説明

制御弁

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本考案は、パワーショベルなど建設機械の油圧回路に主として使用される制御弁に関するものである。
【0002】
【従来の技術】容量の大きなアクチュエータを一定以上の速度で動かすには、一のポンプ系統からの作動流体だけでなく、必要に応じて他の系統の作動流体をも同時にそのアクチュエータへ供給するのがよい。建設機械においても、たとえばショベル用のブームを駆動する大型の油圧シリンダに対しては、その動作時に、他の油圧系統でタンクまでバイパスさせていた作動油の通路をカット(閉鎖)し、その作動油を、該シリンダの本来の系統に合流させて(つまり合流用通路を開放して)供給するよう油圧回路の構成されることがある。このような油圧回路では、上記したバイパスカット用および合流用としてスプールを二本そなえる制御弁が使用される。
【0003】二本のスプールを有する制御弁は、すでに実開平1−60001号公報に開示されている。二本のスプールが別々のスプール穴に配置されるのが一般的であるのに対し、同公報の制御弁は、スプール穴が一つ(直線状の貫通穴)にされ、その内部に二本のスプールが配置されたもので、図3のような構成をもつ。すなわち、第一スプール20’と第二スプール30’とは内側端部20b’・30b’を対向させて直線状に配置され、通常は、スプリング23’の押し付け力に基づいてともに図のように右方位置にある。そしてパイロット圧力室として、第二スプール30’の外側端部30a’(図の右端)付近に圧力室37’が設けられ、二つのスプールが互いに接触する位置(中央付近)に圧力室27’が設けられている。前者の圧力室37’にパイロット圧が作用すると、二つのスプール20’・30’がスプリング23’に抗してともに左方へ移動するので、第一スプール20’のランド部20c’がバイパス通路61’を閉鎖するとともに、第二スプール30’のランド部30c’が他のパラレルの通路(たとえば上記した合流用の通路)63’を開放する。一方、後者の圧力室27’のみにパイロット圧が作用すると、第二スプール30’が図の右方に押し付けられたままで第一スプール20’だけがスプリング23’に抗して左方へ移動し、バイパス通路61’を閉鎖する。こうしてバイパス通路61’の閉鎖のみを行うのは、たとえば、この通路61’の上流に接続されたアクチュエータには高い圧力をかけるがパラレルの通路63’への流体供給は不要、といった場合である。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】図3に示した従来の制御弁は、スプール穴10’が一本の貫通孔であるため、同穴が二本の場合に比べてコンパクトなうえ穴加工が容易であるという利点があるが、下記の面では改善の余地がある。すなわち、スプール20’の位置とは無関係にスプール30’の位置を定められない点で各スプールの動きが完全には独立でなく、したがってつぎのような不都合がともなうのである。
【0005】図3の制御弁において使用上もっとも不都合な点は、圧力室27’にパイロット圧をかけてスプール20’を図の左方へ移動した状態では、さらにスプール30’をも左方へ移動することが難しいことである。その状態で圧力室37’にパイロット圧をかけても、その圧力が圧力室27’におけるものと等しい以上は、力がバランスして左方へも右方へもスプール30’が確実な移動をなし得ないからである。そのため、前述のようにまずバイパス通路61’を閉鎖してその系統のアクチュエータを動かし、そのまま引き続いて他のパラレルの通路63’を開放して流体を送るといった操作ができないことになる。このような操作を行う場合には、重力の作用にたよるべくスプール30’の外側端部30a’の側を上向きに保つなど制約下でこの弁を設置・使用するか、あるいは、圧力室27’へのパイロット圧を一旦ゼロに戻したうえ改めて圧力室37’にパイロット圧をかけるという煩わしい手順に従うかしなければならない。
