説明

分離マトリックス及び精製法

【課題】 純度、安全性、有効性及び経済性に関する要望を満足できる、抗体又は抗体構築物の代替精製法の提供。
【解決手段】 リガンドが適宜スペーサアームを介して固定化された多孔質担体からなる分離マトリックスであって、上記リガンドが1以上の芳香族スルホンアミドを含んでいてプロトン付加性基を実質的に含まない、分離マトリックス。スルホンアミドの窒素は第二又は第三アミンである。本発明は、上記分離マトリックスを収容したクロマトグラフィーカラム、並びに分離マトリックスへの免疫グロブリン様化合物の吸着による単離法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体精製のように液体からの生体分子の分離の分野に関するものであり、具体的には抗体精製に適した分離マトリックスに関する。本発明は、新規マトリックスを備えるクロマトグラフィーカラム並びに抗体の単離法も包含する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、細菌、寄生虫、真菌、ウイルスの感染及び腫瘍細胞の増殖から身体を共同で防御する多数の相互依存的な細胞型からなる。免疫系の護衛は、宿主の血流を絶えず巡回するマクロファージである。感染又は免疫化に脅かされると、マクロファージは抗原として知られる異分子で標識された侵入者を飲み込むことによって応答する。ヘルパーT細胞で媒介されるこの事象は、一連の複雑な応答を起こしてB細胞を刺激する。すると、これらのB細胞は抗体と呼ばれるタンパク質を産生し、抗体は外来侵入者に結合する。抗体と抗原との結合事象で外来侵入者が標識され、食作用又は補体系の活性化によって破壊される。IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5種類の異なるクラスの抗体つまり免疫グロブリンが存在する。これらは生理学的役割だけでなく構造においても異なる。構造の面では、IgG抗体が、成体の免疫応答において主要な役割を果たすことから、免疫グロブリンの中では最も広範に研究されてきたクラスである。
【0003】
免疫グロブリンのもつ生物活性は、現在では、ヒト及び動物の診断、健康管理及び治療分野の様々な用途に利用されている。実際、この数年間で、モノクローナル抗体及び組換え抗体構築物は、現在治療薬及び診断薬として臨床試験で検査され米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けたタンパク質として最大のクラスとなっている。発現系及び産生計画を補足するものとして、高純度抗体を簡単かつ経済的に得るための精製プロトコルが設計されている。
【0004】
免疫グロブリンの従来の単離法は、他のタンパク質群を溶液に残したまま、免疫グロブリンを含むタンパク質画分を選択的に可逆沈殿させることに基づく。典型的な沈殿剤はエタノール、ポリエチレングリコール、硫酸アンモニウムやリン酸カリウムのようなリオトロピック塩(つまり非カオトロピック塩)、及びカプリル酸である。通例、これらの沈殿法は極めて不純な生成物を生じるだけでなく、多大な時間と労力を要する。さらに、原料に沈殿剤を添加すると、上清を他の目的に使用するのが難しくなるだけでなく、廃棄処理の問題を生じる。廃棄処理の問題は、免疫グロブリンの大規模精製では特に重要となる。
【0005】
イオン交換クロマトグラフィーも、免疫グロブリンの単離に多用される周知のタンパク分画法である。しかし、荷電イオン交換リガンドは、反対の電荷をもつ化合物すべてと反応するので、イオン交換クロマトグラフィーの選択性は他のクロマトグラフィー分離に比べて幾分低いことがある。
【0006】
プロテインA及びプロテインGアフィニティークロマトグラフィーは、使用が容易で得られる純度も高いので、免疫グロブリンの単離及び精製(特にモノクローナル抗体の単離)のための広く普及した方法である。イオン交換、疎水性相互作用、ヒドロキシアパタイト及び/又はゲル濾過段階との併用は、特にプロテインA系の方法は多くの生物製剤製造会社が選択する抗体精製法となっている。しかし、広く使用されてはいるが、コスト、漏れ、高pH値での不安定性のようなプロテインA系の媒体に伴う周知の問題に対処するための有効な代替法に対するニーズ及び要望が高まっている。
【0007】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)も、免疫グロブリンの単離に関して広く記載されている方法である。しかし、疎水性マトリックスは、免疫グロブリンを効率よく結合させるため、原料へのリオトロピック塩の添加を必要とする。リオトロピック塩の濃度を連続的又は段階的勾配で低下させることによって、結合した抗体はマトリックスから遊離する。高純度品が目的とされる場合、疎水性クロマトグラフィーを追加の段階と組合せることが推奨される。そこで、この方法の短所は、原料にリオトロピック塩を添加する必要があることである。これは、大規模ユーザーでは問題となり、コスト増加を招く。細胞培養上清以外の原料(例えば、ホエー、血漿及び卵黄)に関しては、原料へのリオトロピック塩の添加は、多くの場合大規模用途では使用できない。塩を用いると、免疫グロブリン除去後の原料を経済的に使用できなくなるおそれがあるからである。大規模用途での追加の問題は、数千リットルの廃液の処理である。
【0008】
チオフィリック吸着クロマトグラフィーは、免疫グロブリン単離用の新規なクロマトグラフィー吸着原理として1985年にJ.Porath(J.Porath et al; FEBS Letters, vol.185, p.306, 1985)によって導入された。この報文には、遊離メルカプト基を有する様々なリガンドをカップリングしたジビニルスルホン活性化アガロースが、0.5M硫酸カリウム(リオトロピック塩)の存在下で、どのように免疫グロブリンと特異的に結合するか記載されている。ビニルスルホンスペーサ由来のスルホン基及び得られるリガンドのチオエーテルが、抗体の結合に関する特異性及び能力を得るのに必要な構造であると推量されていた。しかし、その後で、リガンドがさらに芳香族基を含んでいるときは、チオエーテルを窒素又は酸素で置き換えることができることが判明した(K.L.Knudsen et al, Analytical Biochemistry, vol.201, p.170, 1992)。チオフィリッククロマトグラフィー用として記載されたマトリックスは概して十分な性能を示すが、免疫グロブリンを効率的に結合させるため原料にリオトロピック塩を添加する必要があるという大きな欠点もある。これは、上述の理由から問題である。
【0009】
