説明

分離膜モジュール

【課題】 例えばエタノール製造設備等において、有機溶剤と水の混合液もしくは混合蒸気等の流体を無水化する(濃縮する)ための分離膜モジュールについて、邪魔板の設置数を増やしても、圧力損失を抑えることができ、透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差を充分に確保して、透過蒸気量の減少を防止し、かつ管状ゼオライト分離膜の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができる分離膜モジュールを提供する。
【解決手段】 分離膜モジュール1内の各邪魔板6に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔7の内径が、管状分離膜エレメント5の外径よりも大きいものとなされていて、該挿通孔7の内周面と管状分離膜エレメント5の外周面との間に、混合流体流通間隙8が設けられており、該間隙8内においても管状分離膜エレメント5の分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール無水化設備、例えばエタノール製造設備、イソプロピルアルコール(IPA)リサイクル設備等において、有機溶剤と水の混合液もしくは混合蒸気等の流体を、無水化する(濃縮する)ための分離膜モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、混合気体または混合溶液中の成分を分離するための装置として、分離膜モジュールが知られており、例えばエタノールと水の混合蒸気を分離膜モジュールに供給して、水蒸気を分離し、エタノールを濃縮する場合などに使用されている。
【0003】
この種の分離膜モジュールは、一端を封止した管状ゼオライト分離膜を外管(ケーシング)に複数本挿入して二重管構造とし、外管と管状ゼオライト分離膜との間の空間部に混合蒸気を供給し,管状ゼオライト分離膜の内側に被分離成分(例えば水蒸気)を透過させる二重管型分離膜モジュールが知られており、このような分離膜モジュールを直列に配管することによって所定の濃度までエタノール蒸気を濃縮する。
【0004】
従来の二重管型分離膜モジュールでは、管状ゼオライト分離膜による膜分離性能を最大限に発揮するために、外管と管状ゼオライト分離膜との間の空間部を小さく設定して、混合流体の流速を速くすることで、濃度境界層の発達を抑えているが、プラントの容量が大きくなると、必要な管状ゼオライト分離膜の本数と共に必要な外管の本数が増加する。一般に、外管は様々な被処理物に対応するためにステンレス鋼製とされており、材料費が嵩むという問題があった。
【0005】
このような従来の二重管型分離膜モジュールの材料費に関する課題を解決するモジュール構造として,下記の特許文献1に記載のように、外管内に複数本の管状ゼオライト膜および邪魔板を収容した、いわゆるシェルアンドチューブ型分離膜モジュールが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−72972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の分離膜モジュールでは、外管内の混合流体の流れを充分に撹乱して、管状ゼオライト分離膜の性能を最大限に発揮するためには、邪魔板の設置数を増やす必要があるが、邪魔板の数が増えると、分離膜モジュールの稼動の際に、圧力損失が増大して、管状ゼオライト分離膜の透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差が小さくなり、透過蒸気量が減少するという問題があった。
【0008】
また上記特許文献1に記載の分離膜モジュールでは、分離膜モジュールの外管内の混合流体の流れは、外管と管状ゼオライト分離膜との間の空間部を通る混合流体の漏れを減らして、混合流体の流れのすべてを管状ゼオライト分離膜に直交させるという設計思想であるため、各邪魔板に設ける管状ゼオライト分離膜挿通孔の内径は、分離膜モジュールの組立てに必要な最小限の大きさとされており、該挿通孔の内部では、挿通孔の内周面と管状ゼオライト分離膜の外周面とがほぼ接触した状態となされていて、混合流体の漏れを防止できる構造となされていた。しかしこれでは、混合流体の流れをすべての管状ゼオライト分離膜に直交させることはできるものの、各邪魔板の管状ゼオライト分離膜挿通孔の内部では、邪魔板の厚み分に相当するゼオライト分離膜部分が混合流体の流れに接触できず、管状ゼオライト分離膜の膜分離の機能が有効に働かないという問題もあった。
