説明

分析装置および分析方法

【課題】製作が容易で大量生産に適し、さらに、多種の分析にも対応可能な分析装置(μ−TAS)を提供する。
【解決手段】複数の注入孔11と、複数の検査部19と、これらの間をそれぞれ接続する複数の幹線流路21と、幹線流路21の分岐点25間を接続する支線流路23とを有する基板3と、少なくとも基板3の幹線流路21および支線流路23を覆うフィルムと、分岐点25近傍において、フィルムと幹線流路21もしくは支線流路23の接着予定部27と、を有するμ−TASチップの接着可能部27を適宜接着することにより複数の注入孔11と複数の検査部19との接続状態を変化可能とする。このように、接着部27aによって、容易に流路の切り替えを行うことができ、多種の分析を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置および分析方法に関し、特に、微量な物質の分析を微細なチップ(デバイス、装置)で行うμ−TAS(マイクロ総合分析システム:Micro-Total Analysis Systems)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や化学物質の分析などの分野において、微量な試料等を短期間で分析できるμ−TAS技術が検討され、使われ始めている。μ−TAS技術を採用することにより、従前であれば設備の整った医療現場や研究室でなければ測定することができなかった、血糖値や汚染物質の測定が、より簡単に測定可能となるため、その開発が注目されている。
【0003】
このμ−TASチップは、例えばシリコンやガラスなどの基板上に、高精度な微細加工を施し、化学合成や、化学分析の単位操作である混合、反応、検出や分離回収といったさまざまな要素をマイクロ化して基板上に集積化したものである。
【0004】
しかしながら、従前のシステムでは、予め設定されたプロセス、即ち所望の分析(検査)にしか対応できないため、複数の分析を行うには、複数の専用μ−TASチップを用意する必要があった。このような複数の専用μ−TASチップを形成するには、その分析のプロセスに応じた基板の加工が必要であり、エッチングや射出形成等のマスクを分析ごとに準備し、随時その加工を行わねばならなかった。
【0005】
一方、例えば、下記特許文献1には、バルブ構造体により流路の流れの制御が可能な化学反応用マイクロμ−TASチップが開示されている。
【特許文献1】特開2005−345279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記バルブ構造体の形成やその制御には精密な技術が必要である等の問題がある。
【0007】
また、より簡単に多種の分析を可能とするμ−TASチップの開発が重要であり、かかる開発は、μ−TASチップのアプリケーションの増加に伴い、さらに重要となる。
【0008】
そこで、本発明は、製作が容易で大量生産に適した分析装置(μ−TAS)を提供することを目的とする。また、多種の分析にも対応可能な分析装置および分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る分析装置は、複数の注入部と、複数の検査部と、上記複数の注入部と上記複数の検査部との間をそれぞれ接続する複数の第1流路と、上記複数の第1流路の分岐点間を接続する第2流路とを有する基板と、少なくとも上記基板の上記第1流路および上記第2流路を覆う膜と、を有し、上記分岐点近傍において、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路との接着部を有する。
【0010】
かかる構成によれば、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路との接着部により、注入部から検査部への流路が適宜堰き止められ、注入部から検査部までの所望の流路が確保される。よって、少量の試料や薬液によって、所望の検査を行うことができる。また、接続部により流路を適宜切り替えることができるため、その作成が比較的容易であり、また、多種の分析にも対応可能となる。なお、分岐点近傍とは分岐点も含むものである。
【0011】
