説明

切削工具

【課題】切屑を回収するための構造が周辺物と干渉するのを確実に防止することができ、切削加工時に発生した切屑を確実に回収することができる切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具10の外周部には、各チップポケット14から工具回転方向後方側へ巻回された螺旋形状を呈する複数の溝18が形成されており、各溝18における工具根元側の端部を除いた部分がチップカバー20により覆われている。各チップポケット14内の切屑に対して各気体吐出通路24−2から工具根元側へ向けてエアが吹き付けられることで切屑が各溝18に搬送され、各溝18内の切屑に対して各気体吐出通路24−1から工具根元側へ向けてエアが吹き付けられることで切屑が工具根元側へ搬送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関し、特に、被切削物の切削加工時に発生した切屑を回収するための構造を有する切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の切削工具の従来例が特許文献1に開示されている。特許文献1においては、工具本体の外周面を覆うように、切屑排出口を備えた切屑収納体が工具本体と同軸かつ相対回転自在に取り付けられている。工具本体には、その先端面において切刃付近に開口する吐出穴が形成されている。また、工作機械の主軸及びこの主軸に装着されて工具本体に回転を伝達するアーバにも、吐出穴に連通する流通孔及び連通孔がそれぞれ形成されている。そして、流通孔及び連通孔を介して工作機械側から供給された霧状の切削油剤または冷風を吐出穴へと導き、これを切刃の付近に吐出させるようにしている。これによって、霧状の切削油剤または冷風を周囲に飛散させることなく、切刃及び被切削部分に安定して供給するようにしている。
【0003】
その他にも、特許文献2,3の切削工具が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−5970号公報
【特許文献2】特開2002−321114号公報
【特許文献3】特開2000−5969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、被切削物の切削加工時に発生した切屑を回収するために、切屑排出口を備えた切屑収納体を工具本体における切刃が設けられた先端側に取り付ける必要がある。そのため、例えば奥まった場所の切削加工を行う場合は、切屑収納体が周辺物と干渉してしまい、切屑収納体を工具本体に取り付けた状態で被切削物の切削加工を行うことが困難となる。その場合は、被切削物の切削加工時に発生した切屑を回収することが困難となる。
【0006】
本発明は、切屑を回収するための構造が周辺物と干渉するのを確実に防止することができ、被切削物の切削加工時に発生した切屑を確実に回収することができる切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る切削工具は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係る切削工具は、先端部外周に配設された切刃により被切削物の切削が可能な切削工具であって、切刃近傍から工具根元側へ伸びる通路であって、被切削物の切削時に発生した切屑を排出するための切屑排出通路と、工具内部に形成され、気体が導入される気体導入通路と、前記切屑排出通路内の切屑を工具根元側へ搬送するよう前記気体導入通路に導入された気体を前記切屑排出通路に吹き付けるための気体吐出通路と、を有することを要旨とする。
【0009】
本発明に係る切削工具において、前記気体吐出通路は、前記気体導入通路に導入された気体を工具根元側へ向けて吹き付けるための通路であるものとすることもできる。
【0010】
本発明に係る切削工具において、前記切屑排出通路は、工具外周部に形成された溝を含むものとすることもできる。この本発明に係る切削工具において、前記溝の少なくとも一部がカバーにより覆われているものとすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被切削物の切削加工時に発生した切屑を工具根元側へ搬送することができるので、切屑を回収するための構造が周辺物と干渉するのを確実に防止することができ、被切削物の切削加工時に発生した切屑を確実に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0013】
図1,2は、本発明の実施形態に係る切削工具の構成の概略を示す図である。図1の上側は正面図の概略を示し、図1の下側は下面図の概略を示す。そして、図2の右側は側面図の概略を示し、図2の左側は下面図の概略を示す。なお、図1,2は、本発明をフライス加工用の切削工具10に適用した場合を示している。
