説明

分離膜および分離膜の製造方法

【課題】高精度に細孔径を制御された分離層を有する分離膜、および当該分離膜を高水準の再現性で作製可能な製造方法を提供する。
【解決手段】分離膜は、支持体、および、コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して得られるコロイドゲルまたはポリマーゲルにより形成された分離層を有するものであり、分離層を形成するコロイドゲルまたはポリマーゲルのゲル空間の大きさを調節することにより、分離層の細孔径を制御する。コロイドゲルまたはポリマーゲルとして、ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有するものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜に関するものであり、詳しくは、支持体、および、コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して得られるコロイドゲルまたはポリマーゲルにより形成された分離層を有する分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体の分離や液体の分離に用いられる分離膜には、いろいろな種類、形態のものがある。分離膜に求められる機能としては、透過性および選択性を挙げることができ、高い透過性および高い選択性を発揮し得る高機能分離膜が求められている。また、製膜の容易性も重要な要素となる。さらに、工業的な使用に際しては、耐久性や耐熱性を有し耐用期間が長いこと、価格および維持経費などのコストが低いことなどが求められている。
【0003】
無機膜は有機膜と比較して、熱安定性が高く、化学的にも安定であるために注目されている。現在までに様々な無機材料(シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナなど)を用いた分離膜が作製されているが、無機材料のなかでもシリカは広温度範囲においてアモルファス構造を有するために、様々な分離膜、例えば、水素分離膜(非特許文献1)、二酸化炭素分離膜(非特許文献1および2)、有機ガス分離膜(非特許文献3)、酢酸/水分離膜(非特許文献4)などが開発されている。
【0004】
従来のシリカ膜はケイ酸エチルを前駆体とし、所定の方法で加水分解・縮重合反応させ、粒径の異なるコロイドゾルを数種類調製した後、これらのコロイドゾルを粒径の順に積層することにより膜の細孔径を制御している(非特許文献1〜4)。すなわち、本発明者らは、多孔性シリカ膜の膜構造を図9に示したように考察し、粒径の異なるコロイドゾルを膜にコーティングすることで、ゲル粒界の隙間を目的分離対象に合わせて制御できることを見出し、高機能分離膜を開発してきた。
【非特許文献1】Asaedaet al. Sep. Pur. Technol. 25 (2001) 151.
【非特許文献2】Yoshiokaet al., AIChE J. 47 (2001) 2052.
【非特許文献3】Asaedaet al., Proc. 3rd Inter. Conf. Inorganic Membr. (1994) 315.
【非特許文献4】Asaedaet al., J. Chem. Eng. Jpn 38 (2005) 336.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシリカ膜で行われているような、ゲル粒界の隙間を調節することにより分離層の細孔径を制御する方法では、高水準の再現性を実現することは容易でないという問題があった。そのため、より高水準の再現性が簡便に実現できる分離膜の細孔径制御技術の開発が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、従来のシリカ膜とは異なる細孔径の制御方法を用いて高精度に細孔径が制御された分離層を有する分離膜、および当該分離膜を高水準の再現性で作製可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ゲル粒界の隙間を調節するのではなく、ゲル空間(ゲル内ネットワークが形成する空間)を調節することで分離層の細孔径を制御することを着想したが、従来のシリカ膜はケイ酸エチルを前駆体としてゾルを調製していたため、シリカゲル粒子内は、[Si−O−Si]および[Si−OH]の集合体でネットワークが形成されており、焼成過程、特に水熱条件下で[Si−OH]の縮合によりネットワークが非常に緻密になり、シリカゲル粒子内のゲル空間を分離に利用することは困難であった。そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、分離層を形成するゲルとして、ある種の有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有するコロイドゲルまたはポリマーゲルを用いることにより、ゲル空間の大きさを調節することが可能となり、これにより分離膜の細孔径を制御できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る分離膜は、支持体、および、コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して得られるコロイドゲルまたはポリマーゲルにより形成された分離層を有する分離膜であって、コロイドゲルまたはポリマーゲルのゲル空間の大きさを調節することにより、分離層の細孔径を制御することを特徴としている。
【0009】
前記コロイドゲルまたはポリマーゲルは、前記ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有することが好ましい。
【0010】
前記ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体は、Si−X−Si構造(ただし、Xは炭化水素または前記Si−O結合を含む環状シロキサン構造を含有し、前記ゲル空間の大きさを調節可能な化合物である。)またはSi−O−Si構造を有することが好ましい。
