説明

制動装置付引戸装置

【課題】窓枠内に建て込まれる引戸障子が、閉鎖方向に移動し閉鎖位置近傍に達した際に、この引戸障子に制動力を作用させる事のできる構造を実現する。
【解決手段】窓枠の上辺を構成する上枠の下面に、その歯先面を下方に向けた状態で、ラックを支持固定する。又、ガラス障子19aを構成する召し合わせ框25aの上端部外側面に、ピニオン34aの回転軸を屋内外方向に水平に配置した状態で、制動装置本体33aを支持固定する。これにより、上記ガラス障子19aが閉鎖方向に移動して、閉鎖位置近傍に達した際に、上記ラックと上記ピニオン34aとを噛合させて、上記制動装置本体33aが備える抵抗付与手段の作用により、上記ガラス障子19aに制動力を作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の制動装置付引戸装置は、窓枠と引戸障子との間に身体の一部が挟まる事を抑制したり、窓枠と引戸障子とが勢い良く衝突する事を防止する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、出入り口等の開口部と、この開口部を塞ぐ為の引戸との間に、手指等の身体の一部が挟まる事を抑制する手段が考えられている。例えば特許文献1〜6等には、上吊式の引戸(所謂吊戸)が閉鎖方向に移動した場合に、移動の終期でこの引戸の移動に対する制動力を発揮する、制動装置付引戸装置が記載されている。図9〜10は、このうちの特許文献1に記載された、従来構造の制動装置付引戸装置の第1例を示している。この従来構造の第1例の場合、開口部1の上方にレール2を水平方向に配設すると共に、引戸障子3の上端面に、1対の吊車4、4をハンガー部材5、5を介して回転自在に支持している。そして、これら両吊車4、4を、上記レール2に対して上方から係合させる事により、上記引戸障子3の上端部をこのレール2に沿う平行移動(水平移動)自在に支持している。
【0003】
又、従来構造の第1例の場合には、上記レール2よりも上方位置に、ラック6を水平方向に支持している。又、上記引戸障子3の上方位置で、この引戸障子3の一端側(図9の右側)に設けられたハンガー部材5には、上記ラック6と噛合自在なピニオン7を有する制動装置本体8を支持固定している。この制動装置本体8には、このピニオン7が所定方向に回転する場合にのみ、このピニオン7の回転抵抗を大きくする抵抗付与手段を設けている。具体的には、図10に示す様に、このピニオン7を、一方向クラッチ9を介して、枢軸10の一端部(図10の上端部)に支持すると共に、この枢軸10の他端部に、回転体11を支持している。そして、この回転体11の周囲に、上記抵抗付与手段として機能する、粘性流体12を充填している。上記従来構造の第1例の場合には、上記ラック6と上記制動装置本体8とにより、制動装置13を構成している。
【0004】
特に、従来構造の第1例の場合には、上記ピニオン7が、上記引戸障子3の閉鎖方向への移動に伴う回転をした場合にのみ、このピニオン7の回転を上記枢軸10(及び上記回転体11)に伝達する様に、上記一方向クラッチ9の取付方向を規制している。この為、上記引戸障子3が閉鎖方向に移動し、上記ピニオン7が上記ラック6と噛合すると、上記回転体11を上記粘性流体12内で回転させる為、この回転体11に作用する粘性抵抗により、上記ピニオン7の回転抵抗が増大する。この結果、上記引戸障子3が閉鎖方向に移動して、閉鎖位置近傍に達した際に、この引戸障子3に制動力を作用させる事ができる。反対に、上記ピニオン7が、上記引戸障子3の開放方向への移動に伴う回転をする場合には、このピニオン7を上記枢軸10の周囲で空転させる為、上記引戸障子3が移動する事に対し制動力が作用する事はない。
【0005】
又、上述した様な上吊式の引戸装置以外の引戸装置に制動装置を設けたものとしては、例えば特許文献7、8等に記載された構造が知られている。図11は、このうちの特許文献7に記載された、従来構造の第2例の制動装置付引戸装置を示している。この従来構造の第2例の場合には、引戸障子3aの上端部を、上枠14の下面に形成された案内溝15内に進入させる構成を採用しており、制動装置13aを、上記引戸障子3aの上端面と、上記案内溝15の下面との間の空間内に設けている。
