説明

分析容器と分析装置

【課題】微量の液と試薬を十分に攪拌して混合できる分析容器を提供することを目的とする。
【解決手段】液体試料9が流れ込む操作チャンバー5を有し、揺動動作中の加速度によって操作チャンバー5内の液体試料9を攪拌する分析容器であって、操作チャンバー5の内周壁の形状を、回転の動作中の内周側11から最外周位置5cに向かって先すぼまりの傾斜した壁面5a,5bで形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野や環境分野において、試料液の分析に必要な分析容器と分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液、血漿、尿など体液、あるいは汚水などの試料液中の成分を光学的に分析するために、特許文献1には、図5(a)(b)に示すように分析容器を用いた分析装置がある。
【0003】
この分析容器は、上面および下面に透過面を有している容器本体200と、試料が入った毛細管ホールダ201と、希釈液が入った希釈液容器202とで構成されている。なお、203は試薬である。
【0004】
その分析工程は、試料をサンプリングした毛細管ホールダ201を図5(a)に示すように容器本体200に差し込み、希釈液容器202から容器本体200へ希釈液204を供給する。次に、容器本体200を、毛細管ホールダ201の試料が希釈液204に浸かる図5(a)の状態から図5(b)のように試料が溶け込んだ希釈液204に試薬203が浸る状態、図5(b)の状態から図5(a)の状態になるように繰り返し揺動させて、試料が溶け込んだ希釈液に試薬を混ぜる。その後に容器本体200の角部205に溜まった混合液に光学的にアクセスして、透過光から成分を読み取るように構成されている。
【特許文献1】特開平3−46566号(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前記従来の構成では、前記回転もしくは揺動によって重力を用いて試料と希釈液の混合液を移動させて試薬と混合しようとしているにもかかわらず、分析容器中の液量が微量(数十μl程度)であるため、分析容器の内壁の表面と前記混合液との間に生ずる表面張力の作用によって、混合液が分析容器の内壁に引き付けられて動きにくい状態になっており、攪拌が不十分であるのが現状である。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、微量の液と試薬を十分に攪拌して混合できる分析容器及び攪拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1記載の分析容器は、液体試料が流れ込む操作チャンバーを有し、揺動動作中の加速度によって前記操作チャンバー内の前記液体試料を攪拌する分析容器であって、前記操作チャンバーの内周壁の形状を、前記揺動動作中の内周側から最外周位置に向かって先すぼまりの傾斜した壁面で形成したことを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2記載の分析容器は、請求項1において、前記操作チャンバーの内周壁の前記最外周位置の形状が、円弧形状であることを特徴とする。
本発明の請求項3記載の分析容器は、請求項1において、前記操作チャンバー内の内周面が撥水処理されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4記載の分析容器は、請求項1において、前記操作チャンバー内に界面活性剤を含んだ試薬を設けたことを特徴とする。
本発明の請求項5記載の分析装置は、試料液が採取された請求項1記載の分析容器がセットされる分析装置であって、回転軸芯を持ち前記分析容器を保持する回転体と、前記分析容器に遠心力が作用するように前記回転体を回転させる回転駆動部と、前記分析容器の前記操作チャンバー内の液体にアクセスして測定する測定手段とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項6記載の分析装置は、請求項5において、前記回転駆動部は、前記分析容器に保持された前記試料液に働く表面張力よりも大きい遠心力を発生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分析容器及び攪拌装置によれば、微量な液体試料と試薬を混合攪拌でき、さらに分析容器を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の分析容器と攪拌装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
図1は分析容器を示す。
