説明

切刃付リング

【課題】ドリルに対して着脱自在に固定され、ドリルで開けた穴の周縁を加工する切刃付リングにおいて、多種類のドリルに取り付けることができようにする。
【解決手段】切刃付リング1において、ドリルをその軸線O方向に挿通させる平面視円形状の挿入孔11を形成したリング部10の先端面側に挿入孔11の内周面から径方向内側に突出するキャップ部材16を配し、リング部10及びキャップ部材16の両方に軸線O方向に延びて形成された一対の挿通孔15,17にわたって締め付けネジ18を挿通させ、これが一方の挿通孔15に螺着することでリング部10及びキャップ部材16を相互に固定し、リング部10とキャップ部材16との間に前記内周面から突出してねじれ溝に入り込む締め付けシュー20を挟み込み、リング部10及びキャップ部材16が相互に近づくように締め付けネジ18を操作することで締め付けシュー20を挿入孔11の径方向内側に付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、穴あけ工具に対して着脱自在に固定され、穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する切刃付リングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドリル等の穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する工具には、例えば特許文献1のように、穴あけ工具に固定されるリング部に、前記穴の周縁を加工するための切刃チップを取り付けた切刃付リングがある。この切刃付リングでは、穴あけ工具を前記穴から抜きだす前に、前記穴の周縁を加工することができるため、穴の形成及びその周縁の加工を効率よく行うことができる。
そして、特許文献1に記載の切刃付リングでは、リング部の半径方向に貫通する締め付けネジにより、リング部をドリル(穴あけ工具)のねじれ溝の表面に対して締め付け固定している。さらに、この切刃付リングでは、ねじれ溝と締め付けネジとの間に締め付けシューを介在させている。また、締め付けシューは、ねじれ溝の長手方向に延びて形成されており、締め付けネジによってねじれ溝に押し付けられている。なお、この締め付けシューは、締め付けリングの内周面とねじれ溝との間の中空空間をほぼ塞ぐ役割も果たしており、当該中空空間に切屑が侵入することを防いでいる。
【特許文献1】特表2004−524979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ドリルはその種類によってねじれ溝のねじれ角が異なる。例えば、加工する穴の径に対して5倍よりも深い穴に用いるドリルには、そのねじれ溝のねじれ角がドリルの軸線方向に沿って漸次変化する可変ネジレ型のものがある。しかしながら、特許文献1に記載の切刃付リングでは、締め付けシューがねじれ溝の長手方向に延びるように形成されているため、締め付けシューをドリルの種類毎に製造する必要があり、汎用性が低いという問題がある。
【0004】
なお、締め付けネジを確実に締め付けシューに当接させるためには、締め付けシューを締め付けネジの径寸法よりも十分に大きく形成する必要があり、結果として、締め付けシューをねじれ溝に沿って長く形成せざるを得ない。
また、締め付けシューはドリルの軸線方向に延びるように形成されているため、当該軸線に沿う切刃付リングの長さが長くなり、結果として、ドリルに対する切刃付リングの取付位置が制限される、という問題もある。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、様々な種類のドリルに取り付けることができ、さらに、ドリル等の穴あけ工具に対する切刃付リングの取付位置の自由度も向上できる切刃付リングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決してこのような目的を達成するために、本発明に係る切刃付リングは、穴あけ工具に対して着脱自在に固定されて、該穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する切刃インサートを有する切刃付リングであって、前記穴あけ工具をその軸線方向に挿