説明

切刃付リング

【課題】穴あけ工具に対して着脱自在に固定され、穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する切刃付リングを、簡単に穴あけ工具に取り付けることができるようにする。
【解決手段】穴あけ工具40をその軸線O方向に挿通させる平面視円形状の挿入孔11が形成されたリング部10により切刃付リング1を構成し、リング部10の内周面10Cの周方向の一部に、当該内周面10Cからその径方向外側に窪む凹部12を形成し、リング部10には、前記内周面10Cに対する凹部12の開口縁のうち前記周方向の一端から他端側に向けて前記周方向に延出して前記径方向に弾性変形可能とされた円弧状腕部13を一体に設け、リング部10の径方向に貫通して前記凹部12の底面に開口する螺着孔14に螺着された締め付けネジ15により、前記円弧状腕部13を前記径方向の内側に押し付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、穴あけ工具に対して着脱自在に固定され、穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する切刃付リングに関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル等の穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する工具には、例えば特許文献1〜3のように、穴あけ工具に固定されるリング部に、前記穴の周縁を加工するための切刃チップを取り付けた切刃付リングがある。この切刃付リングでは、穴あけ工具を前記穴から抜きだす前に、前記穴の周縁を加工することができるため、穴の形成及びその周縁の加工を効率よく行うことができる。
従来、この種の切刃付リングとしては、例えば特許文献1のように、リング部の半径方向に貫通する締め付けネジにより、締め付けリングの内周側に配される穴あけ工具の切屑排出溝(ねじれ溝)の表面に対して締め付け固定するものがあり、この場合には、締め付けネジと切屑排出溝(ねじれ溝)との間に締め付けシューを設けている。
【0003】
また、従来の切刃付リングとしては、例えば特許文献2のように、リング部の周方向に2分割された分割体により構成され、これら2つの分割体をネジにより締結することで穴あけ工具を締め付けるものがある。この場合、リング部の内径寸法は、ドリルの外径寸法よりも小さく(例えば−1.0〜0.0mm)設定する必要がある。
さらに、従来の切刃付リングとしては、例えば特許文献3のように、リング部の周方向の1箇所にスリットが形成され、このスリットの幅が狭くなるようにネジにより締め付けることで、穴あけ工具に固定されるものがある。
【特許文献1】特表2004−524979号公報
【特許文献2】特開2006−43868号公報
【特許文献3】特開2003−117711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常のドリルにはねじれ状の切屑排出溝が複数形成されているため、特許文献1に記載の切刃付リングでは、ドリルへの固定に際して複数の締め付けネジを操作する必要があり、その取り付けが面倒という問題がある。さらに、特許文献1に記載の切刃付リングは締め付けシューを介してドリルに固定されるため、ドリルと切刃付リングの中心軸が大きくずれる虞もある。
また、特許文献2,3に記載の切刃付リングでは、2つの分割体の隙間やスリットの幅が狭くなるようにリング部をネジで締め付け固定するため、ネジを操作する際にリング部が回り易く、やはり取り付けが面倒という問題がある。
【0005】
本発明は、簡単に穴あけ工具に取り付けることができる切刃付リングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決してこのような目的を達成するために、本発明に係る切刃付リングは、穴あけ工具に対して着脱自在に固定されて、該穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する切刃インサートを有する切刃付リングであって、前記穴あけ工具をその軸線方向に挿通させる平面視円形状の挿入孔が形成されたリング部を備え、該リング部の内周面のうち周方向の一部には、当該内周面からその径方向外側に窪む凹部が形成され、前記リング部には、前記内周面に対する前記凹部の開口縁のうち前記周方向の一端から他端側に向けて前記周方向に延出して前記径方向に弾性変形可能とされた円弧状腕部が一体に設けられ、該円弧状腕部は、前記リング部の径方向に貫通して前記凹部の底面に開口する螺着孔に螺着された締め付けネジによって前記径方向の内側に押し付けられることを特徴とする。