【0014】
略円筒形状の部分を含む切削工具10は、その根元部10aがテーパ形状となっており、図示しない工作機械の主軸と結合される。そして、切削工具10は、工作機械の主軸の回転とともに、その中心軸30まわりに回転する。
【0015】
切削工具10における略円筒形状の先端部10bの外周には、複数のチップ(切刃)12が周方向に間隔をおいて配列されている。そして、各チップ12の工具回転方向前方側の近傍には、チップポケット14が形成されている。さらに、各チップ12の工具回転方向前方側の近傍には、ガイドプレート16が取り付けられている。各ガイドプレート16は、その近傍に位置するチップ12のすくい面に対して若干の隙間をおいて対向配置されており、チップ12が被切削物を切削することで発生した切屑をガイドプレート16上のチップポケット14に誘導する。なお、チップポケット14及びガイドプレート16のより詳細な構成については、特許文献1を参照されたい。
【0016】
そして、本実施形態に係る切削工具10の外周部には、複数の溝18が形成されている。各溝18は、各チップポケット14とそれぞれ連通しており、かつ切削工具10の中心軸に対して工具回転方向後方側に傾斜した状態で各チップポケット14から工具根元側へ伸びていることで、各チップポケット14から工具回転方向後方側へ巻回された螺旋形状を呈している。ただし、図1,2では説明の便宜上、1つの溝18についてのみ図示しており、他の溝18の図示を省略している。さらに、切削工具10の外周部には、チップカバー20が取り付けられており、各溝18における工具根元側の端部を除いた部分が、このチップカバー20により覆われている。
【0017】
また、本実施形態に係る切削工具10の内部には、その中心軸30に沿って気体導入通路22が形成されている。この気体導入通路22は、切削工具10の根元部10aにて外部に開口しており、図1,2の矢印に示すように、工作機械からこの開口部を通って気体導入通路22に所定圧力のエアが導入される。
【0018】
さらに、以下に説明するように、本実施形態に係る切削工具10の内部には、複数の気体吐出通路24−1,24−2が形成されている。ただし、図1,2では説明の便宜上、1つの気体吐出通路24−1,24−2についてのみ図示しており、他の気体吐出通路24−1,24−2の図示を省略している。
【0019】
各気体吐出通路24−1は、その一端が気体導入通路22に開口しており、その他端が各溝18の途中部に開口している。図1,2の矢印に示すように、気体導入通路22に導入されたエアは、各気体吐出通路24−1を通って各溝18に吹き付けられる。そして、各気体吐出通路24−1は、一端(気体導入通路22)から他端(各溝18の途中部)へ、中心軸30と垂直方向に対して工具根元側に傾斜した状態で略径方向に伸びている。そのため、各気体吐出通路24−1から各溝18へ吐出されるエアの方向は、図1,2の矢印に示すように、中心軸30と垂直方向に対して工具根元側に傾斜しており、中心軸30と平行な工具根元方向の速度成分を有する。このように、各気体吐出通路24−1は、気体導入通路22に導入されたエアを各溝18に工具根元側へ向けて吹き付けるために設けられている。なお、エアの方向については、中心軸30と平行な工具根元方向の速度成分を有する場合を、「工具根元側」としている。
【0020】
一方、各気体吐出通路24−2は、その一端が気体導入通路22に開口しており、その他端が各チップポケット14に開口している。図1,2の矢印に示すように、気体導入通路22に導入されたエアは、各気体吐出通路24−2を通って各チップポケット14に吹き付けられる。そして、各気体吐出通路24−2は、一端(気体導入通路22)から中心軸30と垂直方向に対して工具先端側に傾斜した状態で略径方向に伸びており、そこから他端(各チップポケット14)へ中心軸30と垂直方向に対して工具根元側に傾斜した状態で略工具回転方向後方側に伸びている。そのため、各気体吐出通路24−2から各チップポケット14へ吐出されるエアの方向も、図1,2の矢印に示すように、中心軸30と垂直方向に対して工具根元側に傾斜しており、中心軸30と平行な工具根元方向の速度成分を有する。このように、各気体吐出通路24−2は、気体導入通路22に導入されたエアを各チップポケット14に工具根元側へ向けて吹き付けるために設けられている。
【0021】
