説明

切削インサート

【課題】切屑の擦過による未使用切れ刃の損傷を防止して、高精度な切削加工を安定して行うことができ、工具寿命を延長できる切削インサートを提供すること。
【解決手段】多角形板状をなすインサート本体2と、多角形面状のすくい面3と、すくい面3に交差する逃げ面5と、すくい面3と逃げ面5との交差稜線をなす切れ刃6と、を備えた切削インサート1であって、すくい面3の外周をなす各辺には切れ刃6がそれぞれ形成され、切れ刃6は、辺の中央部に配置される主切れ刃8と、該辺の一端部に配置されるとともに、すくい面3に対向する向きから見て、主切れ刃8の延在する方向に対して交差するように延びるさらい刃9と、を有し、すくい面3の外周方向に隣り合う切れ刃6A、6B同士のうち、一の切れ刃6Aにおける主切れ刃8と、他の切れ刃6Bにおけるさらい刃9との間には、この主切れ刃8より厚さ方向に窪むように凹部12が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライス加工に用いられる切削インサートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料等からなる被削材にフライス加工を施す刃先交換式切削工具が知られている。刃先交換式切削工具は、円盤状の鋼材等からなり、その先端外周部に凹状のインサート取付座が複数形成された工具本体と、超硬合金等の硬質材料からなり、前記インサート取付座に着脱可能に装着される複数の切削インサートと、を備えている。
【0003】
また、切削インサートとしては、例えば下記特許文献1に示されるような、多角形板状をなすインサート本体と、前記インサート本体の厚さ方向を向く多角形面状のすくい面と、前記インサート本体の周壁に形成され、前記すくい面に交差する逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面との交差稜線をなす切れ刃と、を備えたものが知られている。
この切削インサートにおいて、すくい面の外周をなす各辺には、前記切れ刃がそれぞれ形成され、前記切れ刃は、辺の中央部に配置される主切れ刃と、該辺の一端部に配置されるとともに、前記すくい面に対向する向きから見て、前記主切れ刃の延在する方向に対して交差するように延びるさらい刃(副切れ刃)と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/137663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の切削インサートでは、下記の課題があった。
すなわち、従来の切削インサートでは、すくい面の外周方向に隣り合う切れ刃同士のうち、一の切れ刃が切削して生じた切屑は、該一の切れ刃の主切れ刃に沿うように隣り合う他の切れ刃へ向けて流れていき、すくい面の外周縁部などに接触しつつ他の切れ刃のさらい刃へ乗り上げて、該さらい刃を擦過し傷めてしまうことがあった。つまり、切削に供されていない切れ刃に対して切屑が擦過することで、未使用切れ刃が損傷するおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、切屑の擦過による未使用切れ刃の損傷を防止して、高精度な切削加工を安定して行うことができ、工具寿命を延長できる切削インサートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、多角形板状をなすインサート本体と、前記インサート本体の厚さ方向を向く多角形面状のすくい面と、前記インサート本体の周壁に形成され、前記すくい面に交差する逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面との交差稜線をなす切れ刃と、を備えた切削インサートであって、前記すくい面の外周をなす各辺には、前記切れ刃がそれぞれ形成され、前記切れ刃は、辺の中央部に配置される主切れ刃と、該辺の一端部に配置されるとともに、前記すくい面に対向する向きから見て、前記主切れ刃の延在する方向に対して交差するように延びるさらい刃と、を有し、前記すくい面の外周方向に隣り合う前記切れ刃同士のうち、一の切れ刃における前記主切れ刃と、他の切れ刃における前記さらい刃との間には、この主切れ刃より前記厚さ方向に窪むように凹部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の切削インサートによれば、すくい面の外周方向に隣り合う切れ刃同士のうち、一の切れ刃における主切れ刃と、他の切れ刃におけるさらい刃との間に、該一の切れ刃の主切れ刃よりインサート本体の厚さ方向に窪むように凹部が形成されているので、下記の優れた効果を奏する。