説明

分析装置および分析方法

【課題】 測定に必要な時間をより短縮することが可能な分析装置および分析方法を提供すること。
【解決手段】 本発明における分析方法は、試料Mを分析して被検出成分要素値を求めるためのものであり、試料Mを一方の端部から分離流路12に流し込む工程と、分離流路12の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加する工程と、分離流路12の第1の測定部位12Aを通過する試料Mの成分要素を検出する第1の測定工程と、分離流路12の第1の測定部位12Aと上記他方の端部との間に設けられた第2の測定部位12Bを通過する試料Mの成分要素を検出する上記第2の測定工程と、上記第1の測定工程により得られた結果と上記第2の測定工程により得られた結果とを用いて演算を行う演算工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる特定成分の濃度もしくは量を分析する分析方法として、たとえば、キャピラリー電気泳動法を用いた分析方法が広く実施されている。キャピラリー電気泳動法は、断面積が比較的小である分離流路に泳動液を充填し、さらに上記分離流路の一端寄りに上記試料を導入する。上記分離流路の両端に電圧を加えると、電気泳動により上記泳動液が正極側から負極側へと移動する電気浸透流が生じる。また、上記電圧が印加されることにより、上記特定成分は、それぞれの電気泳動移動度に応じて移動しようとする。したがって、上記特定成分は、上記電気浸透流の速度ベクトルと上記電気泳動による移動の速度ベクトルとを合成した速度ベクトルにしたがって移動する。この移動によって、上記特定成分が他の成分から分離される。この分離された特定成分をたとえば光学的手法によって検出することにより、上記特定成分の量や濃度を分析することができる。
【0003】
図3は、従来の分析装置の一例を示している(たとえば、特許文献1参照)。同図に示された分析装置Xは、陽極槽91、陰極槽92、キャピラリー93、高圧電源94、検出器95、および、1対の電極96,97を備えている。キャピラリー93の両端は陽極槽91および陰極槽92内の泳動液に浸されており、管状のキャピラリー93の内部は泳動液で満たされている。電極96,97は高圧電源94と電気的に接続されている。分析装置Xでは、キャピラリー93の一方より試料を注入し、電極96,97間に電圧を印加して電気泳動を発生させることにより試料に含まれる特定成分を分離し、分離された特定成分を検出器95で検出する。検出器95は、たとえば吸光度変化を測定するものであり、その測定結果からたとえば図4に示すような複数のピークを有するエレクトロフェログラムが得られる。
【0004】
分析装置Xは、たとえば糖尿病診断のための血液検査に用いられる。血液中のヘモグロビン類、なかでも糖化ヘモグロビン類の一種である安定型ヘモグロビンA1cは、過去1〜2ヵ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映しているため、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための検査項目として広く利用されている。分析装置Xでは、電気泳動を用いて安定型ヘモグロビンA1cを測定の障害となる成分から分離している。
【0005】
図4に現れている各ピークの面積値を算出し、その合計値から胎児性ヘモグロビンのピークF、異常ヘモグロビンのピークSおよびCの面積値を除外したものを基準となる基準面積値として算出する。安定型ヘモグロビンA1cのピークA1cの面積値を基準面積値で割ることにより安定型ヘモグロビンA1c値は算出される。
【0006】
図4に示すように、ピークA0,S,CがピークA1cの後に出現するため、正確な安定型ヘモグロビンA1c値を算出するにはそれらのピークが出現し終えるのを待つ必要がある。それらのピークの出現が完了するまでには時間を要するため、従来の方法では測定にかかる時間が長くなる傾向があり、測定時間の短縮の要請に応えることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−109231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、測定に必要な時間をより短縮することが可能な分析装置および分析方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面によって提供される分析方法は、複数の成分要素からなる成分群を含有する試料を分析し、上記成分群の中に含まれる、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の量を示す被検出成分要素値を求める分析方法であって、上記試料を一方の端部から分離流路に流し込む工程と、上記分離流路の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加する工程と、上記分離流路の第1の測定部位を通過する上記複数の成分要素を検出する第1の測定工程と、上記分離流路の上記第1の測定部位と上記他方の端部との間に設けられた第2の測定部位を通過する上記複数の成分要素を検出する上記第2の測定工程と、上記第1の測定工程により得られた結果と上記第2の測定工程により得られた結果とを用いて演算を行う演算工程と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1の測定工程および上記第2の測定工程は、光学的な検出手段を用いて行われる。
【0011】
本発明のより好ましい実施の形態においては、上記第1の測定工程および上記第2の測定工程で用いられる検出手段は、透過光、散乱光、蛍光、発光のいずれかを検出するものである。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記演算工程は、上記第1の測定により得られた結果から上記試料中の上記成分群の量を示す成分群値を算出する工程を含んでいる。
【0013】
本発明のより好ましい実施の形態においては、上記演算工程は、上記成分群値と上記第2の測定工程により得られた結果とを用いて上記被検出成分要素値を算出する工程を含んでいる。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1の測定工程が光学的な検出手段を用いて行われるものであり、上記演算工程は、上記第1の測定工程から得られた結果から上記第1の測定部位における吸光度を算出する工程を含んでおり、上記成分群値を算出する工程は、上記吸光度を用いて行われる。
【0015】
本発明のより好ましい実施の形態においては、上記第2の測定工程が光学的な検出手段を用いて行われるものであり、上記演算工程は、上記第2の測定工程から得られた結果から上記第2の測定部位における吸光度を算出する工程と、上記第2の測定部位における吸光度の変化からエレクトロフェログラムを作成する工程と、上記エレクトロフェログラムに現れる上記被検出成分要素のピークの面積値を算出する工程と、上記面積値と上記成分群値から上記被検出成分要素値を算出する工程と、含んでいる。
【0016】
より好ましくは、上記面積値を上記成分群値で割ることにより上記被検出成分要素値を算出する。
【0017】
より好ましくは、上記第1の測定部位における吸光度の変化から追加のエレクトロフェログラムを作成する工程と、を備えている。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記演算工程は、上記第1の測定部位を上記被検出成分要素が通過する時刻から、上記第2の測定部位を上記被検出成分要素が通過する時刻を推定する工程を含んでいる。
【0019】
本発明の第2の側面によって提供される分析装置は、一方の端部から、複数の成分要素からなる成分群を含有する試料が導入される分離流路と、上記分離流路の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加する電圧印加手段と、上記分離流路の第1の測定部位を通過する上記複数の成分要素を検出する第1の検出手段と、上記分離流路の第1の測定部位と他方の端部との間に設けられた第2の測定部位を通過する上記複数の成分要素を検出する第2の検出手段と、上記第1の検出手段で得られた結果と上記第2の検出手段で得られた結果とを用いて演算を行う演算手段と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1の検出手段および上記第2の検出手段は、光学的に検出を行う。
【0021】
