説明

分繊用黒色原着ポリエステルフィラメント

【課題】低コストで安定して製造することが出来、分繊工程での工程通過性が良好で、仮撚り、分繊工程でのガイド疵や磨耗、及び整経工程での筬磨耗が少なく、黒色度(L値)に優れた分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを提供する。
【解決手段】特定の芯鞘構造複合繊維であって、鞘成分の円周Bから計算した面積に対して芯成分の円周Aから計算した面積の比率が0.85〜0.95の範囲にあり、芯成分のポリマーに平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックが5〜10重量%含有しており、下記の要件を満足する分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントとする。(a)伸度:20〜50%であること。(b)単糸繊度が10〜50dtexでありフィラメント数が4〜20本であること。(c)繊維の黒色度(L値):20以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘型黒色原着ポリエステルフィラメントからなる分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
直接紡糸延伸法による分繊用ポリエステルマルチフィラメントの製造方法に関しては特開昭59−116405号公報や特開昭59−125904号公報などにみられるように古くから知られており、分繊されたモノフィラメントは織物としてインナーカーテン等のインテリア用途にも使われてきた。そのなかでモノフィラメントのパーンの状態で染色を行った先染め黒着色ポリエステルモノフィラメントと染色されていないフィラメントを交織した織物を染めて、深見のある色合いを表現するシャンブレー織物がある。現在、主にシャンブレー織物用の先染め黒着色ポリエステルモノフィラメントはアゾ系分散染料で染められており、織物での染色時に黒着色ポリエステルモノフィラメントの色落ちや色移りが起きないようにされている。但し、近年においては環境や製品の安全性への意識が強まりアゾ系分散染料についての見直しや、先染め工程によるコストアップの問題によりポリマーの段階で黒色原着されている分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントが求められてきた。
【0003】
しかしながら、カーボンブラックを顔料とした無機系着色顔料の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメント等の展開を考えられたが仮撚り工程や分繊工程におけるスピンドルガイドや糸導ガイドの疵や磨耗、整経時の筬磨耗の問題により商業的な展開は困難であった。
【0004】
こうした問題に対して、例えば特開平09−250026号公報には平均一次粒子系、および給油量などを規定したカーボンブラックを使用する方法が提案されている。この方法によりある程度ローラー摩耗、ガイド摩耗等の発生は防止できるものの、カーボンブラックの添加量を1%程度に抑えざるをえず、黒味の向上と製糸、製織工程の機器摩耗を両立させることは難しい問題であった。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−116405号公報
【特許文献2】特開昭59−125904号公報
【特許文献3】特開平09−250026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来技術を背景になされたものであり、その目的は、低コストで安定して製造することが出来、分繊工程での工程通過性が良好で、仮撚り、分繊工程でのガイド疵や磨耗、及び整経工程での筬磨耗が少なく、黒色度(L値)に優れた分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントは、繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成され、繊維軸に直交する断面の、芯成分の最外周を結んだ円周Aと鞘成分の円周Bが同心円である芯鞘構造複合繊維であって、円周Bから計算した面積に対して円周Aから計算した面積の比率が0.85〜0.95の範囲にあり、芯の成分のポリマーに平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックを5〜10重量%含有しており、下記(a)〜(c)の要件を満足することを特徴とする分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントとする。
(a)伸度:20〜50%
(b)単糸繊度が10〜50dtexでありフィラメント数が4〜20本
(c)繊維の黒色度(L値):20以下
【発明の効果】
【0008】
本発明により、シャンブレー織物等の顔料着色と染色とを併用しているような用途に用いる時にも、黒味、深みが良好で且つ繊維表面の平滑性が良好で、製糸時、又得られた繊維の製織時又は繊維成形品の使用時に接触するローラー、ガイド等の付属品の摩耗を抑制し、また破断強伸度の良好な黒原着ポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明でいうポリエステルマルチフィラメントとは、ポリエチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルであり、例えば酸成分を基準として10モル%以下で他の成分が共重合されていてもかまわない。好ましく用いられる共重合成分としては、例えば、酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などをあげることができ、また、グリコール成分としては、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパンなどをあげることができる。
【0010】
また、上記ポリエチレンテレフタレートには、各種の添加剤、例えば、酸化チタンなどの艶消し剤、熱安定剤、紫外線吸収剤などが必要に応じて含まれていてもよい。本発明に用いるポリマーの固有粘度は0.4〜0.8が好ましく、より好ましくは0.5〜0.7であり、この範囲で、強度、紡糸性などに優れた繊維を得ることができる。
【0011】
