説明

切削工具及びインサート

【課題】 切刃にて生成される切屑が被削材に接触しないようにする。
【解決手段】 軸線O回りに回転する被削材Wの外周面を切刃24で切削する溝入れ工具10に、切刃24にて生成される切屑W1を工具本体11の下面15側へ排出するための切屑排出手段を設ける。切屑排出手段を、インサート20に形成されたインサート側孔部31と工具本体11に形成された工具本体側孔部32とからなる孔部30とする。工具本体10の下面15側へ排出される切屑W1を長さ方向で分断するための切屑分断手段を設ける。切屑分断手段を、螺旋状の案内板33とする。切刃24のすくい面23Aを、溝幅方向に沿った断面で凹型をなすように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具、例えば軸線回りに回転する被削材の外周面を切削するための旋削工具(とくに被削材の外周面に溝入れ加工を施すための溝入れ工具)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、工具本体の先端部の上面側に、切刃を有するインサートが取り付けられ、このインサートの切刃によって、例えば軸線回りに回転する被削材の外周面を切削する旋削工具(切削工具)が知られている。
また、このような旋削工具の一例として、例えば特許文献1に開示されているように、軸線回りに回転する被削材の外周面を切削することにより、この被削材の外周面に溝入れ加工を施す溝入れ工具が知られている。
【特許文献1】特開平8−187603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記溝入れ工具を含めた旋削工具などの切削工具では、切刃にて生成される切屑を、この切刃に連なるすくい面でカールさせて、工具本体の上面側の領域で排出するようになっている。そのため、切刃にて生成される切屑がどうしても被削材に接触しやすくなっており、切屑が被削材の加工面を傷つけたり、切屑が被削材に絡みついてしまうという問題があった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、切刃にて生成される切屑が被削材に接触しないようにすることができる切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、工具本体の先端部の上面側に切刃が設けられた切削工具であって、前記切刃にて生成される切屑を前記工具本体の下面側へ排出するための切屑排出手段を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、切刃にて生成される切屑が、上記切屑排出手段によって工具本体の下面側へ排出されることから、この切屑を被削材に接触させないようにすることができる。したがって、切刃にて生成される切屑が被削材の加工面を傷つけないようにすることができ、かつ、切刃にて生成される切屑が被削材に絡みつかないようにすることができる。
このとき、前記切屑排出手段は、前記工具本体に形成された孔部とされ、前記切刃にて生成される切屑が、前記孔部内を通過することによって前記工具本体の下面側へ排出されるようにしてもよい。
【0006】
また、本発明の切削工具が、前記工具本体の下面側へ排出される切屑を長さ方向で分断するための切屑分断手段を備えていれば、切屑排出性が向上して切屑詰まりが生じにくくなり、安定した旋削加工を継続していくことができる。
このとき、前記切屑分断手段は、螺旋状の案内板とされ、前記工具本体の下面側へ排出される切屑が、前記案内板上を通過することによって長さ方向で分断されるようにしてもよい。
【0007】
また、本発明の切削工具が、軸線回りに回転する被削材の外周面を前記切刃で切削する旋削工具とされ、とくに前記被削材の外周面に溝入れ加工を施す溝入れ工具とされていれば、被削材の軸線方向に沿った工具本体の相対送り移動がないため、上記切屑排出手段による切屑の排出を確実に行うことができる。
このとき、前記切刃のすくい面が溝幅方向に沿った断面で凹型をなすように形成されていれば、切刃にて生成される切屑が、その幅方向に沿った断面で凹型をなすように湾曲させられる。そのため、切刃にて生成される切屑の幅が溝幅よりも狭くなり、被削材の外周面に形成される溝の側面を傷つけてしまうようなことがない。
【0008】
また、本発明の切削工具において、前記工具本体の先端部の上面側に、切刃を有するインサートが取り付けられ、前記切屑排出手段は、前記インサートに形成されたインサート側孔部と前記工具本体に形成された工具本体側孔部とからなる前記孔部とされているようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付した図面を参照しながら説明する。
本実施形態による切削工具の一例としての溝入れ工具(旋削工具)10は、図1に示すように、長尺の略四角柱状をなす工具本体11を有しており、この工具本体11の先端部12の上面側(図1における上方側)には、後述するインサート20を取り付けるための取付座13が形成されている。
【0010】