【0006】
具体的には、上記案内溝15の下面に、その内側面にラック6aを備えた断面コ字形の受部材16を支持固定すると共に、上記引戸障子3aの上端面に、このラック6aと噛合自在なピニオン7aを有する制動装置本体8aを支持固定している。これにより、このピニオン7aと上記ラック6aとを、上記引戸障子3aの表裏方向に噛合させる様にしている。特に、従来構造の第2例の場合には、この引戸障子3aの上端面に凹部17を形成し、この凹部17内に上記制動装置本体8aを上下移動自在に収納している。そして、上記従来構造の第2例の場合には、上記引戸障子3aが閉鎖方向に移動し閉鎖位置近傍に達した場合にのみ、上記ピニオン7aを上記凹部17内から突出させる上下位置規制手段を設けている。この様に構成する従来構造の第2例の場合にも、上記ピニオン7aと上記ラック6aとが噛合した際には、上記制動装置本体8aに備えた抵抗付与手段の作用により、上記ピニオン7aの回転抵抗を大きくして、上記引戸障子3aに制動力を作用させる。
【0007】
ところで、従来から提案されている制動装置付引戸装置は何れも、前述した従来構造の第1例に示した様な上吊式の引戸装置を対象にするものや、上述した従来構造の第2例に示した様に、上枠と引戸障子の上端部との係合が簡易な構造で、これら上枠の下面と引戸障子の上端面との間に、大きな空間を確保できる引戸装置を対象にするものに限られている。更に、その多くが、引戸障子を閉鎖方向に付勢する自閉装置を備えた構造である。即ち、従来から提案されている制動装置付引戸装置は、制動装置を組み付ける為の空間を十分に確保できる構造で、しかも比較的軽量な引戸障子を対象にしている。
【0008】
ところが、閉鎖動作を行う引戸障子は、軽量の引戸障子に比べて、重量の大きい引戸障子の方が、慣性質量が大きくなる為、閉鎖時に開口部に衝突した際の衝撃力は大きく、静粛性の面で問題を生じると共に、万一、開口部との間に手指等の身体の一部を挟んだ場合には、重大な負傷事故に繋がる可能性がある。この為、重量の大きい引戸障子の閉鎖時に於ける安全性、静粛性を十分に確保する為には、何らかの対策を施す事が望ましく、上述した様な制動装置により制動機能を発揮させる事が望まれる。特に、近年になって、窓枠に建て込まれる引戸障子は、その遮音性、高断熱性、耐風圧性等の向上を図ると共に、採光性を確保する為に大型のガラスパネルを使用する場合があり、その重量は増大する傾向にある。又、複層式のガラスパネルを使用する事によっても、引戸障子の重量は増加する。従って、この様な窓枠とこの窓枠内に建て込まれる引戸障子とから構成される引戸装置に関しても、制動装置を組み込む必要性が生じている。しかしながら、窓枠の上辺を構成する上枠と、引戸障子の上辺を構成する上框との間には、この引戸障子を案内する為の上部案内レールが設けられる等、制動装置を組み込む為の空間は限られており、従来構造の第1例及び第2例等の従来から知られた構造をそのまま利用して、引戸装置用の制動装置を組み込む事はできない。
【0009】
【特許文献1】特開2002−121959号公報
【特許文献2】特開2002−47859号公報
【特許文献3】特開2002−188353号公報
【特許文献4】特開2002−256759号公報
【特許文献5】特開2005−54422号公報
【特許文献6】特開2005−320858号公報
【特許文献7】特開2005−83114号公報
【特許文献8】特開2006−200298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、窓枠内に建て込まれる引戸障子が、閉鎖方向に移動し閉鎖位置近傍に達した際に、この引戸障子に制動力を作用させる事のできる構造を実現すべく発明したものである。
