説明

分析装置および分析方法

【課題】 測定に必要な時間をより短縮することが可能な分析装置および分析方法を提供すること。
【解決手段】 本発明における分析方法は、複数の成分要素からなる成分群を含有する試料Sを分析し、上記成分群の中に含まれる、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の量を示す被検出成分要素値を求めるための方法であり、試料Sの中に含まれる上記成分群の量を示す成分群値を測定する第1の測定工程と、上記成分群から、上記被検出成分要素を分離する分離工程と、上記分離工程で分離された上記被検出成分要素を検出するとともに、上記成分群値を用いて上記被検出成分要素値を導出する第2の測定工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる特定成分の濃度もしくは量を分析する分析方法として、たとえば、キャピラリー電気泳動法を用いた分析方法が広く実施されている。キャピラリー電気泳動法は、断面積が比較的小である分離流路に泳動液を充填し、さらに上記分離流路の一端寄りに上記試料を導入する。上記分離流路の両端に電圧を加えると、電気泳動により上記泳動液が正極側から負極側へと移動する電気浸透流が生じる。また、上記電圧が印加されることにより、上記特定成分は、それぞれの電気泳動移動度に応じて移動しようとする。したがって、上記特定成分は、上記電気浸透流の速度ベクトルと上記電気泳動による移動の速度ベクトルとを合成した速度ベクトルにしたがって移動する。この移動によって、上記特定成分が他の成分から分離される。この分離された特定成分をたとえば光学的手法によって検出することにより、上記特定成分の量や濃度を分析することができる。
【0003】
図7は、従来の分析装置の一例を示している(たとえば、特許文献1参照)。同図に示された分析装置Xは、陽極槽91、陰極槽92、キャピラリー93、高圧電源94、検出器95、および、1対の電極96,97を備えている。キャピラリー93の両端は陽極槽91および陰極槽92内の泳動液に浸されており、管状のキャピラリー93の内部は泳動液で満たされている。電極96,97は高圧電源94と電気的に接続されている。分析装置Xでは、キャピラリー93の一方より試料を注入し、電極96,97間に電圧を印加して電気泳動を発生させることにより試料に含まれる特定成分を分離し、分離された特定成分を検出器95で検出する。検出器95は、たとえば吸光度変化を測定するものであり、その測定結果からたとえば図8に示すような複数のピークを有するエレクトロフェログラムが得られる。
【0004】
分析装置Xは、たとえば糖尿病診断のための血液検査に用いられる。血液中のヘモグロビン類、なかでも糖化ヘモグロビン類の一種である安定型ヘモグロビンA1cは、過去1〜2ヵ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映しているため、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための検査項目として広く利用されている。分析装置Xでは、電気泳動を用いて安定型ヘモグロビンA1cを測定の障害となる成分から分離している。
【0005】
図8に現れている各ピークの面積値を算出し、その合計値から胎児性ヘモグロビンのピークFの面積値を除外したものを基準となる基準面積値として算出する。安定型ヘモグロビンA1cのピークA1cの面積値を基準面積値で割ることにより安定型ヘモグロビンA1c値は算出される。
【0006】
図8に示すように、各ピークの中でも最も大きなピークA0がピークA1cの後に出現するため、正確な安定型ヘモグロビンA1c値を算出するにはピークA0の出現を待つ必要がある。ピークA0の出現が完了するまでには時間を要するため、従来の方法では測定にかかる時間が長くなる傾向があり、測定時間の短縮の要請に応えることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−109231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、測定に必要な時間をより短縮することが可能な分析装置および分析方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面によって提供される分析方法は、複数の成分要素からなる成分群を含有する試料を分析し、上記成分群の中に含まれる、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の量を示す被検出成分要素値を求める分析方法であって、上記試料の中に含まれる上記成分群の量を示す成分群値を測定する第1の測定工程と、上記成分群から、上記被検出成分要素を分離する分離工程と、上記分離工程で分離された上記被検出成分要素を検出するとともに、上記成分群値を用いて上記被検出成分要素値を導出する第2の測定工程と、を備えている。