置情報」、「(2)1000ミリ秒」であり、受信模擬機能手段B403が通知する購読周期通知の内容は、「(1)位置情報」、「(2)250ミリ秒」である。
分散シミュレーション基盤404は、この購読周期通知501を受け取ると、該当データクラスに対して必要周期値を基に、次の計算式(1)に基づき送信スロット数Sを計算し、論理的な送信スロット502を作成する。
【0020】
S = lcm( lcm( max(R1, ...Rn), R1), ...lcm( max(R1, ...Rn), Rn) )・・・式(1)
この式(1)において、
S: 送信スロット数、
R: 必要周期値、
lcm(A1, ...An) : A1からAnまでの数値の最小公倍数を求める関数、
max(A1, ...An) : A1からAnまでの数値の最大値を求める関数である。
【0021】
図5の例では、送信スロット数は「1000」である。分散シミュレーション基盤404は送信スロット502を作成すると、送信スロット番号に対して受信模擬機能手段を割り当てる。割り当ては、受信模擬機能手段が通知した必要周期値のn倍(nは自然数)の番号に対して行われる。また、該当データクラスを購読しているが、該当データクラスの購読周期通知501を分散シミュレーション基盤404に対して通知していない受信模擬機能手段や、また該当データクラスの購読周期通知501において必要周期を設定していない受信模擬機能手段については、全ての送信スロット番号に対して受信模擬機能手段が割り当てられる。図5の例では、次のように割当てられる。
【0022】
受信模擬機能手段A402: 送信スロット番号1000に割り当て
受信模擬機能手段B403: 送信スロット番号250、500、750、1000に割り当て
【0023】
また、分散シミュレーション基盤404は送信スロットを作成すると、被購読周期通知503を作成し、送信模擬機能手段401に対して通知する。被購読周期通知503は、次の情報から構成される。
(1)要求周期を通知する該当データクラス
(2)要求最小周期値
(3)送信スロット数
【0024】
要求最小周期値は、分散シミュレーション基盤404が受信模擬機能手段A402、受信模擬機能手段B403から通知された購読周期通知501の必要周期値の最小値である。図5の例では、送信模擬機能手段401に通知される被購読周期通知503の内容は、「(1)位置情報」、「(2)250ミリ秒」、「(3)1000」である。
【0025】
次に図6を用いて送信模擬機能手段401からデータインスタンスの更新送信を行い、受信模擬機能手段402,403に対してデータインスタンスの更新反映受信が行われる例を説明する。図6において、601は、送信模擬機能手段401が分散シミュレーション基盤404に対して送信するデータインスタンス更新送信である。602は、データインスタンス更新送信601の送信により、分散シミュレーション基盤404において成立している送受関係に基づき受信模擬機能手段に対して分散シミュレーション基盤404が送信するデータインスタンス更新反映受信である。
【0026】
送信模擬機能手段401では、図5で通知を受けた被購読周期通知503に基づき、航空機の模擬処理を要求周期値である250ミリ秒間隔で実行し、実行結果である位置情報をデータインスタンスとして更新する。送信模擬機能手段401は、データインスタンスを更新すると、データインスタンス更新送信601を作成して分散シミュレーション基盤404に送信する。データインスタンス更新送信601は、次の情報から構成される。
【0027】
(1)データインスタンス
(2)更新時刻
(3)送信スロット番号
【0028】
このうち、送信スロット番号は、要求周期値のn倍(nは自然数でシミュレーション時間の進行とともにデータインスタンスが更新される都度1つずつ増加する数値であり、要求周期値をn倍した数が送信スロット数を超える場合は1に戻される)の番号である。図5の例では、「(1)位置情報データインスタンス」、「(2)位置情報の更新時刻」、「(3)250、500、750または1000」である。
【0029】
分散シミュレーション基盤404は、データインスタンス更新送信601を受信すると、その送信スロット番号を参照し、送信スロット502において同じ送信スロット番号に割り当てられている受信模擬機能手段に対してデータインスタンス更新反映受信602を送信する。図5の例では、分散シミュレーション基盤404は、送信スロット番号が250、500、750のデータインスタンス更新送信601について、受信模擬機能手段B403にデータインスタンス更新反映受信602を送信する。また、送信スロット番号が1000のデータインスタンス更新送信601について、受信模擬機能手段A402と受信模擬機能手段B403にデータインスタンス更新反映受信602を送信する。
【0030】
以上のように、分散シミュレーション基盤404が受信模擬機能手段から通知された購読周期通知に基づいて、論理的な送信スロットを作成し、この送信スロットに基づいて送信模擬機能手段と受信模擬機能手段間のデータ通信が行われることにより、以下のような効果が得られる。