更に本発明は、他の種類の引戸装置に従来から使用されている制動装置をそのまま使用できる構造を実現すると共に、既に建造物に取り付けられた既存の引戸装置に適用できる構造を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の制動装置付引戸装置は、窓開口に設けられた窓枠と、この窓枠内に水平移動自在に建て込まれた引戸障子と、この引戸障子が閉鎖方向に移動して閉鎖位置近傍に達した際に、この引戸障子に制動力を作用させる制動装置とを備える。
このうちの制動装置は、水平方向に配置されるラックと、このラックと噛合自在なピニオンを有し、このピニオンが上記引戸障子の閉鎖方向への移動に伴い回転する場合にのみ、このピニオンの回転抵抗を大きくする抵抗付与手段を備えた制動装置本体とから構成する。
【0012】
特に、本発明の制動装置付引戸装置にあっては、上記制動装置本体を、上記引戸障子の縦辺を構成する1対の竪框のうち、この引戸障子の閉鎖状態で上記窓枠の中央側に位置する竪框(引き違い戸の場合には召し合わせ框)の上端部外側面(窓枠を構成する竪枠に対向する面)に、上記ピニオンの回転軸を屋内外方向に水平に配置した状態で支持固定している。又、上記ラックを、上記窓開口の上辺に固定された部材に、その歯先面を下方に向けた状態で支持固定している。
【0013】
又、本発明を実施する場合には、例えば請求項2に記載した発明の様に、上記窓枠内に複数の引戸障子を引き違い式に建て込む構造を採用できる。
又、本発明を実施する場合には、例えば請求項3に記載した発明の様に、上記ラックを、上記窓枠の上辺を構成する上枠の下面に支持固定する事ができる。
更に、屋内側に水平移動自在に建て込まれた引戸障子に制動力を作用させる為の制動装置を構成するラックに関しては、請求項4に記載した発明の様に、上記窓枠の上辺を構成する上枠よりも屋内側に、アタッチメントを介して支持固定する事もできる。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明によれば、窓開口に設けられる窓枠と、この窓枠内に建て込まれる引戸障子とから構成される引戸装置に、この引戸障子の閉鎖方向への移動を制動する為の制動装置を組み込む事ができる。即ち、本発明の場合には、引戸障子の縦辺を構成する1対の竪框のうち、この引戸障子の閉鎖状態で窓枠の中央側に位置する竪框の上端部外側面側の空間を有効に利用して、制動装置の組み付け性を確保している。この為、上記引戸障子が閉鎖方向に移動して閉鎖位置近傍に達した際に、この引戸障子に制動力を作用させる事ができる。従って、この引戸障子と窓枠との間に身体の一部が誤って挟まる事を抑制できると共に、これら引戸障子と窓枠とが勢い良く衝突する事を防止できる。この結果、重量の大きい引戸障子を使用する場合にも、閉鎖時に於ける安全性、静粛性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の場合は、窓枠18の内側に、それぞれが特許請求の範囲に記載した引戸障子である1対のガラス障子19a、19bを、引き違い式に建て込んでいる。このうちの窓枠18は、上辺を構成する上枠20と、下辺を構成する下枠21と、左右の縦辺を構成する竪枠22a、22bとにより、矩形に構成している。これら各枠20、21、22a、22bは、それぞれアルミニウム合金の一体押し出し成形材製である。又、上記各ガラス障子19a、19bは、それぞれの上辺を構成する上框23a、23bと、同じく下辺を構成する下框24a、24bと、それぞれが左右の縦辺を構成する竪框である、召し合わせ框25a、25b及び突き合わせ框26a、26bとにより、ガラスパネル27a、27bの四辺を囲んで成る。これら各框23a、23b、24a、24b、25a、25b、26a、26bも、アルミニウム合金の一体押し出し成形材製である。このうちの召し合わせ框25a、25bは、上記ガラス障子19a、19bの閉鎖時に上記窓枠18の中央に位置して、屋内外方向に亙り互いに対向する。これに対して上記各突き合わせ框26a、26bは、上記ガラス障子19a、19bの閉鎖時に上記窓枠18の端部に位置して、上記各竪枠22a、22bに突き合わされる。
【0016】
