説明

分解輸送変圧器鉄心

【課題】組み立て作業が簡単で、各脚鉄心に連結された下部分割ヨーク鉄心と繋ぎヨーク鉄心を連結するラップ部における励磁電流及び鉄損の増加を抑える。
【解決手段】立設して配列される脚鉄心2、3、4と、脚鉄心の上部及び下部を連結する上部及び下部ヨーク鉄心5、6とを備え、下部ヨーク鉄心6は、脚鉄心のそれぞれに対応して分割されて複数の鋼板を重ね合わせて形成され、各脚鉄心に連結された下部分割ヨーク鉄心7a、7b、8a、8bと、隣り合う脚鉄心の下部分割ヨーク鉄心間を繋ぐ複数の鋼板を重ね合わせて形成された繋ぎヨーク鉄心9a、9bとを有し、下部分割ヨーク鉄心と繋ぎヨーク鉄心との繋ぎ部は、同じ重ね合わせ層の鋼板の端面を突き合わせた突き合わせ位置を、連続する少なくとも3つの層において互いに下部ヨーク鉄心の延在方向にずらして重ね合わせたラップ部を有してなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解輸送変圧器に係り、特に分解輸送変圧器の分解、輸送及び現地組立を容易にできるようにするための鉄心の分解及び接続構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から大容量の大型の変圧器においては、工場における製作、組立て、試験及び検査が完了した後、輸送上等の制限を満たす寸法及び重量に分解して据え付け場所に輸送し、再組立て、試験及び検査を可能にする分割輸送変圧器が知られている。従来、例えば、大型変圧器の分解輸送では、上部及び下部ヨーク鉄心と脚鉄心との間は、合計8箇所で繋ぐ構造としていた。これに対し、重量制限の関係上、さらにヨーク鉄心を細分化しなければならない場合がある。その場合に、組立て等の作業性を考慮して細分化すると、下部ヨーク鉄心だけで8箇所の繋ぎ目ができしまう。
【0003】
このような分解輸送変圧器として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。同文献によれば、立設して配列される3つの脚鉄心と、各脚鉄心の上部及び下部を連結する上部及び下部ヨーク鉄心とを備えてなる鉄心を分解して輸送することが提案されている。特に、分解輸送及び再組み立てを容易にするため、各脚鉄心のそれぞれの下端を接続する下部ヨーク鉄心を各脚鉄心間で分割し、分割された下部ヨーク鉄心(以下、下部分割ヨーク鉄心という。)に各脚鉄心を組み付けた状態で輸送及び据え付け作業できるようにしている。そして、各脚鉄心に対応する下部分割ヨーク鉄心間を長方形又は台形の繋ぎヨーク鉄心で連結するように形成して、再組み立て作業を簡単化するようにしている。
【0004】
さらに、特許文献1には、繋ぎヨーク鉄心と下部分割ヨーク鉄心の繋ぎ部の積層鋼板の両端を互いに重なり合わせた重なり部(以下、ラップ部という。)を設け、ラップ部の同じ重ね合わせ層の鋼板の端面を突き合わせた突き合わせ位置を、層ごとに下部ヨーク鉄心の延在方向に交互にずらして配置するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10―335148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術によれば、各脚鉄心に対応する下部分割ヨーク鉄心間を繋ぎヨーク鉄心を介して連結していることから、3相変圧器の場合の下部ヨーク鉄心の繋ぎ部が8箇所になり、下部分割ヨーク鉄心間を直接連結する場合に比べてラップ部(繋ぎ目)の数が2倍になる。また、ラップ部には、積層鋼板の重ね合わせ部及び端面の突き合わせ部に空隙が形成されるから、ラップ部における励磁電流及び鉄損が増加するという問題がある。
【0007】