通させる平面視円形状の挿入孔が形成されたリング部と、前記穴あけ工具の先端側に面する前記リング部の先端面側に配されると共に、前記挿入孔の内周面からその径方向内側に突出して、当該内周面と前記穴あけ工具の切屑排出溝との隙間を埋めるキャップ部材と、前記リング部及び前記キャップ部材の両方に前記軸線方向に延びて形成された一対の挿通孔にわたって挿通されると共に、一方の挿通孔に螺着することで前記リング部及び前記キャップ部材を相互に固定する締め付けネジと、を備え、前記リング部と前記キャップ部材との間には、前記挿入孔の内周面から突出して前記切屑排出溝に入り込む締め付けシューが挟み込まれ、前記リング部と前記キャップ部材とが相互に近づくように前記締め付けネジを操作することで、前記締め付けシューが前記挿入孔の径方向内側に付勢されることを特徴とする。
【0007】
この構成の切刃付リングを穴あけ工具に固定する場合には、穴あけ工具をリング部の挿入孔に挿通させた状態で、締め付けシューを挿入孔の径方向内側に付勢すればよい。そして、この付勢力により挿入孔の内周面から径方向内側に突出する締め付けシューの先端部を穴あけ工具の切屑排出溝の内面に押し付けることができるため、穴あけ工具を締め付けるように切刃付リングを当該穴あけ工具に固定することが可能となる。
そして、この切刃付リングでは、従来のように締め付けネジを直接締め付けシューに当接させていないため、締め付けネジの径寸法に関係なく、前記軸線に沿う締め付けシューの厚みを薄く形成することが可能となる。
【0008】
このように締め付けシューを薄く形成することで、穴あけ工具がねじれ溝を有するドリルであっても、締め付けシューをねじれ溝のねじれ角に影響を受けない形状に形成できるため、ねじれ角が異なるドリルあるいは可変ネジレ型のドリルなどの様々な種類のドリルに対して、同一の締め付けシューを設けた切刃付リングを容易に取り付けることが可能となる。
また、締め付けシューを薄く形成することで、前記軸線に沿う切刃付リングの長さも短くすることができるため、ドリル等の穴あけ工具に対する切刃付リングの取付位置の自由度が向上する効果も奏する。
さらに、締め付けネジの径寸法が締め付けシューの厚みに影響しないため、例えば、締め付けネジの径寸法を大きくして、穴あけ工具の把持力を大きくすることができる。
【0009】
また、前記切刃付リングは、前記締め付けシューが前記リング部及び前記キャップ部材に対して前記挿入孔の周方向に移動することを規制する移動方向規制機構を備えていてもよい。
【0010】
ここで、前記移動方向規制機構は、例えば、相互に当接する前記締め付けシュー及び前記リング部の当接面の一方に形成されて前記径方向に延びる軌道溝と、当該当接面の他方から突出して前記軌道溝に挿入される突起とを備えて、当該突起が前記軌道溝に挿入された状態で当該軌道溝に対して前記径方向に移動可能となるように構成されていてもよい。
【0011】
これらの場合には、締め付けシューを切屑排出溝の内面に押し付けた状態において、締め付けシューが挿入孔の周方向にずれて穴あけ工具を締め付ける力が弱まることを防止できるため、穴あけ工具に対する切刃付リングの固定状態を確実に保持することができる。
【0012】
さらに、前記切刃付リングにおいては、互いに当接する前記締め付けシュー及び前記キャップ部材の当接面、あるいは、前記締め付けシュー及び前記リング部の当接面の少なくとも一方が、前記径方向に沿って前記リング部の内側から外側に向かうにしたがって、前記軸線に沿って前記キャップ部材及び前記リング部が相互に近づくように傾斜する傾斜面となっていることが好ましい。
【0013】
この構成では、締め付けシューが傾斜面によってキャップ部材あるいはリング部よりも径方向内側に配され、締め付けネジの操作によってリング部及びキャップ部材を前記軸線方向に近づけた際には、締め付けシューを確実に径方向内側に付勢することができる。
【0014】
また、前記切刃付リングを構成する前記キャップ部材には、前記切屑排出溝の内面に滑らかに連なって、当該内面を前記穴あけ工具の径方向外側に導く切屑案内面が形成されていてもよい。
【0015】
