説明

制御放出可能な抗菌剤を備えた医療デバイス

基体材料、該基体材料の表面の少なくとも一部の上に配置された、例えばポリビニルピロリドン(PVP)を含む親水性表面コーティング、及び基体材料と親水性表面コーティングとの間に配置された微量作用金属を含む抗菌層を含む尿道カテーテルのような医療デバイスが開示される。さらに、親水性表面コーティングは、親水性表面コーティングを通して微量作用金属イオンを制御放出するのに十分大きな厚さ、例えば3mmを超える乾燥時の厚さを有する。これによって、微量作用金属イオンの放出における変動が有意に低減され、改善された放出制御が可能である。また、対応する方法も、開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体材料(substrate material)及び該基体材料の表面の少なくとも一部の上に配置された親水性表面コーティングを含む医療デバイスに関する。医療デバイスは、さらに抗菌剤(antibacterial agent)を含み、そして該抗菌剤の所定の制御可能な放出を与える。さらに、本発明は、このような医療デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイス、例えば血管、消化器官及び泌尿器系といったようなヒト体腔(human cavities)に挿入するためのカテーテルを、機器挿入の際、挿入されるか又は粘膜などと接触することになる少なくとも挿入可能な部分の表面上において親水性コーティングでコーティングすることは知られている。このような親水性コーティングの利点は、好ましくは人体へ挿入する直前に、水で膨潤したときに極めて滑べりやすくなり、そのため、最小限の組織損傷で実質的に痛みのない挿入が確実に行われるということである。
【0003】
親水性表面コーティングを製造するには、多くの方法が知られている。知られている親水性コーティング法は、例えば特許文献1に記載されており、ここでは、イソシアネートを用いて、親水性PVPを基体に結合するためにポリ尿素ネットワークを形成している。さらに、特許文献2は、コーティングの保水性及び低摩擦を改善するため、このような親水性コーティングに浸透圧を高める化合物(osmolality increasing compound)を加える方法を記載している。さらに、特許文献3は、照射手段によって架橋され、そしてその中に水溶性の浸透圧を高める化合物を組み込んだ親水性コーティングを記載している。
【0004】
しかしながら、無菌ガイドラインなどへのアドヒアランスにもかかわらず、医療デバイスの使用、そして特に自然の及び人工的な身体開口部への医療デバイスの挿入は、細菌汚染のリスクが含まれる。例えば、尿道カテーテルの挿入及び維持には、カテーテル関連の感染症に関する問題がある。カテーテルのような医療デバイスをヒト体腔に挿入するとき、正常なヒト防御障壁が侵入されることがあり、これにより細菌、真菌、ウイルス、又は組織様の若しくは複数の組織化された細胞が持ち込まれることがありうる。例えば、尿路感染症(UTI)は、断続的使用のための親水性コーティングを有する親水性カテーテルを含む、尿道カテーテルの使用に関連する問題である。入院している脊髄損傷患者のほとんど1/4が、入院経過中に症候性UTIを発症していると推定される。グラム陰性桿菌(Gram-negative bacilli)は、UTIの症例のほとんど60〜70%、腸球菌は、約25%、そしてカンジダ種(Candida species)は、約10%を占める。よく知られているように、毎日の日課として断続的な尿道カテーテル挿入を行っている人は、多くの場合、症候性UTIの問題を抱えている。
【0005】
このため、そして医療デバイスの無菌及び清浄を維持するため、尿道カテーテルのような医療デバイスは、細菌感染を予防するため抗微生物性化合物(antimicrobial compound)でコーティングすることができる。特許文献4は、例えば、少なくとも1つの有機酸の塩、及び抗微生物剤として、好ましくはベンゾエート又はソルビン酸塩の使用を記載している。さらに、特許文献5は、銀化合物を含むことを特徴とする、抗菌、抗ウイルス及び/又は抗真菌活性を有する安定化された組成物を記載している。光安定化銀組成物は、カテーテル又は同様の医療デバイスに導入することができる。
【0006】
銀及び銀塩は、長年にわたって抗微生物剤として使用されてきた。また、銀塩、コロイド及び複合体(complexes)は、感染症の予防及び抑制にも使用されてきた。例えば、コロイド状金属銀は、結膜炎、尿道炎及び腟炎に対して局所的に使用されてきた。他の金属、例えば金、亜鉛、銅及びセリウムは、単独及び銀との組み合わせの両方で抗微生物性を有することが見出されている。これらの及び他の金属は、「微量作用(oligodynamic)」と称する性質、微量でも抗微生物作用が提供されることがわかっている。
【0007】