すなわち、特許文献1のように、同じ層の鋼板の端面の突き合わせ位置を交互にずらして積層すると、1層おきに突き合わせ位置が同じ位置になるから、突き合わせ位置における鉄心の有効な磁路断面積が下部ヨーク鉄心の断面積の1/2となる。そのため、ラップ部における磁路抵抗が増加して励磁電流が増加するとともに、磁束密度の変化による鉄損が増加して変圧器の性能や耐久性の面で問題となる。また、下部ヨーク鉄心のラップ部が増えると、磁気抵抗が増加して上部と下部ヨーク鉄心の磁気バランスが崩れることから、下部ヨーク鉄心のラップ部における磁気抵抗を削減する要請がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、組み立て作業が簡単で、各脚鉄心に連結された下部分割ヨーク鉄心と繋ぎヨーク鉄心を連結するラップ部における磁気抵抗を削減した分解輸送変圧器鉄心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、立設して配列される少なくとも3つの脚鉄心と、前記脚鉄心の上部及び下部を連結する上部及び下部ヨーク鉄心とを備え、前記下部ヨーク鉄心は、前記脚鉄心のそれぞれに対応して分割されて複数の鋼板を重ね合わせて形成され、各脚鉄心に連結された下部分割ヨーク鉄心と、隣り合う前記脚鉄心の前記下部分割ヨーク鉄心間を繋ぐ複数の鋼板を重ね合わせて形成された繋ぎヨーク鉄心とを有し、前記分割下部ヨーク鉄心と前記繋ぎヨーク鉄心との繋ぎ部は、同じ重ね合わせ層の鋼板の端面を突き合わせた突き合わせ位置を、連続する少なくとも3つの層において互いに下部ヨーク鉄心の延在方向にずらして重ね合わせたラップ部を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、複数の脚鉄心の下部を連結する下部ヨーク鉄心を脚鉄心ごとに分割したことから、工場で鉄心を製作及び組み立てして試験検査した後、各脚鉄心と下部分割ヨーク鉄心を連結したままの状態で輸送することができる。また、各脚鉄心に下部分割ヨーク鉄心が連結されているので、据え付け時に下部分割ヨーク鉄心を変圧器タンクの底部に設けられたベース部材の上に載置することにより、脚鉄心を直立状態に保持できるから、組立て作業を簡単化できる。さらに、下部分割ヨーク鉄心間を繋ぎヨーク鉄心で繋ぐようにしたことから、組立て作業を一層簡単化できる。
【0011】
特に、本発明によれば、下部分割ヨーク鉄心と繋ぎヨーク鉄心との同じ重ね合わせ層の鋼板の端面の突き合わせ位置を、連続する少なくとも3つの層において互いに下部ヨーク鉄心の延在方向にずらして重ね合わせたことから、例えば3層の鋼板の突き合わせ位置が分散される。その結果、例えば3層の鋼板群からなる磁路断面積を考えた場合、鋼板の突き合わせ位置における有効な磁路断面積の減少を2/3に抑制できるので、特許文献1に比べて、ラップ部における磁気抵抗を削減して励磁電流及び鉄損を低減することができる。
【0012】
また、上記の場合において、前記ラップ部のラップ長を5mm以上15mm以下とすること、さらに好ましくは、7mm以上15mm以下とする。すなわち、上述したように、下部分割ヨーク鉄心を変圧器タンクの底部に設けられたベース部材の上に載置して脚鉄心を立設できるから、下部分割ヨーク鉄心間を繋ぐ繋ぎヨーク鉄心とのラップ部の機械的な連結強度が要求されない。そこで、発明者は、ラップ長と励磁電流及び鉄損の関係を検討した結果、図5に示す関係が得られた。図5の横軸はラップ長(mm)、縦軸はラップ長12mmにおける励磁電流及び鉄損を基準(100%)として表した励磁電流比と鉄損比である。また、図5の実測に用いたラップ部の構造は、図4に示した繋ぎヨーク鉄心の9b(B-B、C-C、D-D)のラップ部構造である。図5から明らかなように、鉄損はラップ長に比例して増減する傾向にあるが、励磁電流はラップ長が12mmで極小になり、7mmないし5mm未満になると急激に増加する。また、ラップ長が15mmを超えると励磁電流の増加率が大きくなっている。これらのことから、従来のように、ラップ部の機械的な連結強度を考慮して、ラップ長を例えば20mm以上にすると、励磁電流及び鉄損が大きくなることが分かる。
【0013】
また、上記の場合において、前記ラップ部は、連続する少なくとも3つの層の鋼板の前記突き合わせ位置を、下部ヨーク鉄心の延在方向に段階的にずらして配置し、これに続く複数の層の鋼板の前記突き合わせ位置を逆方向に段階的にずらして、前記突き合わせ位置を積層方向にジグザグ状に配置することができる。
また、上記の場合において、前記ラップ部は、連続する少なくとも3つの層ごとに複数の群を設定し、各群に属する複数の鋼板の前記突き合わせ位置を下部ヨーク鉄心の延在方向に段階的ないし階段(ステップ)状に、同一のパターンでずらして形成することができる。