エポキシ活性化アガロースにカップリングした他のチオフィリックリガンド、例えば2−メルカプトピリジン、2−メルカプトピリミジン及び2−メルカプトチアゾリンが、J.Porath et. al. Makromol. Chem., Makromol. Symp., vol.17, p.359, 1988及びA.Schwarz et. al., Journal of Chromatography B, vol.664, pp.83−88, 1995に開示されている。しかし、これらの親和性マトリックスはすべて、リオトロピック塩を添加しなければ、抗体の効率的結合には不十分な親和性定数しか示さない。
【0010】
米国特許第6498236号(Upfront Chromatography)は、免疫グロブリンの単離に関する。この米国特許に開示された方法は、負に荷電した界面活性剤と免疫グロブリンとを含む溶液を固相マトリックスに接触させて、免疫グロブリンの少なくとも一部を固相マトリックスに結合させる段階、免疫グロブリンを固相マトリックスから遊離させるため、固相マトリックスを溶出液に接触させる段階を含む。免疫グロブリン含有溶液は、さらに、pH2.0〜10.0、イオン強度2.0以下に相当する全塩含有量、及び最大0.4Mの濃度のリオトロピック性塩を有することを特徴とする。溶液中に存在する界面活性剤は、マトリックスへの他の生体分子の付着を抑制すると考えられており、例として、硫酸オクチル、ブロモフェノールブルー、スルホン酸オクタン、ラウリルサルコシン酸ナトリウム及びスルホン酸ヘキサンが挙げられる。固相マトリックスは式M−SP1−Lで定義される。式中、Mはマトリックス骨格を表し、SP1は単環式又は二環式芳香族又は複素芳香族環部分を表す。
【0011】
Liu他(Yang Liu, Rui Zhao, Dihua Shangguan, Hongwu Zhang, Guoquan Liu: Novel sulfamethazine ligand used for one−step purification of immunoglobulin G from human plasma, Journal of Chromatography B, 792(2003) 177−185)では、スルファメタジン(SMZ)のヒトIgGに対する親和性について検討されている。例えば、R基が複素環式環であるスルホニル基を含むリガンドが開示されている。この報文によれば、SMZを単分散非多孔質架橋ポリ(グリシジルメタクリレート)ビーズに固定化した。次いで、このビーズを、ヒト血漿からIgGを単離するための高速アフィニティクロマトグラフィーに用いた。pH5.5で最大の吸着が得られた。このビーズが示す他のタンパク質との非特異的相互作用はごくわずかであった。したがって、リガンドは抗体を吸着することができ、他のタンパク質との相互作用は使用した吸着緩衝液中でそれらを遅延させるのにちょうど十分であった。しかし、周知の通り、メタクリレートのようなエステル化合物は高pH値で容易に加水分解する。したがって、プロテインA及びプロテインBマトリックスと同様に、上記報文に記載された分離マトリックスは、常用される定置洗浄(CIP)法では不安定であると予想される。
【0012】
米国特許第4725355号(テルモ株式会社)には、体液浄化用の媒体及び装置、具体的には、体液中の血漿タンパク質のような病原性物質の除去用の吸着剤を固定化した担体に関する。米国特許第4725355号によれば、疾患治療のために体外循環血液浄化療法を行うには、さらに高い効率で病原性物質を除去し、血液に対する悪影響が非常に少ないことが好ましい。米国特許第4725355号で提供される吸着剤には、1種以上のサルファ剤が含まれている。米国特許第4725355号によれば、サルファ剤のアゾール環は疎水性を示すが、環内のヘテロ原子は孤立電子対を有しており、タンパク質受容体として作用する。サルファ剤のスルホンアミド部分は水素結合性を有すると記載されている。
【特許文献1】米国特許第6498236号明細書
【特許文献2】米国特許第4725355号明細書
【非特許文献1】J.Porath et al; FEBS Letters, vol.185, p.306, 1985
【非特許文献2】K.L.Knudsen et al, Analytical Biochemistry, vol.201, p.170, 1992
【非特許文献3】J.Porath et. al. Makromol. Chem., Makromol. Symp., vol.17, p.359, 1988
【非特許文献4】A.Schwarz et. al., Journal of Chromatography B, vol.664, pp.83−88, 1995
【非特許文献5】Yang Liu, Rui Zhao, Dihua Shangguan, Hongwu Zhang, Guoquan Liu: Novel sulfamethazine ligand used for one−step purification of immunoglobulin G from human plasma, Journal of Chromatography B, 792(2003) 177−185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、純度、安全性、有効性及び経済性に関する要望を満足できる、抗体又は抗体構築物の代替精製法に対するニーズが依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明の一つの目的は、中性付近のpHにおいて低イオン強度で抗体を吸着できる分離マトリックスを提供することである。この目的は、請求項1に記載の分離マトリックスによって達成できる。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、高い選択性で抗体を吸着できる分離マトリックスを提供することである。
【0016】
本発明の一つの具体的な目的は、抗体は吸着するが、その他のタンパク質は実質的に相互作用せずに通過する分離マトリックスを提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、チオフィリック、疎水性及び/又は水素結合相互作用によって抗体を吸着できる官能基を含む抗体分離用マトリックスの製造方法であって、リガンド構造を容易に変更できる方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、分離マトリックスへの吸着によって抗体を液体から単離する方法であって、吸着の達成に界面活性剤の添加を一切必要としない方法を提供すること
本発明のその他の態様及び利点は以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
定義
「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、本明細書では同義に用いられる。
【0020】
「リガンド」という用語は、本明細書では、抗体のような目標化合物と相互作用し得る分子又は化合物を意味する。
【0021】
