説明

分離装置

【課題】少ない溶媒量で、抽出物を熱劣化させることなく、省エネルギーで、高効率に簡便に取り出すことができる分離装置を提供すること。
【解決手段】凝縮された液体を溶媒と抽出物とに分離するための分離装置であって、抽出容器に連通する主管と、冷却手段に連通する受け管と、該受け管から前記主管に連通する戻り管と、を備え、前記受け管は、その下端が三方向弁に連結されると共に、該三方向弁を介して前記戻り管に連通し、該戻り管は、一定の液位を保持する垂直高さを有し、その他端が主管の上方部分に連結されている分離装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝縮された液体を溶媒と抽出物とに分離するための分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より精油等の有用物質を取得するため、水や有機溶媒を用いて植物原料または動物原料から該有用物質を抽出することが行われている。近年は、精油等のバイオマス抽出物を得るため、水蒸気蒸留を応用した簡便な抽出装置も市販されている。
【0003】
精油等の抽出は、木の葉、実などの植物材料または動物材料から水や有機溶媒を用いて行うことが多いが、従来の2層もしくは複数溶媒系の抽出では、ある程度の時間、加熱還流した後、溶媒と抽出物とを分液漏斗を用いて液分離していた。そのため、水蒸気蒸留では、水蒸気あるいは水を大量に反応系に導入する必要があった。
【0004】
また、目的物を抽出しきるまで加熱を行うため、反応初期に抽出されたものまで無駄に加熱されており、そのため折角抽出した目的物が、熱劣化してしまうなどの問題があり、熱劣化を避けるためには、抽出しきる前に加熱を停止する必要があった。
【0005】
さらに、抽出物の溶媒への溶解度を増すためには、ある程度大量の溶媒を必要としていたため、加熱にエネルギーを要していた。
【0006】
また、抽出操作後、溶媒と抽出物を分液漏斗へ移して分液する必要があるため、操作が煩雑な上、ロスが発生していた。あるいは、ロスをカバーするために、容器を溶媒で洗浄した洗浄液を回収する必要があった。
【0007】
さらに、水蒸気蒸留では水蒸気もしくは水を大量に反応系に加える必要があるため、加熱にエネルギーがかかり、且つ、必要に応じて水を追添加する必要があった。
【0008】
抽出に使用する溶媒を減少させるため、オレンジ油からオレンジ油酸素付加物を水で抽出するにあたり、逆浸透膜等の膜分離プロセスを使用して連続的に水を分離、再循環させる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、膜分離プロセスを利用して溶媒を再循環させることは有効な手段の一つではあるが、簡便な方法とは言い難い。
【特許文献1】特開平6−99005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、少ない溶媒量で、抽出物を熱劣化させることなく、省エネルギーで、高効率に簡便に取り出すことができる分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、下記の構成からなる分離装置を、抽出容器と冷却管との間に設けることにより、上層に抽出物を速やかに分離し熱劣化を防ぐと共に、下層の溶媒を戻り管を通じて抽出容器に戻すことで、溶媒量を最小、かつ追添加することなく抽出、蒸留できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、凝縮された液体を溶媒と抽出物とに分離するための分離装置であって、抽出容器に連通する主管と、冷却手段に連通する受け管と、該受け管から前記主管に連通する戻り管と、を備え、前記受け管は、その下端が三方向弁に連結されると共に、該三方向弁を介して前記戻り管に連通し、該戻り管は一定の液位を保持する垂直高さを有し、その他端が主管の上方部分に連結されている分離装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、凝縮された液体を溶媒と抽出物とに分離するための分離装置であって、抽出容器に連通する二つの主管と、冷却手段に連通する受け管と、該受け管から前記主管の一方に連通する戻り管と、を備え、前記受け管は、その下端が三方向弁に連結されると共に、該三方向弁を介して前記戻り管に連通し、該戻り管は、一定の液位を保持する垂直高さを有し、その他端が主管の上方部分に連結されている分離装置を提供する。