分析容器1は、図1(a)に示すようにベース基板2とこのベース基板2の上面を閉塞するカバー基板3とで構成されている。ベース基板2には、液体収容チャンバー4と、操作チャンバー5と、液体収容チャンバー4と操作チャンバー5とを接続する連結流路6が形成されている。カバー基板3には空気の吸排を行う空気穴7a,7bが形成されている。
【0013】
ベース基板2とこのカバー基板3との貼り合わせに際しては、操作チャンバー5に予め試薬8がセットされている。液体収容チャンバー4には液体試料9が注入されている。
この分析容器1は図2に示すように、回転体としての傾斜した回転テーブル10の上に、液体収容チャンバー4が回転テーブル10の回転軸心11の側で、回転テーブル10の外周側に操作チャンバー5が位置するようにセットされる。回転駆動部12は、回転軸心11を中心に回転テーブル10を回転させて分析容器1に遠心力を作用させる。もしくは所定の角度で反復回転させて揺動動作を行う、例えばモータである。なお、図2ではカバー基板3の表記が省かれている。
【0014】
空気穴7a,7bは液体収容チャンバー4から操作チャンバー5へ遠心力により液体試料6を移送できるように空気の取り込みまたは排出を行う。これは、液体試料9が移動するには移動先から移動元に空気が流れ込む必要があるが、連結流路6は液体試料9で満たされており、空気穴7aがないと空気が移動できないためである。
【0015】
また、液体試料9が空気穴7aを通過して外に飛散することを防ぐために、空気穴7a,7bは操作チャンバー5よりも回転軸心11寄りに配置されている。
前記操作チャンバー5の形状は、連結流路6とは反対側の奥側(後述の外周)の幅が次第に狭くなる形状で、回転テーブル10の回転方向と交差する方向の壁面5a,5bが分析容器1の外周部分で交わって操作チャンバー5の先端部5cが構成されている。
【0016】
分析装置に上記の分析容器1をセットした分析工程に従って構成を説明する。
初めに、液体試料9は液体収容チャンバー4に保持されている。回転駆動部12が回転テーブル10を回転させると遠心力が生じ、連結流路6によって液体試料9が液体収容チャンバー4から操作チャンバー5へ移送される。移送された液体試料9は操作チャンバー5の先端部5cに流入し試薬8を浸す。回転駆動部12は揺動動作を行い、操作チャンバー5内で液体試料9と試薬8が混合される。
【0017】
ここで、揺動動作時に操作チャンバー5の混合液にかかる力を説明する。
図3はカバー基板3の表記を省いて揺動動作中の分析容器と操作チャンバー5に流入した液体試料9の液面13を表示した平面図、図4は図3における操作チャンバー5の壁面5a,5bを示したもので、操作チャンバー5の液体試料9には壁面5bから次のような力が作用する。壁面5aの場合も同様である。
【0018】
揺動動作時の壁面5bに接触している液体試料9には、回転の加減速時に起こる加速度Aと遠心力Bがかかっている。この二つの力を斜面上の力に置き換えると、加速度の分力Cと遠心力の分力Dに置き換わる。さらに、液体試料9には表面張力Eが加わり、このときの液体試料9にかかる力は、加速度の分力Cと表面張力Eと遠心力の分力Dの和になる。
【0019】
図4では表面張力Eと遠心力の分力Dの和よりも、加速度の分力Cの方が大きいため、液体試料9は加速度の分力Cの方向に動く。
したがって、傾斜した壁面5a,5bの条件としては、傾斜した壁面5a,5bの間(先端部5c)に溜まった液体試料9の液面13と傾斜した壁面5a,5bで形成される液面−壁面角θを、加速度の分力Cが遠心力の分力Dと表面張力Eの和より大きく、かつ内周方向を向くように設定することである。
【0020】
具体的には、液面−壁面角θが90°の場合、加速度の分力Cはゼロになり、遠心力の分力Dは遠心力Bと等しくなる。そして、液体試料9は外周方向に移動しようとするが、先端部5cに溜まっているため、液体試料9は動かない。また、液面−壁面角θが90°より小さい場合、加速度の分力Cと遠心力の分力Dは外周方向を向く。そして、液体試料9は外周方向に移動しようとするが、先端部5cに溜まっているため、液体試料9は動かない。
【0021】
これに対してこの実施の形態では、液面−壁面角θが90°より大きく形成されているため、表面張力Eと遠心力の分力Dの和よりも加速度の分力Cの方が大きい場合に、液体試料9は加速度の分力Cの方向に動くことができる。なお、液面−壁面角θの角度が90°より大きくなるほど、小さな加速度で攪拌できる。
【0022】
さらに、傾斜した壁面5a,5bの長さは液体試料9が揺動動作時に十分に動けるために、液面13よりも内周方向に延びている必要がある。
このように本実施の形態においては、操作チャンバー5の外周方向に先端部5cが形成されるように所定の角度で広がる傾斜した壁面5a,5bを形成することにより、回転方向に揺動動作時に液体試料9が操作チャンバー5内で十分に動くことができ、かつ少ない液量でも液体試料9に試薬8が十分に浸かる構成をとることができるため、液体試料9が微量であっても試薬8を十分に溶解し混合することができる。
