分析用具およびその製造方法
【課題】試料を移動させるための流路を備えた分析用具において、試料を安定して供給できるようにし、試料分析の再現性を向上させる。
【解決手段】基板1と、この基板1に設けられた第1および第2電極11,12と、第1開口部15aを有し、かつ基板1、第1電極11および第2電極12の各一部を、第1開口部15aを介して露出させた状態で第1および第2電極11,12を覆う絶縁膜13と、第1開口部15aに保持された試薬部14と、を備えた分析用具Xにおいて、絶縁膜13を、上記第1開口部15aにおける上記試料の移動方向終端において第1開口部15aに繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れて設けられた一対の第2開口部15bをさらに有するものとした。
【解決手段】基板1と、この基板1に設けられた第1および第2電極11,12と、第1開口部15aを有し、かつ基板1、第1電極11および第2電極12の各一部を、第1開口部15aを介して露出させた状態で第1および第2電極11,12を覆う絶縁膜13と、第1開口部15aに保持された試薬部14と、を備えた分析用具Xにおいて、絶縁膜13を、上記第1開口部15aにおける上記試料の移動方向終端において第1開口部15aに繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れて設けられた一対の第2開口部15bをさらに有するものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料(たとえば血液や尿などの生化学的試料)における特定成分(たとえばグルコース、コレステロールあるいは乳酸)を分析する際に使用される分析用具、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のグルコース濃度を測定する場合、簡易な手法として、使い捨てとして構成されたグルコースセンサを利用する方法が採用されている(たとえば特許文献1参照)。グルコースセンサとしては、たとえば図12ないし図14に示したグルコースセンサ9のように、血糖値の演算に必要な応答電流値を、作用極90および対極91を利用して測定できるように構成されたものがある。このグルコースセンサ9は、キャピラリ92において生じる毛細管力により血液を移動させ、血液と試薬とを反応させたときの電子授受量を応答電流値として測定できるように構成されたものである。試薬は、撥水性の高い絶縁膜93の開口部94において、多孔質固体状の試薬部95として基板96に保持されている。キャピラリ92は、基板96上に、スリット97aが形成されたスペーサ97を介して、カバー98を積層することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平8−10208号公報
【0004】
グルコースセンサ9は、次のようにして製造することができる。まず、図15から予想できるように、集合基板96A上に作用極90A、対極91A、絶縁膜93Aおよび試薬部95Aの組を複数形成する。次いで、集合基板96Aに対して、両面テープ97Aを介してカバー板98Aを積層して中間体を形成する。両面テープ97Aとしては、予め複数のスリット97Aaが形成されたものが用いられる。各スリット97Aaの幅寸法W′は、試薬部95A(開口部94A)の幅寸法W″よりも大きく設定される。これは、試薬部95Aを必要以上に大きくすると、図12ないし図14に示したグルコースセンサ9において、基板96とスペーサ97との接合部分に試薬部95が介在し、血液を導入したときに接合部分に血液が染み出す場合があるからである。最後に、中間体を切断することにより、図12ないし図14に示したようなグルコースセンサ9が形成される。
【0005】
このような製造方法においては、両面テープ97Aの位置合わせが不適切な状態で集合基板96Aに対してカバー体98Aが接合されてしまうと、図16に示したようにスリット97aの位置が目的部位からずれてしまい、キャピラリ92の内部においては、絶縁膜93が幅広く露出した部分が存在することとなる。このようなグルコースセンサ9では、絶縁膜93の部分において血液が移動しにくいのに対して、血液が試薬部95を積極的に移動しようとする。その結果、図17に示したように血液Bが絶縁膜93の部分を徐々に移動し、キャピラリ92の内部が血液で満たされるまでに時間がかかることがある。
【0006】
ところで、キャピラリ92における血液Bの移動速度(血液に作用する吸引力)は、カバー98の表面の濡れ性や試薬部95の溶解性に依存する。カバー98の濡れ性や試薬部95の溶解性は、通常、経時的あるいは温度依存的に低下する。その一方、図13に良く表れているように基板96の表面においては、絶縁膜93に開口部94が形成されていることよって、段差99が生じる。そのため、図17および図18(a)に示したように、キャピラリ92に導入された血液Bは、キャピラリ92を移動する過程において段差99において停止することがある。このような現象は、キャピラリ92における吸引力の低下、すなわちカバー98の濡れ性や試薬部95(図12ないし図14)の溶解性の低下に伴って生じやすくなる。
【0007】
段差99において移動が停止した血液Bは、その状態のまま進行を停止することもあるが、図18(a)および図18(b)に示したように徐々に血液Bが移動し、あるいは血液Bが突然大きく移動してしまうことがある。血液Bの再移動現象が生じた場合、作用極90や対極91の周りに存在する電子伝達物質の量(濃度)が急激に変わるため、その場合には、図19に仮想線で示したように、測定される応答電流値が突然に大きくなってしまう。また、血液Bの再移動現象は、血糖値を測定する度に生じるわけではなく、血液Bの移動現象が生じるタイミングもグルコースセンサ9毎に一様でない。したがって、血液Bの再移動現象が生じ得るグルコースセンサ9では、測定ごとの応答電流値の測定再現性、ひいては演算される血糖値の再現性が悪くなってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとに考え出されたものであって、試料を移動させるための流路を備えた分析用具において、試料を安定して供給できるようにし、試料分析の再現性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記した課題を解決するために次の技術的手段を講じている。すなわち、本発明の第1の側面により提供される分析用具は、流路において試料を移動させるように構成された分析用具であって、基板と、この基板に設けられた第1および第2電極と、第1開口部を有し、かつ上記基板、上記第1電極および第2電極の各一部を、上記第1開口部を介して露出させた状態で上記第1および第2電極を覆う絶縁膜と、上記第1開口部に保持された試薬部と、を備えた分析用具において、上記絶縁膜は、上記第1開口部における上記試料の移動方向終端において上記第1開口部に繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れて設けられた一対の第2開口部をさらに有していることを特徴としている。
