説明

切削工具

【課題】特に工具への溶着が発生し易い被削材の端面加工において、振動による溶着低減効果を得つつ、仕上げ面や寸法精度への悪影響を抑制可能な切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具は、切刃部分2とバイト本体部1とを備える。バイト本体部1は、第1と第2バイト構成部9,10を有する。第1バイト構成部9は上面側柄部9bを含み、第2バイト構成部10は底面側柄部10bを含む。上面側柄部9bと底面側柄部10bとの間に板状部材5を配し、板状部材5の上下面をこれらと接触させる。板状部材5は、バイト本体部1を貫通して該バイト本体部1の両側面に達し、バイト本体部1のヤング率以下かつバイト本体部1の減衰率以下の材料で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋削加工などに用いることが可能な切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
旋削加工などに用いる切削工具は、図1(a),(b)に示すように、実際に被削材と干渉する切刃部分(チップ)2と、これを支持するバイト本体部1とを備える。旋削加工においては、切削工具の直線的な送り運動と、被削材の回転運動との相対運動によって被削材の一部が除去され、所望の形状に加工される。
【0003】
バイト本体部1は、切刃部分2を直接支持する頭部1aと、工作機械の台座3に固定される柄部1bとを備える。この柄部1bと頭部1aとは、通常一体である。
【0004】
一般に切刃部分2は超硬合金、バイト本体部1は鋼などの高剛性材料で構成される。このようにバイトは一般にできるだけ高剛性となるように構成されており、それにより加工中の振動を抑えるようにしている。
【0005】
しかし、たとえばステンレス材の加工のように工具への溶着が問題となる場合には、寧ろ振動させた方が溶着し難くなり、かえって工具寿命などに好影響を与えるケースもある。このような現象を利用した例として振動切削があり、たとえば特開平5−23901号公報に記載の振動切削方法では、切削速度方向に対して切れ刃を傾斜させ、切刃に沿って刃部を加振する加振器を設けて、振動切削を行なうことを提案している。そして、効果の1つとして、切れ刃に溶着物が付着しないことを挙げている。
【特許文献1】特開平5−23901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特開平5−23901号公報に記載の切削工具には、加振器4のような大掛かりな装置が必要となり、簡便に実施できるものではなく、実施するには様々な問題が生じる。
【0007】
他方、単純に、低剛性や低振動減衰性の材料をバイト材料として用いて振動を発生させただけでは、仕上げ面や寸法精度などに悪影響を及ぼすため望ましくない。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、特に工具への溶着が発生し易い被削材の端面加工において、振動による溶着低減効果を得つつ、仕上げ面や寸法精度への悪影響を抑制可能な切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る切削工具は、1つの局面では、切刃部分と、切刃部分が装着される頭部と、該頭部から連続して延び工作機械の台座に固定される柄部とを有するバイト本体部とを備える。バイト本体部は、第1と第2バイト構成部を含む複数のバイト構成部を有し、第1バイト構成部は、柄部の一部であってバイト本体部の上面側に位置する上面側柄部を含み、第2バイト構成部は、上面側柄部よりもバイト本体部の底面側に位置する底面側柄部を含み、上面側柄部と底面側柄部との間に、バイト本体部の底面に沿って延び、バイト本体部を貫通して該バイト本体部の両側面に達し、かつバイト本体部のヤング率以下かつバイト本体部の減衰率以下の材料で構成した板状部材を配し、板状部材の上下面を上面側柄部と底面側柄部とに接触させる。
【0010】