【0011】
前記ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物が、一般式(I)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rは、水素原子または有機官能基であり、同一であっても異なっていてもよい。Xは炭化水素または前記Si−O結合を含む環状シロキサン構造を含有し、前記ゲル空間の大きさを調節可能な化合物である。xおよびyは、0または1または2であり、同時に同じ数であっても異なっていてもよい。)
または、一般式(II)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは、水素原子または有機官能基であり、同一であっても異なっていてもよい。xおよびyは、0または1または2であり、同時に同じ数であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
前記Si−O結合を含む環状シロキサン構造は、ラダー構造またはPOSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxane)構造を含み、当該環状シロキサン構造は下記式(III)
Si ・・・(III)
(式中、pは2〜10の整数である。)
で表されることが好ましい。
【0017】
前記コロイドゲルまたはポリマーゲルは、金属イオンまたは金属酸化物を含有することが好ましい。
【0018】
前記コロイドゲルまたはポリマーゲルに含まれる炭化水素の一部または全部が消失していることが好ましい。
【0019】
本発明に係る分離膜の製造方法は、(A)ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有するコロイドゾルまたはポリマーゾルを調製する工程と、(B)前記コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して支持体の表面にコロイドゲルまたはポリマーゲルからなる分離層を形成する工程と、を包含することを特徴としている。
【0020】
本発明に係る分離膜の製造方法は、さらに、(C)コロイドゲルまたはポリマーゲルに含まれる炭化水素の一部または全部を消失させる工程を包含することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の分離膜によれば、分離層のゲル粒界に形成される細孔による分離ではなく、ゲル内の空間による分離が可能となる。それゆえ、分離層を形成するゲルに含まれる重合体成分を適宜選択することにより、種々の大きさのゲル空間を有する分離膜を提供することができる。また、本発明に係る分離膜の製造方法によれば、分離層の細孔径が高精度に制御された分離膜を、簡便かつ高水準の再現性で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
〔分離膜〕
本発明の分離膜は、支持体、および、コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して得られるコロイドゲルまたはポリマーゲルにより形成された分離層を有するものであって、コロイドゲルまたはポリマーゲルのゲル空間の大きさを調節することにより、前記分離層の細孔径を制御するものである。本発明の分離膜の分離対象は特に限定されず、気体、液体、蒸気などが挙げられる。以下、本発明の分離膜について、詳細に説明する。
【0023】
(1)支持体
支持体は特に限定されず、無機多孔体、有機多孔体などを用いることができる。支持体は、工業的な使用に耐え得る強度を有するものが好ましく、また、膜の透過性を高めるために、支持体の細孔径および空隙率は大きいほうが好ましい。この点において、無機多孔体を支持体とすることが好適である。
【0024】
支持体となり得る無機多孔体としては、例えばα−Al(α−アルミナ)、ムライト、γ−Al(γ−アルミナ)、ジルコニア、チタニア、あるいはこれらの複合物からなるいわゆるセラミクスが挙げられる。なかでも、安価かつ入手容易であり、化学的耐性、耐熱性、強度において優れているα−アルミナを主成分とするセラミクスが好ましい。
【0025】
支持体の形状は特に限定されないが、円筒状や板状が好適である。支持体の平均細孔径は、0.05μm〜10μm程度が好ましい。細孔径が大きすぎると分離層の細孔径との差が大きくなり過ぎ、細孔径が小さすぎると透過性能が低下する。より好ましくは0.1〜5μmであり、0.5〜3μmが特に好ましい。本明細書において「細孔径」はケルヴィンの毛管凝縮径と定義される。なお、本明細書において「細孔径」は平均細孔径の意味で使用される。
【0026】
本発明の分離膜は、支持体と分離層との間に中間層を設けて隣接する層間の細孔径の差を小さくすることが好ましい。したがって、中間層は、支持体の細孔径より小さく、分離層の細孔径より大きい細孔径を有する。このような大きさの細孔径を有する中間層を形成できるものであれば、中間層を構成する物質は限定されない。好適な物質としては、支持体を構成する物質の成分を含む微粒子を挙げることができる。
【0027】
(2)分離層
本発明の分離膜の分離層は、コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して得られるコロイドゲルまたはポリマーゲルにより形成される。本明細書において「コロイドゾル」はシリカが粒状に形成された重合体を含む溶液を意味し、これを焼成したものを「コロイドゲル」と称する。また、「ポリマーゾル」はシリカが網目状に高分子化した重合体を含む溶液を意味し、これを焼成したものを「ポリマーゲル」と称する。
【0028】
コロイドゲルまたはポリマーゲルは、ゲル空間の大きさを調節することができる成分を含有するものであれば、その組成は限定されない。したがって、従来のシリカ膜に用いられているケイ酸エチル(TEOS)と、ゲル空間の大きさを調節することができる成分との混合原料からゾルを調製し、これを焼成したゲルにより分離層を形成することも可能である。なお、本明細書において、「ゲル空間」とは、コロイドゲルまたはポリマーゲルを構成するシリカネットワークによって形成される空間であって、分子が透過可能な空間を意味する。