「スペーサーアーム」という用語は、本明細書では、分離マトリックスの担体からリガンドを離隔する要素を意味する。
【0022】
「第一アミン」は式RNHで定義される。ただし、Rは有機基を表す。
【0023】
「第二アミン」は式RNHで定義される。ただし、Rは有機基を表す。
【0024】
スルホニル基は式−S(=O)Rで定義される。ただし、Rは有機基を表す
「芳香族」基という用語は、ヒュッケル則(4n+2)によってπ電子の数を計算できる基をいう(ただし、nは0又は正の整数である。)。
【0025】
「芳香族スルホンアミド」という用語は、R基が1以上の芳香族基を含むスルホンアミドをいう。
【0026】
「二環式」及び「三環式」という用語は、その残基がそれぞれ2又は3つの環を含むことを意味する。環は縮合環でも別個の環でもよい。同様に、それ以上の環を含む残基についても縮合環でも別個の環でもよい。
【0027】
「プロトン付加性」基という用語は、水素を付加させることができる基を意味する。
【0028】
「親和性基」という用語は、生物学的な「鍵/鍵穴」相互作用で互いに特異的に結合する親和性対をいう。周知の親和性対は、例えば酵素とその受容体、ビオチンとアビジン、プロテインAと抗体である。
【0029】
「表面」という用語は、多孔質担体に関して用いる場合、実際の外表面だけでなく、細孔表面も包含する。
【0030】
「溶出液」という用語は、当技術分野における通常の意味で用いられ、分離マトリックスから1種以上の化合物を遊離させるための、適当なpH及び/又はイオン強度を有する緩衝液をいう。
【0031】
発明の詳細な説明
第一の態様では、本発明は、リガンドが適宜スペーサアームを介して固定化された多孔質担体からなる分離マトリックスであって、上記リガンドが1以上のスルホンアミドを含み、スルホニルのR基が1以上の芳香族基を含む分離マトリックスに関する。
【0032】
好適な実施形態では、本発明は、リガンドが適宜スペーサアームを介して固定化された多孔質担体からなる分離マトリックスであって、上記リガンドが1以上の芳香族スルホンアミドを含んでいてプロトン付加性基を実質的に含まない分離マトリックスに関する。ここでいう「プロトン付加性基を実質的に含まない」とは、かかる基がリガンドの一部を構成することがなく、プロトン付加性基が目標分子との相互作用に実質的に関与しないことをいう。
【0033】
一実施形態では、リガンドは1以上の第一又は第二アミンを含む。
【0034】
分離マトリックスは、抗体その他等価な結合特性を示す化合物(例えば免疫グロブリン部分又は抗体フラグメントを有する融合タンパク質など)の精製のような単離又は分析に使用できる。本発明者らは、1以上のスルホンアミドを含む分離マトリックスを使用すると、抗体を大容量かつ優れた選択性で精製できるという知見を得た。上述の米国特許第6498236号とは異なり、本発明では、精製に当たり、非帯電リガンドを用いたマトリックスと接触させる前に抗体含有液に界面活性剤を添加する必要が全くない。さらに、以下の実施例に示す通り、本発明では、免疫グロブリンは吸着できるが、同一条件下で3種の異なるモデルタンパク質は吸着されなかった。本明細書に記載の芳香族スルホンアミドリガンドは、こうした選択性のため、モノクロナール抗体の精製に非常に有用である。
【0035】
周知の通り、スルホンアミドは、アミンの1以上のR基がスルホニル基であるアミンからなる。本発明者らは、スルホニルR基が芳香族であるスルホンアミドをリガンドに導入することによって、本発明の分離マトリックスの結合特性が向上するという知見を得た。したがって、最も好ましい実施形態では、R基は1以上の芳香族基を含む。
【0036】
さらに、一実施形態では、スルホニルのR基は置換又は非置換芳香族又は複素芳香族基であり、例えばモノ又はポリ芳香族基である。具体的には、R基は例えば単環式でも、二環式でも、三環式でもよい。芳香族残基の具体例は、フェニル、ベンジル、ベンゾイル、ナフチル及びトシルである。複素芳香族基はヘテロ原子N、O及びSを1個以上含んでいてもよく、チエニル、フリル及びピリジルなどが挙げられる。
【0037】
一実施形態では、置換基は電子吸引性である。置換基は、ハロゲンや炭素原子のような単一原子でも、−N(O)のような基でもよい。置換基は線状又は枝分れ炭素鎖でもよい。
【0038】
同様に、スルホンアミドリガンドはその他の置換基を含んでいてもよい。当業者には自明であろうが、置換基の性状を利用してリガンドの結合特性を高めることができる。ただし、リガンド(特にR基及びその置換基)の性状及び大きさは、抗体のような目標分子の結合を立体障害などで阻害しないように選択すべきであることも明らかであろう。
【0039】
特定の実施形態では、スルホニルのR基は芳香族基に加えて1以上の脂肪族基を含む。
【0040】
本発明の分離マトリックスの一実施形態では、リガンドはスルホニル化モノアミンである。別の実施形態では、リガンドはスルホニル化ポリアミンである。かかるスルホニル化ポリアミンに含まれるアミンの数は都合のよいものであればよく、例えば2〜10個である。例示的な実施形態では、各ポリアミンは2〜6個のアミンを含む。他の実施形態では、リガンドは2以上のスルホニル基を含む。かかる追加のスルホニル基は、スルホンアミドのR基の一部でもよいし、及び/又はリガンドを担体に連結するスペーサアームの一部をなすものであってもよい。
【0041】
本発明の分離マトリックスの特定の実施形態では、リガンドは、担体に固定化されたポリマーの繰返し単位として存在する。ポリマーは、ポリアルキレンアミンのような適当なポリアミンであればよい。一実施形態では、ポリマーはポリエチレンアミンである。当業者には自明であろうが、かかるポリマーのアミン含量は変えることができ、例えば所望の程度の第一及び/又第二アミンを含むようにすることができる。したがって、一実施形態では、ポリマーは2種以上の異なるリガンド基を提示する。ポリマーは、適切なモノマーから当技術分野での常法で容易に製造できる。担体にポリアミンをカップリングする方法も周知であり、例えばポリマーの現場重合又はグラフト化などによって当業者が容易に実施できる。例えば、PCT/SE02/02159(Ihre et al)参照。この実施形態の利点は、例えばポリマー鎖長、枝分れなどの変更によって、分離マトリックスの特性を都合よく最適化できることである。別法では、ポリアミンはスルホニル基の硫黄を介して担体にカップリングさせる。
【0042】
ただし、本発明に係る分離マトリックスは、1以上の芳香族スルホンアミドリガンドを他の官能基と共に含んでいてもよい。例えば、一実施形態では、分離マトリックスのリガンドは、2種以上の官能基を用いて目標と相互作用することができるという点でマルチモーダルリガンドである。追加又は2次的官能基は、例えば、スルホンアミド基への様々な置換基の導入によって、或いはスペーサを介して、或いはスルホンアミド基の窒素原子のアルキル化、或いはスルホンアミドマトリックスへの新規リガンド(2種以上の異なるリガンド構造)の導入による単なる確率論的方法によって、容易に導入できる。追加の官能基は、例えば、芳香族基、複素環式及び脂肪族基、H結合供与体及び受容体含有基、アミンや酸性基のような荷電性官能基、デキストランのようなポリヒドロキシル化基、ポリエチレングリコール誘導体、並びにフッ素原子含有基からなる群から選択される。
