説明

切歯または犬歯および歯セットの製造方法

【課題】一方で低コストに製造可能であるとともに他方で美観的に大幅に改善されそれにもかかわらず天然歯に近似した外観を示す、層状に形成された切歯あるいは犬歯を提供する。
【解決手段】象牙質材料(28)を少なくとも部分的に被覆する切縁材料(30)を有する層状に形成された切歯あるいは犬歯とする。象牙質材料がその咬合側端部(38)上に咬合方向に延在する隆起(42)および/または凹凸(42,46および48)を備え、それが歯の全長の0.05ないし0.4倍となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、請求項1前段に記載の層状に形成された切歯あるいは犬歯に関する。
【背景技術】
【0002】
歯、特に切歯または犬歯を層から形成することは久しい以前から知られている。その際切縁材料が象牙質材料の基底領域を除いてその象牙質材料を大部分において被包するように形成される。象牙質材料は任意の適宜な方式によって切縁材料と接合することができる。
【0003】
例えば独国特許出願公開第3827657号A1明細書(特許文献1)により、まず象牙質材料から基礎部材を形成し、その後その上に被覆成形を行うことが知られている。
【0004】
樹脂歯のみでなくセラミック歯も知られており、それは天然歯に近似した外観を達成するために切縁材料の層厚を変化させるものである。その一例が独国特許出願公開第1903935号明細書(特許文献2)の解決方式である。
【0005】
切縁材料が通常半透明であるのに対して、象牙質材料はむしろ不透明である。しかしながら、象牙質材料の透明性を高めることも提案されている。この場合、(特に金属フレームが使用されたとしても)しばしばその金属フレームを遮蔽するために特殊な不透明化剤が使用される。半透明性を生成するためにしばしば切縁材料が極めて厚く形成される。それによって所要の歯の半透明の外観がもたらされるものの、歯に対してむしろ“脆弱な”外観を与える。この既知の解決方式の改善が独国特許第10127728号明細書(特許文献3)によって知られている。
【0006】
独国特許第10127728号明細書(特許文献3)の解決方式によれば切縁材料が比較的薄くかつ不均一な層厚を有する。不均一な層厚によって天然歯に近似する外観が改善される。他方この歯は特に切端領域内においてそのためにむしろ不均質な効果をもたらす。また、象牙質材料を形成するために使用された射出口が切縁材料を介して見えないようにするために、層厚を過度に小さく選定すべきではない。この種の射出口は専ら技術的に機能するものであって美観的にはあまり満足し得るものではない。
【0007】
従って人工歯の“技術的な”印象を改善するためにこの数年あるいは数十年所定の色設定を介して天然の目標物への近似を改善することが試みられた。ここで挙げられるものは、歯科技工士の技術熟練度に依存し労働集約型であるにもかかわらず今日でもなお一般的に使用されている既知の塗装技術である。
【0008】
加えて、層内に色階調を形成することが提案されている。しかしながらこの解決方式は、特に空間中に存在し従って定義が難しい正確な基準点を確定しなければならないため、技術的な構成の観点から実現が極めて困難である。
【0009】
樹脂成形材の型出しのために可能な限り少ない切下げが存在するように型分離線を選択すべきであることが知られている。通常切下げを有する金型半部材の除去のためには高コストなスライダの実現が必要となり、加えてそれによって精度が影響を受ける。上記の観点からも典型的な歯、特に樹脂歯は通常切下げなしに切端側に向かって斜めに延在するように形成され、その際型分離は歯の“最も厚い”部分上で実施され、それは切歯の場合比較的切端領域の近くに存在し得る。このこともむしろ平滑および直線的な表面につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第3827657号A1明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第1903935号明細書
【特許文献3】独国特許第10127728号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の問題点の観点から本発明の目的は、一方で低コストに製造可能であるとともに他方で美観的に大幅に改善されそれにもかかわらず天然歯に近似した外観を示す、請求項1前段に記載の層状に形成された切歯あるいは犬歯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題は本発明に従って請求項1によって解決される。従属請求項には好適な追加構成が示されている。
【0013】
