説明

切断切削装置

【課題】被切断物に対して噴射する超高圧流体を高効率に得ることを可能となし、超高圧流体を得るための動力を省力化して、小型化、携帯化を可能とする。
【解決手段】被切断物に対して流体を噴射する噴射部2と、昇圧用ピストン32を有し、噴射部2に供給する流体を、昇圧用ピストンの圧縮動作により昇圧する昇圧部3とを備える。昇圧部3は、昇圧用ピストン32,42,62,72を摺動可能に内部に配置される昇圧用シリンダ33,43,71と、注水用バルブ35,45と、脱気用バルブ36,46とを有し、昇圧用ピストンを一方向に摺動させて昇圧用シリンダの内部へ流体を注入する際に注水用バルブを閉として昇圧用シリンダ内部の圧力を減圧し、流体中の気体成分を気泡として発生させ、昇圧用ピストンを他方向に摺動させて昇圧用シリンダの内部の流体を昇圧する際に、脱気用バルブを開として気泡を排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧流体を使って被切断物を切削し、その結果被切断物を切断するために用いられる切削切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属、陶磁器、石等の被切断物を水等の高圧液体を被切断物に対して噴射することにより切断する所謂ウォータジェット方式の切削切断装置が用いられる。この種の切削切断装置には、百〜数百メガパスカルの水圧が必要とされる。
【0003】
この超高圧な水圧を発生させるために実用化されている装置は、数十馬力の動力が必要であり、大型であるとともに据付型であり、持ち運びが可能な装置ではなかった。
【0004】
そのため、建設現場でのタイル、マーブル、グラナイト等の床材料の加工の方式としては、ダイシングによる切断加工が大部分を占めており、ウォータジェットによる加工は現在ほとんど普及していない。
【0005】
ダイシングによる加工のメリットは、装置が安価であり、ダイシングは、直線的な切断には向いている。
【0006】
しかし、ダイシングは、自由な曲線での切断が難しく、曲線での加工を行うためには何度も直線的な加工を繰り返すため多くの時間が必要であった。また、グラナイトは、大変固い石材であり、切断にはマーブルの2倍以上の時間が必要であった。
【0007】
さらに、マーブル等は切断時の石材の欠けがしばしば発生し複雑な加工には極度の集中力が必要となる。
【0008】
このことから、ダイシングでの作業効率が悪い主な原因となっている。また、加工時の騒音は80dB以上であり、さらに、加工時には、直接石材を手で持ち回転刃に近づけるため大変危険の多い作業環境となっていた。また、粉体による人体への悪影響等も考えられる。
【0009】
この種のウォータジェット切削切断装置の第1の方式としては、3連水圧シリンダ106に直接水を供給し、各シリンダ内に設けられたピストンの圧縮により高圧水を得る方式のものがある。
【0010】
この第1の方式のウォータジェット切削切断装置100の構成としては、図1に示すように、動力101、3連水圧ポンプ104、リザーブタンク107、高圧ホース108、カッティングヘッド109からなる。3つのピストンは、120度の位相差があり、3連水圧シリンダ106内に注入された水は、ピストンにより圧縮され、バルブを通してリザーブタンク107に蓄えられる。蓄えられた高圧水は、高圧ホース108でカッティングヘッド109に導かれ、噴射ノズル110からウォータジェット流として放射され物体を切断するものである。
【0011】
動力(モータ)101としては、通常50馬力以上の500V3相モータを使い、減速機102で回転速度を落とすと同時に回転トルクを上げ、動力伝達機103(例えばクラッチ等)で、3連水圧ポンプ104への動力伝達の入/切を行う。動力伝達機103で伝達される回転運動がクランクケースで直線運動に変換され、水供給ホース105から注入された水は、3連水圧シリンダ106の各シリンダ内でピストンの往復運動により一気に数百メガパスカルに昇圧される。その水圧は、3連水圧シリンダ106内を往復運動する各ピストンの位相差である120度毎に、高、低を繰り返す水圧となる。水圧は不均一なため水圧平滑装置(リザーブタンク)107で水圧を均等にする。平滑された超高圧水は、高圧ホース108でカッティングヘッド109に運ばれ、その噴射ノズル110からウォータジェット111となって放射される。
【0012】
このウォータジェット切削切断装置100において、高圧ホース108でカッティングヘッド109まで引き回すことによる水圧の低下は著しく、また、リザーブタンク107でも水圧が著しく低下するため、これらを併せたエネルギーロスは、大きく、それをカバーするために必然的にピストンポンプは、大型化し、その動力源も大型となる。
【0013】
また、この種のウォータジェット切削切断装置の第2の方式としては、2個の交互圧縮ピストンを使った油圧圧縮式により高圧水を得る方式のものがある。
【0014】
この第2の方式のウォータジェット切削切断装置200は、図2に示すように、油圧ポンプ203と、油圧により左右に動作する油圧ピストンと、そのピストンの動作で180度の位相の異なる左右2個の水圧ポンプ219,220とを有し、この水圧ポンプ219,220により、交互に圧縮された超高圧水を作りリザーブタンク223に蓄え、蓄えられた超高圧水が、第1の方式の切削切断装置100と同様に、超高圧水用ホース224でカッティングヘッド225に導かれノズルからウォータジェット流として放射され物体を切断するものである。
【0015】
動力(モータ)201としては、通常50馬力以上の500V3相モータを使い、減速機202を通し油圧ポンプ203で高油圧を作り、油圧ホース(主)209を介し、双方向油圧切換バルブ210に接続される。双方向油圧切換バルブ210を通った油圧はその後、軸対称型2相油圧ポンプ218に供給され双方向油圧切換バルブ210の切換動作により油圧シリンダ(右)213、油圧シリンダ(左室)214に交互に油が注入、排出される。それにより油圧シリンダ213内の油圧ピストンが左右に動き、ピストンの両側に取り付けられたアームが高水圧シリンダ(右)219、高水圧シリンダ(左)220内のピストンを動かす。高水圧シリンダ(右)219、高水圧シリンダ(左)220のシリンダへは注水ホース(主)206から注水ホース(右シリンダ用)207、注水ホース(左シリンダ用)208を通って水が供給される。
【0016】
左右のシリンダで圧縮された超高圧水は超高圧ホース221、超高圧ホース222を通ってリザーブタンク223に蓄えられ、最終の超高圧水用ホース224を通ってカッティングヘッド225へ供給され、そのノズルからウォータジェット226となって放射される。
【0017】
