説明

制御弁式鉛蓄電池

【課題】負極活物質の利用率を向上させることで、高容量またはコストダウンを達成し、また、フロート充電電流の増加を抑制し長寿命の制御弁式鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】鉛を主成分とする正極基板および負極基板にそれぞれ正極活物質および負極活物質を充填してなる正極板と負極板とをセパレータを介して積層して電槽に収容し、前記電槽に電解液を注入してなる制御弁式鉛蓄電池において、前記負極板にリグニンスルホン酸塩を鉛粉に対して0.2質量%〜0.7質量%添加し、且つ、前記極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.4〜1.7とすることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量またはコストダウン、更に長寿命の制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
制御弁式鉛蓄電池は、鉛を主成分とする正極基板および負極基板にそれぞれ正極活物質および負極活物質を充填してなる正極板と負極板とを微細ガラス繊維を主体としたマット状セパレータを介して交互に積層し極板群とした後、同極性同士の極板の耳部を溶接によって接続することにより極板群とし、これを電槽に収納し、この電槽に注液や排気用の開口部を有する蓋を溶着あるいは接着剤で接着し、この開口部から電解液を電解液量が極板群に含浸する程度注液し、注液や排気用の開口部にゴム弁(制御弁)を施し製造されるものである。
【0003】
無停電電源システム(以下、UPSと称する)などのスタンバイユース(商用電源が停電した際の非常用に用いるために、常時は使用されず待機している用いられ方)に使用される制御弁式鉛蓄電池は、該蓄電池の自己放電を補い常時満充電状態に保つため常に定電圧によりフロート充電された状態となっている。そして、スタンバイユースでフロート充電された場合の制御弁式鉛蓄電池の寿命は、一般的に正極基板の腐食による導電性低下、腐食膨張による活物質と集電格子の密着性低下、電槽からの透湿による電解液減少のための内部抵抗の増大などが主な原因となっている。
【0004】
制御弁式鉛蓄電池はフロート充電を含む充電中に正極板から発生した酸素の大部分は、負極板で吸収され酸化鉛となる。その後、酸化鉛は電解液である硫酸と反応して硫酸鉛に変化し、該硫酸鉛は充電されて鉛に戻る。従って、正極板からの酸素の発生量が多く、負極板への吸収量が増加すると、硫酸鉛を還元するために多くのフロート電流が流れる。
【0005】
そこで、鉛蓄電池のフロート電流の低減や寿命特性の改善のために、従来から負極板の負極板に所定量のリグニンスルホン酸塩を添加する方法(特許文献1)が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−117856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、リグニンスルホン酸塩を負極板に添加することで、寿命特性初期ではリグニンが負極活物質表面に吸着しているため、定電圧充電であるフロート充電中の負極電位の分極を大きくしフロート充電電流を減少させることが可能となっている。
しかし、活物質表面に吸着したリグニンスルホン酸塩は、充放電中に負極板より少しずつ電解液中へ分解や溶出し、さらに分解や溶出したリグニンスルホン酸塩は正極板で酸化され、二酸化炭素となって消失するため、その効果が長期間持続しないという問題があった。また、長期間効果を持続させようとしてリグニンを多量に添加すると充電受入性が低下し、充電不足となり、かえって容量が低下するという問題があった。更に、フロート充電状態での実使用年数の経過や高温条件下では、リグニンスルホン酸塩が電解液へ分解や溶出し易く、負極板からリグニンスルホン酸塩が分解や溶出した後もリグニンスルホン酸塩の添加効果である活物質粒子の微細化により負極活物質の表面積が大きいままであるため、フロート充電時の実効電流密度は小さくなり負極電位の分極を小さくするのでフロート電流が増加する現象が見られ、フロート充電電流が増加することにより正極格子の腐食、電解液減少による内部抵抗の増大などにより電池寿命特性を悪化させるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者等は種々検討した結果、負極活物質へのリグニンの添加量を夫々変化させることで負極活物質の利用率を向上させ、且つ、正極活物質量と負極活物質量の割合を規定することにより、寿命試験中期から末期にリグニンが分解され、微細化された負極活物質の表面が露出し、フロート充電電流が増加するのを抑制することが可能であることを見出し、本願発明に至ったものである。
負極活物質の利用率を向上させることで、高容量またはコストダウンを達成し、また、フロート充電電流の増加を抑制し長寿命の制御弁式鉛蓄電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鉛を主成分とする正極基板および負極基板にそれぞれ正極活物質および負極活物質を充填してなる正極板と負極板とをセパレータを介して積層して電槽に収容し、前記電槽に電解液を注入してなる制御弁式鉛蓄電池において、前記負極板にリグニンスルホン酸塩を鉛粉に対して0.2質量%〜0.7質量%添加し、且つ、前記極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.4〜1.7とすることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の制御弁式鉛蓄電池は、負極板に添加するリグニンスルホン酸塩を鉛粉に対して0.2質量%〜0.7質量%添加し、極板群の正極活物質の質量U(g)と負極活物質の質量V(g)の比[U/V]を1.4〜1.7に規定することで、負極の活物質粒子を微細化し反応表面積を増大させることが可能であり、それにより、鉛蓄電池容量の増大、更には容積エネルギー密度の向上させることが可能である。更に、フロート充電時において負極の分極を大きくでき、リグニンが分解した後でもフロート充電電流の減少を維持することが可能であり、液枯れおよび正極基板の腐食が防止され、制御弁式鉛蓄電池の長寿命化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、負極板に添加するリグニンスルホン酸塩を鉛粉に対して0.2質量%〜0.7質量%とすることで、負極の活物質粒子を微細化し反応表面積を増大させ、容量を増大させることにより容積エネルギー密度を向上させることが可能である。また、極板群の正極活物質の質量U(g)と負極活物質の質量V(g)の比[U/V]を規定することで、リグニンが負極活物質中から電解液へ溶出し、微細化された負極活物質の表面が露出したままでもフロート充電時の充電電流の低減を維持でき、以て電解液の液枯れおよび正極基板の腐食を防止して電池寿命を改善した制御弁式鉛蓄電池を提供することが可能である。