【0010】
絶縁膜は、たとえば基板、第1電極、および第2電極よりも撥水性が高いものとして形成される。試薬部は、流路に試料が供給されたときに溶解する多孔質固体状に形成するのが好ましい。流路は、たとえば毛細管力により試料を移動させるように構成される。
【0011】
本発明の第2の側面においては、流路において試料を移動させるように構成された分析用具を製造する方法において、板材の表面に第1および第2電極を形成する工程と、上記板材を覆うように絶縁膜を形成する工程であって、上記絶縁膜を、上記第1電極および第2電極の各一部を露出させる第1開口部、および上記第1開口部における上記試料の移動方向終端において上記第1開口部に繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れた一対の第2開口部を備えたものとして形成する絶縁膜形成工程と、上記開口部に試薬部を形成する工程と、上記板材と中間材とを接合する工程であって、上記中間材として、上記開口部における上記交差方向の寸法よりも大きな間隔を隔てて上記交差方向において互いに対向する一対の対向面を有するものを用い、かつ上記一対の対向面の間に上記試薬部を位置合わせして行われる工程と、上記中間材とカバー材とを接合する工程と、を含むことを特徴とする、分析用具の製造方法が提供される。
【0012】
絶縁膜は、基板、第1電極、および第2電極よりも撥水性が高いものとして形成するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るグルコースセンサの全体斜視図である。
【図2】図1に示したグルコースセンサの分解斜視図である。
【図3】図1のIII‐III線に沿う断面図である。
【図4】図1に示したグルコースセンサの端部を、カバーを取り除いた状態で示した平面図である。
【図5】図1に示したグルコースセンサの製造方法を説明するためのものであり、集合基板に作用極および対極を形成した状態を示す全体斜視図である。
【図6】図1に示したグルコースセンサの製造方法を説明するためのものであり、集合基板に絶縁膜を形成した状態を示す全体斜視図である。
【図7】図6の要部を拡大した平面図である。
【図8】図1に示したグルコースセンサの製造方法を説明するためのものであり、試薬部を形成した状態を示す要部を拡大した平面図である。
【図9】集合基板に対して、両面テープを介してカバー体を接合する工程を説明するための全体斜視図である。
【図10】図1に示したグルコースセンサの製造方法を説明するためのものであり、中間体の全体斜視図である。
【図11】集合基板に両面テープを貼着した状態を示す要部を拡大した平面図である。
【図12】従来のグルコースセンサの一例を示す全体斜視図である。
【図13】図12のXIII−XIII線に沿う断面図である。
【図14】図12に示したグルコースセンサの端部を、カバーを取り除いた状態で示した平面図である。
【図15】従来のグルコースセンサを製造する方法を説明するための斜視図である。
【図16】従来のグルコースセンサの製造方法における課題を説明するための図14に相当する平面図である。
【図17】図16に示したグルコースセンサにおける血液の移動過程の一例を説明するための図14に相当する平面図である。
【図18】図16に示したグルコースセンサにおける血液の移動過程の一例を説明するための図14に相当する平面図である。
【図19】従来のグルコースセンサにおいて測定される応答電流値の経時的変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0015】
図1および図3に示したグルコースセンサXは、使い捨てとして構成されたものであり、濃度測定装置(図示略)に装着して血糖値を測定するために使用するものである。このグルコースセンサXは、長矩形状の基板1に対して、スペーサ2を介してカバー3を積層した形態を有している。グルコースセンサXにおいては、各要素1〜3により、基板1の長手方向に延びるキャピラリ4が規定されている。キャピラリ4は、導入口40から導入された血液を、毛細管現象を利用して基板1の長手方向(図中のN1方向)に移動させ、導入された血液を保持するためのものである。
【0016】
スペーサ2は、基板1の上面10からカバー3の下面30までの距離、すなわちキャピラリ4の高さ寸法を規定するためのものであり、たとえば両面テープにより構成されている。このスペーサ2には、先端部が開放したスリット20が形成されている。スリット20は、キャピラリ4の幅寸法を規定するためのものであり、スリット20における先端の開放部分は、キャピラリ4の内部に血液を導入するための導入口40を構成している。スリット20は、基板1の短手方向(N3,N4)に間隔を隔てて対面した一対の対向面20aを有している。
【0017】
カバー3には、排気口31が形成されている。排気口31は、キャピラリ4の内部の気体を外部に排気するためのものである。カバー3は、キャピラリ4を臨む面の親水性が高いものとなっている。このようなカバー3は、たとえばカバー3の全体をビニロンや高結晶化PVAなどの濡れ性の高い材料により形成し、あるいはキャピラリ4を臨む面に親水処理を施すことにより形成されている。親水処理は、たとえば紫外線を照射することにより、あるいはレシチンなどの界面活性剤を塗布することにより行われる。
【0018】