【0006】本考案の目的は、スプール穴が一つであることに加え、二つのスプールを独立に移動することができて各種操作が確実・簡単であるといった利点をもつ制御弁を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本考案の制御弁は、■流体通路を閉鎖または開放する二つのスプールを、ケーシングに形成された加工径が均一な一直線状の貫通したスプール穴内に配置するとともに、各スプールの外側端部をケーシングから突出させたうえ各外側端部とケーシングとのそれぞれに座金を付け、各スプールにおけるそれら座金の間の部分に、スプール穴に沿ってそれぞれ外向き(すなわちスプール同士を引き離す向き)に力を及ぼすスプリングと、各スプールの移動端を定めるスリーブとを装着し、■各スプールの外側端部が臨む位置にそれぞれパイロット圧力室を設け、■両スプールの内側端部間に、ドレン孔と、両スプールが接触せずにともに必要な移動をなし得るだけの空間とを設けたものである。
【0008】
【作用】本考案の制御弁は、上記■に記したとおりスプール穴を一本の均一径のものにしてコンパクト化を図り、かつその穴の加工を容易にしたものだが、そのスプール穴において二つのスプールは、下記のようにそれぞれ独立に移動する。すなわち、1) 各スプールは、それぞれ取り付けられた上記■のスプリングによって各外向きの力を受けるので、通常は、スプール穴の内部でその軸心に沿って互いに最も引き離された位置にある。
【0009】2) 上記■の二つのパイロット圧力室のうち一方にパイロット圧がかかると、その圧力室に外側端部を臨ませた一のスプールが、取り付けられた上記のスプリングに抗して内側へ移動する。そしてそのパイロット圧がなくなると、スプリングの力でスプールは上記1)の状態に復帰する。
【0010】3) 二つのスプールの内側端部間には上記■のとおり空間およびドレン孔があるため、上記2)の移動と復帰は、そのスプールが他方のスプールに当たったり背圧が上昇したりして妨げられることなく、スムーズに行われる。上記の空間は、両スプールがともに移動するに十分な(つまり移動ストロークの合計分以上のスペースをもつ)ものであるため、各スプールについて、互いに他方の状態に関係なく上記の移動・復帰が行われる。したがってたとえば、一方のスプールを上記2)のように内側へ移動した状態で続けて他方のスプールを同様に内側へ移動することも、本制御弁ではその設置向きなどに拘わらず無条件に行える。
4) なお、上記■のスプリングは、ケーシングから突出した各スプールの外側端部とケーシングとのそれぞれに付けた座金を介して各スプールに上記1)の力を作用させる。そして■のパイロット圧力室に2)のようにパイロット圧がかかったときは、上記■のスリーブの両端に上記座金が当たるまでスプールが移動する
【0011】
【実施例】本考案の制御弁についての一実施例を図1に示し、その制御弁を使用した油圧回路の例を図2に示す。
【0012】図2の回路は、建設機械であるパワーショベル(図示せず)用の油圧回路の一部である。機械本体の走行のための油圧モータ5や旋回用の油圧モータ6、および図示を省略した他の油圧アクチュエータとともに、ブームを駆動する一組の油圧シリンダ7が、図示のようにバルブユニット2を介してポンプユニット1に接続されている。上記の走行や旋回に比べるとブームの駆動には大きな出力が必要なので、シリンダ7には、相当に大きな容量が備わっている。
【0013】ポンプユニット1には、図2のように二つの油圧ポンプ51・52が装備されている。そして、上記のモータ5・6は一方のポンプ51の系統に接続されており、シリンダ7は、もう一方のポンプ52の系統にある。つまり、モータ5・6は、ポンプ51からの作動油を通すセンターバイパス(バイパス通路)61に対しそれぞれ切換弁71・72を介して接続され、シリンダ7は、ポンプ52の側のセンターバイパス(同)62に、切換弁73をはさんで接続されている。センターバイパス61・62は、バルブユニット2に形成された作動油の通路で、いずれも図示のTポートにてタンク(図示せず)につながる。
【0014】シリンダ7を一定以上の速度で伸長してブームを高速度で駆動するためには、図2の状態でタンク(Tポート)へ流れていたバイパス61の作動油をバイパス62の作動油に合流させてシリンダ7へ供給するのが合理的であるため、ユニット2のうちには、図のように、いわゆるバイパスカット用および合流用の各スプール20・30が配備されている。タンクに至るバイパス61をスプール20の切り換えによって閉鎖するとともに、バイパス61からの分岐通路63にあるスプール30を開放側へ切り換えることにより、ユニット2外で接続されているJ1ポートとJ2ポートとを通して、バイパス61の作動油をシリンダ7への供給管64に合流させるのである。図の回路では、シリンダ7の切換弁73にP1ポートよりパイロット圧をかけるとき、同時にP2ポートにもパイロット圧が立つようになっており、そのパイロット圧によってスプール20および同30が同時に切り換えられるので、オペレータ(運転員)の操作は極めて簡単である。