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1の測定工程は、上記試料に対して吸光度測定を行う第1の吸光度測定工程を含んでおり、上記成分群値は上記第1の吸光度測定工程で得られる値であり、上記第2の測定工程は、上記分離工程により分離された上記試料に対して吸光度を測定する第2の吸光度測定工程と、上記第2の吸光度測定工程で得られた値と上記成分群値とを用いて上記被検出成分要素値を導出する演算工程と、を含んでいる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記分離工程は、電気泳動法を用いて行われる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1の吸光度測定工程を上記分離工程の開始前に行う。
【0013】
本発明の別の好ましい実施の形態においては、上記第1の吸光度測定工程を上記分離工程の開始後、上記第2の吸光度測定工程が終了する前に行う。
【0014】
本発明のさらに別の好ましい実施の形態においては、上記分離工程は、上記試料が導入される分離流路に第1の電圧を流すことにより行われ、上記第1の測定工程は、上記第1の電圧よりも強い第2の電圧を上記分離流路に流す工程を含んでいる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記演算工程は、上記被検出成分要素値を上記成分群値で割る処理を行う。
【0016】
本発明の第2の側面によって提供される分析装置は、複数の成分要素からなる成分群を含有する試料を貯留する試料容器と、一方の端部から上記試料が導入される分離流路と、上記分離流路の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加する電圧印加手段と、上記分離流路を通る上記複数の成分要素を検出する分析手段と、を備えており、上記分離流路の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加することにより、上記分離流路中で上記複数の成分要素が分離されるように構成された分析装置であって、上記分析手段は、上記試料中の上記成分群を検出する予備検出手段を備えていることを特徴とする。
【0017】
好ましい実施の形態においては、上記予備検出手段は、上記分離流路において上記複数の成分要素が分離され、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の検出を行う前に、上記試料中の上記成分群の検出を行う。
【0018】
好ましい実施の形態においては、上記予備検出手段により上記成分群を検出する第1の測定部と、上記分離流路において分離された上記複数の成分要素を検出する第2の測定部と、が設けられている。
【0019】
好ましい実施の形態においては、上記第1の測定部が、上記試料容器に設けられている。
【0020】
好ましい実施の形態においては、上記第1の測定部が、上記分離流路上の、上記第2の測定部よりも一方の端部側に設けられている。
【0021】
好ましい実施の形態においては、上記予備検出手段が、上記第1の測定部に向けて光を照射する第1の発光部と、上記測定部からの光を受光する第1の受光部とによって構成されており、上記分析手段は、上記分離流路に向けて光を出射する第2の発光部と、上記分離流路からの光を受光する第2の受光部と、上記第1の受光部および上記第2の受光部が受光した光を検出する検出部とを備えている。
【0022】
好ましい実施の形態においては、上記予備検出手段は、上記分離流路において上記複数の成分要素が分離され、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の検出された後に、上記試料中の上記成分群の検出を行う。
【0023】
好ましい実施の形態においては、上記電圧印加手段は、第1の電圧と、上記第1の電圧よりも強い第2の電圧とを上記分離流路に印加可能である。
【0024】
このような構成によれば、上記第1の測定工程により上記成分群値を求めることができるため、従来のように上記成分群値を求めるために上記第2の測定工程を長時間続ける必要が無くなっている。このため、必要な値が得られた時点で上記第2の測定工程を切り上げることが可能となっている。したがって、測定に必要な時間をより短縮することが可能である。
【0025】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係る分析装置を示す全体構成図である。
【図2】図1に示す分析装置を用いた分析方法を説明するための図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る分析装置を示す全体構成図である。
【図4】図3に示す分析装置を用いた分析方法を説明するための図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る分析装置を示す全体構成図である。
【図6】図5に示す分析装置を用いた分析方法を説明するための図である。
【図7】従来の分析装置の一例を示す全体構成図である。
【図8】従来の分析装置を用いた分析方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0028】
図1は、本発明に係る分析装置の一例を示している。本実施形態の分析装置A1は、マイクロチップ1、電圧印加手段2、試料容器3、および、分析手段4を備えている。本実施形態においては、分析装置A1は、キャピラリー電気泳動法を用いた分析を行う。
【0029】
マイクロチップ1は、たとえばシリカからなり、導入槽11、分離流路12、および排出槽13を有する。導入槽11は、キャピラリー電気泳動法においていわゆるバッファとして機能する泳動液、および分析の対象である試料Sが導入される槽である。泳動液としては、たとえば100mMりんご酸−アルギニンバッファ(pH5.0)が挙げられる。試料Sは、たとえば血液または希釈された血液である。
【0030】
分離流路12は、キャピラリー電気泳動法を用いた分析が行われる場であり、一般的に微細な流路として形成されている。分離流路12の寸法の一例を挙げると、断面形状が直径25〜100μmの円形、または辺の長さが25〜100μmの矩形であることが好ましく、長さが30mm程度であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0031】
排出槽13は、分離流路12に対してキャピラリー電気泳動法における流動下流側に位置している。排出槽13には、たとえば図示しない排出ノズルが取り付けられる。この排出ノズルは、図外の吸引ポンプによって分析が終了した試料Sおよび泳動液を排出するためのものである。
【0032】
電圧印加手段2は、分離流路12を挟んで導入槽11および排出槽12からキャピラリー電気泳動法に必要な電圧を印加するためのものであり、電源部21、導入側電極22、および、排出側電極23を備えている。
【0033】
電源部21は、キャピラリー電気泳動法に必要な電圧を発生するためのものであり、たとえば1.5kV程度の電圧を発生する。導入側電極22は、たとえばCuからなり、電源部21の端子に接続されており、導入槽11に浸漬される。排出側電極23は、たとえばCuからなり、電源部21の端子に接続されており、排出槽13に浸漬される。
【0034】
導入ノズル24は、導入槽11に試料Sを導入するためのものであり、図1に示すように、ホースなどを介して試料Sが貯蔵された試料容器3に接続されている。
【0035】
試料容器3は、試料Sを貯留しておくための容器であり、たとえば円筒状に形成されており、側方に3〜5mmだけ突き出すように形成された第1の測定部31を備えている。第1の測定部31は、その断面が分離流路12と同じとなるように形成されている。この第1の測定部31にも試料Sが入り込んでいる。
【0036】
分析手段4は、たとえば吸光度の測定を実行するものであり、図1に示すように光源41、検出部42、第1の発光部43、第1の受光部44、第2の発光部45、および、第2の受光部46を備えている。光源41は、たとえば図示しないレーザー発振装置を備えている。この図示しないレーザー発振装置は、吸光度測定に用いられる光を発生するためのものであり、たとえばA1cなどのヘモグロビンの濃度を分析する場合には波長が415nmの光を発生するが、これに限定されるものではない。第1の発光部43および第2の発光部45は、たとえば光ファイバにより光源41と接続されている。第1の発光部43は、光源41からの光を第1の測定部31に向けて照射する。第2の発光部45は、光源41からの光を分離流路12に設けられた第2の測定部12Bに向けて照射する。第1の受光部44は、第1の測定部31からの光を受光する部位であり、たとえば光ファイバを介して検出部42と接続されている。第2の受光部46は、分離流路12からの光を受光する部位であり、たとえば光ファイバを介して検出部42と接続されている。検出部42は、第1の受光部44および第2の受光部46が受けた光を検出する。
【0037】
なお、第1の発光部43および第1の受光部44は本発明の予備検出手段に相当する。
【0038】
分析手段4は、図示しない演算手段に連結されている。この演算手段は、たとえば電子計算機であり、分析手段4の検出部42で得られた検出結果から後述する手法で吸光度を算出する。さらに、吸光度を用いて行う後述する演算処理もこの演算手段が行う。