本発明に係る切削工具は、他の局面では、バイト本体部は、切削時の送り分力方向と背分力方向とで規定される平面に沿って延在する1組の対向面を、バイト本体部の柄部を構成する部分に有する第1と第2バイト構成部を含む複数のバイト構成部を有し、該1組の対向面と接触し、切削時の送り分力方向と背分力方向とで規定される平面に沿って延び、バイト本体部を貫通して該バイト本体部の両側面に達するようにバイト本体部のヤング率以下かつバイト本体部の減衰率以下の材料で構成した板状部材を配する。
【0011】
なお、「バイト構成部」とは、バイト本体部の一部を構成する部分のことであり、たとえばバイト本体部を上下方向に2分割した場合には、頭部から連続して柄部にまで延びる1組のパーツがそれぞれバイト構成部となり、該バイト構成部を組合せてバイト本体部を構成することができる。しかし、必ずしもバイト本体部の長手方向の全体にわたって延びるバイト構成部にバイト本体部を分割する必要はなく、たとえばバイト本体部の柄部における上面側部分の少なくとも一部と、これ以外のバイト本体部とを別パーツで構成することも可能である。
【0012】
上記切削工具を工作機械に設置する際に該工作機械の台座に接する部分のうち切刃部分側の端部における切削工具の長手方向に垂直な断面に達するように板状部材を配することが好ましい。
【0013】
上記板状部材は、柄部の長手方向の端面に達するように設けてもよく、頭部の長手方向の端面に達するように設けてもよい。また、板状部材の厚みは、柄部の厚みの5%と1mmのうちの大きい値以上であり、柄部の厚みの20%と3mmのうちの大きい値以下であることが好ましい。ここで、「板状部材の厚み」とは、バイト本体部の頭部における切刃部分の装着面からバイト本体部の底面に向かう方向(たとえば図2における上下方向:台座3の固定面8に垂直な方向)の厚みをいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バイトに振動が発生しやすくなるため、これを利用して溶着の発生しやすい被削材を加工した場合でも溶着の発生を抑えることが可能となる。また、バイト底面に沿う形でバイト本体部以下のヤング率の低弾性材料を配した場合にバイト横方向(背分力方向)の剛性が低下し難いという実験結果が得られていることから、バイトに発生する振動としてはバイト厚み方向の振動が主体となる。そのため、端面加工においては寸法精度が問題となるバイト横方向の振動が発生し難くなり、結果的に良好な加工物が得られる。また、振動の方向がすくい面に垂直な方向に近づくため、振動発生時に問題となる切刃稜線への衝撃的な負荷をも抑制することが可能である。したがって、本発明によれば、振動による溶着低減効果を得つつ、仕上げ面や寸法精度への悪影響をも抑制可能な切削工具が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図2〜図8を用いて、本発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1における切削工具(バイト)と工作機械の一部とを示す側面図である。
【0016】
図2に示すように、本実施の形態1の切削工具は、切刃部分(チップ)2と、該切刃部分2が装着される頭部と、該頭部から連続して延び工作機械の台座3の固定面8に固定される柄部とを有するバイト本体部1とを備える。
【0017】
切刃部分2は、たとえば超硬合金などで構成され、クランプ機構あるいはろう付けなどの方法でバイト本体部1の頭部に固定される。バイト本体部1は、たとえばCr−Mo鋼などで構成される。このバイト本体部1は、複数のパーツ(バイト構成部)を組み合わせて作製される。
【0018】
図2に示すように、本実施の形態1では、バイト本体部1は、該バイト本体部1を上下に2分割した形状の第1と第2バイト構成部9,10を接合して形成される。
【0019】
なお、図2の例では、第1と第2バイト構成部9,10を組み合わせてバイト本体部1を構成しているが、3つ以上のバイト構成部を組み合わせてバイト本体部1を構成してもよく、任意形状のバイト構成部を組み合わせてバイト本体部1を構成してもよい。
【0020】