【0013】
前記の分離装置は、凝縮された液体を、抽出溶媒と、該抽出溶媒に混和しない溶媒に溶解させた抽出物とに分離するための分離装置であっても良い。
【0014】
上記いずれかの分離装置は、水または有機溶媒により固体バイオマスから精油を抽出するために用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る分離装置を、抽出容器と冷却管との間に設けることにより、分離装置受け管の上層に抽出物を速やかに分離することができるので、抽出物の熱劣化を防ぐと共に、下層の溶媒を戻り管を通じて抽出容器に戻すことができるので、溶媒量を最小かつ追添加することなく抽出、蒸留することができる。反応後は、三方向弁の操作により、簡便に抽出物あるいは抽出物を含有する液層を分取することができる。省溶媒の抽出なので、省エネルギーである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る分離装置を図面を参照しながら詳細に説明する。図3と図6は、本発明に係る分離装置の概略構成を示す図である。
【0017】
[作用]
本発明の分離装置は、抽出容器から蒸発した後、冷却手段により凝縮された液体を、溶媒と抽出物とに分離するための分離装置である。図3に示すように、分離装置30は、抽出容器に連通する主管31と、冷却手段に連通する受け管32と、該受け管から前記主管に連通する戻り管33と、を備え、前記受け管は、その下端が三方向弁34に連結されると共に、該三方向弁34を介して前記戻り管に連通し、該戻り管33は、一定の液位を保持する垂直高さを有し、その他端が主管の上方部分に連結されている。
本発明の分離装置において、主管は蒸気を冷却手段に導く機能と、凝縮された溶媒を抽出容器に戻す機能を有している。受け管は凝縮された液体、すなわち、抽出溶媒と抽出物を溜めて分離する機能を有している。戻り管は、受け管に溜めた液体を主管を通じて抽出容器に戻す機能を有している。
反応中は、三方向弁34を図3に示す方向に保持し、受け管と戻り管を開放する。反応の進行にともない、受け管32には凝縮された溶媒と抽出物が溜まる。溶媒の比重は、抽出物の比重よりも大きいものを選定する。下層に溜まった溶媒量が、戻り管33の最高点に到達すると、戻り管33に溜まっていた溶媒と受け管32に溜まっていた溶媒は、図3の点線で示す高さ、すなわち主管と戻り管の連結部位の高さになるまで、主管31を経由して抽出容器に戻される。受け管32には、抽出物と溶媒が残る。さらに反応が進行すると、点線の水位を維持しながら下層の溶媒が順次抽出容器に戻され、受け管32には抽出物が増えていく。
反応終了後、三方向弁34を図4に示す方向に保持し、戻り管33の出口を開放することにより、戻り管33に溜まっていた溶媒を捨てることができる。次に、三方向弁34を図5に示す方向に保持し、受け管32を開放し戻り管33を閉鎖し、受け管に溜まっていた溶媒を捨てた後、上層の抽出物のみを分離することができる。したがって、本発明の分離装置を用いることにより、上記の操作が可能になり、かつ、溶媒が循環されるので溶媒量を最小、かつ追添加することなく抽出、蒸留できるという機能を維持することができる。
また、図6に示す本発明の他の分離装置30´は、抽出容器に連通する二つの主管31a´,31b´と、冷却手段に連通する受け管32´と、該受け管から前記主管の一方(31b´)に連通する戻り管33´と、を備え、前記受け管は、その下端が三方向弁34´に連結されると共に、該三方向弁34´を介して前記戻り管に連通し、該戻り管33´は、一定の液位を保持する垂直高さを有し、その他端が主管31b´の上方部分に連結されている。この分離装置30´の機能は図3に示す分離装置30と同様である。この分離装置は溶媒蒸気を冷却手段に導く主管31a´と、凝縮された溶媒を抽出容器に戻す主管31b´という、機能が異なる二つの主管を備えているため、抽出時間を短縮できる効果がある。
【0018】
なお、本発明の分離装置において、抽出溶媒に抽出物が溶解する場合は、抽出溶媒よりもさらに抽出物の溶解度が高く比重の軽い、かつ抽出溶媒とは混和しない溶媒(例えばエーテル等)を、予め分離装置の受け管に仕込んでおくことにより、抽出物を速やかに移層させ、抽出物が溶け込んでいない状態の溶媒を抽出容器に戻すことができる。
【0019】