【0039】
次に、分析装置A1を用いた分析方法について説明する。なお、以下で行う分析は、ヘモグロビン類中に安定型ヘモグロビンA1cがどの程度含まれているかを示す安定型ヘモグロビンA1c値P1を求めるものである。この場合、ヘモグロビン類は本発明における成分群に相当する。ヘモグロビン類に含まれる各種のヘモグロビンが本発明における複数の成分要素に相当し、安定型ヘモグロビンA1cが被検出成分要素に相当する。
【0040】
なお、以下の説明においては、簡略化のために、ヘモグロビン類中の胎児性ヘモグロビンに対する処理を省略している。図2には安定型ヘモグロビンA1cのピークとヘモグロビンA0のピークとを示しており、他のピークは省略している。胎児性ヘモグロビンを考慮する場合には従来の手法と同様に行うことが可能である。具体的には、胎児性ヘモグロビンのピークの面積値Pfを算出し、後述するヘモグロビン類値P0から胎児性ヘモグロビンのピークの面積値Pfを引いたものを用いて安定型ヘモグロビンA1c値P1の算出を行う。
【0041】
分析装置A1を用いて分析を行う際には、予めマイクロチップ1の排出槽13および分離流路12に、バッファとしての泳動液を充填しておき、試料容器3に試料Sを充填しておく。
【0042】
まず、ヘモグロビン類が試料Sにどの程度の含まれているかを示す指標であるヘモグロビン類値を求める第1の測定工程を行う。この第1の測定工程では、第1の吸光度測定工程を行う。第1の吸光度測定工程においては、第1の発光部43により第1の測定部31に向けて光を照射し、試料Sが充填された第1の測定部31を通過した光を第1の受光部44により受光する。このとき第1の測定部31を通過する光は、試料S中のヘモグロビン類に吸収されなかった光である。第1の発光部43から出力される光の強さIiと、検出部42が検出する光の強さIoとを比較することで、上記試料S中のヘモグロビン類によりどの程度の光が吸収されたかを示す吸光度を得ることができる。この場合の吸光度は、たとえばlog(Ii/Io)により求められる。ランバート・ベアの法則によると、このように得られる吸光度は試料S中のヘモグロビン類の濃度に換算可能な値である。ここで得られる吸光度をヘモグロビン類値P0とする。このヘモグロビン類値P0は、本発明における成分群値に相当する。なお、本発明における成分群値は、試料中における成分群の量を示すものであり、複数の成分要素の各々の量を示す成分要素値の総和あるいは必要に応じて一部の成分要素値を引いた値である。本発明における被検出成分要素値は、被検出成分要素が上記成分群中において占める比率を表すものである。
【0043】
次に、試料S中のヘモグロビン類から安定型ヘモグロビンA1cを分離する分離工程を行う。この工程では、まず、導入ノズル24を用いて導入槽11に試料Sを導入する工程を行う。続けて、電源部21から導入側電極22および排出側電極23を介して電圧を印加する工程を行なう。これにより、分離流路12において電気泳動が生じる。この電気泳動により、たとえば安定型ヘモグロビンA1cを含む各種ヘモグロビンが分離流路12を移動する。
【0044】
上述した分離工程と並行して、安定型ヘモグロビンA1c値P1を測定する第2の測定工程を行う。この第2の測定工程は、第2の吸光度測定工程と、演算工程とを含んでいる。第2の吸光度測定工程では、第2の発光部45により分離流路12の第2の測定部12Bに向けて光を照射する。第2の測定部12Bを通過した光は第2の受光部46により受光され、検出部42がその光の強さを検出する。第2の発光部45から出力される光の強さIi’と、検出部42が検出する光の強さIo’とを比較することで、第2の測定部12Bを通過する試料S中のヘモグロビンによりどの程度の光が吸収されたかを示す吸光度を得ることができる。この場合の吸光度は、たとえばlog(Ii’/Io’)により求められる。図2には、この吸光度(図中点線)および吸光度を微分して得られる傾斜値(図中実線)の時間変化を示している。図2に示す吸光度は、時間とともに各種ヘモグロビンが出揃うため、最終的に一定の値となっている。この上限値は、試料S中のヘモグロビン全体の濃度に相当し、第1の測定工程で求められるヘモグロビン類値P0と一致する。
【0045】