【0007】
この構成の切刃付リングを穴あけ工具に固定する際には、穴あけ工具を挿入孔に挿通させた状態で、締め付けネジを操作して円弧状腕部を前記径方向内側に押し付ければよい。これにより、円弧状腕部が前記径方向内側に弾性変形して切刃付リングの挿入孔の内径寸法が漸次小さくなるため、円弧状腕部を含む切刃付リングの内周面により穴あけ工具を締め付けることができる。すなわち、切刃付リングの内周面の一部を円弧状腕部によって構成することで、穴あけ工具の外周面に対する切刃付リングの内周面の接触面積が増加するため、穴あけ工具に対する切刃付リングの締め付け力増加を図り、切刃付リングを確実に固定することができる。
【0008】
また、この切刃付リングは、前述のように、挿入孔の内径寸法を漸次小さくすることでリング部を直接穴あけ工具に固定する構成であるため、穴あけ工具と切刃付リングとの間で芯ずれが生じることも抑制できる。
さらに、この切刃付リングを穴あけ工具に固定する際には、締め付けネジを操作して前記径方向内側に進行させればよいため、切刃付リングが穴あけ工具に対して前記軸線周りに回ってしまうことがなく、切刃付リングを容易に穴あけ工具に取り付けることが可能となる。
また、この構成の切刃付リングでは、リング部の内径寸法を穴あけ工具の外径寸法よりも大きく(例えば0.05〜0.2mm)形成しておくことが可能であり、結果として、容易に穴あけ工具をリング部の挿入孔に挿通させることができる。
【0009】
また、前記切刃付リングは、前記切刃インサートを前記リング部に対してその径方向に移動可能とする位置調整機構を備えていてもよい。
【0010】
そして、前記切刃付リングにおいては、前記穴あけ工具の先端側に面する前記リング部の先端面から前記軸線方向に突出する突出部を備え、前記突出部が、前記軸線に沿って延びるスリットによって、前記切刃インサートを固定する内側突出部と、該内側突出部よりも前記径方向の外側に配される外側突出部とに分割され、前記位置調整機構が、前記突出部と、前記径方向に前記外側突出部を貫通するように前記外側突出部に螺着されて、前記内側突出部を前記外側突出部に対して前記径方向内側に押し付ける位置調整ネジによって構成されてもよい。
【0011】
このような位置調整機構を備える場合には、切刃付リングを穴あけ工具に取り付けた状態において、例えば切刃インサートが穴あけ工具の外周面から離間していても、位置調整機構により切刃インサートを径方向内側に移動させて穴あけ工具の外周面に接触させることができる。
また、切刃付リングを穴あけ工具に取り付ける前に、位置調整ネジによる内側突出部の押し付けを緩める等して予め切刃インサートを径方向外方側に移動させておくことで、切刃付リングの取り付けに際して切刃インサートが穴あけ工具の外周面に擦れる等して過度の力で押し付けられることも防止できるため、切刃インサートの保護を図ることができる。
【0012】
また、前記切刃付リングにおいては、前記穴あけ工具の先端側に面する前記リング部の先端面側に、前記内周面から前記径方向内側に突出して当該内周面と前記穴あけ工具の切屑排出溝との隙間を埋めるキャップ部材を固定してもよい。
【0013】
この場合には、穴あけ工具による穴あけ加工の際に生じる切屑が挿入孔に入り込むことを防止できる。
また、キャップ部材によってリング部が切屑排出溝に係止されるため、切刃インサートにより穴の周縁を加工する際に、切刃付リングが穴あけ工具に対して回転してしまうことも確実に防止できる。
【0014】
さらに、前記切刃付リングにおいては、前記切刃インサートが、前記穴あけ工具の外周面に接触した状態において、前記軸線に沿って前記穴あけ工具の先端側に位置する当該切刃インサートの先端部が前記外周面から離間するように形成されていてもよい。
【0015】
この構成の場合には、切刃インサートにより前記穴の周縁を加工する際に、切刃インサートの先端部が穴あけ工具の外周面と穴の周縁とに挟まれて、当該先端部に過度の応力が生じることを防止できる。すなわち、穴の周縁の加工に際して切刃インサートの保護を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リング部の内周面の一部を弾性変形可能な円弧状腕部により構成すると共に、当該円弧状腕部を締め付けネジにより径方向内側に押し付けることで、穴あけ工具に切刃付リングを容易且つ確実に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1から図4を参照し、本発明に係る切刃付リングの実施形態について説明する。図1,2に示すように、本実施形態における切刃付リング1は、ドリル(穴あけ工具)40に対して着脱自在に固定されるものであり、これら切刃付リング1及びドリル40によって、穴あけ加工と同時にドリル40によって形成された穴の開口部周縁を面取り加工を可能とする切削工具80が構成されている。