【0029】
分離層を形成するコロイドゲルまたはポリマーゲルは、ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有することが好ましく、これらの重合体はSi−X−Si構造(ただし、Xは炭化水素またはSi−O結合を含む環状シロキサン構造を含み、前記ゲル空間の大きさを調節可能な化合物である。)またはSi−O−Si構造を有することが好ましい。
【0030】
分離層を形成するコロイドゲルまたはポリマーゲルが、ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体を含有する場合は、上記Si−X−Si構造の存在によりゲル空間の緻密化を防止することができ、ゲル空間の調節が可能となる。詳細には、SiとSiの間に、炭化水素またはSi−O結合を含む環状シロキサン構造を含み、かつ、ゲル空間の大きさを調節可能な化合物を有することでゲル空間を疎に維持でき、上記Xで表される化合物の種類に応じてゲル空間の大きさを調節できるだけでなく、Xの空間を各種分子分離に応用することも可能となる。また、SiとSiの間に存在する炭化水素を消失させることにより、さらにゲル空間を疎に維持することが可能となる。Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有する場合は、環状シロキサン構造の員環数によりゲル空間の大きさを制御することができ、分子レベルでゲル空間の大きさの調節が可能となる。このことは、環状シロキサン構造の員環数により目的分離対象を選択することを可能とし、工業化に大きく寄与できる。
【0031】
上記有機ケイ素化合物は、下記式(I)
【0032】
【化3】

【0033】
(式中、Rは、水素原子または有機官能基であり、同一であっても異なっていてもよい。Xは炭化水素または前記Si−O結合を含む環状シロキサン構造を含有し、前記ゲル空間の大きさを調節可能な化合物である。xおよびyは、0または1または2であり、同時に同じ数であっても異なっていてもよい。)
Xが含有する炭化水素は、下記式(IV)
−(CH− ・・・(IV)
(式中、nは1〜20の整数である。)
または下記式(V)
−(CH−{Ar}−(CH− ・・・(V)
(式中、mは0〜10の整数であり、Arは炭素数6〜30のアリーレン構造を示す。)
である。xおよびyは、0または1または2であり、同時に同じ数であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物であることが好ましい。また、1個以上の上記式(IV)で表される化合物と、1個以上の上記式(V)で表される化合物とが、ランダムに結合した化合物であってもよい。
【0034】
上記式(IV)の化合物は、具体的には、CHの連鎖構造を持つパラフィン類、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサンなど、直鎖状のもの、その異性体あるいは分岐したもの等が挙げられる。
【0035】
上記式(V)の化合物は、芳香環を含有するアリーレン構造を有し、Siと連結する部分にはアルキレン構造を有していてもよいし、直接結合してもよい(m=0)。ここで、芳香環に対する置換位置は、特に限定されず、オルト、メタ、パラのいずれでもよく、混合体でもかまわない。アリーレン構造の具体例としては、ベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、クオーターフェニル、あるいはナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、アセナフチレン誘導体、フルオレン誘導体、フェナントレン誘導体、ペリレン誘導体およびこれらの置換体などが挙げられる。
【0036】
上記式(I)の化合物のRの有機官能基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、フェニル、ヘキサンが挙げられる。
【0037】
上記式(I)で表される化合物の具体例としては、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)ブタン、ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)オクタン、ビス(トリエトキシシリル)ノナン、ビス(トリエトキシシリル)デカン、ビス(トリエトキシシリル)ドデカン、ビス(トリメエキシシリル)テトラドデカン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)ブタン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)オクタン、ビス(トリメトキシシリル)ノナン、ビス(トリメトキシシリル)デカン、ビス(トリメトキシシリル)ドデカン、ビス(トリメトキシシリル)テトラドデカン、ビス(メチルジエトキシシリル)エタン、ビス(メチルジエトキシシリル)ブタン、ビス(メチルジエトキシシリル)ヘキサン、ビス(メチルジエトキシシリル)オクタン、ビス(メチルジエトキシシリル)ノナン、ビス(メチルジエトキシシリル)デカン、ビス(メチルジエトキシシリル)ドデカン、ビス(メチルジエトキシシリル)テトラドデカン、ビス(メチルジメトキシシリル)エタン、ビス(メチルジメトキシシリル)ブタン、ビス(メチルジメトキシシリル)ヘキサン、ビス(メチルジメトキシシリル)オクタン、ビス(メチルジメトキシシリル)ノナン、ビス(メチルジメトキシシリル)デカン、ビス(メチルジメトキシシリル)ドデカン、ビス(メチルジメトキシシリル)テトラドデカン、ビス(ジメチルエトキシシリル)エタン、ビス(ジメチルエトキシシリル)ブタン、ビス(ジメチルエトキシシリル)ヘキサン、ビス(ジメチルエトキシシリル)オクタン、ビス(ジメチルエトキシシリル)ノナン、ビス(ジメチルエトキシシリル)デカン、ビス(ジメチルエトキシシリル)ドデカン、ビス(ジメチルエトキシシリル)テトラドデカン、ビス(ジメチルメトキシシリル)エタン、ビス(ジメチルメトキシシリル)ブタン、ビス(ジメチルメトキシシリル)ヘキサン、ビス(ジメチルメトキシシリル)オクタン、ビス(ジメチルメトキシシリル)ノナン、ビス(ジメチルメトキシシリル)デカン、ビス(ジメチルメトキシシリル)ドデカン、ビス(ジメチルメトキシシリル)テトラドデカン、ビス(メチルジメトキシシリル)ベンゼン、ビス(メチルジエトキシシリル)ベンゼン、ビス(エチルジメトキシシリルエチル)ベンゼン、ビス(エチルジエトキシシリル)ベンゼン、ビス(ジメチルメトキシシリル)ベンゼン、ビス(ジメチルエトキシシリル)ベンゼン、ビス(ジエチルメトキシシリル)ベンゼン、ビス(ジエチルエトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、などが挙げられる。
【0038】
上記有機ケイ素化合物は、下記式(II)
【0039】
【化4】

【0040】
(式中、Rは、水素原子または有機官能基であり、同一であっても異なっていてもよい。xおよびyは、0または1または2であり、同時に同じ数であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0041】
上記式(II)の化合物のRの有機官能基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、フェニル、ヘキサンが挙げられる。
【0042】
上記式(II)で表される化合物の具体例としては、1,1,3,3テトラエトキシ1,3ジメチルジシロキサン、1,1,3,3テトラメチル1,3ジエトキシジシロキサンなどが挙げられる。
【0043】
上記Si−O結合を含む環状シロキサン構造は、ラダー構造またはPOSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxane)構造を含み、当該環状シロキサン構造は下記式(V)
Si ・・・(V)
(式中、pは2〜10の整数である。)
で表されることが好ましい。
【0044】
Si−O結合を含む環状シロキサン構造のうち、ラダー構造を含むものは、例えば図1(a)に示す構造(ラダーシロキサン)を有し、POSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxane)構造を含むものは、例えば図1(b)に示す構造(T8シルセスキオキサン)を有する。なお、図1(a)および(b)に示したものは、いずれも上記式(V)においてp=4の8員環構造を有するものであるが、p=2のときは4員環、p=6のときは12員環構造のように、pの数に応じて員環数が異なる。環状シロキサン構造の員環数を変更することによりゲル空間の大きさを調節することが可能となる。
【0045】
コロイドゲルまたはポリマーゲルは、金属イオンまたは金属酸化物を含有することが好ましい。ゲルが金属イオンまたは金属酸化物を含有することにより、シリカネットワーク内のプロトンをイオン交換することで、細孔内の更なる制御や反応特性の制御が可能になる。含有させる金属イオン、金属酸化物は特に限定されないが、好適な金属イオンとしては、例えば、ニッケルイオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンなどが挙げられる。また、好適な金属酸化物としては、ジルコニア、チタニア、酸化パラジウムなどが挙げられる。
【0046】
本発明の分離膜は、分離層を形成するコロイドゲルまたはポリマーゲルに含まれる炭化水素の一部または全部が消失していてもよい。コロイドゲルまたはポリマーゲルに含まれる炭化水素は、酸素の存在下で高温処理することにより消失させることができる。その結果、図2に示すように、炭化水素が存在した位置の空間が大きくなるので、ゲル空間の調節に好適に利用することができる。従来のシリカ膜では、膜の細孔径を大きくしたいときには製膜を一から行う必要があったが、本発明の分離膜では、炭化水素を消失させることで自由自在に細孔径を調節することができる。また、炭化水素を消失させることで膜の空隙を増加させ、透過速度を向上させることができる。
【0047】
〔分離膜の製造方法〕
本発明の分離膜の製造方法は、以下の工程(A)および(B)を包含するものであればよい。
(A)ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有するコロイドゾルまたはポリマーゾルを調製する工程
(B)前記コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して支持体の表面にコロイドゲルまたはポリマーゲルからなる分離層を形成する工程
以下、本発明の分離膜の製造方法について詳細に説明する。
【0048】
(1)工程(A)
工程(A)では、ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有するコロイドゾルまたはポリマーゾルを調製する。ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体を含むゾルの調製は、例えば、ケイ酸エチル(TEOS)を前駆体とするシリカコロイドゾルの調製法(非特許文献1〜4参照)に準じて調製することができる。すなわち、ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の単量体、または当該有機ケイ素化合物の単量体と他の単量体(例えば、TEOS)との混合物を、水を含む適当な溶媒(エタノールなど)に溶解し、触媒として酸(塩酸、硝酸など)、または塩基(アンモニアなど)を添加して、加水分解と縮重合反応に十分な時間攪拌する。その後、酸触媒を加えて、溶液の総量を一定に保ちながら沸騰・攪拌させる。
【0049】
煮沸・攪拌を行わずに終了した場合、または、煮沸・攪拌を短時間で終了した場合には、ポリマーゾルが調製できる。一方、煮沸・攪拌を長時間(5〜15時間)行うことにより、コロイドゾルが調製できる。