第1バイト構成部9は切刃部分2の装着面を含むバイト本体部1の上面側部分であり、第2バイト構成部10は切刃部分2の装着面と反対側に位置するバイト底面を含むバイト本体部1の底面側部分であり、いずれもバイト本体部1の頭部から連続して柄部にまで延びている。より詳しくは、第1バイト構成部9は、切刃部分2の装着面を含む上面側頭部9aと、該上面側頭部9aから連続して延びる上面側柄部9bとを有し、第2バイト構成部10は、上面側頭部9aよりもバイト本体部1の底面側に位置する底面側頭部10aと、該底面側頭部10aから連続して延び上面側柄部9bよりもバイト本体部1の底面側に位置する底面側柄部10bとを有する。
【0021】
上記の第1バイト構成部9は、バイト本体部1の柄部の上面側に位置する上面側柄部9bの少なくとも一部を含むものであれば、必ずしもバイト本体部1の長手方向の全長にわたって延びるパーツで構成される必要はない。また、第2バイト構成部10も、上面側柄部9bよりもバイト本体部1の底面側に位置する底面側柄部10bの少なくとも一部を含むものであれば、必ずしもバイト本体部1の長手方向の全長にわたって延びるパーツで構成される必要はない。たとえば、バイト本体部1の上面側柄部9bの一部を構成するバイト構成部と、該バイト構成部で構成される部分以外のバイト本体部1を構成する他のバイト構成部とを組合せてバイト本体部1を形成することも可能である。また、第1と第2バイト構成部9,10の少なくとも一方を複数のバイト構成部で構成するようにしてもよい。たとえば、第1バイト構成部9を複数のパーツで構成する場合、切刃部分2の着座部付近を第1バイト構成部9本体とは別パーツで構成することが考えられる。
【0022】
バイト本体部1が上記のような第1と第2バイト構成部9,10を接合して構成される場合、第1バイト構成部9の上面側柄部9bと、第2バイト構成部10の底面側柄部10bとの間に板状部材5を設置する。
【0023】
第1バイト構成部9の上面側柄部9bと、第2バイト構成部10の底面側柄部10bは、1組の対向面を有しており、該対向面は、バイト本体部1の底面に沿う方向に延在するか、あるいは切削時の送り分力方向と背分力方向とで規定される平面に沿って延在する。
【0024】
板状部材5は、上記の対向面間に配置され、板状部材5の上下面は、上面側柄部9bと底面側柄部10bとの双方の対向面と接触している。図2の例では、バイト本体部1の柄部の一部を構成する上面側柄部9bに座ぐり(凹部)4を設け、同部に板状部材5を嵌着している。なお、本例では第1バイト構成部9に座ぐり4を設けているが、第2バイト構成部10に設けても、両者に設けてもよい。
【0025】
板状部材5の材料としては、バイト本体部1のヤング率以下のヤング率を有する低弾性率の材料で、かつバイト本体部1の減衰率以下の減衰率を有する低減衰率の材料を選択する。たとえばバイト本体部1を鋼材で構成した場合、板状部材5としては、たとえばアルミニウム合金を選択すればよい。それは、鋼材のヤング率が約200GPaであるのに対し、アルミニウム合金材のヤング率は約70GPaであり、鋼材の対数減衰率が約0.01であるのに対し、アルミニウム合金材の対数減衰率は約0.002であるので、アルミニウム合金材が鋼材に比べ、低剛性かつ低減衰であるからである。
【0026】
板状部材5は、バイト本体部1の底面に沿う形で延在し、図3(a)に示すようにバイト本体部1の柄部の両側面に達している。別の見方をすれば、板状部材5は切削時の送り分力方向と背分力方向とで規定される平面に沿って延びるように配設されている。このようにバイト本体部1の底面と平行な方向に低剛性かつ低減衰の板状部材5を配設することにより、特にバイトがその厚み方向に振動し易くなる一方で、横方向(背分力方向)の剛性は維持されるため、結果的にバイト厚み方向のみの振動を拡大することができる。
【0027】
第1および第2バイト構成部9,10と、板状部材5との間は、互いに接合するようにしてもよいが、特に接合せず旋盤等の工作機械への把持力を利用して互いに固定してもよい。また、両バイト構成部のみを接合して板状部材5と両バイト構成部との間を接合しないようにすることも考えられるが、この場合、各バイト構成部と板状部材5間の摩擦減衰によって特にバイト横方向に減衰性が高まるので、バイト横方向の振動のみをさらに効果的に抑制することが可能である。
【0028】
なお、第1および第2バイト構成部9,10間の接合の方法としては、ろう付け、溶接、接着剤、拡散などによる接合、複数のボルトのような締結部材や挟持部材などによる機械的な結合などが挙げられる。