さらに、図2の傾斜値に安定型ヘモグロビンA1cのピークの出現後、ピークの面積値Psを算出する工程を行う。面積値Psの算出は、たとえばフィッティング処理によって行われる。本実施形態のフィッティング処理では、傾斜値の波形データに対し、Gaussian関数などのピークを当てはめて、波形データに近似する関数の組合せを得る。具体的には、非線形最小二乗法のLevenberg−Marquardt法を用いて、ピークの位置、高さ、半値幅が測定データと一致するような関数の組み合わせを求める。測定データに当てはまる関数を用いて面積値Psの算出は行われる。なお、本実施形態では、ピークの頂上が出現してから2秒後には図2の傾斜値が十分に小さくなっているため、この時点で安定型ヘモグロビンA1cのピークが出現し終えたものとする。このため、ピークの面積値Psを算出する工程は32秒の時点から行うことが可能である。この面積値Psは、安定型ヘモグロビンA1cの濃度に対応した値となる。なお、胎児性ヘモグロビンを考慮に入れる場合には、同様の手法で胎児性ヘモグロビンのピークの面積値Pfを算出可能であり、面積値Pfは、胎児性ヘモグロビンの濃度に対応した値となる。
【0046】
面積値Psの算出後速やかに演算工程を行う。この演算工程では、面積値Psをヘモグロビン類値P0で割る処理を行う。この工程で得られる値(Ps/P0)が本実施形態の安定型ヘモグロビンA1c値P1である。なお、胎児性ヘモグロビンを考慮に入れる場合には、安定型ヘモグロビンA1c値P1はPs/(P0−Pf)となる。安定型ヘモグロビンA1c値P1は本発明における被検出成分要素値である。
【0047】
上記の工程で得られる安定型ヘモグロビンA1c値P1は、試料S中のヘモグロビン類の中に安定型ヘモグロビンA1cがどの程度含まれているかを適切に示す指標であり、たとえば糖尿病診断を行う際などに有用である。
【0048】
次に、分析装置A1および分析装置A1を用いた分析方法の作用について説明する。
【0049】
上述した分析方法では、第2の測定工程によらず、第1の測定工程によりヘモグロビン類値P0を求めている。このため、本方法によれば、安定型ヘモグロビンA1c値P1を面積値Psが算出された時点で求めることが可能である。たとえば、図2に示す例においては、32秒の時点で第2の測定工程を終了しても構わない。従って、第2の測定工程を比較的短時間で切り上げることが可能であり、分析にかかる時間を短縮することが可能である。
【0050】
なお、胎児性ヘモグロビンを考慮する場合においても、従来の図8に示すように胎児性ヘモグロビンのピークは、安定型ヘモグロビンA1cのピークよりも早い時間に出現する。このため、胎児性ヘモグロビンのピーク面積値Pfを面積値Psの算出前に求めることができる。従って、この場合も安定型ヘモグロビンA1c値P1を面積値Psが算出された時点で求めることが可能である。
【0051】
次に、分析装置A1の変形例について説明を行う。上述した実施形態では第1の測定部31の断面が分離流路12と同じとなっているが、第1の測定部31の断面は適宜変更可能である。たとえば、第1の測定部31の断面を一辺が5mmの方形状としても構わない。この場合、図2に示す吸光度の上限値は、試料S中のヘモグロビン全体の濃度に比例した値となり、第1の測定工程で求められるヘモグロビン類値P0に換算可能である。
【0052】
図3〜図6は、本発明に係る分析装置および分析方法の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0053】
図3は、本発明の第2実施形態に係る分析装置を示す全体構成図である。図3に示す分析装置A2は、測定部31が設けられていないかわりに、第1の発光部43が分離流路12上の第1の測定部12Aを照明するように設置されている。それに伴い、第1の受光部44が分離流路12を挟んで第1の発光部43と向かい合うように設置されている。分析装置A2のその他の構成は、分析装置A1と同様である。
【0054】
第1の発光部43は、分離流路12の導入槽11に近い位置に設けられた第1の測定部12Aを照明するように設置される。具体的には、第1の測定部12Aは導入槽11から7mm程度の位置に設置されている。また、第2の発光部45は、導入槽11から21mm程度の位置に設けられた第2の測定部12Bを照明するように設置されている。第1,2の測定部12A,12Bの位置は適宜調整可能であるが、導入槽11と第1の測定部12Aとの間隔が導入槽11と第2の測定部12Bとの間隔の1/3程度となる配置が望ましい。
【0055】
このような分析装置A2を用いて分析を行う際にも、分析装置A1を用いる場合と同様に予めマイクロチップ1の排出槽13および分離流路12に、バッファとしての泳動液を充填しておき、試料容器3に試料Sを充填しておく。
【0056】
分析装置A2を用いて分析を行う場合、第1の測定工程、分離工程、および、第2の測定工程を並行して行う。
【0057】
まず、導入ノズル24を用いて導入槽11に試料Sを導入する工程を行う。続けて、電源部21から導入側電極22および排出側電極23を介して電圧を印加する工程を行なう。これにより、分離流路12において電気泳動が生じる。この電気泳動により、たとえば安定型ヘモグロビンA1cを含む各種ヘモグロビンが分離流路12を移動する。各種ヘモグロビンは分離流路12を流れるうちに分離される。
【0058】