親水性コーティング、及び別々の層として配置された又は親水性層中に導入された銀のような抗微生物性組成物を有する他の医療デバイスの例は、特許文献6及び特許文献7に記載されている。
【0008】
しかし、医療デバイスにおいて抗微生物及び抗菌剤(antimicrobial and antibacterial agent)として微量作用金属を用いる知られている方法の問題は、微量作用金属イオンの放出を制御することが困難なことである。放出速度が遅すぎる場合、抗菌性は不十分であり、その一方で、患者にとって放出速度が速すぎると不快であり、そして有害でさえあり、そしてまたより費用のかかる製品となる。従って、微量作用金属のイオンの放出速度をより正確に制御することができる上述のタイプの改善された医療デバイスが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第0 093 093号
【特許文献2】欧州特許第0 217 771号
【特許文献3】国際特許第98/58989号
【特許文献4】米国特許第2006/0240069号
【特許文献5】国際特許第00/09173号
【特許文献6】米国特許第7 378 156号
【特許文献7】欧州特許第1 688 470号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、抗微生物剤又は抗菌剤の放出速度の改善された制御を可能にし、それによって以前から知られている解決策の上述の問題を軽減する、医療デバイス及びこのような医療デバイスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、特許請求の範囲による医療デバイス及び方法により達成される。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、基体材料、該基体材料の表面の少なくとも一部の上に配置された親水性表面コーティング、及び該基体材料と前記親水性表面コーティングとの間に配置された微量作用金属を含む抗菌層を含み、ここで、該親水性表面コーティングは、親水性表面コーティングを通して微量作用金属イオンの制御放出を与えるのに十分大きな厚さを有する医療デバイスが提供される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、基体材料、該基体材料の表面の少なくとも一部の上に配置された親水性表面コーティング、及び該基体材料と該親水性表面コーティングとの間に配置された微量作用金属を含む抗菌層を含み、ここで、該親水性表面コーティングが乾燥時に3μmを超える厚さを有する医療デバイスが提供される。
【0014】
驚くべきことに、本発明者らは、親水性表面コーティングの下に抗菌層を配置することによって、微量作用金属イオンの放出がさらにより予測可能かつ制御可能になることを見出した。これにより、目的の使用に対して医療デバイスの抗菌性を効果的に調整し、そして抗菌効果を最適化し、そして同時に患者にとって有害となりうる抗菌性イオンのあらゆる過剰放出を効果的に予防することが可能になる。
【0015】
好ましくは、親水性表面コーティングは、乾燥時に5μmを超え、そして最も好ましくは10μmを超える厚さを有する。また、親水性表面コーティングが、乾燥時に5〜30μmの範囲、そして好ましくは10〜20μmの範囲の厚さを有することは、特に有益であることがわかった。
【0016】
本明細書において、「微量作用金属」とは、微量でも抗微生物又は抗菌作用を有するすべての金属を意味する。このような微量作用金属の例は、銀、例えば銀塩、コロイド及び複合体の形態の銀、そして他の金属、例えば金、亜鉛、銅及びセリウムである。
【0017】
抗菌層の微量作用金属は、銀を含むことが好ましい。銀イオンは、十分に裏付けられた有効な抗菌効果を有しており、そしてまた、適切な厚さの上部親水性層によって適切に制御可能であることがわかっている。
【0018】
また、抗菌層は、金及び/又は白金金属のような安定剤を含むことも好ましい。
【0019】
親水性コーティング及び抗菌層は、0.01〜1.0マイクログラム/cm2の範囲、そして好ましくは0.05〜0.5マイクログラム/cm2の範囲、そして最も好ましくは0.10〜0.30マイクログラム/cm2の範囲で微量作用金属の遊離イオンの制御放出を与えるように都合よく適合される。
【0020】
親水性表面コーティングの親水性ポリマーは、ポリビニル化合物、ポリラクタム、特に例えばポリビニルピロリドン、多糖類、特にヘパリン、デキストラン、キサンタンガム、誘導体化多糖類、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリヒドロキシアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、特にポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリル酸、上記ポリマーのコポリマー、ビニル化合物とアクリレート又は無水物とのコポリマー、ビニルピロリドンとヒドロキシエチルメチルアクリレートとのコポリマー、ポリビニルピロリドンのカチオン性コポリマー、及びポリメチルビニルエーテルとマレイン酸無水物とのコポリマーの少なくとも1つであることが好ましい。最も好ましくは、親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンである。