本発明のより好ましい実施の形態においては、上記第1および第2の検出手段は、透過光、散乱光、蛍光、発光のいずれかを検出するものである。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記演算手段は、上記第1の検出手段により得られた結果から上記試料中の上記成分群の量を示す成分群値を算出する。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記演算工程は、上記成分群値と上記第2の測定手段により得られた結果とを用いて上記被検出成分要素値を算出する。
【0024】
本発明のより好ましい実施の形態においては、上記第1の検出手段は、上記分離流路の上記第1の測定部位に向けて光を照射する第1の発光部と、上記第1の測定部位を透過した光を受光する第1の受光部とを備えており、上記第2の検出手段は、上記分離流路の上記第2の測定部位に向けて光を照射する第2の発光部と、上記第2の測定部位を透過した光を受光する第2の受光部とを備えている。
【0025】
本発明のより好ましい実施の形態においては、上記演算手段は、上記第1の検出手段が上記被検出成分要素を検出した時刻から、上記第2の検出手段が上記被検出成分要素を検出する時刻を推定する。
【0026】
このような構成によれば、上記第1の測定工程により上記成分群値を求めることができるため、従来のように上記成分群値を求めるために測定を長時間続ける必要が無くなっている。このため、必要な値が得られた時点で上記第2の測定工程を切り上げることが可能となっている。したがって、測定に必要な時間をより短縮することが可能である。
【0027】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る分析装置の一例を示す全体構成図である。
【図2】図1に示す分析装置を用いた分析方法を説明するための図である。
【図3】従来の分析装置の一例を示す全体構成図である。
【図4】従来の分析装置を用いた分析方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0030】
図1は、本発明に係る分析装置の一例を示している。本実施形態の分析装置Aは、マイクロチップ1、電圧印加手段2、試料容器3、分析手段4、および、演算手段5を備えている。本実施形態においては、分析装置Aは、キャピラリー電気泳動法を用いた分析を行う。
【0031】
マイクロチップ1は、たとえばシリカからなり、導入槽11、分離流路12、および排出槽13を有する。導入槽11は、キャピラリー電気泳動法においていわゆるバッファとして機能する泳動液、および分析の対象である試料Mが導入される槽である。泳動液としては、たとえば100mMりんご酸−アルギニンバッファ(pH5.0)が挙げられる。本実施形態において、試料Mは、血液または希釈された血液である。分析装置Aは、たとえば、安定型ヘモグロビンA1cの濃度を分析するものである。この場合、血液中のヘモグロビン類が本発明における成分群に相当し、各種のヘモグロビンが複数の成分要素に相当し、安定型ヘモグロビンA1cが被検出成分要素に相当する。
【0032】
分離流路12は、キャピラリー電気泳動法を用いた分析が行われる場であり、一般的に微細な流路として形成されている。分離流路12の寸法の一例を挙げると、断面形状が直径25〜100μmの円形、または辺の長さが25〜100μmの矩形であることが好ましく、長さが30mm程度であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0033】
排出槽13は、分離流路12に対してキャピラリー電気泳動法における流動下流側に位置している。排出槽13には、たとえば図示しない排出ノズルが取り付けられる。この排出ノズルは、図外の吸引ポンプによって分析が終了した試料Mおよび泳動液を排出するためのものである。なお、以降において、分離流路12の導入槽11に接続されている側を上流側とし、排出槽13に接続されている側を下流側とする。
【0034】
電圧印加手段2は、分離流路12を挟んで導入槽11および排出槽13からキャピラリー電気泳動法に必要な電圧を印加するためのものであり、電源部21、導入側電極22、および、排出側電極23を備えている。
【0035】
電源部21は、キャピラリー電気泳動法に必要な電圧を発生するためのものであり、たとえば1.5kV程度の電圧を発生する。導入側電極22は、たとえばCuからなり、電源部21の端子に接続されており、導入槽11に浸漬される。排出側電極23は、たとえばCuからなり、電源部21の端子に接続されており、排出槽13に浸漬される。
