説明

制御ラジカル重合反応を利用して得られる糖類固定化高分子基材、及び医療器具

【課題】 血栓等の生成による目詰まりを起こすことなく、血液等の体液を流すことができ、効率的に体液中のウイルスを除去/不活化することが可能な基材、器具を提供すること。
【解決手段】 高分子支持体(A)にグラフト重合反応により固定化された重合性化合物(B)を介してラジカル重合開始基を有する化合物(C)が固定され、更に、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアと共有結合したラジカル重合性基を有する化合物(D)が化合物(C)との制御ラジカル重合により結合され、且つ、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアとの共有結合を介して、糖類が固定化されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材を提供することによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子支持体(A)の表面を処理することにより得られるウイルス吸着用高分子基材に関する。また、本発明の本高分子基材はウイルスを吸着する機能を有することから、当該高分子基材を用いたウイルスを除去する医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)の慢性的感染が原因であり、薬剤による治療法としてペグインターフェロン、リバビリンの併用療法が一般的である。ジェノタイプ1bかつ血液中のウイルス量の多い患者では、治療成績は50%程度であり、肝硬変、肝がんへの移行割合が高いことからより有効な治療法、薬剤の開発が望まれている(非特許文献1)。一般的に薬剤による治療では血中のウイルス量が低い場合、治療成績が高いことが知られており、血中のHCVを多孔性のフィルターで除去し、薬剤との併用療法を行うと、治療成績が向上するとの報告がある(非特許文献2)。即ち、体内のウイルス量を下げることで、治療成績が向上したものと推定される。
【0003】
しかしながら、上記フィルターで除去する方法は、一旦血球と血漿を分離した後、血漿成分からウイルスを除去することから、回路構成は複雑で、より簡便に血中からウイルスを除去する方法が望まれている。
【0004】
一方、HCVに結合するリガンドとしてヘパリンが有効なことが知られている(非特許文献3)。よって、血球と血漿を分離することなく全血を通過させることのできる中空糸等の高分子支持体へヘパリンを固定化された基材は、より簡便にHCVを除去できる可能性があり、患者への負担の少ないHCV除去モジュール等を提供できることが期待される。
【0005】
ヘパリンが固定化された基材の形態にはビーズや多孔性中空糸が挙げられる。多孔性中空糸を用いた内部循環型の体外循環モジュールは粒子状ヘパリン固定化基材の充填された体外循環モジュールと比較して血液の滞留部分が少ないことから、構成上血栓の形成が少ない利点を有する。多孔性中空糸にヘパリンを固定化する際、表面官能基の種類や固定化密度は基材材質によって異なり、各基材によって最適な方法を見出す必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、血液入口、上流側血液回路、血漿分離手段、下流側血液回路がこの順に接続され、さらに血漿分離手段の血漿出口、上流側血漿回路、血漿浄化手段、下流側血漿回路がこの順に接続され、下流側血漿回路の末端は下流側血液回路の途中に設けられた血液血漿混合手段に接続されている血液処理装置であって、下流側血液回路の血液血漿混合手段の下流側に少なくともウイルス及びウイルス感染細胞を除去する水不溶性担体からなる血球処理手段が設けられ血漿浄化手段が最大孔径20nm以上50nm以下の多孔性濾過膜からなる装置が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、血液中の有害成分を吸着除去するための、安全性と性能が優れた吸着材であって、アニオン性基を有する分子量1000以上100万以下の化合物が、水不溶性担体に溶離値0.001以下、熱解離値0.01以下の強度で、水不溶性担体1mLあたり0.01mg以上100mg以下共有結合されていることを特徴とする血液浄化用吸着材が記載されている。
【0008】
一方、ヒト免疫不全ウイルス(以下HIV)に関しての吸着作用を有する基材については、
例えば、特許文献3には、主鎖にメチレン基を有する高分子基材に、エチレン性不飽和結合と糖鎖を有する重合性化合物、又は該重合性化合物を含む重合性組成物を接触させ、電離性放射線を照射するか、又は、前記高分子基材に電離放射線を照射した後、前記重合性化合物、又は該重合性化合物を含む重合性組成物を接触させて得られる、糖鎖を有するHIV吸着用糖鎖固定化高分子基材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−230165
【特許文献2】特開平5−168707
【特許文献3】特開2010−68910
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ウイルス性肝炎−基礎・臨床研究の進歩−日本臨床62巻増刊号7(2004)
【非特許文献2】A.K.Fujiwara et al.Hepatol.Res.,37,701(2007)
【非特許文献3】Zahn,J.P.Allain,J.Gen.Virol.,86,677(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、従来技術を鑑み、血栓等の生成による目詰まりを起こすことなく、血液等の体液を流すことができ、効率的に体液中のウイルスを除去/不活化することが可能な基材、器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは高分子支持体(A)の選択、ウイルスを吸着する機能を有するヘパリン等の糖類の高分子支持体(A)への固定化方法について詳細に検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は、高分子支持体(A)に糖類が固定化されたウイルス吸着用高分子基材において、高分子支持体(A)にグラフト重合反応により固定化された重合性化合物(B)を介してラジカル重合開始基を有する化合物(C)が固定され、更に、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアと共有結合したラジカル重合性基を有する化合物(D)が化合物(C)との制御ラジカル重合により結合され、且つ、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアとの共有結合を介して、糖類が固定化されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、除去が好ましくない血液成分を吸着・除去することなく、ウイルスを選択的に除去できる機能を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の高分子基材を備えてなる医療器具の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
即ち、本発明は、
1.高分子支持体(A)に糖類が固定化されたウイルス吸着用高分子基材において、
高分子支持体(A)にグラフト重合反応により固定化された重合性化合物(B)を介してラジカル重合開始基を有する化合物(C)が固定され、更に、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアと共有結合したラジカル重合性基を有する化合物(D)が化合物(C)との制御ラジカル重合により結合され、且つ、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアとの共有結合を介して、糖類が固定化されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材、
2.高分子支持体(A)が、ポリオレフィン、ポリエーテルスルホン、又はセルロース混合エステルを基質とする1.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
3.高分子支持体(A)が、中空糸である2.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
4.中空糸が、多孔性中空糸である3.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
5.ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ−4−メチルペンテンである2.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
6.重合性化合物(B)が、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、又はこれらの共重合体である1.〜5.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
7.ラジカル重合開始基を有する化合物(C)が、α−ハロゲン化カルボン酸誘導体である1.〜6.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
8.化合物(D)が、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、又はこれらの共重合体である1.〜7.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
9.水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)が、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよい、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、エチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンからなる群から選ばれる何れかである1.〜8.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
10.糖類が、ヘパリン、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、又はフコイダンである1.〜9.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
11.1.〜10.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材を備えたウイルス除去器具、
12.ウイルスが、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスである1.〜11.の何れかに記載のウイルス除去器具、
13.11.又は12.に記載のウイルス除去器具を用いた、ウイルスを含む液からウイルスを除去する方法、
に関する。
【0017】
以下、詳細に本発明を説明する。
・高分子支持体(A)
本発明に用いる高分子支持体(A)は、電離放射線照射によってラジカルを生成することからラジカルを生成することができる高分子化合物であれば良い。このような高分子化合物としては血液適合性の高いものであれば種々のものを用いることができるが、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂又はセルロース混合エステル等が挙げられ、より具体的にはポリエチレンテレフタレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ−4−メチルペンテン等を例示できる。
これらの多孔性中空糸は、延伸法等の公知慣用の方法で製造することできる。
【0018】
高分子支持体(A)の形状には特に限定はなく、中空糸、ビーズなど種々の形態のものとして用いることができる。体外循環への適用時には血液が滞留する構造を持つビーズとして用いることも可能であるが、ビーズは滞留部において血栓の発生が多くなることから、このような用途を目的とする場合は中空糸を使用することが望ましい。また、中空糸の形態は適宜選択することができる。
・ラジカル重合開始基を有する化合物(C)と反応し得る官能基を有する重合性化合物(B)
本発明で使用される重合性化合物(B)は、グラフト重合反応により高分子支持体(A)の表面を処理することのできる化合物であれば、特に制限はない。当該重合性化合物(B)は、上記ラジカル重合開始基を有する化合物(C)と共有結合により結合されることから、化合物(A)と反応して共有結合を形成し得る基を有することが必要である。
このような化合物(B)としては、結合する化合物(A)の種類により適宜選択することができるが、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート、又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのアクリレートが好ましい。また、これらの共重合体であってもよい。特にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば化合物(C)としてα−ハロゲン化カルボン酸誘導体を用いた場合には、グラフト重合反応の反応性及び化合物(A)との反応性から、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
・ラジカル重合開始基を有する化合物(C)
本発明のラジカル重合開始基を有する化合物(C)は、当該化合物(C)と反応し得る官能基を有する重合性化合物(B)と共有結合により結合し、更に当該化合物(C)の持つラジカル重合開始基によって、化合物(D)とのラジカル重合反応を開始させる機能を有する化合物であれば、制限なく用いることができる。
【0019】
一般に、このようなラジカル重合開始基を有する化合物(C)としては、例えばα−ハロゲン化カルボン酸誘導体が好ましく、具体的には、2−ブロモイソ酪酸ブロマイド、2−ブロモイソ酪酸メチル、2−ブロモプロピオン酸メチル等を好ましく用いることができる。その他、本発明で使用が可能なラジカル重合開始基を有する化合物としては、例えば特開2005−105265公報0022段落〜0071段落に記載のラジカル重合開始基を有する化合物を挙げることができる。
【0020】
・化合物(D)
本発明で用いられる化合物(D)は、ラジカル重合開始基を有する化合物(C)から開始されたラジカル反応によりラジカル重合する重合性反応基を有することに特徴がある。重合性反応基としては、(メタ)アクリロイル基が、重合反応性から好ましい。従って、当該化合物(D)としては、好ましくは(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート、又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。また、これらの共重合体であってもよい。
【0021】
・水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)
本発明の水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)は、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよいヒドロキシアルキルアミン誘導体又はアミノ基の保護基を有してもよい分子内に少なくとも2個のアミノ基を有するアミン誘導体であって、具体的には、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよい、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、エチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等を挙げることができる。
【0022】
本化合物(E)は、前記カルボキシル基及びラジカル重合性反応基を有する化合物(D)との反応の際、水酸基或いはアミノ基に用いられる公知慣用の保護基を有していてもよい。使用される保護基としては、カーバメート結合により保護する基、エステル結合により保護する基、アミド結合により保護する基又はエーテル結合により保護する基等を挙げることができるが、これらに限らない。
【0023】
カーバメート結合により保護する基としては、例えばt−ブチルカーバメート(Boc基)、ベンジルカーバメート等が挙げられ、エステル結合により保護する基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられ、アミド結合により保護する基としては、アセチルアミド基、ベンゾイルアミド基等が挙げられ、エーテル結合により保護する基としては、メトキシメチルエーテル基(MOM基)、ベンジルエーテル基等の基を挙げることができる。
これらの基は、用いられる化合物(E)の種類、化合物(D)との間で行われる反応の種類・条件等により適宜選択して行うことができる。
【0024】
・グラフト重合
本発明では、前記高分子支持体(A)に電離放射線を照射して発生させたラジカルにより、前記重合性化合物(B)が有するエチレン性不飽和基を高分子支持体(A)にグラフト重合させる。グラフト重合に際して用いる電離放射線源としては、公知慣用のα線、β線、γ線、加速電子線、X線等があげられ、実用的にはγ線、加速電子線が望ましい。
【0025】
グラフト重合法は前記高分子支持体(A)と重合性化合物(B)とを接触させて電離放射線を照射する同時照射グラフト重合法と、高分子支持体(A)を予め照射した後重合性化合物(B)と接触させる前照射グラフト重合法のいずれでも可能であり、目的に合わせて選択できる。
【0026】
本発明に用いる電離放射線を用いたグラフト重合法において、照射線量や加速電圧は高分子支持体(A)によって異なるため一概には範囲を決めることができず、高分子支持体(A)の素材、形態、厚みなどを考慮し適宜調整することが必要である。例えば、照射量が多いと帯電による絶縁破壊が発生し、照射量が少ないと重合反応が進行しない。このため、高分子支持体(A)の材質や形態などを考慮し、帯電による絶縁破壊が発生せず、かつ重合反応が充分に進む照射量を適宜調整すればよい。また、加速電圧は透過性に関係し、高分子支持体(A)の厚みによって異なる。フィルムなどの薄い形態の場合、加速電圧は一般には小さくて済み、高分子支持体(A)の形態によって選択すればよい。
【0027】
例えば、高分子支持体(A)が、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ−4−メチル−1−ペンテンからなる厚さ10(μm)〜100μm)の中空糸の場合においては、10(kGy)以上、300(kGy)以下であり、さらに望ましくは90(kGy)以下であればよく、加速電圧は適宜選択することができる。
【0028】
前記接触工程と前記電離放射線照射工程の順に特に限定はない。
例えば、前記高分子支持体(A)に重合性化合物(B)又は該重合性化合物(B)を含む重合性組成物を接触させた後、この状態で電離放射線を照射する工程をこの順で行っても良いし、逆に、前記高分子支持体(A)に電離放射線を先に照射し、その後該高分子支持体(A)に重合性化合物(B)又は該重合性化合物(B)を含む重合性組成物を接触させる工程をこの順で行ってもよい。
【0029】
前記照射グラフト重合において、照射後の基材中のラジカルは温度の上昇、酸素との接触によって速やかに不活化される。従って、照射後は十分に酸素を除いた状態で低温にて貯蔵し、速やかに固定化を行うことが好ましい。また前記の理由から、固定化においては脱酸素下又は不活性ガス下で実施することが望ましい。
重合後の高分子支持体(A)は、溶媒による洗浄など種々の方法で未反応の重合性化合物を除去すればよい。
【0030】
なお、高分子支持体(A)の形状が中空糸であり、該中空糸へ前記重合性化合物(B)又は重合性組成物を固定化する場合には、実施形態に応じて糸の内面、外面のどちらか又は両方に固定化することができる。例えば中空糸内部に血液を灌流させる時は中空糸内部に、前記重合性化合物(B)又は重合性組成物を中空糸内部に接触させた後、ヘパリンを固定化すれば良く、逆に、外部灌流させる時には中空糸外部に前記重合性化合物(B)ないし重合性組成物を接触させた後、ヘパリンを固定化すれば良い。
【0031】
・化合物(C)と化合物(D)のラジカル重合反応
化合物(D)のラジカル重合反応は、ラジカル重合反応開始基を有する化合物(C)において、ラジカルを生成させることにより、開始される特徴を有する。
即ち、より具体的には、化合物(C)としてα−ハロゲン化カルボン酸誘導体を用いた場合には、金属触媒を用いて、ハロゲン化された炭素にラジカルを生成させ、化合物(D)と反応を行えばよい。ここで用いられる金属触媒としては、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体である。更に好ましい触媒は、0価の銅、1価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄または2価のニッケル錯体である。なかでも、銅の錯体が好ましい。1価の銅化合物の例は、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などである。
【0032】
上記金属錯体は配位子が用いられる。より具体的には、2,2’−ビピリジルもしくはその誘導体(2,2'−ビピリジン、4,4'−ジ−n−ヘプチル−2,2'−ビピリジンなど)、1,10−フェナントロリンもしくはその誘導体、ピリジルメタンイミン(N−(n−プロピル)−2−ピリジルメタンイミンなど)、ポリアミン(テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2−アミノエチル)アミンなど)、またはL−(−)−スパルテイン等の多環式アルカロイドが配位子として添加される。また2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合には、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類が添加される。更に、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)等を挙げることができるが、特に好ましくは、銅化合物としてCuCl,CuBr,CuCl、配位子として2,2’−ビピリジル、2,2':6',2”−ターピリジン、4,4'−ジノニル−2,2'−ジピリジル、N,N,N',N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンを用いて調製される金属錯体が好ましい。言うまでもなく、本反応の形態は、化合物(C)にラジカルが発生し、化合物(D)においてラジカル重合反応が起これば特に制限はない。
【0033】
・水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)と化合物(D)との結合反応
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)と化合物(D)との結合反応に特に制限はなく、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)と化合物(D)とが共有結合をなし得るものであればよい。
【0034】
例えば、化合物(D)として(メタ)アクリル酸を用いた場合には、化合物(E)は、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基と結合し得る官能基であるアミノ基を有する化合物が好ましい。この結合様式の場合には、(メタ)アクリル酸と、アミノ基を有する化合物とのアミド化反応を行う。
アミド化反応の方法は、例えば、活性エステルによるアミド化、縮合剤によるアミド化、これらの併用、混合酸無水物法、アジド法、酸化還元法、DPPA法、ウッドワード法など、ペプチド合成などで用いられている公知慣用のアミド化反応を適宜行えばよい。
【0035】
活性エステルによるアミド化としては、例えば、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、HOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOAT(ヒドロキシアザベンゾトリアゾール)等を用いて、脱離能の高い基をカルボキシ基と一旦縮合させた活性エステルを形成させておき、これにアミノ基を反応させる方法が挙げられる。縮合剤によるアミド化は、それ単独で用いても良いが、上記活性エステルと併用することができる。縮合剤としては、EDC(1−(3−ジメチルアミノプロピル−3−エチル−カルボジイミドヒドロクロライド)、HONB(エンド−N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキサミド)、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、HBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、TBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOOBt(3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン)、ジ−p−トリオイルカルボジイミド、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)、BDP(1−ベンゾトリアゾールジエチルホスフェート−1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニルエチル)カルボジイミド)、フッ化シアヌル、塩化シアヌル、TFFH(テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスホスフェート)、DPPA(ジフェニルホスホラジデート)、TSTU(O−(N−スクシニミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HATU(N−[(ジメチルアミノ)−1−H−1,2,3−トリアゾロ[4,5,6]−ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート・N−オキシド)、BOP−Cl(ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィンクロライド)、PyBOP((1−H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)−トリス(ピロリジノ)ホスホニウム・テトラフルオロホスフェート)、BrOP(ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、DEPBT(3−(ジエトキシホスホリルオキシ)−1,2,3−ベンゾトリアジン−4(3H)−オン)、PyBrOP(ブロモトリス(ピロリジノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)などが挙げられる。
【0036】
このうち、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基を一旦、NHS化した後に、化合物(E)のアミノ基と反応させアミド化する方法が好ましい。
【0037】
これらのアミド化方法において利用できる溶媒としては、水及びペプチド合成に用いられる有機溶媒を使用することができ、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等、更にはこれらの混合溶媒やこれらを含む水溶液が挙げられる。
【0038】
カルボキシ基への活性化エステル残基導入割合は、用いる活性化剤の種類や、試薬の使用量に依存する。一般的に、溶液中での反応と比較し、重合性化合物から得られる重合体が結合されていることで、反応性が落ちる為、導入量を上げる為には反応試薬をかなり過剰量用いる必要があると考えられる。従って、高分子支持体(A)に重合せしめた(メタ)アクリル酸のカルボキシ基に対する活性化剤と縮合剤反応試薬の量比は一概には規定できないが、カルボキシル基に活性エステル基を等量的に導入するためには、概ねモル比で、1から10程度用いることが望ましい。さらに、反応試薬の過剰量を調整することで、活性エステル基の導入割合を0.01から100%の範囲で、任意に調整することが可能である。
【0039】
化合物(D)として、グリシジル(メタ)アクリレートを用いた場合には、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)の水酸基或いはアミノ基と、化合物(D)の有するグリシジル基と反応させることにより結合することができる。
反応条件は、通常の水酸基若しくはアミノ基とグリシジル基の反応で使用される溶媒、反応温度、反応時間を挙げることができる。好ましい条件の一例として、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)が溶液の場合には、直接使用しても良く、溶媒を使用する場合には、高分子支持体(A)を溶解又は膨潤させない溶媒で、より好ましくは、高分子支持体(A)を溶解及び膨潤せずに化合物(D)を溶解できる溶媒が使用でき、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)の濃度は任意に選択することができ、好ましくは、重量濃度0.1〜50%の濃度に調製して使用できる。
【0040】
反応温度は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)や溶媒が気化しない温度から選択でき、好ましくは0〜70℃、より好ましくは、20〜60℃である。反応時間は、化合物(E)の種類、濃度、及び、反応温度によりことなるが、化合物(E)の含有量をガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、滴定などでモニターしながら、化合物(E)が消費されなくなるまで行うことが好ましい。一般的には、30分から12時間で完結することができるが、これらに限定されず、適宜選択して反応条件を設定することができる。
【0041】
化合物(D)として、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートを用いた場合には、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)の水酸基若しくはアミノ基と、化合物(D)の有するイソシアネート基と反応させることにより結合することができる。
反応条件は、通常の水酸基若しくはアミノ基とイソシアネート基の反応で使用される溶媒、反応温度、反応時間を挙げることができる。好ましい条件の一例として、溶媒として、酢酸エチルやアセトニトリルなど、高分子支持体(A)を溶解及び膨潤せず、イソシアネートと反応しない溶媒から適宜選択することができる。反応濃度は任意に選択することが可能であり、具体的には重量濃度で0.5〜15%から選択することができる。反応温度はイソシアネートとの反応が発熱反応であることから、0〜50℃が好ましい。
反応時間は、2〜24時間を挙げることができるが、これらに限定されず、適宜選択して反応条件を設定することができる。
【0042】
・ヘパリン