(2)本発明に係る分析装置は、複数の注入部と、複数の検査部と、上記複数の注入部と上記複数の検査部との間をそれぞれ接続する複数の第1流路と、上記複数の第1流路の分岐点間を接続する第2流路とを有する基板と、少なくとも上記基板の上記第1流路および上記第2流路を覆う膜と、上記分岐点近傍において、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路との接着可能部と、を有し、上記接着可能部を適宜接着することにより上記複数の注入部と上記複数の検査部との接続状態を変化できる。
【0012】
かかる構成によれば、接着可能部において、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路とを接着することにより、上記複数の注入部と上記複数の検査部との接続状態を変化できる。即ち、注入部から検査部への流路が適宜堰き止められ、注入部から検査部までの所望の流路が確保される。よって、少量の試料等によって、所望の検査を行うことができる。また、いずれの接着可能部を接着するかによって、流路を適宜切り替えることができるため、その作成が比較的容易であり、また、多種の分析にも対応可能となる。
【0013】
好ましくは、上記第1流路には処理部が設けられ、上記分岐点は、上記処理部の上記注入部側および上記検査部側にそれぞれ設けられる。かかる構成によれば、処理部により、試料等と薬剤の混合、反応もしくは分離など種々の処理を行うことができ、検査を効率的に行うことができる。また、処理部の前後に分岐点を設け、これらの近傍に接着部もしくは接着可能部を設けることで、不要の処理部に試料等が流れ込むことを防止することができる。
【0014】
好ましくは、上記接着部もしくは上記接着可能部において、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路との間が、ピンによる押圧もしくは熱圧着により接着されている。かかる構成によれば、ピンによる押圧等により容易に接着が可能である。
【0015】
好ましくは、上記接着部もしくは上記接着可能部において、上記第1流路および上記第2流路の幅が大きくなっている。かかる構成により、接着をより強固にすることができる。また、接着位置の判定が容易となる。
【0016】
好ましくは、上記接着部もしくは上記接着可能部において、上記第1流路および上記第2流路の底部の断面形状が曲面である。かかる構成により、接着をより強固にすることができる。
【0017】
(3)本発明に係る分析方法は、複数の注入部と、複数の検査部と、上記複数の注入部と上記複数の検査部との間をそれぞれ接続する複数の第1流路と、上記複数の第1流路の分岐点間を接続する第2流路とを有する基板と、少なくとも上記基板の上記第1流路および上記第2流路を覆う膜と、を有する分析装置を準備する工程と、上記分析装置の上記分岐点近傍において、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路との間を接着することにより、上記複数の注入部と上記複数の検査部との接続状態を変化させる工程と、を有する。
【0018】
かかる方法によれば、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路との間を接着することにより、注入部から検査部への流路が適宜堰き止められ、注入部から検査部までの所望の流路が確保される。よって、少量の試料等によって、所望の検査を行うことができる。また、接続部により流路を適宜切り替えることができ、容易に分析を行うことができる。また、多種の分析にも対応可能となる。
【0019】
好ましくは、上記第1流路には処理部が設けられ、上記分岐点は、上記処理部の上記注入部側および上記検査部側にそれぞれ設けられている。かかる方法によれば、処理部により、試料等と薬剤の混合、反応もしくは分離など種々の処理を行うことができ、検査を効率的に行うことができる。また、処理部の前後に分岐点を設け、分岐点近傍において、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路との間を接着することにより、不要の処理部に試料等が流れ込むことを防止することができる。
【0020】
好ましくは、上記接着を行う工程は、上記膜と上記第1流路もしくは上記第2流路との間を、ピンによる押圧もしくは熱圧着により接着する工程である。かかる方法によれば、ピンによる押圧等により容易に接着、即ち、容易に流路を切り替えることが可能となる。
【0021】
