説明

制御投与薬物送達システム

【課題】自給式、自己制御性で、制御された量の薬物を制御された速度で投与する経皮イオントフォレーシス送達システムの提供。
【解決手段】平面的な使い捨て経皮イオントフォーレシス送達システム40は共通導体50によって連結された、ある量の酸化可能な種47と還元可能な種48とを包含し、これらはシステムの唯一の電源として役立つガルバーニ電池を形成する。ある量の治療剤42が供給されると、これは該ガルバーニ電池の使用によってのみ患者の皮膚を通って駆動される。該ガルバーニ電池には投与量を制御する一定クーロン容量が与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、仮出願第60/098,652号(1998年8月31日出願)に基づいて優先権を主張する完全出願である。
【0002】
本発明は一般に、通常イオントフォーレシス(iontophoresis)として知られる、印加起電力(emf)の使用による治療剤の経皮送達に関する。さらに詳しくは、本発明は、自給式であり、量的に自己制御式であるイオントフォーレシスのためのシステムに関する。システムは好ましくは、電極と治療剤とを含有する、かなり小さい皮膚装着パッチに含有される。皮膚に適用されると、システムは回路を完成して、治療剤の所望の送達量に対応する、正確に測られ、制限された期間の直流(galvanic current)の流れを開始する。システムは陽極又は陰極制限式でありうる。
【背景技術】
【0003】
イオントフォーレシスプロセスは1908年にLeDucによって説明され、それ以来、例えばピロカルピン、デキサメタソン及びリドカインのようなイオン的荷電(ionically charged)化合物の送達に商業的用途を見出されている。この送達方法では、正電荷を有するイオンが電解的電気システムの陽極部位において皮膚を横切って駆動され、一方、負電荷を有するイオンは電解的電気システムの陰極部位において皮膚を横切って駆動される。
【0004】
イオントフォーレシスデバイスでは、適用時間と、陽極と陰極との間の電流の流れのレベル(通常は、milliamp−分の単位で報告される)とは送達される薬物の量に直接比例する。イオントフォーレシスシステムにおける薬物送達の効率は、薬物と同じ電荷を有する競合非薬物イオンによって運ばれる電流に比した、薬物分子によって運ばれる電流の割合によって測定することができる。
【0005】
現在、イオントフォーレシスデバイスは慣用的に患者に取り付けた二つの電極を含み、各電極はワイヤを介してマイクロプロセッサ−制御電気機器に接続される。慣用的なイオントフォーレシスシステムの例示を図1に示す。機器が活性化されると、薬物を身体内への送達のために電極の一方又は両方の下に入れる。機器は電流の流れと適用時間とを調節するように設計される。このような機器の例は米国特許第5,254,081号及び第5,431,625号に記載されている。これらのデバイスのための電力は通常、DC電池によって与えられ、DC電池は、マイクロプロセッサ−制御回路に電力を与えて、調節された電流の流れを生じるための電極への電圧の印加を可能にする。電流の流れと時間(milliamp−分)との自動制御は、過剰量の治療剤が送達されるのを防止するために非常に有利である。しかし、これらの電池動力マイクロプロセッサ−制御システムは、患者をワイヤによって機器に結合し、これが患者の可動性と通常の日常活動を実施する能力とを制限するという事実によって不利である。典型的な適用期間は約20分間〜2時間であり、この期間は機器、介護人及び患者の時間を消費する。
【0006】
このようなシステムを図1に図式的に例示するが、このシステムは電池動力電流源(battery-powered current source)、マイクロプロセッサ−制御器、全て必要な電子回路及び他の制御装置(図示せず)を含有するための機器ケース10を包含する。出力ディスプレイは12に示す。正端子と負端子14と16は、患者に装着するように設計された外部電極システム18と20にそれぞれ接続される。電極18は22において緩衝液又は塩溶液を含有し、電極20は24に薬物又は治療剤室を含有する作用電極である。あらゆる時に、患者は電極連結ワイヤ26と28を通じてデバイス10に連結された状態でいなければならない。マイクロプロセッサ−制御された電流の流れのための、全ての他の必要な電子回路は機器ケース10に含有される。
【0007】
