説明

列車制御システムの車上装置

【課題】異なる方式等の列車制御システムの地上側設備から列車制御信号を受信して適切に列車の速度等を制御することのできる車上装置を提供する。
【解決手段】列車1に搭載された車上装置10は、列車1の走行路に沿って設置されたループコイルから列車制御情報を含むATC信号を受信するATC/TDアンテナ11a,11bと、走行路に沿って設置された沿線無線機から列車制御情報を含むCBTC信号を受信する車上無線機12と、前記ATC信号に含まれた列車制御情報に基づいて列車1を制御するATC制御部141と、前記CBTC信号に含まれた列車制御情報に基づいて列車1を制御するCBTC制御部142と、前記第ATC信号及び前記CBTC信号の少なくとも一方に基づいてATC制御部141又はCBTC制御部142を選択する選択部143と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車制御システムに関し、特に列車に搭載されて地上側設備から受信した列車制御情報に基づいて当該列車の速度等を制御する車上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、列車制御システムは、列車に搭載された車上装置が地上側設備から受信した列車制御情報に基づいて当該列車の速度等を制御することにより、列車の安全な走行を確保している。従来の列車制御システムとしては、地上側設備であるループコイル(又は軌道回路)や地上子等と、車上装置を構成する受電器や車上子等と、が電磁結合して前記列車制御情報の送受信を行う列車制御システム、あるいは、地上側設備である沿線無線機と車上装置を構成する車上無線機との間で前記列車制御情報の送受信を行う列車制御システムなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−36803号公報
【特許文献2】特開2008−162548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車上装置は、同じ方式及び/又は同じ種類の信号を用いる列車制御システムの地上側設備からしか列車制御情報を受信することができない。このため、特定の列車制御システムの地上側設備が設置された領域(路線)を走行する列車は、当該特定の列車制御システムの車上装置が搭載された列車に制限されていた。
【0005】
ところで、鉄道網が発達してくると、それぞれ異なる方式等の列車制御システムが採用された領域について列車を走行させる必要性や領域の一部に異なる方式の列車制御システムを採用する必要性が生じる場合がある。しかしながら、従来技術ではこのような事態に対応することが困難である。
【0006】
また、既存のシステムから新たなシステムへと変更する場合には、その移行時において既存のシステムによる営業運転等の実施と新たなシステムの調整等とを両立させる必要がある。このため、システムを変更する際には、既存のシステムの車上装置が搭載された列車に、新たなシステムの車上装置を追加し、新たなシステムの調整等を行った後に既存のシステムの車上装置を撤去しなければならない。すなわち、車両の改造を少なくとも2回行う必要があり、システム変更時に多くの手間がかかっていた。
【0007】
本発明は、このような実情に着目してなされたものであり、異なる方式等の列車制御システムの地上側設備から列車制御情報を受信して列車の速度等を適切に制御することのできる車上装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面による車上装置は、列車に搭載されて地上側設備から受信した列車制御情報に基づいて当該列車を制御する。この車上装置は、前記列車の走行路に沿って設置された第1地上側設備から、列車制御情報を含む第1信号を受信可能な第1受信部と、前記走行路に沿って設置された第2地上側設備から、列車制御情報を含むと共に前記第1信号とは種類の異なる第2信号を受信可能な第2受信部と、前記第1信号に含まれた列車制御情報に基づいて前記列車を制御する第1制御部と、前記第2信号に含まれた列車制御情報に基づいて前記列車を制御する第2制御部と、前記第1信号及び前記第2信号の少なくとも一方に基づいて前記第1制御部又は前記第2制御部を選択する選択部と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記車上装置によれば、異なる種類の信号を用いる地上側設備のそれぞれから列車制御信号を受信して列車を制御することができるので、車上装置の追加や変更などの車両の改造を行うことなく、列車が異なる列車制御システムの採用された領域(路線)間を走行することを可能とする。