説明

切削用チップ固定構造

【課題】常にチップをホルダに対して正しい姿勢で確実に取り付け易い切削用チップ固定構造を提供する。
【解決手段】切削用のチップ50を支持するホルダ2と、チップ50をホルダに固定するための取付けボルト12と、ホルダ2のチップ座7とチップ50との間に介装されるシート部材23とを備え、さらに、取付けボルト12の緩め操作に基づいてシート部材23をチップ座7から引き離すシート分離部30が設けられている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転するワークに対して切削用のチップを支持するホルダと、チップをホルダに固定するための取付けボルトと、ホルダのチップ座とチップとの間に介装されるシート部材とを備えた切削用チップ固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の切削用チップ固定構造に関連する先行技術文献情報として下記に示す特許文献1がある。この特許文献1に記された切削用チップ固定構造では、ホルダのチップ座とチップとの間にシート部材が介装されるので、チップが欠けた際などにチップ座が損傷することや、硬度の高い材料を切削する際にチップによってチップ座が変形することが防止される。また、ホルダに設けられた取付けボルトの受け面が単純なテーパ面ではなく、テーパ面とテーパ面の一部を残して縦向きに削った座刳り孔とを組み合わせた形状となっており、テーパ面と座刳り孔との境界には2本の稜線が突出形成されている。そのため、取付けボルトを締め付けていくと、取付けボルトはホルダに形成されている2本の稜線と同時に接当することで、少なくとも2点で支持されるので、取付けボルトの受け面が単純なテーパ面で構成されたものに比して、チップをホルダのチップ座壁面に向けて、より安定した形態で押し付けることができるとされている。この時、同時にシート部材もチップを介してホルダのチップ座底面に押し付け固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭57−28803号公報(第7頁5−20行、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記される従来の切削用チップ固定構造では、チップを交換する時やチップの向きを変更する時などに、チップをホルダに固定した状態から取付けボルトを緩めていくと、チップのみがホルダのチップ座から引き離され、シート部材はホルダのチップ座底面に残る構造であった。そのため、切削屑などの異物がシート部材とホルダとの間隙などに挟まったままの状態となり、次にチップを取り付ける際にホルダに対して正しい姿勢で確実に取り付け難い場合があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上に例示した従来技術による切削用チップ固定構造が与える課題に鑑み、常にチップをホルダに対して正しい姿勢で確実に取り付け易い切削用チップ固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による切削用チップ固定構造の第1の特徴構成は、
切削用のチップを支持するホルダと、
前記チップを前記ホルダに固定するための取付けボルトと、
前記ホルダのチップ座と前記チップとの間に介装されるシート部材と、を備え、
前記取付けボルトの緩め操作に基づいて前記シート部材を前記チップ座から引き離すシート分離部が設けられている点にある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成による切削用チップ固定構造では、取付けボルトを緩めるとチップがチップ座壁面への押し付け状態から解放されるだけでなく、シート部材がいわば自動的にチップ座から引き離され、チップ座が露出されるので、チップ座を圧搾空気などによって確実に容易に洗浄できるようになった。その結果、切削屑などの異物がシート部材とホルダとの間隙などに挟まったままの状態になるという問題が解消されたため、常にチップをホルダに対して正しい姿勢で確実に取り付け易くなった。
【0008】
本発明の他の特徴構成は、前記シート分離部が前記シート部材の内径および前記取付けボルトの雄ネジ部の外径よりも大きな外径を有するフランジ状を呈している点にある。
【0009】
雄ネジ部の基端側そのものをシート分離部として利用する構成も可能であるが、その場合は、雄ネジ部の外径を設定する際に、シート分離部でシート部材を円滑に移動操作できるように雄ネジ部を大径化する必要が生じ、結果としてホルダの小型化が困難になる虞がある。しかし、本構成のように、シート分離部が雄ネジ部よりも大径のフランジ状であれば、雄ネジ部の外径は例えば従来通りとしつつ、シート分離部の外径のみをシート部材の移動操作に好都合となるように自由に設定することが可能となる。その結果、取付けボルトの緩め操作に基づいてシート部材を円滑にチップ座から引き離すシート分離部が得られることになる。
【0010】
本発明の他の特徴構成は、前記シート分離部が、前記取付けボルトとは別体のフランジ状部材と、前記フランジ状部材を支持するべく前記取付けボルトに設けられた支持面とを有する点にある。
【0011】