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、分離膜モジュール内の邪魔板の設置数を増やしても、圧力損失を抑えることができ、透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差を充分に確保することができて、透過蒸気量の減少を防止することができ、かつ邪魔板による混合流体の流れの撹乱の効果を損なうことがないうえに、分離膜モジュール内の各管状ゼオライト分離膜の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができる、分離膜モジュールを提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、ケーシング内に、管板に支持された並列状の管状分離膜エレメントと、これらの管状分離膜エレメントに対して直交状に配置された所要数の邪魔板とを備えている分離膜モジュールであって、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径よりも大きいものとなされていて、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられており、該間隙内においても管状分離膜エレメントの分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされていることを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の分離膜モジュールであって、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.10〜1.50倍であることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の分離膜モジュールであって、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内部に、該挿通孔の内壁から管状分離膜エレメントの分離膜外壁面に向かって伸びる複数個の間隔保持用凸起が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明は、ケーシング内に、管板に支持された並列状の管状分離膜エレメントと、これらの管状分離膜エレメントに対して直交状に配置された所要数の邪魔板とを備えている分離膜モジュールであって、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径よりも大きいものとなされていて、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられており、該間隙内においても管状分離膜エレメントの分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされているもので、請求項1の発明によれば、分離膜モジュール内の邪魔板の設置数を増やしても、各邪魔板に設けられた挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間の混合流体流通間隙内を、混合流体が流通することで、圧力損失を抑えることができ、透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差を充分に確保することができて、透過蒸気量の減少を防止することができ、かつ邪魔板による混合流体の流れの撹乱の効果を損なうことがないうえに、各邪魔板の管状ゼオライト分離膜挿通孔の内部では、邪魔板の厚み分に相当する管状ゼオライト分離膜部分も混合流体の流れと接触できるため、管状ゼオライト分離膜の膜分離の機能を有効に働かせることができ、ひいては分離膜モジュール内の各管状ゼオライト分離膜の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができるという効果を奏する。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の分離膜モジュールであって、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.10〜1.50倍であるもので、請求項2の発明によれば、各邪魔板に、このような範囲で、管状分離膜エレメント挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に混合流体流通間隙が設けられることにより、分離膜モジュール内の邪魔板の設置数を増やしても、圧力損失を抑えることができ、透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差を充分に確保することができて、透過蒸気量の減少を防止することができ、かつ邪魔板による混合流体の流れの撹乱の効果を損なうことがないうえに、分離膜モジュール内の各管状ゼオライト分離膜の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができるという効果を奏する。