説明

切断用はさみ

【課題】本発明は、切れ味およびその持続性に優れた切断用はさみを提供し、この切断用はさみは特に理美容用のはさみとして好適である。
【解決手段】裏刃および表刃ならびにそれらが出会う切れ刃稜を有する一対の刃板を枢動可能に交差軸支して構成され、前記一対の刃板を互いに重ねて被切断物をせん断により切断する切断用はさみであり、刃板の裏刃が0.002〜0.5μmの厚さのダイヤモンド状炭素で被覆されてなる切断用はさみ。好適には、さらに刃板の切れ刃稜および表刃は0.001〜0.5μmの厚さのダイヤモンド状炭素で被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理美容用等に好適な切断用はさみに関する。
【背景技術】
【0002】
理美容用はさみに代表される切断用はさみは、裏刃と表刃を備えており、裏刃で調子を整えて表刃の研ぎ出しで切れ味を出すことが知られている。理美容用はさみにおいては、完璧に調整されたはさみは産毛が剃れる状態が刃元から刃先端まで持続する。しかしながら、はさみの一般的な材質である鋼材をいかに厳選しても、このような切れ味を3ヶ月以上持続させることは困難であった。
【0003】
そこで、切れ味の持続性を向上させるために炭化タングステン(WC)を刃の表面に蒸着して被覆することも提案され、約12ヶ月間切れ味を持続しうることが確認されている。
【0004】
一方において、切断という点では軌を一にするが、はさみとは構造が全く異なるものとしてスリッターナイフがあり、主として鉄板等の金属薄板もしくはガラス板等の硬質材料で形成される板体を円盤状の切断刃のすり合わせ部分で連続的に切断するために工業的に広く使用されている。そして、このスリッターナイフとしては人工ダイヤモンドの粉末を焼結させたダイヤモンド焼結体、もしくは超硬材を素材とする。この超硬材を素材とした超硬スリッターナイフは、ダイヤモンド焼結体に比し安価であるが、その寿命が短く、頻繁に交換する必要が生じ手間とコストが嵩み、かつ生産ラインにおける生産効率が低下するという問題があった。そこで、超硬スリッターナイフの刃をダイヤモンド状炭素で被覆することにより低コストで長寿命の超硬スリッターナイフを得ることが提案されている(特許文献1および特許文献2)。
【0005】
さらに、上記の方法ではスリッター刃先に被覆が集中するために切れ味および寿命が不十分であるとし、この点をさらに改良するために刃先の先端角を65°以下、刃先先端を曲率半径5μm以下のシャープエッジとし、少なくとも刃先先端のダイヤモンド状炭素の膜厚を0.01〜0.5μmとした超硬スリッターナイフも提案されている(特許文献3)。
【0006】
本発明者は、先に切断用はさみの切れ味の持続性をさらに向上させるべく、その刃板の刃部、すなわち裏刃および表刃にダイヤモンド状炭素を被覆する検討を重ねてきた。しかしながら、得られた切断用はさみは切れ味に難があり、目的を達成するには到らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−72224号公報
【特許文献2】特開平10−146714号公報
【特許文献3】特開2005−46935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決し、切れ味およびその持続性に優れた切断用はさみを得るためにさらに種々検討を行い、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)裏刃および表刃ならびにそれらが出会う切れ刃稜を有する一対の刃板を枢動可能に交差軸支して構成され、前記一対の刃板を互いに重ねて被切断物をせん断により切断する切断用はさみであり、刃板の裏刃が0.002〜0.5μmの厚さのダイヤモンド状炭素で被覆されてなる切断用はさみ;
(2)さらに刃板の切れ刃稜および表刃が0.001〜0.5μmの厚さのダイヤモンド状炭素で被覆されている(1)記載の切断用はさみ;
(3)表刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さが、刃板の切れ刃稜から峰方向に進むにつれて実質的に小さくなるように形成されてなる(2)記載の切断用はさみ;
(4)表刃が刃板の切れ刃稜近傍においてのみダイヤモンド状炭素で被覆されている(2)もしくは(3)の切断用はさみ;
(5)表刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さが裏刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さ以下である(2)〜(4)のいずれか記載の切断用はさみ;ならびに