また、列車制御システムを変更する際の車両の改造回数を従来に比べて低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態による車上装置が適用される列車制御システムの地上側設備の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態による車上装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の他の実施形態による車上装置が適用される列車制御システムの地上側設備の他の例を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態による車上装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の概要を説明する。
本発明は、列車制御システムの新たな車上装置を提供する。本発明による車上装置は、列車に搭載されて、互いに異なる信号を用いる少なくとも二つの列車制御システムの地上側設備から列車制御情報を受信可能に構成され、受信された列車制御情報のいずれかに基づいて当該列車の速度等を制御する。
【0012】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車上装置が適用される列車制御システムの地上側設備の一例を示している。図1において、実施形態による車上装置を搭載した列車1が走行する走行路2は、二つの制御領域(第1領域C1、第2領域C2)に分かれており、この二つの制御領域ではそれぞれ異なる閉塞方式による列車制御が実施される。具体的には、第1領域C1では固定閉塞方式による列車制御が実施され、第2領域C2では移動閉塞方式による列車制御が実施される。
【0013】
第1領域C1では、走行路2が複数の閉塞区間B1〜Bmに区切られており、各閉塞区間B1〜Bmに対応するループコイル3〜3が走行路2に沿って設置されている。各ループコイル3〜3には、それぞれ情報送信部4が接続されている。この情報送信部4は、図示省略した上位の制御装置(CTC等)によって制御され、列車が停止すべき閉塞区間を示す停止区間情報を含む列車制御信号(以下単に「ATC信号」という)を対応するループコイルに送出する。なお、前記ATC信号は、前記停止区間情報に加えて列車1の制限速度情報をさらに含んでもよい。
【0014】
ここで、図1では省略しているが、ループコイル3〜3には、各閉塞区間B1〜Bmにおける列車の在線を検知するための公知の構成が設けられている。列車の在線を検知するための構成は、例えば列車から送出される列車検知信号(TD信号)を受信するTD信号受信機である。また、ここではループコイルを用いているが、ループコイルに代えて軌道回路としてもよい。なお、軌道回路を用いた場合には、軌道回路に流れる信号電流に基づいて列車の在線を検知する。
【0015】
一方、第2領域C2では、沿線無線機5〜5が走行路2に沿って所定の間隔をあけて設置されている。各沿線無線機5〜5はアンテナを有しており、図示省略した上位の制御装置によって制御され、列車1が走行できる停止限界情報を含む列車制御信号(以下単に「CBTC信号」という)を送出する。前記停止限界情報は、列車1が停止すべき停止位置を示すものであり、例えば先行列車との間に安全距離(間隔)を確保できる位置を含む。
【0016】
ここで、第1領域C1に最も近い沿線無線機5は、その信号を送信できる範囲(信号送信範囲)内に、第2領域C2に最も近い閉塞区間Bmの少なくとも一部が含まれるように設置される。また、第2領域C2においては、隣接する沿線無線機同士が無線通信を行うことにより、情報を中継しながら伝達することができる。さらに、沿線無線機の間隔は、互いの信号送信範囲が重複するように設定すればよいが、好ましくは、二つ先の沿線無線機まで信号を送信できるような間隔で配置する。
【0017】
第1領域C1及び第2領域C2には、走行路2に沿って所定の間隔をあけて地上子6が設置されている。地上子6は、第1領域C1においては、隣り合う閉塞区間の境界又はその近傍に設置され、第2領域C2においては、例えば一定距離ごとに設置される。地上子6はトランスポンダ等で構成され、後述する列車1側の車上子と電磁結合して信号の送受信を行う。本実施形態において、地上子6は、走行路2における位置を示す位置情報を含む信号(以下単に「位置信号」という)を送出する。
