説明

分析チップ

【課題】単体で1次反応から2次反応までを効率よく行うことが可能な分析チップを提供する。
【解決手段】分析チップ10を、透光性を有する下側部材11と上側部材12との間に流路15が形成される流路部材11、12と、流路部材の上側部材12側から嵌合するカバー部材13とで構成する。上側部材12の上面側には、流路15内と連通し、流路15内に検体溶液を注入するための注入口12aと、流路15内と連通し、注入口12aから注入された検体溶液を下流側から吸引するための吸引孔12bとを形成する。カバー部材13の上面側には、検体溶液に対して所定の前処理を行うための前処理用ポット13aと、検体溶液中の被検物質と光応答性標識物質とを結合させるための1次反応処理用ポット13bと、注入口12aを挿入する注入口挿入孔13cと、吸引孔12bを挿入する吸引孔挿入孔13dとを直線状に配置するよう形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法に使用される分析チップ、特に血液などの被検物質に対する1次反応処理と検出用の2次反応処理を行う機能を兼ね備えた分析チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からエバネッセント波を用いた表面プラズモン共鳴現象の原理を用いて試料中の物質を定量分析するプラズモンセンサーが知られている(たとえば特許文献1参照)。特許文献1には、プリズムとプリズムの一面に設けられた試料に接触する金属膜との界面に光ビームが全反射角で照射し、界面で全反射した光ビームの反射角を検出することにより試料中の物質を定量分析することが開示されている。さらに、特許文献1においては、サンプル内に収容された複数の試料の定量分析を行うために、光源と光検出部とが移動可能に設けられている。
【0003】
また、上述したエバネッセント波を利用した蛍光検出装置も提案されている(たとえば特許文献2参照)。特許文献2には、サンプル容器内の蛍光標識化された被検物質等をエバネッセント波により励起したときの蛍光を検出することにより被検物質の定量分析を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−239233号公報
【特許文献2】特開2009−128152号公報
【特許文献3】特開2009−222479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に示すような蛍光検出装置において生化学分析を行う場合、一般的には予め検体溶液内の被検物質と蛍光標識とを結合させる1次反応処理を行った後、蛍光標識化された被検物質を化学的に結合補足させる2次反応処理を行う必要がある。
【0006】
ここで、生体から採取する検体溶液量を少なくするためや検出速度を速くするために、特許文献3に示されているようなμTAS(Micro Total Analysis Systems)技術を採用することを考える。このとき、2次反応処理については所望の効果が得られるが、1次反応処理については不都合も生じる。すなわち、検体溶液内の被検物質と蛍光標識とは十分に結合されている必要があるが、流路内において十分な撹拌、溶解を行うことは困難であり、結果として、被検物質の検出精度が低下するという問題がある。
【0007】
このように1次反応処理と2次反応処理とでは好ましい処理方法が各々異なるため、従来の方法では効率的な測定を行うことが難しかった。
【0008】
そこで、本発明は、単体で1次反応から2次反応までを効率よく行うことが可能な分析チップを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の分析チップは、被検物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法に使用される分析チップであって、検体溶液を貯留し、検体溶液に対して所定の処理を行うためのポットと、光応答性標識物質から生じる光を検出するための検出領域を有し、検体溶液が流下される流路と、流路の上流側に設けられ、流路に検体溶液を注入するための注入口と、流路の下流側に設けられ、注入口から注入された検体溶液を下流側から吸引するための吸引孔とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、検出領域は、エバネッセント波を生じさせるための励起光を入射させるための誘電体プレートと、誘電体プレートの検体溶液接触面側の所定領域に設けられた金属層とを備えているものとすることが好ましい。
【0011】
また、ポットは、検体溶液に対して所定の前処理を行うための前処理用ポットや、検体溶液中の被検物質と光応答性標識物質とを結合させるための1次反応処理用ポットを含むことが好ましい。
【0012】
なお、前処理用ポットおよび1次反応処理用ポットの少なくともいずれか一方の内面には、所定の乾燥試薬が固着されていることが好ましい。このとき、乾燥試薬の固着部には、乾燥試薬の剥離を防止するための凹凸が形成されていることが好ましい。
【0013】
また、内面に乾燥試薬が固着されているポットの開口部は、封止されていることが好ましい。