【0050】
Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含むゾルは、以下のように調製することができる。すなわち、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する単量体、またはSi−O結合を含む環状シロキサン構造を有する単量体と他の単量体(例えば、TEOS)との混合物を、有機溶媒(エタノール、イソプロピルアルコールなど)に溶解し、触媒として酸(塩酸、硝酸など)、または塩基(アンモニアなど)を添加して、加水分解と縮重合反応に十分な時間攪拌することで、ポリマーゾルが調製できる。その後、酸触媒を加えて、溶液の総量を一定に保ちながら長時間(5〜15時間)沸騰・攪拌させることにより、コロイドゾルが調製できる。
【0051】
なお、単量体溶液に硝酸金属(例えば、Ni(NO・6HO,Co(NO・6HO,Fe(NO・9HO,Al(NO・9HOなど)を加えれば、金属イオンを含有するコロイドゾルまたはポリマーゾルを調製することができる。また、金属イオンをゾル調製後に添加してもよい。金属酸化物を含有するコロイドゾルまたはポリマーゾルは、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)などの金属アルコキシドを単量体溶液に添加することにより調製することができる。
【0052】
調製後のコロイドゾルまたはポリマーゾルは、直ちに分離層の形成に用いることが好ましいが、低温(10℃程度)で保存することができる。
【0053】
(2)工程(B)
工程(B)では、工程(A)で調製したコロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して支持体の表面にコロイドゲルまたはポリマーゲルからなる分離層を形成する。ここで、「支持体の表面」は、支持体上に中間層が形成されている場合には中間層の表面を意味するものである。
【0054】
まず、コロイドゾルまたはポリマーゾルを支持体表面に塗布する。塗布する方法は特に限定されないが、例えばゾルを浸み込ませた布を支持体に接触させる方法や、ゾルを噴霧する方法などが挙げられる。その後、塗布したコロイドゾルまたはポリマーゾルを乾燥させる。完全に乾燥しない段階で余分なゾルを布でふき取ることができる。最後にこれを焼成することで分離層が形成される。
【0055】
また、ホットコーティング法を用いてもよい。ホットコーティング法は、予め加熱された支持体にゾルを接触させ、当該ゾルの溶媒を瞬間的に蒸発させることにより、ゾルをコーティングする方法である。ホットコーティング法によれば、極めて薄い膜を容易に形成することができる。ホットコーティング法により分離層を形成する場合、支持体を約170℃〜190℃程度となるように予め加熱しておけばよい。ホットコーティング法によりコーティングした後、焼成することで分離層を形成することができる。
【0056】
焼成は、例えば、200℃〜550℃で15〜30分程度(窒素雰囲気下または空気雰囲気下)行うことが好ましい。また、分離層を均一に形成するために、塗布・焼成を複数回繰り返すことが好ましい。
【0057】
ここで支持体上に中間層を形成させる方法について説明する。中間層は、支持体と分離層との間に設けて、隣接する層間の細孔径の差を小さくすることを目的とするものであり、本発明の分離膜に必須の構成ではないが、設けることが好ましい。以下では、中間層を有する支持体の一例として、α−アルミナを主成分とするセラミクスからなる支持体に中間層を形成させる場合について説明するが、他の支持体に中間層を形成させる場合も、これに準じて行うことができる。
【0058】
α−アルミナを主成分とするセラミクスからなる支持体に設ける中間層は、α−アルミナ微粒子を分散させたゲルにより形成されることが好ましい。すなわち、α−アルミナ微粒子を分散させたゾルを調製し、これを支持体表面に塗布・焼成することにより中間層を形成することが好ましい。α−アルミナ微粒子を分散させるゾルは、ケイ酸エチル(TEOS)を前駆体として調製されるシリカコロイドゾルやこれに金属を添加したシリカ金属コロイドゾル(例えば、シリカ−ジルコニアコロイドゾルなど)を好適に用いることできる。これらのゾルは、従来公知のシリカ膜の作製方法を参照することにより、容易に調製することができる。
【0059】
中間層は複数の層としてもよく、この場合、分散させるα−アルミナ微粒子の粒子径は支持体側を大きく、分離層側を小さくすることが好ましい。これにより、隣接する層間の細孔径の差を、より小さくすることができる。
【0060】
(3)工程(C)
本発明の分離膜の製造方法において、工程(C)を設けることにより、分離層を形成するコロイドゲルまたはポリマーゲルに含まれる炭化水素の一部または全部を消失させた分離膜を製造することができる。炭化水素を消失させる方法としては、酸素の存在下で高温処理する方法を挙げることができる。具体的には、電気炉内に空気を供給しながら、焼成すればよい。焼成温度および時間は分離層に含まれる成分により異なるので、予め分離対象の透過速度の変化をチェックし、最適な条件を設定することが好ましい。
【0061】
〔分離膜の用途〕
本発明の分離膜は、ゲルを構成するシリカネットワークにより形成される空間を、分離対象の目的分子の大きさに応じて変化させ、製膜を行うことができるので、非常に幅広い用途に用いることができる。具体的には、例えば、無機ガス混合物からの目的ガスの分離(水素分離、二酸化炭素分離、酸素分離など)、無機ガスと有機ガスの分離(水素とC3ガスの分離、水素とC4ガスの分離など)、有機−有機分離(ベンゼンとシクロヘキサンの分離など)酢酸と水の分離、エタノールと水の分離などに応用することが可能である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
(1)分離膜の製造
(1-1) BTESEゾルの調製