【0029】
次に、図2に示す板状部材5の厚みt2と、バイト本体部1の柄部の厚みt1との関係についても検討したのでその結果について説明する。
【0030】
板状部材5の厚みt2をあまりに大きくするとバイト本体部1の剛性低下が著しくなる場合があると考えられるので、板状部材5の厚みt2をバイト本体部1の柄部の厚みt1の20%以下程度とする。それにより、バイト本体部1のバイト厚み方向の剛性低下を適正な範囲に保つことができる。また、バイト横方向(背分力方向)に関しても、剛性低下を抑制できる。
【0031】
他方、板状部材5の厚みt2があまりに小さいと、剛性低下の程度が足りず、十分な溶着抑制効果が得られない。よって、板状部材5の厚みt2を、バイト本体部1の柄部の厚みt1の5%以上程度とすることが好ましい。
【0032】
ところが、たとえばバイト本体部1の柄部の厚みt1が10mm前後の小型バイトの場合、加工対象が低負荷のものに限定されるため、上記の厚みt2を厚みt1の20%より大きくしても、剛性低下しすぎることはない。具体的には板状部材5の厚みt2を3mm程度とした場合でも、バイト本体部1の剛性低下の影響は小さくなる。
【0033】
また、上述のような小型バイトの場合、上記の厚みt2を厚みt1の5%程度とすると、板状部材5があまりに薄くなりすぎ、板状部材5に反りが発生しやすくなり、板状部材5の加工が困難となる。したがって、板状部材5の厚みt2は、1mm以上程度であることが好ましい。
【0034】
以上に鑑み、板状部材5の厚みt2を、バイト本体部1の柄部の厚みt1の5%と1mmのうちの大きい値以上、柄部の厚みt1の20%と3mmのうちの大きい値以下とすることが好ましい。
【0035】
図3(b)の例はバイト本体部1の柄部の断面形状の変形例であり、これに示すように、接着剤や樹脂などを介して座ぐり6内にシール部品7を設置してもよい。この変形例の場合も、板状部材5は、バイト本体部1を貫通してバイト本体部1の両側面に達している。上記シール部品7は、バイト本体部1とは別部品であり、樹脂などの軟質材を介して柄部に固定することができる。
【0036】
図4(a),(b)も1つの変形例であり、このように板状部材を複数重ねて配設するようにしてもよい。この図4(a),(b)の例では、第1と第2板状部材5a,5bを積層することで板状部材5を構成しているが、3枚以上の板状部材を積層してもよい。
【0037】
なお、2枚以上の板状部材を配設する場合、1枚の板状部材の厚みが、バイト本体部1の柄部の厚みt1の5%と1mmのうちの大きい値以上であり、板状部材の厚みの総和が、バイト本体部1の柄部の厚みt1の20%と3mmのうちの大きい値以下とすることが好ましい。また、板状部材5を構成する複数の板状部材を同じ材料で構成してもよいが、異なる材料で構成してもよい。さらに、板状部材5を構成する複数の板状部材の厚みを等しくしてもよいが、異ならせてもよい。さらに、上記のような変形例の思想は、後述の実施の形態2〜4についても適用可能である。
【0038】
(実施の形態2)
次に、図5(a),(b)を用いて本発明の実施の形態2について説明する。図5(a)は、本実施の形態2における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、図5(b)は、図5(a)におけるVb−Vb線に沿う断面図である。
【0039】
図5(a)に示すように、本実施の形態2では、バイト本体部1の柄部において工作機械の台座3上に位置する部分から、該台座3から突出する突出部に達するように板状部材5を配している。それ以外の構成は、実施の形態1と基本的に同様である。
【0040】
この場合のように工作機械の台座3から突出するように板状部材5を設けた場合には、板状部材5は片持ち梁のような状態となるため、板状部材5の低剛性、低減衰性を利用し易くなり、振動による溶着抑制効果が大きくなる。
【0041】
なお、板状部材5およびバイト本体部1における柄部の台座3からの突出長さは、工作機械や作業者の設定により一定とはならないが、バイトと被削材あるいは工作機械との干渉の関係で、バイト本体柄部全体を把持することはあまりなく、たとえば最も一般的な外径旋削加工では、バイト本体柄部の切刃側をバイト柄部の長手方向全長の1〜2割程度突き出す形で使用されることが多い。このため、たとえば図5(a)のようにバイト本体部1の頭部近傍から柄部の中央部あるいはその近傍に至るように板状部材5を設置することで、ほとんどのケースで板状部材5を台座3から突出させることができるものと考えられる。
【0042】
(実施の形態3)
次に、図6(a)〜(c)を用いて、本発明の実施の形態3について説明する。図6(a)は、本実施の形態3における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、図6(b)は、図6(a)におけるVIb−VIb線に沿う断面図であり、図6(c)は、図6(a)に示す切削工具の頭部およびその近傍の底面図である。
【0043】
本実施の形態3では、板状部材5をバイト本体部1の柄部の長手方向の端面に達するように配している。図6(a)に示す例では、バイト本体部1の柄部の長手方向のほぼ全長にわたって段差部4aを設け、該段差部4a内の全体にわたって板状部材5を配し、柄部の長手方向の終端面(切刃部分2が取付けられる側と反対側の端面)において板状部材5が露出している。
【0044】
図6(a),(c)に示すように、本例では、ボルト(締結部材)11を3本用いて第1および第2バイト構成部9,10を機械的に接合しているが、他の接合手法を用いることも可能である。また、バイト柄部とは異なり、バイト頭部には工作機械からバイトを把持する際の拘束力が加わらないため、何らかの手法で接合することが望ましい。
【0045】
本実施の形態3では、バイトの長手方向の終端部でバイト本体部1の柄部がその厚み方向(上下方向)に板状部材5によって分断され、かつ板状部材5がバイト本体部1の柄部のほぼ全体にわたって延在しているので、バイトを工作機械の台座3に固定する際の締付力を効率的に板状部材5に作用させることができる。これにより、バイト厚み方向の剛性低下に対する、バイト横方向(背分力方向)の剛性低下の割合をさらに小さくすることができ、端面加工時の加工物精度を維持することが可能である。上記以外の構成は、実施の形態1と基本的に同様である。
【0046】
図7(a),(b)に、本実施の形態3の変形例を示す。図7(a),(b)に示すように、本変形例では、バイト本体部1の頭部9a1と、柄部の上面側部分9bとで第1バイト構成部9を構成し、バイト本体部1の柄部の底面側部分で第2バイト構成部10を構成している。そして、バイト本体部1の柄部において、板状部材5を貫通するボルト(締結部材)11を用いて、第1と第2バイト構成部9,10を締結している。この場合は、第2バイト構成部10の形状を単純化できるため、コスト的に有利となる。また、バイト本体部1の柄部では、工作機械からの把持力も存在するため、これを利用してボルト11等の締結部材を省略することも可能である。さらに、上述の実施の形態1,2においても、同様に、バイト本体部1の頭部全体を第1バイト構成部9に含めることも可能である。
【0047】
(実施の形態4)
次に、図8(a),(b)を用いて、本発明の実施の形態4について説明する。図8(a)は、本実施の形態4における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、図8(b)は、図8(a)におけるVIIIb−VIIIb線に沿う断面図である。
【0048】
本実施の形態4では、第1および第2バイト構成部9,10と、板状部材5とが、共にバイト長手方向の全長にわたって延在している。この場合、上記3者をろう付け等の手法で接合してもよいが、図8(a)に示すように、板状部材5を貫通するようにボルト(締結部材)11を取付け、該ボルト11によって第1と第2バイト構成部9,10を締結してもよい。いずれにしても、実施の形態3の場合と同様に、バイト頭部においては工作機械から把持力が加わらないので、バイト頭部において何らかの手法による接合を行なうことが望ましい。これ以外の構成は、実施の形態1と基本的に同様である。
【0049】
本実施の形態では、工作機械の台座3からの板状部材5の突出し長さが最大となるので、板状部材5の低剛性、低減衰性を最も効果的に利用することができる。
【実施例1】
【0050】