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の分離膜モジュールであって、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内部に、該挿通孔の内壁から管状分離膜エレメントの分離膜外壁面に向かって伸びる複数個の間隔保持用凸起が設けられているもので、請求項3の発明によれば、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間の混合流体流通間隙が、複数個の凸起によって確実に間隔保持されるため、上記の作用効果を充分に発揮させることができるうえに、分離膜モジュール内の管状分離膜エレメントの長さの中間部分を、各邪魔板の管状分離膜エレメント挿通孔内の凸起によって支持することができて、分離膜モジュールの全体強度が増大し、振動などの外力による損傷を可及的に防止することができて、分離膜モジュールは耐用性に優れているという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による分離膜モジュールの一例を示す側面図である。
【図2】図1の分離膜モジュールに使用する管状分離膜エレメントの一例を示す縦断面図である。
【図3】図1の分離膜モジュールの要部拡大斜視図である。
【図4】図1の分離膜モジュールを模式的に拡大した縦断面図である。
【図5】図4のA−A線に沿う拡大断面図である。
【図6】本発明による分離膜モジュールのいま1つの例を示すもので、邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔部分の拡大正面図である。
【図7】比較例に用いた従来の分離膜モジュールを示す要部拡大斜視図である。
【図8】本発明による実施例および比較例において、分離膜モジュールの濃縮成分排出口から流出するエタノール蒸気の濃度を示すグラフである。
【図9】本発明による実施例および比較例において、分離膜モジュールの濃縮成分排出口から流出するエタノール蒸気の圧力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明による分離膜モジュールは、アルコール無水化設備、例えばエタノール製造設備、イソプロピルアルコール(IPA)リサイクル設備等において、有機溶剤と水の混合液もしくは混合蒸気等の流体を、無水化する(濃縮する)ために用いられるものであり、例えばエタノールと水の混合蒸気を分離膜モジュールに供給して、水蒸気を分離し、エタノールを濃縮する場合などに使用されるものである。
【0019】
図1は、本発明による分離膜モジュール(1)の一例を示す側面図で、同図に示すように、本発明による分離膜モジュール(1)は、ケーシング(外管)(2)内に、右側管板(3)と左側管板(4)に支持された並列状の管状分離膜エレメント(5)と、これらの管状分離膜エレメント(5)に対して直交状に配置された所要数の邪魔板(6)とを備えている。
【0020】
図2は、本発明による分離膜モジュール(1)に使用する管状分離膜エレメント(5)の一例を示す縦断面図である。同図において、管状分離膜エレメント(5)は、アルミナ、ジルコニアなどの材料で形成される管状のセラミックス多孔質基体に、分子程度の大きさの微細孔を有するゼオライト薄膜がコーティングされている管状ゼオライト分離膜(10)と、管状ゼオライト分離膜(10)の一端に、緻密質セラミックス製の接続管(11)が接合され、同管状ゼオライト分離膜(10)の他端に、緻密質セラミックス製の封止栓(12)が接合されてなるもので、一体型の管状無機分離膜エレメント(5)が用いられている。
【0021】
図3は、本発明の分離膜モジュールの要部拡大斜視図、図4は、本発明の分離膜モジュールを、理解が容易になるように、模式的に拡大した縦断面図、図5は、図4のA−A線に沿う拡大断面図である。
【0022】
そして、図4に詳しく示すように、分離膜モジュール(1)の右側管板(3)の取付孔に、各管状分離膜エレメント(5)の右端部が貫通状に挿通されて取り付けられ、分離膜モジュール(1)の左側管板(4)の取付孔に、各管状分離膜エレメント(5)の左端部が貫通状に挿通されて取り付けられ、分離膜モジュール(1)内に、管状分離膜エレメント(5)が並列状に配設されている。
【0023】
分離膜モジュール(1)のケーシング(2)内において、右側管板(3)および左側管板(4)同士の間の中間に、所要数の邪魔板(6)が管状分離膜エレメント(5)に対して直交状に配置され、各邪魔板(6)はケーシング(2)の内壁面に気密に係合している。図示の実施形態による分離膜モジュール(1)では、ケーシング(2)内に、8枚の邪魔板(6)が配置されている。
【0024】
分離膜モジュール(1)のケーシング(2)下端の右側管板(3)寄り部分の壁部に、例えばエタノールと水の混合蒸気をケーシング(2)内に供給する混合蒸気供給口(被処理流体入口)(15)が設けられている。また、分離膜モジュール(1)のケーシング(2)の右端部と右側管板(3)とによって被分離成分(例えば水蒸気)収容室(13)が設けられて、ケーシング(2)の右端壁に、該収容室(13)と連通する被分離成分排出口(16)が設けられている。一方、分離膜モジュール(1)のケーシング(2)の左端部と左側管板(4)とによって濃縮成分(例えばエタノール)収容室(14)が設けられて、ケーシング(2)の左端壁に、該収容室(14)と連通する濃縮成分排出口(非分離成分排出口)(17)が設けられている。