好ましくは、上記第1流路および上記第2流路は、これらの幅が大きくなっている幅広部を有し、上記接着を行う工程は、上記幅広部において行われる。かかる方法によれば、接着をより強固にすることができる。また、接着位置の判定が容易となる。
【0022】
好ましくは、上記第1流路および上記第2流路は、その底部の断面形状が曲面となっている部位を有し、上記接着を行う工程は、上記部位において行われる。かかる方法によれば、接着をより強固にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本実施の形態について説明する。なお、同一の機能を有するものには同一もしくは関連の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0024】
図1は、本実施の形態のμ−TASチップ(分析装置)の上面図である。また、図2は、本実施の形態のμ−TASチップの分岐部近傍の接着方法を示す工程断面図であり、例えば図1のA−A断面部に対応する。図3〜図5は、プログラム後のμ−TASチップの例を示す上面図である。図6は、本実施の形態のμ−TASチップの使用状態(分析方法)を示す斜視図であり、図7は、プログラム工程を示す斜視図である。
【0025】
図1および図6に示すように、本実施の形態のμ−TASチップ1は、基板3とフィルム(膜、被覆膜、上基板)30との積層構造を有し(図6(A)参照)、基板3には、注入孔(注入部、試料・薬液注入部)11と検査部(検出部、判定部)19とを複数有し、これらの間が幹線流路21で接続されている(図1参照)。また、それぞれの幹線流路21中には、処理部として混合部13、反応部15および分離部17が設けられている。また、幹線流路(第1流路、流路)21間は、支線流路(第2流路、流路)23で接続されている。基板3は、例えばガラス基板である。
【0026】
図1に示すように、例えば、幹線流路21は、x方向に延在し、支線流路23は、y方向に延在している。即ち、これらの流路は、縦横に交差するよう配置されている。この交差部(交点)を分岐部25と言う。この分岐部25の近傍には、接着予定部(接着可能部、切り替え部)27が設けられている。即ち、分岐部25に接続する幹線流路21および支線流路23に接着予定部27が設けられている。言い換えれば、分岐部25間、分岐部25と処理部(混合部13、反応部15および分離部17)間、分岐部25と注入孔11間および分岐部25と検査部19間に接着予定部27が設けられている。
【0027】
図6に示すように、注入孔11、混合部13、反応部15、分離部17および検査部19は、基板3を加工して凹部として形成される。なお、注入孔11および検査部19は、後述のフィルム30の開口部を利用し、基板3に凹部を設けなくてもよい。また、これらを接続する幹線流路21および支線流路23は、基板3の表面に設けられた溝であり、溝の底面は曲面となっている。言い換えれば、溝の断面形状は、略U字状である(図2(A)参照)。また、接着予定部27の幅は、幹線流路21および支線流路23の幅より大きく、幅広部となっている。その平面(上面)形状は、略円形であり、接着予定部27においても、溝の底面は曲面となっている。言い換えれば、接着予定部27の断面形状は、略U字状である(図2(A)参照)。
【0028】
また、注入孔11以外の領域は、フィルム30によって覆われている。このフィルム30は、例えば、樹脂よりなり、注入孔11および検査部19上は開口されている。
【0029】
この接着予定部27を図2に示すように、圧着することにより、流路を切り替えることができる。言い換えれば、複数の注入孔11と複数の検査部19との接続状態を変化させることができる。また、別の言い方をすれば、μ−TASチップのプログラム(書き込み)が可能となる。即ち、注入孔11から検査部19への流路が適宜堰き止められ(遮断され)、注入孔11から検査部19までの所望の流路が確保される。
【0030】
まず、図2(A)に示す接着予定部27の上部からフィルム30を介してピン33で押圧することにより(図2(B))、接着部27aを形成する。言い換えれば、接着予定部27において、フィルム30と基板(流路21、23)3とを接着する。この接着方法については、ピン33を加熱し、熱圧着としても良いし、また、フィルム30に超音波振動を加えることによりフィルム30の軟化を行った後、もしくは超音波を加えつつピン33による押圧を行い接着してもよい。また、接着予定部27にピン33を介してレーザー光を照射することにより接着を行ってもよい。この場合、ピン33は透明である(光透過性を有する)ことが好ましい。この接着工程の後は、ピン33を離してもフィルム30と基板(流路21、23)3とは接着したままとなっている。