(6)切断用はさみが理美容用はさみである(1)〜(5)のいずれか記載の切断用はさみ、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、切れ味に優れ、かつ優れた耐摩耗性により切れ味の持続性に優れた切断用はさみを得ることができ、この切断用はさみは特に理美容用のはさみとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】刃板の裏刃、切れ刃稜および表刃をダイヤモンド状炭素で被覆した、本発明の理容用のはさみの刃板部分の横断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の切断用はさみは、裏刃および表刃ならびにそれらが出会う切れ刃稜を有する一対の刃板を枢動可能に交差軸支して構成され、前記一対の刃板を互いに重ねて被切断物をせん断により切断する切断用はさみである。このような切断用はさみは標準はさみを含み、理美容用はさみ、裁ちばさみ、紙ばさみ、等が挙げられるが、本発明の効果を最大限に享受しうるのは理美容用はさみであり、漉きばさみ(トリマー用はさみ)を含む。この理美容用はさみにおいては、上記の一対の刃板の枢動、すなわち開閉は通常35g以下の力で行なわれる。
【0013】
本発明の切断用はさみは、その材質がステンレス鋼等の鋼材であるのが通常であり、刃板の裏刃が0.002〜0.5μmの厚さのダイヤモンド状炭素で被覆されてなる。被覆は、通常裏刃全面に行なうが、その峰側の一部を被覆しなくてもよく、たとえば稜側から200μm程度以上被覆されていればよい。その厚さが0.002μmより小さいと、ダイヤモンド状炭素で被覆の効果が得られにくく、一方0.5μmより大きいと優れた切れ味を作出しにくい。これらの厚さは切断目的、被覆するダイヤモンド状炭素の硬度等の性状により適宜、上記の範囲から選定しうる。
【0014】
ダイヤモンド状炭素の被覆は常法によることができる。たとえば、気相法が好適に用いられ、直流、交流もしくは高周波等を電源とするプラズマCVDまたはマグネトロンスパッタもしくはイオンビームスパッタ等のスパッタ法が挙げられる。ダイヤモンド状炭素の水素含有量を減少させて硬度を大きくするために、たとえば、フッ素を含むエッチングプラズマに供することができ、実質的に水素を含まないものも得ることができる。
【0015】
そして、ダイヤモンド状炭素は、セグメントに分割して形成された膜を堆積してなるセグメント構造を有するように形成することができる。この場合には、理美容用はさみとして使用するとき、大量の毛髪を一度に切断する長めのはさみには、セグメント間の間隙もしくはそこに形成される溝部による引っ掛かり効果に起因すると思われる、切れ味の向上が期待されうる。
【0016】
セグメント構造は、たとえば成膜時に、所定の形状のセグメントが得られるように間隔部分に対応する大きさ、形状でマスキングすることにより形成しうる。セグメントの形状は特に制限されず、三角形、四角形、円形等を適宜選択しうる。このセグメントの大きさは1辺または外径1μm〜3mmから選ばれるのが通常である。隣接するセグメントの間隔は通常0.1μm〜1mmの範囲から選択される。また、セグメントの間の部分に溝を形成することもでき、その断面形状は任意であり、たとえばV字型、U字型等が選ばれる。
【0017】
本発明の切断用はさみは、好適には、さらに刃板の切れ刃稜および表刃が0.001〜0.5μm、好ましくは0.001〜0.2μm、の厚さのダイヤモンド状炭素で被覆されている。0.001μmより小さいと、ダイヤモンド状炭素で被覆の効果が得られにくく、一方0.2μmより大きいと優れた切れ味を作出しにくい。さらに好ましくは、表刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さは、刃板の切れ刃稜から峰方向に進むにつれて実質的に小さくなるように形成されてなる。そして、切れ味の点からは、ダイヤモンド状炭素は刃板の切れ刃稜を少し回りこみ、切れ刃稜近傍の表刃においてのみダイヤモンド状炭素で被覆されているのが好ましい。切れ刃稜近傍としては、200μm程度までが特に好適である。そして、さらに表刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さは、裏刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さ以下、好ましくは裏刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さよりも小さいのが好適である。
【0018】
本発明の切断用はさみにおいて、切れ刃稜は曲率半径が小さいほうが好ましく、そしてその先端角は切れ味と刃こぼれの調和の点からは、30〜45度程度から選定されるのが好ましい。
【0019】
