説明

分析用液体貯留容器

【課題】分析用液体を吸引して分析に使用するときに生じうる分析用液体に起因する分析精度の低下を軽減することができる分析用液体貯留容器を提供する。
【解決手段】分析用液体貯留容器10は、分析用液体お貯留する容器本体12と、首部14を有する。容器本体12は、ガスバリヤ材料で形成され、内外の圧力差に応じて収縮可能に構成される。首部14を介して分析用液体が容器本体12に出入り可能である。分析用液体貯留容器10は、さらに、容器本体12の内部に貯留した移動相用液体を取り出すための吸引管16を首部14に取り付け密栓状態を保持することができる密栓構造を有する。密栓構造は、例えば、吸引管16を首部14の内部に連通するように接続した栓18を用い、分析時には、吸引管16を適宜の方法で、装置本体の吸引管に接続し、液体を保管するときには、適宜の方法で吸引管16の先端を封じる構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用液体貯留容器に関し、特に、液体クロマトグラフィー分析の際に用いる移動相液体を貯留する容器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液体クロマトグラフィー(液体クロマトグラフィー分析)では、移動相に用いる液体を貯留した容器から液体を一定流量で、あるいはまた流量を変化させながら吸引する。そして、この液体(以下、これを移動相用液体ということがある。)に複数の成分を含む試料を同伴させて、カラム(固定相)でこれらの成分を分離して同定あるいは定量する。このとき、正確でかつ安定した流量で送液することが、分析精度を確保するうえでの大きな要素となる。
【0003】
移動相用液体を貯留する容器は、簡便なものとして、例えばほうけい酸ガラス等のガラス製の開口容器が用いられる。そして、液体を吸引するための管が開口から容器内に差し込まれて、送液ポンプによって液体が吸引される。
また、小孔を形成した栓を取り付けた容器を用い、上記の管を、小孔を介して容器内に緩く差し込んで吸引操作することも行われている(非特許文献1参照)。上記小孔と管との間に隙間を設けるのは、容器中の移動相用液体が消費されて減少し容器内が真空(負圧)になってポンプの吸引圧力が変化して流量の変動を来すことを避けるためである。
【非特許文献1】「高速液体クロマトグラフ総合カタログ」、株式会社資生堂、1997年8月、p.10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の移動相用液体は、通常、揮発性の溶媒が用いられるため、上記従来の容器を使用するとき、多数の試料を分析する過程で、液体が容器の開口等から外部に揮散することにより、また、容器中に浸入し、滞留する気体(空気)の存在により、容器中の液体の成分が経時的に変化することが起こりうる。そして、このような液体の成分変化は、カラムでの試料中の成分の分離状態に影響を与え、分析精度を低下させることが考えられる。
また、容器内に滞留する気体がポンプで吸引される液体中に巻き込まれることによっても液体の流量が変動し、あるいは送液不能となる等してカラムでの試料中の成分の分離状態に影響を与える。
ところで、気体を溶存した液体から気体を取り除いてカラムに送液する目的で、容器内の液体を気体透過膜を介して真空ポンプで吸引する方式の脱気装置が設けられることがあるが、この場合、脱気によって揮発性の液体の成分が変化するおそれがある。また、脱気装置を設けることによる装置費用の増大や装置の複雑化も無視できない。
このような容器に貯留した分析用液体の成分変化や流量変化に起因する分析精度の低下の問題は、他の分析方法においても、同様に起こりうるものであり、このとき、分析に用いる液体は、分析対象の試料であるか試料以外の分析用に用いる液体であるかを問わず、上記の問題を生じないようにすることが望ましい。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、分析用液体を吸引して分析に使用するときに生じうる分析用液体に起因する分析精度の低下を軽減することができる分析用液体貯留容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る分析用液体貯留容器は、ガスバリヤ材料で形成され内外の圧力差に応じて収縮可能な、分析用液体を貯留する容器本体と、該容器本体に接続され分析用液体が出入り可能な首部と、貯留した液体を取り出すための吸引管を該首部に取り付け密栓状態を保持することができる密栓構造と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る分析用液体貯留容器は、好ましくは、前記容器本体が、樹脂層、無機物質層および金属層のなかから選ばれるいずれか1つまたは2以上の層の積層体で形成されるとともに少なくともアルミニウム層を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る分析用液体貯留容器は、好ましくは、液体クロマトグラフィーの移動相用液体を貯留する容器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る分析用液体貯留容器は、ガスバリヤ材料で形成され内外の圧力差に応じて収縮可能な、分析用液体を貯留する容器本体と、容器本体に接続され分析用液体が出入り可能な首部と、貯留した液体を取り出すための吸引管を着脱可能に首部に取り付け密栓状態を保持する密栓構造と、を有するため、分析用液体を吸引して分析に使用するときに生じうる分析用液体に起因する分析精度の低下を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態について、分析方法として液体クロマトグラフィーを例にとって以下に説明する。