さらに最近では、電気回路と供給電力とが単一のパッチ内に統合された、着用可能なイオントフォーレシスシステムが開発されている。これらのシステムは外部ワイヤを有さず、サイズが非常に小さいという点で、有利である。このようなシステムの例は米国特許第5,358,483号;第5,458,569号;第5,466,217号;第5,605,536号及び第5,651,768号に見出すことができる。しかし、これらのシステムも種々の電子的構成要素、電池電源及び電気的相互連結のために、比較的剛直であり、高価であるという不利を有する。
【0008】
イオントフォーレシス電流の流れを駆動する動力は、異なる陽極材料と陰極材料とを用いて、それらが身体に接触するときに自発的な電流の流れを生じるガルバーニ電気手段により供給することもできる。これらのシステムは、分離した電気的回路と電池電源とが不必要であるという利点を有する。経皮型ではないが、ガルバーニ電気手段を用いるイオントフォーレシスデバイスは特許第5,322,520号に記載されている。このシステムは、その上部又は近くの細菌を殺すためにその表面から微量金属(oligodynamic metal)イオンを送達するように設計された、移植デバイス又はカテーテルシステム中に2種類の異なるガルバーニ材料(galvanic materials)を用いることを含む。泌尿器カテーテルのための他のシステムはDeLaurentis等によって米国特許第5,295,979号に示される。これらのデバイスは、送達される薬物(活性物質)量が自動的に調節されず、考えられる有害な過剰薬物投与量の又は過剰な電極副生成物が放出されるのを防止するためにデバイスを身体から臨機に除去することを必要とするという事実によって不利である。
【0009】
上記から、自給式であり、安価であり、電気的観点に関して比較的簡単である、簡単化された皮膚パッチ式イオントフォーレシスシステムであって、特に治療剤の送達量をさらに制御するイオントフォーレシスシステムに非常に需要があることが、理解されるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の第1目的は、自給式で自己制御性の経皮イオントフォーレシス薬物送達システムを提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、ガルバーニ電気によって動力を与えられ(galvanically powered)、これとは別に電流源又は電気回路を必要としない、自給式で自己制御性のイオントフォーレシス薬物送達システムを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、着用者の日常活動を妨げない、薄く、平面的で、順応性の、比較的小さい、イオントフォーレシスの着用可能な皮膚パッチ型・デバイスを提供することである。
【0013】
制御された投与量の薬物を自動化形式で送達し、それによって薬物の過剰な投与又は電極副生成物物質の過剰な放出を防止するように設計されたガルバーニ電気イオントフォーレシスデバイスを提供することが、本発明のさらに他の目的である。
【0014】
本発明のさらになお他の目的は、自給式皮膚パッチデバイスを用いて、薬物の制御された投与量を制御された速度でイオントフォーレシスによって自動化形式で投与する方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的及び利点は、本明細書、本明細書中の図面及び特許請求の範囲にさらに習熟するならば、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の概要)
本発明は、良好な経皮薬物送達における進歩を提供する。本発明は自動的かつ本質的に制御された又は限定された量を供給し、送達速度を制御する、治療剤の経皮送達のための自己制御性の着用可能なイオントフォーレシスシステムを提供する。着用可能なイオントフォーレシスシステムは好ましくは、自動接着性の低アレルギー誘発性接着層を包含する又は適所にテープで接着することができる、接着貼付される皮膚パッチの形状である。
【0017】
本発明のイオントフォーレシス経路は基本的に二つの室:即ち、カチオン性薬物室とアニオン性薬物室を包含する。カチオン性薬物室は、電気化学的に酸化可能な種の物質若しくは被膜を包含する電極を含有する。アニオン性薬物室も同様に電気化学的還元可能な種を包含する電極を含有する。これらの室は既知の距離だけ分離され、導体によって電気的に連結される。