【0023】
また、先端部5cは尖っていると液体試料9が先端にいくらか付着し、揺動動作を行っても動かないため、角を取り除き、先端部5cを曲面とするとなお良い。具体的には、操作チャンバー5の先端部5cのR寸法は、深さ12の3mmに対して、R半径が1mm〜3mmが良好であった。なお、これは液量やチャンバーの深さや形状や表面状態に応じて任意に変更が可能である。
【0024】
さらに効率よく攪拌を行うためには、操作チャンバー5の壁面5a,5bに撥水処理を行う。撥水処理の方法として、操作チャンバー5内に撥水剤をコーティング、蒸着させる方法がある。また、撥水効果を得る方法として、ベース基板3の材質にポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素樹脂等の撥水性材料を用いることが有効である。
【0025】
特に、傾斜した壁面5a,5bとその近辺に撥水処理を行うことで、操作チャンバー5の壁面と液体試料9の表面張力Eが下がり、より少ない加速度Aで攪拌を行うことができる。
【0026】
さらに、試薬8内に界面活性剤を含めていることで、操作チャンバー5の壁面と液体試料9の表面張力Eが下がり、より少ない力で攪拌できる。
さらに、液体試料9内に界面活性剤を含めていることで、操作チャンバー5の壁面と液体試料9の表面張力Eが下がり、より小さな加速度Aで攪拌できる。
【0027】
図2において分析装置100は、次のように構成されている。
この分析装置100は、回転テーブル10を駆動する回転駆動部12と、分析容器1内の溶液を光学的に測定するための光学測定手段14と、回転テーブル10の回転速度や回転方向および光学測定手段の測定タイミングなどを制御する制御手段15と、光学測定手段14によって得られた信号を処理し測定結果を演算するための演算部16と、演算部16で得られた結果を表示する表示部17とで構成されている。光学測定手段14には、操作チャンバー5の先端部5cにレーザー光を照射するためのレーザー光源18と、レーザー光源18から照射されたレーザー光のうち、分析容器1を通過した透過光の光量を検出するフォトディテクタ19とを備えている。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明にかかる分析容器は、微量な液体試料を分析する際に必要な分析試薬との混合攪拌ができる方法を有し、分析機器のなかでも、微量な液体試料を分析する装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1における分析容器の正面図
【図2】本発明の実施の形態1における攪拌装置の構成図
【図3】本発明の実施の形態1における操作チャンバーの斜視図
【図4】本発明の実施の形態1における揺動動作時の液体試薬にかかる力を示した図
【図5】従来例の説明図
【符号の説明】
【0030】
1 分析容器
2 ベース基板
3 カバー基板
4 液体収容チャンバー
5 操作チャンバー
5a,5b 壁面
5c 操作チャンバー5の先端部
6 連結流路
7a,7b 空気穴
8 試薬
9 液体試料
10 回転テーブル(回転体)
11 回転軸心
12 回転駆動部
13 液面
14 光学測定手段
15 制御手段
16 演算部
17 表示部
18 レーザー光源
19 フォトディテクタ
A 加速度
B 遠心力
C,D 分力
E 表面張力
θ 液面−壁面角
100 分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料が流れ込む操作チャンバーを有し、揺動動作中の加速度によって前記操作チャンバー内の前記液体試料を攪拌する分析容器であって、
前記操作チャンバーの内周壁の形状を、前記揺動動作中の内周側から最外周位置に向かって先すぼまりの傾斜した壁面で形成した
分析容器。
【請求項2】
前記操作チャンバーの内周壁の前記最外周位置の形状が、円弧形状である
請求項1に記載の分析容器。
【請求項3】
前記操作チャンバー内の内周面が撥水処理されている
請求項1記載の分析容器。
【請求項4】
前記操作チャンバー内に界面活性剤を含んだ試薬を設けたことを特徴とする
請求項1記載の分析容器。
【請求項5】
試料液が採取された請求項1記載の分析容器がセットされる分析装置であって、
回転軸芯を持ち前記分析容器を保持する回転体と、
前記分析容器に遠心力が作用するように前記回転体を回転させる回転駆動部と、
前記分析容器の前記操作チャンバー内の液体にアクセスして測定する測定手段と
を有する分析装置。
【請求項6】
前記回転駆動部は、前記分析容器に保持された前記試料液に働く表面張力よりも大きい遠心力を発生させることを特徴とする
請求項5記載の分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate