説明

制御された高熱症治療のためのポリメチルメタクリレート骨セメント組成物

【課題】骨転移によって引き起こされる骨窩洞の充填を可能にする、制御された高熱症治療のためのポリメチルメタクリレート骨セメント組成物を開発するという課題を基礎とする。
【解決手段】ポリメチルメタクリレート、X線不透明剤、メチルメタクリレートおよび/またはアルキルメタクリレート、開始剤系、最大500μmまでの粒度を有する強磁性粒子および/または超常磁性粒子ならびに42〜80℃の範囲内の融点を有する少なくとも1つの生分解性または生体適合性の結晶性物質を含有する。
【効果】特に脊柱の範囲の望ましくない温度ピークなしに身体領域を一時的に43〜46℃へ過熱するための薬剤(高熱症治療)の製造に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、骨転移が制御された高熱症治療のための交番磁界(magnetische Wechselfelder)によって加熱可能なポリメチルメタクリレート骨セメント組成物である。
【背景技術】
【0002】
しばしば前立腺、頸および胸部の癌疾患は、骨格系中での転移の形成と結び付いている。殊に、癌疾患の進行した最終段階では、骨転移は、極めて深刻な問題である。骨転移は、患者にとって部分的に極端な痛みと結び付いている。更に、脊柱内での転移は、脊柱の骨物質の破壊によって圧迫性骨折をまねく。脊柱が衰えた場合には、脊柱管、ひいては脊髄の圧迫を生じる。その結果が不随の兆候および極端な痛みである。従って、しばしば患者の最終的な生存月間のための待期的手段として、破壊された脊柱を骨セメントで充填することにより、脊髄の圧迫を減少させるかまたは阻止することが試みられている。それによって、患者の生存品質を改善することが達成される。従って、前記充填に利用される骨セメントは、僅かな機械的強度を有しなければならない。
【0003】
過去に、破壊された脊柱の充填のために使用された骨セメントを細胞増殖抑制性の作用物質でドーピングし、それによって細胞増殖抑制性の作用物質の局部的な放出により転移のさらなる成長を減少させるかまたは遅延させる試験が行なわれた(ドイツ連邦共和国特許第3513938号明細書)。この場合、細胞増殖抑制剤(Cytostatika)、殊にメトトレキサートの高い毒性は、問題である。高すぎる用量の場合には、簡単に望ましくない副作用が起こる。従って、セメント中の細胞増殖抑制剤の用量決定は、問題である。
【0004】
丈夫な腫瘍の治療範囲内で最近、高熱症治療は、著しく関心が持たれている。論議された全身高熱症治療とともに、殊に局部的な高熱症治療は、治療法として詳細に試みられた。この場合、腫瘍組織は、40〜46℃の範囲内の温度に加熱される。腫瘍組織の局部的な過熱は、腫瘍の壊死を誘発するか、または細胞増殖抑制性の作用物質に対する腫瘍組織の感度または腫瘍細胞の熱的前損傷による放射線治療に対する腫瘍組織の感度を高める。マイクロ波、超音波および磁気"サーモシーズ(Thermoseeds)"での局部的加熱の常用の方法とともに、殊に磁性/超常磁性粒子、殊にナノ粒子を利用するための開発が実施された。この粒子は、交番磁界の作用で熱くなる。この開発のための実例は、特許明細書EP1952825、CN101219071、WO2008074804、US2006/147381、EP1883425、WO2007142674、US2005/249817およびUS6541039に記載されている。この場合、特に重要なのは、US2005/249817である。これに関して、高熱症治療には、40〜46℃のキュリー温度を有する磁性ナノ粒子が提案されている。キュリー温度を上廻ると、提案された粒子は、なお常磁性の挙動だけを示し、それによって腫瘍組織中へのエネルギー導入は、制限される。それによって、46℃を上廻る組織の不必要な過熱を阻止するために、温度調整が達成されるべきである。腫瘍組織を損傷させるかまたは壊死させるためには、約43℃の温度で十分であると見なすことができる。よりいっそう高い温度への加熱は、付加的な利点を全くもたらさず、周辺の健康組織の熱的損傷の危険と結び付いている。
【0005】
原則的に通常のポリメチルメタクリレート骨セメントは、骨転移によって生じた骨窩洞の充填のために使用されることができる。ポリメチルメタクリレート骨セメントは、これまで原則的に類似の構造を有している。ポリメチルメタクリレート骨セメントは、数十年来公知であり、臨床的に有効であることが実証されている。このポリメチルメタクリレート骨セメントは、サー・チャーンレー(Sir Charnley)の基礎的な仕事に遡及する(Charnley, J.: Anchorage of the femoral head prosthesis of the shaft of the femur. J. Bone Joint Surg. 42 (1960) 28-30)。ポリメチルメタクリレート骨セメントの基本構造は、久しく原理的に同じままである。ポリメチルメタクリレート骨セメント組成物は、液状のモノマー成分と粉末成分とからなる。モノマー成分は、一般にモノマーのメチルメタクリレートおよびその中に溶解された活性剤(N,N−ジメチル−p−トルイジン)を含有する。粉末成分は、メチルメタクリレートおよびコモノマー、例えばスチレン、メチルアクリレートまたは類似のモノマーを基礎として重合、特に懸濁重合によって製造された1つ以上のポリマーとX線不透明剤と開始剤のジベンゾイルペルオキシドからなる。粉末成分とモノマー成分とを混合した場合には、メチルメタクリレート中での粉末成分のポリマーの膨潤によって可塑的に変形可能なペースト状物が生じる。同時に、活性剤のN,N−ジメチル−p−トルイジンは、過酸化ジベンゾイルと反応し、ラジカルの形成下に崩壊する。形成されたラジカルは、メチルメタクリレートのラジカル重合を開始させる。メチルメタクリレートの進行する重合と共に、セメントペースト状物の粘度は、このセメントペースト状物が凝固するまで上昇し、それによって硬化する。