【0012】
本発明において、前記負極板に添加するリグニンスルホン酸塩を鉛粉に対して0.2質量%〜0.7質量%とする理由は、添加量が0.2未満では負極活物質を微細化する効果が小さく、負極活物質の利用率向上の目的を達成できない。また、添加量が0.7を超えると活物質のペースト状態においてその充填性が悪く、鉛合金でできた 格子基板にうまくペーストを充填できず、工程流動性に問題がある。また充電受け入れ性が著しく悪く、早期容量低下を引き起こす可能性がある。
【0013】
本発明において、前記比[U/V]を1.4〜1.7に規定する理由は、前記比[U/V]が1.4未満では負極活物質の量が多すぎて負極の分極が大きくならず、フロート充電電流が増加する。特に、フロート充電状態で実使用年数の経過や高温条件の下、リグニンが分解されるとこの現象は顕著となる。また1.7を超えると負極活物質の量が少なすぎる為、リグニンにより負極活物質の利用率を向上させても初期放電特性が低下してしまう為である。
なお、使用するリグニンスルホン酸塩としては、リグニンスルホン酸ナトリウムやリグニンスルホン酸バリウム、リグニンスルホン酸鉛等である。
【実施例1】
【0014】
以下に本発明の実施例を具体的に説明する。
まず、負極活物質としての所定量の鉛粉、水、希硫酸およびリグニンスルホン酸塩としてリグニンスルホン酸ナトリウムを混練し、負極活物質ペーストを作製し、該負極活物質ペーストをCa系鉛合金からなる格子状の負極基板に充填した。そして、充填後、熟成・乾燥を行い、未化成の負極板を作製した。次いで、この未化成の負極板と、負極と同様に 正極活物質としての 鉛粉に水や希硫酸を混練し、公知の方法により作製した未化成の正極板とをガラス長繊維を抄造してなるガラスマットを介して交互に積層させ積層体とし、該積層体の同極性の極板同士をバーナー方式で溶接して極板群を得た。次いで、前記極板群をポリプロピレン製の電槽内に挿入し、前記電槽に蓋をヒートシールし、前記蓋の液口から電槽内に比重1.21(20℃)の希硫酸からなる電解液を遊離する電解液がなく、 極板群に含浸する程度注入し、所定の条件で電槽化成を行って2V−300Ahの制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明1)。
なお、リグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.2質量%となるように調整した。
また、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]は1.4となるように夫々の活物質ペーストを充填する際に調整した。
【実施例2】
【0015】
極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.5とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明2)。
【実施例3】
【0016】
極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.7とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明3)。
【実施例4】
【0017】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.3質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.5とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明4)。
【実施例5】
【0018】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.4質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.4とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明5)。
【実施例6】
【0019】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.4質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.5とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明6)。
【実施例7】
【0020】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.4質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.6とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明7)。
【実施例8】
【0021】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.4質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.7とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明8)。
【実施例9】
【0022】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.5質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.5とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明9)。