本発明に用いられるヘパリンは、通常公知のものを制限なく使用することができる。ヘパリンは、小腸、筋肉、肺、脾や肥満細胞など体内で幅広く存在し、化学的にはグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸の一種であり、β−D−グルクロン酸、或いはα−L−イズロン酸とD−グルコサミンが1,4−結合により重合した高分子であって、ヘパラン硫酸と比べて硫酸化の度合いが特に高いという特徴を有する。
また、ヘパリンの平均分子量についても特に制限はないが、平均分子量が大きい場合には化合物(E)との反応性が低くなる為、ヘパリンの固定化の効率が悪いと考えられる。従って、ヘパリンの分子量は、概ね、500から500,000ダルトン、より好ましくは1,200から50,000ダルトン、更に好ましくは5,000〜20,000ダルトンであることが好ましい。
【0043】
本発明のヘパリン、ヘパリン誘導体等と水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)との結合は、例えば上記アミド化反応により行うことができる。
・ヘパリン誘導体
本発明で用いられるヘパリン誘導体としては、上記ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、又は上記ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体を好ましく用いることができる。
【0044】
ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、上記ヘパリンのアルカリ塩類をイオン交換樹脂(H)等に通じ、アミン類と処理することによりヘパリンアミン塩を調整する。その後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO・ピリジン等が好ましい。
【0045】
また、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、ヘパリンN−アセチル基をヒドラジン等で脱アセチル化した後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO・NMe等が好ましい。
【0046】
ここで、化合物(D)を化合物(C)との反応に供してから、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアと反応させた後にヘパリン又はヘパリン誘導体を固定化させても良いし、化合物(D)と化合物(E)を反応させた後に、化合物(C)との反応を行い、ヘパリン等の糖類を固定化させてもよい。
【0047】
また、デキストラン硫酸又はフコイダンは公知慣用の化合物を用いることができる。
本発明の制御ラジカル重合反応により、ウイルスの吸着に好ましい形態の糖類の固定化が期待できる。
【0048】
本発明の高分子基材を備えてなる医療器具の形態としては、前記用途に適用可能な形状であれば特に限定されるものではないが、例えば中空糸モジュールや濾過カラム、フィルターなどが挙げられる。中空糸モジュールや濾過カラムにおいて、容器の形状及び材質は特に限定されないが、体液(血液)の体外循環に適用する場合、内部容量が10〜400mLで外径が2〜10cm程度の筒状容器とすることが好ましく、内部容量が20〜300mLで外径が2.5〜7cm程度の筒状容器とすることがより好ましい。図1にその一例を挙げる。
【0049】
・ウイルスを含む液
本発明で対象とするウイルスを含む液は、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全ウイルスを含む液であれば特に制限はないが、例えば、ヒトの体内液体成分である体液、ウイルスを含んだ培養液等を挙げることができる。体液のより具体的な例としては、血液、唾液、汗、尿、鼻水、精液、血漿、リンパ液、組織液等を挙げることができる。
【0050】
本発明の医療器具の使用方法としては、ウイルスを含む液と接触させて該液中のウイルスを吸着除去、分離することができればいずれの方法でもよい。このような方法として、例えば以下の方法を挙げることができる。
(1)本発明の高分子基材を有するモジュールを用意し、該モジュールにウイルスを含む液を通過させる方法
(2)流出口に液は通過できるが本発明の高分子基材は通過できないフィルターを装着し、内部に該基材を充填したカラム様容器を用意し、これにウイルスを含む液を通過させる方法
(3)貯留バッグ等の容器を用意し、これにウイルスを含む液と本発明の高分子基材を加えて混合した後、上澄み液を回収する方法
(1)や(2)の方法は操作が簡便である点で好ましく、体外循環回路に組み込むことにより
患者の体液や血液から効率よくインラインでウイルスを除去することが可能である。このうち、さらに好ましい方法として(1)の方法が挙げられる。(2)や(3)の方法では、例えば血液を扱う場合、その凝固を防止するため血液を血球と血漿に分離した上で血漿のみを処理する必要があるが、(1)の方法ではこのような工程を必要とせず、操作が最も簡便でかつ患者への負担が少なくて済む。
【0051】
本発明の中空糸は、多孔性であっても多孔性でなくてもどちらでも用いることができる。
【0052】
多孔性中空糸を用いた場合には、ウイルスを含む液を該中空糸に通じることにより、該中空糸の有する孔を通過した液と、当該孔を通過せずに中空糸を通過した液とが生成し、両者の液を混合することにより、中空糸を通じる前のウイルスを含む液からウイルスを除去することが可能となる。
また、中空糸の孔を通過した液、孔を通過せずに中空糸を通過した液、又は中空糸の孔を通過した液と孔を通過せずに中空糸を通過した液の混合液に、ウイルスを吸着させる能力を有する他の基材を接触或いは通じることができるように設置することにより、より効率的にウイルスを除去することが可能である。
このような他の基材としては、ウイルスを吸着させる機能を有するものであれば特に制限はないが、例えば、ヘパリン固定化ゲル等を挙げることができる。
【0053】
・ウイルス吸着能の評価
本発明で対象とするウイルスは、HIV、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスであることに特徴を有する。本発明では、ヘパリン誘導体の肝炎ウイルス吸着能を評価するため、HCV E2蛋白質(His−tag)に対する吸着能を評価した。E2蛋白質は脂質膜と共に、ウイルス粒子の外被(エンベロープ)を構成し、ウイルスのエントリーに重要な役割を果たす蛋白質であって、E2蛋白質への吸着能を評価することにより、HCVへの吸着能の評価が可能となる蛋白質である。