【0014】
また、注入口、吸引孔およびポットは、直線状に配置されていることが好ましい。
【0015】
また、検出領域は、直線状に配置された複数の検出領域から構成されていることが好ましい。
【0016】
また、下側部材と上側部材とからなり、下側部材と上側部材との間に流路が形成されるとともに、少なくとも検出領域に対する光の光路部分は透光性を有する流路部材と、ポットが形成され、流路部材の上側部材側から嵌合するカバー部材とから構成されたものとしてもよい。
【0017】
また、下側部材の下面および上側部材の上面の少なくともいずれか一方の面において、下側部材と上側部材とを超音波溶着するためのホーンの当接部分は平坦とすることが好ましい。
【0018】
また、カバー部材は、光検出領域と対向する領域に開口が設けられたものとすることが好ましい。
【0019】
また、流路部材およびカバー部材の少なくともいずれか一方の表面に、所定の情報を表すバーコードを表示してもよい。
【0020】
ここで「バーコード」とは、1次元バーコードでもよいし2次元バーコードでもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の分析チップによれば、検体溶液を貯留し、検体溶液に対して所定の処理を行うためのポットと、光応答性標識物質から生じる光を検出するための検出領域を有し、検体溶液が流下される流路と、流路の上流側に設けられ、流路に検体溶液を注入するための注入口と、流路の下流側に設けられ、注入口から注入された検体溶液を下流側から吸引するための吸引孔とを単体の分析チップに備えたものとし、1次反応処理等をポットで行い、2次反応処理を流路で行えるようにしたので、単体の分析チップで1次反応から2次反応までを効率よく行うことが可能となる。
【0022】
ここで、検出領域を、エバネッセント波を生じさせるための励起光を入射させるための誘電体プレートと、誘電体プレートの検体溶液接触面側の所定領域に設けられた金属層とを備えているものとすれば、エバネッセント波を利用した高感度の測定に用いることができるようになる。
【0023】
また、ポットを、検体溶液に対して所定の前処理を行うための前処理用ポットや、検体溶液中の被検物質と光応答性標識物質とを結合させるための1次反応処理用ポットを含むものとすれば、各処理毎に専用のポッドを用いて適切な処理を行うことができる。
【0024】
ここで、前処理用ポットおよび1次反応処理用ポットの少なくともいずれか一方の内面に、所定の乾燥試薬を固着しておけば、各処理用の試薬をユーザーに別途用意させる必要がなくなり、効率的な測定を行わせることができる。
【0025】
このとき、乾燥試薬の固着部に、乾燥試薬の剥離を防止するための凹凸を形成しておけば、分析チップの移動時等に乾燥試薬が剥離して所定位置から移動するのを防止できるため、特に検出装置においてポッド内に検体溶液を自動的に分注して前処理や1次反応処理を行う場合に、安定した処理を行わせることができる。
【0026】
また、内面に乾燥試薬が固着されているポットの開口部を封止することにより、乾燥試薬の吸湿や変質等を防止することができる。
【0027】
また、注入口、吸引孔およびポットを直線状に配置すれば、検出装置において分注ユニットを移動させて1次反応処理から2次反応処理までを自動的に行わせる場合に、分注ユニットを直線状に移動させるだけでよくなるので、本発明の分析チップに対応した自動検出装置の実現が容易となる。
【0028】
また、検出領域が複数ある場合、複数の検出領域を直線状に配置すれば、検出装置において測定ユニットを移動させて光検出処理を自動的に行わせる場合に、測定ユニットを直線状に移動させるだけでよくなるので、本発明の分析チップに対応した自動検出装置の実現が容易となる。
【0029】
また、下側部材と上側部材とからなり、下側部材と上側部材との間に流路が形成されるとともに、少なくとも検出領域に対する光の光路部分は透明とした流路部材と、ポットが形成され、流路部材の上側部材側から嵌合するカバー部材とから構成すれば、各部材の形状を簡素化することができるとともに、製作性も良好であるため、製作コストを下げることができる。
【0030】
また、下側部材の下面および上側部材の上面の少なくともいずれか一方の面において、下側部材と上側部材とを超音波溶着するためのホーンの当接部分を平坦とすれば、下側部材と上側部材とを超音波溶着する場合の製造上の信頼性を向上させることができる。
【0031】
また、カバー部材について、流路部材の検出領域と対向する領域に開口を設け、この開口部分から光を検出するようにすれば、開口付近のカバー部材の厚さ分だけ流路部材の光検出部が低い位置となり、流路部材の光検出部が直接手で触れにくくなるため、指紋付着防止効果を得ることができる。
【0032】
また、流路部材およびカバー部材の少なくともいずれか一方の表面に、分析チップの個体差や製造年月日等の所定の情報を表すバーコードを表示すれば、このような情報を用いて分析チップから取得された測定結果に対して分析チップの個体差に起因する誤差の補正処理や、品質管理等を行うことができるようになるので、分析チップの商品性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の分析チップの好ましい実施の形態を示す斜視図