【0036】
導入ノズル24は、導入槽11に試料Mを導入するためのものであり、図1に示すように、ホースなどを介して試料Mが貯蔵された試料容器3に接続されている。試料容器3は、試料Mを貯留しておくための容器であり、たとえば円筒状に形成されている。
【0037】
分析手段4は、たとえば吸光度の測定を実行するものであり、図1に示すように光源41、検出部42、第1の発光部43、第1の受光部44、第2の発光部45、および、第2の受光部46を備えている。光源41は、たとえば図示しないレーザー発振装置を備えている。この図示しないレーザー発振装置は、吸光度測定に用いられる光を発生させるためのものであり、たとえば安定型ヘモグロビンA1cなどのヘモグロビンの濃度を分析する場合には波長が415nmの光を発生するが、これに限定されるものではない。第1の発光部43および第2の発光部45は、たとえば光ファイバーにより光源41と接続されている。
【0038】
検出部42は、たとえば受光素子を有しており、第1の受光部44が受光した光の強さIo1および第2の受光部46が受光した光の強さIo2をそれぞれ検出する。なお、検出部42の第1の受光部44に接続された部分と、第2の受光部46に接続された部分とが、別々の場所に設置されていても構わない。そのような場合、各場所に受光素子を設置する。
【0039】
第1の発光部43は、光源41からの光を分離流路12の導入槽11近傍に位置する第1の測定部位12Aに向けて照射する。第1の測定部位12Aは、具体的には、導入槽11から7mmだけ下流に位置している。第1の受光部44は、測定部位12Aからの光を受光する部位であり、たとえば光ファイバーを介して検出部42と接続されている。なお、第1の発光部43、第1の受光部44は、および、検出部42は、本発明における第1の検出手段を構成している。
【0040】
第2の発光部45は、第1の測定部位12Aよりも下流側に位置する第2の測定部位12Bに向けて光源41からの光を照射する。第2の測定部位12Bは、具体的には、第1の測定部位12Aから13mmだけ下流に設置されている。第2の受光部46は、第2の測定部位12Bからの光を受光する部位であり、たとえば光ファイバーを介して検出部42と接続されている。なお、第2の発光部45、第2の受光部46、および、検出部42は、本発明における第2の検出手段を構成している。
【0041】
なお、第1,2の測定部位12A,12Bの位置は適宜調整可能であるが、導入槽11と第1の測定部位12Aとの間隔が導入槽11と第2の測定部位12Bとの間隔の1/3程度となる配置が望ましい。
【0042】
演算手段5は、たとえば電子計算機であり、光源部41および検出部42と接続されている。演算手段5には、光源部41が出力する光の強さに応じて、第1の発光部43が照射する光の強さIi1および第2の発光部45が照射する光の強さIi2が予め記録されている。さらに、演算手段5は、検出部42から光の強さIo1,Io2を取得し、第1の発光部43および第2の発光部45から照射された光が分離流路12を透過する間にどれだけ吸収されたかを示す吸光度を算出可能に構成されている。本実施形態では、第1の測定部位12Aにおける吸光度はlog(Ii1/Io1)により求められる。第2の測定部位12Bにおける吸光度はlog(Ii2/Io2)により求められる。ランバート・ベアの法則によると、このように得られる吸光度は分離流路12内を通過する試料M中のヘモグロビン類の濃度に換算可能な値である。
【0043】
演算手段5は、検出部42で得られた結果から、図2に示すエレクトロフェログラムを作成する。図2に示すエレクトロフェログラムは、第1の測定部位12Aにおける吸光度の時間変化(図2の二点鎖線)と、その吸光度を微分して得られる傾斜値の時間変化(図2の一点鎖線)とを示している。さらに、第2の測定部位12Bにおける吸光度の時間変化(図2の点線)と、その吸光度を微分して得られる傾斜値の時間変化(図2の実線)とを示している。
【0044】
図2に示すように、第1の測定部位12Aおよび第2の測定部位12Bのそれぞれにおいて、安定型ヘモグロビンA1cのピークA1c、ヘモグロビンA0のピークA0、異常ヘモグロビンのピークS,Cが検出される。なお、簡略化のために、図2には胎児性ヘモグロビンのピークを省略している。従来の図4の場合と同様に、胎児性ヘモグロビンのピークFは安定型ヘモグロビンA1cのピークA1cの前に出現している。