次に、本発明の実施例について説明する。本願発明者は、下記の表1に示す従来品と発明品1〜5および比較例を作製し、それぞれの性能評価を行なった。
【0051】
【表1】

【0052】
従来品の切削工具は、図1に示す構造を有し、発明品1の切削工具は、図2に示す構造を有し、発明品2の切削工具は、図5に示す構造を有し、発明品3の切削工具は、図6に示す構造を有し、発明品4の切削工具は、図6に示す構造を有し、発明品5の切削工具は、図8に示す構造を有する。
【0053】
従来品と発明品1〜5および比較例において、バイト本体部1の材質は焼入れしたCr−Mo鋼である。バイト本体部1の長さは150mm、バイト本体部1の柄部の長さは120mm、柄部の幅と厚みはともに25mmである。切刃部分(チップ)2は、バイト本体部1の頭部にクランプされ、コーティングを施した超硬合金製である。また、柄部のうち、切刃先端からバイト長手方向に40mm〜150mm(終端)の間が、工作機械の台座3に固定される。
【0054】
発明品1の切削工具では、図2に示すようにバイト本体部1は、第1および第2バイト構成部9,10からなり、第2バイト構成部10と対向する第1バイト構成部9の対向面において、切刃先端から50mm〜80mmの位置に溝状の座ぐり4を施す。そしてアルミニウム合金で構成される板状部材5を座ぐり4内に配設している。第1および第2バイト構成部9,10と板状部材5は全てろう付けにより接合されている。また、板状部材5は、バイト本体部1の柄部の幅方向(紙面垂直方向)全体で柄部と実質的に接触している。
【0055】
発明品2の切削工具では、図5(a)に示すように、第1バイト構成部9における第2バイト構成部10との対向面において、切刃先端からバイト長手方向に30mm〜60mmの位置に溝状の座ぐり4を施す。そしてアルミニウム合金で構成される板状部材5を座ぐり4内に配設している。したがって、工作機械の台座3の切刃側端部上に位置するバイト本体部1の柄部の、バイト長手方向に垂直な方向の断面(図5(a)のVb−Vb断面)には、図5(b)に示すように板状部材5が配設されることとなる。それ以外の構成は、発明品1と同様である。
【0056】
発明品3の切削工具では、図6(a)に示すように第1バイト構成部9における第2バイト構成部10との対向面において切刃先端からバイト長手方向に30mmの位置からバイト本体部1の柄部の長手方向の終端(バイト終端)にかけて高さ6mmの段加工を施して段差部4aを設け、段高さと同等の厚みを有しアルミニウム合金で構成される板状部材5を配設している。この場合も、工作機械の台座3の切刃側端部上に位置するバイト本体部1の柄部の、バイト長手方向に垂直な方向の断面(図6(a)のVIb−VIb断面)には、図6(b)に示すように板状部材5が配設されることとなる。また、バイト本体部1の柄部のほぼ全体に板状部材5を配設しているので、バイト本体部1を工作機械に固定した際に、上下方向の圧縮力が充分に板状部材5に作用することとなる。
【0057】
さらにここでは第1および第2バイト構成部9,10の接合は、図6(c)に示すようにバイト本体部1の頭部に螺着した3本のボルト11を用いて機械的に行なっている。バイト本体部1の頭部においてはバイト底面側は工作機械と干渉しないため、このようにボルト頭部が飛び出した状態でも切削加工に支障はない。それ以外の構成は、発明品1と同様である。
【0058】
発明品4では、板状部材5の長さや材質は発明品3と同様であるが、板状部材5の厚みを3mmとしている。すなわち、発明品3では、板状部材5の厚み(6mm)がバイト本体部1の柄部の厚み(25mm)の24%となっているのに対し、本発明品4では、板状部材4の厚み(3mm)がバイト本体部1の柄部の厚み(25mm)の12%となっている。
【0059】
発明品5は、図8(a)に示すように、バイト長手方向全体に亘る第1および第2バイト構成部9,10と板状部材5とを備える。それぞれの柄部における厚みは、17mm、5mm、3mmである。また、バイト頭部において板状部材5を貫通するようにボルト11を装着し、該ボルト11によって第1および第2バイト構成部9,10を締結している。それ以外の構成は、発明品1と同様である。
【0060】
