説明

分析対象の検出のための生物学的アッセイの改良

【課題】従来の方法に比較してシグナルのバックグラウンドが有意に低下した、試料中の分析対象を検出するための蛍光に基づく方法であり、核酸を金属または半金属表面に効率的に結合させる方法を提供する。
【解決手段】試料に接触する反射表面を提供し、ここで分析対象は試料中に存在する場合、蛍光色素で標識されており;蛍光色素を励起させる波長の光を表面に照射し;そして、試料中の分析対象の存在の指標として表面から生じる蛍光放射光を検出する、ことを含んでなる上記方法、及び、金属または半金属表面に核酸を結合させる方法であって、核酸を含有する溶液を提供し;溶液中で核酸を変性させ;溶液を金属または半金属表面に適用し;そして、溶液を表面上で乾燥させることにより核酸を表面に結合させる、ことを含んでなる上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分析対象をアッセイする生物学的方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に分析対象の検出のための生物学的アッセイは、分析対象(例えば、核酸、タンパク質、ホルモン、脂質、または細胞)へのシグナル生成部分の付加を含む。蛍光に基づくバイオアッセイでは微弱な蛍光シグナルの検出が必要とされる。典型的なアッセイでは、分析対象をスライドガラスやガラスチップのような固体基体上に付着させる。生化学的処理および蛍光染色を行った後、スライドを蛍光顕微鏡のような光学機器で分析する。一定の波長の光をスライドに適用し、付着させた生体物質から生じる蛍光放射光をシグナルとして収集する。
【0003】
透明ソーダ石灰およびホウケイ酸ガラスは、蛍光で標識した試料を保持する基体として一般に使用される。しかしながら、これらの物質の多くは有意な自己蛍光を示し、測定可能な吸光度を有し、可視領域にわたって蛍光放射光を生じる。典型的なソーダ石灰スライドガラスは、一般に使用される蛍光色素の層に相当する、1x109蛍光体/cm2より高い表面密度のバックグラウンド蛍光を生じる。拡散光、レイリー散乱、およびラマン散乱のような他の起源から生じるノイズを伴うこのバックグラウンド蛍光は、分析対象から生じる微弱な蛍光シグナルの検出を不明瞭とし、アッセイの感度を限定する。
【0004】
更に、核酸検出のための多くの蛍光アッセイでは、化学リンカーを介して核酸を固相支持体に結合させる。それらのリンカーはしばしば自己蛍光を有し、バックグラウンド蛍光を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は生物学的アッセイの向上を特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある観点では、本発明は、従来のアッセイに比較してシグナルのバックグラウンドが有意に低下した蛍光に基づくアッセイを特徴とする。これらのアッセイは以下の段階を含む:(i)分析対象(例えばタンパク質、核酸、多糖類、脂質、または細胞)を含有する試料と接触する表面を有する不透明ガラス支持体を提供し、ここで分析対象は試料中に存在する場合、蛍光色素で標識されており;(ii)蛍光色素を励起する波長の光を表面に照射し;そして(iii)試料中の化合物の存在の指標として表面から生じる蛍光放射光を検出する。ここで使用するところの“不透明ガラス支持体”とは、アッセイに使用される蛍光色素の励起光および放射光を透過しないガラス支持体をいう。
【0007】
上記のアッセイにおいて、不透明ガラス支持体の代わりに反射表面を使用することができる。“反射表面”とは、入射光を表面に垂直に照射した場合、表面が入射光の少なくとも約15%(例えば少なくとも25%、50%、75%、または90%)を反射し、20%未満(例えば10%、5%、または1%未満)の光を透過することをいう。反射表面を使用するアッセイでは、励起光をある角度で、すなわち垂直ではなく表面に照射することができる。例えば、反射表面は金属(例えばクロムまたはアルミニウム)表面、または半金属(例えばシリコン)表面であってもよい。
【0008】
本発明の蛍光アッセイでは、分析対象と特異的に結合し、表面に固定化された捕獲プローブを介して、分析対象を表面に結合させることができる。
別の観点では、本発明は、核酸を金属または半金属表面に効率的に結合させる方法を特徴とする。これらの方法は以下の段階を含む:(i)所望の核酸を含有する溶液を提供し;(ii)溶液中で核酸を変性させ;(iii)金属(例えばクロムまたはアルミニウム)または半金属(例えばシリコン)表面に溶液を適用し;そして()溶液を表面上で乾燥させることにより核酸を表面に結合させる。これらの方法では、pHが少なくとも約11であるアルカリ溶液(例えばNaOH溶液)中で、または核酸を変性させるに十分な温度および時間で加熱することにより、核酸を変性させることができる。必要により顕微鏡用固定媒体、例えばGel/MountTM(Biomeda社、Foster City、CA)を金属または半金属表面に適用して、表面への核酸の結合を向上させることができる。
【0009】