【0043】
したがって、一実施形態では、本発明の分離マトリックスは、1以上の芳香族スルホンアミドとイオン交換基とを含むリガンドを固定化した多孔質担体からなる。そこで、この実施形態はスルホンアミド系イオン交換分離マトリックスと呼ぶことができる。
【0044】
他の実施形態では、分離マトリックスは、1以上の芳香族スルホンアミドを、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)基、イオン交換基、親和性基及び金属キレート化基からなる群から選択される1種以上の追加の官能基と共に含むマルチモーダルスルホンアミド系分離マトリックスである。一実施形態では、リガンドの芳香族スルホンアミド基は、プロトン付加性基又は非プロトン付加性基である。
【0045】
本発明の分離マトリックスの多孔質担体は適当な材料であればどんなものでもよい。一実施形態では、担体は、アガロース、寒天、セルロース、デキストラン、キトサン、コンニャク、カラギーナン、ジェラン又はアルギン酸塩のような架橋炭水化物材料からなる担体は、逆相懸濁ゲル化(S Hjerten:Biochim Biophys Acta 79(2), 393−398(1964))のような常法で容易に製造できる。別法として、担体はSepharose(商標)(Amersham Biosciences AB(スウェーデン国ウプサラ))のような市販品である。したがって、本発明のマトリックスの一実施形態では、担体は架橋多糖類である。特定の実施形態では、多糖類はアガロースである。かかる炭水化物材料は一般にアリル化してからそのリガンドを固定化する。簡単に説明すると、アリル化はアリルグリシジルエーテル、臭化アリルその他の適当な活性化剤を用いた常法で実施できる。
【0046】
別の実施形態では、本発明の分離マトリックスの多孔質担体は、スチレン又はスチレン誘導体、ジビニルベンゼン、アクリルアミド、アクリレートエステル、メタアクリレートエステル、ビニルエステル、ビニルアミドなどの架橋合成ポリマーからなる。かかるポリマーの担体は常法で容易に製造できる。例えば、“Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization”(R Arshady: Chimica e L’Industria 70(9), 70−75(1988)参照。別法として、Source(商標)(Amersham Biosciences AB(スウェーデン国ウプサラ))のような市販品を本発明にしたがって表面改質してもよい。ただし、この実施形態では、担体の表面は好ましくはその親水性が高まるように改質され、通常は露出された残留二重結合の大部分をヒドロキシル基へと転換する。
【0047】
一実施形態では、リガンドは、多孔質担体の表面に存在するエキステンダ又はコーティングポリマー層に固定化される。かかるエキステンダ(「フレキシブルアーム」とも呼ばれる。)は有機ポリマーでも合成ポリマーでもよい。例えば、担体に親水性を付与するため、担体をデキストランでコートしてもよく、これに当技術分野で周知の方法で罹患度を固定化すればよい。
【0048】
本発明の分離マトリックスは適当な形態のものであればどのようなものでもよく、例えば実質的に球形の粒子やモノリスのようなクロマトグラフィーマトリックス、フィルター又はメンブラン、チップ、表面、キャピラリーなどでよい。そこで、本発明は、上述の分離マトリックスを充填してなるクロマトグラフィーカラムも包含する。好適な実施形態では、カラムは、生体適合性プラスチック(例えばポリプロピレン)又はガラスのような慣用材料から作製される。カラムは、抗体の実験室規模又は大規模精製に適したサイズのものである。特定の実施形態では、本発明に係るカラムはルアーアダプタ、チューブコネクタ及びドームナットを備える。そこで、本発明は、上述の分離マトリックスが充填されたクロマトグラフィーカラムと、1種以上の緩衝液と、抗体精製に関する使用説明書とを、別々の区画に備えたキットも包含する。特定の実施形態では、本キットは、チューブコネクタ及びドームナットも備える。
【0049】
第二の態様では、本発明は、抗体精製用マトリックスの製造方法であって、多孔質担体にスルホンアミドをそのアミン或いはそのスルホニル基の硫黄を介して固定化する第一段階を含んでなる方法に関する。特定の実施形態では、多孔質担体にアミン及び/又はポリアミンを固定化し、次いでアミンをスルホニル化することによってスルホンアミドリガンドを製造する。多孔質担体は上述のものでよく、固定化には常法を用いればよい。例えば、Immobilized Affinity Ligand Techniques, Hermanson et al, Greg T. Hermanson, A. Krishna Mallia and Paul K. Smith, Academic Press, INC, 1992参照。芳香族化合物の固定化についての具体的説明に関しては、例えば、前述の米国特許第6498236(Upfront Chromatography)参照。ただし、当業者には自明であろうが、ある種の分離マトリックスは、リガンドの性状に応じて、スルホンアミドを担体に直接固定化することによっても十分に製造できる。さらに、リガンド密度を利用して疎水性リガンドを幾分相殺できることも当業者には自明であろう。換言すれば、疎水性が強すぎて吸着抗体を容易には脱着できないような疎水性の高いリガンドを選択する場合、疎水性を弱めるよりは担体上の密度を下げることによって相殺することが必要とされることもある。これは、慣用かつ周知であり、ルーチン試験でリガンド密度を適宜調整することは当業者が容易になし得る。
【0050】
第三の態様では、本発明は、液体からの抗体の精製方法であって、
(a)1種以上の抗体を含む液体を用意する段階、
(b)1種以上の抗体をマトリックスに吸着させるため、上記液体を1以上のスルホンアミド基を含む分離マトリックスと接触させる段階、及び任意段階として、
(c)1種以上の抗体を遊離させるため、溶出液を上記マトリックスに通過させる段階、及び
(d)1種以上の抗体を溶出液の画分から回収する段階
を含んでなる方法である。
【0051】