【0011】
例えば図1に示すように、本実施の形態に係る分析用液体貯留容器10は、分析用液体を貯留する容器本体12と、容器本体に接続される首部14と、を有する。容器本体12は、ガスバリヤ材料で形成され、内外の圧力差に応じて収縮可能に構成されている。首部14を介して分析用液体が出入り可能である。分析用液体貯留容器10は、さらに、容器本体12の内部に貯留した移動相用液体(移動相。図示せず)を取り出すための吸引管16を首部14に取り付け密栓状態を保持することができる密栓構造を有する。
【0012】
容器本体12に用いられるガスバリヤ材料は、気体の透過性が低く、あるいはまた、気体の透過を完全に遮断できる材料であり、公知のガスバリヤ性に優れる材料を用いることができる、また、容器本体12は、内外の圧力差に応じて収縮可能なものである。
これらの要求を満足する材料として、例えば、ナイロン系樹脂、エチレン系樹脂、ビニルアルコール系樹脂あるいはこれらの樹脂の共重合体、金属蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルム等を挙げることができる。また、これらの異種の樹脂層等を積層したシート(積層体)であってもよい。
また、容器本体12の材料は、好ましくは、適宜の樹脂層、無機物質層および金属層のなかから選ばれるいずれか1つまたは2以上の層の積層体で形成されるとともに少なくともアルミニウム層を含むものがよい。例えばナイロン系樹脂、エチレン系樹脂、ビニルアルコール系樹脂あるいはこれらの樹脂の共重合体、金属蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルム等を挙げることができる。
容器本体12の材料は、より好ましくは、樹脂層等の積層体で形成されるとともに少なくともアルミニウム層を含むシートである。例えば、容器の外側から内側に向けて、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アルミニウム、ナイロン、ポリエチレンの順に各材料の薄層を積層したシートとすることができる。これにより、容器本体12は、気体遮断性のみでなく、成形性、強靭性、耐熱性、耐寒性、耐ピンホール性、シール性等も向上する。
【0013】
首部14は、例えば配管コネクタを形成し得る樹脂等で中空円筒状に形成され、容器本体12の一端に、ねじ込み方法や接着方法等の適宜の方法で接合される。
【0014】
容器本体12の内部に貯留した移動相用液体を取り出すための吸引管16を首部14に取り付け密栓状態を保持することができる密栓構造は、適宜のものを採用することができる。
例えば図1に示すように、吸引管16を首部14の内部に連通するように接続した栓18を用い、分析時には、吸引管16を適宜の方法で、装置本体の吸引管(図示せず)に接続し、液体を保管するときには、適宜の方法で吸引管16の先端を封じる構造とすることができる。この場合、栓として(1)吸引管16を取り付けた上記栓18あるいは装置本体の吸引管を着脱可能に取り付けることができる栓および(2)密栓状態とすることができる通常の栓の2種類の栓を準備し、液体を保管するときは密栓状態とすることができる通常の栓を用いてもよい。
【0015】
つぎに、上記分析用液体貯留容器10に移動相用液体を入れて液体クロマトグラフィー(液体クロマトグラフィー分析)を行うときの手順を、図2を参照して説明する。
【0016】
図2に概略構成を示す液体クロマトグラフィー装置において、分析用液体貯留容器10に貯留される移動相用液体は、吸引管16を介してポンプ19で吸引され、所定の流速で送液される。試料注入部20で、移動相用液体に分析試料が注入、同伴される。分析試料を同伴した移動相用液体はカラム(固定相)22に送られ、分析試料中の各成分が分離される。分離した各成分は、順次、検出器24で検出され、検出データが記録計26で記録される。なお、図2中、参照符号28はカラムオーブンを示す。
【0017】
ここで、分析用液体貯留容器10には、望ましくは脱気等の処理を行った移動相用液体が、空気を巻き込まないようにしながら満液状態に貯留される。そして、分析用液体貯留容器10を、吸引管16に接続された栓で密栓された状態で、好ましくは、天地逆にしてポンプ19よりも高い位置に配置して用いる。
ポンプ19によって移動相用液体が一定流量で送液されて分析用液体貯留容器10の中の移動相用液体貯留量が減少するにつれて、分析用液体貯留容器10が収縮する。これにより、ポンプ19の吸引圧を実質的に一定に保たれるため、分析用液体貯留容器10の中の移動相用液体貯留量が減少しても安定した流量を維持することができる。また、このとき、分析用液体貯留容器10から外部への移動相用液体の揮散や外部から分析用液体貯留容器10の中への気体(大気)の浸入を実質的に阻止することができるため、移動相用液体の成分が分析中に経時的に変化することが軽減される。
これにより、分析中に、移動相用液体の流量が変化し、あるいはまた成分が変化することに起因して起こりうる分析精度の低下を回避することができる。ここで、分析精度とは、再現性と正確性の双方を含む。
また、これにより、分析用液体貯留容器10に貯留された移動相用液体を実質的に全量使い切ることができる。