本発明によれば、層状に形成された本発明に係る切歯あるいは犬歯がその外形に関して全く固定的な事前設定に縛られないことが極めて好適である。それによって、切歯の場合実質的に直線的あるいは最大でも緩やかに起伏を有する切縁材料の切端側切縁を備えることが可能となる。このことは、天然のイメージを達成するために従来から努力されているような顕著に起伏を有した構成に比べて大幅な改善を示す。
【0014】
従って本発明によれば外側切縁の起伏あるいは凹凸がその部分の切縁材料の層厚の30%未満、特に20%未満、特に好適には10%となる。
【0015】
しかしながらこのことは本発明に係る咬合方向に延在する隆起および/または凹凸を有する構造の妨害となるものではない。本発明によれば象牙質材料の隆起および/または凹凸すなわち象牙質材料と切縁材料の境界層は、0ではないが歯の全長の半分よりも大幅に小さいものである所与の高さにわたって延在する。この凹凸あるいは隆起の高さは例えば歯の高さの1/20のとすることができる。このことは、前記と同様に例えば歯の高さの1/10あるいは1/20であり得る極めて小さな切縁材料の層厚を実現した場合に効果的である。しかしながら、凹凸の高さは顕著に大きく選択することもでき、そのことは半透明性を改善するために切縁材料の層厚を大幅に大きく、例えば歯高の20%あるいは30%に選択する場合に効果的である。
【0016】
従って本発明によれば切縁材料の層厚と隆起および/または凹凸の高さが互いに相関し、その際隆起高が小さい場合は切縁材料の層厚を隆起高よりも幾らか大きくし隆起高が大きい場合には切縁材料の層厚を隆起高よりも幾らか小さくすれば極めて好適である。
【0017】
本発明によれば意外なことに、簡便な手段によって切歯あるいは犬歯の視覚的特性を大幅に改善することができ、すなわち脆弱なイメージならびに極めて“技術的な”印象のいずれをも回避することができる。
【0018】
本発明によれば、比較的大きな切縁材料の層厚によって美観的に極めて上質なイメージを伴った加工が本発明によって可能になることが極めて好適である。層厚は例えば歯の長さの少なくとも20%とすることが好適である。このことは機械的に改善された構造を可能にするものであり、その理由は、例えばそれぞれ異なったセラミックタイプ(酸化ジルコニウムあるいは珪酸塩セラミック等)が使用される場合に切縁材料と象牙質材料が形成される化学物質が異なるためそれらの間の接着が容易に制御できずそのような場合に薄い層厚だと技術的に取り扱いが難しくなるためである。さらに大きな層厚がそれぞれ異なった複数のセラミック間において通常大きな問題となる多様な熱膨張係数に対しても安定性を改善させることが示された。
【0019】
意外なことに切縁材料の剥落傾向が顕著に低くなり、その際本発明に従った起伏の形成によって接着も明らかに改善されるため、それが剥離傾向の低下にも効果的である。
【0020】
従って切縁材料と象牙質材料の間の境界層上における起伏の形成は2つの機能をもたらす。この点に関して改善が達成されることは意外なことであり、その理由はセラミック表面の粗さは既知であるためであり、本発明によれば切縁材料の象牙質材料に対する境界面ならびに象牙質材料の切縁材料に対する境界面のいずれについても加工が施されなければ極めて好適である。その点に関してむしろ境界層の形状設定のために特殊に形成されたコア型によって実施することが好適であり、その際コア型はその切端側あるいは咬合側末端上に後に象牙質材料と切縁材料の間の境界面が有すべき表面構造、隆起、ならびに起伏を有する。
【0021】
この製造は、本発明に係る歯の形成のためにまず切縁材料を注型しその後象牙質材料を注型すれば好適である。
【0022】
それに代えて内側から外側への層化も可能である。その方法においてはまず象牙質材料のためのコア型が注型され、その内側プロフィールも切縁材料と象牙質材料の間の境界面に正確に一致する。それに続いて注型された象牙質材料自体が切縁材料のためのコア型として使用され、切縁材料がそのようにして形成された層形状の平面的な型空洞内に注入され、この際も起伏のために特に強度に負荷がかかる歯の切端領域内において極めて良好な固定が達成可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る解決方式は、セラミック歯の形成のために極めて適している。(樹脂はセラミックに比べて柔軟で内部圧力を大幅に早く許容することのみによっても)樹脂材料は使用される材質のため容易に製造可能であるが、本発明によればセラミックの使用によって生じる問題、すなわち機械的な問題を発生させることなく天然の外観を有するセラミックを驚くほど簡便な手段によって実現することが可能となる。
【0024】