図2および図3によく表れているように、基板1は、たとえばPETなどの絶縁樹脂材料により形成されており、その上面10に、作用極11、対極12、絶縁膜13、および試薬部14が形成されたものである。作用極11および対極12は、全体として基板1の長手方向(図中のN1,N2方向)に延びているとともに、端部11a,12aが基板1の短手方向(図中のN3,N4方向)に延びている。一方、作用極11および対極12の端部11b,12bは、濃度測定装置(図示略)に設けられた端子に接触させるための端子部を構成している。作用極11および対極12は、たとえば導電性カーボンインクを用いたスクリーン印刷により形成することができる。
【0019】
絶縁膜13は、基板1の表面や作用極11および対極12に比べて疎水性が高く、その表面での接触角が、たとえば100〜120度となるように形成されている。このような絶縁膜13は、たとえば撥水性の高い材料を含んだインクを塗布した後に乾燥させることにより、あるいは撥水剤を含む紫外線硬化樹脂を硬化させることにより形成することができる。図2および図4に良く表れているように、絶縁膜13は、作用極11および対極12の端部11a,12a,11b,12bが露出するようにして作用極11および対極12の大部分を覆っている。この絶縁膜13は、第1開口部15a、一対の第2開口部15bおよび一対の第3開口部15cを有している。
【0020】
第1開口部15aは、試薬部14を形成するための領域を規定するものであり、基板1の長手方向(図中のN1,N2方向)に延びる矩形状に形成されている。この第1開口部15aは、作用極11および対極12の端部11a,12aを露出させており、その幅寸法W1は、スペーサ2におけるスリット20の対向面20aの間隔W2に比べて小さくされている。
【0021】
一対の第2開口部15bは、その間に第1開口部15aの終端としてのストッパ部16を介在させた状態で存在するとともに、第1開口部15aに繋がっている。これらの第2開口部15bは、第1開口部15aに対して、基板1の短手方向(図中のN3,N4方向)にオフセットした部分を有している。ストッパ部16の縁16aは、カバー3の排気口31の縁31aよりも導入口40側に位置している。ストッパ部16の縁16aの寸法は、たとえば第1開口部15aにおける短手方向(図中のN3,N4方向)の寸法の60〜95%に長さに設定されている。
【0022】
第3開口部15cは、第1開口部15aに対して短手方向(図中のN3,N4方向)に隣接した部位において、基板1の長手方向(図中のN1,N2方向)に延びるスリット状に形成されている。この第3開口部15cは、作用極11、対極12および基板1の一部を露出させている。したがって、第3開口部15cの内部には、絶縁膜13よりも親水性の高い領域が規定されている。図示した例では、一対の第3開口部15cは、双方ともにキャピラリ4の内部を臨んでいる。
【0023】
試薬部14は、絶縁膜13の第1開口部15aにおいて、作用極11および対極12の端部11a,12aどうしを橋渡すようにして設けられており、たとえば電子伝達物質および相対的に少量の酸化還元酵素を含んでいる。この試薬部14は、血液に対して容易に溶解する多孔質の固体状に形成されている。したがって、キャピラリ4に血液を導入した場合には、試薬部14の作用によって基板1の表面に沿って血液が移動しやすく、またキャピラリ4の内部には、電子伝達物質、酸化還元酵素およびグルコースを含む液相反応系が構築される。
【0024】
酸化還元酵素としては、たとえばGODやGDHを用いることができ、典型的にはPQQGDHが使用される。電子伝達物質としては、たとえばルテニウム錯体や鉄錯体を使用することができ、典型的には[Ru(NH3)6]Cl3やK3[Fe(CN)6]を使用することが
できる。
【0025】
試薬部14は、たとえば電子伝達物質および酸化還元酵素を含んだ材料液を第1開口部15aに分注した後、材料液を乾燥させることにより形成することができる。第1開口部15aに材料液を分注した場合には、第1開口部15aにおける基板1の短手方向(図中のN3,N4方向)の両縁およびストッパ部16の縁16aにおいて、材料液が広がってしまうことが抑制される。したがって、第1開口部15aに対しては、選択的に材料液を分注することができるため、第1開口部15aに対して選択的に試薬部14を形成することができる。
【0026】
以上に説明したグルコースセンサXは、次のようにして製造することができる。
【0027】
まず、図5に示したように、集合基板5に設定された複数のセンサ形成領域50に対して、センサ形成領域50ごとに、作用極51および対極52を形成する。作用極51および対極52は、たとえばカーボンペーストを用いたスクリーン印刷により複数のセンサ形成領域50に対して一括して形成することができる。
【0028】
次いで、図6および図7に示したように、集合基板5上に絶縁膜53を形成する。絶縁膜53は、グルコースセンサXの第1ないし第3開口部15a〜15c(図4参照)に対応する第1ないし第3開口部55a〜55c、およびアイランド部56を有したものとし、かつ作用極51および対極52の端部51a,51b,52a,52bを露出させた状態で形成される。このような絶縁膜53は、まず撥水性の高い材料を含むインクを用いたスクリーン印刷により形成することができる。絶縁膜53は、感光性樹脂材料を用いたフォトリソグラフィにより形成することもできる。
【0029】
続いて、図8に示したように、絶縁膜53の各第1開口部55aに試薬部54を形成する。試薬部54は、酸化還元酵素および電子伝達物質を含む材料液を、第1開口部55aに分注した後に材料液を乾燥させることにより形成することができる。第1開口部55aに材料液を分注した場合には、アイランド部56の縁56aにより、材料液が図中の矢印N1方向に広がることが抑制され、材料液を第2開口部55bに流れ込ませることなく、第1開口部55aに対して選択的に材料液を塗布することが可能となる。
【0030】
続いて、図9および図10に示したように、両面テープ6を介在させた状態で、集合基板5に対してカバー板7を積層して中間体8を形成する。両面テープ6には、スリット20(図2参照)となるべき複数の開口部60が、N1,N2方向に延びるように予め形成されている。したがって、両面テープ6は、開口部60を第1および第2開口部55a,55bに位置合わせした状態で集合基板5およびカバー板7の間に介在させられる。一方、カバー板7には、グルコースセンサXの排気口31となるべき複数の貫通孔70が予め形成されている。