【0018】
任意のレドックス対を電池として用いることができる。酸化可能な種と還元可能な種とは、それらが含有されるイオントフォーレシスパッチが患者の身体と接触するときに所望の自発的ガルバーニ電位を生じるように、選択される。電位と導体容量とを調節することによって、投与速度を調節することができ、酸化可能な種及び/又は還元可能な種の量を調節(限定)することによって、投与量を調節することができる。
【0019】
本発明の着用可能なイオントフォーレシスパッチの具体的な実施態様はさらに、電極を適所に維持し、陽極セル・キャビティと陰極セル・キャビティとを画定するための2つの分離した開口を有するセル壁画定層を伴う不浸透性バッキング又はトップ層を包含する。流体は親水性吸収層の存在によってキャビティ中に保持され、この親水性吸収層は次に薬物分子の移動を透過させる電流分配層によって適所に維持されることができる。パッチはさらに又は代替的に、皮膚に取り付けるために底部に同様に薬物分子の移動を透過させる低アレルギー誘発性接着層を有するか、又は被覆するばんそう膏物質(overlaying bandage material)を用いて取り付けられる。所望により薬物の投与を遮断するために患者が用いる手動スイッチ又は電流遮断デバイスを提供することもできる。所望により、使用直前に送達セルに注入することができる薬物含有流体の流入口として役立つ開口を提供することができる。本明細書で用いる限り、“薬物”なる用語は、本明細書に記載する原理による経皮投与を許容する任意の治療剤を意味する。
【0020】
バッキング物質は例えば3M No.1523のような高密度ポリエチレン・テープ又は他の閉塞性物質であることができ、セル壁を画定するバッキング物質は3M No.1772によって例示されるポリエチレン閉鎖セルフォーム又は同様な物質であってもよい。親水性吸収層は、例えばポリアクリルアミドのような、水溶液と接触したときに親水性ゲルを形成する物質を包含しうる、又はコットン、ガーゼ又は他の親水性物質から製造されうる。例えばナイロン、ポリカーボネート、エチレン−酢酸ビニル(EVA)及び酢酸セルロースのような多孔質膜物質が電流分配層物質として用いるための適当な物質の例である。
【0021】
システムを正常な皮膚と接触させて配置すると、電気回路が完成され、この回路は電流の通過を可能にし、それによって薬物化合物の送達を可能にする。上述したように、投与速度は選択された特定の電極物質の起電的特性によって制御することができ、電極間の導体容量及び投与量はシステムにおける限定された既知量の酸化可能な及び/又は還元可能な物質の使用によって制御することができる、というのは、いずれかの物質の消耗により直流を失われ、それによって治療剤の流動も失われるからである。
【0022】
したがって、電気活性種の既知限定量は陽極、陰極又は両方に関連付けられなければならないので、本発明の重要な態様はイオントフォーレシス電極の製造を包含する。これに関して、例えば、既知重量及び純度の酸化可能なワイヤ若しくはホイル物質を用いることができる;又は既知量の酸化可能な被膜を導電性基板(substrate)の表面に付着させることができる。この方法で、既知量の所望の金属をワイヤ又はプリント配線基板上に付着させて、既知含量の酸化可能な種を有する電極を製造することができる。これに関して、浸漬、電解又は電気めっき、スパッタ等を含めた、特定の金属に関与する任意の既知の付着方法を用いることができる。同様に、アニオン薬物室電極の調製に任意の既知方法を用いて、既知量の還元可能な被膜を導体の他方の端部の表面に付着させることができる。
【0023】
本発明のイオントフォーレシス電極を調製するための好ましいアプローチの1例は、銀ワイヤの1端部を溶融亜鉛又はマグネシウム中に浸漬し、ワイヤの他方の端部に既知量の塩化銀を電解的に形成することである。中央の未処理銀ワイヤは二つの電極を電気的に連結するのに役立つ。この方法は制御投与用ガルバーニ電池を形成し、この電池をその後に本発明のイオントフォーレシスパッチに組み立てることができる。
【0024】
本発明の方法によると、この手法は自給式の着用可能なパッチを用いて、任意の所望の指定投与量の治療剤を所望の位置に経皮送達することができる能力に関与する。この方法及びパッチの構造によると、治療剤は、薬物室の親水性吸収層中への混入によるように製造時に加えることができるか、又は使用時に室に注入することによって加えることができる。薬物がデバイス中に予め充填されている場合には、薬物添加工程の必要性が除去され、当然、ユーザーの便利さは改良される。