【0021】
好ましくは、親水性表面コーティングは、湿潤液体で濡らしたときに表面摩擦が有意に低下する親水性ポリマーを含む。最も好ましくは、親水性表面コーティングは、ポリビニルピロリドン(PVP)を含む。
【0022】
親水性コーティングは、ポリ尿素ネットワークを形成することが好ましく、それによって前記ポリ尿素ネットワークは、基体中の前記活性水素基への共有結合を形成する。別法として、親水性コーティングは、基体中の活性水素基へのエステル結合又はエポキシ結合を形成してもよい。
【0023】
一実施態様によれば、基体材料のコーティングは、基体の表面に、最初にイソシアネート化合物0.05〜40%(質量/体積)を含む水溶液、そしてその後、ポリビニルピロリドン0.5〜50%(質量/体積)を含む水溶液を順に塗布し、そして高温で硬化する工程を含む方法によって製造することができる。
【0024】
しかし、基体に直接架橋された親水性ポリマーを含むコーティングのような他の親水性コーティングも適切である。架橋は、照射手段、例えば電子線又は紫外線によって実施することができる。
【0025】
本発明による製造方法は、特にカテーテル、そして具体的には尿道カテーテルの製造に適している。しかし、製造方法は、親水性コーティングを有する多くの他のタイプの医療デバイスにとっても有用である。従って、本発明による方法は、尿道カテーテルに限定されるわけではない。本発明が有用であるこのような他の医療デバイスの例は、血管カテーテル及び他のタイプのカテーテル、内視鏡及び喉頭鏡、栄養補給又はドレナージ若しくは気管内使用のための管、コンドーム、創傷包帯、コンタクトレンズ、移植片(implantates)、体外血液導管(extracorporeal blood conduits)、膜、例えば透折用の膜、血液フィルター並びに循環補助機器である。
【0026】
本発明は、広くさまざまな異なる基体材料に使用できる。しかしながら、基体はポリマー物質から製造するのが好ましい。基体は、例えばポリウレタン、ラテックスゴム、ケイ素ゴム、他のゴム、ポリ塩化ビニル(PVC)、他のビニルポリマー、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリオレフィン、熱可塑性エラストマー、スチレンブロックコポリマー(SBS)、又はポリエーテルブロックアミド(PEBA)の少なくとも1つを含んでもよい。
【0027】
コーティング水溶液は、塩化ナトリウムのような、溶解された浸透圧を高める化合物をさらに含んでもよい。また、尿素のような他の浸透圧を高める化合物、及び欧州特許第0 217 771号に議論された浸透圧を高める化合物も適切であり、前記文書は参照により本明細書に組み込まれる。
【0028】
本発明の別の態様によれば、基体材料を備え;該基体材料の表面の少なくとも一部の上に抗菌層を配置し;そして該抗菌層の上面上に親水性表面コーティングを配置する工程を含み、ここで、該親水性表面コーティングは、親水性表面コーティングを通して微量作用金属イオンを制御放出するのに十分大きな厚さを有する、微量作用金属を含む抗菌層から微量作用金属イオンの制御可能な放出を得る方法が提供される。
【0029】
本発明のさらに別の態様によれば、基体材料を備え;該基体材料の表面の少なくとも一部の上に抗菌層を配置し;そして該抗菌層の上面上に親水性表面コーティングを配置する工程を含み、ここで、該親水性表面コーティングは、3μmを超える乾燥時の厚さを有する、微量作用金属を含む抗菌層から微量作用金属イオンの制御可能な放出を得る方法が提供される。
【0030】
本発明の後者の2つの態様によれば、最初に記載された実施態様に関して議論したのと同様の利点及び具体的な実施態様が、入手可能である。
【0031】
本発明のこれらの及び別の態様は、以下に記載された実施態様から明らかであり、そしてそれらに関して説明する。
【0032】
好ましい実施態様の説明
以下の詳細な説明において、本発明の好ましい実施態様を記載する。しかし、異なる実施態様の特徴は、実施態様間で交換可能であり、そして特に具体的な記載がなければ異なるやり方を組み合わせてもよいことは理解すべきである。親水性医療デバイスは、多くの異なる目的に、そして種々のタイプの体腔への挿入に使用することができる。しかし、以下の議論は、特に、好ましい使用領域、尿道カテーテルに関するが、本発明は、この特定のタイプのカテーテル又はこの特定のタイプの医療デバイスにさえ制限されることはない。本発明の概念は、いずれか特定のタイプの機器に制限されることなく、さまざまなタイプの医療デバイスを使用することができることは、当業者にとって明白である。