又、上記上枠20の下面には、1対の上部案内レール28a、28bを、屋内外方向に離隔した状態で設けている。そして、上記各召し合わせ框25a、25b及び突き合わせ框26a、26bの上端部に支持したガイドブロック29a、29bに形成したガイド溝30a、30bに上記各上部案内レール28a、28bを係合させている。この構成により、上記各ガラス障子19a、19bの上端部を、上記上枠20に沿う平行移動自在に支持している。これに対して、上記下枠21には、図示しない1対の下部案内レールを、屋内外方向に離隔した状態で設けている。そして、上記各ガラス障子19a、19bの下辺を構成する上記下框24a、24bの両端部近傍部分に設けられた図示しない戸車を、上記下部案内レールに係合させている。これにより、上記各ガラス障子19a、19bを、上記下枠21の上方位置に、この下枠21に沿った水平移動を自在に支持している。
以上の構成により、上記各ガラス障子19a、19bを上記窓枠18の内側に、水平移動自在に建て込んでいる。
【0017】
本例の場合、上述の様にして上記窓枠18の内側に建て込まれた上記各ガラス障子19a、19b毎に、制動装置31a、31bを設けている。そして、これら各ガラス障子19a、19bがそれぞれ閉鎖方向に移動し、閉鎖位置近傍に達した際に、上記各制動装置31a、31bにより、上記各ガラス障子19a、19bに制動力を作用させる様にしている。
【0018】
上記各制動装置31a、31bは、それぞれ、前述した従来構造の制動装置13、13a(図8〜10参照)と同様に、ラック32a、32bと、制動装置本体33a、33bとから構成される。このうちの制動装置本体33a、33bは、上記各ラック32a、32bと噛合自在なピニオン34a、34bと、これら各ピニオン34a、34bが上記各ガラス障子19a、19bの閉鎖方向への移動に伴い回転した場合にのみ、これら各ピニオン34a、34bの回転抵抗を大きくする抵抗付与手段とを備えている。尚、この様な機能を発揮できる抵抗付与手段の構造は特に限定しないが、例えば、前記図10に示した様な、ピニオンと共に回転する回転体の周囲に粘性流体を充填する構造や、ピニオンと共に回転する回転体に、ばね等の弾性材を利用して摩擦部材を押し付ける等の構造を採用する事ができる。何れにしても、本例の場合には、上述の様な機能を発揮できる抵抗付与手段を、上記各制動装置本体33a、33bを構成する略円筒状のケース35a、35bの内側に収納している。
【0019】
そして、上述の様な構成を有する上記各制動装置本体33a、33bを、上記各ガラス障子19a、19bを構成する前記各召し合わせ框25a、25bの上端部外側面(竪枠22b、22aに対向する面)に、上記各ピニオン34a、34bの回転軸を屋内外方向に水平に配置した状態で支持固定している。この為に、本例の場合には、上記各召し合わせ框25a、25bの上端部外側面に、略L字形の取付ブラケット36a、36bのうちの基板部37、37を、1対ずつのねじ38、38によりねじ止め固定し、これら各取付ブラケット36a、36bのうちの支持板部39、39に、上記各制動装置本体33a、33bを結合固定している。具体的には、上記各ケース35a、35bの背面の一部(下半部)を上記各支持板部39、39に当接させた状態で、これら各ケース35a、35bから下方に延出する状態で設けられた取付フランジ部40a、40bを、1対ずつのねじ41、41によりねじ止め固定している。この様な構成により、上記各制動装置本体33a、33bを、上記各ピニオン34a、34bの回転軸を屋内外方向に水平に配置した状態で、上記各召し合わせ框25a、25bの上端部外側面に支持固定している。
【0020】
尚、本例の場合には、上記各召し合わせ框25a、25bに対する上記各取付ブラケット36a、36bの結合強度を高めるべく、これら各召し合わせ框25a、25bの内側に、補強板42a、42bをそれぞれ設けている。又、これら各召し合わせ框25a、25bに対する上記各取付ブラケット36a、36bの取付位置を、上下方向に調整自在とするべく、上記各ねじ38、38を挿通する為に、上記各召し合わせ框25a、25bに形成する通孔を、上下方向に長い長孔としている。