【0031】
ここで、前述したように、溝の断面形状は、略U字状である(図2(A)参照)ため、フィルム30と溝の底部(基板3)との接着状態を良好にすることができる。例えば、溝の断面を略矩形状とした場合と比較し、隙間ができ難く、より接着を強固にすることができる。よって、試料等を効果的に堰き止めることができる。なお、流路全体においてその溝の底部を略U字状としてもよいが、少なくとも接着予定部27において上記構成であればよい。また、接着予定部27の幅を流路より広くすることで、接着面積を大きくでき、より接着を強固にすることができる。また、接着位置の判定(認識)が容易となり、ピン33との位置あわせが容易となる。なお、ピン33による接着以外の方法で接着を行なってもよい。但し、ピン33を用いた場合、簡便に、より強固な接着が可能となるため、他の方法より有利である。また、ピン33の先端を加工することにより容易に溝形状と対応させることができ、より簡便に接着を行うことができる。
【0032】
フィルム30の材料としては、上記接着が可能であれば特に限定はないが、PET(ペット、ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニール)、PC(ポリカーボンネート)等を用いて好適である。この場合、下層の基板をフィルムと同一の材質とすることで、接着強度を高めることができる。
【0033】
このように、本実施の形態のμ−TASチップ1によれば、複数の注入孔11と検査部19との間の幹線流路21間を処理部の前後(注入部側および検査部側)において支線流路23で碁盤目状に接続し、これらの分岐部25もしくは分岐部25近傍に接着予定部27を設けたので、接着予定部27において適宜流路を堰き止めることができ、検査(分析、試験)に必要な所望の流路を確保することができる。言い換えれば、必要な注入孔11と検査部19との接続を図ることができる。また、本実施の形態によれば、1のμ−TASチップ1で種々の検査を行うことができる。このような所望の流路の形成をここでは「プログラム」という。また、このプログラムは、μ−TASチップの書き込みとも言える。
【0034】
次に、図3および図4を参照しながらプログラム後のμ−TASチップ1について説明する。
【0035】
図3に示すように、上から3番目の幹線流路21以外の5本の幹線流路21について混合部13の手前(注入孔11側)の接着予定部27を上記の接着方法を用いて接着し、さらに、上から3番目の幹線流路21から延在する支線流路23のうち、最も注入孔11よりの支線流路23以外の支線流路23上の接着予定部27を上記の接着方法を用いて接着する。このように、11個の接着部27aを形成する。図3および図4においては、接着部27aを黒丸で示す。よって、本プログラムにより、6つの注入孔11と1つの検査部(図中上から3番目)19とが接続される。よって、例えば、6つの試料もしくは薬液(以下「試料等」という)を混合部13にて混合し、反応部15において反応させ、分離部17等において、沈殿物等を沈殿させることにより分離し、検査部19において検査を行う。例えば、上記沈殿物を取り除いた溶媒と試薬等と接触させることにより検査(検出、判定)を行う。
【0036】
なお、所望の流路を阻害しない範囲で、上記11個の接着部27a以外の接着予定部27を接着してもよい。例えば、注入孔11側から2、3および4列目の支線流路23上の接着予定部27をすべて上記の接着方法を用いて接着してもよい。ここで、接着箇所が少ない方が、プログラム(接着)を短期間で行え、また、熱圧着の場合には、熱負荷を低減できる。一方、試薬の流路とならない流路上の接着予定部27をすべて接着する場合(図5参照)は、後述するプログラムの際、所望の流路上のピン33を上昇させるだけでプログラムができ、プログラムミスを低減することができる。
【0037】
ここで、例えば、基板3が搭載されるステージ(図6(B)参照)の反応部15に対応する位置にはヒーターが内蔵されており、加熱反応や加熱による反応促進を行う。なお、このヒーターは、例えば電位を印加した場合の抵抗の発熱等を利用することができる。また、この他、電位の印加による電気的分離や吸着などを行ってもよい。なお、μ−TASチップ(基板3)1の内部に電位印加部(ヒータ等)を内蔵させてもよい。この場合、基板として、シリコン基板のような導電性の基板を用いることで、電気的な処理(制御)が可能となり、より高度な処理(検査)を行うことができる。