【図2】上記分析チップの上面図
【図3】上記分析チップの下面図
【図4】上記分析チップの上方から見た分解斜視図
【図5】上記分析チップの下方から見た分解斜視図
【図6】図2中のVI−VI線断面図
【図7】上記分析チップを用いた蛍光検出装置の一例を示す模式図
【図8】上記蛍光検出装置の測定部の概略構成図
【図9】上記蛍光検出装置のブロック図
【図10】上記分析チップの模式図
【図11】図9の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図
【図12】図9の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図
【図13】図9の光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図
【図14】図9のデータ分析手段においてレート法により定量的または定性的な分析が行われる様子を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の分析チップの好ましい実施の形態を示す斜視図、図2は上記分析チップの上面図、図3は上記分析チップの下面図、図4は上記分析チップの上方から見た分解斜視図、図5は上記分析チップの下方から見た分解斜視図、図6は図2中のVI−VI線断面図、図10は上記分析チップの模式図である。
【0035】
本実施の形態の分析チップ10は、透光性を有する下側部材11と上側部材12とからなり、下側部材11と上側部材12との間に流路15が形成される流路部材と、流路部材の上側部材12側から嵌合するカバー部材13とから構成される。
【0036】
図4に示すように下側部材11の上面側には流路15を形成するための凹部11aおよび11bが形成されており、図5に示すように上側部材12の下面側には流路15を形成するための凹部12cが形成されており、これにより下側部材11と上側部材12とを結合させた際に、両者間に流路15が形成されることになる。
【0037】
下側部材11および上側部材12は透明樹脂等の誘電体材料から構成されるとともに、両者は超音波溶着により結合されるが、図4、5に示すように下側部材11の下面および上側部材12の上面の流路15と重なる領域は平坦に構成されており、これにより超音波溶着用ホーンを密着させられるため、超音波溶着の信頼性を向上させることができ、特に流路15からの液漏れが生じさせないようにすることができる。
【0038】
また、上側部材12の上面側には、流路15内と連通し、流路15内に検体溶液を注入するための注入口12aと、流路15内と連通し、注入口12aから注入された検体溶液を下流側から吸引するための吸引孔12bとが形成されている。
【0039】
カバー部材13の上面側には、検体溶液に対して所定の前処理を行うための前処理用ポット13aと、検体溶液中の被検物質と光応答性標識物質とを結合させるための1次反応処理用ポット13bと、注入口12aを挿入する注入口挿入孔13cと、吸引孔12bを挿入する吸引孔挿入孔13dとが形成されている。
【0040】
前処理用ポット13aは、検体に対して下流の反応に適したpHに調整する等の前処理を行うための乾燥試薬を収容する容器であり、1次反応処理用ポット13bは、検体と結合する蛍光(第2抗体)乾燥試薬を収容する容器である。これらのポットは、いずれも流路15とは連通しない独立した容器である。
【0041】
図12に示すように乾燥試薬DCの固着部には、乾燥試薬DCの剥離を防止するための凹凸13gが形成されており、これにより分析チップ10の移動時等に乾燥試薬DSが剥離して所定位置から移動するのを防止できるため、特に検出装置においてポッド内に検体溶液を自動的に分注して前処理や1次反応処理を行う場合に、安定した処理を行わせることができる。
【0042】
また、前処理用ポット13aおよび1次反応処理用ポット13bの開口部はシール部材Sにより封止されており、検体に対して所定の処理を行う際にシール部材が穿孔されるようになっている。これにより、乾燥試薬の吸湿や変質等を防止することができる。
【0043】
これらの前処理用ポット13a、1次反応処理用ポット13b、注入口挿入孔13c、および吸引孔挿入孔13dは互いに近接して直線状に配置されており、これにより検出装置において分注ユニットを移動させて1次反応処理から2次反応処理までを自動的に行わせる場合に、分注ユニットを直線状に短距離移動させるだけでよくなるので、本発明の分析チップに対応した自動検出装置の実現が容易となる。しかも、前処理用ポット13a、1次反応処理用ポット13b、2次反応処理用の流路15内への注入口12a(注入口挿入孔13c)の順に並んでいるため、各処理の段階が進む毎に分注ユニットを一方向に移動させるだけでよく、非常に効率的な測定を行うことができる。
【0044】
なお、本実施の形態では前処理用ポット13aと1次反応処理用ポット13bの2つのポットを備えたものとしているが、必ずしもこのような態様に限定されるものではなく、前処理用ポット13aを設けないで、前処理については分析チップ10とは別の場所で行うようにしてもよい。
【0045】
図10に模式的に示すように、注入口12aは流路15を介して吸引孔12bに連通しており、吸引孔12bから負圧をかけることにより検体は注入口12aから注入されて流路15内に流れ吸引孔12bから排出される。
【0046】
また、流路15内には検体内の被検物質を検出するためのテスト領域TRおよびテスト領域TRの下流側に設けられたコントロール領域CRが形成されている。このテスト領域TR上には第1抗体が固定されており、いわゆるサンドイッチ方式により標識化された抗体を捕捉する。また、コントロール領域CRには参照抗体が固定されており、コントロール領域CR上に検体溶液が流れることにより参照抗体が蛍光物質を捕捉する。なお、コントロール領域CRは2つ形成されており、非特異吸着を検出するためのいわゆるネガ型のコントロール領域CRと、検体差による反応性の違いを検出するためのいわゆるポジ型のコントロール領域CRとが形成されている。これらのテスト領域TRおよび2つのコントロール領域CRが、2次反応領域として機能する。
【0047】
なお、テスト領域TRおよび2つのコントロール領域CRは直線状に配置されており、これにより検出装置において測定ユニットを移動させて光検出処理を自動的に行わせる場合に、測定ユニットを直線状に移動させるだけでよくなるので、本発明の分析チップに対応した自動検出装置の実現が容易となる。
【0048】
また、流路15は、テスト領域TRおよび2つのコントロール領域CRを含む直線状の検出領域部と、検出領域部の上流端から注入口12aまでを結ぶ導入部と、検出領域部の下流端から吸引孔12bまでを結ぶ排出部とからなる略コ字形状となっており、また注入口12aと吸引孔12bとの間に、前処理用ポット13aおよび1次反応処理用ポット13bが配置されている。前処理用ポット13a、1次反応処理用ポット13b、注入口挿入孔13c、および吸引孔挿入孔13dの並び方向と、直線状の検出領域部とは、互いに平行となる。このような配置態様とすることにより、分析チップ10の大きさを最小限に抑えることができる。
【0049】
図1に示すように、カバー部材13の検出領域部と重なる領域には4つの開口部13eが設けられている。この内の3つの開口部13eは上記のテスト領域TRおよび2つのコントロール領域CRに対応したものであり、これらの下流側にはさらに1つの開口部13eが設けられている。
【0050】
この、最下流の開口部13eは、検体溶液の先端が到達したかどうかをLEDの光透過によって見るためのものである。例えば、分析チップ10の下方から上方に向けてLEDによって光を照射し、上部でLEDの光量を検出すると、検体溶液が最下流の開口部13eの位置まで到達していない場合は、流路部材を構成する下側部材11と流路との境界および流路と上側部材12との境界で各々LED光の一部(約4%程度)が反射して最終的に約8%程度光量が低下し、検体溶液が最下流の開口部13eまで到達している場合は、検体溶液と透明樹脂の屈折率が近くLED光が反射しないため光量の低下をほとんど生じない。従って、検体溶液が最下流の開口部13eまで到達している場合には、到達していない場合と比較して、LEDの検出光量が約8%高くなる。このようにして、LEDの検出光量の変化により、検体溶液の先端が最下流の開口部13eまで到達したか(すなわち、検出領域部を全て通過したか)を知ることができる。
【0051】
また、このようにテスト領域TRや2つのコントロール領域CRおよびLED光検出部に対応した開口部13eを設けた場合、開口部13e付近のカバー部材13の厚さ分だけ流路部材の光検出部が低い位置となり、流路部材の光検出部が直接手で触れにくくなるため、流路部材に対する指紋付着防止効果を得ることができる。
【0052】
図6に示すように、カバー部材13の下面側には2つの掛合ピン13fが形成されている。また、流路部材の上側部材12には掛合ピン13fを挿入するとともに端辺において掛合ピン13fと掛合する掛合部12dが形成されており、下側部材11には掛合ピン13fを挿入する挿入孔11cが形成されている。このような構成とすることにより、下側部材11と上側部材12とを溶着により結合させて流路部材を製造し、この流路部材に後からカバー部材13を嵌合させるだけで分析チップ10を製造できる。そのため、各部材の形状を簡素化することができるとともに、製作性も良好であるため、製作コストを下げることができる。
【0053】
また、流路部材とカバー部材13とは別体であるため、流路部材の流路15内に固着させる試薬と、カバー部材13の前処理用ポット13aおよび1次反応処理用ポット13b内に固着させる試薬とは、乾燥時間や温度等の条件が異なる環境下で生成できるため、各々に最適な生成環境とすることができる。
【0054】
また、例えば下側部材11の下面等、分析チップ10の表面に、分析チップ10の個体差や製造年月日等の所定の情報を表すバーコードBCを表示するようにしてもよい。このような態様とすれば、上記の情報を用いて分析チップ10から取得された測定結果に対して分析チップの個体差に起因する誤差の補正処理や、品質管理等を行うことができるようになるので、分析チップの商品性を向上させることができる。