【0021】
一方、前記各制動装置31a、31bを構成する前記各ラック32a、32bは、断面略T字形で、その全長は30〜40cm程度である。そして、本例の場合には、これら各ラック32a、32bを、一端部を前記上枠20の長さ方向中央部に、他端部を上記各ガラス障子19a、19bの開放方向に、それぞれ位置させた状態で、上記上枠20の下面に、それぞれの歯先面を下方に向けた状態で支持固定している。
【0022】
この為に、本例の場合には、上記上枠20の下面のうち、前記各上部案内レール28a、28bよりも屋内側部分に、あり溝状の係止溝43a、43bを設けている。そして、これら各係止溝43a、43b内に、上記各ラック32a、32bの基端部(上端部)を係止する事により、これら各ラック32a、32bを、それぞれの歯先面を下方に向けた状態で支持固定している。尚、上記各係止溝43a、43bに対する上記各ラック32a、32bの固定方法は特に限定しないが、例えば、これら各ラック32a、32bの基端部をかしめ固定する事により、或は、上記各係止溝43a、43bのうち、上記各ラック32a、32bの長さ方向両側部分に、図示しない阻止部材を支持する事により、これら各ラック32a、32bが、上記各係止溝43a、43b内で前記各ガラス障子19a、19bの開閉方向に変位しない様にする。
【0023】
以上の説明の通り、本例の場合には、上記各召し合わせ框25a、25bの上端部外側面側の空間を有効に利用する事により、前記各制動装置31a、31bの組み付け性を確保できる。この為、上記各ガラス障子19a、19bが閉鎖方向に移動して、閉鎖位置近傍に達した際には、上記各ラック32a、32bと上記各ピニオン34a、34bとが噛合して、抵抗付与手段の作用により回転抵抗の大きくなったこれら各ピニオン34a、34bを回転させる。これにより、上記各ガラス障子19a、19bを構成する前記各突き合わせ框26a、26bが、前記窓枠18を構成する前記各竪枠22a、22bの近傍に達した状態から完全に閉鎖する迄の間、上記各ガラス障子19a、19bに制動力を作用させる事ができる。従って、本例の場合には、これら各ガラス障子19a、19bと上記窓枠18を構成する上記各竪枠22a、22bとの間に、身体の一部が、万一挟まれる事を有効に抑制できると共に、上記各ガラス障子19a、19bと上記各竪枠22a、22bとが勢い良く衝突する事を防止できる。この結果、本例の様に、複層のガラスパネル27a、27bを組み込む事で重量の嵩むガラス障子19a、19bを使用する場合にも、閉鎖時に於ける安全性、静粛性を十分に確保できる。
【0024】
又、本例の場合には、前記各制動装置本体33a、33bを、前記各取付ブラケット36a、36bを介して、上記各召し合わせ框25a、25bの上端部外側面に支持固定している為、上記各制動装置本体33a、33bとして、従来から他の種類の引戸装置に使用されているものをそのまま使用する事ができる。言い換えれば、本例の場合には、専用の制動装置本体33a、33bを用意(設計、開発)する必要がなく、既存のものをそのまま利用できる。
【0025】
更に、本例の場合には、屋内側のガラス障子19aに支持固定された制動装置本体33aと、屋外側のガラス障子19bに支持固定された制動装置本体33bとで、抵抗付与手段により回転抵抗を大きくするピニオン34a、34bの回転方向を互いに同じにできる。この為、屋内側のガラス障子19aと屋外側のガラス障子19bとで、共通の制動装置本体を使用する事ができる。従って、部品種類の削減による低コスト化を図れると共に、これら制動装置本体の誤組み付けをなくす事ができて、組み付け作業の効率の向上を図れる。
【0026】
又、本例の場合には、上記上枠20の下面に支持固定された上記各ラック32a、32bと、上記各ピニオン34a、34bとを上下方向に噛合させている為、取付ブラケット36a、36bを含めた制動装置31a、31bの屋内外方向に関する設置スペースを小さく抑える事ができる。具体的には、屋内側に配置された制動装置31a及び屋外側に配置された制動装置31bを、100mm程度の寸法内に収める事ができる。