【0045】
図2によると吸光度は時間とともに上昇する。吸光度が上限に達するときには試料M中のヘモグロビン類の全成分が第1あるいは第2の測定部位12A,12Bを通過していることになる。演算手段5は、第1の測定部位12AにおいてピークA0が出現した後の吸光度をヘモグロビン類値P0として出力する。具体的には電気泳動の開始から14.5秒後である。この時点ではピークS,Cが出現していないため、ヘモグロビン類値P0は予めピークS,Cの面積値を除外した値となる。このヘモグロビン類値P0は、ヘモグロビン類が試料Mにどの程度の含まれているかを示す指標である本発明における成分群値に相当する。なお、本発明における成分群値は、試料中における成分群の量を示すものであり、複数の成分要素の各々の量を示す成分要素値の総和あるいは必要に応じて一部の成分要素値を引いた値である。本発明における被検出成分要素値は、被検出成分要素が上記成分群中において占める比率を表すものである。
【0046】
演算手段5は、第2の測定部位12Bにおける傾斜値に現れる安定型ヘモグロビンA1cのピーク近傍の面積値Ps(図2における斜線部)を算出するように構成されている。図2においては、当該ピークは30秒頃に出現している。本実施形態では、面積値Psは安定型ヘモグロビンA1cのピークの出現後、ピークの面積値Psを算出する工程を行う。面積値Psの算出は、たとえばフィッティング処理によって行われる。本実施形態のフィッティング処理では、傾斜値の波形データに対し、Gaussian関数などのピークを当てはめて、波形データに近似する関数の組合せを得る。具体的には、非線形最小二乗法のLevenberg−Marquardt法を用いて、ピークの位置、高さ、半値幅が測定データと一致するような関数の組み合わせを求める。測定データに当てはまる関数を用いて面積値Psの算出は行われる。なお、本実施形態では、ピークの頂上が出現してから2秒後には図2の傾斜値が十分に小さくなっているため、この時点で安定型ヘモグロビンA1cのピークが出現し終えたものとする。このため、ピークの面積値Psを算出する工程は32秒の時点から行うことが可能である。この面積値Psは、安定型ヘモグロビンA1cの濃度に対応した値となる。同様の手法で胎児性ヘモグロビンのピークの面積値Pfを算出可能であり、面積値Pfは、異常ヘモグロビンの濃度に対応した値となる。
【0047】
演算手段5は、ヘモグロビン類値P0、面積値Psおよび面積値Pfを用いて安定型ヘモグロビンA1c値P1の算出を行う。具体的には、面積値Psをヘモグロビン類値P0から面積値Pfを引いたもので割る処理を行う。この処理で得られる値Ps/(P0−Pf)が安定型ヘモグロビンA1c値P1である。
【0048】
演算手段5で算出される安定型ヘモグロビンA1c値P1は、試料M中のヘモグロビン類の中に安定型ヘモグロビンA1cがどの程度含まれているかを適切に示す指標であり、たとえば糖尿病診断を行う際などに有用である。
【0049】
次に、分析装置Aを用いた分析方法について説明する。
【0050】
分析装置Aを用いて分析を行う際には、予めマイクロチップ1の導入槽11および分離流路12に、バッファとしての泳動液を充填しておき、試料容器3に試料Mを充填しておく。
【0051】
まず、導入ノズル24を用いて導入槽11に試料Mを導入する工程を行う。続けて、電源部21から導入側電極22および排出側電極23を介して電圧を印加する工程を行なう。これにより、分離流路12において電気泳動が生じる。この電気泳動により、たとえば安定型ヘモグロビンA1cを含む各種ヘモグロビンが分離流路12を移動する。
【0052】
電気泳動を開始すると同時に、第1の測定工程および第2の測定工程を開始する。第1の測定工程は、第1の発光部43より第1の測定部位12Aに向けて光を照射し、第1の測定部位12Aを透過した光を第1の受光部44が受光することにより行われる。第1の受光部44により受光された光は光ファイバーを介して検出部42に到達する。検出部42は、検出した光の強さIo1を演算手段5に伝達する。本実施形態において、第1の発光部43が出射する光は波長が415nmの光であり、この光はヘモグロビンにより吸収されるものである。このため、第1の測定部位12Aを通過するヘモグロビンの量に応じて検出部42が検出する光の強さIo1は変動する。従って、光の強さIo1を測定することで、第1の測定部位12Aを通過するヘモグロビンの量を検出することが可能である。