本発明の分離装置を用いた抽出において、抽出溶媒としては、水の他、エーテル類、メタノール、エタノールなどのアルコール類、酢酸エチル、ピリジン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトンなどの有機溶媒を、それぞれ単独でまたは組合わせて用いることができる。その中でもコスト、安全性等を考慮すると水が好ましい。
【0020】
本発明の分離装置を用いて有用物質の抽出、分離を行う場合、適用する被抽出物としては、植物原料または動物原料からなる固体バイオマスが用いられる。植物原料としては、木や草の葉、実、枝、根など栽培系バイオマス;木材、間伐材、伐採木、剪定枝、おがくず、樹皮、チップ、端材、流木、竹、笹、木質建築廃材などの木質系バイオマス;モミ殻、稲藁、麦藁、バガス、アブラヤシ(パーム油の原料)のヤシ殻などの農作物系バイオマス;食品工場や外食産業から出る食品残渣;等を挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
<実施例1>
図1に示したマイクロ波発生装置(10)内に設置された内径200mmのセパラブル三ツ口円筒フラスコ(20)に、純水50.08gと沸石を加え、テフロン(登録商標)製の目皿(2)を設置した。目皿の穴は5mmのものを使用し、その上に、バイオマスが下にこぼれ落ちないようにメッシュサイズ0.75φのテフロン(登録商標)パンチングシートを設置した。この上に、バイオマスとしてトドマツ葉粉砕物300.06gを加えた。トドマツ葉粉砕物は分析ミル(IKA Works Guangzhou社製 型式:A11 basic)にて8mmアンダーに破砕して得た。マイクロ波発生装置(10)外に、円筒フラスコ(20)と連結するように、図3に示す構成の分離装置(30)を連結管(25)を介して連結し、受け管部に呼び水として純水12.89gを加えた。分離装置の上部に長さ300mmのジムロート冷却管(40)を連結した。また、ジムロート冷却管の上部に、余分な排ガスをドラフトへ送気する管を設けた。
【0023】
周波数2.45GHz、最大出力700Wのマイクロ波を出力一定にて上記反応装置に照射し、水蒸気蒸留を行った。反応時間は初留発生後20分を基本とした。なお、反応中蒸気の発生状態に留意し、蒸気発生が終了した時点で反応を終了することとした。
【0024】
初留までの所要時間、初留から反応終了までの時間、及び精油回収量を計測した。初留までの所要時間は5分、反応終了までの時間は20分であり、終了時に円筒フラスコ内には十分な水があり、さらに蒸留を続けることが可能であった。反応後の全油分収量は3415.7mgであった。また、これをバイオマス100g-dryあたりの精油収量に換算すると2103mgであった。反応を通して、バイオマスが過加熱になったり、焦げたりすることはなかった。
【0025】
<比較例1>
図2に示したマイクロ波発生装置(10)内に設置された内径200mmのセパラブル三ツ口円筒フラスコ(20)に、純水50.04gと沸石を加え、テフロン(登録商標)製の目皿(2)を設置した。目皿の穴は5mmのものを使用し、その上に、バイオマスが下にこぼれ落ちないようにメッシュサイズ0.75φのテフロン(登録商標)パンチングシートを設置した。この上に、バイオマスとしてトドマツ葉粉砕物300.03gを加えた。トドマツ葉粉砕物は分析ミル(IKA Works Guangzhou社製 型式:A11 basic)にて8mmアンダーに破砕して得た。マイクロ波発生装置(10)外に、円筒フラスコ(20)と連結するように長さ300mmのリービッヒ冷却管(40)を連結し、さらに100ml容の分液ロート(50)を連結した。なお、冷却部(40)にはリービッヒ冷却管に加えて分岐管にて補助冷却用のジムロートを連結してもよい。また、分液ロートとリービッヒ冷却管との連結部を分岐し、余分な排ガスをドラフトへ送気する管を設けた。
【0026】
周波数2.45GHz、最大出力700Wのマイクロ波を出力一定にて上記反応装置に照射し、水蒸気蒸留を行った。反応時間は初留発生後20分を基本とした。なお、反応中蒸気の発生状態やバイオマスの状態に留意し、蒸気発生が終了したり、焦げなどの異臭が発生した時点で反応を終了することとした。
【0027】