【0031】
ここで、図示した両面テープ6の開口部60では、図11(a)に示したようにN3,N4方向の寸法W3が絶縁膜53の第1開口部55aの幅寸法W4よりも大きく、かつ第3開口部55c相互間の間隔よりも大きくされている。そのため、図11(b)および図11(c)に示したように、両面テープ6がN3,N4方向に位置ずれした状態で集合基板5(図9参照)に対して貼着されたとしても、開口部60は、よほど大きく位置ずれしない限りは、スリット20の内部において、少なくとも一方の第3開口部55cが臨んだ状態とすることができる。
【0032】
次いで、センサ形成領域50相互の境界ラインを切断ラインLとして中間体8を切断し(図10参照)、図1ないし図4に示したような個々のグルコースセンサXを得る。
【0033】
グルコースセンサXでは、このグルコースセンサXを濃度測定装置(図示略)に装着した上で、グルコースセンサXの導入口40を介してキャピラリ4に血液を供給することにより、濃度測定装置(図示略)において血糖値の測定を自動的に行うことができる。
【0034】
濃度測定装置(図示略)に対してグルコースセンサXを装着した場合、グルコースセンサXの作用極11および対極12が濃度測定装置の端子(図示略)に接触する。一方、キャピラリ4に血液を供給した場合、キャピラリ4において生じる毛細管現象により、血液が導入口40から排気口31に向けて進行する。血液の進行過程においては、血液により試薬部14が溶解させられ、キャピラリ4の内部に液相反応系が構築される。この液相反応系に対しては、作用極11および対極12を利用して電圧を印加し、あるいは電圧印加時の応答電流値を測定することができる。
【0035】
液相反応系においては、たとえば酸化還元酵素が血液中のグルコースと特異的に反応してグルコースから電子が取り出され、その電子が電子伝達物質に供給されて電子伝達物質が還元型とされる。液相反応系に対して作用極11および対極12を利用して電圧を印加した場合、還元型とされた電子伝達物質から作用極11に電子が供給される。したがって、濃度測定装置においては、たとえば作用極11に対する電子供給量を、応答電流値として測定することができる。濃度測定装置(図示略)では、キャピラリ4に対する血液の供給から一定時間が経過したときに測定される応答電流値に基づいて、血糖値が演算される。
【0036】
グルコースセンサXでは、絶縁膜13には、長手方向に延びる一対の第3開口部15cが設けられており、そのうちの少なくとも一方がキャピラリ4に臨むように工夫されている。そのため、第1開口部15aの側方に親水性の高い領域が存在することとなるため、
第1開口部15aの側方において血液の移動が停止し、あるいは再移動する可能性が低減される。また、第1開口部15aの側方における血液の移動をスムーズに行えるようになれば、キャピラリ4の内部において、血液供給時に大きな吸引力を作用させることができるようになる。その結果、第1開口部15aの縁、すなわちストッパ部16の縁16aおいて血液の移動が停止し、また血液が再移動することも抑制することができるようになる。このように、グルコースセンサXでは、キャピラリ4の内部において血液の移動が停止した後に再移動することが抑制され、作用極11の端部11aの周りに存在する電子伝達物質の量(濃度)が急激に変化する可能性が低減する。したがって、グルコースセンサXでは、測定される応答電流値が本来得られるべき値により近いものとなり、応答電流値の測定再現性、ひいては演算される血糖値の再現性を良好なものとすることができるようになる。
【0037】
本発明は、血液中のグルコース濃度を測定するように構成されたグルコースセンサに限らず、他の分析用具、たとえば血液中のグルコース以外の成分を測定し、あるいは血液以外の試料を用いた分析を行うように構成された分析用具に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
X グルコースセンサ(分析用具)
1 基板
11 作用極(第1電極)
12 対極(第2電極)
13 絶縁膜
14 試薬部
15a 第1開口部
15b 第2開口部
15c 第3開口部
2 スペーサ
3 カバー
4 キャピラリ(流路)
5 集合基板(板材)
51 作用極
52 対極
53 絶縁膜
54 試薬部
55a 第1開口部
55b 第2開口部
55c 第3開口部
6 両面テープ(中間材)
7 カバー板(カバー材)
B 血液(試料)
N1 (基板の)長手方向(移動方向)
N3,N4 (基板の)短手方向(交差方向)
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料(たとえば血液や尿などの生化学的試料)における特定成分(たとえばグルコース、コレステロールあるいは乳酸)を分析する際に使用される分析用具、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のグルコース濃度を測定する場合、簡易な手法として、使い捨てとして構成されたグルコースセンサを利用する方法が採用されている(たとえば特許文献1参照)。グルコースセンサとしては、たとえば図12ないし図14に示したグルコースセンサ9のように、血糖値の演算に必要な応答電流値を、作用極90および対極91を利用して測定できるように構成されたものがある。このグルコースセンサ9は、キャピラリ92において生じる毛細管力により血液を移動させ、血液と試薬とを反応させたときの電子授受量を応答電流値として測定できるように構成されたものである。試薬は、撥水性の高い絶縁膜93の開口部94において、多孔質固体状の試薬部95として基板96に保持されている。キャピラリ92は、基板96上に、スリット97aが形成されたスペーサ97を介して、カバー98を積層することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平8−10208号公報
【0004】