シート分離部が取付けボルトの一部として一体的に形成された構成も可能であるが、その場合は、雄ネジ部の基端側におけるネジ加工が困難となる。尚、フランジ状のシート分離部と雄ネジ部の基端側に径方向に窪んだ肉盗み部を設けると、ネジ加工が容易になるが、この場合は肉盗み部に該当する分だけ雄ネジの有効長さが減ってしまう。しかし、本構成であれば、特に肉盗み部を設けていなくても、フランジ状部材を取り付ける前であれば雄ネジ部のネジ加工がし易く、しかも、雄ネジ部の基端側の際(きわ)まで雄ネジを切ることが可能となるので、結果的に雄ネジの有効長さが増し、チップを固定する能力が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による切削用チップの固定構造を示す分解斜視図である。
【図2】本発明による切削用チップの固定構造を示す斜視図である。
【図3】切削用チップの取り付け工程を示す破断側面図である。
【図4】切削用チップの取り外し工程を示す破断側面図である。
【図5】本発明の別実施形態を示す破断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
(固定構造の概略構成)
図1に示すように、本発明による切削用チップの固定構造は、切削用のチップ50を支持するためのホルダ2と、チップ50をホルダ2に固定するための取付けボルト12と、ホルダ2とチップ50との間に介装されるシート部材23とを備える。図2はチップ50がホルダ2に正しく固定された状態を示す。
【0014】
ホルダ2は工作機械に固定するためのフランジ部4とホルダ本体6とからなり、ホルダ本体6にはチップ50を受け入れる支持凹部6aが設けられている。支持凹部6aは互いに直交する1つのチップ座底面7と2つのチップ座壁面8とを備える。シート部材23は、特にチップ座底面7がチップ50からの押し付け力によって凹んだり、チップ50が欠けた場合に損傷したりすることを防止する役目を有する。
チップ座底面7には取付けボルト12を螺合可能なネジ孔10が軸心X1に沿って貫通形成されている。また、2つのチップ座壁面8どうしの交差部には、使用しない側のチップ50の先端を受け入れるための肉盗み部9が延設されている。
ここでは、便宜的にチップ座壁面8の上端で軸心X1と交差して延びる平面をホルダ2の上面6bと呼び、軸心X1に沿って反対側をホルダ2の下面6cと呼ぶことにする。
【0015】
取付けボルト12は、最も大径の雄ネジ部14、雄ネジ部14の上端から延設された第1ネック部15、第1ネック部15の上端から延設された第2ネック部16、及び、第2ネック部16の上端に設けられたヘッド部18を有する。第1ネック部15と第2ネック部16にはネジ部が設けられていない。全ての部位は共通の軸心X2に沿って直線状に延びている。また、ヘッド部18を除く全ての部位の外周部も概して軸心X2と平行に直線状に延びている。第1ネック部15は雄ネジ部14よりも小径であり、第2ネック部16は第1ネック部15よりもさらに小径である。ヘッド部18は軸心X2に沿って湾曲した外周面を有するが、その最大径は第2ネック部16に比して十分に大径に構成されている。雄ネジ部14の下端には六角レンチなどの工具Tを装着可能な異型の溝孔19が形成されている。
【0016】
チップ50は断面が概して正方形の直方体状であり、その4つの角部が切削面52を構成し、中心には取付けボルト12を受け入れる貫通孔54が設けられている。
シート部材23も断面が概して正方形の直方体状であるが、一般にチップ50よりも薄く、中心には取付けボルト12を受け入れる貫通孔24が設けられている。シート部材23の貫通孔24はチップ50の貫通孔54よりも大径に形成されている。
【0017】
本発明による切削用チップ固定構造の最大の特徴は、取付けボルト12の雄ネジ部14と第1ネック部15との間に環状溝20(支持面の一例)が形成されており、ここにEリング30(シート分離部、フランジ状部材の一例)が係止されている点である。このEリング30は、シート部材23の貫通孔24および取付けボルト12の雄ネジ部14の外径よりも十分に大きな外径を備えている。取付けボルト12の雄ネジ部14は、第1ネック部15よりも大径で、且つ、Eリング30を取り付ける以前に形成されているので、雄ネジ部14の上端を含む全体にネジを容易に形成できている。
ホルダ2のチップ座底面7には、Eリング30を受け入れる収納凹部11が形成されている。収納凹部11はEリング30の外径を上回る内径と、Eリング30の厚みを少し上回る深さを備えている。
【0018】
(チップの取り付け手順)
チップ50のホルダ2への取り付け操作は、以下のように進めることができる。
〈1〉先ず、Eリング30の係止された取付けボルト12を、ホルダ2のネジ孔10の上端に螺合させ、次に、取付けボルト12の下端の溝孔19に装着した六角レンチTなどを用いて、取付けボルト12のヘッド部18の下端からホルダ本体6の上面6bまでの距離がチップ50の厚みを下回らない程度の位置まで取付けボルト12を捩じ込む。
【0019】
〈2〉次に、図3(a)に例示するように、シート部材23を2辺がホルダ2のチップ座壁面8と平行になるような姿勢で取付けボルト12に外嵌させ、引き続き、チップ50をシート部材23と同じ姿勢で取付けボルト12に外嵌させる。シート部材23は第1ネック部15に外嵌され、チップ50は第2ネック部16に外嵌された状態になる。
【0020】
〈3〉同上の六角レンチTなどを用いて取付けボルト12をホルダ2のネジ孔10に対して螺進させ、取付けボルト12のヘッド部18をホルダ本体6の上面6bに近接させると、図3(b)に例示するように、シート部材23とチップ50が2つのチップ座壁面8に隣接した状態になる。
【0021】
〈4〉このチップ50がチップ座壁面8に隣接した状態では、2つのチップ座壁面8の位置的な特徴に基づいて、チップ50の軸心X3は、ネジ孔10及び取付けボルト12の軸心X1から外側に一定量だけ変位した位置にあるため、チップ50の貫通孔54から外周面53までの最小幅L1は、取付けボルト12のヘッド部18の最大径部とチップ座壁面8との間隔L2を上回っている。したがって、後続の工程で取付けボルト12を螺進させると、先ず、取付けボルト12のヘッド部18の一部が、チップ50の上端面と必ず接当する。