取付座13に取り付けられるインサート20は、図1及び図2に示すように、その先端側部分21の幅が後端側部分22の幅よりも狭くなるように形成されたものであり、インサート20の上面23の先端側稜線部、つまり、先端側部分21に位置する上面23の先端側稜線部には、このインサート20の幅方向(後述する被削材Wの外周面に形成される溝の幅方向、被削材Wの軸線O方向)に沿って延びる切刃24が形成されている。
【0011】
これにより、インサート20の上面23における先端側領域、つまり、先端側部分21に位置する上面23が、切刃24の後端側に連なるすくい面23Aとなっている。
すくい面23Aは、図1に示すように、インサート20の後端側(図1における右方側)へ向かうにしたがいインサート20の下面25側(図1における下方側)へ向かうように傾斜させられて、正のすくい角を有しているとともに、図2(b)から理解できるように、インサート20の幅方向(溝幅方向)に沿った断面で凹曲線型をなすように形成されている。これにともない、すくい面23Aの先端側稜線部に形成された切刃24も、インサート20の幅方向(溝幅方向)で凹曲線型をなすように形成されている。
【0012】
インサート20は、切刃24が工具本体11の先端部12から先端側へ突出した状態で、下面25が取付座13の底面13Aに着座させられるようにして、取付座13に取り付けられている。
そして、インサート20の上面23における後端側領域が、工具本体11に設けられたクランプ手段14によって押圧されることにより、このインサート20が取付座13に対して固定されている。
【0013】
ここで、本実施形態では、インサート20の上面23におけるすくい面23Aのすぐ後端側に連なる領域からインサート20の下面25までの部分を貫通するインサート側孔部31が、インサート20の内部に形成されている。
インサート側孔部31は、その幅が切刃24の延びる方向(インサート20の幅方向)において切刃24の長さよりも広くなるような長穴状をなし、インサート20の上面23側(図1における上方側)から下面25側(図1における下方側)へ向かうにしたがいインサート20の先端側(図1における左方側、図2における下方側)から後端側(図1における右方側、図2における上方側)へ向かうように傾斜している。
【0014】
これに対応して、取付座13の底面13Aから工具本体11の下面15までの部分を貫通する工具本体側孔部32が、工具本体11の内部に形成されている。
工具本体側孔部32は、インサート側孔部31と同様の長穴状をなし、工具本体11の上面側(図1における上方側)から下面15側(図1における下方側)へ向かうにしたがい工具本体11の先端側(図1における左方側)から後端側(図1における右方側)へ向かうように傾斜している。
【0015】
そして、インサート側孔部31と工具本体側孔部32とが互いに連通させられていることにより、これらインサート側孔部31と工具本体側孔部32とからなる孔部30が、本実施形態による切屑排出手段として溝入れ工具10に設けられている。
さらに、孔部30における工具本体11の下面15への開口部(工具本体側孔部32における工具本体11の下面15への開口部)に対して、長さ方向に直交する断面で凹曲線型をなすように形成された螺旋状の案内板33が接続されていることにより、この案内板33が、本実施形態による切屑分断手段として溝入れ工具10に設けられている。
【0016】
このようにして切刃24を有するインサート20が工具本体11の先端部12の上面側に取り付けられた溝入れ工具10は、その切刃24で軸線O回りに回転する被削材Wの外周面を切削することにより、切刃24の長さに対応した幅を有する溝を被削材Wの外周面に形成していくことになる。
【0017】
このとき、切刃24にて生成される切屑W1は、まず、インサート20の上面23において断面凹曲線型のすくい面23A上を通過することにより、その幅方向に沿った断面で凹曲線型をなすように湾曲させられる。
すくい面23Aを通過した後の切屑W1は、インサート20の上面23においてすくい面23Aの後端側に連なる領域に開口するインサート側孔部31内に侵入する。
【0018】
次に、インサート側孔部31内に侵入した切屑W1は、このインサート側孔部31内を通過してから、工具本体11の下面15に開口する工具本体側孔部32内を通過することにより、工具本体11の下面15側へ排出される。
最後に、工具本体11の下面15側へ排出される切屑W1は、工具本体側孔部32における工具本体11の下面15への開口部に接続された案内板33上を通過することにより、その長さ方向でカールさせられて所定の長さ(例えば50mm程度)ごとに細かく分断されていく。
【0019】
以上説明したような本実施形態による溝入れ工具10では、切刃24にて生成される切屑W1が、切屑排出手段としての孔部30(インサート側孔部31及び工具本体側孔部32)内を通過することによって、工具本体11の下面15側へ排出されるようになっている。
そのため、切刃24にて生成される切屑W1が被削材Wに対して接触しないようにすることができ、切屑W1が被削材Wの加工面を傷つけることをなくし、かつ、切屑W1が被削材Wに絡みつくのをなくすことが可能となる。また、切屑W1が工具本体11の下面15側へ排出されるようになっていると、この切屑W1を切屑受けで確実に補足することができるため、切屑W1の飛散が抑制されて清掃作業にかかる手間が減り、作業コストの低減を図ることも可能になる。