図面において、図面を通して同様な部分を指示するために同様な番号を用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(詳細な説明)
本発明の詳細な説明は、進歩した経皮薬物送達システムの原理を例示する。非常に限定された数の実施例形態及び物質組成(送達される治療剤を含む)を用いることによって、実施態様を説明する。しかし、本発明の概念によって包含される原理の適用がはるかにより広範囲であり、実際に、非常に多数の導体、ガルバーニ電気対(galvanic couple)(酸化可能な種及び還元可能な種)、送達されるべき治療剤並びに着用可能なパッチの実際の形態が可能であると考えられる。したがって、本明細書に記載した原理及び説明は例としてのみ意図され、如何なる意味でも本発明の範囲を限定することにはならない。
【0026】
既述し、図2及び3Aに示すように、一般的に40に示す本発明のイオントフォーレシス着用可能なパッチは2室:即ち、カチオン薬物室42とアニオン薬物室44を包含する。この説明のために、カチオン薬物室は、例えば47における電極の被膜によるように、電気化学的に酸化可能な種を含む又はそうでなければ提供されるリターン電極46を含有するものとして表されることができる。アニオン薬物室は、電気化学的還元可能な種で構成されるか又はそうでなければ含む作用電極48を包含し、それは49の被膜の形状であってもよい。これらの室は、典型的には、最適で約0.1cm〜2cmの範囲である既知距離だけ分離されるが、他の距離も使用可能であることに留意すべきであり、但し、イオントフォーレシスパッチをかなり小さいサイズとして維持することが望ましいことにも留意すべきである。カチオン室電極46とアニオン室電極48とは50の導体によって電気的に連結され、この導体は通常、共通ワイヤである(図3A)。
【0027】
パッチの他の構成要素は不透過性の、非導電性フレキシブル・バッキング層52を包含し、これは3M ポリエチレンテープ#1523又は他の閉塞性材料を用いて構成することができる。電極を適所に、バッキング物質に取り付けて維持するのは、セル壁画定層54であり、これは2つの分離した開口56と58を有して、陽極及び陰極セル又は室キャビティを画定する。セル壁画定層は3M#1772又は同様な材料から構成することができる。60におけるような親水性吸収層はセル壁画定層によって画定されるキャビティの各々に加えられ、セルキャビティ中に流体を保持するために役立つ。親水性層60は、例えばポリアクリルアミドのような、水溶液と接触すると親水性ゲルを形成する材料であることができるか、又は親水性層60はコットン、ガーゼ若しくは他の親水性材料であることができる。各セルキャビティに付随した電流分配層62は、親水性吸収層を適所に維持するために役立ち、薬物分子の移動に対しては透過性である1のデバイスである。例えばナイロン、ポリカーボネート、eva、及び酢酸セルロースのような多孔質膜材料が電流分配層材料として用いるために適切である。多孔質膜内には、直径約4mmの円形開口又は流入口64が存在し、これは薬物含有流体の流入口として役立つ。
【0028】
図3Bの実施態様では、電流分配層62が、同様に薬物透過性である低アレルギー誘発性接着層66と入れ替わっている。このことは、電流分配層が任意のものであり、親水性吸収層を適所に固定するための他の手段が備えられる場合には入れ替えられうることを例証する。送達されるべき薬物の性質と電荷とに依存して、電流分配層は陽極室又は陰極室のいずれかに配置されうる。
【0029】
ガルバーニ電池又はガルバーニ電気対の酸化可能な種と還元可能な種とは、イオントフォーレシスパッチが身体と接触するときに自発的ガルバーニ電位(galvanic potential)が生ずるように選択される。適当な酸化可能な種の例は亜鉛とマグネシウムを包含する。適当な還元可能な種の例は塩化銀と酸化第2銅を包含する。酸化可能な種として亜鉛を用い、還元可能な種として塩化銀を用いる場合には、確立されるガルバーニ電位は約1voltである。酸化可能な種としてマグネシウムを用い、還元可能な種として塩化銀を用いる場合には、確立されるガルバーニ電位は約2.6voltである。
【0030】