【0018】
図2は、本発明の第1実施形態による車上装置の基本的な構成を示している。
図2に示すように、列車1に搭載された車上装置10は、ATC/TDアンテナ11a,11bと、車上無線機12と、車上子13と、信号処理部14と、を含む。
【0019】
ATC/TDアンテナ11a,11bは、列車1の前部及び後部の下部に設けられており、地上側に設置されたループコイル3〜3と電磁結合して当該ループコイルから前記ATC信号を受信すると共に前記TD信号を当該ループコイルに送出する。前記ATC信号の受信は、通常、列車1の進行方向前側に位置するATC/TDアンテナによって行われる。なお、ATC/TDアンテナ11a,11bに代えて受電器としてもよい。
【0020】
車上無線機12は、列車1の上部に設けられたアンテナ12aを有しており、各沿線無線機5〜5に列車1の位置を示す列車位置信号を送信すると共に各沿線無線機5〜5から前記CBTC信号を受信する。なお、図2には一つの車上無線機12が示されているが、ATC/TDアンテナと同様、列車1の前部と後部のそれぞれに車上無線機12を設けるようにしてもよい。
車上子13は、列車1の下部に設けられており、各地上子6と電磁結合して当該地上子6から前記位置信号を受信する。
【0021】
信号処理部14は、ATC/TDアンテナ11a,11b、車上無線機12、及び車上子13と接続され、これらによって受信された前記ATC信号、前記CBTC信号、及び前記位置信号が入力される。また、信号処理部14には、例えば列車1の車輪に取り付けられた速度発電器(速度検出器)15から列車1の速度情報が入力される。信号処理部14は、ATC制御部141、CBTC制御部142、及び選択部143を含む。
【0022】
ATC制御部141は、前記位置信号に含まれた位置情報及び前記速度情報に基づいて列車1の位置及び速度を把握する。そして、この把握した列車1の位置及び速度、前記ATC信号に含まれた停止区間情報(及び制限速度情報)、及び列車1のブレーキ性能などに基づいて速度照査パターンを生成し、生成された速度照査パターンに基づいて列車1のブレーキ制御を行って列車1の速度を制御する。
【0023】
CBTC制御部142は、前記位置信号に含まれた位置情報及び前記速度情報に基づいて列車1の位置及び速度を把握する。列車1の位置については、車上無線機12と各沿線無線機5〜5との間の信号伝播時間に基づいて算出してもよい。そして、この把握した列車1の位置及び速度、前記CBTC信号に含まれた停止限界情報、及び列車1のブレーキ性能などに基づいて速度照査パターンを生成し、生成された速度照査パターンに基づいてブレーキ制御を行って列車1の速度を制御する。
【0024】
選択部143は、入力された信号に基づきATC制御部141又はCBTC制御部142を選択する。換言すれば、選択部143は、ATC制御部141及びCBTC制御部142のいずれか一方のみをアクティブにする。この選択部143による制御部の選択によって、ATC制御部142及びCBTC制御部142のいずれか一方が列車1の速度制御を実行することになる。選択部143は、次のようにして制御部の選択を行う。
【0025】
(1)前記ATC信号及び前記CBTC信号のいずれか一方しか受信しない場合
この場合、選択部143は、受信された信号に対応する制御部を選択する。
例えば、列車1が第1領域C1(図1参照)を走行している場合、この第1領域C1には沿線無線機が設置されていないので、車上装置10は、前記ATC信号しか受信することができない。したがって、信号処理部14(選択部143)には、前記ATC信号と前記CBTC信号のうち前記ATC信号のみが入力されることになる。この場合、選択部143は、ATC制御部141を選択する。
【0026】
一方、列車1が第2領域C2を走行している場合、車上装置10は、前記CBTC信号しか受信することができない。したがって、信号処理部14(選択部143)には、前記ATC信号と前記CBTC信号のうち前記CBTC信号のみが入力されることになる。この場合、選択部143は、CBTC制御部142を選択する。
【0027】
(2)前記ATC信号及び前記CBTC信号のいずれか一方を受信している状態から両方を受信するようになった場合
この場合、選択部143は、新たに受信された信号に対応する制御部を選択し、列車1の速度制御を行う制御部を切り替える。
【0028】