また、糖類を固定化した中空糸を切り取り、マイクロチューブに入れて、HCV患者血清を加え、ローテートした。ローテート前後のHCVコア抗原量をELISA法にて測定した。
以下の実施例に示すように、本発明の高分子基材で除去されるウイルスは、HCV E2蛋白質の吸着能が確認された。
また、希釈を行ったHCV患者血清においてもウイルスの吸着が確認された。
【実施例】
【0054】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
(合成例1)式(1)で表される化合物の合成
【0056】
【化1】

【0057】
2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート15.5gの酢酸エチル50mL溶液を、氷冷したN−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタン16.0gの酢酸エチル溶液200mLに30分かけて滴下した。その後、0〜25℃で30分攪拌した。反応液を氷冷し、ヘキサンを徐々に滴下することで沈殿が生じるので、それをろ取し、酢酸エチル:ヘキサン=1:3の混合溶液で洗浄し、減圧乾燥して、目的物28.6gを得た。
【0058】
<式(1)で表される化合物の物性値>
H−NMR(CDCl)δ:6.15−6.09(1H,m),5.61−5.55(1H,m),5.21−4.90(3H,m),4.23(2H,t,J=5.3Hz),3.49(2H,q,J=5.5Hz),3.33−3.18(4H,m),1.96−1.92(3H,m),1.43(9H,s)
(合成例2)式(2)で表される化合物の合成
【0059】
【化2】

【0060】
合成例1と同様の操作で、N−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタンの代わりに、2−(t-ブトキシカルボニルアミノ)-1-エタノールを用いる他は、合成例1と同様にして、目的物を得た。
<式(2)で表される化合物の物性値>
H−NMR(CDCl)δ:6.15−6.10(1H,m),5.66−5.56(1H,m),5.00−4.79(2H,brm),4.24(2H,t,J=5.1Hz),4.15−4.13(2H,m),3.50(2H,q,J=5.4Hz),3.38−3.37(2H,m),1.96−1.95(3H,m),1.45(9H,s)
【0061】
(実施例1)
<電子線グラフト重合による高分子支持体(A)への重合性化合物(B)の導入>
高分子支持体(A):ポリ−4−メチルペンテン製の中空糸束(中空糸表面積:200cm、DIC(株)製)に、(株)アイ・エレクトロンビーム社製の電子線照射装置「エレクトロンカーテンEC250/30/90L」にて200kVの加速エネルギーで90kGyの電子線を照射した。この中空糸束をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換してから、予め脱酸素した重合性化合物(B):2−ヒドロキエチルメタクリレート(以下HEMA)の50mg/mL、メタノール溶液を試験管に注入し、23℃で所定時間静置した後、中空糸束を取り出し、メタノールで洗浄して、ポリHEMAをグラフト重合した中空糸を得た。中空糸の重量増加から下記の式に従ってHEMAのグラフト率を算出した。

グラフト率[%]=(グラフト後の中空糸重量[g]−元の中空糸重量[g])/元の中空糸重量[g]×100
【0062】
<基材へ導入したグラフト官能基への官能基導入>
上記で得たグラフト中空糸を、ポリHEMAの固定化量に対し適切な量(これをイニシエーター率(%)とする)に調製したラジカル重合開始基を有する化合物(C):2−ブロモイソ酪酸ブロマイド(東京化成工業株式会社製)の無水1,2−ジメトキシエタン溶液とピリジンの混合溶液(1/1v/v)を加えた。23℃にて反応を行った後、中空糸を酢酸エチルで洗浄し、乾燥する事により官能基導入中空糸を得た。
【0063】
<基材へ導入した官能基への制御ラジカル重合>
2,2’−ビピリジル68mg式(1)で表される化合物65mgを秤り取り、アルゴン雰囲気下、メタノール10mLと塩化銅(I)30mg(和光純薬工業株式会社製)を加えた。この溶液を23℃にて30分間撹拌した後、HEMA602mg及びメタノール10mLを加え、銅錯体溶液を調製した。枝付き試験管に上記で得た官能基導入中空糸を封入し、錯体溶液をキャノラーで加え、アルゴン雰囲気下、60℃にて反応を行った。反応終了後、中空糸を水、メタノールで順に洗浄し、乾燥する事により制御ラジカル重合中空糸を得た。この際、重量増加分を重量増加率(%)として計算した。

重量増加率[%]=(制御ラジカル重合後の中空糸重量[g]−元の中空糸重量[g])/元の中空糸重量[g]×100
【0064】
<ヘパリンの固定化>
ガラス製試験管に上記で得た制御ラジカル重合中空糸を封入し、4Mol/Lに調製したHClの酢酸エチル(国産化学株式会社製)溶液を加えた。23℃にて反応を行った後、中空糸を酢酸エチルで洗浄し、乾燥する事によりHCl塩中空糸を得た。このHCl塩中空糸を再びガラス製試験管に封入し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。23℃にて反応を行った後、中空糸を蒸留水で減圧洗浄し、残存する炭酸水素ナトリウムの除去をブロモチモールブルー溶液を用いて確認した後、メタノールで洗浄し、乾燥する事によりアミノ基導入中空糸を得た。
上記で得たアミノ基導入中空糸を、ヘパリン(LDO社製)120mg、シアノ水素化ホウ素ナトリウム12mg、pH7.1の0.01mol/Lリン酸緩衝液7mLの混合溶液に浸漬し、40℃で20時間反応した。蒸留水で洗浄後、無水酢酸とピリジンの容積比1:1の混合溶液に1時間浸漬して残留アミノ基をアセチル化した。0.1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液、20%食塩水、PBS、蒸留水、メタノールの順で洗浄後乾燥し、ヘパリンを固定化した中空糸を得た。
【0065】
<ヘパリン固定化中空糸の希釈系HCV E2吸着率の評価>