すなわち、一の切れ刃が被削材の切削に供される際、該一の切れ刃が切削して生じた切屑は、その主切れ刃の延在方向に沿うように他の切れ刃へ向けて流れていくが、該一の切れ刃の主切れ刃と他の切れ刃のさらい刃との間に凹部が形成されていることによって、切屑は該凹部を通って排出されるようになっている。
【0009】
具体的に、従来の切削インサートでは、一の切れ刃が切削して生じた切屑は、該一の切れ刃の主切れ刃に沿うように隣り合う他の切れ刃へ向けて流れていき、すくい面の外周縁部などに接触しつつ他の切れ刃のさらい刃へ乗り上げるなどして、該さらい刃を擦過し傷めてしまうことがあった。一方、本発明の切削インサートによれば、一の切れ刃が切削して生じた切屑は、凹部を通って他の切れ刃に接触することなく排出される。これにより、切屑の擦過による未使用切れ刃の損傷が防止されて、高精度な切削加工を安定して行うことができ、工具寿命が延長する。
【0010】
また、本発明の切削インサートにおいて、前記凹部は、前記一の切れ刃の主切れ刃の延長線より前記インサート本体の厚さ方向の内側に後退するように形成されていることとしてもよい。
【0011】
この場合、凹部が主切れ刃より確実に窪まされることになり、前述の効果がより得やすくなる。
【0012】
また、本発明の切削インサートにおいて、前記凹部は、前記インサート本体の周壁の前記逃げ面より窪んで形成されていることとしてもよい。
【0013】
この場合、凹部を通って排出される切屑が、インサート本体の周壁に対して接触するようなことも防止されて、切屑排出性がより高められる。
【0014】
また、本発明の切削インサートにおいて、前記すくい面には、前記切れ刃に沿うようにブレーカ溝が形成されており、前記凹部は、前記ブレーカ溝に連なるように形成されて、前記インサート本体の周壁に開口していることとしてもよい。
【0015】
この場合、切れ刃に切削されて生じた切屑が、ブレーカ溝によりカールされつつ、該ブレーカ溝から凹部へ向けてスムースに流れて、該凹部におけるインサート本体の周壁に開口する部分から排出されやすくなり、切屑排出性がさらに高められる。
【0016】
また、本発明の切削インサートにおいて、前記すくい面は、前記インサート本体の厚さ方向を向く表裏面に一対形成されていることとしてもよい。
【0017】
この場合、すくい面がインサート本体の表裏面に一対形成されており、これらすくい面の各辺に対応するように切れ刃がそれぞれ配置されるので、例えば、このインサート本体が四角形板状である場合には、計8つの切れ刃を有することになる。従って、切削インサートの単位数量あたりの使用可能な切れ刃数が十分に確保され、工具寿命がさらに延長する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の切削インサートによれば、切屑の擦過による未使用切れ刃の損傷を防止して、高精度な切削加工を安定して行うことができ、工具寿命を延長できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式切削工具を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式切削工具を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式切削工具を示す下面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式切削工具を示す側面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式切削工具の部分側断面図である。
【図6】図4のA部を拡大して示す図である。
【図7】図1のB部を拡大して示す図である。
【図8】図2のC部を拡大して示す図である。
【図9】図7の切削インサートが切削して生じる切屑を示す図である。