【0038】
また、他のプログラム(チップレイアウト)例を図4に示す。ここでは、図示するように、上から3番目の幹線流路21以外の5本の幹線流路21について最初の分岐部25の手前(注入孔11側)の接着予定部27を上記の接着方法を用いて接着し、さらに、注入孔11側から2列目の支線流路23上の接着予定部27をすべて上記の接着方法を用いて接着する。また、注入孔11側から3列目および4列目の支線流路23上の接着予定部27も、同様にすべて接着する。このように、20個の接着部27aを形成する。よって、本プログラムにより、1つの注入孔(図中上から3番目)11と6つの検査部19とが接続される。よって、例えば、1つの試料等を混合部13を介して反応部15に流入させ、当該反応部15おいて反応させ、分離部17等において、沈殿物等を沈殿させることにより分離し、検査部19において6種類の検査を行う。例えば、上記沈殿物を取り除いた溶媒と6種類の試薬等とを接触させることにより6種類の検査を行う。
【0039】
なお、注入孔11への試料等の注入は、例えば、図6(B)に示すポンプユニット5により行われる。ポンプユニット5内の液溜め部から加圧手段であるポンプ等によって配管51を通じて試料等が各注入孔11に注入される。なお、この場合、液溜め部は6箇所存在し、それぞれが、6本の配管51とポンプを介して接続されている。また、図示するように、ポンプユニット5は、ステージ53と接合され、このステージ53上にμ−TASチップ1が脱着可能に搭載される。なお、図6においては接着部27aの明示を省略してある。
【0040】
このように、ポンプ(ポンプユニット5)を用いることで、注入孔11から検査部19までの流路(経路)の長短や屈曲数にかかわらず検査部19に試料等を流入させることができる。
【0041】
以上、詳細に説明したように本実施の形態によれば、μ−TASチップ1において接着予定部27を設け、流路を切り替えられるようにしたので、μ−TASチップ1のプログラム(作成、形成、流路設定)が比較的容易となり、また、多種の分析にも対応可能となる。このような切り替え(プログラム)は、μ−TASチップ1の製造メーカにおいて行ってもよいし、ユーザー、例えば、医療機関や研究室などで行ってもよい。この場合、製造メーカは接着予定部27の接着(プログラム)は行わず納入(販売)される。
【0042】
また、本実施の形態によれば、ピン33による押圧などの比較的簡便な方法で、接着予定部27の接着(プログラム)が可能であるため、そのプログラム装置も小さくまた安価に製造することができる。
【0043】
図7にプログラム装置の一例を示す。例えば、図7に示すように、y方向に6又は5個のピンがx方向に12列配置されたピン配列を有する押し部材71を有するプログラム装置(ドットマトリックスプリンタ)を準備する。このステージ73上にμ−TASチップ1(未プログラム状態のもの)を搭載し、所望の流路となるよう接着すべき接着予定部27に対応するピン33を下げ、押し部材71をμ−TASチップ1に押圧することにより接着部を形成する。即ち、フィルム30を塑性変形させる。なお、図7に示す下降ピン33のレイアウトは、図3のμ−TASチップのプログラムと対応する。
【0044】
このピン33の昇降(上下)には、例えば、電磁石を用いることができる。例えば、押し部材71の上部に配置された電磁石の、所望のピン位置に対応する部位に電流を印加することにより、磁力でピンを昇降させることができる。このように電磁石によりピンのレイアウトを制御することで、高速に大量、多種のμ−TASチップのプログラムが可能となる。
【0045】
この際、前述したように、押し部材71に接続されるヒーター(図示せず)によりピン33を加熱し、熱圧着を行ってもよい(加熱変形させてもよい)。また、押し部材71の上部にレーザー照射部を配置し、ピン33を介して接着予定部27にレーザー光を照射し、熱圧着を行ってもよい。また、プログラム装置に超音波発生部を設け、μ−TASチップ1の表面を覆うフィルム30に超音波発生部から超音波を印加してもよい。
【0046】