本実施形態に係る切削工具10により被切削物36の切削(フライス)加工を行う場合は、図3に示すように、溝18の形成位置より工具根元側に羽板28を取り付けた状態で、切削工具10を根元部10aにて工作機械の主軸32と結合させる。そして、図示しない吸引機に接続された吸引カバー34を切削工具10の周囲に設置する。この吸引カバー34は、中心軸30と平行方向に関して、溝18が形成され且つ被切削物36等の周辺物と干渉しない位置に配設される。その際に、溝18における吸引カバー34の配置箇所がチップカバー20により覆われないように、チップカバー20により溝18を覆う部分の範囲(チップカバー20の中心軸30方向の長さ)が設定される。
【0022】
切削工具10の先端部10bに配設されたチップ12が工作機械の主軸32の回転とともに中心軸30まわりに回転することで、被切削物36の切削(フライス)加工が行われる。被切削物36の切削加工時に発生した切屑38は、各ガイドプレート16により各チップポケット14に取り込まれる。
【0023】
また、被切削物36の切削加工時には、工作機械から気体導入通路22に所定圧力のエアを供給することで、図3の矢印に示すように、気体導入通路22にエアが導入される。これによって、各チップポケット14には、各気体吐出通路24−2から工具根元側へ向けてエアが所定圧力で吹き付けられるので、各チップポケット14内の切屑38が各溝18(工具根元側)へ搬送される。さらに、各溝18の途中部には、各気体吐出通路24−1から工具根元側へ向けてエアが所定圧力で吹き付けられるので、各溝18に搬送された切屑38が吸引カバー34(工具根元側)へさらに搬送される。このエアの圧力による切屑38の搬送時には、各溝18を覆うチップカバー20により、切屑38が吸引カバー34外へ逃げるのが防止される。そして、吸引カバー34に搬送された切屑38が吸引機により吸引されることで、被切削物36の切削加工時に発生した切屑38が回収される。このように、チップポケット14及び溝18が、被切削物36の切削加工時に発生した切屑38を吸引カバー34へ排出するための切屑排出通路として機能する。
【0024】
以上説明したように、本実施形態においては、切屑38に対して各気体吐出通路24−1,24−2から工具根元側へ向けてエアを吹き付けることで、各チップポケット14内の切屑38を工具根元側の吸引カバー34へ搬送することができる。そのため、例えば奥まった場所の切削加工を行う場合等、吸引カバー34を被切削物36等の周辺物と干渉しないように切削工具10の先端部10bから離れた位置に配置せざるを得ない場合であっても、各チップポケット14内の切屑38を確実に回収することができる。したがって、本実施形態によれば、被切削物36の切削加工時に吸引カバー34が被切削物36等の周辺物と干渉するのを確実に防止することができ、かつ切削加工時に発生した切屑38を確実に回収することができる。
【0025】
そして、本実施形態においては、各チップポケット14内の切屑38に対して各気体吐出通路24−2から工具根元側へ向けてエアを吹き付けることで、各チップポケット14内の切屑38を確実に排出することができる。さらに、各溝18内の切屑38に対して各気体吐出通路24−1から工具根元側へ向けてエアを吹き付けることで、切屑38が各溝18内に滞るのを確実に防止することができるので、切屑38を吸引カバー34へより確実に搬送することができる。
【0026】
また、本実施形態においては、各溝18が各チップポケット14から工具回転方向後方側へ巻回された螺旋形状を呈していることで、切削工具10の回転に伴って切屑38を効率よく吸引カバー34に搬送することができる。また、各溝18がチップカバー20により覆われていることで、エアの圧力による切屑38の搬送時に、切屑38が吸引カバー34外へ逃げるのを確実に防止することができるので、切屑38を吸引カバー34へより確実に搬送することができる。
【0027】
以上の本実施形態の説明においては、切削工具10の外周部に形成された各溝18の少なくとも一部がチップカバー20により覆われている場合について説明した。ただし、本実施形態においては、例えば奥まった場所の切削加工を行う場合等、各溝18の近くに被切削物36等の周辺物が存在する場合には、図4に示すように、各溝18をチップカバー20により覆わなくてもよい。この場合は、各溝18をチップカバー20により覆わなくても、切屑38を吸引カバー34へ確実に搬送することができる。
【0028】
また、以上の本実施形態の説明においては、本発明をフライス加工用の切削工具10に適用した場合について説明した。ただし、本発明は、フライス加工用以外の切削工具についても適用可能である。図5は、その一例として、本発明をボーリング加工用の切削工具10に適用した場合を示している。ここで、図5の上側は正面図の概略を示し、図5の下側は下面図の概略を示す。ただし、図5でも説明の便宜上、1つの溝18及び気体吐出通路24−1,24−2についてのみ図示しており、他の溝18及び気体吐出通路24−1,24−2の図示を省略している。
【0029】