ここで、ドリル40は、軸線O周りに回転される概略多段円柱状をなすドリル本体50と、このドリル本体50の先端側(図1,2において下側)に着脱可能に装着されるインサート70とから構成されている。
【0018】
ドリル本体50の後端側(図1,2において上側)には、工作機械の主軸端等に取り付けるためのシャンク部51が形成されている。
ドリル本体50の先端側部分の外周には、ドリル本体50の先端面52に開口してドリル本体50後端側に向かうにしたがいドリル40の回転方向T後方側に向けてねじれる一対の切屑排出溝53,53が軸線Oを挟んで180°回転対称に形成されている。
このドリル本体50の先端部54には、先端側に向けて突出する一対の顎部55,55が軸線Oを挟むように相互に対向して形成されており、この一対の顎部55,55に挟まれた部分がインサート70のインサート取付座56とされている。なお、前述の先端面52はこの顎部55の先端に形成されている。
【0019】
インサート取付座56の底部57には、ドリル本体50後端側に向けて軸線Oに沿って延びるスリット60が、切屑排出溝53,53に開口するように、また、一対の顎部55,55の間に位置するように形成されている。また、スリット60のドリル本体50後端部分には、スリット60の幅よりも大きい幅を有する切欠部61が形成されている。
また、ドリル本体50の先端部54には、クランプネジ63を挿通させる挿通孔64が形成されている。この挿通孔64は、クランプネジ63がスリット60の幅方向に通るように軸線Oを通る径方向に延びて形成されており、一方の顎部55側に形成された挿通孔64にのみ、クランプネジ63を螺着させる雌ネジ部(不図示)が形成されている。
【0020】
インサート70の先端面71は、先端側(図1において下側)に向けて凸となる凸V字状に形成されている。
また、インサート70には、インサート取付座56に装着された状態において、ドリル40の回転方向T前方側を向いて各切屑排出溝53の先端側に滑らかに連なる概略凹曲面状をなすすくい面74が一対形成されている。ここで、各すくい面74は、前記先端面71と、ドリル本体50の後端側を向いて軸線Oと直交するインサート70の後端面72と、ドリル本体50の径方向外側を向くインサート70の外周面73とに交差している。
そして、各すくい面74とインサート70の先端面71との交差稜線部にそれぞれ切刃75が形成されている。
このインサート70は、ドリル本体50のインサート取付座56に挿入された状態において、前述したクランプネジ63を他方の顎部55側の挿通孔64から挿入して一方の顎部55側の挿通孔64に螺着させることで、一対の顎部55,55によって狭持され、これによってドリル本体50に固定される。
【0021】
一方、切刃付リング1は、図1〜3に示すように、ドリル40をその軸線O方向に挿通させる平面視略円形状の挿入孔11が形成された略円環状のリング部10と、前記軸線O方向に直交(交差)してドリル本体50の先端側に面するリング部10の先端面10Aから軸線O方向に一体に突出する一対の突出部20,20と、各突出部20にそれぞれ固定された切刃インサート30とを備えている。
リング部10の内周面10Cのうち周方向の一部には、内周面10Cからその径方向外側に窪む凹部12が形成されている。この凹部12は、軸線O方向に直交するリング部10の先端面10A、及び、ドリル本体50の後端側に面する後端面10Bの両方に開口している、すなわち、軸線O方向に沿って延びる溝状に形成されている。
【0022】
そして、リング部10には、内周面10Cに対する凹部12の開口縁のうち、内周面10Cの周方向の一端から他端側に向けて、前記周方向(図3においては回転方向T)に延出する円弧状腕部13が一体に形成されている。ここで、円弧状腕部13の径方向内側の面は、リング部10の内周面10Cの一部をなしている。また、円弧状腕部13と凹部12の底面との間、及び、円弧状腕部13の延出方向の先端と凹部12の前記周方向の他端との間には隙間が形成されており、これによって、円弧状腕部13は、凹部12の周方向の一端側を中心として前記径方向に弾性変形可能とされている。
【0023】