この構成では、穴あけ工具による穴あけ加工の際に生じる切屑が、切屑案内面によって切屑排出溝から穴あけ工具の径方向外側に導かれるため、当該切屑を効率よく排出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、締め付けシューの厚みを薄く形成できるため、同一の締め付けシューを設けた切刃付リングを容易に取り付けることができる、すなわち、汎用性の高い切刃付リングを提供することができる。
また、穴あけ工具の軸線方向に沿う切刃付リングの長さも短く形成できるため、穴あけ工具に対する切刃付リングの取付位置の自由度向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1から図5を参照し、本発明に係る切刃付リングの実施形態について説明する。図1,2に示すように、本実施形態における切刃付リング1は、ドリル(穴あけ工具)40に対して着脱自在に固定されるものであり、これら切刃付リング1及びドリル40によって、穴あけ加工と同時にドリル40によって形成された穴の開口部周縁の面取り加工を可能とする切削工具80が構成されている。
ここで、ドリル40は、軸線O周りに回転される概略多段円柱状をなすドリル本体50と、このドリル本体50の先端側(図1,2において下側)に着脱可能に装着されるインサート70とから構成されている。
【0018】
ドリル本体50の後端側(図1,2において上側)には、工作機械の主軸端等に取り付けるためのシャンク部51が形成されている。
ドリル本体50の先端側部分の外周には、ドリル本体50の先端面52に開口してドリル本体50後端側に向かうにしたがいドリル40の回転方向T後方側に向けてねじれる一対のねじれ溝(切屑排出溝)53,53が軸線Oを挟んで180°回転対称に形成されている。
このドリル本体50の先端部54には、先端側に向けて突出する一対の顎部55,55が軸線Oを挟むように相互に対向して形成されており、この一対の顎部55,55に挟まれた部分がインサート70のインサート取付座56とされている。なお、前述の先端面52はこの顎部55の先端に形成されている。
【0019】
インサート取付座56の底部57には、ドリル本体50後端側に向けて軸線Oに沿って延びるスリット60が、ねじれ溝53,53に開口するように、また、一対の顎部55,55の間に位置するように形成されている。また、スリット60のドリル本体50後端部分には、スリット60の幅よりも大きい幅を有する切欠部61が形成されている。
また、ドリル本体50の先端部54には、クランプネジ63を挿通させる挿通孔64が形成されている。この挿通孔64は、クランプネジ63がスリット60の幅方向に通るように軸線Oを通る径方向に延びて形成されており、一方の顎部55側に形成された挿通孔64にのみ、クランプネジ63を螺着させる雌ネジ部(不図示)が形成されている。
【0020】
インサート70の先端面71は、先端側(図1において下側)に向けて凸となる凸V字状に形成されている。
また、インサート70には、インサート取付座56に装着された状態において、ドリル40の回転方向T前方側を向いて各ねじれ溝53の先端側に滑らかに連なる概略凹曲面状をなすすくい面74が一対形成されている。ここで、各すくい面74は、前記先端面71と、ドリル本体50の後端側を向いて軸線Oと直交するインサート70の後端面72と、ドリル本体50の径方向外側を向くインサート70の外周面73とに交差している。
そして、各すくい面74とインサート70の先端面71との交差稜線部にそれぞれ切刃75が形成されている。
このインサート70は、ドリル本体50のインサート取付座56に挿入された状態において、前述したクランプネジ63を他方の顎部55側の挿通孔64から挿入して一方の顎部55側の挿通孔64に螺着させることで、一対の顎部55,55によって狭持され、これによってドリル本体50に固定される。
【0021】
一方、切刃付リング1は、ドリル40をその軸線O方向に挿通させる平面視略円形状の挿入孔11が形成された略円環状のリング部10と、前記軸線O方向に直交(交差)してドリル本体50の先端側に面するリング部10の先端面10Aから軸線O方向に一体に突出する一対の突出部12,12と、各突出部12にそれぞれ固定された切刃インサート13とを備えている。