【図10】図8の切削インサートが切削して生じる切屑を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る切削インサート1及びこれを用いた刃先交換式切削工具20について、図面を参照して説明する。
本実施形態の切削インサート1及び刃先交換式切削工具20は、金属材料等からなる被削材にフライス加工を施すものである。
【0021】
図1〜図5に示されるように、刃先交換式切削工具20は、円盤状の鋼材等からなり、その先端外周部に凹状のインサート取付座22が複数形成された工具本体21と、超硬合金等の硬質材料からなり、インサート取付座22に着脱可能に装着される複数の切削インサート1と、を備えている。
【0022】
工具本体21は、軸線Oを中心とした円盤状をなしている。工具本体21には、軸線Oに沿って延びる工具取付孔23が該工具本体21を貫通して形成されている。また、工具本体21において軸線O方向に沿う基端側(図2における左上方向)を向く端面24には、工具取付孔23の開口縁部から径方向外方に向かって延びる一対のキー溝25、25が形成されている。工具本体21は、これらキー溝25、25を工作機械(不図示)の主軸先端部に設けられたキーに嵌合させた状態で、工具取付孔23に挿通されるボルト部材によって該主軸先端部に取り付けられ、軸線O回りに工具回転方向Tに回転させられて、被削材の切削加工に供される。
【0023】
また、工具本体21における軸線O方向に沿う先端側(図1における右下方向)の端部には、該工具本体21の外面が切り欠かれて先端側及び径方向外方に向けて開口するチップポケット26が周方向に間隔を開けて複数形成されている。また、チップポケット26において工具回転方向Tの後方側の端部に配置されるとともに工具回転方向Tの前方側を向く壁面には、切削インサート1の形状に対応するように切り欠かれたインサート取付座22が形成されている。本実施形態では、インサート取付座22は、四角形板状をなす切削インサート1の形状に対応して、四角形穴状に形成されている。
【0024】
インサート取付座22において、工具回転方向Tの前方側を向く底面には、雌ねじ孔が穿設されており、切削インサート1の後述する取付孔7にクランプネジ27を挿入し前記雌ねじ孔にねじ込むことで、切削インサート1がインサート取付座22に装着される。また、クランプネジ27を取り外すことで、切削インサート1はインサート取付座22から取り外し可能である。このように、切削インサート1は工具本体21の先端外周部のインサート取付座22に着脱可能とされている。
【0025】
また、図5〜図8に示されるように、切削インサート1は、多角形板状をなすインサート本体2と、インサート本体2の厚さ方向を向く多角形面状のすくい面3と、インサート本体2の周壁4に形成され、すくい面3に交差する逃げ面5と、すくい面3と逃げ面5との交差稜線をなす切れ刃6と、を備えている。
【0026】
具体的に、本実施形態のインサート本体2は、四角形板状をなしており、すくい面3は、四角形面状に形成されている。インサート本体2には、該インサート本体2を厚さ方向に貫通してすくい面3に開口する取付孔7が形成されている。この切削インサート1は、取付孔7の中心軸を中心とした回転対称形となっている。具体的に、切削インサート1は、取付孔7の中心軸について4回対称(90°対称)に形成されている。
【0027】
また、本実施形態の切削インサート1は、インサート本体2の厚さ方向を向く表裏面にすくい面3が一対形成されている。この切削インサート1は、表裏回転対称に形成されており、逃げ面5がネガ逃げ面とされた所謂ネガティブインサートである。切削インサート1を工具本体21のインサート取付座22に装着した状態で、一対のすくい面3のうち、一方のすくい面3は工具回転方向Tの前方側を向いて配置され、他のすくい面3は工具回転方向Tの後方側を向いて配置されるとともに該インサート取付座22の底面に当接する着座面とされる。
【0028】
図5において、すくい面3の外周をなす各辺には、切れ刃6がそれぞれ形成されている。本実施形態では、すくい面3が四角形面に形成されていることに対応して、切れ刃6がすくい面3の外周方向に沿って4つ配置されている。尚、ここで言うすくい面3の外周方向とは、取付孔7の中心軸回りに周回する方向である。
【0029】