【0053】
第2の測定工程は、第2の発光部45より第2の測定部位12Bに向けて光を照射し、第2の測定部位12Bを透過した光を第2の受光部46が受光することにより行われる。第2の受光部46により受光された光は光ファイバーを介して検出部42に到達する。検出部42は、検出した光の強さIo2を演算手段5に伝達する。本実施形態において、第2の発光部45が出射する光は波長が415nmの光であり、この光はヘモグロビンにより吸収されるものである。このため、第2の測定部位12Bを通過するヘモグロビンの量に応じて検出部42が検出する光の強さIo2は変動する。従って、光の強さIo2を測定することで、第2の測定部位12Bを通過するヘモグロビンの量を検出することが可能である。
【0054】
第1の測定工程および第2の測定工程と並行し、演算手段5は上述した処理に従って安定型ヘモグロビンA1c値P1を算出する工程を行う。本工程は、第1の測定工程および第2の測定工程で得られる結果から図2に示すエレクトロフェログラムを作成する工程と、ヘモグロビン類値P0を求める工程と、面積値Psを求める工程と、ヘモグロビン類値P0および面積値Psから安定型ヘモグロビンA1c値P1を算出する工程とを含んでいる。なお、図2における時刻の始点は、電気泳動が開始された時刻である。
【0055】
ヘモグロビン類値P0を求める工程では、まず、第1の測定部位12AにおけるピークのA1c,A0,S,C出現を確認する。図2に示すように、電気泳動開始から14.5秒にピークA0,S間の谷が出現する。本実施形態では、演算手段5は、この谷が生じる時刻における第1の測定部位12Aに吸光度をヘモグロビン類値P0として出力する。この工程は、たとえば電気泳動開始後から16秒後には行うことが可能である。なお、試料によってはピークS,Cが出現しない場合もある。この場合、ピークA0の出現後に吸光度は最大値となる。ピークS,Cが出現しない場合にはその最大値をヘモグロビン類値P0として出力する。
【0056】
面積値Psを求める工程は、演算手段5が第2の測定部位12Bにおける傾斜値のグラフに出現するピーク部分の面積を算出することで行われる。このため、第2の測定部位12Bにおける傾斜値のグラフにピークが出現し、面積を求めるのに必要な時間が経過した時点、図2によると電気泳動開始から32秒の時点で面積値Psは決定される。なお、演算手段5は、図示しない胎児性ヘモグロビンFのピークの出現後にも面積値Pfを求める工程も行う。面積値Pfの算出は面積値Psも求める場合と同様に行うことができる。
【0057】
ヘモグロビン類値P0および面積値Psから安定型ヘモグロビンA1c値P1を算出する工程は、演算手段5が面積値Psをヘモグロビン類値P0で割ることにより行われる。このため、安定型ヘモグロビンA1c値P1は、面積値Psが決定した時点、電気泳動開始から32秒の時点で決定される。
【0058】
次に、分析装置Aおよび分析装置Aを用いた分析方法の作用について説明する。
【0059】
導入槽11に導入された試料M中のヘモグロビン類は電気泳動の開始とともに分離流路12の下流方向へ移動を開始する。第1の測定部位12Aは分離流路12の導入槽11の近くであるため、ヘモグロビン類は比較的早い時間に第1の測定部位12Aを通過し終える。上述した分析方法によれば、第1の測定部位12Aにおける吸光度を検出することにより、図2に示すように、比較的早い時間にヘモグロビン類値P0を算出することができる。
【0060】
このため、上述した分析方法によれば、ヘモグロビン類値P0を求めるために第2の測定部位12Bにおける吸光度の検出を続ける必要がない。このため、面積値Psの算出が可能となった時点(図2における32秒)で第2の測定工程を終了させて構わない。従って、第2の測定工程を比較的短時間で切り上げることが可能であり、分析にかかる時間を短縮することが可能である。さらに、面積値Psの算出後速やかに第2の測定工程を終了させ、次の測定に移行することで短時間により多くの測定を行うことが可能となる。
【0061】