グルコースセンサ9は、次のようにして製造することができる。まず、図15から予想できるように、集合基板96A上に作用極90A、対極91A、絶縁膜93Aおよび試薬部95Aの組を複数形成する。次いで、集合基板96Aに対して、両面テープ97Aを介してカバー板98Aを積層して中間体を形成する。両面テープ97Aとしては、予め複数のスリット97Aaが形成されたものが用いられる。各スリット97Aaの幅寸法W′は、試薬部95A(開口部94A)の幅寸法W″よりも大きく設定される。これは、試薬部95Aを必要以上に大きくすると、図12ないし図14に示したグルコースセンサ9において、基板96とスペーサ97との接合部分に試薬部95が介在し、血液を導入したときに接合部分に血液が染み出す場合があるからである。最後に、中間体を切断することにより、図12ないし図14に示したようなグルコースセンサ9が形成される。
【0005】
このような製造方法においては、両面テープ97Aの位置合わせが不適切な状態で集合基板96Aに対してカバー体98Aが接合されてしまうと、図16に示したようにスリット97aの位置が目的部位からずれてしまい、キャピラリ92の内部においては、絶縁膜93が幅広く露出した部分が存在することとなる。このようなグルコースセンサ9では、絶縁膜93の部分において血液が移動しにくいのに対して、血液が試薬部95を積極的に移動しようとする。その結果、図17に示したように血液Bが絶縁膜93の部分を徐々に移動し、キャピラリ92の内部が血液で満たされるまでに時間がかかることがある。
【0006】
ところで、キャピラリ92における血液Bの移動速度(血液に作用する吸引力)は、カバー98の表面の濡れ性や試薬部95の溶解性に依存する。カバー98の濡れ性や試薬部95の溶解性は、通常、経時的あるいは温度依存的に低下する。その一方、図13に良く表れているように基板96の表面においては、絶縁膜93に開口部94が形成されていることよって、段差99が生じる。そのため、図17および図18(a)に示したように、キャピラリ92に導入された血液Bは、キャピラリ92を移動する過程において段差99において停止することがある。このような現象は、キャピラリ92における吸引力の低下、すなわちカバー98の濡れ性や試薬部95(図12ないし図14)の溶解性の低下に伴って生じやすくなる。
【0007】
段差99において移動が停止した血液Bは、その状態のまま進行を停止することもあるが、図18(a)および図18(b)に示したように徐々に血液Bが移動し、あるいは血液Bが突然大きく移動してしまうことがある。血液Bの再移動現象が生じた場合、作用極90や対極91の周りに存在する電子伝達物質の量(濃度)が急激に変わるため、その場合には、図19に仮想線で示したように、測定される応答電流値が突然に大きくなってしまう。また、血液Bの再移動現象は、血糖値を測定する度に生じるわけではなく、血液Bの移動現象が生じるタイミングもグルコースセンサ9毎に一様でない。したがって、血液Bの再移動現象が生じ得るグルコースセンサ9では、測定ごとの応答電流値の測定再現性、ひいては演算される血糖値の再現性が悪くなってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとに考え出されたものであって、試料を移動させるための流路を備えた分析用具において、試料を安定して供給できるようにし、試料分析の再現性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記した課題を解決するために次の技術的手段を講じている。すなわち、本発明の第1の側面により提供される分析用具は、流路において試料を移動させるように構成された分析用具であって、基板と、この基板に設けられた第1および第2電極と、第1開口部を有し、かつ上記基板、上記第1電極および第2電極の各一部を、上記第1開口部を介して露出させた状態で上記第1および第2電極を覆う絶縁膜と、上記第1開口部に保持された試薬部と、を備えた分析用具において、上記絶縁膜は、上記第1開口部における上記試料の移動方向終端において上記第1開口部に繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れて設けられた一対の第2開口部をさらに有していることを特徴としている。
【0010】
絶縁膜は、たとえば基板、第1電極、および第2電極よりも撥水性が高いものとして形成される。試薬部は、流路に試料が供給されたときに溶解する多孔質固体状に形成するのが好ましい。流路は、たとえば毛細管力により試料を移動させるように構成される。
【0011】
本発明の第2の側面においては、流路において試料を移動させるように構成された分析用具を製造する方法において、板材の表面に第1および第2電極を形成する工程と、上記板材を覆うように絶縁膜を形成する工程であって、上記絶縁膜を、上記第1電極および第2電極の各一部を露出させる第1開口部、および上記第1開口部における上記試料の移動方向終端において上記第1開口部に繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れた一対の第2開口部を備えたものとして形成する絶縁膜形成工程と、上記開口部に試薬部を形成する工程と、上記板材と中間材とを接合する工程であって、上記中間材として、上記開口部における上記交差方向の寸法よりも大きな間隔を隔てて上記交差方向において互いに対向する一対の対向面を有するものを用い、かつ上記一対の対向面の間に上記試薬部を位置合わせして行われる工程と、上記中間材とカバー材とを接合する工程と、を含むことを特徴とする、分析用具の製造方法が提供される。
【0012】
絶縁膜は、基板、第1電極、および第2電極よりも撥水性が高いものとして形成するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るグルコースセンサの全体斜視図である。
【図2】図1に示したグルコースセンサの分解斜視図である。
【図3】図1のIII‐III線に沿う断面図である。
【図4】図1に示したグルコースセンサの端部を、カバーを取り除いた状態で示した平面図である。
【図5】図1に示したグルコースセンサの製造方法を説明するためのものであり、集合基板に作用極および対極を形成した状態を示す全体斜視図である。
【図6】図1に示したグルコースセンサの製造方法を説明するためのものであり、集合基板に絶縁膜を形成した状態を示す全体斜視図である。
【図7】図6の要部を拡大した平面図である。
【図8】図1に示したグルコースセンサの製造方法を説明するためのものであり、試薬部を形成した状態を示す要部を拡大した平面図である。