なお、ここでいう「抗体」という用語には、抗体フラグメント、並びに抗体又は抗体フラグメントを有する融合タンパク質も包含される。したがって、本方法は、抗体の結合特性を示すあらゆる免疫グロブリン様分子の単離に有用である。抗体を含む液体は、例えば、抗体産生細胞培地又は発酵培養液由来の液体で、それから1種以上の所望の抗体の精製が望まれる液体でもよい。或いは、液体は血液又は血漿で、それから1種以上の抗体を除去してその点で純粋な液体を得ることが望まれる血液又は血漿であってもよい。そこで、この方法の一実施形態では、段階(a)で用意される液体は抗体以外の1種以上のタンパク質も含んでいる。以下の実施例で示す通り、一般に、本方法では、比較的低いイオン強度で抗体の選択的吸着ができる。本発明者らは、1以上のスルホンアミド基を示す多孔質分離マトリックスを使用すると、抗体以外の他のタンパク質は吸着せずに、抗体を吸着できるという予想外の知見を得た。したがって、この方法は、抗体の精製標品を高い収率で与える。以下の実施例で論じる通り、各スルホンアミドリガンド構造についての最適条件はルーチン実験を用いて当業者が容易に選択できる。例えば、ゲルの性状(本発明ではスルホンアミドのR基)又は置換度つまり担体のリガンド密度のいずれかを変えることによって分離マトリックスの特性を最適化できることは当技術分野において周知である。吸着緩衝液の塩濃度も各リガンドについて最適化できる。例えば、この方法の一実施形態では、段階(b)の吸着は約0.25M NaSOの塩濃度もたらされる。特定の実施形態では、リガンドはモノアミンを含むものであり、段階(b)は約0.5M NaSOを超える塩濃度で実施される。
【0052】
本発明の方法では、適当な形態の分離マトリックス、例えば実質的に球形の粒子やモノリスのようなクロマトグラフィーマトリックス、フィルター又はメンブラン、チップなどを用いることができる。例えば、好適な実施形態では、段階(b)の分離マトリックスはクロマトグラフィーカラム内で用意される。
【0053】
段階(b)の分離マトリックスの担体及びリガンドは上述のいずれであってもよい。
【0054】
上述の通り、本発明では、本発明に係る新規な分離マトリックスを使用すると、中性pHで抗体を高い選択性で吸着できるという予想外の知見が得られた。そこで、一実施形態では、段階(b)は6.5〜8.3のpH、例えば7.2〜7.6、例えば約7.4のpHで実施される。
【0055】
カラムに吸着した抗体は、イオン強度の漸減する溶出液の使用など、慣用の溶出法で容易に遊離する。したがって、一実施形態では、段階(c)は、塩濃度の漸減する溶出液を分離マトリックスに添加すること、好ましくは溶出液をマトリックスに流すことによって実施される勾配溶出である。濃度勾配は、直線濃度勾配又は段階的濃度勾配など、どんな形のものでもよい。競争結合物の溶出液への添加、マトリックス上の吸着抗体を移動させるアルコールや塩などの化合物の溶出液への添加、又は温度変化など、他の溶出スキームも有用である。
【0056】
別法として、段階(c)の溶出は、pHの減少又は増加など、pHの調整によって実施される。pH調整を、上述の塩濃度勾配と組合わせてもよい。特定の実施形態では、段階(b)は中性よりも高いpHで実施され、段階(c)はpH漸減溶出液の添加によって実施される勾配溶出である。
【0057】
本方法は、マウス、齧歯類、霊長類及びヒトのような哺乳類宿主由来の抗体、又はハイブリドーマ細胞のような培養細胞由来の抗体のようなあらゆる種類のモノクローナル又はポリクローナル抗体の回収に有用である。一実施形態では、段階(d)で回収される抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である。抗体はどのクラスのものでもよく、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMからなる群から選択できる。特定の実施形態では、段階(d)で回収される抗体は免疫グロブリンG(IgG)である。本発明は、上述の抗体のいずれかのフラグメント並びにかかる抗体を含む融合タンパク質の精製も包含する。こうして単離又は精製された目標分子は、例えば必要とされる個人のために特殊な医薬が設計されるパーソナライズドメディスンのような医療分野で抗体薬として有用である。
【0058】
本発明の方法では、抗体の定量的吸着が可能となる。そこで、一実施形態では、本発明の方法は、上述の方法に加えて、さらに抗体の量を分光光度法で測定する段階(f)を含む。かかる方法及び有用な装置は当業者に周知である。本発明の方法は分析法にも有用であり、診断分野におけるツールを提供し得る。
【0059】
図面の詳細な説明
図1は、本発明に係る6種類の異なる芳香族スルホンアミドリガンドの具体的リガンド構造を示す。
【0060】
図2は、実施例2に記載された本発明に係るプロトタイプリガンドでのIgGの吸着及び脱着を示すクロマトグラムである。280nmでのUV応答(青線)は、IgG試料が吸着され(緩衝液A3)、緩衝液B1を用いて23〜26mLで溶出されることを示している。緩衝液A3=0.50M NaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)、緩衝液B1=100mM酢酸緩衝液(pH4.0)。
【0061】
図3は、実施例3に記載された本発明に係るプロトタイプリガンドでのBSAの吸着及び脱着を示すクロマトグラムである。280nmでのUV応答(青線)は、BSA試料は緩衝液A3を用いて吸着されずに7.5〜9mLで溶出されることを示している。緩衝液A3=0.50M NaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)、緩衝液B1=100mM酢酸緩衝液(pH4.0)。
【0062】
図4は、実施例4に記載された本発明に係るプロトタイプリガンドでのRIBの吸着及び脱着を示すクロマトグラムである。280nmでのUV応答(青線)は、RIB試料は緩衝液A3を用いて吸着されずに7.5〜9mLで溶出されることを示している。緩衝液A3=0.50M NaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)、緩衝液B1=100mM酢酸緩衝液(pH4.0)。
【0063】
図5は、実施例5に記載された本発明に係るプロトタイプリガンドでのTRANSFの吸着及び脱着を示すクロマトグラムである。280nmでのUV応答(青線)は、TRANSF試料は緩衝液A3を用いて吸着されずに7.5〜9mLで溶出されることを示している。緩衝液A3=0.50M NaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)、緩衝液B1=100mM酢酸緩衝液(pH4.0)。
【実施例】
【0064】
以下の実施例はもっぱら例示を目的とするものであり、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的範囲を限定するものではない。本明細書で引用した文献の開示内容はすべて援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0065】
実施例1:スルホンアミド分離マトリックスの製造