また、切れ刃6は、すくい面3の辺の中央部に配置される主切れ刃8と、該辺の一端部に配置されるとともに、この切削インサート1をすくい面3に対向する向きから見て(つまりすくい面3を正面に見て)、主切れ刃8の延在する方向に対して交差するように延びるさらい刃(副切れ刃)9と、主切れ刃8及びさらい刃9を滑らかに繋ぐコーナー刃10と、を有している。
【0030】
図6において、主切れ刃8は、すくい面3の辺の一端部から他端部へ向かうに従い(図6では下方から上方へ向かうに従い)漸次インサート本体2の厚さ方向の内側へ向かうように傾斜して形成されている。
【0031】
図5において、さらい刃9は、すくい面3の角部に位置しており、インサート本体2の厚さ方向に垂直な方向に延びるように形成されている。また、さらい刃9の刃長は、主切れ刃8の刃長より短くなっている。尚、さらい刃9の刃長は、主切れ刃8の刃長より長くてもよく、或いは同一であってもよい。
コーナー刃10は、すくい面3に対向する向きから見て、凸曲線状に形成されている。
【0032】
図7において、すくい面3には、切れ刃6に沿うようにブレーカ溝11が形成されている。すなわち、ブレーカ溝11は、すくい面3の外周縁部において切れ刃6に略平行に延びている。ブレーカ溝11は、その断面がすくい面3の外周縁部(つまり切れ刃6部分)からすくい面3の中央側に向かうに従い漸次インサート本体2の厚さ方向の内側に向かって直線状に延びた後、さらにすくい面3の中央側に向かうに従い漸次厚さ方向の外側に向かって方向を変えるように、凹曲線状に延びている。
【0033】
ブレーカ溝11の幅(すくい面3の外周縁部から中央側へ向かう方向の長さ)は、切れ刃6のさらい刃9に対応する部位で狭く、主切れ刃8に対応する部位で広くなっている。また、ブレーカ溝11の深さ(インサート本体2の厚さ方向に沿う深さ)は、さらい刃9に対応する部位で小さく、主切れ刃8に対応する部位で大きくなっている。
【0034】
図7において、逃げ面5は、主切れ刃8に連なる主逃げ面13と、さらい刃9に連なる副逃げ面14と、コーナー刃10に連なるコーナー逃げ面15と、を有している。主逃げ面13におけるインサート本体2の厚さ方向の両端部には、主切れ刃8がそれぞれ配置されている。副逃げ面14におけるインサート本体2の厚さ方向の両端部には、さらい刃9がそれぞれ配置されている。主逃げ面13及び副逃げ面14は、インサート本体2の周壁4において厚さ方向の全長に亘り形成されている。一方、コーナー逃げ面15は、インサート本体2の周壁4において厚さ方向の全長に亘って形成されてはおらず、厚さ方向に沿う片側略半分の領域に形成されている。
【0035】
そして、図6〜図8において、すくい面3の外周方向に隣り合う切れ刃6(6A、6B)同士のうち、一の切れ刃6Aにおける主切れ刃8と、他の切れ刃6Bにおけるさらい刃9との間には、切れ刃6Aの主切れ刃8よりインサート本体2の厚さ方向に窪むように凹部12が形成されている。具体的に、凹部12は、一の切れ刃6Aの主切れ刃8(該凹部12が隣接する主切れ刃8)の延長線8Lよりインサート本体2の厚さ方向の内側に後退するように形成されている。
【0036】
また、凹部12は、ブレーカ溝11に連なるように形成されて、インサート本体2の周壁4に開口している。具体的に、図7において、凹部12は、ブレーカ溝11に連続するように溝状に延びており、該ブレーカ溝11の延在する方向に垂直な断面が凹曲線状をなしている。また、凹部12は、すくい面3の中央から外側へ向かうに従い漸次インサート本体2の厚さ方向の内側へ向かって傾斜するように形成されている。
【0037】
凹部12は、すくい面3の外周縁部のうち、切れ刃6Aの主切れ刃8における他端側の端部(該主切れ刃8において切れ刃6Aのさらい刃9とは反対側に位置する端部)と、切れ刃6Bのさらい刃9における一端側の端部(該さらい刃9において切れ刃6A側に位置する端部)との間に位置する部位を切り欠くように形成されている。凹部12において、すくい面3の外周縁部に対応する稜線部分12Aは、インサート本体2の厚さ方向の内側に窪むように凹曲線状をなしており、切れ刃6Aの主切れ刃8の他端側の端部と切れ刃6Bのさらい刃9の一端側の端部とを繋いでいる。
【0038】