また、このウォータジェット切削切断装置200には、予備圧縮ポンプ204、注水供給口205、油圧シリンダ用ホース(右シリンダ用)211、油圧シリンダ用ホース(左シリンダ用)212、油圧オイル貯蔵タンク215、油圧オイル帰還方向216が設けられている。尚、水が逆流しないためのチェックバルブが各所に設けられているがここでは詳細な説明は省略する。この第2の方式のウォータジェット切削切断装置200では、上述の第1の方式のウォータジェット切削切断装置100と同様に、超高圧での配管が必要であると同時に油圧を使うため高速でのポンピングが難しくリザーブタンク223でのダンピングロスは、第1の方式に比べて大きくなる。
【0018】
また、第1の方式で1度高水圧を作り、その高圧水を第2の方式に連結し、更なる高圧を得るようにするウォータジェット切削切断装置もある。
【0019】
なお、噴射部と昇圧部とを備え、昇圧用ピストンの圧縮動作の周期に同期して、高圧流体を噴射部から噴射して被切断物の切断を行う切断装置として、特開平5−24480号公報(特許文献1)に記載されたものがある。また、パルス状の高圧流体を噴射部から噴射する装置として、特開2001−115657公報(特許文献2)、特開平1−271199公報(特許文献3)に記載されたものがある。
【特許文献1】特開平5−24480号公報
【特許文献2】特開2001−115657公報
【特許文献3】特開平1−271199公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述したように、従来の方式のウォータジェットを使った切削切断装置は、超高圧水を得るために大きな動力が必要になるとともに、装置も大型となり、簡単に携帯して使用することが困難であった。
【0021】
そこで、本発明は、被切断物に対して噴射する超高圧流体を高効率に得ることができ、超高圧流体を得るための動力を省力化して、小型化、携帯化を実現する切削切断装置を提供することを技術課題とする
【0022】
さらに、本発明は、噴射部から噴射される昇圧水中に気体成分が溶け込むことにより、エネルギーが減少することを防止し、圧縮工程におけるエネルギー効率の向上を実現した切削切断装置を提供することを技術課題とする。
【0023】
この技術課題を解決するため、本発明を適用した切削切断装置の基本的な構成は、被切断物に対して流体を噴射する噴射部と、昇圧用ピストンを有し、上記噴射部に供給する流体を、上記昇圧用ピストンの圧縮動作により昇圧する昇圧部とを備える。そして、この昇圧用ピストンの圧縮動作の周期に同期して、パルス状の高圧流体を上記噴射部から噴射して被切断物の切削切断を行う。
【0024】
さらに具体的には、本発明を適用した切削切断装置は、水を昇圧する昇圧手段において、昇圧シリンダへの注水時を利用して水圧を一気に減圧し、減圧により水中の気体成分を気泡として発生させる過程と、昇圧時の発生した気体をシリンダから除去する過程を有する、脱気と昇圧を同時に行う装置である。
【0025】
すなわち、切削切断装置は、昇圧用ピストンとして第1のピストンと、この昇圧用ピストンを摺動可能に内部に配置される昇圧用シリンダとして第1のシリンダと、注水口電磁バルブと、脱気用電磁バルブとを有し、昇圧用ピストンを一方向に摺動させて昇圧用シリンダ内部へ水を注入する際に注水口電磁バルブを閉として昇圧用シリンダ内部の圧力(水圧)を減圧し、流体中の気体成分を気泡として発生させ、昇圧用ピストンを他方向に摺動させて昇圧用シリンダの内部の流体を昇圧する際に、脱気用電磁バルブを開として気泡を排出することで、噴射部から噴射される昇圧水中に気体成分が溶け込むことにより、エネルギーの減少を防ぐとともに、圧縮工程におけるエネルギー効率を向上させることが可能となる。
【0026】
また、本発明を適用した切削切断装置は、油圧を動力とする昇圧部分において、昇圧を行う2次昇圧器と、超高圧のパルス噴射を行う3次昇圧器が油圧ピストンに連結され、同じ距離を移動する過程で2次昇圧と、超高圧のパルス的な3次昇圧を同時に行う装置である。
【0027】
すなわち、切削切断装置は、昇圧部が油圧により駆動される油圧伝達ピストン部と、この油圧伝達ピストン部に一体に形成され、油圧伝達ピストン部より面積が小さく形成される第1のピストン部として2次昇圧ピストン部と、油圧伝達ピストン部に一体に形成され、第1のピストン部より面積が小さく形成される第2のピストン部として3次昇圧ピストン部とを有し、油圧伝達ピストン部が油圧により移動することにより、第1のピストン部により水の昇圧を行うとともに、第2のピストン部により水のさらに高圧でパルス的な昇圧を同時に行うことで、水の昇圧効率をさらに向上させることができる。
【0028】
また、本発明を適用した切削切断装置は、油圧を動力とする昇圧部分(油圧ポンプ)において、プッシュプル動作を行う一対の油圧ピストンと、ピストンで隔てられた油液の注入された反対側のスペースにも油(液体)を充填させ、一対のシリンダ間を油が行き来する構造とし、一方のピストンが押す動作と他の一方のピストンの引く動作が油(液体)を通して伝達され、ピストンのプル動作時における減圧による油液中の発泡を抑えることを可能とした装置である。
【0029】
すなわち、切削切断装置は、昇圧部が、一対のシリンダとして2次油圧シリンダと、油圧により駆動され一対のシリンダ内をプッシュ動作及びプル動作を交互に行う一対のピストンとして第2のピストンと、一対のシリンダの一対のピストンの油圧により駆動される側と反対側である補助シリンダ室に充填される互いに循環する帰還用油液と、一対のシリンダの帰還用油液が充填される側を帰還用油液が循環可能に接続する連結配管として帰還用油液連結配管とを有することにより、一方の油圧ピストンが押す動作(プッシュ動作)をし、他方の油圧ピストンが引く動作(プル動作)をする際に、プッシュ動作された側の補助シリンダ内の帰還用油液が連結配管を通してプル動作された側の補助シリンダ内に流入し、プル動作された側の油圧ピストンをプル側に押し込むので、プル動作時の油液中の発泡を抑えることを可能とし、エネルギーロスを防止することができる。
【0030】
また、本発明を適用した切削切断装置は、第1、第2、第3の昇圧工程を有する昇圧部において、プッシュプル動作による機械的な動力で昇圧する第1の昇圧工程と、油圧で動作する大面積のピストンを使って高水圧を作成する第2の昇圧装置と、さらに圧縮面積を減少させたピストンを設け超高水圧を作る第3の昇圧装置により順次水圧を上げていく装置である。
【0031】
すなわち、切削切断装置は、動力源に近い位置に配置される第1の昇圧部と、噴射部に近い位置に配置される2次昇圧、3次昇圧を行う第2の昇圧部とを有し、第1の昇圧部は、流体を圧縮して昇圧するとともに、油液を圧縮して油圧を発生させる第1のピストンを有し、流体の1次昇圧を行い、第2の昇圧部は、第1の昇圧部で発生された油圧により駆動される油圧ピストン部と、この油圧ピストン部より面積が小さく形成される第1のピストン部として2次昇圧ピストン部と、この第1のピストン部より面積が小さく形成される第2のピストン部として3次昇圧ピストン部とからなる第2のピストンを有し、油圧伝達ピストン部が油圧により移動することにより、第1のピストン部で流体の2次昇圧を行うとともに、第2のピストン部で流体の3次昇圧を行うことにより、水の昇圧効率を向上させることができる。