【0015】さて、図2におけるバルブユニット2には、図1に示す構造の制御弁3が組み込まれ使用されている。制御弁3は、上記のスプール20・30や、それらによって閉鎖または開放されるバイパス61および通路63を含む(したがって図2では制御弁3が記号化されない)ほか、図1のように別のスプール41・42などをも有するもので、他のマニホールド部分4とともにバルブユニット2を構成している。
【0016】この制御弁3は、つぎの二点に特徴がある。第一の点は、上記した二つのスプール20・30を、図1のとおり、ケーシング3aに対し貫通して設けた一つのスプール穴10の内部に直線状に並べて配置していること。そして第二の点は、この第一の点にも拘わらず、二つのスプール20・30の各独立な切り換え制御が自在となるよう構成したことである。
【0017】上記第一の点については、スプール穴10が一つなので、それが二つある場合よりも制御弁3がコンパクトになるうえ、貫通孔であるため、その穴10をホーニングなどにより容易に高精度加工できる、という利点がある。このようにスプール穴10を一つにし、そこに二つのスプール20・30をおさめる場合、通常なら各スプール20・30を独立に動かすこと(上記第二の点)は難しいが、この制御弁3では、つぎの)〜)の構成によってそれを可能にしている。
【0018】) スプール20・30の各外側端部20aおよび30aをケーシング3aから突出させ、その端部20a・30aとケーシング3aとの各間にコイルスプリング23・33をそれぞれ取り付けた。スプリング23は、スプール20の回りにおいて、ケーシング3aに付けた座金23aとスプール20の外側端部20aに付けた座金23bとの間に圧縮して装着したので、スプール20に対し、常に外向き(ケーシング3aの外、つまり他方のスプール30から遠ざかる向き)の力を及ぼす。座金23a・23bの間ではスリーブ23cをもスプール20に装着し、これによってスプール20の移動端を定めている(つまり、スリーブ23cの両端に座金23a・23bが当たるまではスプール20が内向きに移動できる)。なおスプリング33についても、座金33a・33bやスリーブ33cを同様にスプール30の外側端部30a付近に装着している。
【0019】) ケーシング3aより突出したスプール20・30の各外側端部20a・30aの周囲に、パイロット圧力室27および37をそれぞれ形成した。すなわちケーシング3aの外側に、端部20a・30aや前記のスプリング23・33などを囲むキャップ26・36をそれぞれ固着し、各キャップ26・36の内側をそれぞれパイロット圧力室27・37として、前述のP2ポート(図2)に接続したのである。各端部20a・30aに付けた座金23b・33bが、スプリング23・33に押されてキャップ26・36の各内側に当たることによって常態(パイロット圧のかかっていない図示の状態)でのスプール20・30の位置が定まるので、この位置と、上記のスリーブ23c・33cで決まる移動端との間が、スプール20・30の各移動ストロークとなる。
【0020】) スプリング23・33の力で引き離された二つのスプール20・30の内側端部20b・30bの間に、十分なスペースをとるとともにドレン孔66aを形成した。十分なスペースというのは、上記の移動ストローク分だけ両方のスプール20・30が接近しあっても、当接して互いの動きを妨げる事態の発生しないだけのスペースである。ドレン孔66aは、言うまでもなくドレン通路66への開口であって、図2におけるDポートに至るものである。
【0021】こうした構成によって、各スプール20・30は、互いに他方のスプールの状態に関係なく独立に切り換えが可能であり、またそのことが制御弁3の設置向き(上下関係など)に影響されることもない。すなわち、図1に示すパイロット圧力室27または37のうち任意の側にパイロット圧を導入することにより、その側のスプール20または30をスプリング23または33に抗して内向きに移動し、一方、そのパイロット圧を除くことにより、そのスプールをスプリングの力で外向きに移動する(つまり図示の位置に復帰させる)のである。なお、スプール20は、図示の位置ではバイパス61を開放しているが、内向きに移動したときはランド部20cでそのバイパス61を閉鎖する。またスプール30は、図示の位置ではランド部30cにより通路63を閉鎖しているが、内向きに移動したときその通路63を開放する。