●送信模擬機能手段は、受信模擬機能手段が必要としているデータ更新周期を通知されることにより、必要最低限の周期でデータインスタンスの更新を行うことができ、受信模擬機能手段に対するデータ送信タイミングの抜けを防ぐことができる。
●受信模擬機能手段は、自分が分散シミュレーション基盤に通知した必要周期でデータ更新を受信することができ、不必要なタイミングでのデータ更新を受けないため、効率よく模擬処理を行うことが可能である。
●分散シミュレーション基盤は、それぞれの受信模擬機能手段に対して、必要とされるタイミングでのみデータ送信を行うことにより、不要なデータ通信を削減するデータ通信フィルタリングを行うことが可能であり、分散シミュレーション全体を効率よく実行することが可能である。
●分散シミュレーション基盤に生成される送信スロットは、受信模擬機能手段から通知された周期値の時間単位に合わせた数が作成され、受信模擬機能手段の割り当てや送信模擬機能手段の送信は送信スロット番号で対応するため、時間的に高い精度で送信・受信が行われる。特に、実時間に制約されない論理時間シミュレーションでは、時刻値を厳格に守った受信模擬機能手段に対するデータ通信フィルタリングが可能である。
【0031】
なお、上記の実施の形態で説明した分散シミュレーション基盤における送信スロットの作成、送信スロットへの受信模擬機能手段の割当て、送信模擬機能手段への被購読周期通知の通知は、シミュレーション実行途中の受信模擬機能手段からの購読周期通知により動的に実行することが可能であり、また、同じデータクラスに対する同じ受信模擬機能手段からの複数回の購読周期通知は、その通知が行われる度に分散シミュレーション基盤における送信スロットの作成、送信スロットへの受信模擬機能手段の割当て、送信模擬機能手段への被購読周期通知の通知を行うことにより、動的に変更することが可能である。
【0032】
なお、以上の実施の形態で説明した周期はミリ秒単位であったが、各模擬機能手段が扱う単位が統一されていれば他の単位でも良い。また、各模擬機能手段が、周期値ではなく例えばヘルツ値のような頻度に関する値で模擬処理を扱っていたとしても、時間間隔に変換可能であればこの発明を適用することが可能である。
【0033】
実施の形態2.
以上の実施の形態1では、送信模擬機能手段が分散シミュレーション基盤から通知された被購読周期通知の要求最小周期値によって模擬処理を実行しデータインスタンス更新送信601を分散シミュレーション基盤404に対して送信するものであった。このような処理では、例えば要求最小周期値が小さすぎる場合、高頻度でデータインスタンス更新送信601を送信しなければならず、システム全体の高速実行が困難な場合や、送信模擬機能手段の処理が追いつかない場合が考えられる。そこで、実施の形態2では、データインスタンス更新送信601の送信回数を削減するような動作について説明する。
【0034】
図7は、図4に示したシステム構成に、航空管制レーダ等のセンサを模擬し、周期的な探知処理を模擬する上で位置情報の受信周期として100ミリ秒の受信周期を要求する受信模擬機能手段C701が追加された分散シミュレーションシステムの構成例を示すシステム構成図である。図において、702は、分散シミュレーション基盤に対する設定変更可能な外部設定値の一つであり、送信模擬機能手段401によるデータインスタンスの更新周期として許容可能な最低値として設定された更新可能周期値である。図7の例では、更新可能周期値には「200ミリ秒」が設定されている。
【0035】
次に動作について説明する。このシステムにおいて、位置情報データクラスの公開/購読宣言により送信模擬機能手段401と受信模擬機能手段A402、受信模擬機能手段B403、受信模擬機能手段C701の送受関係が分散シミュレーション基盤404において成立しており、さらに受信模擬機能手段A402、受信模擬機能手段B403、受信模擬機能手段C701から分散シミュレーション基盤404に対して購読周期通知が通知されているものとする。それぞれの購読周期通知には、必要周期を通知するデータクラスには同じ「位置情報」が設定されており、必要周期値には、受信模擬機能手段A402が「1000ミリ秒」、受信模擬機能手段B403が「250ミリ秒」、受信模擬機能手段C701が「100ミリ秒」が設定されており、送信スロット数の計算と受信模擬処理の割り当ては、実施の形態1で示した方法により次のとおり行われる。
【0036】
・送信スロット数: 1000
・送信スロットに対する受信模擬処理の割り当て:
受信模擬機能手段A402: 送信スロット番号1000に割り当て
受信模擬機能手段B403: 送信スロット番号250、500、750、1000に割り当て
受信模擬機能手段C701: 送信スロット番号100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000に割り当て
【0037】
図7のように、受信模擬機能手段が分散シミュレーション基盤404に通知した購読周期通知の必要周期値の最低値が、分散シミュレーション基盤404に対して設定されているデータインスタンスの更新周期として許容可能な最低値である更新可能周期値を下回っている場合、分散シミュレーション基盤404は、送信模擬処理のデータインスタンス更新処理回数を削減するために、受信模擬機能手段に割り当てた送信スロットについて、データインスタンス更新を受信する受信模擬機能手段が同じ組合せになり、同時にデータインスタンスの更新を行える組合せを求める。図7の例では、送信スロットの組合せは次のようになる。
【0038】
組合せ1:送信スロット番号1000(受信模擬機能手段A402、受信模擬機能手段B403、受信模擬機能手段C701が受信)
組合せ2:送信スロット番号250、750(受信模擬機能手段B403が受信)
組合せ3:送信スロット番号100、200、300、400、600、700、800、900(受信模擬機能手段C701が受信)
組合せ4:送信スロット番号500(受信模擬機能手段B403、受信模擬機能手段C701が受信)
【0039】
分散シミュレーション基盤404は、送信スロットの組合せを作成すると、被購読周期通知503を作成し、送信模擬機能手段401に対して通知する。図7の例における被購読周期通知503は、次の情報から構成される。
(1)要求周期を通知する該当データクラス
(2)要求最小周期値
(3)送信スロット数
(4)同時更新可能な送信スロットの組合せリスト
【0040】
図7の例では、送信模擬機能手段401に通知される被購読周期通知503の内容は、「(1)位置情報」、「(2)100ミリ秒」、「(3)1000」、「(4)組合せ1の内容、組合せ2の内容、組合せ3、組合せ4の内容」である。
送信模擬機能手段401では、上の内容で通知を受けた被購読周期通知503に基づき、航空機の模擬処理を要求周期値である100ミリ秒間隔で実行し、実行結果である位置情報をデータインスタンスとして更新するが、模擬処理を実行した100ミリ秒間隔でデータインスタンスを更新せず、送信スロット数に対応する時間(すなわち1000ミリ秒)分模擬処理を繰返し実行した後、同時更新可能な送信スロットの組合せリストを利用してデータインスタンス更新送信601を分散シミュレーション基盤404に送信する。
【0041】
図7の例におけるデータインスタンス更新送信601の内容は次のとおりである。
(1)データインスタンスと更新時刻のペアのリスト
(2)同時更新可能な送信スロットの組合せ
【0042】
このうち、データインスタンスと更新時刻のペアのリストは、データインスタンスとそのデータインスタンスの更新時刻の組合せが、同時更新可能な送信スロットの組合せに設定された送信スロットに対応する数分、格納されたリストである。同時更新可能な送信スロットの組合せには、組合せ1の内容か、組合せ2の内容か、組合せ3の内容か、組合せ4の内容かが設定される。
【0043】
分散シミュレーション基盤404は、データインスタンス更新送信601が送信されると、その同時更新可能な送信スロットの組合せの内容を参照し、同じ送信スロット番号に割り当てられている受信模擬機能手段に対してデータインスタンス更新反映受信602を送信する。図7の例では、分散シミュレーション基盤404は、送信スロットの組合せの中に送信スロット番号として250、750が設定されたデータインスタンス更新送信601について、受信模擬機能手段B403にデータインスタンス更新反映受信602を送信する。
【0044】
また、送信スロットの組合せの中に送信スロット番号として1000が設定されたデータインスタンス更新送信601について、受信模擬機能手段A402と受信模擬機能手段B403と受信模擬機能手段C701にデータインスタンス更新反映受信602を送信する。また、送信スロットの組合せの中に送信スロット番号として100、200、300、400、600、700、800、900が設定されたデータインスタンス更新送信601について、受信模擬機能手段C701にデータインスタンス更新反映受信602を送信する。また、送信スロットの組合せの中に送信スロット番号として500、700、800、900が設定されたデータインスタンス更新送信601について、受信模擬機能手段B403と受信模擬機能手段C701にデータインスタンス更新反映受信602を送信する。
【0045】
以上のように、分散シミュレーション基盤404が受信模擬機能から通知された購読周期通知に対して、送信模擬処理によるデータインスタンスの更新周期として許容可能な最低値を下回るような高頻度のデータインスタンス更新が求められるような場合に、論理的な送信スロットに対して同時更新可能な組合せを求め、この送信スロットの組合せに基づいて送信模擬機能手段と受信模擬機能手段間のデータ通信が行われることにより、送信模擬処理のデータインスタンスの更新回数と、分散シミュレーション基盤404によるデータインスタンスの受信模擬処理への更新反映受信処理の回数とを削減することができる。
【0046】
実施の形態3.