【0032】
また、本発明に係る切削切断装置を構成する昇圧部の動力部は、回転動作されるピニオンと、上記ピニオンに噛合され、上記ピニオンが回転動作されることにより移動操作される第1のラックと、上記ピニオンに噛合され、上記ピニオンが回転動作されることによって上記第1のラックと反対方向に移動操作される第2のラックとを有し、上記昇圧部は、一対の昇圧ピストンを有し、上記第1及び第2のラックの直線動作により上記一対の昇圧用ピストンが駆動されて、上記流体を圧縮してパルス状の高圧流体を生成する。
【0033】
さらに、上記動力部は、上記ピニオンに回転駆動力を伝達する電磁式又は機械式のクラッチを有し、上記クラッチは、電気的又は機械的な制御により、上記昇圧部で背制するパルスの高圧流体のパルス幅を制御して、切削切断動作のオンオフ及び切削切断速度の調整を行う。
【0034】
すなわち、本発明に係る切削切断装置は、昇圧部の動力部が、回転動作されるピニオンと、ピニオンに噛合され、ピニオンが回転動作されることにより直線動作される第1のラックと、ピニオンに噛合され、ピニオンが回転動作されることにより第1のラックと反対方向に直線動作される第2のラックとを有し、昇圧部は、一対の昇圧用ピストンとして第1のピストンを有し、この第1及び第2のラックの直線動作により一対の昇圧用ピストンが駆動されて、水を圧縮してパルス状態の高圧流体を生成することで、水の昇圧効率を大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、流体の圧縮過程において高効率化を実現し、被切断物に対して噴射する超高圧流体を得るための動力を省力化して、小型化、携帯化を可能とする。
【0036】
そして、本発明を適用した切削切断装置は、各種金属、陶磁器、石等の被切断物に対して超高圧流体を噴射して切削切断をするために用いることができ、例えば、タイル、マーブル、グラナイト等の床材料や外壁材料の加工に用いられ、特に複雑で装飾的な模様を有する床材料や外壁材料等の加工に対しても有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0038】
本発明が適用される切削切断装置は、例えば、金属、陶磁器、石等の被切断物に対して、水等の流体又は切削切断用の粉体を含んだ流体等を超高圧の状態で噴射することにより、被切断物を切削、切断する、所謂ウォータジェット方式の切削切断装置であって、基本的に図3に示すような構成を備える。
【0039】
この切削切断装置1は、図3に示すように、被切断物に対して流体を噴射する噴射部2と、この噴射部2に供給する流体を昇圧する昇圧部3と、この昇圧部3を駆動するための動力を発生させる動力部4とを有する。尚、以下では、この昇圧部3で昇圧され噴射部2から噴射される流体として、水を用いるものとして説明するが、本発明は、これに限られるものではなく、その他の流体、高効率に切削を可能とするために粉体を含有した流体等であってもよい。
【0040】
この昇圧部3は、後述するように1次昇圧機能とともに脱気機能も有する第1の昇圧部5と、第1の昇圧部5で昇圧された水を2次昇圧及び3次昇圧を行うことでさらに高圧に昇圧する第2の昇圧部6と、第1の昇圧部5で昇圧された1次昇圧水を第2の昇圧部6に流通させるための1次昇圧水配管8と、第1の昇圧部5で発生した油圧を駆動源として第2の昇圧部6に伝達するために油液を相互に循環させるための油圧伝達配管9とを有する。
【0041】
なお、ここでは、第2の昇圧部6の駆動力を伝達するために、油圧伝達配管9として後述する連結ホース等の連結配管38,48を設けるように構成したが、第1及び第2の昇圧部5,6を近傍の位置に隣接して配置し、又は一体に形成して直結する構成とすることにより、この連結配管を設けることなく第1の昇圧部5で発生した油圧を第2の昇圧部6の駆動源として用いるように構成してもよい。
【0042】
動力部4は、モータ等の駆動源を有し、この駆動源で発生した回転方向の動力を後述のようなプッシュプルな動作の直線運動に変換し、第1の昇圧部5へ伝達する。
【0043】
第1の昇圧部5は、油液及び水の両方を圧縮する。第1の昇圧部5で圧縮され昇圧された油液は、油圧伝達配管9を通って、2次及び3次昇圧を行う第2の昇圧部6の油圧シリンダを動作させる。また、第1の昇圧部5で昇圧された1次昇圧水は、1次昇圧水配管8を通って第2の昇圧部6へ供給される。
【0044】
2次及び3次昇圧を行う第2の昇圧部6と、超高圧に昇圧された流体を噴射する噴射部2とは、極めて近傍に設置され、超高圧水の配管ロスのない配置としている。動力源である動力部4の近傍に、第1の昇圧部5を配置し、約10メガパスカルまで昇圧後、圧力の低い状態でカッティングヘッド近傍の2次及び3次昇圧を行う第2の昇圧部6まで導き、配管による圧縮エネルギーロスを抑え、第2の昇圧部6で数百メガパスカルまで昇圧する方式である。この構造により、従来の最終昇圧状態でのカッティングヘッドまでの配管方法と比べ1/10以下の圧力での配管となっており、圧力ロスを大幅に減少させることができる。1次昇圧を行う第1の昇圧部5と、2次及び3次昇圧を行う第2の昇圧部6とは、後述のような昇圧システムを構成する。
【0045】
切削切断装置1は、定常的に高圧水を作っておく従来の方式と異なり、パルス的な超高圧水を生成し、その出力を直接利用して切断を行う方式であり、従来の方式との違いは、後述する昇圧部3の昇圧用ピストンが圧縮動作中だけパルス的に超高圧流体(以下、「ウォータジェット」ともいう。)を発生するものである。
【0046】
ここで、切削切断装置1を構成し、昇圧部3を駆動する動力部4の説明に先立ち、従来の超高圧昇圧装置の方式について説明する。
【0047】
従来の超高圧昇圧装置の方式は、回転動力をクランクシャフト或いはカムで直線動力に変え、ピストンによる圧縮にて高圧を得る方式や、回転動力で油圧ポンプを動かし油圧シリンダで圧縮する方式であった。カムやクランクを使った方式では、圧縮力が一定でなく、超高圧ポンプとカッティングヘッドの間にリザーブタンクを設ける必要がある。このリザーブタンクによる圧力ロスは無視できない。また、油圧方式での急速な油圧昇圧は、難しくやはりリザーブタンクが必要となる。どちらの方式でも始動時から安定な出力を得るためにかなり時間がかかり、常に昇圧状態にしておく必要があるため待機時の動力ロスも大きい。
【0048】
上述の理由で従来の方式では装置の重量、体積とも大型化する。また、大型の動力部のため超高圧水は、長い超高圧配管を介して射出部に供給することになり、大きな配管ロスが発生する。
【0049】