第2領域C2に最も近い閉塞区間Bmの少なくとも一部は、第1領域C1に最も近い沿線無線機5の送信可能範囲内に位置している。したがって、走行路2には、前記ATC信号と前記CBTC信号の両方を受信可能な領域(信号重複領域)が存在する。このため、列車1が第1領域C1から第2領域C2に進入する場合には、前記ATC信号のみを受信している状態から前記信号重複領域において前記ATC信号及び前記CBTC信号を受信する状態となる。この場合、選択部143は、新たに受信されたCBTC信号に対応するCBTC制御部142を選択し、それまでのATC制御部141による列車1の制御からCBTC制御部142による列車1の制御へと切り替える。この切り替えは前記信号重複領域において行われる。なお、前記閉塞区間Bm又は前記信号重複領域においては、原則として列車を停止させず、列車1が低速で走行するように設定しておくのが好ましい。
これにより、速度照査パターンについても、ATC制御部141によって生成された速度照査パターンから、前記CBTC信号に含まれた停止限界情報に基づいてCBTC制御部142によって生成される速度照査パターンへと切り替えられる。
【0029】
一方、列車1が第2領域C2から第1領域C1に進入する場合には、前記CBTC信号のみを受信している状態から前記信号重複領域において前記ATC信号及び前記CBTC信号を受信する状態となる。この場合、選択部143は、新たに受信されたATC信号に対応するATC制御部141を選択し、それまでのCBTC制御部142による列車1の制御からATC制御部141による列車1の制御へと切り替える。
これにより、CBTC制御部142によって生成された速度照査パターンから、前記ATC信号に含まれた停止区間情報に基づいてATC制御部141によって生成される速度照査パターンへと切り替えられる。
【0030】
このように前記信号重複領域において制御部の選択(列車制御の切り替え)を行うことにより、制御の空白期間が生じないようにすることができると共に、ATC制御部141による制御からCBTC制御部142による制御へ、又は、CBTC制御部142による制御からATC制御部141による制御へと滑らかに切り替えることができるので、運転性等に与える影響を抑制できる。
【0031】
以上のように、本実施形態による車上装置10は、固定閉塞方式による列車制御を行うための地上側設備であるループコイル(又は軌道回路)3〜3及び情報送信部4から前記ATC信号を受信できると共に、移動閉塞方式による列車制御を行うための地上側設備である沿線無線機5〜5から前記CBTC信号を受信することができる。そして、選択部143が、前記ATC信号及び/又は前記CBTC信号に基づいてATC制御部141及びCBTC制御部142のうちいずれを用いて列車1を制御するかを判断する。
【0032】
ATC制御部141が選択された場合には、ATC制御部142によって前記ATC信号に含まれる列車制御情報(制限速度情報及び/又は停止区間情報)に基づく列車1の制御が実施され、CBTC制御部143が選択された場合には、CBTC制御部143によって前記CBTC信号に含まれる列車制御情報(停止限界情報)に基づく列車1の制御が実施される。
【0033】
これにより、車上装置10を搭載した列車は、それぞれ異なる方式の列車制御が実行されると共に異なる種類の信号を用いる第1領域C1と第2領域C2とを安全に走行することができる。また、例えば固定閉塞方式の列車制御システムから移動閉塞方式の列車制御システムに変更する場合にも、列車に搭載されていた従来の車上装置を上記車上装置10に交換すれば済むので、車両の改造を一回だけ行えばよく、従来に比べて、システム変更時における車両の改造回数を低減できる。
【0034】
ここで、上記実施形態では、ATC/TDアンテナ11a,11b(又は受電器)がループコイル3〜3(又は軌道回路)から前記列車制御情報を受信しているが、地上子6とは別に地上側に設けられた列車制御情報用の地上子から列車制御情報を受信するようにしてもよい。この場合には、地上側設備としての列車制御情報用の前記地上子を例えば各閉塞区間B1〜Bmに設け、車上装置10としては、ATC/TDアンテナ11a,11bに代えて又は加えて、列車制御情報用の前記地上子と結合して信号の送受信を行う車上子を、車上子13とは別に設けるようにすればよい。
【0035】
また、上記実施形態では、選択部143が前記ATC信号及び/又は前記CBTCの受信の有無に基づいて制御部の選択・切り替えを行っているが、これに代えて、制御部の切り替えを要求する切り替え信号を受信したときに選択部143が制御部の切り替えを行うようにしてもよい。