別に定義しない限り、ここで使用する技術的および科学的用語は全て、本発明の属する分野で当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。代表的な方法および物質を以下に記載するが、ここに記載するものと同様または同等の方法および物質を本発明の実施または試験に使用することができる。ここに記載する全ての出版物および他の参考文献は、その全体を本明細書の一部としてここに引用する。矛盾が生じる場合は、定義を含み、本明細書が優先する。物質、方法、および実施例は単に例証であり、制限を意図するものではない。
【0010】
本発明の他の特徴および利点は以下の詳細な説明および上記の特許請求の範囲から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、分析対象であるDNAの支持体としてクロムでコーティングしたソーダ石灰スライドガラスを使用した蛍光アッセイを示す図式である。
【図2】図2は、GEL/MOUNTTM(耐久水性固定媒体(permanent aqueous mounting medium)。Biomeda社(Foster City、CA)製)による処理でクロムチップへのDNA、特に短鎖DNAの結合が向上することを示すグラフである。Y軸は、GEL/MOUNTTMで処理したDNAスポットから生じるシグナルと、2XSSCで処理した対照DNAスポットから生じるシグナルの比率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は(i)バックグラウンド蛍光が従来の方法に比較して有意に低下した改良型蛍光バイオアッセイ法、および(ii)固相支持体に核酸を結合させるための改良法を特徴とする。
【0013】
蛍光バックグラウンドを低下させる方法
蛍光標識が吸収および放射する波長領域において不透明な基体(例えば黒色ガラス)上で、蛍光で標識した分析対象を検出する。基体の不透明性により、基体内への励起光の透過、および反射する蛍光が実質的に低下する。基体内部からのレイリーおよびラマン散乱も防止されるであろう。更に、基体の側面および裏面上の汚染および粉塵は実際のシグナルより強度のかなり高いバックグラウンドを生じうるが、これらは検出されない。基体下部からの拡散光由来のバックグラウンドも低下または除去される。従って、この種の基体からのバックグラウンドノイズは、従来の基体(例えばソーダ石灰ガラス)から生じるものより有意に低い。
【0014】
基体は蛍光を有しないか、または低度の自己蛍光を有するのが好ましい。基体物質の化学的および物理的特性もアッセイに適合したものであるべきである。好適な物質には、着色または不透明ガラス、および不透明のプラスチック系の物質があるが、それらに限定されるものではない。代表的な着色ガラスは、Schott M−UG−2、M−UG−6、UG−1、UG−11、ND、RG715、RG9、RG780、ND−1、およびND−10(ドイツ);そしてCorning 2030、2540、2550、2600、5840、5860、5874、および9863である。基体はスライド、ウェーハー、またはチップのような形態にすることができる。
【0015】
あるいはまた、基体の分析対象を受容する側の表面は反射性のものであり、例えば半金属もしくは金属の薄いフィルムでコーティングした固相支持体の表面、または金属もしくは半金属プレートの光沢表面であってもよい。基体が励起光および放射光を透過する場合でも、反射表面は励起光および蛍光放射光を基体に透過させない。適当な角度で表面を照射することにより、励起光は収集レンズ(collection optics)から逸れて反射し、収集レンズからの自己蛍光が除去される;従って、より効率の低いフィルターを使用して自己蛍光を吸収させることができる。
【0016】
コーティング物質の化学的および物理的性質がアッセイに適合し、分析対象が効率的に結合される限り、種々の反射コーティングを使用することができる。好適な基体には、例えばNanofilm社(Westlake Village、CA)製のクロムでコーティングされたガラスのような、ガラスリトグラフィーで使用されるコーティングされたガラス物質があるが、それに限定されるものではない。
【0017】
図1は、従来のスライドガラスの形状で、薄いクロムフィルム2でコーティングした平滑な表面を有する基体1を示す。蛍光標識したDNAフラグメント3を無作為に、または位置を特定できるように(addressably)配列させて表面上に付着させる。付着させた分子を生化学的に処理した後、必要により、適当なpHを提供する液体媒体5をスライド上に適用し、薄いカバーガラス6で被覆する。液体媒体は必要により、蛍光色素の酸化を防止する組成物である抗退色剤を含有することができる。代表的な抗退色剤は、Aldrich Chem.Co.(Milwaukee、WI)製のp−フェニレンジアミンである。また液体媒体は、例えば4’,6−ジアミジノ−2−フィルインドール(“DAPI”)のような対比染色剤を含有することができる。次いで、励起光をスライドのクロムコーティング面に照射する蛍光イメージングシステムでスライドを分析する。蛍光放射光の収集レンズ4を、照射する表面のすぐ上に、コーティングした表面に垂直な光学軸で配する。そのような配置により収集レンズへ蛍光が反射し、レンズで検出される蛍光シグナル強度が約二倍になる。励起光をある角度で適用し、反射光が収集レンズに入らないようにする。また、ミラー7を使用して励起光の強度を向上することもできる。