上述したように、本発明が適用される切削切断装置1は、パルス的な超高圧水を作りその出力を直接利用して切断を行う方式を採用したものであって、昇圧用ピストンが圧縮動作中だけパルス的にウォータジェットを発生させるものである。尚、以下では、この昇圧用ピストンの圧縮動作により発生されたパルス的なウォータジェットを直接利用して切削切断を行う切削切断装置1について説明するが、以下の効率的な昇圧方式により生成された超高圧水を保持する上述のリザーブタンクを設けるように構成してもよい。
【0050】
次に、パルス的にウォータジェットを発生させる切削切断装置1を構成する動力部4について、図4を用いて詳細に説明する。
【0051】
パルス的な超高水圧を作るためには均一な圧縮力が必要であり、その圧縮力を得るために図4に示す回転動力を直線運動に変換する構成とされている。動力部4は、回転運動を略均一な圧力の直線運動に変換できる。動力が直接均一に加わるため、パルス状の均一圧力のウォータジェット出力を可能とするものである。
【0052】
また、この動力部4は、機械的又は電気的に回転動力をオンオフするクラッチで動力のオンオフを行っているが、電磁クラッチを使用することにより、ウォータジェットのパルス幅を、電気的に制御することが可能である。
【0053】
具体的に動力部4は、図4に示すように、動力源として回転動力を発生させる図示しない電動モータ、内燃機関等の回転駆動部と、回転駆動部により発生された回転動力により回転動作されるピニオン22と、このピニオン22に噛合され、ピニオン22が回転動作されることにより直線動作される第1のラック23と、このピニオン22に噛合され、ピニオン22が回転動作されることにより第1のラック23と反対方向に直線動作される第2のラック24とを有する。
【0054】
また、動力部4は、上述した回転駆動部により発生された駆動力を伝達する回転動力伝達軸11と、この回転動力伝達軸11の速度を所望の回転速度に減速するための大小のギヤ等の組み合わせからなる回転速度減速ギヤ装置とベヴェルギヤの組み合わせからなる対向2軸出力装置とが一体とされたギヤボックス12と、このギヤボックス12に接続され、ピニオン22側に伝達される回転駆動力をオンオフ制御する第1及び第2の電磁クラッチ13,14とを有する。尚、ここでは、ピニオン22側に伝達される駆動力を任意に断続して伝えるクラッチとして、電磁クラッチ13,14を用いるように構成したが、機械
的に同様の機能を有する機械式クラッチを設けるように構成してもよい。
【0055】
また、動力部4は、第1の電磁クラッチ13を介してベヴェルギアの駆動力をピニオン22に伝達する第1のクラッチ側プーリ15、第1のVベルト17及び第1のピニオン側プーリ19と、第2の電磁クラッチ14を介してベヴェルギアの駆動力をピニオン22に伝達する第2の電磁クラッチ側プーリ16、第2のVベルト18及び第2のピニオン側プーリ20とを備える。
【0056】
回転動力伝達軸11は、電動モータ等の動力伝達軸に直結される。ギヤボックス12は、この回転動力伝達軸11からの駆動力を適当な速度に減速させ、それをさらにベヴェルギヤの組み合わせで回転動力伝達軸11に直交する軸に左右対称で回転方向が互いに反対方向とされる一対の出力軸に回転動力を引き出す。
【0057】
第1の電磁クラッチ13、第2の電磁クラッチ14は、回転方向が反対方向とされた一対の出力軸に装着される。第1及び第2の電磁クラッチ13,14は、一方がオンすると他方はオフとなるように、又は、両方がオフとなるように制御される。
【0058】
例えば、第1の電磁クラッチ13をオンするとクラッチは、ギヤボックス12の出力軸と接続され、回転運動が同軸の第1のクラッチ側プーリ15を回転させ、それに連結している第1のVベルト17を回転させる。
【0059】
第1のピニオン側プーリ19に直結した軸が図4中矢印R1方向に回転するとピニオン側プーリ19に連結したピニオン22が同方向に回転する。
【0060】
ピニオン22が矢印R1方向に回転すると、このピニオン22に噛合された第1のラック23は、図4中矢印X1方向に動き、第2のラック24は、図4中矢印X2方向に動く。第1及び第2のラック23,24が移動する方向は、互いに反対であるが、移動距離は同じである。第1のラック23、第2のラック24は、互いに反対方向にピニオン22に対して等距離になるように設定しておく。
【0061】
また、第1の電磁クラッチ13をオフにし、第2の電磁クラッチ14をオンにすると、ピニオン22は、上述したのと逆方向に回転し、第1及び第2のラック23,24は、上述と逆方向に移動する。
【0062】
電子的又は機械的方法で第1のラック23、第2のラック24の位置を検出し、第1及び第2の電磁クラッチ13,14を交互に切り替えると第1及び第2のラック23,24は、前後対称的な動作を繰り返す。
【0063】
これら2個のラック23,24の一端に、第1の昇圧部5の後述する第1のピストン32,42のアーム28,29を接続することにより、2個のピストンに180度位相の異なるプッシュプル動作を行わせることができ、この動力を昇圧部3の動力とする。ここでプッシュプル動作とは、一方のピストンが押し込む方向に押す動作(プッシュ動作)しているときには、他方のピストンが引き出す方向に引く動作(プル動作)をしていることをいう。
【0064】
次に、本発明を適用した切削切断装置1を構成する1次昇圧を行う第1の昇圧部5、2次及び3次昇圧を行う第2の昇圧部6による昇圧システムについて図5を用いて説明する。尚、図5は、昇圧システム全体の詳細を示す図である。
【0065】
この第1及び第2の昇圧部5,6は、上述したプッシュプルな動作を行う動力部4により駆動されることで昇圧を行う昇圧方式とされている。以下、この昇圧方式をプッシュプル方式と称す。第1及び第2の昇圧部5,6は、それぞれ、一対の同一構造を有するポンプからなり、一方のポンプ(A側)が押す動作(プッシュ動作)を行うと、他方の一方のポンプ(B側)は、引きの動作(プル動作)を行う。また、A側とB側は、後述のように帰還用油液連結配管80を介し互いの補助シリンダ室66,76を帰還用油液が循環する。 第1の昇圧部5は、筒状に形成されそれぞれの一方の側に油液と他方の側に水とが充填された一対の第1のシリンダ31,41と、この第1のシリンダ31,41内を摺動して往復運動される一対の第1のピストン32,42とを有する。
【0066】
第1のシリンダ31,41は、それぞれ、第1のピストン32,42の一方の側には油液が充填され第2の昇圧部6の駆動源としての油圧を発生させる油圧シリンダ室33,43として機能し、第1のピストン32,42の他方の側には水が充填され1次昇圧を行う1次昇圧室34,44として機能する。
【0067】