リング部10には、図3〜5に示すように、その先端面10Aから軸線O方向に窪む2つの収容凹部14,14が形成されており、それぞれ挿入孔11の内周面11Aに開口している。これら2つの収容凹部14,14は挿入孔11を挟んで相対するように配されている。なお、図示例では、各収容凹部14の窪み方向が軸線Oに対して斜めに傾斜しており、この傾斜角度はドリル本体50のねじれ溝53のねじれ角度に対応している。
【0022】
また、各収容凹部14の底壁面14Aは軸線Oに直交するように形成されている。さらに、挿入孔11に対向する各収容凹部14の外側壁面14Bには、軸線Oに沿って底壁面14A側からリング部10の先端面10Aに向かうにしたがって挿入孔11の径方向外側に傾斜する傾斜面14Cが形成されている。
さらに、リング部10には、収容凹部14の底壁面14A及びドリル本体50の後端側に面するリング部10の後端面10B(図1参照)の両方に開口するように軸線O方向に貫通する挿通孔15が形成されており、挿通孔15には雌ネジ部が形成されている。
【0023】
リング部10の各収容凹部14には、挿入孔11の内周面11Aからその径方向内側に突出して、挿入孔11に挿通されたドリル40のねじれ溝53と内周面11Aとの隙間を埋めるキャップ部材16が収容されている。
このキャップ部材16には、これを収容凹部14内に配した状態において、軸線O方向に延びて貫通すると共にリング部10の挿通孔15に連通する挿通孔17が形成されている。そして、これら一対の挿通孔15,17にわたって締め付けネジ18が挿通されている。
【0024】
締め付けネジ18は、リング部10の先端面10A側から挿入されており、リング部10の挿通孔15の雌ねじ部に螺着している。さらに、締め付けネジ18の頭部がキャップ部材16の表面から突出しないように、キャップ部材16の表面に対する挿通孔17の開口部分には、前記頭部を収容する段差が形成されている。
したがって、この構成においては、締め付けネジ18をキャップ部材16の挿通孔17に挿通させた上でリング部10の挿通孔15に螺着させることで、リング部10及びキャップ部材16を相互に近づけて固定することができる。
なお、図示例において、相互に連通する一対の挿通孔15,17の貫通方向は、収容凹部14の窪み方向と略一致しているが、少なくとも軸線O方向に締め付けネジ18を挿通できれば窪み方向に一致していなくてもよい。
【0025】
また、各キャップ部材16は、収容凹部14の傾斜面14Cに面接触する傾斜面16Aを有しており、この傾斜面16Aは、軸線Oに対して傾斜面14Cと同じ傾斜角度で傾斜している。これにより、キャップ部材16は、これを軸線Oに沿って収容凹部14の底壁面14Aに近づけるほど、挿入孔11の径方向内側に移動することになる。
なお、前述したキャップ部材16の挿通孔17の大きさは、キャップ部材16がリング部10に対して上述のように移動できるように、締め付けネジ18の径寸法よりも大きく形成されている。
【0026】
また、各キャップ部材16には、ねじれ溝53の内面に滑らかに連なる切屑案内面16Bが形成されており、この切屑案内面16Bは、ねじれ溝53の内面をリング部10の径方向外側に導くように凹曲面状に形成されている。なお、図示例においては、切屑案内面16Bによってねじれ溝53の内面とリング部10の先端面10Aとが滑らかに接続されている。この構成においては、ドリル40による穴あけ加工の際に生じる切屑をねじれ溝53から前記径方向外側に効率よく排出することができる。
【0027】
以上のように構成されるキャップ部材16と収容凹部14の底壁面14Aとの間には、挿入孔11の内周面11Aから突出してドリル40のねじれ溝53に入り込む締め付けシュー20が挟み込まれている。この締め付けシュー20は、収容凹部14の底壁面(当接面)14Aに当接する当接面(第1当接面)20Aを有しており、この第1当接面20Aは、底壁面14Aと同様に軸線Oに直交するように形成されている。
また、互いに当接するキャップ部材16の当接面16C及び締め付けシュー20の当接面(第2当接面)20Cは、挿入孔11の径方向外側に向かうにしたがって、軸線Oに沿ってリング部10及びキャップ部材16が相互に近づくように傾斜する傾斜面となっている。
このように構成することで、締め付けシュー20がキャップ部材16よりも挿入孔11の径方向内側に配されることになり、締め付けシュー20は、キャップ部材16を軸線Oに沿って収容凹部14の底壁面14Aに近づけるほど、キャップ部材16によって挿入孔11の径方向内側に付勢されることになる。