また、上記発明品に対する比較例として、発明品3と同様の構造で、板状部材5の材質としてバイト本体部1と同一のCr−Mo鋼を用いたものについても評価試験を行なった。
【0061】
上記の従来品、発明品1〜5および比較例に対し、評価試験として、ステンレス鋼端面加工での切刃溶着状態および寸法精度を評価した。その結果を上記の表1に併記している。
【0062】
加工条件は、切削速度:120m/min、送り:0.18mm/rev、切込み:2mm、湿式で、SUS304鋼円板材(φ150)の端面加工を行なった。切刃部分(チップ)2はCVDコーティングを施したM種超硬合金製工具であり、工具型番はCNMG120408である。
【0063】
溶着については加工後のチップを主切刃逃げ面方向から観察し、溶着が付着している長さを総計する形で定量化した。また、寸法精度については、円板材の直径100mm付近を中心とした箇所で半径方向に断面曲線を測定し、その最大高さにて評価した。
【0064】
表1に示すように、各発明品の溶着量が従来品や比較品に対し減少しているのが確認できる。
【0065】
また、発明品1(図2)と発明品2(図5)とを比較すると、発明品2の方が溶着量に関し良好な結果が得られている。この結果より、工作機械の台座3の切刃側端部上に板状部材5を配することが溶着量低減に有効であるものと考えられる。
【0066】
また、発明品2(図5)と発明品3および4(図6)とを比較すると、発明品3および4の方が溶着量に関し良好な結果が得られている。この結果より、バイト本体部1の柄部のほぼ全体にわたって板状部材5を配設することが、溶着量低減に有効であるものと考えられる。
【0067】
また、発明品4(図6)と発明品5(図8)とを比較すると、発明品5の方が溶着量に関し良好な結果が得られている。この結果から、バイト本体部1のほぼ全体にわたって板状部材5を配設することが、溶着量低減に特に有効であるものと考えられる。
【0068】
発明品4と比較例を比較すると、発明品4で溶着減少効果が得られているのに対し、比較例では従来品と同程度の溶着が発生している。この結果から、板状部材の材質として、バイト本体部よりも低剛性かつ低減衰の材料を用いることが溶着低減に有効であるものと考えられる。
【0069】
次に、寸法精度について見ると、発明品1,2,4,5は、従来品や比較例と比較して仕上げ面断面曲線最大高さが若干高いものの従来品や比較例と同レベルの状態を維持できていることがわかる。しかし、発明品3については、従来品等に対してやや寸法精度が低下している。これより、仕上げ加工など寸法精度を重視する場合は、板状部材の厚みを適正に設定することが望ましいといえる。
【0070】
以上のように、本発明品によれば、バイト横方向の剛性低下を抑えながら、バイト厚み方向の振動を増大させて切刃の溶着を防ぐことが可能である。したがって、溶着の発生しやすい被削材の端面加工時の寸法精度を維持しながら、溶着の発生を抑制してチップを長寿命化することができる。
【0071】
上述のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上記の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0072】
また、本発明は上記の実施の形態および実施例に限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)は、従来の切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、(b)は、(a)におけるIb−Ib線に沿う断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図である。
【図3】(a)は、図3におけるII−II線に沿う断面図であり、(b)は、バイト本体部の断面構造の他の例を示す断面図である。
【図4】(a)は、本発明の実施の形態1の変形例における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、(b)は、(a)におけるIVb−IVb線に沿う断面図である。
【図5】(a)は、本発明の実施の形態2における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、(b)は、(a)におけるVb−Vb線に沿う断面図である。