すなわち、第1のピストン32,42が第1のシリンダ31,41内に押し込まれる(プッシュ動作される)と、油圧シリンダ室33,43の内部の油液を圧縮して昇圧して2次及び3次昇圧を行う第2の昇圧部6の駆動源としての油圧を発生させるとともに、1次昇圧室34,44に水を注水させる。その一方で、第1のピストン32,42が第1のシリンダ31,41内から引き出される(プル動作される)と、1次昇圧室34,44の内部の水を圧縮して昇圧して1次昇圧水として第2の昇圧部6側へ送り出す。このように、第1のピストン32,42と、第1のシリンダ31,41の1次昇圧室34,44とは、1次昇圧ポンプとして機能する。
【0068】
また、第1のシリンダ31、41の1次昇圧室34,44には、シリンダ内へ注水を行うための注水口電磁バルブ35,45と、シリンダ内で発生気泡を脱気するための脱気用電磁バルブ36,46と、昇圧した1次昇圧水を次の工程に送るためのチェックバルブ37,47とが設けられている。
【0069】
また、第1のシリンダ31,41の油圧シリンダ室33,43には、第2の昇圧部6に油圧を供給するための油圧伝達配管9として、連結ホース等の油液用の連結配管38,48が設けられている。
【0070】
また、第1の昇圧部5は、注水口電磁バルブ35,45を介して第1のシリンダ31,41に注水するための注水口39,49と、チェックバルブ37,47を介して第1のシリンダ31,41に接続される1次昇圧水配管40,50と、この1次昇圧水配管40,50に接続され、この1次昇圧水を第2の昇圧部6に送る前に貯留するための1次昇圧水タンク51とを有する。
【0071】
第1の昇圧部5では、そのA側において、一方の第1のピストン32が図5中矢印X3方向に摺動されると、第1のシリンダ31の1次昇圧室34内へ水道水がFw11に示すように注水口電磁バルブ35を通り1次昇圧室34に注入される。
【0072】
注水口電磁バルブ35を適当なところで励起すると弁が閉まり水の注水が止まり1次昇圧室34の気圧が一気に下がり水の中に溶け込んでいた空気が気泡A1となって出現する。
【0073】
一方、B側では、他方の第1のピストン42は、図5中矢印X4方向に摺動されており、第1のピストン42が引き出される方向に引く動作するとき、気泡は、第1のシリンダ41の上部に集まり、さらに第1のピストン42が始点に近づくと気泡は、大きくまとまって圧縮空気A2となる。圧縮空気A2は、第1のシリンダ41の上部に設けられた脱気用電磁バルブ46を通ってA3のように排気される。
【0074】
一方、脱気されるとともに圧縮して昇圧された1次昇圧水は、チェックバルブ47を押し開き、Fw12に示すように1次昇圧水配管50を経由して1次昇圧水タンク51に導かれ蓄えられる。
【0075】
1次昇圧水タンク51に蓄えられた1次昇圧水は、約2メガパスカル程度に昇圧されており、一部は切断物を搭載する架台の洗浄水に使われる。
【0076】
1次昇圧水タンク51に蓄えられた水の大部分は、さらに高圧水となるように昇圧するために第2の昇圧部6の後述する2次昇圧室67,77に導かれ、第2の昇圧部6のプロセスで昇圧される。
【0077】
次に、第1の昇圧部5における流体としての水中に溶け込んでいる空気等の気体成分の脱気処理の動作について、図6及び図7を用いて詳細を説明する。
【0078】
超高圧水を空気圧中に噴射すると水中に溶け込んでいる空気等の気体成分の急激な膨張がウォータジェットの放射力を減少させる。水を超高圧に昇圧する前に水中に融けている気体の除去が重要となる。この対策として、切削切断装置1においては、往復運動をする1次昇圧ポンプとしての第1の昇圧部5に、脱気機能を有するようにし、水中の気体成分を除去する構造としている。
【0079】
これは、噴射部2から噴射される高圧流体は、大気中において一気に減圧されるため、流体中に空気等の気体が溶け込んでいると気泡が発生し、噴射流体のエネルギーの減少を招くことを防止するためである。また、他の理由として、気泡状態で昇圧部3で昇圧される流体に空気が混入している場合に、水は圧縮しても体積が変化しないが、気体が混入していると気体は収縮してしまうため圧縮の緩衝作用を起こし、エネルギー伝達を妨げることになるが、これを防止するためである。
【0080】
第1の昇圧部5の部分の動作について図6及び図7を用いて詳細に説明する。尚、ここでは、A側の第1のピストン32の動作について説明するが、B側の第1のピストン42については、このA側の第1のピストン32と反対の動作をすることを除いて同様の動作をするものとして、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0081】
第1の昇圧部5は、図6に示すステップ1と、図7に示すステップ2とを繰り返すことで、噴出流体である水の1次昇圧と、第2の昇圧部6の駆動源となる油圧の発生と、水中に溶け込んだ気体成分の脱気処理を行う。まず、図6に示すステップ1において、第1のピストン32を押すと油圧シリンダ室33の油液が圧縮して押され、油液が図6中Fo1方向に流動され、これが連結配管38を介して後述する油圧伝達シリンダ室61へ導かれる。このとき、1次昇圧室34には、常圧の水が注水され、注水口電磁バルブ35を適当なところで閉じることにより注水された水は減圧され、溶け込んでいた気体が気泡A1となって現れる。
【0082】
次に、図7に示すステップ2で、第1のピストン32をピストンの摺動方向である図7中矢印X4方向に引く動作を行う。この段階で、気体は水より軽い性質を利用して、水と気体とを分離する。この気体は、1次昇圧室34からさらに第1のシリンダ31の端部の部分に集まり、さらに第1のピストン32に押されて脱気用電磁バルブ36を開くと一気に排気される。一方、脱気されるとともに、第1のピストン32により圧縮され得られた1次昇圧水は、チェックバルブ37から押出され、1次昇圧水タンク51に送られて貯蔵される。1次圧縮水は、さらに、次の昇圧プロセスを経て最終的に超高圧水として放射される。そのとき、水中の気体に影響されない大きな水圧を得ることができる。
【0083】
上述のような構成を備える第1の昇圧部5は、水の1次昇圧と、水中の気体成分の脱気処理と、油圧の圧縮とを同一のピストンの両ピストン面を介して同時に行えるため、効率のよい安価な装置を実現できる。
【0084】
第2の昇圧部6は、図5に示すように、筒状に形成されそれぞれの一方の側に駆動力伝達用の油液と他方の側に帰還用の油液とが充填された一対の駆動力伝達シリンダ60,70と、この駆動力伝達シリンダ60,70内を摺動して往復運動する油圧伝達ピストン部63,73を有する一対の第2のピストン62,72と、駆動力伝達シリンダ60,70と一体に形成されるシリンダに形成され、水の2次昇圧を行う2次昇圧室67,77と、駆動力伝達シリンダ60,70と一体に形成されるシリンダに形成され、水の3次昇圧を行う3次昇圧室84,94とを有する。
【0085】