【0018】
この新規方法は、蛍光イムノアッセイ、蛍光インサイチオハイブリダイゼーション、比較ゲノムハイブリダイゼーション(“CGH”)、ゲノセンサー系(genosensor-based)CGH(“gCGH”;例えばKallioniemiら,Science,258:818-821,1992を参照すること)、分子芝(molecular lawn)(米国特許出願第08/768,177号および08/991,675号を参照すること)、または一般的なDNAチップを使用するアッセイ(例えば米国特許第5,445,934号、5,510,270号、および5,556,752号を参照すること)のような種々の蛍光アッセイに使用することができる。
【0019】
十分確立された方法を使用して、分析対象核酸または分析対象核酸に特異的な捕獲プローブを、ガラスまたは金属でコーティングした表面に結合させることができる。例えばJoosら,Analytical Biochemistry247:96-101,1997;Maskosら,Nucleic Acids Research20:1679-1684,1992;Fodorら,Science251:767-773,1991;Lowe,Chemical Society Reviews24:309-317,1995;Guoら,Nucleic Acids Research22:5646-5465,1994;そしてBischoff,Analytical Biochemistry164:336-344,1987を参照されたい。ガラス表面に使用できる結合方法はシリコン基体にも使用できる。これを行うためには、シリコン基体を加熱して表面層を酸化し、表面にスライドガラスと同様の化学的性質をもたせる。
【0020】
核酸を金属表面に結合させるために、第一のシラン化合物(例えばGelestのWAS 7021(Tullytown,PA))、次いで第二のシラン化合物(例えば(3−グリシドオキシプロピル)−トリメトキシシラン)で表面を処理することができる。第一のシランコーティングは金属表面に結合し、第二のシランコーティングは、好適に修飾された核酸(例えばアミノ化した核酸)を結合させるための反応基(例えばエポキシ基)を供する。好ましくは、これら二つのシランコーティングは、最も頻繁に使用される波長領域で透過性である。
【0021】
分析対象タンパク質(例えば細胞表面タンパク質)を多くの標準的な方法のいずれかによって固相支持体に結合させることができるが、それらの方法には直接吸着、または表面上の反応基との化学結合がある。例えば、固相表面を誘導化して活性アミン基を生成し;次いでアミン−およびスルフヒドリル−反応性ヘテロ2官能基クロスリンカー(例えばスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、または他のPierce(Rockford、IL)製 DOUBLE−AGENTTMクロスリンカー)を使用して、ポリペプチド中の遊離のシステイン基を固相表面上のアミノ基に結合させることができる。ホモ2官能基クロスリンカーも同様に使用することができる。
【0022】
分析対象は、蛍光色素(例えばフルオレセイン、フィコエリトリン、テキサスレッド、またはアロフィコシアニン)または蛍光反応を触媒する酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ)のような検出可能な標識成分に(直接または間接的に)共有または非共有結合させることができる。一例として、分析対象核酸を蛍光色素に結合させたプローブで標識してもよい;またホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートさせた特定の抗体で抗原を標識することができる。
【0023】
以下に記載する実験は、新規蛍光バイオアッセイ法の実施態様のいくつかを例証する。
蛍光で標識された化合物から放射されるシグナルの定量は、Vysis,Inc.(Downers Grove、IL)で開発された広域蛍光イメージングシステムを使用して実施した。イメージングシステムは、450W キセノンアークランプ(SLM Instruments Inc.、Champaign Urbana、IL)、電荷結合素子検出器(CH200、Photometrics、Tucson、AR)、および通常使用される3つの蛍光色素−−青にDAPI、緑にフルオレセインイソチオシアネート(“FITC”)、および赤にテキサスレッド(“TRED”)用のフィルターセット(Chroma Technology、Brattleboro、VT)からなる。イメージングシステムは、Power Macintosh 7100/80で、イメージング取り込み(acquisition)/分析ソフトウェア(IpLab、Signal Analytics,Corp.、Vienna、VA)を使用して制御した。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1は、一般的に使用されるソーダ石灰スライドガラス(VWR Scientific Products、West Chester、PA)に対する未処理の物質の相対バックグラウンド蛍光を表す。相対バックグラウンド蛍光には光散乱、拡散光、およびフィルターの瑕疵(imperfection)からの寄与があるが、電子ノイズは全て控除した。結果は、黒色ガラススライドおよび金属でコーティングしたスライドでは、バックグラウンドが溶融シリカに対してそれぞれ4倍および10倍減少することを示した。