以下、スルホニル部分のR基が芳香族基を含む本発明に係る様々な分離マトリックスの製造について例示する。
【0066】
全般
マトリックスの体積は、沈降ベッド体積をいう。
【0067】
グラム単位で示すマトリックス重量は吸引乾燥重量をいう。なお、これらのマトリックスは依然として水で溶媒和した材料である。
【0068】
磁気攪拌子を使用するとビーズが傷つきやすいので、大規模反応での攪拌は懸架式電動攪拌機で行った。小規模反応(ゲル20ml又は20gまで)は密閉バイアル内で実施し、攪拌には振盪台を用いた。
【0069】
ビーズ上の官能基の分析及びイオン交換基のアリル化度又は置換度の測定には慣用法を用いた。これらの方法は、最終的にゲルの元素分析(特に硫黄原子について)で補完した。
【0070】
以下、架橋アガロースゲル(Sepharose(商標)6FF、Amersham Biosciences(スウェーデン国ウプサラ))を出発材料とする本発明に係る分離マトリックスの製造方法の一例を例示する。各段階について、具体的な実施例を記載する。
【0071】
A.マトリックスへのアリル基の導入
Sepharose(商標)をアリルグリシジルエーテルで以下の通り改質した。
【0072】
1)200mlのSepharose(商標)6FFを、NaBH0.2g、NaSO24g、50%NaOH水溶液8g及び水40mlと混合した。混合物を50℃で1時間攪拌した。アリルグリシジルエーテル(100ml)を加えて、懸濁液を激しく攪拌しながら50℃でさらに18時間放置した。5M酢酸をpHが7に達するまで徐々に添加して中和した後、混合物を濾過し、ゲルをエタノール1L、蒸留水2L、0.2M酢酸400ml及び蒸留水500mlで順次洗浄した。
【0073】
滴定で求めた置換度は0.124mmolアリル/mlゲルであった。
【0074】
2)225mlのSepharose(商標)6FFを、NaBH0.22g、50%NaOH水溶液7.2g及び水110mlと混合した。混合物を30℃で1時間攪拌した。アリルグリシジルエーテル(61.8ml)を加えて、懸濁液を激しく攪拌しながら30℃でさらに17時間放置した。5M酢酸をpHが7に達するまで徐々に添加して中和した後、混合物を濾過し、ゲルをエタノール1L、蒸留水2L、0.2M酢酸400ml及び蒸留水500mlで順次洗浄した。
【0075】
滴定で求めた置換度は0.042mmolアリル/mlゲルであった。
【0076】
B.マトリックスへのアミン基の導入
アミン基の窒素原子を介してアミンをマトリックスに直接導入した。マトリックスへのカップリングは、アリル基の臭素化及び塩基性条件下での求核置換反応で行った。
【0077】
臭素化によるアリルSepharose(商標)の活性化
上述の通りアリル化したSepharose(商標)6FF(0.042又は0.124mmolアリル基/ml排水ゲル)100ml、AcONa4g及び蒸留水100mlからなる攪拌懸濁液に、黄色が持続するまで臭素を加えた。次いで、懸濁液の色が完全に消えるまでギ酸ナトリウムを加えた。反応混合物を濾過し、ゲルを蒸留水500mlで洗浄した。活性化ゲルを直ちに反応容器に移して、適当なリガンドと反応させた。
【0078】
ジエチレントリアミンSepharose(商標)
少量の6M HClを加えてpH12に調整しておいたジエチレントリアミン(24ml)と水(10ml)の溶液が入った反応バイアルに、30gの臭素活性化ゲル(0.124mmolアリル基/ml排水ゲル)を移した。反応混合物は、攪拌しながら50℃で20時間放置した。反応混合物を濾過した後、ゲルを蒸留水3×30ml、0.5 HCl水溶液3×30ml、最後に蒸留水3×30mlで順次洗浄した。置換度0.158mmolアミン/ゲルmlのジエチレントリアミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0079】
アンモニアSepharose(商標)
1)50%NaOH水溶液を2〜3滴加えてpH12.3に調整しておいたアジ化ナトリウム(2g)と水(10ml)の溶液が入った反応バイアルに、33gの臭素活性化ゲル(0.124mmolアリル基/ml排水ゲル)を移した。反応混合物は、攪拌しながら50℃で20時間放置した。反応混合物を濾過した後、ゲルを蒸留水3×60ml、DMF3×30mlで順次洗浄した。次いで、排水ゲルを、DMF(22ml)中のDTE(4.5g)とDBU(3.75ml)の溶液で処理し、混合物を室温で18時間攪拌した。反応混合物を濾過した後、ゲルをDMF3×30ml、エタノール3×30ml、最後に蒸留水3×30mlで順次洗浄した。
【0080】
置換度0.083mmolアミン基/ゲルmlのアミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0081】
2)2〜3滴の50%NaOH水溶液を加えてpH12.2に調整しておいたアジ化ナトリウム(84mg)と水(3ml)の溶液が入った反応バイアルに、6gの臭素活性化ゲル(0.042mmolアリル基/ml排水ゲル)を移した。反応混合物は、攪拌しながら50℃で17時間放置した。反応混合物を濾過した後、ゲルを蒸留水3×20ml、DMF3×10mlで順次洗浄した。次いで、排水ゲルを、DMF(5ml)中のDTE(0.86g)とDBU(0.8ml)の溶液で処理し、混合物を室温で18時間攪拌した。反応混合物を濾過した後、ゲルをDMF3×10ml、エタノール3×10ml、最後に蒸留水3×10mlで順次洗浄した。
【0082】
置換度0.026mmolアミン基/ゲルmlのアミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0083】
C.アリールスルホニルクロライド誘導体によるアミン基の誘導体化
一般法
5gのアミン結合ゲルを、0.2M NaOH水溶液10ml、エタノール3×10ml、次いでDCM(ジクロロメタン)3×10mlで洗浄した。ゲルをバイアルに移し、DCM(2ml)及びDIPEA3.3当量も加え、混合物を5分間攪拌した。DCM(3ml)に溶解したアリールスルホニルクロライド3当量を滴下した後、反応混合物を室温で18時間攪拌した。
【0084】
反応混合物を濾過した後、ゲルをDCM3×10ml、エタノール3×10ml、蒸留水3×10ml、0.5M HCl3×10ml、最後に蒸留水3×10mlで順次洗浄した。
【0085】
N,N′,N″−トリス(ペンタフルオロベンゼンスルホニル)ジエチレントリアミンSepharose(商標)
上記一般法に従ってジエチレントリアミンSepharose(商標)ゲル(0.158mmolアミン/ゲルml)をペンタフルオロベンゼンスルホニルクロライド(355μl)で処理して標記のプロトタイプを得たが、これは図1ではL1Aと表示する。
【0086】
N,N′,N″−トリス(4−ニトロベンゼンスルホニル)ジエチレントリアミンSepharose(商標)