【0006】
交番磁界により加熱可能な骨セメント用モノマー混合物は、例えば欧州特許出願08017156.4に提案されたものである。加熱は、熱的に崩壊する開始剤を活性化し、材料を硬化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許第3513938号明細書
【特許文献2】EP1952825
【特許文献3】CN1012190719
【特許文献4】WO2008074804
【特許文献5】US2006/147381
【特許文献6】EP1883425
【特許文献7】WO2007142674
【特許文献8】US2005/249817
【特許文献9】US654103
【特許文献10】欧州特許出願08017156.4
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Charnley, J.: Anchorage of the femoral head prosthesis of the shaft of the femur. J. Bone Joint Surg. 42 (1960) 28-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、骨転移によって引き起こされる骨窩洞の充填を可能にするポリメチルメタクリレート骨セメント組成物を開発するという課題を基礎とする。ポリメチルメタクリレート骨セメントは、交番磁界の作用により、後から成長する腫瘍組織の意図的な局部的の熱的損傷を可能にするように加熱することができるべきである。しかし、この場合には、望ましくない一時的な温度ピークが確実に阻止され、患者にとって痛みおよび他の望ましくない結果をまねきうる、周辺の健康組織の熱的損傷の危険は、制限すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、制御された高熱症治療のためのポリメチルメタクリレート骨セメント組成物を通常の成分のポリメチルメタクリレート、X線不透明剤、メチルメタクリレートおよび/またはアルキルメタクリレートならびに最大500μmまでの粒度を有する強磁性粒子および/または超常磁性粒子および42〜80℃の範囲内の融点を有する少なくとも1つの生分解性または生体適合性の結晶性物質を含有する開始剤系を用いて準備することによって解決される。従って、本発明は、
A ポリメチルメタクリレート、
B X線不透明剤、
C メチルメタクリレートおよび/またはアルキルメタクリレート、
D 開始剤系、
E 最大500μmまでの粒度を有する強磁性粒子および/または超常磁性粒子ならびに
F 42〜80℃の範囲内の融点を有する少なくとも1つの生分解性または生体適合性の結晶性物質を含有する制御された高熱症治療のためのポリメチルメタクリレート骨セメント組成物に関する。
【0011】
交番磁界をセメント中に含有されている強磁性粒子および/または超常磁性粒子上に作用させることにより、硬化されたポリメチルメタクリレートセメントは、生体内で加熱されることができる。42〜80℃の範囲内の融点を有する、セメント中に含有された生分解性または生体適合性の結晶性物質は、同様に加熱される。セメントの温度は、エネルギー導入量と比例して、結晶性物質の融点が達成されるまで上昇する。更に、セメントの温度は、結晶性物質が完全に溶融するまでの長時間、溶融温度のままである。供給されたエネルギーは、潜在エネルギーとして蓄積される。それによって、温度ピークは、確実に捕捉され、組織および隣の身体領域の望ましくない過熱は、回避される。
【0012】
特に、強磁性粒子は、結晶性物質によって部分的または完全に被覆されている。鉄、コバルト、サマリウム−コバルト、ネオジム−鉄(Nd2Fe4)は、強磁性粒子として好ましい。超常磁性粒子として、有利には、マグネタイトが使用される。
【0013】
1,2,3−トリラウロイルグリセリン、1,2,3−トリミリスチルグリセリン、1,2,3−トリパルミトイルグリセリン、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸は、生分解性の結晶性物質としてこれに該当する。特に好ましいのは、43℃の溶融温度を有する1,2,3−トリラウロイルグリセリンである。生分解性物質は、有利にポリメチルメタクリレート骨セメント中に30質量%の含量になるまで含有されている。それによって、温度ピークの確実な捕捉は保証される。
【0014】
本発明による骨セメント組成物は、付加的に細胞増殖抑制剤を含有することができる。当業者には、当該適応症に適していることは、公知である。この場合、標準として好ましいのは、細胞増殖抑制剤のメトトレキサートである。
【0015】
本発明による組成物は、特に脊柱の範囲の望ましくない温度ピークなしに身体領域を一時的に43〜46℃へ過熱するための薬剤(高熱症治療)の製造に適している。