【0028】
収容凹部14の底壁面14Aに当接する締め付けシュー20の第1当接面20Aには、挿入孔11の径方向に延びる細長い軌道溝21が形成されており、また、リング部10には、収容凹部14の底壁面14Aから突出して軌道溝21に挿入される突起ピン(突起)22が設けられている。突起ピン22は、軌道溝21に挿入された状態で軌道溝21に対して挿入孔11の径方向に移動可能となっており、挿入孔11の周方向には移動できないように軌道溝21によって規制されている。すなわち、これら軌道溝21及び突起ピン22によって、締め付けシュー20がリング部10に対して挿入孔11の周方向に移動することを規制する移動方向規制機構23が構成されている。
なお、この実施形態においては、キャップ部材16や締め付けシュー20を収容する収容凹部14も、キャップ部材16や締め付けシュー20がリング部10に対して挿入孔11の周方向に移動することを規制するように形成されている。すなわち、この実施形態においては、収容凹部14も締め付けシュー20の移動を規制する移動方向規制機構23を構成している。
【0029】
一対の突出部12は、図1〜3に示すように、軸線Oを挟むように相互に対向する位置に形成されている。また、各突出部12は、リング部10の先端面10Aにおける収容凹部14の開口部分に重ならないように挿入孔11の周方向にずらして配されている。
各突出部12の先端部の前記径方向内側には、切刃インサート13を取り付けるためのインサート取付座25が、ドリル40の回転方向T前方側を向く突出部12の前面12Aから窪んで形成されている。切刃インサート13は、このインサート取付座25に収納された状態で取付ネジ26によって着脱自在に固定されている。
【0030】
各切刃インサート13は、ドリル40によって形成された穴の開口部周縁を面取り加工するものであり、略菱形平板状に形成されている。
この切刃インサート13には、回転方向T前方側を向いて切刃インサート13のすくい面を含む菱形状の前面32と、インサート取付座25に取り付けられた状態においてドリル本体50の外周面50Aに面する対向面33と、ドリル本体50の先端側に向いて切刃インサート13の逃げ面をなす側面34とを有している。そして、前記前面32と前記側面34との交差稜線部に切刃35が形成されている。
なお、前記対向面33は、ドリル本体50の先端側に位置する切刃インサート13の先端部分がドリル本体50の外周面50Aから離間するように、また、前記先端部分を除く他の部分がドリル本体50の外周面50Aに接触するように形成されることが好ましい。
【0031】
以上のように構成された切刃付リング1をドリル40に固定する際には、ドリル本体50をリング部10の挿入孔11に挿通させ、締め付けネジ18がドリル40の後端側に進行するように締め付けネジ18を操作して、リング部10とキャップ部材16とを相互に近づければよい。この際には、前述したように、締め付けシュー20が挿入孔11の径方向内側に付勢され、この付勢力によって挿入孔11の内周面11Aから突出する締め付けシュー20の先端部をドリル本体50のねじれ溝53の内面に押し付けることができる。これにより、ドリル本体50を締め付けるように切刃付リング1をドリル40に固定することができる。
【0032】
なお、締め付けネジ18を操作してリング部10とキャップ部材16とを相互に近づけた際には、締め付けシュー20だけでなく、収容凹部14の傾斜面14C及びキャップ部材16の傾斜面16Aによってキャップ部材16も挿入孔11の径方向内側に移動する。ただし、キャップ部材16は締め付けシュー20を径方向内側に付勢するため、締め付けシュー20のみがねじれ溝53の内面に強く押し付けられ、キャップ部材16の先端部がねじれ溝53の内面に強く押し付けられることはない。
【0033】
以上説明したように、本実施形態による切刃付リング1によれば、従来のように締め付けネジ18を直接締め付けシュー20に当接させないため、締め付けネジ18の径寸法に関係なく、軸線Oに沿う締め付けシュー20の厚みを薄く形成することが可能となる。