【0025】
分離膜モジュール(1)のケーシング(2)内において管状分離膜エレメント(5)に対して直交状に配置された各邪魔板(6)は、ケーシング(2)の内径に略等しい外径を有する円板の上端部もしくは下端部が切除された欠円形を有するものである。そして、隣り合う邪魔板(6)の切断端(6a)が上下交互に配されることにより、邪魔板(6)の切断端(6a)と、これに対向するケーシング(2)内壁面との間にあけられた混合蒸気流通路(18)が、ケーシング(2)内において上下交互に設けられていて、ケーシング(2)内に側面よりみてジグザグ状に蛇行した混合蒸気流路が形成されている。
【0026】
なお、図示の実施形態では、左側管板(4)が最終の邪魔板を兼ねており、該左側管板(4)の下端部に、濃縮成分(例えばエタノール)収容室(14)に連通する混合蒸気通過孔(19)が設けられている。
【0027】
上記の分離膜モジュール(1)を用いて、例えばエタノール90wt%と水10wt%の混合蒸気から、水蒸気を分離して、エタノールを濃縮する場合、まず、分離膜モジュール(1)の混合蒸気供給口(被処理流体入口)(15)からケーシング(2)内に、エタノールと水の混合蒸気を所要の圧力で供給する。
【0028】
混合蒸気は、ケーシング(2)内において、管状分離膜エレメント(5)同士の間の空間部、邪魔板(6)同士の間の空間部、並びに邪魔板(6)の切断端(6a)と、これに対向するケーシング(2)内壁面との間にあけられた混合蒸気流通路(18)通って、側面よりみてジグザグ状に蛇行してケーシング(2)内を通過する。各管状分離膜エレメント(5)を透過してくる水蒸気が、ケーシング(2)の右端部の被分離成分排出口(16)より排出され、非透過流体であるエタノールは、最終的にケーシング(2)の左端部の濃縮成分排出口(非分離成分排出口)(17)から流出する。
【0029】
本発明による分離膜モジュール(1)の特徴は、図3〜図5に示すように、分離膜モジュール(1)内の各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内径が、管状分離膜エレメント(5)の外径よりも大きいものとなされていて、該挿通孔(7)の内周面と管状分離膜エレメント(5)の外周面との間に、混合流体流通間隙(8)が設けられており、該間隙(8)内においても管状分離膜エレメント(5)の分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされていることにある。
【0030】
本発明の分離膜モジュール(1)によれば、分離膜モジュール(1)内の邪魔板(6)の設置数を増やしても、各邪魔板(6)に設けられた挿通孔(7)の内周面と管状分離膜エレメント(5)の外周面との間の混合流体流通間隙(8)内を、混合流体が流通することで、圧力損失を抑えることができ、透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差を充分に確保することができて、透過蒸気量の減少を防止することができ、かつ邪魔板(6)による混合流体の流れの撹乱の効果を損なうことがないうえに、各邪魔板(6)の管状ゼオライト分離膜挿通孔(7)の内部では、邪魔板(6)の厚み分に相当する管状ゼオライト分離膜(10)部分も混合流体の流れと接触できるため、管状ゼオライト分離膜(10)の膜分離の機能を有効に働かせることができ、ひいては分離膜モジュール(1)内の各管状ゼオライト分離膜(10)の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができるものである。
【0031】
本発明による上記のような分離膜モジュール(1)を、例えば直列に配管することによって、供給蒸気を所定の濃度まで濃縮するものである。
【0032】
本発明による分離膜モジュール(1)においては、各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内径は、管状分離膜エレメント(5)の外径の1.10〜1.50倍、好ましくは1.15〜1.40倍であることが好ましい。このような範囲で、管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内周面と管状分離膜エレメント(5)の外周面との間に混合流体流通間隙(8)が設けられることにより、分離膜モジュール(1)内の邪魔板(6)の設置数を増やしても、分離膜モジュールの稼動時の圧力損失を抑えることができ、管状分離膜エレメント(5)の透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差を充分に確保することができて、透過蒸気量の減少を防止することができ、かつ邪魔板(6)による混合流体の流れの撹乱の効果を損なうことがないうえに、分離膜モジュール(1)内の各管状ゼオライト分離膜(10)の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができるものである。