図5に示すボーリング加工用の切削工具10においては、各気体吐出通路24−1は、その一端が気体導入通路22に開口しており、その他端が各チップポケット14に開口している。工作機械から気体導入通路22に導入されたエアは、各気体吐出通路24−1を通って各チップポケット14に吹き付けられる。そして、各気体吐出通路24−1は、一端(気体導入通路22)から他端(各チップポケット14)へ、中心軸30と垂直方向に対して工具根元側に傾斜した状態で略径方向に伸びている。そのため、各気体吐出通路24−1から各チップポケット14へ吐出されるエアの方向は、図5の矢印に示すように、中心軸30と垂直方向に対して工具根元側に傾斜しており、工具根元方向の速度成分を有する。
【0030】
そして、各気体吐出通路24−2も、その一端が気体導入通路22に開口しており、その他端が各チップポケット14に開口している。工作機械から気体導入通路22に導入されたエアは、各気体吐出通路24−2を通って各チップポケット14に吹き付けられる。そして、各気体吐出通路24−2は、一端(気体導入通路22)から他端(各チップポケット14)へ、中心軸30と垂直方向に対して工具先端側に傾斜した状態で伸びている。各気体吐出通路24−2から各チップポケット14へ吐出されたエアは、図5の矢印に示すように、ガイドプレート16にて反射して工具先端側から工具根元側へ向きを変えることで、工具根元方向の速度成分を有する。
【0031】
図5に示すボーリング加工用の切削工具10においても、切屑38に対して各気体吐出通路24−1,24−2から工具根元側へ向けてエアを吹き付けることで、各チップポケット14内の切屑38を工具根元側の吸引カバー34へ搬送することができる。したがって、被切削物36の切削(ボーリング)加工時に吸引カバー34が被切削物36等の周辺物と干渉するのを確実に防止することができ、かつ切削加工時に発生した切屑38を確実に回収することができる。
【0032】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る切削工具の構成の概略を示す正面図及び下面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る切削工具の構成の概略を示す側面図及び下面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る切削工具を用いた切削加工の一例を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に係る切削工具を用いた切削加工の一例を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係る切削工具の他の構成の概略を示す正面図及び下面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 切削工具、12 チップ、14 チップポケット、16 ガイドプレート、18 溝、20 チップカバー、22 気体導入通路、24−1,24−2 気体吐出通路、32 主軸、34 吸引カバー、36 被切削物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部外周に配設された切刃により被切削物の切削が可能な切削工具であって、
切刃近傍から工具根元側へ伸びる通路であって、被切削物の切削時に発生した切屑を排出するための切屑排出通路と、
工具内部に形成され、気体が導入される気体導入通路と、
前記切屑排出通路内の切屑を工具根元側へ搬送するよう前記気体導入通路に導入された気体を前記切屑排出通路に吹き付けるための気体吐出通路と、
を有することを特徴とする切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の切削工具であって、
前記気体吐出通路は、前記気体導入通路に導入された気体を工具根元側へ向けて吹き付けるための通路であることを特徴とする切削工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の切削工具であって、
前記切屑排出通路は、工具外周部に形成された溝を含むことを特徴とする切削工具。
【請求項4】
請求項3に記載の切削工具であって、
前記溝の少なくとも一部がカバーにより覆われていることを特徴とする切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−130616(P2006−130616A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322852(P2004−322852)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】