本発明のイオントフォーレシスプロセス中に、電流が流れると、カチオン薬物室内の酸化可能な種は酸化されて、アニオン室内の還元可能な種は還元される。ガルバーニ電気的に(galvanically)誘導される電流は、酸化可能な種又は還元可能な種のいずれかが限定量で存在するとしても、いずれかが消耗するまで、流れ続ける。電流の流れる量と、限定供給される酸化可能な種又は還元可能な種の量との関係はファラデー定数によって理論的に表される;限定酸化可能な種又は還元可能な種の1グラム当量は1ファラデー(96,487クーロン)の電気量を生じる。本発明のイオントフォーレシスパッチは0.06〜60クーロンの一定の既知の電荷を最適に送達し、これは限定供給される酸化可能な種又は還元可能な種の0.00000062〜0.00062グラム当量に相当する。
【0031】
本発明のイオントフォーレシス電極の調製は、既知限定量の電気活性種を陽極、陰極又は両方の内部に又は上部に組み入れなければならないので、重要である。カチオン薬物室電極の調製では、既知重量及び純度の酸化可能なワイヤ又はホイル材料を用いることができる;又は既知量の酸化可能な被膜を導電性基板の表面に付着させることができる。例えば、既知量の溶融亜鉛又はマグネシウムをワイヤ基板上に付着させて、酸化可能な種の既知含量を有する電極を製造することができる。アニオン薬物室電極の調製では、既知量の還元可能な被膜を導電性基板の表面に付着させることができる。例えば、既知量の溶融塩化銀をワイヤ基板上に付着させて、還元可能な種の既知含量を有する電極を製造することができる。或いは、例えば塩化物の存在下での銀ワイヤの電解酸化によるような、電解又は電気めっきプロセスによって、既知量の塩化銀を電極表面に生成して、塩化銀被膜を製造することができる。
【0032】
本発明のイオントフォーレシス電極を調製するための好ましいアプローチは、銀ワイヤの1端部を溶融亜鉛又はマグネシウム中に浸漬し、該ワイヤの他方の端部上には既知量の塩化銀を電解的に生成することである。このプロセスは、制御投与ガルバーニ電池を形成し、それは図3Aと3Bに示すようなイオントフォーレシスパッチへと組み立てられる。
【0033】
制御投与イオントフォーレシスデバイスを用いるためには、送達されるカチオン含有溶液をカチオン薬物室の流入口に注入し、アニオン物質含有溶液をアニオン薬物室の流入口に注入する。次に、薬物が投与されるべき身体の一部にパッチを貼付して、パッチの底部の接着層によって及び/又は被覆するばんそう膏物質によって皮膚に接着させる。皮膚に接触したならば、電気回路が完成されて、電流の移動及び薬物化合物の投与を可能にする。
【0034】
図4は、本発明の使用中の電子及びイオンの流れを概略的に例示する。図5は、本発明において刺激電流を生じるための手段として役立ちうる電気化学的半反応を示す。カチオン室電極の酸化可能な物質が消耗するか、又はアニオン薬物室電極の還元可能な物質が消耗すると、電流の流れは本質的に0に低下し、薬物化合物の送達は完了する。
【0035】
図6は、本発明によって調製される電池からの時間の関数としての電流の一定送達を例示する。この実験では、亜鉛ワイヤが酸化可能な種として役立ち、還元可能な種は銀ワイヤ上に付着した電気めっき塩化銀の限定供給であった。亜鉛端部と塩化銀端部とを1%塩化ナトリウム溶液中に入れて、電流の流れを直接接続した電流計によって測定した。測定された電流は定常であり、約5分間使用した後に0近くまで急速に消耗した。
【0036】
図7では、様々な量の限定塩化銀を用いた同様な実験からの結果を示す。これは、還元可能な種、塩化銀の限定供給を用いて、本発明のイオントフォーレシスパッチにおける電池容量をどのように確立し、制御することができるかを例示する。
【0037】
図8は、還元可能な種、塩化銀ではなく、酸化可能な物質、亜鉛の様々な限定量を用いて、図7に示したと同様な結果を例示する。この図は酸化可能な物質の限定供給を用いて、還元可能な物質と同様に、本発明のイオントフォーレシスパッチにおける電池容量をどのように確立し、制御することができるかを例示する。
【0038】
図9は、両方の室に1%塩化ナトリウム溶液を用いて、本発明に従い製造したパッチからの、ヒト皮膚に貼付したときの電流の流れの例示である。図9の結果を生じた実験では、酸化可能な種として既知量の亜鉛を限定量で付着させ、還元可能な種として塩化銀を過剰量で付着させて、この電池又はセル陰極を制限した。この例では、電流は約0.1mAに達し、亜鉛が約190分間目に消耗するまで比較的定常に維持された。その後、電流は急速に0近くに低下した。