上記一般法に従ってジエチレントリアミンSepharose(商標)ゲル(0.158mmolアミン/ゲルml)を4−ニトロベンゼンスルホニルクロライド(540mg)で処理して標記のプロトタイプを得たが、これは図1ではL1Bと表示する。
【0087】
N,N′,N″−トリス(p−トルエンスルホニル)ジエチレントリアミンSepharose(商標)
上記一般法に従ってジエチレントリアミンSepharose(商標)ゲル(0.158mmolアミン/ゲルml)をp−トルエンスルホニルクロライド(460mg)で処理して標記のプロトタイプを得たが、これは図1ではL1Cと表示する。
【0088】
ペンタフルオロベンゼンスルホンアミドSepharose(商標)
上記一般法に従ってアンモニアSepharose(商標)ゲル(0.083mmolアミン/ゲルml)をペンタフルオロベンゼンスルホニルクロライド(200μl)で処理して標記のプロトタイプを得たが、これは図1ではL2Aと表示する。
【0089】
4−ニトロベンゼンスルホンアミドSepharose(商標)
上記一般法に従ってアンモニアSepharose(商標)ゲル(0.083mmolアミン/ゲルml)を4−ニトロベンゼンスルホニルクロライド(290mg)で処理して標記のプロトタイプを得たが、これは図1ではL2Bと表示する。
【0090】
p−トルエンスルホンアミドSepharose(商標)(L2C)
1)上記一般法に従ってアンモニアSepharose(商標)ゲル(0.026mmolアミン/ゲルml)をp−トルエンスルホニルクロライド(207mg)で処理して標記のプロトタイプ(低置換型)を得たが、これは実施例ではL2Caと表示する。
【0091】
2)上記一般法に従ってアンモニアSepharose(商標)ゲル(0.083mmolアミン/ゲルml)をp−トルエンスルホニルクロライド(207mg)で処理して標記のプロトタイプ(高置換型)を得たが、これは実施例ではL2Cbと表示する。
【0092】
実施例2〜実施例5:クロマトグラフィーによる評価
材料及び方法(一般)
本発明に係る芳香族スルホンアミドリガンドがヒト免疫グロブリン(IgG)を吸着するかどうかを試験するため、IgG及び3種類の異なるタンパク質の吸着性を様々な条件下で試験した。また、1種類のモノクロナール抗体も試験した。試験法の原理は、塩及び緩衝成分を含むA緩衝液で平衡化しておいた、スルホンアミドリガンドの固定化されたSepharose(商標)6 Fast Flowを詰めたHR5/5カラムにタンパク質(15μl)を注入し、次いでA緩衝液15mlをカラムに流す。次いで、塩を含まずに緩衝液成分を含むB緩衝液を用いて、A緩衝液からB緩衝液の直線濃度勾配5mlを適用する(以下のUNICORN法参照)。次いで、クロマトグラフィーのプロファイルを280、254及び215nmでモニターする。
【0093】
吸着試料の量及びカラムからの溶出試料の量を評価するために、カラムにかけたものと同量の試料を直接モニターにも注入し、応答を積分した。
【0094】
実験
3種類の吸着用緩衝液(緩衝液A#)及び2種類の脱着用緩衝液(緩衝液B#)を使用した。
【0095】
緩衝液A1:0.25M NaClを含むリン酸緩衝液20mM(pH7.4)
緩衝液A2:0.25M NaSOを含むリン酸緩衝液20mM(pH7.4)
緩衝液A3:0.50M NaSOを含むリン酸緩衝液20mM(pH7.4)
緩衝液B1:酢酸緩衝液100mM(pH4.0)
緩衝液B2:酢酸緩衝液100mM(pH4.0)+20%(v/v)イソプロパノール
試料
使用した試料は、ウシ血清アルブミン(BSA)、リボヌクレアーゼA(RIB A)、トランスフェリン(TRANSF)及びヒト免疫グロブリン(IgG、Gammanorm Pfizer)であった。タンパク質はA緩衝液に濃度15mg/mlで溶解し、1回にカラムにかけるタンパク質は1種類だけにした。
【0096】
リガンドL2Cを有する媒体も、26μmol/mL(L2Ca)及び16μmol/mL(L2Cb)に調整したリガンド密度で製造した。
【0097】
機器
装置(Amersham Biosciences(スウェーデン国ウプサラ))
LC系: AKTA(商標)Explorer 10 XT
ソフトウェア:UNICORN(商標)
注入ループ: Superloop 15μl
カラム: HR 5/5
機器パラメータ
流速: 0.5ml/min
検出セル: 10mm
波長: 280、254及び215nm
【0098】
【表1】

実施例2:L2CaへのIgGの吸着
芳香族スルホンアミドが免疫グロブリンを吸着するかどうかを実証するために、ヒトIgGを、本発明に係る新規分離マトリックスを充填した1mlカラム(HR5/5)にかけた。本実施例では、本明細書でL2Caと呼ぶ低リガンド密度型プロトタイプL2CへのIgGの吸着及び脱着を上記の一般法に従って試験した。L2Caは、実施例1に記載の通り製造し、そのリガンド密度は26μmol/mLであった。
【0099】
IgGの吸着を緩衝液A3(0.50M NaSOを含むpH7.4の20mMリン酸緩衝液)で試験した。緩衝液A3を用いると、IgGはL2Caに吸着着されることが判明した。図2にみられる通り、緩衝液A3を用いてL2Caに吸着したIgGは、塩無添加の100mM酢酸緩衝液(pH4.0)によって23〜26mLで容易に溶出させることができた。移動相として緩衝液A3を用いたIgGの吸着は、脱着緩衝液B1を用いると吸着IgGがほぼ100%回収された。
【0100】
実施例3〜5:L2Caへのタンパク質吸着
以下の実施例では、ウシ血清アルブミン(BSA)、リボヌクレアーゼA(RIB A)及びトランスフェリン(TRANSF)と芳香族スルホンアミドリガンドL2Caの相互作用について調べた。
【0101】
モノクロナール抗体の精製を目的とするリガンドの最も重要な特性の一つは選択性である。そこで、IgGに加えて、上記のIgGの吸着に用いた条件下で、ウシ血清アルブミン(BSA)、リボヌクレアーゼA(RIB A)及びトランスフェリン(TRANSF)のL2Caへの吸着についても検討した。
【0102】
実施例3:ウシ血清アルブミン(BSA)
本例では、上述の通り製造した(26μmol/mL)L2CaでのBSAの吸着及び脱着を上記一般法に従って試験した。図3にみられる通り、280nmでのUV応答(青線)は、BSA試料は緩衝液A3を用いて吸着されずに、7.5〜9mLで溶出されることを示している。緩衝液A3=0.50M NaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)、緩衝液B1=100mM酢酸緩衝液(pH4.0)。
【0103】
実施例4:リボヌクレアーゼA(RIB A)