【0026】
別の実験で、フルオレセインコンジュゲートビーズ(Flow Cytometry Standards Corp.、Hata Rey、PR)を一般に使用される抗退色媒体(カタログ番号824-28、Flow Cytometry Standards Corp.)と混合し、スライドとカバーガラスの間に挟んで、蛍光強度を測定した。イメージの定量分析により、Cr−コーティングスライドの総バックグラウンドは通常のガラスのわずか21%であることが明らかとなった。総バックグラウンドには光散乱、拡散光、およびフィルターの瑕疵だけでなく、固定媒体およびカバーガラスからの自己蛍光も含まれる。特に、正味のシグナル強度は2倍であり、これは入射光が反射して蛍光体を2度通過し、また、反射した蛍光は検出(detection optics)に入らないからである。
【0027】
別の実験から、新規蛍光アッセイ法を使用してDNA複合体分析対象を検出できることが示された。この実験では、表1に示すスライド物質をゲノセンサー系比較ゲノムハイブリダイゼーション(“gCGH”)のアレイ支持体(すなわちチップ)として使用した。gCGHの技術は標準的なCGHを改良して開発されたものであり、試料組織由来のDNAを1つの蛍光体(例えばTRED)で標識し、別の蛍光体(例えばFITC)で標識した等量の参照DNAと混合し、次いでスライドガラスに付着させた分裂中期染色体と共ハイブリダイズさせる。gCGHでは、中期染色体の代わりに、アレイ形式でチップ表面に固定化されたクローン化DNAフラグメントを使用する。ハイブリダイゼーションの後、標的のスポットを洗浄し、DAPIで対比染色して全てのDNAを青色に染色する。次いでスライドを多色蛍光イメージングシステムで分析する。イメージ分析ソフトウェアを用いてDAPIの蛍光によって標的スポットの存在を測定し、次いで赤色と緑色の蛍光の比率を測定して試料と対照DNAのハイブリダイゼーションの相対量を測定する。
【0028】
Cr−コーティングスライドガラスはNanofilm社製のCr−コーティングガラスで作成した。以下の段階を実施してDNAを結合させるための金属表面を調製した。これらの段階はまた、Al−コーティング表面のような他の金属表面にも適用できる。要約すれば、金属表面をシレスキオキサン(silesquioxane)オリゴマー(Gelest,Inc.)の2%水溶液で、室温で10分間処理し、水で洗浄した。次いで、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン(“GPTS”;Gelest,Inc.)の5%水溶液を用いて、室温で2時間、シラン処理をした。その後第1級アミンをエポキシ基と反応させて、処理した表面にアミノ化したDNAを結合させた。
【0029】
標準的な条件下でCOLO 320(American Type Culture Collection(“ATCC”)#CCL−220)またはHTB−18(ATCC#HTB−18)細胞から抽出したDNAを実験に使用した。ハイブリダイゼーション混合液20μl中に、Spectrum Redで標識したヒト参照DNA(すなわちヒト血液DNA)プローブ200ng、Spectrum Greenで標識した被験DNAプローブ(COLO320またはHTB−18細胞由来)200ng、2X SSC、10% 硫酸デキストラン、1μg/μl Cot1 DNA、1μg/μl サケ精子DNA、および5X Denhardts溶液を含有させた。混合液を37℃で4時間インキュベートした後、標的DNAを固定化させておいたチップに添加した。
【0030】
チップ上でのハイブリダイゼーションは37℃で一晩実施した。2X SSCを用いて室温で5分間、2X SSCおよび50%ホルムアミドを用いて40℃で30分間、更にその後、2X SSCを用いて室温で10分間、チップを洗浄した。次いで、チップを暗所において室温で乾燥した。イメージングに先立ち、10μlのGEL/MOUNTTMをチップ上のアレイ部分に配し、次にこれをカバーガラスで被覆した。積算時間20秒でクロムチップをイメージングした。比較のために、標準的なエポキシシラン化学を経てDNAをソーダ石灰ガラスチップ(すなわちスライドガラス)に結合させ、同一条件下でハイブリダイズさせた;そしてガラスチップを10秒間イメージングした。結果は、Cr−コーティングスライドでは総バックグラウンドが4倍より多く減少することを示した。暗色ガラススライド、シリコンスライド、およびAl−コーティングスライドでも同様の結果が得られた。