以上の実施の形態1および実施の形態2では、受信模擬機能手段がデータクラスについての要求周期通知を分散シミュレーション基盤に対して通知した場合の動作を説明したものであるが、次に受信模擬機能手段がシミュレーション実行中にデータクラスの購読を取り止めた場合の動作について説明する。
【0047】
図8は、受信模擬機能手段A402がシミュレーション実行中にデータクラスの購読を取り止めた場合の動作を示した図である。図において、801は受信模擬機能手段A402が分散シミュレーション基盤404に対して、それまで購読していたデータクラスの購読を取り止るために通知するデータクラス購読中止である。
【0048】
次に動作について説明する。シミュレーション実行中に、受信模擬機能A402において、それまで購読していたあるデータクラスがそれ以上必要無くなったため、該当データクラスについてデータクラス購読中止801を分散シミュレーション基盤404に対して通知する。分散シミュレーション基盤404は、データクラス購読中止801の通知を受けると、該当データクラスの送信スロットについて、該当データクラスを購読している全ての受信模擬機能からデータクラス購読中止801を通知してきた受信模擬機能手段A402を除いた受信模擬機能手段について、実施の形態1の式(1)に示した送信スロット数の計算を実行し、その結果に基づき、該当データクラスを購読している全ての受信模擬機能手段からデータクラス購読中止801を通知してきた受信模擬機能手段A402を除いた受信模擬機能手段の送信スロットへの割り当てを実行し、該当データクラスを公開している送信模擬機能手段401に対して被購読周期通知を通知する。
【0049】
以上のように、受信模擬機能手段がシミュレーション実行中にデータクラスの購読を取り止めた場合でも、その受信模擬機能手段を除いた状態で送信スロットを準備することにより、動的に送信模擬機能手段と受信模擬機能手段間のデータ送受信の制御を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明に係る分散シミュレーションシステムは、例えば航空機の模擬と航空管制レーダの模擬を行う航空管制レーダのシミュレーション装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
101;フェデレートA、102;フェデレートB、103;RTI、104;各フェデレートとRTI間のHLAインタフェース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬対象物体を模擬し、その模擬結果データを送信する複数の分散した送信模擬機能手段と、送信模擬機能手段の送信する模擬結果データを受信する複数の受信模擬機能手段と、送信模擬機能手段および受信模擬機能手段に対して少なくとも各模擬機能手段間のデータ通信制御および時間進行制御の共通基盤となる機能を提供する分散シミュレーション基盤とで構成される分散シミュレーションシステムにおいて、
上記各送信模擬機能手段は模擬結果データを所定の時間間隔で更新して、分散シミュレーション基盤に通知し、
上記各受信模擬機能手段は、自己の必要とするデータクラスの受信周期を分散シミュレーション基盤に通知し、
上記分散シミュレーション基盤は1つ以上の受信模擬機能から通知されたデータクラスの受信周期を基に、送信模擬機能手段からの更新模擬結果データにより必要数の送信スロットを該当データクラスに対応して作成し、各送信スロットに対して受信模擬機能手段を割当てることを特徴とする分散シミュレーションシステム。
【請求項2】
上記分散シミュレーション基盤は、該当データクラスに対応し作成した送信スロットの数と、上記各受信模擬機能手段から通知された該当データクラスの受信周期の最小周期値を上記送信模擬機能手段に通知し、上記送信模擬機能手段から送信された該当データクラスのデータインスタンスを、その送信スロットに対応付けられた上記受信模擬機能手段に対して送信する構成とされ、
上記送信模擬機能手段は該当データクラスのデータインスタンスを通知された最小周期値で更新を行うと共に対応する送信スロットに対して送信を行う構成にされたことを特徴とする請求項1に記載の分散シミュレーションシステム。
【請求項3】
上記分散シミュレーション基盤は、該当データクラスに対応し作成した送信スロットの数と、上記受信模擬機能手段から通知された該当データクラスの受信周期の最小周期値と、上記受信模擬機能手段に対し、同時更新可能な送信スロットの組合せとを上記送信模擬機能手段に通知する構成とされ、
上記送信模擬機能手段は該当データクラスのデータインスタンスを通知された最小周期値で更新を行うと共に、対応する同時に更新可能な送信スロットの組合せに対してデータインスタンスの送信を行う構成にされたことを特徴とする請求項1に記載の分散シミュレーションシステム。
【請求項4】
上記受信模擬機能手段は、シミュレーション実行途中にそれまで必要としていたデータクラスの受信が不要になったとき、上記分散シミュレーション基盤に該当データクラスの受信が不要になったことを通知する構成とされ、
上記分散シミュレーション基盤は、当該通知を受けた該当データクラスの送信スロットについて、対応させていた該当受信模擬機能手段の割当てを削除して、送信スロットへの受信模擬機能手段の割当てを削除する構成にされたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の分散シミュレーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−248600(P2011−248600A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120627(P2010−120627)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)