また、上記の場合において、繋ぎヨーク鉄心を形成する鋼板の延在方向の長さを同じにすることが望ましい。これによれば、繋ぎヨーク鉄心の各鋼板が積層位置によって特定されないから、鉄心積み作業が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分解輸送変圧器鉄心によれば、組み立て作業が簡単で、各脚鉄心に連結された支持ヨーク鉄心と分割ヨーク鉄心を連結するラップ部における励磁電流及び鉄損の増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例の三相3脚変圧器の鉄心構造を示す正面図である。
【図2】図1の変圧器鉄心の再組み立て時の手順を説明する図である。
【図3】図1の矢視III―IIIにおける下部分割ヨーク鉄心と繋ぎヨーク鉄心の断面図であり、連続する3つの層の鋼板の突き合わせ位置をジグザグ状にずらして積層する例を示す図である。
【図4】図3の断面図において、下部分割ヨーク鉄心と繋ぎヨーク鉄心の連続する3つの層の鋼板の突き合わせ位置を階段状に周期的に繰り返して積層する例を表す図である。
【図5】下部分割ヨーク鉄心と繋ぎヨーク鉄心のラップ部のラップ長に対する励磁電流比と鉄損比との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用してなる分割輸送変圧器の鉄心構造の実施形態について図1〜図5を参照して説明する。
【0017】
図1は分解輸送変圧器の鉄心の構造を示している。図において、三相3脚鉄心1は、立設して配列される脚鉄心2、3、4と、脚鉄心2、3、4の上部及び下部を連結する上部ヨーク鉄心5及び下部ヨーク鉄心6とを備えて構成される。脚鉄心2、3、4は、珪素鋼板などの鋼板を複数積層して形成され、各脚鉄心2、3、4に巻線10が巻回されるようになっている。また、上部ヨーク鉄心5及び下部ヨーク鉄心6も、珪素鋼板などの鋼板を複数積層して形成される。上部ヨーク鉄心5は脚鉄心2、3を連結する上部ヨーク鉄心5aと、脚鉄心3、4を連結する上部ヨーク鉄心5bの2つに分割されている。脚鉄心2、4と上部ヨーク鉄心5a、5bの繋ぎ部は、それぞれの積層鋼板の両端を45度に切断して、交互に噛み合わせてラップ部で繋がれている。また、脚鉄心3の積層鋼板の上端を90度に切断し、これに合わせて上部ヨーク鉄心5a、5bの積層鋼板の端部をそれぞれ45度に切断して、交互に噛み合わせたラップ部で繋がれている。
【0018】
一方、下部ヨーク鉄心6は、それぞれの脚鉄心2、3、4に対応して分割され、各脚鉄心2、3、4の下部に連結された下部分割ヨーク鉄心7a、8a及び8b、7bを備えている。また、隣り合う脚鉄心の分割下部ヨーク鉄心7a、8aを繋ぐ繋ぎヨーク鉄心9aと、下部分割ヨーク鉄心8b、7bを繋ぐ繋ぎヨーク鉄心9bを備えて構成される。
【0019】
両端の脚鉄心2、4と下部分割ヨーク鉄心7a、7bの繋ぎ部は、それぞれの積層鋼板の両端を45度に切断して、交互に噛み合わせたラップ部で繋がれている。また、脚鉄心3と下部分割ヨーク鉄心8a、8bの繋ぎ部は、脚鉄心3の積層鋼板の下端を90度に切断し、これに合わせて下部分割ヨーク鉄心8a、8bの積層鋼板の端部をそれぞれ45度に切断して、交互に噛み合わせたラップ部で繋がれている。さらに、下部分割ヨーク鉄心7aと8a、及び下部分割ヨーク鉄心8bと7bは、それぞれ繋ぎヨーク鉄心9a、9bで互いの積層鋼板の端部を交互に噛み合わせたラップ部で繋がれている。
【0020】
このように構成される本実施例の三相3脚鉄心1の輸送を考慮した分解組み立て構造について、図2を参照して説明する。三相3脚鉄心1の輸送時の寸法及び重量を制限内に抑えるため、本実施例では、脚鉄心2と下部分割ヨーク鉄心7aを工場で組立てた状態で荷造りして輸送する。同様に、脚鉄心3と下部分割ヨーク鉄心8a及び8b、脚鉄心4と下部分割ヨーク鉄心7bをそれぞれ、工場で組立てた状態で荷造りして輸送する。そして、据え付け場所である現地で組み立てる時には、下部分割ヨーク鉄心7a、8a及び8b、7bを、脚鉄心2、3、4が連結された状態で変圧器タンクの底板に形成されたベース上に載置する。これにより、下端が45度又は90度の鋭角部を有する脚鉄心2、3、4を安定して立設することができ、組立て工数を低減できる。
【0021】