また、凹部12は、インサート本体2の周壁4の逃げ面5より窪んで形成されている。すなわち、インサート本体2の周壁4において、凹部12に対応する部位は、逃げ面5よりインサート本体2のすくい面3方向の内側(インサート本体2の厚さ方向に垂直な方向のうち、すくい面3の外周縁部から中央部に向かう方向)に窪まされるように形成されている。凹部12は、インサート本体2の周壁4において、隣り合う切れ刃6A、6Bのうち、一の切れ刃6Aの主切れ刃8に連なる主逃げ面13の他端側の端部と、他の切れ刃6Bのさらい刃9に連なる副逃げ面14の一端側の端部とを切り欠くように形成されている。
【0039】
以上説明した本実施形態の切削インサート1によれば、すくい面3の外周方向に隣り合う切れ刃6A、6B同士のうち、一の切れ刃6Aにおける主切れ刃8と、他の切れ刃6Bにおけるさらい刃9との間に、該一の切れ刃6Aの主切れ刃8よりインサート本体2の厚さ方向に窪むように凹部12が形成されているので、下記の優れた効果を奏する。すなわち、図9及び図10において、一の切れ刃6Aが被削材の切削に供される際、該一の切れ刃6Aが切削して生じた切屑Sは、カールされつつ切れ刃6Aの主切れ刃8の延在方向に沿うように他の切れ刃6Bへ向けて流れていくが、該一の切れ刃6Aの主切れ刃8と他の切れ刃6Bのさらい刃9との間に凹部12が形成されていることによって、切屑Sはすくい面3に殆んど接触することなく凹部12を通り該すくい面3の外側へ向けて排出されるようになっている。
【0040】
具体的に、従来の切削インサートでは、一の切れ刃6Aが切削して生じた切屑Sは、該一の切れ刃6Aの主切れ刃に沿うように隣り合う他の切れ刃6Bへ向けて流れていき、すくい面3の外周縁部などに接触しつつ他の切れ刃6Bのさらい刃へ乗り上げて、該さらい刃を擦過し傷めてしまうことがあった。一方、本実施形態の切削インサート1によれば、一の切れ刃6Aが切削して生じた切屑Sは、凹部12を通って他の切れ刃6Bに接触することなく排出される。これにより、切屑Sの擦過による未使用切れ刃6Bの損傷が防止されて、高精度な切削加工を安定して行うことができ、工具寿命が延長する。
【0041】
また、凹部12は、一の切れ刃6Aの主切れ刃8の延長線8Lよりインサート本体2の厚さ方向の内側に後退するように形成されているので、該凹部12はこの主切れ刃8より確実に窪まされることになって、前述の効果がより得やすくなる。
【0042】
また、凹部12は、インサート本体2の周壁4において逃げ面5より窪んで形成されているので、該凹部12を通って排出される切屑Sが、インサート本体2の周壁4に対して接触するようなことも防止されて、切屑排出性がより高められる。すなわち、凹部12が形成されていることによって、切屑Sはブレーカ溝11でカールされた後、すくい面3及び逃げ面5に接触しにくくされている。
【0043】
また、すくい面3には、切れ刃6に沿うようにブレーカ溝11が形成されており、凹部12は、ブレーカ溝11に連なるように形成されて、インサート本体2の周壁4に開口しているので、切れ刃6に切削されて生じた切屑Sが、ブレーカ溝11によりカールされつつ、該ブレーカ溝11から凹部12へ向けてスムースに流れて、該凹部12におけるインサート本体2の周壁4に開口する部分から排出されやすくなり、切屑排出性がさらに高められる。つまり、ブレーカ溝11と凹部12の隣り合う向きが、切屑Sの排出方向と略一致するようになっている。
【0044】
また、すくい面3が、インサート本体2の厚さ方向の表裏面に一対形成されており、これらすくい面3の各辺に対応するように切れ刃6がそれぞれ配置されるので、例えば、本実施形態のようにインサート本体2が四角形板状である場合には、切削インサート1は計8つの切れ刃6を有することになる。従って、切削インサート1の単位数量あたりの使用可能な切れ刃6の数が十分に確保され、工具寿命がさらに延長する。
【0045】
また、切れ刃6が、主切れ刃8及びさらい刃9を滑らかに繋ぐコーナー刃10を有しているので、切れ刃6の欠損が防止される。すなわち、主切れ刃8とさらい刃9とは互いに交差するように延びており、これら主切れ刃8及びさらい刃9をそのまま単純に連結した場合、これらの連結部位は角張って形成されることになる。このような角張った部位は切削抵抗を受けて欠損しやすいことから、本実施形態のように、主切れ刃8とさらい刃9との連結部位に滑らかなコーナー刃10を形成することによって、切れ刃6の欠損が確実に防止される。
【0046】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0047】