BTESE(Bis(triethoxysilil)ethane、Gelest社製)10g、分散媒としてエタノール(99.5%、試薬特級、Aldrich)13.46g、イオン交換水1.52gを200ml三角フラスコにて混合し、さらに触媒として塩酸(試薬特級,片山化学)を3.55×10−4g加えた後、60℃の浴槽中で90分間攪拌することにより、酸性条件下で加水分解および縮重合反応を行った。
【0064】
その後、シリカ加水分解に対して当量になるようにイオン交換水、分散媒としてのエタノールを加え、pH調整用のアンモニア水(28−30%、試薬特級、片山化学)を0.15g加えpH8〜9に調整し、60℃の浴槽中で15分間攪拌することにより、アルカリ性条件下で加水分解および縮重合反応を行った。
【0065】
さらに、塩酸(試薬特級,片山化学)を0.25g加えてゾルのpHを調整し、煮沸しながら5時間攪拌することにより有機無機ハイブリッドのBETSEゾルを調製した。沸騰中は溶液の濃度を一定(5wt%)に保つため、約10分ごとに水を追加した。これにより溶媒はエタノールから水に交換された。
【0066】
調製したBETSEゾルは、直ちに製膜に使用した。なお、直ちに使用しない場合、調製したBETSEゾルは10℃程度の温度で保存することができる。また、本実施例では、エタノール溶媒を水で置換する方法によりゾルを調製したが、水で置換することなくエタノール溶媒でゾルを調製してもよい。
【0067】
(1-2) 製膜
支持体として平均細孔径約1μmの多孔性α−アルミナ管(三井研削砥石(株)製、外径10mm 長さ100mm)を用いた。
【0068】
支持体の外表面を均質化するために、アルミナ微粒子の担持・焼成を行なった。すなわち、シリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%、参考文献:Asaeda et al., J. Membrane Science 209 (2002) 163-175.)を蒸留水で4倍に希釈したものに、平均粒径1.9μmの高純度アルミナ粒子(住友化学(株)製)を、約10wt%となるように分散させたシリカ−ジルコニアコロイドゾルA、平均粒径0.2μmの高純度アルミナ粒子(住友化学(株)製)を、約10wt%となるように分散させたシリカ−ジルコニアコロイドゾルB、およびアルミナ粒子を含有しないシリカ−ジルコニアコロイドゾルCをそれぞれ調製した。
【0069】
最初に、シリカ−ジルコニアコロイドゾルAを、ベンコット(旭化成(株)製、不織布)を用いて上記支持体の表面に室温で塗布し、20分間乾燥させた。続いて、180℃で10分間加熱した後、電気管状炉(EKR−29K、いすゞ製作所(株)製)を用いて550℃、空気中で15分間焼成した。これを冷却し、再度同一のシリカ−ジルコニアコロイドゾルAを塗布して上記と同一の条件で乾燥、加熱、焼成した。
【0070】
次に、シリカ−ジルコニアコロイドゾルBを、ベンコットを用いてシリカ−ジルコニアコロイドゾルAにより形成された層の表面に塗布し、上記と同一の条件で焼成した。これを冷却し、再度同一のシリカコロイドゾルBを塗布して上記と同一の条件で乾燥、加熱、焼成した。この操作を2回繰り返した。
【0071】
次に、上記によりシリカ−ジルコニアコロイドゾルA層およびシリカ−ジルコニアコロイドゾルB層を形成した支持体を予め高温(170℃〜180℃)に加熱し、シリカ−ジルコニアコロイドゾルCを、ベンコットを用いて加熱した支持体の表面に塗布し(ホットコーティング法)、550℃、空気中で15分間焼成した。この操作を5〜6回程度繰り返すことで膜厚1μm程度の中間層を形成した。
【0072】
最後に、上記(1-1)で調製したBTESEゾルを、蒸留水を用い約1wt.%程度に希釈し、ベンコットを用いて中間層の表面に塗布し、300℃、窒素雰囲気下で30分間焼成した。この操作を3回繰り返した。
【0073】
(2)透過速度の温度依存性の確認
上記により作製した実施例1の分離膜を用いて、6種類の気体(水素(H)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N)、プロパン(C)および6フッ化硫黄(SF))について、透過速度の温度依存性を調べた。
【0074】
分離膜を透過セルにセットした後、Nガスを約100cc/minで透過セルに供給しながら200℃に昇温し、3時間放置して膜に吸着している水蒸気や有機物を除去した。その後、各気体の透過速度を順次測定した。次に、150℃に降温し、同様に各気体の透過速度を測定した。さらに、100℃に降温し、同様に各気体の透過速度を測定した。
【0075】
結果を図3に示した。図3から明らかなように、実施例1の分離膜は、いずれの気体についても、温度の低下とともに透過速度が減少することなく、低温度域においても高い透過速度を有することが確認された。一般に気体分子の持つ運動(熱)エネルギーは温度が高い程大きくなるため、気体分子が透過している細孔の大きさが分子の大きさと同程度である場合(構造が密である場合)、透過する際により多くのエネルギーを必要とするため、透過速度が温度の上昇に伴い増加する。それゆえ、従来のシリカ膜では、低温度域において、水素やヘリウムの透過速度が大きく減少する傾向が見られた。しかし、実施例1の分離膜は、低温度域においても高い透過速度を有していたことから、粒子内ネットワーク(ゲル空間)が疎であり、透過に利用されるスペースが広くなったものと推測された。
【0076】
(3)再現性の確認および従来の水素分離膜との比較
実施例1の分離膜を2個作製し(M1およびM2)、これらを用いて200℃における6種類の気体(水素(H)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N)、プロパン(C)および6フッ化硫黄(SF))の透過速度を測定した。
【0077】
また、従来の方法で作製した水素分離用シリカ膜(M3、Tsuru et al., Appl. Catal. A., 302 (2006) 78-85. 参照)を用いて、300℃における6種類の気体の透過速度を測定した結果と比較した。なお、この水素分離膜は、支持体および中間層は本実施例の分離膜と同じであり、中間層の表面に粒径の異なるシリカコロイドゾルを積層することにより分離層を形成したものである。