ヘパリンを固定化した中空糸を5cmに切り取り、マイクロチューブに入れて、ブロッキング液として1%BSA/PBS溶液を加え、4℃、一晩放置した。ブロッキング液を除去し、2〜4μg/mL濃度のE2溶液(Abcam社製)を500μL加え、23℃で2時間ローテートして吸着前後のE2量をELISA法にて測定したところ、E2吸着率は62%であった。
<ヘパリン固定化中空糸の希釈系HCV吸着率の評価>
ヘパリンを固定化した中空糸を5cmに切り取り、マイクロチューブに入れて、HCV患者血清を500μLを加え、23℃で60分間ローテートした。ローテート前後のHCVコア抗原量をELISA法にて測定したところ、HCV吸着率は17%であった。結果を表2に示す。
【0066】
(実施例2)〜(実施例10)
以下の実施例2〜10では、表1に記載の各化合物を用いて、実施例1と同様にして高分子基材を調整した。更に高分子基材のE2吸着率、及びHCV吸着率を評価した。
(比較例1)
表1に記載の構成で、実施例1と同様にして比較例1を行った。結果を表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(表中、「PMP多孔性」はポリ−4−メチルペンテン製多孔性中空糸、「PE多孔性」はポリエチレン製多孔性中空糸を示す。また、「HEMA」は2−ヒドロキシエチルメタクリレートを、「HEA」は2−ヒドロキシエチルアクリレートを、「MMA」はメチルメタクリレート示す。)
【0069】
【表2】

【0070】
本実施例から、本発明の高分子基材は、ウイルスの吸着用基材として有用であることが明らである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の高分子基材は、ウイルス除去器具への利用が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1流出口
2流入口
3糖類
4中空糸
5容器
6隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子支持体(A)に糖類が固定化されたウイルス吸着用高分子基材において、
高分子支持体(A)にグラフト重合反応により固定化された重合性化合物(B)を介してラジカル重合開始基を有する化合物(C)が固定され、更に、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアと共有結合したラジカル重合性基を有する化合物(D)が化合物(C)との制御ラジカル重合により結合され、且つ、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)又はアンモニアとの共有結合を介して、糖類が固定化されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材。
【請求項2】
高分子支持体(A)が、ポリオレフィン、ポリエーテルスルホン、又はセルロース混合エステルを基質とする請求項1に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項3】
高分子支持体(A)が、中空糸である請求項2に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項4】
中空糸が、多孔性中空糸である請求項3に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項5】
ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ−4−メチルペンテンである請求項2に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項6】
重合性化合物(B)が、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、又はこれらの共重合体である請求項1〜5の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項7】
ラジカル重合開始基を有する化合物(C)が、α−ハロゲン化カルボン酸誘導体である請求項1〜6の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項8】
化合物(D)が、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、又はこれらの共重合体である請求項1〜7の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項9】
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(E)が、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよい、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、エチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンからなる群から選ばれる何れかである請求項1〜8の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項10】
糖類が、ヘパリン、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、又はフコイダンである請求項1〜9の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材を備えたウイルス除去器具。
【請求項12】
ウイルスが、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスである請求項1〜11の何れかに記載のウイルス除去器具。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のウイルス除去器具を用いた、ウイルスを含む液からウイルスを除去する方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−170773(P2012−170773A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38293(P2011−38293)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】