例えば、前述の実施形態では、切削インサート1のインサート本体2は四角形板状をなしており、これに対応してすくい面3は四角形面状に形成され、該すくい面3には切れ刃6が4つ形成されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、切削インサート1のインサート本体2は、多角形板状をなしていればよく、前述した四角形板状以外の、例えば三角形板状、五角形板状、六角形板状、七角形板状、八角形板状等であってもよい。また、すくい面3の形状はこれに対応して、前述した四角形面状以外の、例えば三角形面状、五角形面状、六角形面状、七角形面状、八角形面状等であってもよい。また、すくい面3に形成される切れ刃6の数も、前述した4つ以外の、例えば3つ、5つ、6つ、7つ、8つ等であってもよい。
【0048】
また、前述の実施形態では、すくい面3がインサート本体2の厚さ方向を向く表裏面に一対形成されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、すくい面3は、インサート本体2の厚さ方向を向く表裏面のうち、いずれか一面にのみ形成されていてもよい。この場合、インサート本体2においてすくい面3とは反対側を向く他面が着座面となる。ただし、本実施形態のように、インサート本体2の表裏面にすくい面3が一対形成されていることにより、切削インサート1の工具寿命の大幅な延長が期待できることから、好ましい。
【符号の説明】
【0049】
1 切削インサート
2 インサート本体
3 すくい面
4 インサート本体の周壁
5 逃げ面
6 切れ刃
6A 一の切れ刃
6B 他の切れ刃
8 主切れ刃
8L 一の切れ刃の主切れ刃の延長線
9 さらい刃
10 コーナー刃
11 ブレーカ溝
12 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形板状をなすインサート本体と、
前記インサート本体の厚さ方向を向く多角形面状のすくい面と、
前記インサート本体の周壁に形成され、前記すくい面に交差する逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面との交差稜線をなす切れ刃と、を備えた切削インサートであって、
前記すくい面の外周をなす各辺には、前記切れ刃がそれぞれ形成され、
前記切れ刃は、
辺の中央部に配置される主切れ刃と、
該辺の一端部に配置されるとともに、前記すくい面に対向する向きから見て、前記主切れ刃の延在する方向に対して交差するように延びるさらい刃と、を有し、
前記すくい面の外周方向に隣り合う前記切れ刃同士のうち、一の切れ刃における前記主切れ刃と、他の切れ刃における前記さらい刃との間には、この主切れ刃より前記厚さ方向に窪むように凹部が形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
請求項1に記載の切削インサートであって、
前記凹部は、前記一の切れ刃の主切れ刃の延長線より前記インサート本体の厚さ方向の内側に後退するように形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の切削インサートであって、
前記凹部は、前記インサート本体の周壁の前記逃げ面より窪んで形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の切削インサートであって、
前記すくい面には、前記切れ刃に沿うようにブレーカ溝が形成されており、
前記凹部は、前記ブレーカ溝に連なるように形成されて、前記インサート本体の周壁に開口していることを特徴とする切削インサート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の切削インサートであって、
前記すくい面は、前記インサート本体の厚さ方向を向く表裏面に一対形成されていることを特徴とする切削インサート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−78827(P2013−78827A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220251(P2011−220251)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】