上記の分析方法の変形例として、上述の工程に加えて、第1の測定部位12Aにおける吸光度および傾斜値のグラフから、第2の測定部位12Bにおける吸光度および傾斜値のグラフにおける安定型ヘモグロビンA1cのピークの位置を推定する工程を行ってもよい。分離流路12にかける電圧の強さを一定とすれば、分離流路12内を移動する各種ヘモグロビンの移動速度は一定となる。このため、特定のヘモグロビンが第1の測定部位12Aを通過した時間が分かれば、上記第1の測定部位12Aと導入槽11との距離と、上記第2の測定部位12Bと導入槽11との距離とを用いて特定のヘモグロビンが第2の測定部位12Bを通過する時間を推測することが可能である。従って、演算手段5は、第1の測定部位12Aにおいて最初のピークを検出した時間(図2における9秒)から、第2の測定部位12Bにおいて最初のピークを検出する時間(図2における30秒)を推定することが可能である。
【0062】
このような工程を追加した場合、第2の測定工程において、最初のピークが検出された時間を推定された時間と一致しているかを確認することで、より確実なピークの判定を行うことが可能となる。さらに、連続して次の測定を行う場合には、次の測定に移行する時刻を推定することが可能であり、新たな試料Mの導入準備などを円滑に行うことができる。
【0063】
本発明に係る分析装置および分析方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る分析装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。たとえば、マイクロチップ1の素材はシリカに限らず適宜選択可能である。
【0064】
上述した実施形態では、安定型ヘモグロビンA1c値の測定のみを行っているが、他のヘモグロビンの検出を行ってもよい。たとえば、複数種類のヘモグロビン値を求める場合には、それぞれのヘモグロビン値を求めるのに必要なピークが出現するのを待てばよく、その後は省略あるいは電圧を強めることで測定時間の短縮を実現可能である。また、試料Mは血液に限定されない。
【0065】
上述した実施形態では、分離流路12を透過する透過光を用いて安定型ヘモグロビンA1c値P1を算出しているが、本発明における第1の測定工程および第2の測定工程は透過光を検出する方法に限定されず、成分群の性質に応じて適宜変更可能である。たとえば、散乱光を用いて試料中の被検出成分要素値を導出してもよい。また、被検出成分要素が蛍光を発する蛍光性物質である場合には、蛍光を検出することで被検出成分要素値を導出することができる。被検出成分要素が発光する発光物質である場合には、その発光を検出することで被検出成分要素値を導出することができる。本発明における第1の検出手段および第2の検出手段も、成分群の性質に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0066】
A 分析装置
M 試料
1 マイクロチップ
11 導入槽
12 分離流路
13 排出槽
2 電圧印加手段
21 電源部
22 導入側電極
23 排出側電極
24 導入ノズル
3 試料容器
4 分析手段
41 光源
42 検出部
43 第1の発光部
44 第1の受光部
45 第2の発光部
46 第2の受光部
5 演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分要素からなる成分群を含有する試料を分析し、
上記成分群の中に含まれる、上記複数の成分要素のいずれかである被検出成分要素の量を示す被検出成分要素値を求める分析方法であって、
上記試料を一方の端部から分離流路に流し込む工程と、
上記分離流路の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加する工程と、
上記分離流路の第1の測定部位を通過する上記複数の成分要素を検出する第1の測定工程と、
上記分離流路の上記第1の測定部位と上記他方の端部との間に設けられた第2の測定部位を通過する上記複数の成分要素を検出する上記第2の測定工程と、
上記第1の測定工程により得られた結果と上記第2の測定工程により得られた結果とを用いて演算を行う演算工程と、を備えていることを特徴とする、分析方法。
【請求項2】
上記第1の測定工程および上記第2の測定工程は、光学的な検出手段を用いて行われる、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
上記第1の測定工程および上記第2の測定工程で用いられる検出手段は、透過光、散乱光、蛍光、発光のいずれかを検出するものである、請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