駆動力伝達シリンダ60,70は、それぞれ、油圧伝達ピストン部63,73の一方の側には上述した油圧シリンダ室33,43と連結配管38,48により連結されて駆動力を伝達するための油液が充填され油圧伝達シリンダ室61,71として機能し、油圧伝達ピストン部63,73の他方の側には帰還用油液が充填され補助シリンダ室66,76として機能する。
【0086】
そして、この一対の補助シリンダ室66,76は、帰還用油液連結配管80により連結され、互いに充填された帰還用油液が循環可能な構造とされている。
【0087】
この第2のピストン62,72は、第1の昇圧部5の油圧シリンダ室33,43により昇圧・減圧された油液の油圧によりこの第2のピストン62,72を往復駆動するための油圧伝達ピストン部63,73と、2次昇圧室67,77内を往復運動する2次昇圧ピストン部64,74と、3次昇圧室84,94内を往復運動する3次昇圧ピストン部65,75とを有して一体に形成されている。
【0088】
2次昇圧ピストン部64,74と、3次昇圧ピストン部65,75とは、油圧伝達ピストン部63,73と一体に形成されているので、油圧伝達ピストン部63,73が駆動されることにより、同方向に同じ距離だけ駆動される。
【0089】
第2のピストン62,72の油圧伝達ピストン部63,73は、その駆動方向に直交する面の面積が、第1のピストン32,42のピストン部の面積より大きくなるように形成されている。
【0090】
また、2次昇圧ピストン部64,74の駆動方向に直交する面の面積は、油圧伝達ピストン部63,73の面積より小さく形成されている。3次昇圧ピストン部65,75の駆動方向に直交する面の面積は、2次昇圧ピストン部64,74の面積より小さく形成されている。
【0091】
第2の昇圧部6の2次昇圧室67,77は、第2のピストン62,72の2次昇圧ピストン部64,74が内部で摺動して往復運動されることで、1次昇圧水が注入され、又は、この1次昇圧水を圧縮して2次昇圧水を生成する。このように、第2のピストン62,72の2次昇圧ピストン部64,74と、2次昇圧室67,77とは、2次昇圧ポンプとして機能する。
【0092】
2次昇圧室67,77には、シリンダ内へ1次昇圧水の注入を行うための注水用電磁バルブ68,78と、昇圧した2次昇圧水を次の工程に送るためのチェックバルブ69,79とが設けられている。
【0093】
また、第2の昇圧部6は、注水用電磁バルブ68,78を介して1次昇圧水タンク51に2次昇圧室67,77を接続するための1次昇圧水配管81,91と、チェックバルブ69,79を介して2次昇圧室67,77に接続される2次昇圧水配管82,92と、この2次昇圧水配管82,92に接続され、この2次昇圧水を3次昇圧室84,94に送る前に貯留するための2次昇圧水タンク83とを有する。
【0094】
第2の昇圧部6の2次昇圧の動力及び後述する3次昇圧の動力は、第1の昇圧部5の第1のピストン32,42が往復運動される工程において昇圧された油液の連結配管38,48を通して油圧伝達シリンダ室61,71に流入、流出される油液の圧力である。例えば、油圧シリンダ室33から連結配管38を通して油圧伝達シリンダ室61に流入し、一方の第2のピストン62を押すA側のプッシュ圧力と、反対に油圧伝達シリンダ室71から連結配管48を通して油圧シリンダ室43に流出され、他方の第2のピストン72を引くB側のプル圧力である。
【0095】
第2のピストン62,72を押す油圧は、数メガパスカル程度の圧力の油液が使われる。この動作は、第1の昇圧部5にプッシュプルな動力が加えられている限りA側とB側で交互に繰り返される。
【0096】
2次昇圧を行う第2の昇圧部6の動作は、2次昇圧室67,77への1次昇圧水の注入工程と、この1次昇圧水を圧縮して2次昇圧水を生成する圧縮行程とがあり、一対の2次昇圧室67,77を構成するシリンダのうち一方のシリンダが注水動作のときは、他方のシリンダは、圧縮動作を行っている。
【0097】
注入工程は、1次昇圧水タンク51で蓄えられた1次昇圧水が、A側の1次昇圧水の注水用電磁バルブ68へ接続され、注水用電磁バルブ68が開くと2次昇圧室67に1次昇圧水がFw21に示すように注入される。
【0098】
一方、B側の2次昇圧室77では、2次昇圧が行われる。2次昇圧水の圧力が規定の値を超えると、2次昇圧水は、チェックバルブ79を押し、Fw22に示すように連結配管を通って2次昇圧水タンク83に蓄えられる。
【0099】
第2の昇圧部6の第2のピストン62,72は、2次昇圧及び3次昇圧とともに、駆動源である油圧伝達シリンダ室61,71中の油液中の気泡の発生を防止する役割をしており、同時にこの三種類の役割を果たす。例えば、A側において、上述のように図5中矢印X5方向に駆動された第2のピストン62は、反対側の補助シリンダ室66の油液を同時に押し出す。
【0100】
補助シリンダ室66内の押し出された油液は、もう一方(B側)の補助シリンダ室76に流れ込み、もう一方(B側)の第2のピストン72が図5中矢印X6方向に働くのを助ける。
【0101】
第1の昇圧部5の第1のピストン42が図5中矢印X4方向に動くとき油圧伝達シリンダ室71、油圧シリンダ室43は、真空に引かれるが、帰還用油液が補助シリンダ室66から図5中矢印Fo2方向に補助シリンダ室76に流入し、この帰還用油液が油圧伝達ピストン部73を介して、同時に油圧伝達シリンダ室71内の油液を37の図5中矢印Fo3方向に押し出す。その結果、油圧シリンダ方式の欠点である油圧シリンダ室43、油圧伝達シリンダ室71での気泡の発生を防止することができる。
【0102】
第2の昇圧部6の3次昇圧室84,94は、第2のピストン62,72の3次昇圧ピストン部65,75が内部で摺動して往復運動されることで、2次昇圧水が注入され、又は、この2次昇圧水を圧縮して3次昇圧水を生成する。
【0103】
3次昇圧室84,94には、シリンダ内へ2次昇圧水の注入を行うための2次昇圧水の注水用電磁バルブ85,95と、昇圧した3次昇圧水を噴射部2に送るための超高圧水用のチェックバルブ86,96とが設けられている。
【0104】
また、第2の昇圧部6は、3次昇圧室84,94と2次昇圧室67,77との間に、2次昇圧室及び3次昇圧室を構成するシリンダの2次昇圧室及び3次昇圧室の間の領域の空気の流通を行う空気通気口87,97を有する。
【0105】
また、第2の昇圧部6は、注水用電磁バルブ85,95を介して3次昇圧室84,94を2次昇圧水タンク83に接続するための2次昇圧水配管88,98と、チェックバルブ86,96を介して噴射部2に接続される3次昇圧水配管89,99とを有する。
【0106】
3次昇圧室84,94及び第2のピストン62,72の3次昇圧ピストン部65,75は、超高圧のパルス的なウォータジェットである3次昇圧水を生成する。この部分は、3次昇圧室(A側)84が昇圧動作のとき3次昇圧室(B側)94は、注水動作を行う。このように、第2のピストン62,72の3次昇圧ピストン部65,75と、3次昇圧室84,94とは、3次昇圧ポンプとして機能する。