図面について説明すると、図1は刃板の裏刃、切れ刃稜および表刃をダイヤモンド状炭素で被覆した、本発明の理美容用のはさみの刃板部分の横断面模式図であり、ダイヤモンド状炭素4は裏刃1から切れ刃稜3を回り込み、表刃2の切れ刃稜3の近傍まで被覆されている。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えないかぎりこれらの実施例に限定されない。
実施例1〜2および比較例1〜3
(1)理美容用はさみの刃板へのダイヤモンド状炭素被覆
ステンレス鋼製理美容用はさみの刃板の裏刃および/または表刃を、下記の合成条件で表1に示す膜厚のダイヤモンド状炭素で被覆した。マスキングはステンレス鋼もしくはタングステンのメッシュを設置して行なった。
合成方法 パルスプラズマCVD法
原料ガス C2H2
合成圧力 3Pa
合成電圧 −5.4kV
合成周波数 2.00kHz
なお、ステンレス鋼とダイヤモンド状炭素の密着力を高めるために、Siを含む層をCVD法により、テトラメチルシランを原料として厚さ0.5〜100nmの中間層を形成させた。
中間層原料 TMS(Si(CH3) 4)
合成圧力 3〜6Pa
流量[sccm(N2換算)] 10.3
イオン化ガス Ar
流量[sccm] 6.0
【0021】
【表1】

【0022】
(2)切れ味について理美容現場での官能試験結果を併せて表1に示す。なお、切れ味は、10 吸い込まれる;9 ほれぼれする上;8 ほれぼれする下;7 並上;6 並中;5 並下;4 下限、を評価段階とした。
【0023】
(3)耐摩耗性の評価
はさみの片方の刃板を固定して他方をソレノイドで上下させて開閉する開閉試験機を用いて、下記のはさみについて、耐摩耗性を評価した。その結果を、次に示す。
(i)ダイヤモンド状炭素被覆なし:20万回(通常使用4ヶ月に相当)切れ味が4未満となったので、試験中止(試験日7月6日)。
(ii)裏刃、切れ刃稜および表刃にダイヤモンド状炭素被覆(2.0μm)あり(切れ味7):50万回(切れ味7);100万回(切れ味7);150万回(通常使用2年半に相当)(切れ味6.5)(試験日7月6〜8日)。
(iii )裏刃にダイヤモンド状炭素被覆(0.5μm)あり(切れ味9):50万回(切れ味9);100万回(切れ味9);150万回(通常使用2年半に相当)(切れ味8.5)(試験日7月4〜6日)。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、切れ味およびその持続性に優れた切断用はさみを得ることができ、この切断用はさみは特に理美容用のはさみとして好適である。
【符号の説明】
【0025】
1 裏刃
2 表刃
3 切れ刃稜
4 ダイヤモンド状炭素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏刃および表刃ならびにそれらが出会う切れ刃稜を有する一対の刃板を枢動可能に交差軸支して構成され、前記一対の刃板を互いに重ねて被切断物をせん断により切断する切断用はさみであり、刃板の裏刃が0.002〜0.5μmの厚さのダイヤモンド状炭素で被覆されてなる切断用はさみ。
【請求項2】
さらに刃板の切れ刃稜および表刃が0.001〜0.5μmの厚さのダイヤモンド状炭素で被覆されている請求項1記載の切断用はさみ。
【請求項3】
表刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さが、刃板の切れ刃稜から峰方向に進むにつれて実質的に小さくなるように形成されてなる請求項2記載の切断用はさみ。
【請求項4】
表刃が刃板の切れ刃稜近傍においてのみダイヤモンド状炭素で被覆されている請求項2もしくは3記載の切断用はさみ。
【請求項5】
表刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さが裏刃のダイヤモンド状炭素の被覆の厚さ以下である請求項2〜4のいずれか1項記載の切断用はさみ。
【請求項6】
切断用はさみが理美容用はさみである請求項1〜5のいずれか1項記載の切断用はさみ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−130757(P2012−130757A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47643(P2012−47643)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2005−277673(P2005−277673)の分割
【原出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(507346889)株式会社iMott (3)
【Fターム(参考)】