本例では、上述の通り製造した(26μmol/mL)L2CaでのRIBの吸着及び脱着を上記一般法に従って試験した。図4にみられる通り、280nmでのUV応答(青線)は、RIB試料は緩衝液A3を用いて吸着されずに、7.5〜9mLで溶出されることを示している。緩衝液A3=0.50M NaSOを含む20mMリン酸緩衝液、緩衝液B1=100mM酢酸緩衝液(pH4.0)。
【0104】
実施例5:トランスフェリン(TRANS)
本例では、上述の通り製造した(26μmol/mL)L2CaでのTRANSFの吸着及び脱着を上記一般法に従って試験した。図5にみられる通り、280nmでのUV応答(青線)は、TRANSF試料は緩衝液A3を用いて吸着されずに、7.5〜9mLで溶出されることを示している。緩衝液A3=0.50M NaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)、緩衝液B1=100mM酢酸緩衝液(pH4.0)。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1−1】本発明に係る6種類の異なる芳香族スルホンアミドリガンドの典型的リガンド構造を示す図。
【図1−2】本発明に係る6種類の異なる芳香族スルホンアミドリガンドの典型的リガンド構造を示す図。
【図1−3】本発明に係る6種類の異なる芳香族スルホンアミドリガンドの典型的リガンド構造を示す図。
【図1−4】本発明に係る6種類の異なる芳香族スルホンアミドリガンドの典型的リガンド構造を示す図。
【図2】実施例2に記載された本発明に係るプロトタイプリガンドでのIgGの吸着及び脱着を示すクロマトグラム。
【図3】実施例3に記載された本発明に係るプロトタイプリガンドでのBSAの吸着及び脱着を示すクロマトグラム。
【図4】実施例4に記載された本発明に係るプロトタイプリガンドでのRIBの吸着及び脱着を示すクロマトグラム。
【図5】実施例5に記載された本発明に係るプロトタイプリガンドでのTRANSFの吸着及び脱着を示すクロマトグラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガンドが適宜スペーサアームを介して固定化された多孔質担体からなる分離マトリックスであって、上記リガンドが1以上の芳香族スルホンアミドを含んでいてプロトン付加性基を実質的に含まない、分離マトリックス。
【請求項2】
前記スルホンアミドの窒素が第一又は第二アミンである、請求項1記載のマトリックス。
【請求項3】
前記リガンドがモノアミンである、請求項1又は請求項2記載のマトリックス。
【請求項4】
前記リガンドがポリアミンである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項5】
各ポリアミンが2〜6個のアミンを含む、請求項4記載のマトリックス。
【請求項6】
前記リガンドが、担体に固定化されたポリマーの繰返し単位として存在する、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項7】
前記ポリマーがポリエチレンイミンである、請求項6記載のマトリックス。
【請求項8】
前記ポリマーが2種以上の異なるリガンド基を提示する、請求項6又は請求項7記載のマトリックス。
【請求項9】
担体が架橋多糖類である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の分離マトリックスが充填されたクロマトグラフィーカラム。
【請求項11】
抗体精製用マトリックスの製造方法であって、スルホンアミドをアミンのNを介して又はスルホニルのSを介して多孔質担体に固定化する第一段階を含んでなる方法。
【請求項12】
液体からの抗体の単離方法であって、
(a)1種以上の抗体を含む液体を用意する段階、
(b)1種以上の抗体をマトリックスに吸着させるため、上記液体を1以上のスルホンアミド基を含む分離マトリックスと接触させる段階、及び任意段階として、
(c)1種以上の抗体を遊離させるため、溶出液を上記マトリックスに通過させる段階、及び
(d)1種以上の抗体を溶出液の画分から回収する段階
を含んでなる方法。
【請求項13】
段階(a)で用意される液体が1種以上の他のタンパク質も含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
段階(b)の分離マトリックスがクロマトグラフィーカラム内に収容されている、請求項12又は請求項13記載の方法。
【請求項15】
段階(b)の分離マトリックスが請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載のものである、請求項12乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
段階(b)が中性付近のpH、例えばpH7.2〜pH7.6、好ましくは約7.4で実施される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
段階(c)が、塩濃度の漸減する溶出液を分離マトリックスに添加することによって実施される勾配溶出である、請求項12乃至請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
段階(b)が中性よりも高いpHで実施され、段階(c)が、pHの漸減する溶出液を添加することによって実施される勾配溶出である、請求項12乃至請求項17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
段階(d)で回収される抗体がヒトの又はヒト化抗体である、請求項12乃至請求項18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
段階(d)で回収される抗体が免疫グロブリンG(IgG)である、請求項12乃至請求項19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記抗体がモノクロナール抗体である、請求項12乃至請求項20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
抗体の量の測定方法であって、請求項12乃至請求項20のいずれか1項記載の方法と、さらに抗体の量を分光光度法で測定する段階(f)とを含んでなる方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−503754(P2008−503754A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518010(P2007−518010)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【国際出願番号】PCT/SE2005/001002
【国際公開番号】WO2006/001771
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)