【0016】
殊に、本発明による組成物は、骨転移によって形成された骨窩洞の暫定的な充填または安定化のために決定的な影響を及ぼし、この場合このセメントは、意図的な局部的高熱症治療を可能にし、場合により後から成長する腫瘍組織は、暫定的に局部的に治療することができる。
【0017】
こうして、ポリメチルメタクリレート骨セメントは、腫瘍患者の寿命品質を改善するのに役立つはずである。
【0018】
本発明には、次の実施例によって詳説されるが、しかし、本発明はこれによって制限されるものではない。部および百分率の記載は、通常の明細書の記載と同様に別記しない限り、質量に関連するものである。
【実施例】
【0019】
実施例1
セメント粉末の製造
管状混合装置を用いて陶磁器粉砕体を使用してプラスチック瓶中で1,2,3−トリラウロイルグリセリン30.0gをマグネタイト粒子10.0g(D50 100μm)と一緒に強力に30分間、微粉砕した。その際、1,2,3−トリラウロイルグリセリンは、マグネタイト粒子の表面上に付着する。その後に、ポリ−(メチルメタクリレート−コメチルアクリレート)60.0gおよび過酸化ジベンゾイル2.0g(水25%で粘着化した)を添加した。この混合物をさらに30分間、微粉砕した。このセメント粉末は、微粉砕後に帯灰褐色の粉末として提供された。
【0020】
実施例2
実施例1で製造されたセメント粉末40.0gをメチルメタクリレート18.40gとp−N,N−ジメチル−トルイジン0.38gとからなる混合物と混合した。30秒後に均一なペースト状セメントが生じ、このペースト状セメントは、数分後に硬化した。ペースト状セメントを用いてプラスチック型を使用しながら円筒状の成形体(高さ10mm、直径25mm)を製造し、この場合電子温度センサーは、成形体の中心に配置されていた。硬化された成形体を常用のインダクションレンジから借用したインダクションヒーター(電子制御装置を備えたコイル、周波数25kHz)を用いて2分間、加熱した。この場合、43〜44℃の最大温度を成形体の内部で測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A ポリメチルメタクリレート、
B X線不透明剤、
C メチルメタクリレートおよび/またはアルキルメタクリレート、
D 開始剤系、
E 最大500μmまでの粒度を有する強磁性粒子および/または超常磁性粒子ならびに
F 42〜80℃の範囲内の融点を有する少なくとも1つの生分解性または生体適合性の結晶性物質を含有する制御された高熱症治療のためのポリメチルメタクリレート骨セメント組成物。
【請求項2】
成分Eの粒子が結晶性物質Fによって部分的または完全に被覆されている、請求項1記載のポリメチルメタクリレート骨セメント組成物。
【請求項3】
成分Eの粒子が鉄、コバルト、サマリウム−コバルト、ネオジム−鉄(Nd2Fe14)またはマグネタイトからなる、請求項1または2記載のポリメチルメタクリレート骨セメント組成物。
【請求項4】
成分Fの物質が1,2,3−トリラウロイルグリセリン、1,2,3−トリミリスチルグリセリン、1,2,3−トリパルミトイルグリセリン、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸からなる群に属する、請求項1から3までのいずれか1項に記載のポリメチルメタクリレート骨セメント組成物。
【請求項5】
成分Fがポリメチルメタクリレート骨セメント組成物中の全質量に対して30質量%の含量になるまで含有されている、請求項1から4までのいずれか1項に記載のポリメチルメタクリレート骨セメント組成物。
【請求項6】
付加的に少なくとも1つの細胞増殖抑制剤が含有されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載のポリメチルメタクリレート骨セメント組成物。
【請求項7】
望ましくない温度ピークなしに身体領域を一時的に加熱するための薬剤(高熱症治療)を製造するための請求項1から6までのいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項8】
望ましくない温度ピークなしに脊柱の範囲を一時的に加熱するための薬剤(高熱症治療)を製造するための請求項7記載の使用。
【請求項9】
身体領域を一時的に43〜46℃へ加熱するための薬剤(高熱症治療)を製造するための請求項7または8記載の組成物の使用。

【公開番号】特開2010−143923(P2010−143923A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290132(P2009−290132)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(508316210)ヘレーウス メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (21)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Medical GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp−Reis−Str. 8/13, D−61273 Wehrheim, Germany
【Fターム(参考)】