【図9】集合基板に対して、両面テープを介してカバー体を接合する工程を説明するための全体斜視図である。
【図10】図1に示したグルコースセンサの製造方法を説明するためのものであり、中間体の全体斜視図である。
【図11】集合基板に両面テープを貼着した状態を示す要部を拡大した平面図である。
【図12】従来のグルコースセンサの一例を示す全体斜視図である。
【図13】図12のXIII−XIII線に沿う断面図である。
【図14】図12に示したグルコースセンサの端部を、カバーを取り除いた状態で示した平面図である。
【図15】従来のグルコースセンサを製造する方法を説明するための斜視図である。
【図16】従来のグルコースセンサの製造方法における課題を説明するための図14に相当する平面図である。
【図17】図16に示したグルコースセンサにおける血液の移動過程の一例を説明するための図14に相当する平面図である。
【図18】図16に示したグルコースセンサにおける血液の移動過程の一例を説明するための図14に相当する平面図である。
【図19】従来のグルコースセンサにおいて測定される応答電流値の経時的変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0015】
図1および図3に示したグルコースセンサXは、使い捨てとして構成されたものであり、濃度測定装置(図示略)に装着して血糖値を測定するために使用するものである。このグルコースセンサXは、長矩形状の基板1に対して、スペーサ2を介してカバー3を積層した形態を有している。グルコースセンサXにおいては、各要素1〜3により、基板1の長手方向に延びるキャピラリ4が規定されている。キャピラリ4は、導入口40から導入された血液を、毛細管現象を利用して基板1の長手方向(図中のN1方向)に移動させ、導入された血液を保持するためのものである。
【0016】
スペーサ2は、基板1の上面10からカバー3の下面30までの距離、すなわちキャピラリ4の高さ寸法を規定するためのものであり、たとえば両面テープにより構成されている。このスペーサ2には、先端部が開放したスリット20が形成されている。スリット20は、キャピラリ4の幅寸法を規定するためのものであり、スリット20における先端の開放部分は、キャピラリ4の内部に血液を導入するための導入口40を構成している。スリット20は、基板1の短手方向(N3,N4)に間隔を隔てて対面した一対の対向面20aを有している。
【0017】
カバー3には、排気口31が形成されている。排気口31は、キャピラリ4の内部の気体を外部に排気するためのものである。カバー3は、キャピラリ4を臨む面の親水性が高いものとなっている。このようなカバー3は、たとえばカバー3の全体をビニロンや高結晶化PVAなどの濡れ性の高い材料により形成し、あるいはキャピラリ4を臨む面に親水処理を施すことにより形成されている。親水処理は、たとえば紫外線を照射することにより、あるいはレシチンなどの界面活性剤を塗布することにより行われる。
【0018】
図2および図3によく表れているように、基板1は、たとえばPETなどの絶縁樹脂材料により形成されており、その上面10に、作用極11、対極12、絶縁膜13、および試薬部14が形成されたものである。作用極11および対極12は、全体として基板1の長手方向(図中のN1,N2方向)に延びているとともに、端部11a,12aが基板1の短手方向(図中のN3,N4方向)に延びている。一方、作用極11および対極12の端部11b,12bは、濃度測定装置(図示略)に設けられた端子に接触させるための端子部を構成している。作用極11および対極12は、たとえば導電性カーボンインクを用いたスクリーン印刷により形成することができる。
【0019】
絶縁膜13は、基板1の表面や作用極11および対極12に比べて疎水性が高く、その表面での接触角が、たとえば100〜120度となるように形成されている。このような絶縁膜13は、たとえば撥水性の高い材料を含んだインクを塗布した後に乾燥させることにより、あるいは撥水剤を含む紫外線硬化樹脂を硬化させることにより形成することができる。図2および図4に良く表れているように、絶縁膜13は、作用極11および対極12の端部11a,12a,11b,12bが露出するようにして作用極11および対極12の大部分を覆っている。この絶縁膜13は、第1開口部15a、一対の第2開口部15bおよび一対の第3開口部15cを有している。
【0020】
第1開口部15aは、試薬部14を形成するための領域を規定するものであり、基板1の長手方向(図中のN1,N2方向)に延びる矩形状に形成されている。この第1開口部15aは、作用極11および対極12の端部11a,12aを露出させており、その幅寸法W1は、スペーサ2におけるスリット20の対向面20aの間隔W2に比べて小さくされている。
【0021】
一対の第2開口部15bは、その間に第1開口部15aの終端としてのストッパ部16を介在させた状態で存在するとともに、第1開口部15aに繋がっている。これらの第2開口部15bは、第1開口部15aに対して、基板1の短手方向(図中のN3,N4方向)にオフセットした部分を有している。ストッパ部16の縁16aは、カバー3の排気口31の縁31aよりも導入口40側に位置している。ストッパ部16の縁16aの寸法は、たとえば第1開口部15aにおける短手方向(図中のN3,N4方向)の寸法の60〜95%に長さに設定されている。
【0022】
第3開口部15cは、第1開口部15aに対して短手方向(図中のN3,N4方向)に隣接した部位において、基板1の長手方向(図中のN1,N2方向)に延びるスリット状に形成されている。この第3開口部15cは、作用極11、対極12および基板1の一部を露出させている。したがって、第3開口部15cの内部には、絶縁膜13よりも親水性の高い領域が規定されている。図示した例では、一対の第3開口部15cは、双方ともにキャピラリ4の内部を臨んでいる。
【0023】
試薬部14は、絶縁膜13の第1開口部15aにおいて、作用極11および対極12の端部11a,12aどうしを橋渡すようにして設けられており、たとえば電子伝達物質および相対的に少量の酸化還元酵素を含んでいる。この試薬部14は、血液に対して容易に溶解する多孔質の固体状に形成されている。したがって、キャピラリ4に血液を導入した場合には、試薬部14の作用によって基板1の表面に沿って血液が移動しやすく、またキャピラリ4の内部には、電子伝達物質、酸化還元酵素およびグルコースを含む液相反応系が構築される。