電圧を印加する工程と同時に、第1の測定工程を行う。第1の測定工程は第1の吸光度測定工程を含んでいる。第1の吸光度測定工程では、第1の発光部43により分離流路12の第1の測定部12Aに向けて光を照射し、分離流路12を通過した光を第1の受光部44により受光し、検出部42が検出する光の強さを測定する。第1の発光部43から出力される光の強さと、検出部42が検出する光の強さとを比較することにより、分離流路12の第1の測定部12Aを通過する試料Sの吸光度を得ることができる。図4には、ここで得られる吸光度(図中二点鎖線)の時間変化および吸光度を微分して得られる傾斜値(一点鎖線)の時間変化を示している。第1の発光部43が導入槽11の近くに配置されているため、導入された試料Sは速やかに測定対象部位を通過する。このため、図4に示すように、測定開始後15秒程度で吸光度は上限に達している。本実施形態では、この吸光度の上限を、試料S中に含まれるヘモグロビン類の量を表すヘモグロビン類値P0とする。
【0059】
さらに並行して、第2の測定工程を行う。第2の測定工程は第2の吸光度測定工程と、演算工程とを含んでいる。第2の吸光度測定工程では、第2の発光部45により分離流路12の第2の測定部12Bに向けて光を照射し、第2の測定部12Bを通過した光を第2の受光部46により受光し、検出部42が検出する光の強さを測定する。第2の発光部45から出力される光の強さと、検出部42が検出する光の強さとを比較することにより、分離流路12の第2の測定部12Bを通過する試料S中の吸光度を得ることができる。図4には、ここで得られる吸光度(図中点線)の時間変化および吸光度を微分して得られる傾斜値(図中実線)の時間変化を示している。
【0060】
さらに、図4の傾斜値に安定型ヘモグロビンA1cのピークが現れた時点で、ピークの面積値Psを算出する工程を行う。面積値Psは、分析装置A1を用いた分析方法の場合と同様にフィッティング処理によって算出される。面積値Psは、安定型ヘモグロビンA1cの濃度に対応する値である。
【0061】
面積値Psの算出後速やかに、演算工程を行う。この演算工程では、面積値Psをヘモグロビン類値P0で割る処理を行う。この工程で得られる値(Ps/P0)が安定型ヘモグロビンA1c値P1となる。なお、分析装置A1を用いた分析方法の場合と同様に、胎児性ヘモグロビンを考慮する場合には、安定型ヘモグロビンA1c値P1はPs/(P0−Pf)となる。
【0062】
このような分析方法においても、分析装置A1を用いた分析方法と同様に、面積値Psが算出された時点で、ヘモグロビン類値P0が算出されているため、安定型ヘモグロビンA1c値P1を算出することが可能となっている。このため、第2の測定工程を比較的短時間で切り上げることが可能であり、分析にかかる時間を短縮することが可能である。
【0063】
図5は、本発明の第3実施形態に係る分析装置を示す全体構成図である。図5に示す分析装置A3は、第1の発光部43、第1の受光部44および第1の測定部12Aが設けられておらず、その他の構成は分析装置A2と同様である。このため、上述した実施形態における第2の発光部45、第2の受光部46および第2の測定部12Bを本実施形態では発光部45、受光部46および測定部12Bとする。本実施形態の電源部21は、強弱2種類の電圧を発生させることができるように構成されている。電源部21の弱い電圧は、たとえば1.5kV程度であり、分析装置A1,A2と同様の電気泳動を起こすのに用いられる。電源部21の強い電圧は、たとえば3kV程度である。なお、本実施形態においては、発光部45および受光部46が本発明における予備検出手段を兼ねることになる。
【0064】
このような分析装置A3を用いて分析を行う際にも、分析装置A1を用いる場合と同様に予めマイクロチップ1の排出槽13および分離流路12に、バッファとしての泳動液を充填しておき、試料容器3に試料Sを充填しておく。
【0065】
上記の準備が整った後に、試料S中のヘモグロビン類から安定型ヘモグロビンA1cを分離する分離工程を行う。この工程では、まず、導入ノズル24を用いて導入槽11に試料Sを導入する工程を行う。続けて、電源部21から導入側電極22および排出側電極23を介して上述の弱い電圧を印加する工程を行なう。これにより、分離流路12において電気泳動が生じる。この電気泳動により、たとえば安定型ヘモグロビンA1cを含む各種ヘモグロビンが分離流路12を移動する。
【0066】
さらに並行して、吸光度を測定する工程を行う。この工程では、発光部45により分離流路12に向けて光を照射し、分離流路12を通過した光を受光部46により受光し、検出部42が検出する光の強さを測定する。発光部45から出力される光の強さIi’と、検出部42が検出する光の強さIo’とを比較することにより、分離流路12の測定部12Bを通過する試料S中の吸光度を測定することができる。この吸光度は、たとえばlog(Ii’/Io’)により求められる。図6には、吸光度(図中点線)の時間変化および吸光度を微分して得られる傾斜値(図中実線)の時間変化を示している。