【0078】
結果を図4および表1に示した。
【0079】
【表1】

【0080】
図4から明らかなように、各気体におけるM1およびM2の透過速度はほぼ同じであったことから、実施例1の分離膜は、高い再現性で作製可能であることが確認された。また、図4および表1に示した結果から、実施例1の分離膜(M1、M2)の平均細孔径は、従来の水素分離用シリカ膜(M3)の平均細孔径よりも大きいこと、SFの分子径(5.5Å)よりも大きな細孔の割合は非常に少ないこと、が明らかとなった。
【0081】
(4)熱安定性の確認
実施例1の分離膜について、熱安定性を確認した。分離膜を透過セルにセットしてNガスを約100cc/minで透過セルに供給しながら200℃に昇温し、3時間放置して膜に吸着している水蒸気や有機物を除去した後、6種類の気体(水素(H)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N)、プロパン(C)および6フッ化硫黄(SF))について透過速度を順次測定した。次に、温度は200℃のままで空気を約100cc/minで所定時間流し、各気体の透過速度がどのように変化するか確認した。さらに、空気雰囲気下(約100cc/min)で300℃まで昇温し、各気体の透過速度を測定した。
【0082】
結果を図5に示した。図5から明らかなように、300℃空気雰囲気下においても各気体の透過速度に変化がなかったことから、有機−無機ハイブリッド構造が300℃空気雰囲気下においても、酸化・分解することなく、実施例1の分離膜は高い熱安定性を有することが明らかとなった。有機ハイドライドの脱水素反応は300℃程度の温度で反応させることから、実施例1の分離膜はこの分離対象に応用可能であることが示唆された。
【0083】
(5)ネットワーク内の炭化水素消失による気体透過特性の変化
上記(4)により、300℃空気雰囲気下(約100cc/min)においても膜性能が変化しないことが確認されたため、さらに空気雰囲気下(約100cc/min)で400℃に昇温して3時間保持した。その後、6種類の気体(水素(H)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N)、プロパン(C)および6フッ化硫黄(SF))について、200℃における透過速度を測定した。
【0084】
結果を図6に示した。図6からわかるように、水素の透過速度は1.91×10−4[m/(m・s・kPa)]から4.25×10−4[m/(m・s・kPa)]に増加した。透過速度比は、H/SFが800から520に、H/Nが15から8にそれぞれ減少した。この結果から、300℃空気雰囲気下で熱安定性を有した有機−無機ハイブリッド構造も400℃空気雰囲気下で酸化・分解反応が生じ、図2に示すように炭化水素消失に伴い新たなスペースができたものと推察された。しかしながら、焼成後のH/SFが520を示していることから、完全に膜構造が壊れたものではないと考えられた。
【0085】
<実施例2>
(1)分離膜の製造
(1-1) Siを含む環状シロキサン構造を有するゾルの調製
1.3.5.7−Tetramethylcyclo−tetrasiloxane(Gelest社製)1g、分散媒として2−プロパノール(99.5%、有機合成用、Wako)30g、イオン交換水0.3gを100ml三角フラスコにて混合し、さらに触媒として塩酸(試薬特級,片山化学)を3.55×10−4g加えた後、室温で12時間攪拌することにより、酸性条件下で加水分解および縮重合反応を行った。調製したゾルは、直ちに製膜に使用した。なお、直ちに使用しない場合、ゾルは10℃程度の温度で保存することができる。また、本実施例では、塩酸を触媒とし、酸性条件下でゾルの調製を行ったが、アンモニア水を触媒として用い、アルカリ性条件下で1.3.5.7−Tetramethylcyclo−tetrasiloxaneを加水分解および縮重合反応させることにより、ゾルの調製を行うこともできる。
【0086】
(1-2) 製膜
支持体として、実施例1と同じ、平均細孔径約1μmの多孔性α−アルミナ管(三井研削砥石(株)製、外径10mm 長さ100mm)を用いた。また、実施例1と同様の方法により、中間層を形成させた。
【0087】
上記で調製したSiを含む環状シロキサン構造を有するゾルを、2−プロパノール(99.5%、有機合成用、Wako)を用い約1wt.%程度に希釈し、ベンコットを用いて中間層の表面に塗布し、300℃、窒素雰囲気下で30分間焼成した。この操作を数回繰り返し、膜の気体透過特性に及ぼす影響を検討した。
【0088】
(2)ゾルの塗布回数が透過速度に及ぼす影響
中間層の表面に、約1wt.%程度に希釈したSiを含む環状シロキサン構造を有するゾルを1、2、3および5回塗布し、その都度4種類の気体(水素(H)、ヘリウム(He)、窒素(N)および6フッ化硫黄(SF))について、透過速度の温度依存性を調べた。つまり、分離膜を透過セルにセットした後、Nガスを約100cc/minで透過セルに供給しながら200℃に昇温し、3時間放置して膜に吸着している水蒸気や有機物を除去した。その後、各気体の透過速度を順次測定した。
【0089】
結果を図7に示した。図7から明らかなように、分子径の大きいSFの透過速度は、2回以上塗布した場合、1回だけ塗布した場合と比較して透過速度が大きく減少した。しかし、3回以上塗布しても透過速度に大きな変化は認められなかったことから、ゾルの塗布回数は3回で十分であると考えられた。また、実施例1の(3)で使用した水素分離用シリカ膜(M3、Tsuru et al., Appl. Catal. A., 302 (2006) 78-85. 参照)における各気体の透過速度(図4参照)と比較すると、実施例2の分離膜における水素および窒素の透過速度は明らかに大きくなっており、実施例2の分離膜の平均細孔径は、従来の水素分離用シリカ膜(M3)の平均細孔径よりも大きいこと、SFの分子径(5.5Å)よりも大きな細孔の割合は非常に少ないこと、が明らかとなった。
【0090】
(3)透過速度の温度依存性の確認