さらに、リング部10には、その径方向に貫通して凹部12の底面に開口する螺着孔14が複数(図示例では2つ)形成されており、各螺着孔14には、円弧状腕部13を前記径方向の外側から内側に押し付ける締め付けネジ(押付手段)15を螺着させる雌ネジ部が形成されている。なお、複数の螺着孔14は軸線O方向に並べて形成されており、また、ドリル本体50に形成される切屑排出溝53のねじれ形状に対応するように、互いに周方向にずらして配されている。この構成においては、締め付けネジ15を操作してその先端部を凹部12の底面から突出させると共に円弧状腕部13に押し付けた際には、円弧状腕部13がリング部10の径方向内側に弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って切刃付リング1の挿入孔11の内径寸法が漸次小さくなる。
【0024】
また、リング部10の先端面10A側には、内周面10Cからその径方向内側に突出して、挿入孔11に挿通されたドリル40の切屑排出溝53と内周面10Cとの隙間を埋めるキャップ部材16が着脱可能に固定されている。各キャップ部材16は、リング部10の螺着孔14の形成位置に対して前記周方向にずれた位置に配されており、各締め付けネジ15の先端部が円弧状腕部13を介して切屑排出溝53に対向することを防止している。さらに、各キャップ部材16には、切屑排出溝53の内面に滑らかに連なる切屑案内面16Aが形成されており、この切屑案内面16Aは切屑排出溝53の内面をリング部10の径方向外側に導くように凹曲面状に形成されている。なお、図示例においては、切屑案内面16Aによって切屑排出溝53の内面とリング部10の先端面10Aとが滑らかに接続されている。この構成においては、ドリル40による穴あけ加工の際に生じる切屑を切屑排出溝53から前記径方向外側に排出することができる。
【0025】
各突出部20には、その先端からリング部10の先端面10Aに向けて軸線Oに沿って延びるスリット23Aが形成されている。各突出部20は、このスリット23Aによって、切刃インサート30を固定する内側突出部21と、内側突出部21よりもリング部10の径方向外側に配された外側突出部22とに分割されている。なお、スリット23Aの突出部20基端部分には、スリット23Aの幅よりも大きい幅を有する切欠部23Bが形成されている。
内側突出部21の先端部の前記径方向内側には、切刃インサート30を取り付けるためのインサート取付座25が、回転方向T前方側を向く内側突出部21の前面21Aから窪んで形成されている。切刃インサート30は、このインサート取付座25に収納された状態で取付ネジ26によって着脱自在に固定されている。
【0026】
また、外側突出部22には、リング部10の径方向に貫通して内側突出部21側に開口する螺着孔27が形成されており、この螺着孔27には、内側突出部21を前記径方向の内側に押し付ける位置調整ネジ28を螺着させる雌ネジ部が形成されている。
この構成においては、位置調整ネジ28を操作することで内側突出部21を外側突出部22に対して前記径方向に弾性変形させることができ、これによって、切刃インサート30がリング部10に対して前記径方向に移動する。すなわち、上記構成の突出部20及び位置調整ネジ28によって、切刃インサート30をリング部10に対してその径方向に移動可能とする位置調整機構29が構成されている。
なお、内側突出部21の基端部の前記径方向内側には、前記径方向外側に窪む切欠溝24が形成されており、内側突出部21が容易に前記径方向内側に向けて弾性変形できるようになっている。
【0027】
各切刃インサート30は、図1〜4に示すように、ドリル40によって形成された穴の開口部周縁を面取り加工するものであり、略菱形平板状に形成されている。
この切刃インサート30には、回転方向T前方側を向いて切刃インサート30のすくい面を含む菱形状の前面32と、インサート取付座25に取り付けられた状態においてドリル本体50の外周面50Aに面する対向面33と、ドリル本体の先端側に向いて切刃インサート30の逃げ面をなす側面34とを有している。そして、前記前面32と前記側面34との交差稜線部に切刃35が形成されている。
【0028】
また、前記対向面33は、インサート取付座25に取り付けられた状態において、軸線Oに沿って延びてドリル本体50の外周面50Aに接触可能な接触面33Aと、ドリル本体50の外周面50Aから離間するようにドリル本体50の先端側に向けて延びる斜行面33Bとから構成されており、これら接触面33A及び斜行面33Bはドリル本体50の後端側から先端側に向けて順次連ねて形成されている。すなわち、この切刃インサート30は、インサート取付座25に取り付けられた状態において、ドリル本体50の先端側に位置して斜行面33B及び切刃35の一部を含む切刃インサート30の先端部31が、ドリル本体50の外周面50Aから離間するように形成されている。
【0029】