【0033】
カテーテルの場合、細長い管の少なくとも一部が、使用者の体の開口部、例えば尿道カテーテルの場合には尿道を通して挿入されるべき挿入可能な長さとなる。親水性カテーテルに関して、挿入可能な長さが通常であるとは、親水性物質、例えばPVPでコーティングされ、そして患者の尿道に挿入可能な細長い管の長さを意味する。典型的に、これは、女性患者では80〜140μm、そして男性患者では200〜350μmである。
【0034】
カテーテルの細長い軸(shaft)/管は、基体材料で作られている。基体は、専門領域でよく知られており、前記親水性ポリマーが付着するあらゆるポリマー物質、例えばポリウレタン、ラテックスゴム、他のゴム、ポリ塩化ビニル、他のビニルポリマー、ポリエステル及びポリアクリレートから作ることができる。しかし、基体は、ポリオレフィン及び活性水素基のある分子を有する組成物を含むポリマーブレンド、そして好ましくは、活性水素基のある分子を有する組成物で作られることが好ましい。ポリオレフィンは、ポリエテン、ポリプロペン、及びスチレンブロックコポリマー(SBS)の群から選ばれる少なくとも1つのポリマーを含むことができる。活性水素基のある分子を有する組成物は、窒素を介してポリマーに結合した活性水素基を有するポリマー、例えばポリアミド又はポリウレタンであることができる。
【0035】
基体の少なくとも一部に、抗菌コーティング層を施す。抗菌層は、微量作用金属を含む。このような抗菌層の多くのさまざまなタイプは、それ自体で知られており、そして本発明の実施に使用することができる。
【0036】
例えば、抗微生物医療デバイスを得るための1つの慣用のアプローチは、例えば、蒸気コーティング、スパッターコーティング又はイオンビームコーティングによる基体の表面上への直接的な金属銀の沈着(deposition)である。
【0037】
基体上へ銀をコーティングする別の方法には、水溶液から銀の沈着又は電着が含まれる。付着性を改善するには、沈着剤(deposition agents)及び安定剤、例えば金及び白金金属を混入して使用することができ、又は別法として銀化合物と基体表面の間に化学複合体(chemical complexes)を形成することは、可能である。例えば、Sodervall等への米国特許第5 395 651号、同第5 747 178号及び同第5 320 908号に記載されたように銀による抗菌コーティングを用いることは可能であり、これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0038】
親水性コーティングは、カテーテル軸を形成している基体の少なくとも一部であり、そして上述した抗菌コーティング層の上に配置される。親水性ポリマーコーティングは、ポリビニル化合物、多糖類、ポリウレタン、ポリアクリレート又はビニル化合物及びアクリレート若しくは無水物のコポリマー、とりわけポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ヘパリン、デキストラン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ビニルピロリドン及びヒドロキシエチルメチルアクリレートのコポリマー又はポリメチルビニルエーテル及びマレイン酸無水物のコポリマーから選ばれる物質を含んでもよい。好ましい親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンである。
【0039】
親水性表面コーティングは、親水性表面コーティングを通して微量作用金属イオンが制御放出されるのに十分大きな厚さを有するよう施されている。特に、好ましいのは、親水性表面コーティングが、3μmを超える乾燥時の厚さを有することであり、そしてさらにより好ましくは、5μmを超え、そして最も好ましくは10μmを超える。また、親水性表面コーティングが5〜30μmの範囲、そして好ましくは10〜20μmの範囲の乾燥時の厚さを有することは、特に有益であることがわかった。
【0040】
コーティングは、例えば、欧州特許第0 217 771号に記載されたような浸透圧を高める化合物を含んでもよい。
【0041】
ここで、基体をコーティングするための好ましい方法を、より詳細に記載する。基体の表面に、最初にイソシアネート化合物0.05〜40%(質量/体積)を含む水溶液、その後、ポリビニルピロリドン0.5〜50%(質量/体積)を含む水溶液を順に適用し、そして高められた温度で硬化することによって、細長い軸の外表面を安定な親水性コーティングでコーティングすることが好ましい。イソシアネート水溶液は、都合よくはイソシアネート化合物0.5〜10%(質量/体積)を含んでもよく、そして好ましくはイソシアネート化合物1〜6%(質量/体積)を含んでもよい。一般に、イソシアネート水溶液は、例えば5〜60秒、簡単に表面と接触させる必要があるだけである。