【0033】
なお、本発明による分離膜モジュール(1)において、具体的には、ケーシング(2)の大きさは、例えば内径106〜750mm、好ましくは106〜350mm、および全長1000〜1500mm、好ましくは1000〜1250mmである。管状分離膜エレメント(5)の取付数は、ケーシング(2)の大きさにもよるが、通常、7〜300本、好ましくは7〜50本である。各管状分離膜エレメント(5)の大きさは、例えば外径16〜20mm、好ましくは16〜17mm、および全長900〜1200mm、好ましくは900〜1000mmである。
【0034】
また、邪魔板(6)の取付数は、ケーシング(2)の大きさにもよるが、通常、2〜30枚、好ましくは5〜17枚である。邪魔板(6)の厚さは、通常、2〜5mm、好ましくは2〜3mmである。
【0035】
本発明による分離膜モジュール(1)によれば、ケーシング(2)内の各邪魔板(6)に設けられた複数の管状ゼオライト分離膜挿通孔(7)の内部では、上記のような邪魔板(6)の厚み分に相当する管状ゼオライト分離膜(10)部分も混合流体の流れと接触できるため、管状ゼオライト分離膜(10)の膜分離の機能を有効に働かせることができ、ひいては分離膜モジュール(1)内の各管状ゼオライト分離膜(10)の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができるものである。
【0036】
つぎに、図6は、本発明による分離膜モジュール(1)の変形例を示すもので、上記実施形態の場合と異なる点は、分離膜モジュール(1)内の各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内部に、該挿通孔(7)の内壁から管状分離膜エレメント(5)の分離膜(10)外壁面に向かって伸びる複数個の間隔保持用凸起(9)が設けられている点にある。
【0037】
本発明による分離膜モジュール(1)の変形例によれば、各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内周面と管状分離膜エレメント(5)の外周面との間の混合流体流通間隙(8)が、複数個の凸起(9)によって確実に間隔保持されるため、上記の作用効果を充分に発揮させることができるうえに、分離膜モジュール(1)内の管状分離膜エレメント(5)の長さの中間部分を、各邪魔板(6)の管状分離膜エレメント挿通孔(7)内の凸起(9)によって支持することができて、分離膜モジュール(1)の全体強度が増大し、振動などの外力による損傷を可及的に防止することができて、分離膜モジュール(1)は耐用性に優れているものである。
【0038】
ここで、管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内部に設ける間隔保持用凸起(9)の個数は、例えば2〜6個、好ましくは3〜5個が好ましい。また、挿通孔(7)内での間隔保持用凸起(9)の配置は、隣り合う間隔保持用凸起(9)(9)同士の間の間隔が等しくなるように配置するのが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を比較例と共に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例1〜4
以下の実施例は、本発明に基づいて実施した数値流体シミュレーションの結果を示すものである。
【0041】
実施例1〜4
上記図1〜図5に示す本発明の分離膜モジュール(1)を対象として、エタノール90wt%と水10wt%の混合蒸気を、550kPaの圧力で分離膜モジュール(1)に供給して、エタノールを濃縮する数値流体シミュレーションを行なった。
【0042】
ここで、本発明による分離膜モジュール(1)において、ケーシング(2)の大きさは、内径106mm、および全長1125mmである。管状分離膜エレメント(5)の取付数は7本であり、各管状分離膜エレメント(5)の大きさは、外径16mm、および全長1020mmであった。管状分離膜エレメント(5)としては、アルミナ、ジルコニアなどの材料で形成される管状のセラミックス多孔質基体に、水分子程度の大きさの微細孔を有するゼオライト薄膜がコーティングされている管状ゼオライト分離膜(10)と、管状ゼオライト分離膜(10)の一端に、緻密質セラミックス製の接続管(11)が接合され、同管状ゼオライト分離膜(10)の他端に、緻密質セラミックス製の封止栓(12)が接合されてなる管状分離膜エレメントを対象とし、モデル化した。
【0043】