【0055】
次に、本実施の形態の分析チップ10を使用する蛍光検出装置について説明する。
図7は上記分析チップを用いた蛍光検出装置の一例を示す模式図、図8は上記蛍光検出装置の測定部の概略構成図、図9は上記蛍光検出装置のブロック図、図10は上記分析チップの模式図、図11は図9の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図、図12は図9の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図、図13は図9の光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図、図14は図9のデータ分析手段においてレート法により定量的または定性的な分析が行われる様子を示すグラフである。
【0056】
この蛍光検出装置1はたとえば表面プラズモン共鳴を利用した免疫解析装置である。蛍光検出装置1により分析を行う際、図7および図8に示すように検体が収容された検体容器CBと、検体および試薬を抽出する際に用いられるノズルチップNCと、分析チップ10がテーブル61上に装填される。なお、検体容器CB、ノズルチップNC、分析チップ10およびテーブル61はいずれも一度使用したら破棄される使い捨てのものである。そして、蛍光検出装置1は検体を分析チップ10のマイクロ流路15に流しながら検体内の被検物質について定量的もしくは定性的な分析を行う。
【0057】
この蛍光検出装置1は、検体処理手段20、光照射手段30、蛍光検出手段40、データ分析手段50等を備えている。検体処理手段20は、ノズルチップNCを用いて検体を収容した検体容器CB内から検体を抽出し、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成するものである。
【0058】
図8に示すように、検体容器CB、ノズルチップNCおよび分析チップ10が装填されたテーブル61は、装填位置から所定の測定位置まで移動する。また測定位置では、分析チップ10を挟んで、検体処理手段20が搭載された分注ユニット62と、光照射手段30および蛍光検出手段40が搭載された測定ユニット63が、前処理用ポット13a、1次反応処理用ポット13b、注入口挿入孔13c、および吸引孔挿入孔13dの並び方向に対して各々平行に移動し、下記で説明する所定の処理を自動的に実行可能に構成されている。
【0059】
分析の開始が指示された際、検体処理手段20は図11に示すようにノズルチップNCを用いて検体容器CBから検体を吸引する。その後、検体処理手段20は図12に示すように前処理用ポット13aのシール部材Sを穿孔し前処理用ポット13a内に対して検体の吐出・吸引を繰り返すことにより、処理用ポット13a内の試薬DCと検体とをよく混合・撹拌させた後、検体溶液を再びノズルチップNCを用いて吸引する。この動作を1次反応処理用ポット13bについても同様に行う。すると、検体内に存在する被検物質(抗原)Aに試薬内の特異的に結合する第2の結合物質である第2抗体B2が表面に修飾された検体溶液が生成される。そして、検体処理手段20は、検体溶液を収容したノズルチップNCを注入口12a上に設置した後、吸引孔12bに負圧を生じさせてノズルチップNC内の検体溶液を2次反応処理用の流路15内に流入させる。
【0060】
図13は光照射手段30および蛍光検出手段40の一例を示す模式図である。なお、図13においてはテスト領域TRに着目して説明するが、コントロール領域CRについても同様に励起光Lが照射されるものである。図9の光照射手段30は、分析チップ10の流路部材(下側部材11)の側面側から励起光Lを全反射条件となる入射角度でテスト領域TRの下側部材11(誘電体プレート)と金属膜16に照射するものである。蛍光検出手段40は、たとえばフォトダイオード、CCD、CMOS等からなり、光照射手段30の励起光Lの照射によりテスト領域TRから生じる蛍光Lfを蛍光信号FSとして検出するものである。
【0061】
そして、光照射手段30により励起光Lが下側部材11(誘電体プレート)と金属膜16との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜16上の試料S中にエバネッセント波Ewが滲み出し、このエバネッセント波Ewによって金属膜16中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜16表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。すると、結合した蛍光標識物質Fはエバネッセント波Ewにより励起され増強された蛍光を発生する。
【0062】