【0031】
Cr−コーティング表面を使用する利点は、適当なハイブリダイゼーション溶液であれば、クロムの疎水性により、チップ表面から未結合のプローブを除去するのが非常に容易なことである。適当なハイブリダイゼーション溶液は、クロム表面の疎水性を変化させうる界面活性剤を含有しないものであればよい。結果として、プローブの非特異的結合による蛍光バックグラウンドは減少するか、あるいは除去されることさえある。非特異的結合が減少することにより特異的結合に利用可能なプローブが増加するため、ハイブリダイゼーションの効率も向上しうる。
【0032】
基体への核酸の結合方法
本発明は、核酸を固相表面に結合させるための迅速で非常に簡便な方法を提供する。新規結合法では、核酸を基体表面、例えば金属または半金属表面に非共有結合させる。これを行うためには、変性させた核酸を含有する溶液を基体に適用し、室温またはオーブンで乾燥させる。溶液のpHを約11.0以上に上げることにより核酸を変性させることができる。種々のアルカリ物質、例えばNaOH、KOHなどのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物を使用して溶液を高pHにすることができる。
【0033】
あるいはまた、加熱により、例えば核酸を含有する溶液を95℃以上で2〜5分間加熱することにより、核酸を変性させることができる。次いで、変性させた核酸を含有する溶液を金属または半金属表面に適用して乾燥させる。
【0034】
変性した一本鎖核酸に存在する静電力は、一般に基体へ効率的に結合するのに十分であると考えられる。上記の方法は長鎖ポリヌクレオチド(例えば約550ヌクレオチド(“nt”)より長いもの)について特に良く機能する。
【0035】
約550ntより短いポリヌクレオチドの結合を向上するために、基体表面にスポットした核酸を、GEL/MOUNTTMまたはGEL/MOUNTTM均等物のような顕微鏡用固定媒体で処理することができる。特定の理論に拘束されることは望まないが、GEL/MOUNTTMはポリマー分子を含有しており、容量排出剤(volume displacement reagent)として作用し、基体表面に核酸をより近接させると考えられる。あるいはまた、この固定剤は核酸を互いにより接近させ、それによって基体表面に直接結合していない核酸を捕捉する核酸のネットワークの形成を促進するのかもしれない。核酸に対して同様の効果を有する試薬のいずれも使用できる。
【0036】
従来の核酸の結合法では、ほとんどの化学リンカーが自己蛍光を有するため、バックグラウンド蛍光が生成されることが知られている。新規結合法では、そのようなリンカーを使用しないことによりこの問題を回避する。
【0037】
一つの実施例では、水または100mM NaOHに溶解した0.9μg/μlの未修飾かつ未消化のプラスミドDNA(6kb)を未処理のCr−コーティングチップ上に手作業でスポットして乾燥した。2X SSCで洗浄した後、DNAをGEL/MOUNTTM/DAPIで染色し、DAPIの蛍光シグナルを測定した。結果は、未変性のDNA、すなわち水に溶解したDNAのスポットは洗い出され;これに対し、変性したDNA、すなわちNaOH処理したDNAのスポットは十分結合し、NaOH変性条件下で生成した49kbの長さのラムダDNAのスポットと同様のDAPI強度であることを示した。ニックトランスレーション処理をしたプラスミドプローブを使用し、標準的なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下で、結合させたDNAへの特異的ハイブリダイゼーションが観察された。
【0038】
上記のアルカリ法が短鎖DNA分子にも十分機能するかどうかを試験するために、平均約500ntの長さである、NaOHで処理して超音波処理をしたラムダDNAを、ここに記載したようにCr−コーティングチップにスポットした。2X SSCで洗浄した後、スポットしたDNAをGEL/MOUNTTM/DAPIで染色し、蛍光シグナルを測定した。結果は、DNAが洗浄後もなおチップに結合したままであることを示した。
【0039】
これらの結果は、新規方法によって得られるDNAのCr−またはAl−コーティング表面への結合が、従来の共有結合法によって得られる結合と同程度に過酷なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件に耐えることを示している。
【0040】
別の実施例で、DNAの結合およびハイブリダイゼーションに対するGEL/MOUNTTM処理の効果を試験した。超音波処理した種々の長さ(すなわち、それぞれ48kb、2.5kb、900nt、550nt、400nt、および300nt)のラムダDNAをこの実験に使用した。
【0041】
超音波処理したDNAを100mM NaOHに懸濁して上記のように未処理のクロムチップに結合させた。次いで15μlのGEL/MOUNTTMをDNAチップに添加し、室温で1時間インキュベートした。チップを2X SSCで洗浄し、DAPIで染色した。図2に示すデータは、GEL/MOUNTTM処理によりクロムチップへのDNA、特に短鎖DNA(例えば約300〜400ntの長さ)の結合が有意に向上することを示している。例えば、GEL/MOUNTTM処理した300ntのスポットからの青色DAPIシグナルは、相当するSSC−処理スポットから生じるものより7倍高いことが見出された。