初留までの所要時間、初留から反応終了までの時間、及び精油回収量を計測した。初留までの所要時間は5分で、反応終了までの時間は15分であった。これは、反応後15分でバイオマスがわずかに焦げる臭いが発生し、危険防止のため反応を終了したためである。反応後の全油分収量は3266.7mg(2011mg/100g-dry)であったが、得られた油分は褐色に着色しており、油成分が熱分解したことが示唆された。また、反応後、円筒フラスコ内のバイオマスの一部がやや焦げていた。
【0028】
<比較例2>
純水を300g用いた他は比較例1と同様の条件にて水蒸気蒸留を行った。初留までの所要時間、初留から反応終了までの時間、及び精油回収量を計測した。初留までの所要時間は6分で、反応終了までの時間は20分であった。終了時に円筒フラスコ内には十分な水があり、さらに蒸留を続けることが可能であった。反応終了反応後の全油分収量は3119mg(1920mg/100g-dry)であった。反応を通して、バイオマスが過加熱になったり、焦げたりすることはなかった。
【0029】
実施例1および比較例1,2における精油回収量を、試料100g-dryあたりの精油収量に換算した値および、得られた精油の性状を表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
また、回収した精油をガスクロマトグラフィー(GC)で分析し、検出された成分のピーク面積比を求めた結果、実施例1は主要成分が86%、その他の成分が14%であったのに対し、比較例1は主要成分が84%、その他の成分が16%であった。
【0032】
上記の結果から明らかなように、本発明の分離装置を用いることにより、比較例と比べて、より少量の溶媒で、安全かつ短時間・省エネルギーで熱劣化のない精油を回収することができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の分離装置は、各種の溶媒抽出操作に適用することができる。その場合、必要に応じ連結手段を介して、抽出容器および冷却手段に連通させて用いれば良い。これにより、省溶媒、省エネルギー、高効率で有用物質を抽出することが可能になる。各種バイオマスから抽出した各種天然物質は、製薬、化粧品、食品、芳香剤、染色剤、溶剤などの様々な産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1で用いた装置の概略構成図である。
【図2】比較例1,2で用いた装置の概略構成図である。
【図3】本発明に係る分離装置の概略構成図である。
【図4】本発明に係る分離装置の三方向弁周辺の説明図である。
【図5】本発明に係る分離装置の三方向弁周辺の説明図である。
【図6】本発明に係る他の分離装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1 バイオマス
2 目皿
3 溶媒
10 マイクロ波発生装置
20 反応容器
21 温度計
25 連結管
30,30´ 分離装置
31,31a´,31b´ 主管
32,32´ 受け管
33,33´ 戻り管
34,34´ 三方向弁
40 冷却管
50 分液漏斗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮された液体を溶媒と抽出物とに分離するための分離装置であって、
抽出容器に連通する主管と、
冷却手段に連通する受け管と、
該受け管から前記主管に連通する戻り管と、を備え、
前記受け管は、その下端が三方向弁に連結されると共に、該三方向弁を介して前記戻り管に連通し、該戻り管は、一定の液位を保持する垂直高さを有し、その他端が主管の上方部分に連結されている分離装置。
【請求項2】
凝縮された液体を溶媒と抽出物とに分離するための分離装置であって、
抽出容器に連通する二つの主管と、
冷却手段に連通する受け管と、
該受け管から前記主管の一方に連通する戻り管と、を備え、
前記受け管は、その下端が三方向弁に連結されると共に、該三方向弁を介して前記戻り管に連通し、該戻り管は、一定の液位を保持する垂直高さを有し、その他端が主管の上方部分に連結されている分離装置。
【請求項3】
凝縮された液体を、抽出溶媒と、該抽出溶媒に混和しない溶媒に溶解させた抽出物とに分離する、請求項1または2に記載の分離装置。
【請求項4】
水または有機溶媒により固体バイオマスから精油を抽出するために用いられる、請求項1〜3のいずれかに記載の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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