以上のように構成された切刃付リング1をドリル40に固定する際には、ドリル本体50をリング部10の挿入孔11に挿通させ、締め付けネジ15が前記径方向内側に進行するように締め付けネジ15を操作して円弧状腕部13を前記径方向内側に押し付ければよい。この際には、前述したように、切刃付リング1の挿入孔11の内径寸法が漸次小さくなるため、円弧状腕部13を含むリング部10の内周面10Cによりドリル本体50を締め付けることができ、これにより切刃付リング1がドリル40に固定されることになる。
なお、この固定に際しては、キャップ部材16をリング部10から取り外しておき、上記固定の完了後にキャップ部材16をリング部10に取り付ければよい。また、切刃付リング1をドリル40に固定して切削工具を構成した後に、切刃インサート30を前記径方向内側に移動させてドリル本体50の外周面50Aに接触させればよい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態による切刃付リング1によれば、リング部10の内周面10Cの一部を円弧状腕部13により構成することで、ドリル40の外周面50Aに対する内周面10Cの接触面積が増加するため、ドリル40に対する切刃付リング1の締め付け力増加を図り、切刃付リング1を確実に固定することができる。なお、円弧状腕部13をリング部10の径方向内側に押し付ける締め付けネジ15が軸線O方向に複数配列されることで、前記締め付け力の増加をさらに図ることができる。
また、切刃付リング1は、前述のように、挿入孔11の内径寸法を漸次小さくすることでリング部10を直接ドリル本体50に固定する構成であるため、ドリル40と切刃付リング1との間で芯ずれが生じることも抑制できる。
【0031】
さらに、切刃付リング1をドリル40に固定する際には、締め付けネジ15を前記径方向内側に進行させるため、切刃付リング1がドリル本体50に対して前記軸線O周りに回ってしまうことがなく、切刃付リング1を容易にドリル40に取り付けることが可能となる。
また、この切刃付リング1では、リング部10の内径寸法をドリル本体50の外径寸法よりも大きく(例えば0.05〜0.2mm)形成しておくことが可能であり、結果として、容易にドリル本体50をリング部10の挿入孔11に挿通させることができる。
【0032】
また、切刃付リング1をドリル40に固定した後に、位置調整機構29により切刃インサート30を径方向内側に移動させてドリルの外周面に接触させることができるため、仮に切刃付リング1とドリル40との間で芯ずれが生じていても、複数の切刃インサート30をドリル40の軸線Oに一致するように配置することができる。
さらに、位置調整ネジ28による内側突出部21の押し付けを緩める等して位置調整機構29により切刃インサート30を径方向外側に移動させることもできるため、ドリル本体50を挿入孔11に挿通させる際に切刃インサート30がドリル本体50の外周面50Aに擦れたり、外周面50Aに押し付けられることを防止でき、結果として、切刃インサート30の保護を図ることもできる。
【0033】
また、キャップ部材16を設けることで、ドリル40による穴あけ加工の際に生じる切屑が挿入孔11に入り込むことを防止できる。また、キャップ部材16には凹曲面状の切屑案内面16Aが形成されているため、前記切屑をスムーズに排出することができる。
さらに、リング部10がキャップ部材16を介して切屑排出溝53に係止されるため、切刃インサート30により穴の周縁を加工する際に、切刃付リング1がドリル40に対して回転してしまうことも確実に防止できる。
【0034】
また、切刃インサート30がドリル本体50の外周面50Aに接触していても、切刃インサート30の先端部31は外周面50Aから離間しているため、切刃インサート30により穴の周縁を加工する際に、切刃インサート30の先端部31がドリル本体50の外周面50Aと穴の周縁とに挟まれて、先端部31に過度の応力が生じることを防止できる。すなわち、穴の周縁の加工に際しても切刃インサート30の保護を図ることができる。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、前記実施形態においては、切刃付リング1には、面取り加工する切刃インサート30が設けられるとしたが、少なくともドリル40によって形成された穴の周縁を加工する切刃インサートが設けられていればよい。したがって、切刃付リング1には、例えば、前記穴のザグリ加工やボーリング加工を行う切刃インサートが設けられるとしてもよい。
【0036】
また、切刃付リング1を取り付けるドリル40は、上記実施形態のようにインサート着脱式のものに限らず、例えば切刃35を一体に形成したものであってもよい。また、ドリル40は、回転方向T後方側に向けてねじれる切屑排出溝53が形成されたツイストドリルに限らず、例えば軸線Oに沿って直線的に延びる切屑排出溝が形成されたガンドリルであってもよい。