【0039】
上記実施態様の他に、患者が電流を任意に遮断するのを可能にするON/OFFスイッチの使用のような、付加的特徴をパッチシステムに加えることができる。この実施態様は図10中の80に一般的に描写されている。このシステムは、酸化可能な電極被膜86を有するリターン電極84を含有する陰極薬物室82と、還元可能な電極被膜92を有する作用電極90を含有する陽極薬物室88とを包含する。この実施態様では、作用電極とリターン電極とを連結する電気的連結要素94に、図に示すように開いて、直流電流を遮断することができる手動操作可能なスイッチ又は遮断デバイス96を備える。スイッチ96が閉まると、当然、システムは図2の実施態様に示すように作動する。この特徴は、治療剤の投与に関して、患者にさらに最適レベルの制御を与える。
【0040】
例えば、本発明の着用可能なパッチに用いるためのガルバーニ電気対又は電池の作成に、ワイヤ基板の材料及び形状の多くの変化が可能であることを当業者は理解するであろう。銀ワイヤの他に、任意の導電性材料のほとんどが使用可能である。これらは、例えば、銅ワイヤ、アルミニウムワイヤ及び/又は、非導電性基板上に供給される任意の種類のプリント回路導体を包含する。さらに、ガルバーニ電気対又は電池の酸化可能な構成要素と還元可能な構成要素との両方を導電性基板に付着させる方法は多く存在し、例えばミクロディスペンシング(microdispensing)、接着剤コーティング、スクリーンプリンティング、スパッタ等のような他の方法も当業者に思い浮かぶであろう、付着材料の量を制御することができる任意の実行可能な方法は本発明によって包含される。計量も、当然、導電性表面に塗布される物質量を測定するための見込みある代替手段である。
【0041】
特許法に従うため、及び新規な原理を適用し、必要とされるような特殊な構成要素を構成して用いるために必要な情報を当業者に与えるため、本明細書では本発明をかなり詳細に説明した。しかし、本発明が明確に異なるデバイスによって実施されうること及び装置細部と操作手法の両方に関して、種々な変更が、本発明自体の範囲から逸脱せずに行われうることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】DC電流源に連結タイマーを用いた、慣用的な外部動力イオントフォーレシスデバイスの概略透視図である。
【図2】本発明によって構成された着用可能なパッチの1実施態様の断面概略図である。
【図3A】図2に示した着用可能なパッチの組み立てを示す分解組み立て図である。
【図3B】本発明の着用可能なパッチの代替の実施態様の組み立てを示す分解組み立て図である。
【図4】本発明の着用可能なパッチの起電態様による分子と電子との流れを例示する概略図である。
【図5】本発明の原理によるガルバーニ電極反応の例を例示する。
【図6】還元可能な作用剤の消耗によるガルバーニ電気限定の影響を示す、電流の流れ対時間のプロットである。
【図7】電気めっきされた還元可能な種の限定供給(陽極限定)と本発明によるガルバーニ電池の容量との間の全体的に線形の関係をグラフによって示す。
【図8】酸化可能な亜鉛被膜の限定供給(陰極限定)と本発明によるガルバーニ電池の測定容量との間の全体的に線形の関係を示すグラフである。
【図9】ヒト皮膚に貼付したときの本発明によって製造したパッチについての、電流の流れ対時間を示す実験結果及び消耗時間も示すグラフである。
【図10】本発明によって構成された着用可能なパッチの代替の実施態様の断面概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療剤、一般的に薬物を送達するための平面的で着用可能な使い捨て経皮イオントフォーレシスシステムであって、
(a)治療剤の第1送達室と接触する酸化可能な種と;
(b)治療剤の第2送達室と接触する還元可能な種と;
(c)前記酸化可能な種と前記還元可能な種とを連結し、両者の間の直流電流の通過を可能にする共通導体と
を含み、前記システムが一定クーロン容量を有し、
(d)前記酸化可能な種と前記還元可能な種とが相互に排他的にそれぞれ前記第1送達室と第2送達室とに含まれる前記システム。
【請求項2】
前記酸化可能な種と前記還元可能な種とから成る群から選択される少なくとも1種類の種を既知の少量で供給して、送達システムの前記一定クーロン容量を与える、請求項1記載の送達システム。
【請求項3】
前記酸化可能な種と前記還元可能な種とを既知量で供給する、請求項2記載の送達システム。