このように、本実施の形態のμ−TASチップ1によれば、比較的簡易な構成のプログラム装置でプログラムを行うことができるため、ユーザーでのプログラムも容易に行うことができる。また、小さい装置、例えば、ミニプリンタ程度の大きさで対応可能であるため、試料等の採取地や集団検診場所等への携帯も可能となり、現地でのプログラムも可能となる。このように利便性が向上する。なお、このプログラム工程および検査工程を含め分析工程(分析方法)ととらえることができる。また、プログラム工程を分析装置(分析機器)の製造工程(製造方法)の一部としてとらえることもできる。
【0047】
また、本実施の形態のμ−TASチップ1(未プログラム)によれば、種々の場所でのプログラムが可能であり、試料等の検査までの期間を短縮することができる。よって、フィルム30や基板3の接着部の経時変化による流路の変化(劣化)による検査ミスを低減することができる。また、製造メーカによるプログラム(出荷)からユーザーにおける検査まで、また、ユーザーによるプログラムから検査までの期間を短縮可能である。
【0048】
また、プログラム前の状態でμ−TASチップ1を長期保存が可能である。また、プログラム前の状態でμ−TASを搬送することにより耐振動性などが向上する。
【0049】
また、プログラム後であっても、従来のμ−TASチップ1と比較し、保存性、耐振動性などが向上する。これは、本実施の形態のμ−TASチップ1によれば、流路の切り替え構成が単純であるため、構成樹脂の選択範囲が広く、例えば、従来の加工性を重視したμ−TASチップ1の構成樹脂(例えば、光硬化性樹脂を用いたもの)と比較し、保存性、耐振動性などが有利となるからである。また、バルブを用いた従来のμ−TASチップでは、振動によるバルブの切り替わりや長期保存によるバルブの緩みが生じやすいが、本実施の形態のμ−TASチップは、塑性変形(加熱変形)をおこなっているため、プログラム後の流路の切り替わりが起こり難く、長期保存にも耐え得る。
【0050】
このように本実施の形態のμ−TASチップ1によれば、プログラム前後を問わず、上記効果を奏する。また、当該μ−TASチップ1を用いて検査、分析を行うことにより上記効果を奏する。
【0051】
なお、上記実施の形態によれば、基板3としてガラス基板を例に説明したが、他の材料、例えば樹脂(プラスティック)基板やシリコン基板等を用いてもよく、また、これらの基板の積層基板でμ−TASチップ1を構成してもよい。また、本実施の形態においては、処理部として混合部13、反応部15および分離部17を設けたが、これらをすべて形成する必要はなく、また、さらに他の処理部を設けてもよい。また、μ−TASチップ1内に形成されている処理部をすべて使用する必要はなく、当該部位を単なる流路として使用してもよい。但し、多種の検査に対応可能とするためには、一般的な処理部を予め用意しておき、検査の種類に応じて処理を省略(単なる流路として使用)することが好ましい。
【0052】
また、本実施の形態によれば、分岐部25に接続する幹線流路21および支線流路23に接着予定部27を設けたが、分岐部25において接着を行ってもよい。また、接着予定部27の形成箇所をさらに、多くしてもよいし、また、接着予定部27の一部を省略してもよい。なお、接着予定部27が多い方が、流路の切り替えのバリエーションが多くなる。なお、図1においては、6箇所の注入孔および検査部19を形成したが、これらの数に限定がないことは言うまでもない。
【0053】
また、上記発明の実施の形態を通じて説明された実施例や応用例は、用途に応じて適宜組み合わせて、又は変更若しくは改良を加えて用いることができ、本発明は上述した実施形態の記載に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本実施の形態のμ−TASチップ(分析装置)の上面図である。
【図2】図2は、本実施の形態のμ−TASチップの分岐部近傍の接着方法を示す工程断面図である。
【図3】図3は、プログラム後のμ−TASチップの例を示す上面図である。
【図4】図4は、プログラム後のμ−TASチップの例を示す上面図である。
【図5】図5は、プログラム後のμ−TASチップの例を示す上面図である。
【図6】図6は、本実施の形態のμ−TASチップの使用状態を示す斜視図である。
【図7】図7は、本実施の形態のμ−TASチップのプログラム工程を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