【0037】
さらに、円弧状腕部13は、リング部10に一体に形成されるとしたが、例えばリング部10とは別個の部材により形成されて凹部12の一端に固定することで、リング部10に一体に設けられるとしてもよい。
また、リング部10の内周面10Cに形成される凹部12は、リング部10の先端面10A及び後端面10Bの両方に開口するとしたが、例えば先端面10A若しくは後端面10Bの一方のみに開口するとしてもよいし、例えば先端面10A及び後端面10Bに開口していなくてもよい。
この場合、円弧状腕部13は、凹部12の周方向の一端側を除く、凹部12の開口縁との間に隙間が形成されるように設けられればよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態である切刃付リングをドリルに取り付けた状態を示す側面図である。
【図2】図1のX方向矢視図である。
【図3】図1のA−A矢視断面図である。
【図4】図1の切刃付リングに備える切刃インサートを示す側面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 切刃付リング
10 リング部
10A 先端面
10C 内周面
11 挿入孔
12 凹部
13 円弧状腕部
14 螺着孔
15 締め付けネジ
16 キャップ部材
20 突出部
21 内側突出部
22 外側突出部
23A スリット
28 位置調整ネジ
29 位置調整機構
30 切刃インサート
31 先端部
40 ドリル(穴あけ工具)
50A 外周面
53 切屑排出溝
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴あけ工具に対して着脱自在に固定されて、該穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する切刃インサートを有する切刃付リングであって、
前記穴あけ工具をその軸線方向に挿通させる平面視円形状の挿入孔が形成されたリング部を備え、
該リング部の内周面のうち周方向の一部には、当該内周面からその径方向外側に窪む凹部が形成され、
前記リング部には、前記内周面に対する前記凹部の開口縁のうち前記周方向の一端から他端側に向けて前記周方向に延出して前記径方向に弾性変形可能とされた円弧状腕部が一体に設けられ、
該円弧状腕部は、前記リング部の径方向に貫通して前記凹部の底面に開口する螺着孔に螺着された締め付けネジによって前記径方向の内側に押し付けられることを特徴とする切刃付リング。
【請求項2】
前記切刃インサートを前記リング部に対してその径方向に移動可能とする位置調整機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の切刃付リング。
【請求項3】
前記穴あけ工具の先端側に面する前記リング部の先端面から前記軸線方向に突出する突出部を備え、
前記突出部が、前記軸線に沿って延びるスリットによって、前記切刃インサートを固定する内側突出部と、該内側突出部よりも前記径方向の外側に配される外側突出部とに分割され、
前記位置調整機構が、前記突出部と、前記径方向に前記外側突出部を貫通するように前記外側突出部に螺着されて、前記内側突出部を前記外側突出部に対して前記径方向内側に押し付ける位置調整ネジによって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の切刃付リング。
【請求項4】
前記穴あけ工具の先端側に面する前記リング部の先端面側には、前記内周面から前記径方向内側に突出して、当該内周面と前記穴あけ工具の切屑排出溝との隙間を埋めるキャップ部材が固定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切刃付リング。
【請求項5】
前記切刃インサートは、前記穴あけ工具の外周面に接触した状態において、前記軸線に沿って前記穴あけ工具の先端側に位置する当該切刃インサートの先端部が前記外周面から離間するように形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の切刃付リング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−119591(P2009−119591A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299384(P2007−299384)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】