本発明の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントは、繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成され、繊維軸に直交する断面において、芯成分の最外周を結んだ円周Aと鞘成分の円周B(鞘成分は円形断面である必要はなく、鋭突部を複数個有するものであっても良い)が同心円である芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維であって、円周Bから計算した面積に対して円周Aから計算した面積の比率が0.85〜0.95の範囲にあり、芯の成分のポリマーに平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックが5〜10重量%含有しており、下記(a)〜(c)の要件を満足することを特徴とする分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントであることが必要である。
(a)伸度:20〜50%
(b)単糸繊度が10〜50dtexでありフィラメント数が4〜20本
(c)繊維の黒色度(L値):20以下
【0012】
まず芯成分の最外周を結んだ円周Aと鞘成分の円周Bが同心円である芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維であって、円周Bから計算した面積に対して円周Aから計算した面積の比率が0.85〜0.95の範囲にあることが重要である。比率が0.85以下の場合、側面から見た際に表層側で光が透け易く、やや灰色がかった輪郭を持った糸となり十分な黒色度(L値)を得られず、比率が0.95以上の場合、鞘成分による被覆が十分でなく、芯鞘構造断面形状を安定して維持することが難しい。特に紡糸経時により紡糸口金ポリマー吐出孔周辺に蓄積した昇華物や吐出ポリマーの滲み出し等によるの異物の影響で断面形状が不安定となり、紡糸、分繊工程での断糸が発生し易くなり工程通過性が低下する。本発明の芯成分の最外周を結んだ円周Aと鞘成分の円周Bが同心円である芯鞘断面形状とは、例えば図1、図2等の形状が挙げられる。
【0013】
芯成分のポリマーに平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックを5〜10重量%含有していることが重要である。カーボンブラックが5重量%未満では十分な黒色度(L値)を得られず、10重量%を超えると繊維の強度が低下し、紡糸工程、分繊工程での断糸による工程通過性の低下が発生する。より好ましいカーボンブラックの含有率は6〜8重量%である。カーボンブラックの平均一次粒子径が10nm未満であると、現在知られているカーボンブラックでは二次凝集を阻止することが困難であり、紡糸、分繊工程での断糸が発生し易くなり工程通過性が低下する。平均一次粒子径が30nmを超えると、紡糸工程での断糸が発生し、商業的に安定生産を継続して行うのは難しい。より好ましいカーボンブラックの平均一次粒径の範囲は、15〜20nmである。
【0014】
又下記(a)〜(c)項を同時に満足することが重要である。
(a)伸度:20〜50%
(b)単糸繊度が10〜50dtexでありフィラメント数が4本以上、20本以下
(c)繊維の黒色度(L値):20以下
【0015】
まず、伸度が20〜50%であることが重要である。伸度が20%を下回ると紡糸工程での糸切れや分繊工程での糸切れが多くなり工程通過性が悪くなる。また、50%を上回ると分繊時に解舒張力を高くした際、解舒張力変動による糸長方向の斑が生じやすく、更に分繊時の張力変動が大きくなり分繊工程での糸切れが多くなる。伸度は25〜35%が好ましい。
【0016】
本発明により製造される分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントの分繊後の単糸繊度は10〜50dtexであることが重要であり、単糸繊度がこの範囲よりも小さくなると分繊が難しくなり、逆に大きくなると巻き取り中にパッケージの型崩れや綾外れが発生して工程通過性が著しく悪くなる。
ならびにマルチフィラメント糸の単糸数は、4〜20本であることが分繊性及び分繊工程での工程通過性を確保する観点から好ましい。
【0017】
本発明により製造される分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントの黒色度(L値)は20以下であることが重要である。黒色度(L値)が20を超えるとシャンブレー織物での深見のある色合いを表現することが困難となる。
【0018】
また本発明の分繊用黒色原着ポリエステルフィラメントの製造方法は、特に規定されるものではないが、平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックをポリエステルチップと溶融状態でブレンドしカーボンブラックが5〜10%含有された状態のマスターチップを作製し芯成分チップとし、鞘成分チップと個別に乾燥、溶融した後、図1に示すように、紡糸口金より芯鞘断面形状として吐出した溶融マルチフィラメントを、紡糸口金直下に設けた50〜270℃の雰囲気温度に保持した長さ50〜200mmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、オイリングローラーにてモノフィラメントの状態でオイリングを施した後にマルチフィラメントの状態にして70℃〜110℃に加熱した第一ローラーで500〜3000m/minにて巻き付け、次に巻き取ることなく110〜150℃に加熱した第二ローラーに巻き付け、第一ローラーと第一ローラーより速度を速めた第二ローラーの間で1.2〜4.5倍に延伸し、第二ローラーよりも低速で巻き取って得られる。
【0019】
本発明により製造される分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントは仮撚り工程で捲縮性能を付与された後、分繊されて捲縮糸として使用されるか、仮撚りを実施せずそのまま分繊されてフラットヤーンとして使用される。
【実施例】
【0020】
以下実施例により具体的に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
(1)伸度
JIS−L−1013に基づいて定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
(2)黒色度(L値)
24ゲージの筒編み地を4重折りとし、スガ試験機(株)社製SMカラーコンピュータSM−3を使用して明度(L値)を求めた。
(3)紡糸断糸率(%)
人為的あるいは機械的要因に起因する断糸を除き、4日間連続の紡糸機運転中に発生した紡糸断糸回数を記録し下記式で紡糸断糸率(%)を計算した。