【0067】
本実施形態では、図6の傾斜値に安定型ヘモグロビンA1cのピークが現れてから、たとえば2秒経過した時点でピークの面積値Psを算出する工程を行う。同時に電源部21が出力する電圧を上述の強い電圧に変える工程を行う。この工程を行うことにより、分離流路12内を移動する各種ヘモグロビンの移動速度が上昇する。このため、図6に示すように吸光度は、比較的短い時間で上限に達している。ここで得られる吸光度の上限は、試料S中に含まれるヘモグロビン類全体の濃度に対応するヘモグロビン類値P0である。
【0068】
ヘモグロビン類値P0が定まった後速やかに演算工程を行う。この演算工程では、面積値Psをヘモグロビン類値P0で割る処理を行う。この工程で得られる値(Ps/P0)が安定型ヘモグロビンA1c値P1となる。なお、分析装置A1を用いた分析方法の場合と同様に、胎児性ヘモグロビンを考慮する場合には、安定型ヘモグロビンA1c値P1はPs/(P0−Pf)となる。
【0069】
本実施形態における弱い電圧は、本発明における第1の電圧に相当し、面積値Psを求める工程および演算工程は本発明における第2の測定工程に相当する。また、本実施形態における強い電圧は、本発明における第2の電圧に相当し、強い電圧を分離流路12に流す工程は本発明における第1の測定工程に相当する。
【0070】
このような分析方法によれば、たとえば従来の分析装置Xを用いた分析方法のように弱い電圧をかけ続けて吸光度が上限に達するのを待つ場合よりも短い時間でヘモグロビン類値P0を求めることができる。このため、分析にかかる時間を短縮することが可能である。
【0071】
分析装置A3を用いた分析方法の変形例について説明を行う。本例では、予め強い電圧を用いて一定量の試料Sを分離流路12内に流し、吸光度の上限を求める工程を行う。この工程によりヘモグロビン類値P0を求めることができ、これが本発明における第1の測定工程に相当する。さらに、分離流路12の洗浄を行った後に、弱い電圧を用いて先に流したのと同一量の試料Sを分離流路12に流して第2の測定工程を行う。この場合、面積値Psが求まった時点で第2の測定工程を切り上げることが可能である。このような方法によれば、同一量の試料Sに対して複数回測定を行う場合などにおいて分析にかかる時間を短縮することが可能である。
【0072】
なお、電源部21に強弱の電圧を印加する機能を持たせるかわりに、追加の電源部を設けることで強い電圧を実現してもよい。
【0073】
本発明に係る分析装置および分析方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る分析装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。たとえば、マイクロチップ1の素材はシリカに限らず適宜選択可能である。
【0074】
上述した実施形態では、安定型ヘモグロビンA1c値の測定のみを行っているが、他のヘモグロビンの検出を行ってもよい。たとえば、複数種類のヘモグロビン値を求める場合には、それぞれのヘモグロビン値を求めるのに必要なピークが出現するのを待てばよく、その後は省略あるいは電圧を強めることで測定時間の短縮を実現可能である。また、試料Sは血液に限定されない。
【0075】
分析装置A1,A2において、検出部42が第1の受光部44および第2の受光部46の双方から光を検出する構成となっているが、第1の受光部44と第2の受光部46とが別々の検出部に接続される構成であってもよい。
【0076】
分析装置A1,A2において、第1の発光部43および第2の発光部45が別々の光ファイバを通して光源41から光をとる構成となっているが、先が二股に分かれた光ファイバを用いても構わない。さらに、光源41はレーザー発振装置に限定されず、必要な波長の光を出射するものならどのようなものであっても構わない。
【符号の説明】
【0077】
A1,A2,A3 分析装置
S 試料
1 マイクロチップ
11 導入槽
12 分離流路
12A 第1の測定部
12B 第2の測定部
13 排出槽
2 電圧印加手段
21 電源部
22 導入側電極
23 排出側電極
24 導入ノズル
3 試料容器
31 測定部
4 分析手段
41 光源
42 検出部
43 第1の発光部
44 第1の受光部
45 第2の発光部
46 第2の受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分要素からなる成分群を含有する試料を分析し、
上記成分群の中に含まれる、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の量を示す被検出成分要素値を求める分析方法であって、