分離膜モジュール(1)内の混合蒸気領域と分離膜エレメント(5)内の2次側透過蒸気領域について汎用熱流体解析プログラム(STAR-CD Ver.4.08、CD-adapco社製)を用いてシミュレーションを行なった。本解析プログラムは熱および流体の移動を解析する機能を標準装備しているが、固体内を被透過成分が透過する膜分離現象を解析する機能は搭載されていない。そこで、本解析プログラムに膜分離現象の物理モデルをプログラミング言語Fortran90で記述したサブルーチンプログラムを組み込んだ。これにより、ケーシング(2)内における混合蒸気の物理量を参照して被透過成分の透過量を算出することが可能となった。管状分離膜(5)の表面に接する混合蒸気から被透過成分を抽出しつつ、ケーシング(2)内の混合蒸気の流れ場を解いた。抽出した被透過成分は管状分離膜エレメント(5)の2次側に注入し、2次側透過蒸気の流れ場も解いた。サブルーチンプログラムで解析対象とした管状分離膜の分離性能は、透過速度50kg/(h・m・Pa)、および分離係数1000 である。
【0044】
また、邪魔板(6)の取付数は、図示のものは、ケーシング(2)内の右側管板(3)および左側管板(4)同士の間の中間において8枚であり、各邪魔板(6)の厚さは、3mmであった。なお、ケーシング(2)内の左側管板(4)(厚さは3mm)が最終の邪魔板を兼ねており、邪魔板(6)の取付数は、合計9枚である。
【0045】
本発明による分離膜モジュール(1)は、分離膜モジュール(1)内の各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内径が22.2mmであり、これに対し、管状分離膜エレメント(5)の外径が16mmであるため、該挿通孔(7)の内周面と管状分離膜エレメント(5)の外周面との間に、幅3.1mmの混合流体流通間隙(8)が設けられていて、該間隙(8)内においても管状分離膜エレメント(5)の分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされているものである。ここで、管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内径は、管状分離膜エレメント(5)の外径の1.39倍であった。
【0046】
なお、ケーシング(2)内の左側管板(4)(厚さは3mm)は、最終の邪魔板を兼ねているが、左側管板(邪魔板)(4)の管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内部には、図6に示すように、該挿通孔(7)の内壁から管状分離膜エレメント(5)の分離膜(10)外壁面に向かって伸びる4個の間隔保持用凸起(9)を設けて、これらの凸起(9)により管状分離膜エレメント(5)の左端部を支持するようにし、結局、ケーシング(2)内において7本の管状分離膜エレメント(5)は、右側管板(3)と左側管板(邪魔板)(4)とによってそれぞれ両端が支持されている構造とした。
【0047】
また、実施例1〜4では、邪魔板(6)の取付数を、合計5枚、9枚、13枚、17枚として、本発明による分離膜モジュール(1)のシミュレーションモデルをそれぞれ作成し、エタノールと水の混合蒸気について、エタノールの濃縮数値シミュレーションを行なった。
【0048】
実施例1〜4の分離膜モジュール(1)のケーシング(2)内に、エタノール90wt%と水10wt%の混合蒸気(流量510kg/h)を、混合蒸気供給口(被処理流体入口)(15)から550kPaの圧力で供給した。このときの2次側の圧力は3kPaである。
【0049】
エタノール・水の混合蒸気は、ケーシング(2)内において、管状分離膜エレメント(5)同士の間の空間部、邪魔板(6)同士の間の空間部、並びに邪魔板(6)の切断端(6a)と、これに対向するケーシング(2)内壁面との間にあけられた混合蒸気流通路(18)通って、側面よりみてジグザグ状に蛇行してケーシング(2)内を通過するとともに、本発明において、各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の混合流体流通間隙(8)内をも通過し、この間、各管状分離膜エレメント(5)の管状ゼオライト分離膜(10)を透過してくる水蒸気が、ケーシング(2)の右端部の被分離成分排出口(16)より排出され、一方、非透過流体であるエタノールは、最終的にケーシング(2)の左端部の濃縮成分排出口(非分離成分排出口)(17)から流出した。
【0050】
そして、各実施例において、分離膜モジュール(1)の濃縮成分排出口(17)から流出するエタノール蒸気の質量流量加重の平均濃度および平均圧力を、シミュレーション結果から算出して、得られた結果を、下記の表1および図8のグラフに記載した。
【0051】
なお、下記の表1には、邪魔板(6)の取付数、および各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の混合流体流通間隙(8)の幅をあわせて記載した。
【0052】
比較例1〜4
比較のために、上記実施例1〜4の場合と同様にして、分離膜モジュールによりエタノールと水の混合蒸気からエタノールを濃縮する数値シミュレーションを行うが、上記実施例の場合と異なる点は、図7に示すように、分離膜モジュール内の各邪魔板(26)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(27)の内径と、管状分離膜エレメント(25)の外径とがほぼ同じものとなされていて、該挿通孔(27)内に全く間隙があけられていない従来の分離膜モジュールを用いた点にある。なお、比較例1〜4における邪魔板(26)の取付数は、上記実施例1〜4の場合と同じとした。