【請求項4】
前記直流電流の通過を遮断するためのスイッチ手段をさらに含む、請求項1記載の送達システム。
【請求項5】
前記酸化可能な種と前記還元可能な種とが共通の導電性基板上の被膜として運ばれる、請求項1記載の送達システム。
【請求項6】
前記酸化可能な種がMg及びZnから選択され、前記還元可能な種がAgClである、請求項5記載の送達システム。
【請求項7】
前記導電性基板がワイヤである、請求項5記載の送達システム。
【請求項8】
前記導電性基板が銀ワイヤである、請求項6記載の送達システム。
【請求項9】
前記送達室の各々が室キャビティ中に流体を保持するためにある一定量の親水性吸収物質を備える、請求項1記載の送達システム。
【請求項10】
前記親水性吸収物質がコットン、ガーゼ及び親水性ゲルから選択される、請求項9記載の送達システム。
【請求項11】
親水性吸収物質の表面を覆って、それを定位置に維持する、薬物分子の移動に対して透過性の電流分配層をさらに含む、請求項9記載の送達システム。
【請求項12】
親水性吸収物質の表面を覆って、それを定位置に維持する、薬物分子の通過に対して透過性の電流分配層をさらに含む、請求項10記載の送達システム。
【請求項13】
前記送達室の各々が薬物含有流体を入れるための流入口を備える、請求項1記載の送達システム。
【請求項14】
前記送達システムを患者の皮膚に接着するための手段をさらに含む、請求項1記載の送達システム。
【請求項15】
前記送達システムを患者の皮膚に接着し、前記親水性物質を前記室中に保持するための接着層をさらに含む、請求項9記載の送達システム。
【請求項16】
平面的な使い捨て二室経皮イオントフォーレシス送達システムであって、
(a)システムの唯一の電源として役立つガルバーニ電池を形成するために、前記システムの別々の室に排他的に含有され、共通導体上に含有された酸化可能な種及び還元可能な種と;
(b)前記室の少なくとも一方における、前記ガルバーニ電池の使用によってのみ患者の皮膚を通して経皮的に駆動されるある一定量の少なくとも1種類の治療剤と;
(c)前記共通導体上に含有される前記酸化可能な種、前記還元可能な種又は前記種の両方からなる群から選択された量に基づいて、既知の一定クーロンの総送達容量を有する前記ガルバーニ電池と
を含む前記送達システム。
【請求項17】
既知の限定された一定クーロン容量の自給式ガルバーニ電気システムによる送達に基づいて、皮膚パッチ経皮イオントフォーレシスシステムを用いることによって、既知投与量の治療剤を送達する方法。
【請求項18】
(a)システムの唯一の電源として役立つガルバーニ電池を形成するために共通導体によって連結された、前記皮膚パッチシステム中の分離した2室に酸化可能な種及び還元可能な種を排他的に供給する;
(b)前記ガルバーニ電池の使用によってのみ患者の皮膚を通して経皮的に駆動されるように、前記分離した室の一方又は両方にある一定量の治療剤を供給する;
(c)前記酸化可能な種と前記還元可能な種との少なくとも一方を既知限定量で供給することによって、前記ガルバーニ電池に既知の一定クーロン総伝達容量を与える;
(d)前記皮膚パッチシステムを患者の皮膚に貼付させる;並びに
(e)既知量の前記治療剤(単数又は複数種類)を前記患者に送達する、
工程を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記治療剤(単数又は複数種類)が実質的に定常な速度で送達される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記送達を遮断するためのスイッチを形成する工程を含む請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−14791(P2007−14791A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222832(P2006−222832)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【分割の表示】特願2000−567277(P2000−567277)の分割
【原出願日】平成11年8月18日(1999.8.18)
【出願人】(502237663)トラヴァンティ ファーマ インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】