そして、締め付けシュー20を薄く形成した場合には、締め付けシュー20をねじれ溝53のねじれ角の影響を受けない形状に形成できるため、ねじれ角が異なるドリルあるいは可変ネジレ型のドリルなどの様々な種類のドリルに、同一の締め付けシュー20を設けた切刃付リング1を容易に取り付けることが可能となる。すなわち、汎用性の高い切刃付リング1を提供することができる。
【0034】
また、締め付けシュー20を薄く形成することで、軸線Oに沿う切刃付リング1の長さも短くすることができるため、ドリル40に対する切刃付リング1の取付位置(特に軸線O方向の位置)の自由度が向上する効果も奏する。
さらに、締め付けネジ18の径寸法が締め付けシュー20の厚みに影響しないため、例えば、締め付けネジ18の径寸法を大きくして、ドリル40の把持力を大きくすることができる。
【0035】
また、リング部10に取り付けられた締め付けシュー20の移動方向を規制する移動方向規制機構23を設けることで、締め付けシュー20をねじれ溝53の内面に押し付けた状態において、締め付けシュー20が挿入孔11の周方向にずれてドリル本体50を締め付ける力が弱まることを防止できるため、ドリル40に対する切刃付リング1の固定状態を確実に保持することができる。
さらに、キャップ部材16を設けることで、ドリル40による穴あけ加工の際に生じる切屑が挿入孔11に入り込むことを防止できる。また、キャップ部材16には凹曲面状の切屑案内面16Bが形成されているため、前記切屑をスムーズに排出することができる。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、前記実施形態において、締め付けネジ18はリング部10の挿通孔15に螺着するとしたが、例えば、キャップ部材16の挿通孔17に螺着してもよい。この場合には、締め付けネジ18をリング部10の後端面10B側からリング部10の挿通孔15に挿入して、キャップ部材16の挿通孔17に螺着させれば、リング部10及びキャップ部材16を相互に固定することができる。
また、締め付けネジ18用の雌ねじ部を形成した挿通孔15,17は、必ずしも貫通していなくてもよく、リング部10及びキャップ部材16を相互に固定できる程度の深さ寸法を有していればよい。
【0037】
さらに、締め付けシュー20を挿入孔11の径方向内側に付勢する機構は、互いに当接するキャップ部材16の当接面16C及び締め付けシュー20の第2当接面20Cによって構成されるとしたが、例えば、互いに当接する収容凹部14の底壁面14A及び締め付けシュー20の第1当接面20Aによって構成されてもよい。この場合には、互いに当接する底壁面14A及び第1当接面20Aの全体あるいは一部に、挿入孔11の径方向外側に向かうにしたがって、軸線Oに沿ってリング部10及びキャップ部材16が相互に近づくように傾斜する傾斜面を形成すればよい。
なお、底壁面14A及び第1当接面20Aを上述のように傾斜させた場合には、互いに当接するキャップ部材16の当接面16C及び締め付けシュー20の第2当接面20Cは、上記実施形態と同様に傾斜していてもよいし、軸線Oに対して直交していてもよい。
【0038】
また、収容凹部14は、上記実施形態のように軸線Oに対して傾斜する方向に窪んでいてもよいが、少なくとも軸線O方向に延びるように窪んでいればよく、例えば収容凹部14の窪み方向が軸線O方向に完全に一致していてもよい。この場合には、締め付けネジ18を挿通するリング部10及びキャップ部材16の挿通孔15,17も完全に軸線O方向に延びるように形成すればよい。
さらに、キャップ部材16や締め付けシュー20は、収容凹部14に収容されるとしたが、これに限ることはなく、少なくともキャップ部材16がリング部10と共に締め付けシュー20を挟み込むようにリング部10の先端面10A側に配されればよい。
【0039】
また、切刃付リング1には、面取り加工する切刃インサート13が設けられるとしたが、少なくともドリル40によって形成された穴の周縁を加工する切刃インサートが設けられていればよい。したがって、切刃付リング1には、例えば、前記穴のザグリ加工やボーリング加工を行う切刃インサートが設けられるとしてもよい。