本発明によればさらに比較的硬質の象牙質材料をそれに比べて軟質の切縁材料と組み合わせることが極めて好適である。また良好な結合のために多様な材料が実現可能であり、軟質の切縁材料の使用は補綴される歯の対咬歯に係る負担が軽くなるという利点を有する。
【0025】
(従属請求項の利点が続く。)
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に従って形成された切歯と犬歯のセットの実施例を示した説明図である。
【図2】本発明に従って形成された別の切歯と犬歯のセットの別の実施例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
その他の詳細、特徴、ならびに利点は、添付図面を参照しながら以下に記述する2つの実施例の説明によって明らかにされる。
【0028】
図1には、4本の切歯と2本の犬歯を有する本発明に係る上顎歯セットの実施例が示されている。歯セット10は犬歯12と4本の切歯14,16,18および20と別の犬歯22から構成されている。図は各歯の一番大きな幅を有する領域の断面に相当する。各歯は切端側切縁24を有し、その切縁と基底側端部26との間で既知の基本構造のような様式で延在している。
【0029】
ここでは簡略化のために歯IIとして引用される切歯14について論じる。この歯14は基本的に象牙質材料28から形成され、それが図示された実施例においては完全に切縁材料30によって被覆されている。ここで図示されている実施例においては切歯材料が基底側端部26を超えて延在しているものの、そこにも象牙質材料が存在することが理解される。
【0030】
従って図示された実施例において切縁材料は一種の三次元被覆層として象牙質材料の周りに延在している。象牙質材料28はその頬側端部32とその遠心面34および近心面36を介して緩やかな膨らみあるいは緩やかな起伏を除いて実質的に直線上に延在している。
【0031】
それに対して本発明によれば象牙質材料の咬合側あるいは切端側端部領域38は強度に起伏している。起伏あるいは凹凸の存在はその場所において例えば歯高の最大6%の高さに相当する。
【0032】
象牙質材料28はその部分においても切縁材料30によって完全に被覆されている。その位置、すなわち咬合領域においても層厚は平均で切縁材料の高さの6%に相当する。起伏あるいは凹凸の形成は極めて強度であるがそれぞれ円弧を備えていることが好適である。従って、切歯14において切縁材料と象牙質材料の間の咬合側境界面の領域内の斜面の最大斜度40は約60%となるが;殆どの場合斜度40は遥かに小さくなり、特に10%ないし20%となる。
【0033】
切縁材料30の最小層厚は切端側端部領域38において歯高の4%となる。
【0034】
前述の数値は個々の切歯あるいは犬歯の間ならびに個々の歯セットの間のいずれにおいても変更可能であり、それによって生命的かつ天然のイメージに極めて近似した歯の外観が達成される。
【0035】
従って犬歯12の切縁材料30の切端側領域内の最小層厚は8%となり;そこで1つの部分上に顕著な隆起42が形成され、他方それ以外においては切縁材料と象牙質材料の間の境界層44の極緩やかに起伏した形状が切端側領域内に設けられている。
【0036】
一方、歯18の切端側領域46内の切縁材料30の最小層厚は僅かに歯高の1%となり;極めて強度に形成された窪み部48が設けられており、それが隆起42を側方近心側あるいは遠心側に分離する。
【0037】
同様な構成が歯16,20および22に対して実施されているが、図中に示された形状によって例示的な相異が示されている。
【0038】
図2には同様な歯セットが示されている。同一の参照符号によって同一あるいは同等な構成要素が示されている。この歯セットにおいては一般的に隆起の起伏および強度がより小さくなっており、従って凹凸が適宜に低くあるいは高く延在している。ここでは最小層厚が1mmである。
【0039】
既知の方式によって象牙質材料28の不透明度が切縁材料30の不透明度よりも大きくなる。凹凸42,46および48が交互になっており、小さな半径および大きな半径も分散して設けられている。また、凹凸は図示されている方向のみに延在するのではなく、図に対して垂直な方向にも延在する。境界層44内の強度の凹凸に対して1/3あるいは1/10にまで縮小した切端側切縁領域内の凹凸を後続させることも可能である。それによって依然として実質的に直線的な切縁を実現することができ、それにもかかわらずそれが天然の歯形に近似する。
【符号の説明】
【0040】
10 歯セット
12,22 犬歯
14,16,18,20 切歯
24 切縁
26 基底側端部
28 象牙質材料
30 切縁材料
32 頬側末端領域
34 遠心面
36 近心面
38 切端側末端領域
40 斜度
42 隆起
44 境界層
46 切端側領域