【0107】
第2のピストン62は、2次昇圧ピストン部64と、3次昇圧ピストン部65とが一体に形成されており、同時に同じ方向へ動作する。また、第2のピストン72は、2次昇圧ピストン部74と、3次昇圧ピストン部75とが一体に形成されており、同時に同じ方向、かつ第2のピストン62と反対方向へ動作する。
【0108】
3次昇圧室84,94及び3次昇圧ピストン部65,75は、第2のピストン62,72のプッシュ動作に同期して、上述のように、パルス状の高圧流体である3次昇圧水を生成する。すなわち、例えば、第2のピストン62が図5中矢印X方向に駆動されたときに、この動作に同期して、換言すると、第2のピストン62を駆動する第1のピストン32に同期して、第2のピストン62が駆動した時間だけ瞬間的に均一圧力の3次昇圧水(ウォータジェット)を出射させる。ここで、上述のパルス幅は、この第2のピストン62がプッシュ方向に駆動した時間、すなわち、第1のピストン32がプッシュ方向に駆動した時間である。
【0109】
このように、油圧により第2のピストン62,72が図5中矢印X5方向に押されると3次昇圧室84,94に注水された2次昇圧水は、超高圧に圧縮され3次昇圧水とされる。圧縮された3次昇圧水は、Fw31に示すように超高圧チェックバルブ86,96を押し開き、噴射される。
【0110】
B側では、2次昇圧水タンク83から2次昇圧水がFw32に示すように注水用電磁バルブ95を通って、3次昇圧室94へ供給されている。
【0111】
次に、第2の昇圧部6における油圧を使った第2のピストン62,72のプッシュプル動作の、プル動作中に発生する油液中の気体の発生を減少させ昇圧効率をアップさせる方法について説明する。
【0112】
2次及び3次昇圧を行う第2の昇圧部6の駆動源、すなわち、エネルギー伝達部となる油圧伝達シリンダ室61,71でのエネルギーロスを少なくするために、油圧伝達シリンダ室61,71の第2のピストン62,72の反対側に、それぞれ補助シリンダ室66,76を設け、この補助シリンダ室66,76を帰還用油液連結配管80で接続するとともに、この補助シリンダ室66,76に帰還用の油液を充満させる構造とした。以下に、この構造及びその作用について図8を用いて詳細を述べる。
【0113】
帰還用の油液は、補助シリンダ室66,76のスペースに充満されており、帰還用油液連結配管80を介して補助シリンダ室66と補助シリンダ室76との間を行き来する。第
2のピストン62,72は、そのA側がプッシュ動作の場合、B側はプル動作となる。尚、プル動作においては、油圧伝達シリンダ室61,71内の油圧が減圧され、油液に含有した気体成分が発泡する。油液中に気泡が含有されると、気泡が圧縮のクッションとなり、効率的な圧縮が不可能となる。この発泡を減少させるために、液体が第2のピストン62,72を押しプル動作での油圧の低下を防いでいる。
【0114】
尚、この機能を実現する構造としては、駆動力伝達シリンダ60,70間をパイプで接続する構成としてもよいが、上述の図8に示すように、2個のシリンダを一体化して、その間を貫通させ帰還用油液が両ピストン62,72の動作で図8中矢印Fo2方向に、又はこの反対方向に自由に循環できる様な構造とすることで、安価で高性能な構成とすることができる。
【0115】
次に、第2のピストン62,72に、2次昇圧及び3次昇圧を行う2個の2次昇圧ピストン部64,74及び3次昇圧ピストン部65,75を一体に形成することで、水の昇圧効率を向上させたことについて述べる。
【0116】
第2のピストン62,72は、第1の昇圧部5で圧縮された油液の圧力を用いて動作する。油圧で駆動されるピストンにおいて、圧力一定の場合、出力は、面積に比例するという原理を利用して力を増幅している。一方、2次昇圧ピストン部及び3次昇圧ピストン部が一体に形成された第2のピストン62,72による2次昇圧と3次昇圧の関係は、力が一定の場合、圧力は、面積に逆比例するという原理を利用して圧力を増幅している。
【0117】
具体的に、例えばA側を用いて説明すると、第2のピストン62の油圧伝達ピストン部63は、第1のピストン32及び油圧シリンダ室33により圧縮された油液を連結配管38を介して供給されることで駆動される。そして、この油圧伝達ピストン部63のピストン面の面積は、第1のピストン32のピストン面の面積より大きくされている。油圧で駆動される第2のピストン62の場合、圧力一定の場合、出力は、面積に比例する原理を利用しているので、力を増幅することができる。
【0118】
そして、第2のピストン62においては、2次昇圧ピストン部64のピストン面の面積は、油圧伝達ピストン部63のピストン面の面積より小さく形成され、3次昇圧ピストン部65のピストン面の面積は、この2次昇圧ピストン部64のピストン面の面積よりさらに小さく形成されている。一体に形成された第2のピストン62においては、力が一定であるので、圧力は、面積に逆比例するという原理を利用しているので、2次昇圧ピストン部64で発生する圧力は増幅され、3次昇圧ピストン部65で発生する圧力はさらに増幅されたものとなり、2次昇圧ピストン部64及び2次昇圧室67では、1次昇圧水をさらに圧縮して2次昇圧水とすることができ、3次昇圧ピストン部65及び3次昇圧室84では、2次昇圧水をさらに圧縮して超高圧の流体である3次昇圧水とすることができる。尚、ここでは、A側を用いて説明したが、B側においても同様である。
【0119】
図9は、第2の昇圧部6の一対のシリンダの内一方(A側)のシリンダの断面図である。第2のピストン62は、一体に形成されており各部での力が一定となるように油圧伝達ピストン部63、2次昇圧ピストン部64及び3次昇圧ピストン部65が直結して形成されている。第1のピストン32及び第1のシリンダ31が油液を図9中矢印Fo1方向に押すと、油液が油圧伝達シリンダ室61に流入し、第2のピストン62の油圧伝達ピストン部63を押す。油圧伝達ピストン部63と2次昇圧ピストン部64及び3次昇圧ピストン部65とは、一体に連結されているため、第2のピストン62の力がそのまま、2次昇圧水及び超高圧昇圧水である3次昇圧水に伝達される。このとき、2次昇圧室及び3次昇圧室を構成するシリンダ内の空気A4が空気通気口87を介して外部に排出される。
【0120】
油圧伝達を行う油圧伝達ピストン部63、2次昇圧ピストン部64及び3次昇圧ピストン部65を一体化することで、小型、軽量、経済的な昇圧構造を実現できる。
【0121】
このように、本発明を適用した切削切断装置1は、昇圧用ピストンの圧縮の周期に同期して、パルス状の超高圧水を噴射して、物体のカッティングを行うパルス水圧を用いた装置である。
【0122】