【実施例10】
【0023】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.6質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.5とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明10)。
【実施例11】
【0024】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.7質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.4とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明11)。
【実施例12】
【0025】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.7質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.5とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明12)。
【実施例13】
【0026】
負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量は、鉛粉に対して0.7質量%となるように調整し、極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.7とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を作製した(本発明13)。
【0027】
(比較例)
表1に比較例として記載される様に、負極活物質へのリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量又は正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]の少なくとも一方を本発明範囲外とした他は実施例1と同様に制御弁式鉛蓄電池を種種作製した(比較例1〜17)。
【0028】
夫々作製した制御弁式鉛蓄電池(本発明1〜13、比較例1〜17)について、工程流動性、初期放電特性、フロート充電電流、寿命期間および総合評価を調べた。
その結果を表1に示す。
なお、初期放電特性は夫々作製した制御弁式鉛蓄電池を放電電流30Aで終止電圧1.8Vまで放電した。
また、フロート充電電流は60℃加速寿命試験(充電電圧2.23Vの定電圧充電(CV充電))を行い、5ヶ月目のフロート電流値を測定し評価を行った。フロート電流値の測定を5ヶ月目としたのは、60℃の高温環境下では、負極活物質中から電解液へリグニンの分解や溶出が促進され、略リグニンが分解や溶出が起きていると考えられるためである。なお、60℃加速寿命試験は月に1度容量試験を行い、放電容量が初期の70%に低下した時点で寿命とした。
また、工程流動性はリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量によりペースト状活物質の充填性が異なるため実施した項目であり、ペースト状活物質を充填する際、極板表面が平滑、且つペーストの基板格子の裏周りが良好であれば工程流動性に優れる(○)、少なくとも極板表面が平滑でない、ペーストの格子の裏回りが良好でない場合は工程流動性に劣る(×)と評価した。
また、総合評価は、初期放電特性比において95%未満が1、95%以上100%未満が2、100%以上が3とし、寿命期間において10ヶ月未満が1、10ヶ月以上15ヶ月未満が2、15ヶ月以上20ヶ月未満が3、20ヶ月以上が4とし、夫々の掛算で評価を行った。
ここで、初期放電特性およびフロート充電電流は、夫々、本発明1の放電容量およびフロート充電電流の測定値を100%としたときの比率で示したものである。
また、表1中の比較例13〜17は工程流動性に劣り、電池作製が困難であるため、電池作製を断念した結果、初期放電特性比等の結果に横棒(−)を記載したものである。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、本発明1〜13は比較例1〜17と比し、工程流動性、初期放電特性比、フロート充電電流および寿命期間の何れも優れていることが分かる。
比較例1〜6の初期放電特性比が本発明に比し劣るのは、リグニンスルホン酸ナトリウムの添加量が少ない為、負極活物質を微細化する効果が小さく、負極活物質の利用率が向上されないためであると考えられる。
本発明例の実施例1〜13はいずれも初期放電特性が高く、フロート充電電流が低い為、電池寿命が長くなり、良好な電池特性を示した。
これに対し、比較例2、7、9、11は負極活物質量が多すぎたため、フロート充電中の負極電位の分極が小さく、フロート充電電流が増加して液枯れ、正極格子腐食が進行し電池寿命が短かった。比較例8、10、12は負極活物質の量が少なすぎる為、リグニンスルホン酸ナトリウムにより負極活物質の利用率を向上させても初期放電特性が低下してしまった。なお、本発明において負極活物質中にリグニンスルホン酸ナトリウムを示したが、例えば、リグニン酸バリウムやリグニン酸鉛を添加した場合にも同様の効果を得ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛を主成分とする正極基板および負極基板にそれぞれ正極活物質および負極活物質を充填してなる正極板と負極板とをセパレータを介して積層して電槽に収容し、前記電槽に電解液を注入してなる制御弁式鉛蓄電池において、前記負極板にリグニンスルホン酸塩を鉛粉に対して0.2質量%〜0.7質量%添加し、且つ、前記極板群の正極活物質量U(g)と負極活物質量V(g)の比[U/V]を1.4〜1.7とすることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。

【公開番号】特開2010−102922(P2010−102922A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272859(P2008−272859)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】