実施例2の分離膜を用いて、4種類の気体(水素(H)、ヘリウム(He)、窒素(N)および6フッ化硫黄(SF))について、透過速度の温度依存性を調べた。つまり、分離膜を透過セルにセットした後、Nガスを約100cc/minで透過セルに供給しながら300℃に昇温し、3時間放置して膜に吸着している水蒸気や有機物を除去した。その後、各気体の透過速度を順次測定した。次に、200℃に降温し、同様に各気体の透過速度を測定した。さらに、100℃に降温し、同様に各気体の透過速度を測定した。
【0091】
結果を図8に示した。図8から明らかなように、実施例2の分離膜は、いずれの気体についても、温度の低下とともに透過速度が減少することなく、低温度域においても高い透過速度を有することが確認された。したがって、実施例2の分離膜は、実施例1の分離膜と同様に、ゲル空間が疎であることが示唆された。
【0092】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】(a)はラダーシロキサンのモデルを示す図であり、(b)はT8シルセスキオキサンのモデルを示す図である。
【図2】分離層を形成するコロイドゲルまたはポリマーゲルに含まれる炭化水素が消失して新たなスペースができたことを示す模式図である。
【図3】実施例1の分離膜を用いて、6種類の気体(H、He、Ar、N、C、SF)について、透過速度の温度依存性を調べた結果を示すグラフである。
【図4】別々に作製した実施例1の分離膜の再現性、および従来の水素分離用シリカ膜と比較した結果を示すグラフである。
【図5】実施例1の分離膜について、熱安定性を確認した結果を示すグラフである。
【図6】実施例1の分離膜について、400℃空気雰囲気下で3時間焼成したときの、焼成前後における6種類の気体(H、He、Ar、N、C、SF)の透過速度の変化を示すグラフである。
【図7】実施例2の分離膜を用いて、ゾルの塗布回数が4種類の気体(H、He、N、SF)の透過速度に及ぼす影響を調べた結果を示すグラフである。
【図8】実施例2の分離膜を用いて、4種類の気体(H、He、N、SF)について、透過速度の温度依存性を調べた結果を示すグラフである。
【図9】従来の多孔性シリカ膜による気体分離の原理を説明するための膜構造の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、および、コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して得られるコロイドゲルまたはポリマーゲルにより形成された分離層を有する分離膜であって、
前記コロイドゲルまたはポリマーゲルのゲル空間の大きさを調節することにより、前記分離層の細孔径を制御することを特徴とする分離膜。
【請求項2】
前記コロイドゲルまたはポリマーゲルは、前記ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有することを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体は、Si−X−Si構造(ただし、Xは炭化水素または前記Si−O結合を含む環状シロキサン構造を含有し、前記ゲル空間の大きさを調節可能な化合物である。)またはSi−O−Si構造を有することを特徴とする請求項2に記載の分離膜。
【請求項4】
前記ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物が、一般式(I)
【化1】

(式中、Rは、水素原子または有機官能基であり、同一であっても異なっていてもよい。Xは炭化水素または前記Si−O結合を含む環状シロキサン構造を含有し、前記ゲル空間の大きさを調節可能な化合物である。xおよびyは、0または1または2であり、同時に同じ数であっても異なっていてもよい。)
または、一般式(II)
【化2】

(式中、Rは、水素原子または有機官能基であり、同一であっても異なっていてもよい。xおよびyは、0または1または2であり、同時に同じ数であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物である請求項2または3に記載の分離膜。
【請求項5】
前記Si−O結合を含む環状シロキサン構造は、ラダー構造またはPOSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxane)構造を含み、当該環状シロキサン構造は下記式(III)
Si ・・・(III)
(式中、pは2〜10の整数である。)
で表されることを特徴とする請求項2または3に記載の分離膜。
【請求項6】
前記コロイドゲルまたはポリマーゲルは、金属イオンまたは金属酸化物を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項7】
前記コロイドゲルまたはポリマーゲルに含まれる炭化水素の一部または全部が消失していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項8】
請求項1に記載の分離膜の製造方法であって、
(A)ゲル空間の大きさを調節可能な構造を有する有機ケイ素化合物の重合体、または、Si−O結合を含む環状シロキサン構造を有する重合体を含有するコロイドゾルまたはポリマーゾルを調製する工程と、
(B)前記コロイドゾルまたはポリマーゾルを焼成して支持体の表面にコロイドゲルまたはポリマーゲルからなる分離層を形成する工程と、
を包含することを特徴とする分離膜の製造方法。
【請求項9】
さらに、(C)コロイドゲルまたはポリマーゲルに含まれる炭化水素の一部または全部を消失させる工程を包含することを特徴とする請求項8に記載の分離膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−233540(P2009−233540A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81276(P2008−81276)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】