【0053】
そして、上記実施例1〜4の場合と同様にして、比較例1〜4の分離膜モジュールにより、エタノールと水の混合蒸気からエタノールを濃縮する数値シミュレーションを行い、各比較例において、分離膜モジュールの濃縮成分排出口から流出するエタノール蒸気の濃度および圧力を同様に算出し、得られた結果を、下記の表2および図9のグラフに記載した。
【0054】
なお、下記の表2には、従来の分離膜モジュールにおける邪魔板の取付数、および各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の間隙の幅をあわせて記載した。
【表1】

【表2】

【0055】
上記表1と表2、および図8と図9のグラフに記載の結果から明らかなように、本発明による分離膜モジュール(1)を使用した実施例1〜4の数値シミュレーションでは、従来の分離膜モジュールを使用した比較例1〜4の数値シミュレーションに比べて、分離膜モジュールの濃縮成分排出口から流出するエタノール蒸気の濃度が明らかに高く、かつ濃縮成分排出口におけるエタノール蒸気の出口圧力も明らかに高いものであった。
【0056】
このように見てくると、本発明の分離膜モジュール(1)によれば、分離膜モジュール(1)内の邪魔板(6)の設置数を増やしても、各邪魔板(6)に設けられた挿通孔(7)の内周面と管状分離膜エレメント(5)の外周面との間の混合流体流通間隙(8)内を、混合流体が流通することで、圧力損失を抑えることができ、透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差を充分に確保することができて、透過蒸気量の減少を防止することができ、かつ邪魔板(6)による混合流体の流れの撹乱の効果を損なうことがないうえに、各邪魔板(6)の管状ゼオライト分離膜挿通孔(7)の内部では、邪魔板(6)の厚み分に相当する管状ゼオライト分離膜(10)部分も混合流体の流れと接触できるため、管状ゼオライト分離膜(10)の膜分離の機能を有効に働かせることができ、ひいては分離膜モジュール(1)内の各管状ゼオライト分離膜(10)の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができるものであることを、確認することができた。
【符号の説明】
【0057】
1:分離膜モジュール
2:ケーシング
3:右側管板
4:左側管板
5:管状分離膜エレメント
6:邪魔板
7:管状分離膜エレメント挿通孔
8:混合流体流通間隙
9:間隔保持用凸起
10:管状ゼオライト分離膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に、管板に支持された並列状の管状分離膜エレメントと、これらの管状分離膜エレメントに対して直交状に配置された所要数の邪魔板とを備えている分離膜モジュールであって、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径よりも大きいものとなされていて、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられており、該間隙内においても管状分離膜エレメントの分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされていることを特徴とする、分離膜モジュール。
【請求項2】
各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.10〜1.30倍であることを特徴とする、請求項1に記載の分離膜モジュール。
【請求項3】
各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内部に、該挿通孔の内壁から管状分離膜エレメントの分離膜外壁面に向かって伸びる複数個の間隔保持用凸起が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の分離膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−39546(P2013−39546A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179633(P2011−179633)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・部材イノベーションプログラム/グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発(うち、研究開発項目3−2規則性ナノ多孔体精密分離膜部材基盤技術の開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】