以下、上記実施形態の変形例として説明する。
【0036】
(変形例1)
選択部143は、前記ATC信号及び/又は前記CBTC信号に含まれた切り替え信号に基づいて制御部の切り替えを行う。
前記ATC信号や前記CBTC信号はさらに情報を含むことができる。そこで、例えば第2領域C2に最も近い閉塞区間Bmに対応するループコイル3に接続されている情報送信部4が、第1領域C1から第2領域C2に向かう列車1に対し、前記列車制御情報である前記停止区間情報に加えて前記切り替え信号を含む前記ATC信号を送出するように構成する。この場合の切り替え信号は、ATC制御部141からCBTC制御部142への切り替えを要求する信号である。
これにより、列車1が第1領域C1から第2領域C2に進入する場合、選択部143はCBTC制御部142を選択してATC制御部141による列車1の制御からCBTC制御部142による列車1の制御へと切り替える。
【0037】
また、第1領域C1に最も近い沿線無線機5が、第2領域C2から第1領域C1に向かう列車1に対し、前記列車制御情報である前記停止限界情報に加えて前記切り替え信号を含む前記CBTC信号を送出するように構成する。この場合の切り替え信号は、CBTC制御部142からATC制御部141への切り替えを要求する信号である。
これにより、列車1が第1領域C1から第2領域C2に進入する場合、選択部143はATC制御部141を選択してCBTC制御部142による列車1の制御からATC制御部141による列車1の制御へと切り替える。
【0038】
なお、通常は走行路2における列車1の進行方向が固定されているので、第2領域C2に最も近い閉塞区間Bmに対応するループコイル3に接続されている情報送信部4及び第1領域C1に最も近い沿線無線機5のいずれか一方が前記切り替え信号を含む信号を送出するように構成すればよい。
【0039】
(変形例2)
選択部143は、前記ATC信号及び前記CBTC信号とは別に送出される切り替え信号に基づいて制御部の切り替えを行う。
図1に示すように、本実施形態においては、第1領域C1と第2領域C2の境界を挟むように地上子6が設置されている。そこで、第1領域C1と第2領域C2の境界を挟む地上子6のうち第1領域C1側に位置する地上子6が、第1領域C1から第2領域C2に向かう列車1に対して、前記位置情報に加えてATC制御部141からCBTC制御部142への切り替えを要求する切り替え信号を含む前記位置信号を送出するように構成する。また、第1領域C1と第2領域C2の境界を挟む地上子6のうち第2領域C2側に位置する地上子6が、第2領域C2から第1領域C1に向かう列車1に対して、前記位置情報に加えてCBTC制御部142からATC制御部141への切り替えを要求する切り替え信号を含む前記位置信号を送出するように構成する。
【0040】
送出された前記位置信号は、車上子13によって受信され、信号処理部14へと出力される。これにより、列車1が第1領域C1から第2領域C2に進入する場合、選択部143は、前記位置信号に含まれた切り替え信号に基づいてCBTC制御部142を選択し、ATC制御部141による列車1の制御からCBTC制御部142による列車1の制御へと切り替える。また、列車1が第2領域C2から第1領域C1に進入する場合、選択部143は、前記位置信号に含まれた切り替え信号に基づいてATC制御部142を選択し、CBTC制御部142による列車1の制御からATC制御部141による列車1の制御へと切り替える。
もちろん、列車1の進行方向に応じて、第1領域C1と第2領域C2の境界を挟むように設置された地上子6のうちの一方のみが前記切り替え信号を含む前記位置信号を送出するようしてもよい。
【0041】
さらに、図1に破線で示すように、切り替え信号を送出する送信機7を、第1領域C1と第2領域C2の境界近傍に設けるようにしてもよい。この場合、図2に破線で示すように、車上装置10にも、送信機7から送出された切り替え信号を受信する受信機16を設ける。例えば、送信機7は、列車1の進行方向に応じて切り替え信号を変更できるように構成されており、列車1が第1領域C1から第2領域C2に向かう場合には、ATC制御部141からCBTC制御部142への切り替えを要求する切り替え信号を送出し、列車1が第2領域C2から第1領域C1に向かう場合には、CBTC制御部142からATC制御部141への切り替えを要求する切り替え信号を送出する。車上装置10の受信機16は、送信機7から送出された切り替え信号を受信して信号処理部14に出力する。