【0024】
酸化還元酵素としては、たとえばGODやGDHを用いることができ、典型的にはPQQGDHが使用される。電子伝達物質としては、たとえばルテニウム錯体や鉄錯体を使用することができ、典型的には[Ru(NH3)6]Cl3やK3[Fe(CN)6]を使用することが
できる。
【0025】
試薬部14は、たとえば電子伝達物質および酸化還元酵素を含んだ材料液を第1開口部15aに分注した後、材料液を乾燥させることにより形成することができる。第1開口部15aに材料液を分注した場合には、第1開口部15aにおける基板1の短手方向(図中のN3,N4方向)の両縁およびストッパ部16の縁16aにおいて、材料液が広がってしまうことが抑制される。したがって、第1開口部15aに対しては、選択的に材料液を分注することができるため、第1開口部15aに対して選択的に試薬部14を形成することができる。
【0026】
以上に説明したグルコースセンサXは、次のようにして製造することができる。
【0027】
まず、図5に示したように、集合基板5に設定された複数のセンサ形成領域50に対して、センサ形成領域50ごとに、作用極51および対極52を形成する。作用極51および対極52は、たとえばカーボンペーストを用いたスクリーン印刷により複数のセンサ形成領域50に対して一括して形成することができる。
【0028】
次いで、図6および図7に示したように、集合基板5上に絶縁膜53を形成する。絶縁膜53は、グルコースセンサXの第1ないし第3開口部15a〜15c(図4参照)に対応する第1ないし第3開口部55a〜55c、およびアイランド部56を有したものとし、かつ作用極51および対極52の端部51a,51b,52a,52bを露出させた状態で形成される。このような絶縁膜53は、まず撥水性の高い材料を含むインクを用いたスクリーン印刷により形成することができる。絶縁膜53は、感光性樹脂材料を用いたフォトリソグラフィにより形成することもできる。
【0029】
続いて、図8に示したように、絶縁膜53の各第1開口部55aに試薬部54を形成する。試薬部54は、酸化還元酵素および電子伝達物質を含む材料液を、第1開口部55aに分注した後に材料液を乾燥させることにより形成することができる。第1開口部55aに材料液を分注した場合には、アイランド部56の縁56aにより、材料液が図中の矢印N1方向に広がることが抑制され、材料液を第2開口部55bに流れ込ませることなく、第1開口部55aに対して選択的に材料液を塗布することが可能となる。
【0030】
続いて、図9および図10に示したように、両面テープ6を介在させた状態で、集合基板5に対してカバー板7を積層して中間体8を形成する。両面テープ6には、スリット20(図2参照)となるべき複数の開口部60が、N1,N2方向に延びるように予め形成されている。したがって、両面テープ6は、開口部60を第1および第2開口部55a,55bに位置合わせした状態で集合基板5およびカバー板7の間に介在させられる。一方、カバー板7には、グルコースセンサXの排気口31となるべき複数の貫通孔70が予め形成されている。
【0031】
ここで、図示した両面テープ6の開口部60では、図11(a)に示したようにN3,N4方向の寸法W3が絶縁膜53の第1開口部55aの幅寸法W4よりも大きく、かつ第3開口部55c相互間の間隔よりも大きくされている。そのため、図11(b)および図11(c)に示したように、両面テープ6がN3,N4方向に位置ずれした状態で集合基板5(図9参照)に対して貼着されたとしても、開口部60は、よほど大きく位置ずれしない限りは、スリット20の内部において、少なくとも一方の第3開口部55cが臨んだ状態とすることができる。
【0032】
次いで、センサ形成領域50相互の境界ラインを切断ラインLとして中間体8を切断し(図10参照)、図1ないし図4に示したような個々のグルコースセンサXを得る。
【0033】
グルコースセンサXでは、このグルコースセンサXを濃度測定装置(図示略)に装着した上で、グルコースセンサXの導入口40を介してキャピラリ4に血液を供給することにより、濃度測定装置(図示略)において血糖値の測定を自動的に行うことができる。
【0034】
濃度測定装置(図示略)に対してグルコースセンサXを装着した場合、グルコースセンサXの作用極11および対極12が濃度測定装置の端子(図示略)に接触する。一方、キャピラリ4に血液を供給した場合、キャピラリ4において生じる毛細管現象により、血液が導入口40から排気口31に向けて進行する。血液の進行過程においては、血液により試薬部14が溶解させられ、キャピラリ4の内部に液相反応系が構築される。この液相反応系に対しては、作用極11および対極12を利用して電圧を印加し、あるいは電圧印加時の応答電流値を測定することができる。
【0035】
液相反応系においては、たとえば酸化還元酵素が血液中のグルコースと特異的に反応してグルコースから電子が取り出され、その電子が電子伝達物質に供給されて電子伝達物質が還元型とされる。液相反応系に対して作用極11および対極12を利用して電圧を印加した場合、還元型とされた電子伝達物質から作用極11に電子が供給される。したがって、濃度測定装置においては、たとえば作用極11に対する電子供給量を、応答電流値として測定することができる。濃度測定装置(図示略)では、キャピラリ4に対する血液の供給から一定時間が経過したときに測定される応答電流値に基づいて、血糖値が演算される。
【0036】
グルコースセンサXでは、絶縁膜13には、長手方向に延びる一対の第3開口部15cが設けられており、そのうちの少なくとも一方がキャピラリ4に臨むように工夫されている。そのため、第1開口部15aの側方に親水性の高い領域が存在することとなるため、