図9のデータ分析手段50は、蛍光検出手段40により検出された蛍光信号FSの経時変化に基づいて被検物質の分析を行うものである。具体的には、蛍光強度は蛍光標識物質Fの結合した量によって変化するため、図14に示すように時間経過とともに蛍光強度は変化する。データ分析手段50は、複数の蛍光信号FSを所定期間(たとえば5分間)において所定のサンプリング周期(たとえば5秒周期)で取得し、蛍光強度の時間変化率を解析することにより検体内の被検物質について定量的な分析を行う(レート法)。そして分析結果は、モニタやプリンタ等からなる情報出力手段4から出力される。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行なってもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 蛍光検出装置
4 情報出力手段
10 分析チップ
11 下側部材
12 上側部材
13 カバー部材
13a 前処理用ポット
13b 1次反応処理用ポット
15 流路
20 検体処理手段
30 光照射手段
40 蛍光検出手段
50 照射位置調整手段
50 データ分析手段
AS 凹凸
BC バーコード
CR コントロール領域
DS 乾燥試薬
TR テスト領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して前記被検物質の分析を行う光検出法に使用される分析チップであって、
検体溶液を貯留し、該検体溶液に対して所定の処理を行うためのポットと、
光応答性標識物質から生じる光を検出するための検出領域を有し、前記検体溶液が流下される流路と、
前記流路の上流側に設けられ、該流路に前記検体溶液を注入するための注入口と、
前記流路の下流側に設けられ、前記注入口から注入された前記検体溶液を前記下流側から吸引するための吸引孔とを備えたことを特徴とする分析チップ。
【請求項2】
前記検出領域が、エバネッセント波を生じさせるための励起光を入射させるための誘電体プレートと、該誘電体プレートの検体溶液接触面側の所定領域に設けられた金属層とを備えていることを特徴とする請求項1記載の分析チップ。
【請求項3】
前記ポットが、前記検体溶液に対して所定の前処理を行うための前処理用ポットを含むことを特徴とする請求項1または2記載の分析チップ。
【請求項4】
前記ポットが、前記検体溶液中の被検物質と光応答性標識物質とを結合させるための1次反応処理用ポットを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の分析チップ。
【請求項5】
前記前処理用ポットおよび前記1次反応処理用ポットの少なくともいずれか一方の内面に、所定の乾燥試薬が固着されていることを備えたことを特徴とする請求項3または4記載の分析チップ。
【請求項6】
前記乾燥試薬の固着部に、前記乾燥試薬の剥離を防止するための凹凸が形成されていることを特徴とする請求項5記載の分析チップ。
【請求項7】
前記前処理用ポットおよび前記1次反応処理用ポットの少なくともいずれか一方の開口部が、封止されていることを特徴とする請求項5または6記載の分析チップ。
【請求項8】
前記注入口、前記吸引孔および前記ポットが、直線状に配置されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の分析チップ。
【請求項9】
前記検出領域が、直線状に配置された複数の検出領域から構成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の分析チップ。
【請求項10】
下側部材と上側部材とからなり、前記下側部材と前記上側部材との間に前記流路が形成されるとともに、少なくとも前記検出領域に対する光の光路部分は透光性を有する流路部材と、
前記ポットが形成され、前記流路部材の前記上側部材側から嵌合するカバー部材とから構成されたことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の分析チップ。
【請求項11】
前記下側部材の下面および前記上側部材の上面の少なくともいずれか一方の面において、前記下側部材と前記上側部材とを超音波溶着するためのホーンの当接部分が平坦であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の分析チップ。
【請求項12】
前記カバー部材が、前記光検出領域と対向する領域に開口が設けられたものであることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の分析チップ。
【請求項13】
前記流路部材および前記カバー部材の少なくともいずれか一方の表面に、所定の情報を表すバーコードが表示されていることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項記載の分析チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−122977(P2012−122977A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276376(P2010−276376)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】