すなわち、切削切断装置1は、被切断物に対して流体を噴射する噴射部2と、噴射部2に供給する流体を昇圧用ピストン32,42,62,72の圧縮動作により昇圧する昇圧部3とを備え、この昇圧用ピストンの圧縮動作の周期に同期して、パルス状の高圧流体を噴射部2から噴射することで被切断物の切削切断を行うことにより、従来必要であった、超高圧水の配管の引き回しや、リザーブタンクを不要とする。さらに、切削切断装置1は、水の昇圧効率を大幅にアップでき、小さな動力で、安価で携帯可能なウォータジェットの切断装置を実現させることが可能となり、安全でスピーディな切削切断を実現し、例えば、マーブルタイル等の加工品の効率化が可能となる。
【0123】
上述のように、本発明は、超高圧水を得るための効率を大幅に改善し、従来の装置に比べて約1/10の動力での駆動を実現させ、簡単に携帯可能にしたウォータジェット方式の切削切断装置を実現するものである。本発明を適用した切削切断装置1は、水の圧縮方式や圧縮過程において、効率アップのための多くの発明により、従来方式に比べ効率を数倍以上アップさせることで、小さな動力での切断装置を可能とした。それにより外形も小型化でき建設現場への持ち運びも可能な装置を作成することが可能となる。
【0124】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施例に限定されるものではなく、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な変更、置換又はその同等のものを行うことができることは当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】従来のウォータジェットを用いた切削切断装置の第1の方式の構成を模式的に示す図である。
【図2】従来のウォータジェットを用いた切削切断装置の第2の方式の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明が適用された切削切断装置の基本的な構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明を適用した切削切断装置を構成する動力部を示す斜視図である。
【図5】本発明を適用した切削切断装置を構成する昇圧部の全体図である。
【図6】切削切断装置を構成する第1の昇圧部のピストンがプッシュ動作した際の水の注入される状態及び気泡が発生した状態を示す断面図である。
【図7】第1の昇圧部のピストンがプル動作した際の水中に発生した気泡を脱気し、1次昇圧水を次の工程に供給する状態を示す断面図である。
【図8】切削切断装置を構成する第2の昇圧部を示す断面図である。
【図9】第2の昇圧部の一方のシリンダを示す断面図である。
【符号の説明】
【0126】
1 切削切断装置、 2 噴射部、 3 昇圧部、 4 動力部、 5 第1の昇圧部、 6 第2の昇圧部、 8 1次昇圧水配管、 9 油圧伝達配管、 31,41 第1のシリンダ、 32,42 第1のピストン、 33,43 油圧シリンダ室、 34,44 1次昇圧室、 35,45 注水口電磁バルブ、 36,46 脱気用電磁バルブ、 51 1次昇圧水タンク、 60,70 駆動力伝達シリンダ、 61,71 油圧伝達シリンダ室、 62,72 第2のピストン、 63,73 油圧伝達ピストン部、 64,74 2次昇圧ピストン部、 65,75 3次昇圧ピストン部、 66,76 補助シリンダ室、 67,77 2次昇圧室、 80 帰還用油液連結配管、 83 2次昇圧水タンク、 84,94 3次昇圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切断物に対して流体を噴射する噴射部と、
昇圧用ピストンを有し、上記噴射部に供給する流体を、上記昇圧用ピストンの圧縮動作により昇圧する昇圧部とを備え、
上記昇圧用ピストンの圧縮動作の周期に同期にして、パルス状の高圧流体を上記噴射部から噴射して上記被切断物の切削若しくは切断を行う切削切断装置において、
上記昇圧部は、上記昇圧用ピストンを摺動可能に内部に配置される昇圧用シリンダと、注水用バルブと、脱気用バルブとを有し、上記昇圧用ピストンを一方向に摺動させて上記昇圧用シリンダの内部へ上記流体を注入する際に上記注水用バルブを閉として上記昇圧用シリンダ内部の圧力を減圧し、上記流体中の気体成分を気泡として発生させ、上記昇圧用ピストンを他方向に摺動させて上記昇圧用シリンダの内部の上記流体を昇圧する際に、上記脱気用バルブを開として上記気泡を排出する切削切断装置。
【請求項2】
上記昇圧部は、油圧により駆動される油圧ピストン部と、上記油圧ピストン部に一体に形成され、上記油圧ピストン部より面積が小さく形成される第1のピストン部と、上記油圧ピストン部に一体に形成され、上記第1の油圧ピストン部より面積が小さく形成される第2のピストン部とを有し、上記油圧ピストン部が上記油圧により移動することにより、上記第1のピストン部により上記流体の昇圧を行うとともに、上記第2のピストン部により上記流体のさらに高圧でパルス的な昇圧を同時に行う請求項1記載の切削切断装置。
【請求項3】
上記昇圧部は、一対のシリンダと、油圧により駆動され上記一対のシリンダ内をプッシュ動作及びプル動作を交互に行う一対のピストンと、上記一対のシリンダの上記一対のピストンの上記油圧により駆動される側と反対側に充填される帰還用油液と、上記一対のシリンダの上記帰還用油液が充填される側を上記帰還用油液が循環可能に接続する連結配管とを有する請求項1記載の切削切断装置。
【請求項4】
上記昇圧部の動力部は、回転動作されるピニオンと、上記ピニオンに噛合され、上記ピニオンが回転動作されることにより移動操作される第1のラックと、上記ピニオンに噛合され、上記ピニオンが回転動作されることによって上記第1のラックと反対方向に移動操作される第2のラックとを有し、
上記昇圧部は、一対の昇圧ピストンを有し、上記第1及び第2のラックの直線動作により上記一対の昇圧用ピストンが駆動されて、上記流体を圧縮してパルス状の高圧流体を生成する請求項1記載の切削切断装置
【請求項5】
上記動力部は、上記ピニオンに回転駆動力を伝達する電磁式又は機械式のクラッチを有し、
上記クラッチは、電気的又は機械的な制御により、上記昇圧部で背制するパルスの高圧流体のパルス幅を制御して、切削切断動作のオンオフ及び切削切断速度の調整を行う請求項4記載の切削切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−272933(P2008−272933A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210054(P2008−210054)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【分割の表示】特願2007−555412(P2007−555412)の分割
【原出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(507395784)
【Fターム(参考)】