上記試料の中に含まれる上記成分群の量を示す成分群値を測定する第1の測定工程と、
上記成分群から、上記被検出成分要素を分離する分離工程と、
上記分離工程で分離された上記被検出成分要素を検出するとともに、上記成分群値を用いて上記被検出成分要素値を導出する第2の測定工程と、
を備えていることを特徴とする、分析方法。
【請求項2】
上記第1の測定工程は、上記試料に対して吸光度測定を行う第1の吸光度測定工程を含んでおり、
上記成分群値は上記第1の吸光度測定工程で得られる値であり、
上記第2の測定工程は、上記分離工程により分離された上記試料に対して吸光度を測定する第2の吸光度測定工程と、上記第2の吸光度測定工程で得られた値と上記成分群値とを用いて上記被検出成分要素値を導出する演算工程と、を含んでいる、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
上記分離工程は、電気泳動法を用いて行われる、請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
上記第1の吸光度測定工程を上記分離工程の開始前に行う、請求項2または3に記載の分析方法。
【請求項5】
上記第1の吸光度測定工程を上記分離工程の開始後、上記第2の吸光度測定工程が終了する前に行う、請求項2または3に記載の分析方法。
【請求項6】
上記分離工程は、上記試料が導入される分離流路に第1の電圧を流すことにより行われ、
上記第1の測定工程は、上記第1の電圧よりも強い第2の電圧を上記分離流路に流す工程を含んでいる、請求項3に記載の分析方法。
【請求項7】
上記演算工程は、上記被検出成分要素値を上記成分群値で割る処理を行う、請求項2ないし6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
複数の成分要素からなる成分群を含有する試料を貯留する試料容器と、
一方の端部から上記試料が導入される分離流路と、
上記分離流路の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加する電圧印加手段と、
上記分離流路を通る上記複数の成分要素を検出する分析手段と、
を備えており、
上記分離流路の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加することにより、上記分離流路中で上記複数の成分要素が分離されるように構成された分析装置であって、
上記分析手段は、上記試料中の上記成分群を検出する予備検出手段を備えていることを特徴とする、分析装置。
【請求項9】
上記予備検出手段は、上記分離流路において上記複数の成分要素が分離され、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の検出を行う前に、上記試料中の上記成分群の検出を行う、請求項8に記載の分析装置。
【請求項10】
上記予備検出手段により上記成分群を検出する第1の測定部と、
上記分離流路において分離された上記複数の成分要素を検出する第2の測定部と、が設けられている、請求項9に記載の分析装置。
【請求項11】
上記第1の測定部が、上記試料容器に設けられている、請求項10に記載の分析装置。
【請求項12】
上記第1の測定部が、上記分離流路上の、上記第2の測定部よりも一方の端部側に設けられている、請求項10に記載の分析装置。
【請求項13】
上記予備検出手段が、上記第1の測定部に向けて光を照射する第1の発光部と、上記測定部からの光を受光する第1の受光部とによって構成されており、
上記分析手段は、上記分離流路に向けて光を出射する第2の発光部と、上記分離流路からの光を受光する第2の受光部と、上記第1の受光部および上記第2の受光部が受光した光を検出する検出部とを備えている、請求項10ないし12に記載の分析装置。
【請求項14】
上記予備検出手段は、上記分離流路において上記複数の成分要素が分離され、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の検出された後に、上記試料中の上記成分群の検出を行う、請求項8に記載の分析装置。
【請求項15】
上記電圧印加手段は、第1の電圧と、上記第1の電圧よりも強い第2の電圧とを上記分離流路に印加可能である、請求項14に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−73199(P2012−73199A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220178(P2010−220178)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)