次に、下部分割ヨーク鉄心7a、8a間、及び下部分割ヨーク鉄心7b、8b間の積層鋼板の端部に各積層間に形成されたラップ部の隙間に、繋ぎヨーク鉄心9a、9bのラップ部の積層鋼板を挿入して連結する。このようにして、脚鉄心2、3、4と下部ヨーク鉄心6を組み立てた後、巻線10をそれぞれの脚鉄心2、3、4の上部から挿入し、最後に上部ヨーク鉄心5a、5bの積層鋼板を脚鉄心2、3、4のラップ部に挿入して三相3脚鉄心の組み立てを完了する。
【0022】
ここで、本実施例の特徴部について、図3を参照して説明する。図3は、下部分割ヨーク鉄心8bと繋ぎヨーク鉄心9bと下部分割ヨーク鉄心7bからなる下部ヨーク鉄心6及び脚鉄心4における断面図であり、断面における下部ヨーク鉄心6中の磁束の流れを模式的に表記したものである。図3に示すように、下部分割ヨーク鉄心7b、8bと繋ぎヨーク鉄心9bとのラップ部は、同じ重ね合わせ層の鋼板の端面を互いに突き合わせて、連続する少なくとも3つの層の鋼板の突き合わせ位置(B、C、D線で示す。)を互いに下部ヨーク鉄心6の延在方向にずらして配置している。特に、本実施例ではずらしたことによる上下層のラップ長ΔLを同一にし、かつ、連続する少なくとも3つの層の鋼板の突き合わせ位置を下部ヨーク鉄心6の延在方向に階段(ステップ)状にずらして配置している。また、これに続く複数の層の鋼板の突き合わせ位置を階段状にずらして配置しているが、積層鋼板の積層厚みの方向に突き合わせ位置がジグザグ状になるようにずらして形成されている。なお、本発明はジグザグ状にずらすものに限られるものではなく、図4に示すように、連続する少なくとも3つの層ごとに複数の群を設定し、各群に属する複数の鋼板の前記突き合わせ位置を下部ヨーク鉄心の延在方向に段階的にずらしたラップ部を、同一位置で重ねて形成することができる。また、本発明は、図3、4に示した実施例のラップ部構造に限られるものではなく、要は、同じ重ね合わせ層の鋼板の端面を突き合わせた突き合わせ位置を、連続する少なくとも3つの層において互いに下部ヨーク鉄心の延在方向にずらして重ね合わせたラップ部とすればよい。
【0023】
図3又は図4に示す実施例によれば、ヨーク内を流れる磁束はラップ部において図中矢印で示したように、各層の鋼板の突き合わせ位置に形成される間隙(ギャップ)の磁路抵抗が高いことから、ギャップを回避して隣り合う鋼板とのラップ部(重なり部)を通って流れる。ここで、各層の鋼板の突き合わせ位置のB―B、C―C、D―D線上でみると、図3のジグザグ状にした場合は、磁束が流れる鋼板の有効断面積の割合が、順に3/4、1/2、3/4になる。これに対して、図4のように鋼板の突き合わせ位置を階段状にかつ周期的に繰り返して配置した場合は、どの突き合わせ位置でも、その割合が2/3になる。
【0024】
一方、下部分割ヨーク鉄心7bと脚鉄心4とを繋ぐラップ部は、図3、4に示すように、特許文献1と同様、同じ層の鋼板の端面の突き合わせ位置を、E−E、F−F線のように交互にずらして積層している。これによれば、1層おきに突き合わせ位置が同じ位置になるから、E−E、F−F線上における鉄心の有効な磁路断面積は、いずれの位置でも下部ヨーク鉄心6の断面積の1/2となる。他の脚鉄心2、3と下部分割ヨーク鉄心7a、8a及び8bとのラップ部も同様である。
【0025】
すなわち、本発明の図3、4の実施例に示したラップ部の構成によれば、鋼板の端面の突き合わせ位置を交互にずらして積層した特許文献1に比べて、ラップ部を流れる磁束密度の増減が緩和されるから、励磁電流を低減でき、かつ鉄損を低減できる。つまり、磁束がラップ部の積層方向に流れる際に、重ね合わせ層に垂直に入り込むことが少なくなり、励磁電流及び鉄損を低減することができる。
【0026】
一方、下部分割ヨーク鉄心7a、7b、8a、8bを変圧器タンクの底部に設けられたベース部材の上に載置して脚鉄心2、3、4を立設できるから、下部分割ヨーク鉄心間を繋ぐ繋ぎヨーク鉄心9a、9bとのラップ部には、機械的な連結強度が要求されない。そこで、適切なラップ長を求めるため、図3におけるラップ長ΔLと励磁電流及び鉄損の関係を実測した結果を、図5に示す。同図の横軸はラップ長ΔL(mm)、縦軸はラップ長ΔL=12mmにおける励磁電流及び鉄損を基準(100%)として表した励磁電流比と鉄損比である。同図から明らかなように、鉄損比はラップ長に比例して増減する傾向にあるが、励磁電流比はラップ長ΔL=12mmで極小になることがわかった。特に、ラップ長ΔLが7mmないし5mm未満になると励磁電流比が急激に増加する。また、ラップ長ΔLが15mmを超えると励磁電流比の増加率が大きくなっている。