【0042】
これにより、列車1が第1領域C1から第2領域C2に進入する場合、選択部143は、CBTC制御部142を選択してATC制御部141による列車1の制御からCBTC制御部142による列車1の制御へと切り替え、列車1が第2領域C2から第1領域C1に進入する場合、選択部143は、ATC制御部142を選択してCBTC制御部142による列車1の制御からATC制御部141による列車1の制御へと切り替える。
【0043】
ところで、以上では、列車1が走行する走行路2が固定閉塞方式による列車制御(ATC/TDシステム)が実施される第1領域C1と無線を利用した移動閉塞方式による列車制御(CBTCシステム)が実施される第2領域C2とに分かれている場合を説明した。しかし、本発明はこれに限るものではない。
例えば第1領域C1及び第2領域C2がいずれも無線を利用した移動閉塞方式による列車制御を実施するが、互いに異なる無線(例えば、互いに異なる周波数帯域の信号)を用いる場合がある。このような場合も、第1領域C1に設置された地上側設備から送出される信号と第2領域C2に設置された地上側設備から送出される信号とは種類が異なることになる。以下、本発明の第2実施形態として説明する。
【0044】
図3は、本発明の第2実施形態による車上装置が適用される列車制御システムの地上側設備を示している。図1と同じ構成要素については同一の符号を用いて説明を省略する。図3において、第1領域C1、第2領域C1ともに無線を利用した移動閉塞方式による列車制御が実施される。そのため、第1領域C1についても、第2領域C2と同様に、沿線無線機8〜8が走行路2に沿って所定の間隔をあけて設置されている。
【0045】
第1領域C1に設置された各沿線無線機8〜8はアンテナを有しており、図示省略した上位の第1制御装置によって制御され、列車1が走行できる停止限界情報を含む列車制御信号(以下「第1CBTC信号」という)を送出する。第2領域C2に設置された各沿線無線機5〜5はアンテナを有しており、図示省略した上位の第2制御装置によって制御され、列車1が走行できる停止限界情報を含む列車制御信号(以下「第2CBTC信号」という)を送出する。なお、前記第1CBTC信号と前記第2CBTC信号は、互いに異なる種類の無線信号であり、例えば両信号は互いに異なる周波数帯域を利用する。
【0046】
図4は、本発明の第2実施形態による車上装置の基本的な構成を示している。図2と同じ構成要素については同一の符号を用いて説明を省略する。
図4に示すように、第2実施形態による車上装置20は、第1車上無線機21と、第2車上無線機22と、車上子13と、信号処理部24と、を含む。
【0047】
第1車上無線機21は、第1領域C1に設置された各沿線無線機8〜8から前記第1CBTC信号を受信する。第2車上無線機22は、第2領域C2に設置された各沿線無線機5〜5から前記第2CBTC信号を受信する。
【0048】
信号処理部24は、第1車上無線機21、第2車上無線機22、及び車上子13と接続され、これらによって受信された前記第1、第2CBTC信号及び前記位置信号が入力される。また、信号処理部24には、列車1の車輪に取り付けられた速度発電器(速度検出器)15から列車1の速度情報が入力される。信号処理部24は、第1CBTC制御部241、第2CBTC制御部242、及び選択部243を含む。
【0049】
第1CBTC制御部241は、前記位置信号に含まれる位置情報及び前記速度情報に基づいて列車1の位置及び速度を把握する。なお、列車1の位置については、第1車上無線機21と各沿線無線機8〜8との間の信号伝播時間に基づいて算出してもよい。そして、この把握した列車1の位置及び速度、前記第1CBTC信号に含まれた停止限界情報、及び列車1のブレーキ性能などに基づいて速度照査パターンを生成し、生成された速度照査パターンに基づいてブレーキ制御を行って列車1の速度を制御する。
なお、第2CBTC制御部242の処理については、前記第1実施形態におけるCBTC制御部142と同じであるので説明を省略する。
【0050】
選択部243は、入力された信号に基づき第1CBTC制御部241又は第2CBTC制御部242を選択する。なお、選択部243による選択部の選択・切り替えは、実質的に前記第1実施形態における選択部143と同様である(変形例についても同様)。
【0051】