紡糸断糸率(%)=[断糸回数/(稼動ワインダー数×ドッフ数)]×100
ここで、ドッフ数とはパッケージを10kgまで捲き取った回数をいい、ワインダー4錘取りワインダーとする。合否判定基準は5%以下を合格とした。
(4)分繊性
分繊用ポリエステルマルチフィラメントを巻き取った10kg巻ドラム状パッケージを、単糸1本1本に糸切れなく分繊速度600m/分にて分繊できた分繊用マルチフィラメントの割合を満管率(%)で表す。なお、分繊されたモノフィラメントの巻量は1kg巻とする。合否判定基準は80%以上を合格とした。
【0021】
[実施例1]
ο−クロロフェノールにて35℃で測定した固有粘度0.63のポリエチレンテレフタレートチップ(ポリマーA)と、ポリマーAに平均一次粒子径15nmのカーボンブラックを8重量%含有したポリエチレンテレフタレート(ポリマーB)とを別々に150℃で5時間乾燥し、ポリマーAを鞘成分ポリマー、ポリマーBを芯成分ポリマーとして溶融エクストルーダーにて溶融し、5ホールが同心円状に配列してある紡糸口金から円周Bから計算した面積に対して円周Aから計算した面積の比率が0.90となる図1の芯鞘断面形状でポリマー吐出温度280℃とし単一吐出孔での吐出量が8.0g/分となるように押し出して、モノフィラメントの状態でオイリングをおこない、110℃に加熱した第一ローラーで10ターンさせ700m/分で引き取りつつ第一ローラーの4.35倍の速度で135℃に加熱された第2ゴデットロールに7ターンさせ5本のマルチフィラメントの綾角θを6.5度で巻き取った。この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)も良好であり、紡糸断糸率、分繊性も良好で、仮撚りスピンドルガイド疵や整経筬ガイド疵又は磨耗の問題も発生しなかった。
【0022】
[実施例2]
平均一次粒子径15nmのカーボンブラックを6重量%含有したポリマーAと同様の固有粘度を有するポリエチレンテレフタレート(ポリマーB)とした以外は実施例1と同様にして得られたマルチフィラメントであり、この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)も良好であり、分繊性も良好で、仮撚りスピンドルガイド疵や整経筬ガイド疵又は磨耗の問題も発生しなかった。
【0023】
[実施例3]
円周Bから計算した面積に対して円周Aから計算した面積の比率が0.90となる図2の芯鞘断面形状とした以外は実施例1と同様にして得られたマルチフィラメントであり、この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)も良好であり、分繊性も良好で、仮撚りスピンドルガイド疵や整経筬ガイド疵又は磨耗の問題も発生しなかった。
【0024】
[比較例1]
平均一次粒子径15nmのカーボンブラックを3重量%含有したポリマーAと同様の固有粘度を有するポリエチレンテレフタレート(ポリマーB)とした以外は実施例1と同様にして得られたマルチフィラメントであり、この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)が不十分であり、シャンブレー織物での深見のある色合いを表現することが出来なかった。
【0025】
[比較例2]
平均一次粒子径15nmのカーボンブラックを重量20%含有したポリマーAと同様の固有粘度を有するポリエチレンテレフタレート(ポリマーB)とした以外は実施例1と同様にして得られたマルチフィラメントであり、この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)は良好でるが、紡糸、分繊工程での断糸により工程通過性が著しく工程通過性が低下した。
【0026】
[比較例3]
円周Bから計算した面積に対して円周Aから計算した面積の比率が0.97となる図1芯鞘断面形状とした以外は実施例1と同様にして得られたマルチフィラメントであり、この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)は良好でるが、紡糸経時による紡糸工程での断糸、分繊工程での断糸が発生し著しく工程通過性が低下した。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
学生服、婦人・紳士用衣料、和装品、裏地などに用いられるが特にブラックフォーマル用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の芯鞘複合繊維の芯形状の一例。
【図2】本発明の芯鞘複合繊維の芯形状の一例。
【図3】本発明を実施する紡糸機の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0030】
1:紡糸口金
2:オイリングローラー
3:糸分けガイド
4:第一ゴデットローラー
5:第一セパレートローラー
6:第二ゴデットローラー
7:第二セパレートローラー
8:巻取機
9:マルチフィラメントパッケージ
10:保温領域
11:冷却風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成され、該繊維の繊維軸に直交する断面において、芯成分の最外周を結んだ円周Aと鞘成分の円周Bが同心円である芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維であって、円周Bから計算した面積に対して円周Aから計算した面積の比率が0.85〜0.95の範囲にあり、芯の成分のポリマーに平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックを5〜10重量%含有しており、下記(a)〜(c)の要件を満足することを特徴とする分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメント及びそれを分繊して得られた黒色原着モノフィラメント。
(a)伸度:20〜50%であること。
(b)単糸繊度が10〜50dtexでありフィラメント数が4〜20本であること。
(c)繊維の黒色度(L値):20以下であること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−163487(P2008−163487A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351764(P2006−351764)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】