第1開口部15aの側方において血液の移動が停止し、あるいは再移動する可能性が低減される。また、第1開口部15aの側方における血液の移動をスムーズに行えるようになれば、キャピラリ4の内部において、血液供給時に大きな吸引力を作用させることができるようになる。その結果、第1開口部15aの縁、すなわちストッパ部16の縁16aおいて血液の移動が停止し、また血液が再移動することも抑制することができるようになる。このように、グルコースセンサXでは、キャピラリ4の内部において血液の移動が停止した後に再移動することが抑制され、作用極11の端部11aの周りに存在する電子伝達物質の量(濃度)が急激に変化する可能性が低減する。したがって、グルコースセンサXでは、測定される応答電流値が本来得られるべき値により近いものとなり、応答電流値の測定再現性、ひいては演算される血糖値の再現性を良好なものとすることができるようになる。
【0037】
本発明は、血液中のグルコース濃度を測定するように構成されたグルコースセンサに限らず、他の分析用具、たとえば血液中のグルコース以外の成分を測定し、あるいは血液以外の試料を用いた分析を行うように構成された分析用具に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
X グルコースセンサ(分析用具)
1 基板
11 作用極(第1電極)
12 対極(第2電極)
13 絶縁膜
14 試薬部
15a 第1開口部
15b 第2開口部
15c 第3開口部
2 スペーサ
3 カバー
4 キャピラリ(流路)
5 集合基板(板材)
51 作用極
52 対極
53 絶縁膜
54 試薬部
55a 第1開口部
55b 第2開口部
55c 第3開口部
6 両面テープ(中間材)
7 カバー板(カバー材)
B 血液(試料)
N1 (基板の)長手方向(移動方向)
N3,N4 (基板の)短手方向(交差方向)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路において試料を移動させるように構成された分析用具であって、
基板と、この基板に設けられた第1および第2電極と、第1開口部を有し、かつ上記基板、上記第1電極および第2電極の各一部を、上記第1開口部を介して露出させた状態で上記第1および第2電極を覆う絶縁膜と、上記第1開口部に保持された試薬部と、を備えた分析用具において、
上記絶縁膜は、上記第1開口部における上記試料の移動方向終端において上記第1開口部に繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れて設けられた一対の第2開口部をさらに有していることを特徴とする、分析用具。
【請求項2】
上記流路は、毛細管力により試料を移動させるように構成されている、請求項1に記載の分析用具。
【請求項3】
流路において試料を移動させるように構成された分析用具を製造する方法において、
板材の表面に第1および第2電極を形成する工程と、
上記板材を覆うように絶縁膜を形成する工程であって、上記絶縁膜を、上記第1電極および第2電極の各一部を露出させる第1開口部、および上記第1開口部における上記試料の移動方向終端において上記第1開口部に繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れた一対の第2開口部を備えたものとして形成する絶縁膜形成工程と、
上記開口部に試薬部を形成する工程と、
上記板材と中間材とを接合する工程であって、上記中間材として、上記開口部における上記交差方向の寸法よりも大きな間隔を隔てて上記交差方向において互いに対向する一対の対向面を有するものを用い、かつ上記一対の対向面の間に上記試薬部を位置合わせして行われる工程と、
上記中間材とカバー材とを接合する工程と、
を含むことを特徴とする、分析用具の製造方法。
【請求項1】
流路において試料を移動させるように構成された分析用具であって、
基板と、この基板に設けられた第1および第2電極と、第1開口部を有し、かつ上記基板、上記第1電極および第2電極の各一部を、上記第1開口部を介して露出させた状態で上記第1および第2電極を覆う絶縁膜と、上記第1開口部に保持された試薬部と、を備えた分析用具において、
上記絶縁膜は、上記第1開口部における上記試料の移動方向終端において上記第1開口部に繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れて設けられた一対の第2開口部をさらに有していることを特徴とする、分析用具。
【請求項2】
上記流路は、毛細管力により試料を移動させるように構成されている、請求項1に記載の分析用具。
【請求項3】
流路において試料を移動させるように構成された分析用具を製造する方法において、
板材の表面に第1および第2電極を形成する工程と、
上記板材を覆うように絶縁膜を形成する工程であって、上記絶縁膜を、上記第1電極および第2電極の各一部を露出させる第1開口部、および上記第1開口部における上記試料の移動方向終端において上記第1開口部に繋がり、かつ、上記試料の移動方向に交差する交差方向に離れた一対の第2開口部を備えたものとして形成する絶縁膜形成工程と、
上記開口部に試薬部を形成する工程と、
上記板材と中間材とを接合する工程であって、上記中間材として、上記開口部における上記交差方向の寸法よりも大きな間隔を隔てて上記交差方向において互いに対向する一対の対向面を有するものを用い、かつ上記一対の対向面の間に上記試薬部を位置合わせして行われる工程と、
上記中間材とカバー材とを接合する工程と、
を含むことを特徴とする、分析用具の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−229469(P2009−229469A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131721(P2009−131721)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【分割の表示】特願2003−175249(P2003−175249)の分割
【原出願日】平成15年6月19日(2003.6.19)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【分割の表示】特願2003−175249(P2003−175249)の分割
【原出願日】平成15年6月19日(2003.6.19)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
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