【0027】
尚、本例の場合には、図1の(A)に示す様に、屋内側の引戸障子19aに支持固定された制動装置本体33aの上記召し合わせ框25aの外側面からの突出量(L33a )を、この制動装置本体33aの下方に設けられた、クレセント44の突出量(L44)よりも小さくしている(L33a <L44)。これにより、上記ガラス障子19aを開放方向に移動させた際に、上記召し合わせ框25aが、図示しないクレセントストッパ部材に当接するよりも先に、上記制動装置本体33aが、前記竪枠22bに当接(衝突)する事を防止している。一方、屋外側の引戸障子19bに支持固定された制動装置本体33bに就いては、専用のストッパ部材を設ける等により、上記引戸障子19bを開放方向に移動させた際に、上記制動装置本体33bが前記竪枠22aに当接(衝突)する事を防止する様にする。
【0028】
又、図1に示す様に(図2、3には図示省略)、本例の場合には、上記各制動装置本体33a、33bの上部空間以外を覆う状態で、カバー45、45を取り付けている。この為、上記各ピニオン34a、34b(の下方部分)に、身体の一部(主として頭部)が接触する(或いは頭髪が絡み付く)事を防止できる。又、上記各ガラス障子19a、19bの外観及び体裁を良好に確保できる共に、屋内側に配置された上記ピニオン34aに、カーテン等が巻き込まれる事を防止する事もできる。尚、上記各カバー45、45は、前記各取付ブラケット36a、36bに対して取り付ける事もできるし、上記各制動装置本体33a、33bを構成する前記各ケース35a、35bに対して直接取り付ける事もできる。
【0029】
[実施の形態の第2例]
図4は、請求項1、4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例は、屋外側のガラス障子19bを嵌め殺しとし、屋内側のガラス障子19aのみを水平移動自在に建て込んで成る、所謂片引き障子に、本発明を適用した場合に就いて示している。尚、本例の特徴は、屋内側のガラス障子19aに制動力を作用させる為の制動装置31aを構成するラック32aの取付構造にある。その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例、及び、従来から知られた構造とほぼ同様であるから、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分に就いて説明する。
【0030】
本例の場合、上記制動装置31aを構成する、断面略T字形のラック32aを、上枠20aの屋内側に配置された木製の額縁46に、ラック取付用アタッチメント47を介して支持固定している。この為に本例の場合には、上記上枠20aの屋内側面に設けられた突出板部48に、断面クランク形のステー50を、ねじ49aにより下方からねじ止め固定した後、上記ラック取付用アタッチメント47を、上記ステー50と上記額縁46とに、それぞれねじ49b、49cにより下方からねじ止め固定している。そして、上記ラック取付用アタッチメント47の下面に設けられた、あり溝状の係止溝43c内に、上記ラック32aの基端部を係止している。
【0031】
又、本例の場合にも、上記ラック32aの基端部をかしめ固定する事により、或は、このラック32aの長さ方向両側部分に、図示しない阻止部材を支持する事により、このラック32aが、上記係止溝43c内で上記ガラス障子19aの閉鎖方向に変位しない様にしている。尚、本例の場合には、上記ラック取付用アタッチメント47として、アルミニウム合金の一体押し出し成形材製で、その長さ寸法が、上記上枠20aの全長とほぼ等しいものを使用している。但し、上記ラック32aの長さ寸法(約30〜40cm)よりも僅かに大きいものを使用する事もできる。
【0032】
又、本例の場合には、上記ラック32aの取付位置に合わせて、制動装置本体33aを、上述した実施の形態の第1例の場合に比べ、下方に、且つ、屋内側にずらした状態で、召し合わせ框25aの上端部外側面に支持固定している。