なお、バイオ試料等を分析するときには、外気に含まれる雑菌が移動相用液体に混入し、さらに繁殖することにより移動相用液体の粘度が上昇しあるいは雑菌自体が装置で目詰まりを起こす不都合を生じるおそれがあるが、本実施の形態によれば、雑菌が分析用液体貯留容器10内の移動相用液体に混入することがないため、好適である。
【実施例】
【0018】
実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例の分析用液体貯留容器として、外側から順に、PET5μm、アルミニウム1μm、ナイロン5μm、ポリエチレン10μmの各厚みで積層された袋状の本発明の分析用液体貯留容器を用いた。また、比較参考例として、上方が開口されたガラス瓶(以下、これを単にガラス瓶という。)、吸引管が取り付けられるとともに、容器内外を連通する通気孔が設けられた栓付きガラス瓶(以下、これを栓付きガラス瓶という。)およびポリプロピレン樹脂製の輸液バッグ(以下、これを単に輸液バッグという。)の3種の容器を用いた。
各容器には、いずれも、THF(テトラハイドロフラン)/TFA(トリフルオロ酢酸)/水=25/0.05/75(v/v)の溶媒を貯留した。
【0020】
液体クロマトグラフ装置は、以下の仕様のものを用い、また、以下の操作条件とした。
ポンプ(移動相送液ポンプ)は、イナートポンプ(NANOSPACE
SI-2 3001)を用い、流速を75 µL / minとした。試料注入器は、HTSオートサンプラー(NANOSPACE SI-2 3033)を用いた。また、試料は、バリン(Val)、アロイソロイシン(allo-Ile)、イソロイシン(Ile)、ロイシン( Leu)およびフェニルアラニン(Phe)を、いずれもNBD化されたものを用いた。ここで、NBD化は、NBD−F(4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラザン)をアミノ酸に反応させて蛍光感度を上昇させる蛍光誘導体化法のひとつをいう。カラムオーブン(カラム恒温槽)は、NANOSPACE SI-2 3004を用い、40℃に保持した。カラムは、逆送ミクロカラム(株式会社資生堂製 Capcell pak C18 MG II 1 mm i.d. X 150 mm)を用いた。検出器は、蛍光検出器(NANOSPACE SI-2 3013 ex.470nm,em530nm)を用いた。
【0021】
実施例および各比較参考例の容器に十分な量の移動相液体を貯留し、それぞれ32回分析を繰り返した。このときのクロマトグラムを、図3〜図6に示した。図3は本発明の分析用液体貯留容器を用いた実施例であり、図4はガラス瓶を用いた比較参考例であり、図5は栓付きガラス瓶を用いた比較参考例であり、図6は輸液バッグを用いた比較参考例である。図3〜図6中、クロマトグラムの30分(Minute)を越えて出現するピークから順に、バリン、アロイソロイシン、イソロイシン、ロイシンおよびフェニルアラニンのそれぞれのピークである。また、実施例のクロマトグラムのデータ(数値)を表1にまとめて示した。表1中、Δ%は、ΔをMax(値)で除して百分率表示した値である。
【0022】
【表1】

【0023】
各図および表1からわかるように、実施例は、各比較参考例に比べて、試料の各成分それぞれのRT(保持時間)の変化が顕著に小さく、また、図4で顕著なピークのブロード化も見られず、分析の高い再現性と正確性(正確度)が得られた。
【0024】
なお、上記のように、本実施の形態として液クログラフィに本発明の分析用液体貯留容器を用いる例を説明したが、これに限らず同一組成の液体を安定して供給することが必要な液クログラフィ以外の他の分析に広く本発明を適用することができる。
また、本発明の分析用液体貯留容器は、これらの分析で用いる液体の保管用容器としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態に係る分析用液体貯留容器を示す図である。
【図2】本実施の形態に係る分析用液体貯留容器を使用するガスクロマトグラフィ装置の概略構成を示す図である。
【図3】本実施の形態に係る分析用液体貯留容器を使用して分析した液体クロマトグラムのグラフ図である。
【図4】ガラス瓶を使用して分析した液体クロマトグラムのグラフ図である。
【図5】栓付きガラス瓶を使用して分析した液体クロマトグラムのグラフ図である。
【図6】輸液バッグを使用して分析した液体クロマトグラムのグラフ図である。
【符号の説明】
【0026】
10 分析用液体貯留容器
12 容器本体
14 首部
16 吸引管
18 栓
19 ポンプ
20 試料注入部
22 カラム
24 検出器
26 記録計
28 カラムオーブン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリヤ材料で形成され内外の圧力差に応じて収縮可能な、分析用液体を貯留する容器本体と、該容器本体に接続され分析用液体が出入り可能な首部と、貯留した液体を取り出すための吸引管を該首部に取り付け密栓状態を保持することができる密栓構造と、を有することを特徴とする分析用液体貯留容器。
【請求項2】
前記容器本体が、樹脂層、無機物質層および金属層のなかから選ばれるいずれか1つまたは2以上の層の積層体で形成されるとともに少なくともアルミニウム層を含むことを特徴とする請求項1記載の分析用液体貯留容器。
【請求項3】
液体クロマトグラフィーの移動相用液体を貯留する容器であることを特徴とする請求項1または2記載の分析用液体貯留容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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