第2実施形態による車上装置20においても前記第1実施形態による車上装置10と同様の効果を得ることができる。特に第2実施形態による車上装置20では、列車1が、それぞれ異なる無線(異なる種類の信号)を用いて列車制御が実行される第1領域C1と第2領域C2とを安全に走行することを可能にする。
【0052】
ここで、第2実施形態による車上装置20においては、受信機16を設けることなく、第1車上無線機21又は第2車上無線機22が、第1領域C1と第2領域C2の境界近傍に設置された送信機7からの切り替え信号を受信するように構成してもよい。
【0053】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0054】
1…列車、2…走行路、3〜3…ループコイル、4…情報送信部、5〜5…沿線無線機、6…地上子、8〜8…沿線無線機、10,20…車上装置、11a,b…ATC/TDアンテナ、12,21,22…車上無線機、13…車上子、14,24…信号処理部,141…ATC制御部、142,241,242…CBTC制御部、143,243…選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載され、地上側設備から受信した列車制御情報に基づいて当該列車を制御する車上装置であって、
前記列車の走行路に沿って設置された第1地上側設備から、列車制御情報を含む第1信号を受信可能な第1受信部と、
前記走行路に沿って設置された第2地上側設備から、列車制御情報を含むと共に前記第1信号とは種類の異なる第2信号を受信可能な第2受信部と、
前記第1信号に含まれた列車制御情報に基づいて、前記列車を制御する第1制御部と、
前記第2信号に含まれた列車制御情報に基づいて、前記列車を制御する第2制御部と、
前記第1信号及び前記第2信号の少なくとも一方に基づいて、前記第1制御部又は前記第2制御部を選択する選択部と、
を含む、車上装置。
【請求項2】
前記選択部は、前記第1信号のみが受信される場合に前記第1制御部を選択し、前記第2信号のみが受信される場合に前記第2制御部を選択する、請求項1に記載の車上装置。
【請求項3】
前記選択部は、前記第1信号のみを受信している状態から前記第1信号及び前記第2信号を受信する状態となると、前記第2制御部を選択して前記第1制御部による前記列車の制御から前記第2制御部による前記列車の制御へと切り替える、請求項1又は2に記載の車上装置。
【請求項4】
前記選択部は、前記第1信号及び前記第2信号の少なくとも一つに含まれる切り替え信号に基づいて、前記第1制御部による前記列車の制御から前記第2制御部による前記列車の制御へと切り替える、請求項1又は2に記載の車上装置。
【請求項5】
前記第1地上側設備が設置されている第1領域と前記第2地上側設備が設置されている第2領域との境界近傍に設置された第3地上側設備から送出された切り替え信号を受信可能な第3受信部をさらに含み、
前記選択部は、前記第3受信部によって受信された前記切り替え信号に基づいて、前記第1制御部による前記列車の制御から前記第2制御部による前記列車の制御へと切り替える、請求項1又は2に記載の車上装置。
【請求項6】
前記第1受信部又は前記第2受信部が、前記第3受信部としての機能を有する、請求項5に記載の車上装置。
【請求項7】
前記第1受信部又は前記第2受信部の一方は、前記第1地上側設備又は前記第2地上側設備との電磁結合によって前記第1信号又は前記第2信号を受信し、
前記第1受信部又は前記第2受信部の他方は、前記第1地上側設備又は前記第2地上側設備から無線送信された前記第1信号又は前記第2信号を受信する、請求項1〜6のいずれか一つに記載の車上装置。
【請求項8】
前記第1信号と前記第2信号とは、周波数帯域の異なる無線信号である、請求項1〜6のいずれか一つに記載の車上装置。
【請求項9】
前記第1地上側設備は、固定閉塞方式及び移動閉塞方式の一方による列車制御を行うために設置されたものであり、
前記第2地上側設備は、前記固定閉塞方式及び前記移動閉塞方式の他方による列車制御を行うために設置されたものである、請求項1〜6のいずれか一つに記載の車上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−78212(P2013−78212A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216843(P2011−216843)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】