【0022】この制御弁3では、スプール20・30を同時に内向きに移動することも当然ながら可能だが、そのほかにたとえば、先にスプール20のみを内向きに移動しておき、そのまま続けてスプール30を内向きに移動することも全く問題なく行える。つまり、図1の状態からまずスプール20のみを切り換えてバイパス61を閉じ、その後、バイパス61を閉じたままでスプール30を切り換えて通路63を開くことである。この機能は、図2の回路において下記のケース等でとくに有効である。すなわち、バイパス61から分岐した予備の通路65に、クラッシャーなど油圧式の特殊な付属機器(図示せず)をRポートにて接続した場合であって、同機器の使用時に、タンクへ流れるバイパス61の作動油を遮断し、その状態で、さらにブーム用のシリンダ7を伸ばす場合である。オペレータは、はじめにPRポートからパイロット圧をかけてスプール20を閉鎖(バイパスカット)し、その後ブームの駆動の際に、P1ポートとP2ポートとにパイロット圧をかけてスプール30を開放(合流)するという、簡単かつ自然な操作をなすだけで、意図したとおりの運転が行える。
【0023】以上、実施例を一つ紹介したが、本考案は、たとえば下記の点で、この実施例に限定されるものではない。
【0024】a) スプール穴に二つのスプールとスプリング・パイロット圧力室などを上述のように備えた組を、同じケーシングのうちに二組以上有する制御弁も、もちろん構成可能である。
【0025】b) 各スプールの用途は、上記実施例では、タンクへのバイパスのカットおよび他の系統への作動流体の合流であったが、これに限らず、流体通路における各スプールのオン・オフ(解放・閉鎖)機能を各種の用途に適用できることは言うまでもない。
【0026】
【考案の効果】本考案の制御弁にはつぎの効果がある。まず、二つのスプールのためのスプール穴が加工径の均一な一本の直線状の貫通孔であることから、弁の構成がコンパクトなうえ、その穴の加工が容易である。さらに、二つのスプールのそれぞれが、他方の状態に関係なく独立に切り換え制御され得るので、操作が簡単であるとともに確実に機能する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の一実施例としての制御弁の断面図である。
【図2】図1の制御弁を使用した油圧回路の一例である。
【図3】二つのスプールを有する従来の制御弁の断面図である。
【符号の説明】
3 制御弁
10 スプール穴
20・30 スプール
23・33 スプリング
27・37 パイロット圧力室
66a ドレン孔

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 流体通路を閉鎖または開放する二つのスプールを含む制御弁であって、上記二つのスプールを、ケーシングに形成された、加工径が均一な一直線状の貫通したスプール穴内に配置するとともに、各スプールの外側端部をケーシングから突出させたうえ各外側端部とケーシングとのそれぞれに座金を付け、各スプールにおけるそれら座金の間の部分に、スプール穴に沿ってそれぞれ外向きに力を及ぼすスプリングと、各スプールの移動端を定めるスリーブとを装着し、各スプールの外側端部が臨む位置にそれぞれパイロット圧力室を設け、両スプールの内側端部間に、ドレン孔と、両スプールが接触せずにともに必要な移動をなし得るだけの空間とを設けたことを特徴とする制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【登録番号】第2566022号
【登録日】平成9年(1997)12月12日
【発行日】平成10年(1998)3月25日
【考案の名称】制御弁
【国際特許分類】
【出願番号】実願平3−51560
【出願日】平成3年(1991)6月6日
【公開番号】実開平4−134969
【公開日】平成4年(1992)12月15日
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【参考文献】
【文献】特開 昭55−82865(JP,A)
【文献】実開 平1−60001(JP,U)
【文献】実開 昭62−66045(JP,U)
【文献】実開 平4−66468(JP,U)