【0022】
〈5〉そこで、さらに取付けボルト12を螺進させていくと、図3(c)に例示するように、やがてチップ50は取付けボルト12のヘッド部18と2つのチップ座壁面8との間で拘束され、且つ、シート部材23をチップ座底面7に押し付けた状態で、ホルダ2の支持凹部6aに固定される。尚、取付けボルト12を一定の範囲の力で締め付けるために六角レンチTとしてトルクレンチを用いると良い。このようにチップ50の固定が完了した状態で、高速回転中の加工物をチップ50に押し付けると、チップ50の切削面52による切削が可能になる。
【0023】
(チップの取り外し手順)
チップ50の交換やチップ50の向きの変更のための操作は、以下のように進めることができる。
〈1〉先ず、図4(a)に例示するように、六角レンチTなどによって取付けボルト12の緩め操作を開始すると、チップ50は取付けボルト12のヘッド部18と2つのチップ座壁面8との間の拘束から解放される。
【0024】
〈2〉取付けボルト12をさらに緩めていくと、先ず、取付けボルト12のEリング30(シート分離部の一例)がシート部材23の下面と接当し、さらに、図4(b)に例示するように、Eリング30がシート部材23をチップ座底面7から強制的に引き離し、以降、シート部材23とチップ50とを一体的にホルダ2の支持凹部6aから遠ざけていく。
【0025】
〈3〉取付けボルト12をさらに緩めていき、図4(c)に例示するように、取付けボルト12のヘッド部18の下端からホルダ本体6の上面6bまでの距離がチップ50の厚みを上回る位置付近まで取付けボルト12が緩められると、チップ50が2つのチップ座壁面8から解放されるので、チップ50をホルダ2から取り外すことができる。この状態で引き続きシート部材23もホルダ2から取り外すことができる。
こうして、取付けボルト12を緩めるとチップ50がチップ座壁面への押し付け状態から解放されるだけでなく、シート部材23がいわば自動的にチップ座底面7から引き離され、チップ座底面7が露出されるので、同箇所を圧搾空気などによって確実に容易に洗浄できる。その結果、切削屑などの異物がシート部材23とホルダ2との間隙などに挟まったままの状態になるという問題が解消される。
【0026】
〔別実施形態〕
〈1〉尚、フランジ状部材としてEリングではなく単純な円盤状の部材を用意し、取付けボルト12に外嵌させた状態で溶接などにより一体化しておいても良い。この場合も、特に肉盗み部を設けていなくても、フランジ状部材を取り付ける前であれば雄ネジ部のネジ加工がし易く、しかも、雄ネジ部の基端側の際(きわ)を含む全長に渡って雄ネジを切ることが可能となる。
【0027】
〈2〉図5に示すように、フランジ状部40が取付けボルト32に一体形成された形態としても良い。フランジ状部40と取付けボルト32の雄ネジ部34との境界には環状の肉盗み部36を設けているので、ホルダ2側に、雄ネジ部34とフランジ状部40との交差部を受け入れる凹部を設けなくても、フランジ状部40の下面をホルダの上面に密接させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、回転するワークに対して切削用のチップを支持するホルダと、チップをホルダに固定するための取付けボルトと、ホルダのチップ座とチップとの間に介装されるシート部材とを備えた切削用チップ固定構造に関し、同固定構造をより使用し易くする発明として利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
2 ホルダ
6 ホルダ本体
6a 支持凹部
6b ホルダ2の上面
6c ホルダ2の下面
7 チップ座底面
8 チップ座壁面
10 ネジ孔
11 収納凹部
12 取付けボルト
14 雄ネジ部
15 第1ネック部
16 第2ネック部
18 ヘッド部
20 環状溝(支持面)
23 シート部材
24 貫通孔
30 Eリング(シート分離部、フランジ状部材)
50 チップ
52 切削面
54 貫通孔
X1 軸心
X2 軸心
T 六角レンチ(工具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削用のチップを支持するホルダと、
チップをホルダに固定するための取付けボルトと、
ホルダのチップ座とチップとの間に介装されるシート部材と、を備え、
取付けボルトの緩め操作に基づいてシート部材をチップ座から引き離すシート分離部が設けられている切削用チップ固定構造。
【請求項2】
シート分離部がシート部材の内径および取付けボルトの雄ネジ部の外径よりも大きな外径を有するフランジ状を呈している請求項1に記載の切削用チップ固定構造。
【請求項3】
シート分離部が、取付けボルトとは別体のフランジ状部材と、このフランジ状部材を支持するべく取付けボルトに設けられた支持面とを有する請求項2に記載の切削用チップ固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−20237(P2011−20237A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169452(P2009−169452)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000205834)大昭和精機株式会社 (41)
【Fターム(参考)】