【0033】
上述の様な構成を有する本例の場合には、制動装置31aを構成する上記ラック32aを、上記ラック取付用アタッチメント47を介して、上記額縁46に支持固定する事ができる為、上記上枠20aとして、その下面にラックを支持する為の係止溝が設けられていないものを使用できる。この為、既に建造物に取り付けられた既存の上枠を備えた引戸装置に、制動装置を取り付ける事ができる。
その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
上述した実施の形態の第2例では、所謂片引き式の構造を採用した場合に、屋内側の引戸障子に制動力を作用させる為の制動装置を構成するラックを、ラック取付用アタッチメントを介して支持固定する構造を示した。但し、所謂引き違い式の構造を採用した場合にも、図5〜7に示す様に、屋内側の引戸障子に制動力を作用させる為の制動装置を構成するラックを、ラック取付用アタッチメントを利用して支持する事ができる。尚、この場合に、屋外側の引戸障子に制動力を作用させる為の制動装置を構成するラックに就いては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、上枠20の下面に設けられた係止溝43b内に支持固定する。
【0035】
更に、上述した実施の形態の第2例では、上枠20の突出板部48に対して、下方からねじ止め固定されたステー50を利用して、ラック取付用アタッチメント47を、木製の額縁46に組み付ける構造を示した。但し、このラック取付用アタッチメント47は、額縁46以外にも、例えば上記図5の(a)に示す様な膳板51や、同図の(b)に示す様なカーテンボックス52に対して組み付ける事もできる。又、上記図6の(a)〜(c)に示す様に、上枠20を構成する突出板部48に対して、ステー50を上方からねじ止め固定する構造を採用する事もできる。
【0036】
又、ラック取付用アタッチメントの別の構成としては、例えば図7の(a)〜(c)に示す様な構成を採用する事ができる。この図7の(a)には、ステー50の先端部に、ラック取付用アタッチメント47の上面に設けた係合部53を係合させる構成を示している。この様な構成によれば、上記ステー50に対してねじ止め固定する以前の状態で、上記ラック取付用アタッチメント47をこのステー50に一時的に支持する事ができる。又、同図の(b)には、ラック取付用アタッチメント47の係止溝43cの底部を下方から挿通したねじ54により、突出板部48に直接ねじ止め固定する構成を示している。この様な構成によれば、ラック取付用アタッチメント47の取付作業を簡易にする事ができる。更に、同図の(c)には、ラック取付用アタッチメント47とは独立した別の係止部材55にラック32aの基端部を係止し、この係止部材55をこのラック取付用アタッチメント47にねじ止め固定する構成を示している。この様な構成によれば、ラック32aの取付作業を容易にする事ができる。更に、図8に示した様に、ステー50の先端部に、ラック取付用アタッチメント47の上面に設けた係合部53aを、単に係合させる構成を採用する事もできる。この様な構成によれば、ねじ(49b)が不要になる事による作業効率の向上、及び、コスト低減を図れると共に、室内側からねじ(ねじの頭部)が見えなくなる為、室内景観の向上も図る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態の第1例の制動装置付引戸装置を、(A)は屋内側から見た状態で、(B)は屋外側から見た状態で、それぞれ示す略正面図。
【図2】屋内側及び屋外側のガラス障子をそれぞれ閉鎖位置に移動した状態で、これら各ガラス障子を構成する各召し合わせ框への制動装置本体の取付状態を示す平面図。
【図3】屋内側及び屋外側のガラス障子を構成する各召し合わせ框への制動装置本体の取付状態を、図2の左方から見た状態で示す側面図。
【図4】本発明の実施の形態の第2例を示す、図3と同様の図。
【図5】上枠の屋内側に額縁以外の部材を配置した場合のラック取付用アタッチメントの取付構造の2例を示す断面図。