【0027】
これらの実測結果から、ラップ部の機械的な連結強度を考慮して、ラップ長を例えば20mm以上にした従来技術によれば、励磁電流及び鉄損が大きくなることが分かる。これらのことから、ラップ長ΔLを5mm以上15mm以下とすること、さらに好ましくは、7mm以上15mm以下とする。
【0028】
なお、脚鉄心3と下部分割ヨーク鉄心8a、8bとを組み合わせた概略T字形の鉄心構造、脚鉄心2、4と下部分割ヨーク鉄心7a、7bとを組み合わせた概略L字形の鉄心構造は、従来と変わらないラップ部のラップ長で構成されているため、ラップ部での摩擦力による保持も同じで分割輸送する際、特に問題がない。
【0029】
上述した本発明の各実施例において、分割下部ヨーク鉄心7a、7b、8a、8b及び繋ぎヨーク鉄心9a、9bの材質を低損失材の珪素鋼板を用いることが好ましい。これによれば、図3、4のラップ部の構造による低損失化と相まって、
損失を大幅に低減することが可能となる。
【0030】
なお、上記の各実施例では、積層鉄心の1層あたりの鋼板が1枚の場合について説明したが、本願発明はこれに限られるものではなく、1層あたり複数枚の鋼板により積層しても、同様な効果が得られる。
【0031】
また、ラップ部を3段階にずらしたステップ状のラップ鉄心を例に述べたが、3段以上にずらした場合は、一層、励磁電流及び鉄損を低減することができる。
【0032】
上記した各実施例においては、本発明を三相3脚変圧器に適用した例で説明したが、単相2脚変圧器や三相5脚変圧器にも適用でき、この場合も同様な効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 三相3脚鉄心
2、3、4 脚鉄心
5a、5b 上部ヨーク鉄心
6 下部ヨーク鉄心
7a、7b、8a、8b 下部分割ヨーク鉄心
9a、9b 繋ぎヨーク鉄心
10 巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立設して配列される少なくとも3つの脚鉄心と、前記脚鉄心の上部及び下部を連結する上部及び下部ヨーク鉄心とを備え、
前記下部ヨーク鉄心は、前記脚鉄心のそれぞれに対応して分割されて複数の鋼板を重ね合わせて形成され、各脚鉄心に連結された下部分割ヨーク鉄心と、隣り合う前記脚鉄心の前記下部分割ヨーク鉄心間を繋ぐ複数の鋼板を重ね合わせて形成された繋ぎヨーク鉄心とを有し、
前記下部分割ヨーク鉄心と前記繋ぎヨーク鉄心との繋ぎ部は、同じ重ね合わせ層の鋼板の端面を突き合わせた突き合わせ位置を、連続する少なくとも3つの層において互いに下部ヨーク鉄心の延在方向にずらして重ね合わせたラップ部を有することを特徴とする分解輸送変圧器鉄心。
【請求項2】
請求項1において、前記ラップ部のラップ長を5mm以上15mm以下としたことを特徴とする分解輸送変圧器鉄心。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ラップ部は、連続する少なくとも3つの層の鋼板の前記突き合わせ位置を、下部ヨーク鉄心の延在方向に段階的にずらして配置し、これに続く複数の層の鋼板の前記突き合わせ位置を逆方向に段階的にずらして、前記突き合わせ位置を積層方向にジグザグ状に配置したことを特徴とする分解輸送変圧器鉄心。
【請求項4】
請求項1又は2において、前記ラップ部は、連続する少なくとも3つの層ごとに複数の群を設定し、各群に属する複数の鋼板の前記突き合わせ位置を下部ヨーク鉄心の延在方向に段階的にずらして形成されたことを特徴とする分解輸送変圧器鉄心。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの請求項において、前記繋ぎヨーク鉄心を形成する鋼板の延在方向の長さが同じであることを特徴とする分解輸送変圧器鉄心。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−15210(P2012−15210A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148214(P2010−148214)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】