1…μ−TASチップ、3…基板、5…ポンプユニット、11…注入孔、13…混合部、15…反応部、17…分離部、19…検査部、21…幹線流路、23…支線流路、25…分岐部、27…接着予定部、27a…接着部、30…フィルム、33…ピン、51…配管、53…ステージ、71…押し部材、73…ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の注入部と、複数の検査部と、前記複数の注入部と前記複数の検査部との間をそれぞれ接続する複数の第1流路と、前記複数の第1流路の分岐点間を接続する第2流路とを有する基板と、
少なくとも前記基板の前記第1流路および前記第2流路を覆う膜と、を有し、
前記分岐点近傍において、前記膜と前記第1流路もしくは前記第2流路との接着部を有することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
複数の注入部と、複数の検査部と、前記複数の注入部と前記複数の検査部との間をそれぞれ接続する複数の第1流路と、前記複数の第1流路の分岐点間を接続する第2流路とを有する基板と、
少なくとも前記基板の前記第1流路および前記第2流路を覆う膜と、
前記分岐点近傍において、前記膜と前記第1流路もしくは前記第2流路との接着可能部と、を有し、
前記接着可能部を適宜接着することにより前記複数の注入部と前記複数の検査部との接続状態を変化できることを特徴とする分析装置。
【請求項3】
前記第1流路には処理部が設けられ、前記分岐点は、前記処理部の前記注入部側および前記検査部側にそれぞれ設けられることを特徴とする請求項1又は2記載の分析装置。
【請求項4】
前記接着部もしくは前記接着可能部において、前記膜と前記第1流路もしくは前記第2流路との間を、ピンによる押圧もしくは熱圧着により接着されていることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか一項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記接着部もしくは前記接着可能部において、前記第1流路および前記第2流路の幅が大きくなっていることを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか一項に記載の分析装置。
【請求項6】
前記接着部もしくは前記接着可能部において、前記第1流路および前記第2流路の底部の断面形状が曲面であることを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか一項に記載の分析装置。
【請求項7】
複数の注入部と、複数の検査部と、前記複数の注入部と前記複数の検査部との間をそれぞれ接続する複数の第1流路と、前記複数の第1流路の分岐点間を接続する第2流路とを有する基板と、少なくとも前記基板の前記第1流路および前記第2流路を覆う膜と、を有する分析装置を準備する工程と、
前記分析装置の前記分岐点近傍において、前記膜と前記第1流路もしくは前記第2流路との間を接着することにより、前記複数の注入部と前記複数の検査部との接続状態を変化させる工程と、
を有することを特徴とする分析方法。
【請求項8】
前記第1流路には処理部が設けられ、前記分岐点は、前記処理部の前記注入部側および前記検査部側にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項7記載の分析方法。
【請求項9】
前記接着を行う工程は、前記膜と前記第1流路もしくは前記第2流路との間を、ピンによる押圧もしくは熱圧着により接着することを特徴とする請求項7又は8記載の分析方法。
【請求項10】
前記第1流路および前記第2流路は、これらの幅が大きくなっている幅広部を有し、前記接着を行う工程は、前記幅広部において行われることを特徴とする請求項7乃至9の内いずれか一項に記載の分析方法。
【請求項11】
前記第1流路および前記第2流路は、その底部の断面形状が曲面となっている部位を有し、前記接着を行う工程は、前記部位において行われることを特徴とする請求項7乃至9の内いずれか一項に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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