48 窪み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも象牙質材料(28)と切縁材料(30)から構成された切歯あるいは犬歯の製造方法であり、まず歯の外型と切縁材料(30)−コア型の間に切縁材料(30)を注入し、前記切縁材料(30)−コア型はその咬合側端部(38)上に咬合方向に延在する少なくとも1つの隆起(42)あるいは少なくとも1つの凹凸(42,46および48)を有し、続いて切縁材料(30)と象牙質材料(28)−コア型の間の間隙部内に象牙質材料(28)を注入することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記切縁材料(30)−コア型はその咬合側端部(38)上に咬合方向に延在する少なくとも1つの隆起(42)あるいは少なくとも1つの凹凸(42,46および48)を有し、その高さが歯の全長の1/20から略半分までに相当することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
歯頸側および/または頬側および/または近心側および/または遠心側方向を向いている切縁材料(30)−コア型の表面が少なくともその咬合側端部領域(38)内に隆起(42)または凹凸(42,46および48)を有することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
凹凸(42,46および48)あるいは隆起(42)が歯頸側方向において歯の全長の少なくとも1/3にわたって延在することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
凹凸(42,46および48)あるいは隆起(42)が歯頸側方向において歯の全長の1/4にわたって延在することを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
凹凸(42,46および48)が窪みおよび/または突起の形式で形成され、それが歯の縦延長に対して実質的に平行に延在することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
窪みが多様な低さで、および/または突起が多様な高さで形成されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
切縁材料(30)−コア型がロストモールドとして形成され、その下面ならびにその側壁上のいずれにも凹凸(42,46および48)を備え得ることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
切縁材料(30)−コア型がロストモールドとして形成され、咬合側の端部領域(38)上のみに凹凸を有することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
切縁材料(30)−コア型の凹凸(42,46および48)が天然歯の切縁結節に視覚的に近似して形成されることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
象牙質材料(28)−コア型と象牙質材料(28)−外型との間に象牙質材料(28)を注入し、前記外型が内側に凹凸(42,46および48)を有するものとし、前記象牙質材料(28)の少なくとも部分的な硬化の後にその象牙質材料(28)と切縁材料(30)−外型の間に切縁材料(30)を注入することを特徴とする、歯セットあるいは歯セットの歯の製造方法。
【請求項12】
前記外型が咬合側端部(38)上に凹凸(42,46および48)を有することを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
切縁材料(30)−外型上の凹凸(42,46および48)が天然歯の切縁結節に視覚的に近似して形成されることを特徴とする請求項11または12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179433(P2012−179433A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140280(P2012−140280)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【分割の表示】特願2008−271029(P2008−271029)の分割
【原出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(596032878)イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト (63)