【0020】
また、本実施形態による溝入れ工具10では、工具本体11の下面15側へ排出される切屑W1が、切屑分断手段としての案内板33上を通過することによって、その長さ方向で細かく分断されるようになっている。
そのため、切屑排出性が向上して切屑詰まりが生じにくくなり、安定した旋削加工を継続していくことが可能となる。
【0021】
さらに、本実施形態では、本発明による切削工具を溝入れ工具10に適用し、被削材Wの軸線O方向に沿った工具本体11の相対送り移動がないため、切刃24にて生成される切屑W1を、切屑排出手段としての孔部30に対して確実に侵入させることができる。
加えて、切刃24のすくい面23Aが、被削材Wの外周面に形成される溝の幅方向に沿った断面で凹曲線型をなすように形成されていることから、切刃24にて生成される切屑W1を、その幅方向に沿った断面で凹曲線型をなすように湾曲させることができる。これにより、切刃24にて生成される切屑W1の幅が、被削材Wの外周面に形成される溝の幅よりも狭くなり、この溝の側面が切屑W1によって傷つけられるようなことがない。
【0022】
なお、本実施形態においては、工具本体11の先端部12の上面側に、切刃24を有するインサート20が取り付けられるものについて説明しているが、工具本体11の先端部12の上面側に直接切刃が設けられていてもよい。
また、本実施形態においては、切削工具の一例として旋削工具である溝入れ工具10に本発明を適用しているが、例えばネジ切り工具や突切り工具、直線及び倣い切削工具などの旋削工具に本発明を適用してもよいし、旋削工具だけに限らず、転削工具や穴加工工具などの切削工具に本発明を適用してもよい。さらに、切屑排出手段や切屑分断手段についても、孔部30や案内板33だけに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態による切削工具の一例としての溝入れ工具を示す側面断面図である。
【図2】(a)は、本発明の実施形態による切削工具の一例としての溝入れ工具に用いられるインサートを示す上面図、(b)は、(a)のA方向矢視図である。
【符号の説明】
【0024】
10 溝入れ工具(切削工具)
11 工具本体
20 インサート
23A すくい面
24 切刃
30 孔部(切屑排出手段)
31 インサート側孔部
32 工具本体側孔部
33 案内板(切屑分断手段)
W 被削材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の先端部の上面側に切刃が設けられた切削工具であって、
前記切刃にて生成される切屑を前記工具本体の下面側へ排出するための切屑排出手段を備えていることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の切削工具であって、
前記切屑排出手段は、前記工具本体に形成された孔部とされ、
前記切刃にて生成される切屑が、前記孔部内を通過することによって前記工具本体の下面側へ排出されることを特徴とする切削工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の切削工具であって、
前記工具本体の下面側へ排出される切屑を長さ方向で分断するための切屑分断手段を備えていることを特徴とする切削工具。
【請求項4】
請求項3に記載の切削工具であって、
前記切屑分断手段は、螺旋状の案内板とされ、
前記工具本体の下面側へ排出される切屑が、前記案内板上を通過することによって長さ方向で分断されることを特徴とする切削工具。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の切削工具であって、
軸線回りに回転する被削材の外周面を前記切刃で切削する旋削工具とされていることを特徴とする切削工具。
【請求項6】
請求項5に記載の切削工具であって、
前記被削材の外周面に溝入れ加工を施す溝入れ工具とされていることを特徴とする切削工具。
【請求項7】
請求項6に記載の切削工具であって、
前記切刃のすくい面が溝幅方向に沿った断面で凹型をなすように形成されていることを特徴とする切削工具。
【請求項8】
請求項2に記載の切削工具であって、
前記工具本体の先端部の上面側に、切刃を有するインサートが取り付けられ、
前記切屑排出手段は、前記インサートに形成されたインサート側孔部と前記工具本体に形成された工具本体側孔部とからなる前記孔部とされていることを特徴とする切削工具。
【請求項9】
請求項8に記載の切削工具に用いられるインサートであって、
前記インサート側孔部が形成されていることを特徴とするインサート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−75962(P2006−75962A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265198(P2004−265198)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】