上記演算工程は、上記第1の測定により得られた結果から上記試料中の上記成分群の量を示す成分群値を算出する工程を含んでいる、請求項1ないし3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
上記演算工程は、上記成分群値と上記第2の測定工程により得られた結果とを用いて上記被検出成分要素値を算出する工程を含んでいる、請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
上記第1の測定工程が光学的な検出手段を用いて行われるものであり、
上記演算工程は、上記第1の測定工程から得られた結果から上記第1の測定部位における吸光度を算出する工程を含んでおり、
上記成分群値を算出する工程は、上記吸光度を用いて行われる、請求項4または5に記載の分析方法。
【請求項7】
上記第2の測定工程が光学的な検出手段を用いて行われるものであり、
上記演算工程は、上記第2の測定工程から得られた結果から上記第2の測定部位における吸光度を算出する工程と、上記第2の測定部位における吸光度の変化からエレクトロフェログラムを作成する工程と、上記エレクトロフェログラムに現れる上記被検出成分要素のピークの面積値を算出する工程と、上記面積値と上記成分群値から上記被検出成分要素値を算出する工程と、含んでいる、請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
上記面積値を上記成分群値で割ることにより上記被検出成分要素値を算出する、請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
上記第1の測定部位における吸光度の変化から追加のエレクトロフェログラムを作成する工程と、を備えている、請求項7または8に記載の分析方法。
【請求項10】
上記演算工程は、上記第1の測定部位を上記被検出成分要素が通過する時刻から、上記第2の測定部位を上記被検出成分要素が通過する時刻を推定する工程を含んでいる、請求項1ないし9に記載の分析方法。
【請求項11】
一方の端部から、複数の成分要素からなる成分群を含有する試料が導入される分離流路と、
上記分離流路の一方の端部と他方の端部との間に電圧を印加する電圧印加手段と、
上記分離流路の第1の測定部位を通過する上記複数の成分要素を検出する第1の検出手段と、
上記分離流路の第1の測定部位と他方の端部との間に設けられた第2の測定部位を通過する上記複数の成分要素を検出する第2の検出手段と、
上記第1の検出手段で得られた結果と上記第2の検出手段で得られた結果とを用いて演算を行う演算手段と、を備えていることを特徴とする、分析装置。
【請求項12】
上記第1の検出手段および上記第2の検出手段は、光学的に検出を行う、請求項11に記載の分析装置。
【請求項13】
上記第1および第2の検出手段は、透過光、散乱光、蛍光、発光のいずれかを検出するものである、請求項12に記載の分析装置。
【請求項14】
上記演算手段は、上記第1の検出手段により得られた結果から上記試料中の上記成分群の量を示す成分群値を算出する、請求項11ないし13のいずれかに記載の分析装置。
【請求項15】
上記演算工程は、上記成分群値と上記第2の測定手段により得られた結果とを用いて上記被検出成分要素値を算出する、請求項14に記載の分析装置。
【請求項16】
上記第1の検出手段は、上記分離流路の上記第1の測定部位に向けて光を照射する第1の発光部と、上記第1の測定部位を透過した光を受光する第1の受光部とを備えており、
上記第2の検出手段は、上記分離流路の上記第2の測定部位に向けて光を照射する第2の発光部と、上記第2の測定部位を透過した光を受光する第2の受光部とを備えている、請求項11ないし15のいずれかに記載の分析装置。
【請求項17】
上記演算手段は、上記第1の検出手段が上記被検出成分要素を検出した時刻から、上記第2の検出手段が上記被検出成分要素を検出する時刻を推定する、請求項11ないし16のいずれかに記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−73200(P2012−73200A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220179(P2010−220179)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)