【図6】突出板部に対するステーの別の取付方法の3例を示す断面図。
【図7】ラック取付用アタッチメントの別の構成の3例を示す断面図。
【図8】ラック取付用アタッチメントのステーに対する取付構造の別例を示す断面図。
【図9】従来構造の第1例を示す、制動装置付引戸装置の正面図。
【図10】制動装置本体を取り出して示す断面図。
【図11】従来構造の第2例を示す、制動装置付引戸装置の部分斜視図。
【符号の説明】
【0038】
1 開口部
2 レール
3、3a 引戸障子
4 吊車
5 ハンガー部材
6、6a ラック
7、7a ピニオン
8、8a 制動装置本体
9 一方向クラッチ
10 枢軸
11 回転体
12 粘性流体
13、13a 制動装置
14 上枠
15 案内溝
16 受部材
17 凹部
18 窓枠
19a、19b ガラス障子
20、20a 上枠
21 下枠
22a、22b 竪枠
23a、23b 上框
24a、24b 下框
25a、25b 召し合わせ框
26a、26b 突き合わせ框
27a、27b ガラスパネル
28a、28b 上部案内レール
29a、29b ガイドブロック
30a、30b ガイド溝
31a、31b 制動装置
32a、32b ラック
33a、33b 制動装置本体
34a、34b ピニオン
35a、35b ケース
36a、36b 取付ブラケット
37 基板部
38 ねじ
39 支持板部
40a、40b 取付フランジ部
41 ねじ
42 補強板
43a、43b、43c 係止溝
44 クレセント
45 カバー
46 額縁
47 ラック取付用アタッチメント
48 突出板部
49a、49b、49c ねじ
50 ステー
51 膳板
52 カーテンボックス
53、53a 係合部
54 ねじ
55 係止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓開口に設けられた窓枠と、この窓枠内に水平移動自在に建て込まれた引戸障子と、この引戸障子が閉鎖方向に移動して閉鎖位置近傍に達した際に、この引戸障子に制動力を作用させる制動装置とを備えた制動装置付引戸装置であって、このうちの制動装置は、水平方向に配置されるラックと、このラックと噛合自在なピニオンを有し、このピニオンが上記引戸障子の閉鎖方向への移動に伴い回転する場合にのみ、このピニオンの回転抵抗を大きくする抵抗付与手段を備えた制動装置本体とから構成され、このうちの制動装置本体を、上記引戸障子の縦辺を構成する1対の竪框のうち、この引戸障子の閉鎖状態で上記窓枠の中央側に位置する竪框の上端部外側面に、上記ピニオンの回転軸を屋内外方向に水平に配置した状態で支持固定すると共に、上記ラックを、上記窓開口の上辺に固定された部材に、その歯先面を下方に向けた状態で支持固定している事を特徴とする制動装置付引戸装置。
【請求項2】
窓枠内に複数の引戸障子が引き違い式に建て込まれている、請求項1に記載した制動装置付引戸装置。
【請求項3】
ラックが、窓枠の上辺を構成する上枠の下面に支持固定されている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した制動装置付引戸装置。
【請求項4】
窓枠の屋内側に水平移動自在に建て込まれた引戸障子に制動力を作用させる為の制動装置を構成するラックが、上記窓枠の上辺を構成する上枠よりも屋内側に、アタッチメントを介して支持固定されている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した制動装置付引戸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−281041(P2009−281041A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133819(P2008−133819)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000005005)不二サッシ株式会社 (118)