さらに、切刃付リング1を取り付けるドリル40は、上記実施形態のようにインサート着脱式のものに限らず、例えば切刃35を一体に形成したものであってもよい。さらに、ドリル40は、回転方向T後方側に向けてねじれるねじれ溝53が形成されたツイストドリルに限らず、例えば軸線Oに沿って直線的に延びる切屑排出溝が形成されたガンドリルであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態である切刃付リングをドリルに取り付けた状態を示す側面図である。
【図2】図1のX方向矢視図である。
【図3】図1のA−A矢視断面図である。
【図4】図1のB−B矢視断面図である。
【図5】図1の切刃付リングにおいてキャップ部材及び締め付けシューがリング部に固定された状態を示す拡大側断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 切刃付リング
10 リング部
10A 先端面
11 挿入孔
11A 内周面
13 切刃インサート
14A 底壁面(当接面)
15 挿通孔
16 キャップ部材
16B 切屑案内面
16C 当接面
17 挿通孔
18 締め付けネジ
20 締め付けシュー
21 軌道溝
22 突起ピン(突起)
20A 第1当接面
20C 第2当接面
23 移動方向規制機構
40 ドリル(穴あけ工具)
50A 外周面
53 ねじれ溝(切屑排出溝)
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴あけ工具に対して着脱自在に固定されて、該穴あけ工具で開けた穴の周縁を加工する切刃インサートを有する切刃付リングであって、
前記穴あけ工具をその軸線方向に挿通させる平面視円形状の挿入孔が形成されたリング部と、
前記穴あけ工具の先端側に面する前記リング部の先端面側に配されると共に、前記挿入孔の内周面からその径方向内側に突出して、当該内周面と前記穴あけ工具の切屑排出溝との隙間を埋めるキャップ部材と、
前記リング部及び前記キャップ部材の両方に前記軸線方向に延びて形成された一対の挿通孔にわたって挿通されると共に、一方の挿通孔に螺着することで前記リング部及び前記キャップ部材を相互に固定する締め付けネジと、を備え、
前記リング部と前記キャップ部材との間には、前記挿入孔の内周面から突出して前記切屑排出溝に入り込む締め付けシューが挟み込まれ、
前記リング部と前記キャップ部材とが相互に近づくように前記締め付けネジを操作することで、前記締め付けシューが前記挿入孔の径方向内側に付勢されることを特徴とする切刃付リング。
【請求項2】
前記締め付けシューが前記リング部及び前記キャップ部材に対して前記挿入孔の周方向に移動することを規制する移動方向規制機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の切刃付リング。
【請求項3】
前記移動方向規制機構が、互いに当接する前記締め付けシュー及び前記リング部の当接面の一方に形成されて前記径方向に延びる軌道溝と、当該当接面の他方から突出して前記軌道溝に挿入される突起とを備え、
当該突起は、前記軌道溝に挿入された状態で当該軌道溝に対して前記径方向に移動可能となっていることを特徴とする請求項2に記載の切刃付リング。
【請求項4】
互いに当接する前記締め付けシュー及び前記キャップ部材の当接面、あるいは、前記締め付けシュー及び前記リング部の当接面の少なくとも一方が、前記径方向に沿って前記リング部の内側から外側に向かうにしたがって、前記軸線に沿って前記キャップ部材及び前記リング部が相互に近づくように傾斜する傾斜面となっていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切刃付リング。
【請求項5】
前記キャップ部材には、前記切屑排出溝の内面に滑らかに連なって、当該内面を前記穴あけ工具の径方向外側に導く切屑案内面が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の切刃付リング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−166225(P2009−166225A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10409(P2008−10409)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】