【図6】(a)は、本発明の実施の形態3における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、(b)は、(a)におけるVIb−VIb線に沿う断面図であり、(c)は、(a)に示すバイト頭部およびその近傍の底面図である。
【図7】(a)は、本発明の実施の形態3の変形例における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、(b)は、(a)におけるVIIb−VIIb線に沿う断面図である。
【図8】(a)は、本発明の実施の形態4における切削工具と工作機械の一部とを示す側面図であり、(b)は、(a)におけるVIIIb−VIIIb線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 バイト本体部、1a,9a1 頭部、1b 柄部、2 切刃部分、3 台座、4,6 座ぐり、4a 段差部、5 板状部材、5a 第1板状部材、5b 第2板状部材、7 シール部品、9 第1バイト構成部、9a 上面側頭部、9b 上面側柄部、10 第2バイト構成部、10a 底面側頭部、10b 底面側柄部、11 ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃部分と、
前記切刃部分が装着される頭部と、該頭部から連続して延び工作機械の台座に固定される柄部とを有するバイト本体部とを備える切削工具であって、
前記バイト本体部は、第1と第2バイト構成部を含む複数のバイト構成部を有し、
前記第1バイト構成部は、前記柄部の一部であって前記バイト本体部の上面側に位置する上面側柄部を含み、
前記第2バイト構成部は、前記上面側柄部よりも前記バイト本体部の底面側に位置する底面側柄部を含み、
前記上面側柄部と前記底面側柄部との間に、前記バイト本体部の底面に沿って延び、前記バイト本体部を貫通して該バイト本体部の両側面に達し、かつ前記バイト本体部のヤング率以下かつ前記バイト本体部の減衰率以下の材料で構成した板状部材を配し、
前記板状部材の上下面を前記上面側柄部と前記底面側柄部とに接触させたことを特徴とする、切削工具。
【請求項2】
切刃部分と、
前記切刃部分が装着される頭部と、該頭部から連続して延び工作機械の台座に固定される柄部とを有するバイト本体部とを備える切削工具であって、
前記バイト本体部は、切削時の送り分力方向と背分力方向とで規定される平面に沿って延在する1組の対向面を前記柄部を構成する部分に有する第1と第2バイト構成部を含む複数のバイト構成部を有し、
前記1組の対向面と接触し、切削時の送り分力方向と背分力方向とで規定される前記平面に沿って延び、前記バイト本体部を貫通して該バイト本体部の両側面に達するように前記バイト本体部のヤング率以下かつ前記バイト本体部の減衰率以下の材料で構成した板状部材を配したことを特徴とする、切削工具。
【請求項3】
前記切削工具を工作機械に設置する際に該工作機械の台座に接する部分のうち前記切刃部分側の端部における前記切削工具の長手方向に垂直な断面に達するように前記板状部材を配した、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記板状部材を前記柄部の長手方向の端面に達するように配した、請求項1から請求項3のいずれかに記載の切削工具。
【請求項5】
前記板状部材を前記頭部の長手方向の端面に達するように配した、請求項1から請求項4のいずれかに記載の切削工具。
【請求項6】
前記板状部材の厚みは、前記柄部の厚みの5%と1mmのうちの大きい値以上であり、前記柄部の厚みの20%と3mmのうちの大きい値以下である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−100313(P2008−100313A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284901(P2006−284901)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】