【0042】
ハイブリダイゼーションに対するGEL/MOUNTTMの効果を試験するために、DNAチップをSpectrum greenで標識したラムダDNA20ngおよびSpectrum redで標識したラムダDNA20ngと共にインキュベートした。300ntまたは400ntの長さの標的DNAを含むスポットについて、GEL/MOUNTTM処理チップの蛍光シグナルは未処理のチップのものより4〜7倍高かった。
【0043】
他の態様
本発明について、その詳細な説明と関連して記載してきたが、上記の説明は例証を意図するものであり、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲を制限するものではない。
【0044】
他の観点、利点、および変更は下記の特許請求の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0045】
1 基体
2 クロムフィルム
3 DNAフラグメント
4 収集レンズ
5 液体媒体
6 カバーガラス
7 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の分析対象を検出する方法であって、
試料に接触する反射表面を提供し、ここで分析対象は試料中に存在する場合、蛍光色素で標識されており;
蛍光色素を励起させる波長の光を表面に照射し;そして、
試料中の分析対象の存在の指標として表面から生じる蛍光放射光を検出する、ことを含んでなる上記方法。
【請求項2】
分析対象が、分析対象に特異的に結合し、表面に固定化された捕獲プローブを介して反射表面に結合している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
分析対象が核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
反射表面が金属または半金属表面である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
金属表面がクロム表面である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
金属表面がアルミニウム表面である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
半金属表面がシリコン表面である、請求項4記載の方法。
【請求項8】
金属または半金属表面に核酸を結合させる方法であって、
核酸を含有する溶液を提供し;
溶液中で核酸を変性させ;
溶液を金属または半金属表面に適用し;そして、
溶液を表面上で乾燥させることにより核酸を表面に結合させる、ことを含んでなる上記方法。
【請求項9】
溶液のpHが少なくとも約11である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
溶液が水酸化ナトリウムを含有する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
核酸を変性させるに十分な温度および時間で溶液を加熱することにより核酸を変性させる、請求項8記載の方法。
【請求項12】
金属表面がクロム表面である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
金属表面がアルミニウム表面である、請求項8記載の方法。
【請求項14】
半金属表面がシリコン表面である、請求項8記載の方法。
【請求項15】
表面への核酸の結合を向上させるために金属または半金属表面に顕微鏡用固定媒体を適用することを更に含む、請求項8記載の方法。
【請求項16】
顕微鏡用固定媒体がGEL/MOUNTTMである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
励起光をある角度で表面に照射する、請求項1記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−46082(P2010−46082A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242578(P2009−242578)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【分割の表示】特願平11−148255の分割
【原出願日】平成11年5月27日(1999.5.27)
【出願人】(597060357)ヴァイシス・インコーポレーテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】VYSIS,INC.
【住所又は居所原語表記】3100 Woodcreek Drive,Downers Grove,Illinois 60515−5400,United States of America
【Fターム(参考)】