【0042】
基体表面へのイソシアネート水溶液の適用により、基体表面上に形成された未反応のイソシアネート基を有するコーティングが得られる。次いで、基体表面へのポリビニルピロリドン水溶液の適用により、親水性ポリビニルピロリドン−ポリ尿素インターポリマーコーティングが形成されることになる。この親水性コーティングの硬化により、イソシアネート化合物に結合して一緒になって安定な非反応性ネットワークを形成し、これが親水性ポリビニルピロリドンに結合する。都合よくは、水を含むガス、例えば周囲空気の存在下で硬化を実施し、イソシアネート基が水と反応するのを可能にしてアミンを得、これが他のイソシアネート基と急速に反応して尿素架橋を形成する。さらに、方法は、イソシアネート水溶液の溶媒を蒸発させた後、ポリビニルピロリドン水溶液を適用し、そしてポリビニルピロリドン水溶液の溶媒を蒸発させた後、親水性コーティングを硬化させる工程を含んでもよい。例えば、これは空気乾燥によって行ってもよい。
【0043】
イソシアネート化合物は、分子当たり少なくとも2つの未反応のイソシアネート基を含むことが好ましい。イソシアネートは、2,4−トルエンジイソシアネート及び4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、又はヘキサメチレンジイソシアネートの五量体及びシアヌレートタイプのトルエンジイソシアネート、又は三量化されたヘキサメチレンジイソシアネートビウレット又はそれらの混合物から選んでもよい。
【0044】
イソシアネート化合物用の溶媒は、イソシアネート基と反応しないものであることが好ましい。好ましい溶媒は、塩化メチレンであるが、例えば酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、メチルエチルケトン及びエチレンジクロリドを使用することもできる。
【0045】
必要な反応時間及び硬化時間を短縮するためイソシアネート硬化用の適切な触媒を加えてもよい。これらの触媒は、イソシアネート水溶液又はポリビニルピロリドン水溶液中に溶解してもよいが、後者に溶解するのが好ましい。種々のタイプのアミンは、例えばジアミンだけでなく、例えばトリエチレンジアミンもまたとりわけ有用である。コーティングに用いる乾燥及び硬化温度で揮発安定(volatisable)であり、そしてさらに非毒性である脂肪族アミンを使用するのが好ましい。適切なアミンの例は、N,N'−ジエチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、パラジアミノベンゼン、1,3−プロパンジオール−パラ−アミノ安息香酸ジエステル及びジアミノビシククロ−オクタンである。
【0046】
使用するポリビニルピロリドンは、好ましくは、104〜107の間の平均分子量を有し、最も好ましくは、平均分子量が105である。このような分子量を有するポリビニルピロリドンは、例えば登録商標コリドン(Kollidon(R))(BASF)の下で商業的に入手可能である使用しうるポリビニルピロリドン用の適切な溶媒の例は、塩化メチレン(好ましい)、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、メチルエチルケトン及びエチレンジクロリドである。水溶液中のポリビニルピロリドンの比率は、好ましくは0.5〜10%(質量/体積)の間、そして最も好ましくは2〜8%(質量/体積)の間である。溶媒中のポリビニルピロリドンを浸漬、噴霧又は同様のものによって短時間、例えば5〜50秒間適用する。
【0047】
コーティングの硬化は、例えばオーブン中50〜130℃の温度で、5〜300分の期間実施するのが好ましい。
【0048】
しかし、他のタイプの親水性コーティング、例えばUV又は電子線照射によって架橋するコーティングを使用することも可能である。
【0049】
好ましい実施態様において、親水性コーティングは、浸透圧を高める化合物、例えば、ナトリウム及びカリウムの塩化物、ヨウ化物、クエン酸塩及び安息香酸塩から選ばれる無機の塩を含む。浸透圧を高める化合物は、同じ出願人による欧州特許第0 217 771号に詳述されたやり方で適用してもよい。
【実施例】
【0050】
実験結果
実験のため、一般に商品名メリフレックス(Meliflex)の下で販売されている、材料ポリプロペン(Polypropene)、ポリエテンポリアミド及びスチレン−エタン/ブテン−スチレンコポリマーの組み合わせの基体材料を用いてカテーテルを調製した。
【0051】
すべてのカテーテルの基体を、抗菌コーティングでコーティングした。コーティングは、本質的に米国特許第5 395 651号及び同第5 747 178号に記載されたように塗布し、該文献はいずれも参照によって本明細書に組み込まれている。従って、基体を、最初にクロム酸で前処理し、次いで酸性化した脱塩水に溶解したスズイオン含有塩をリットル当たり0.01〜0.2グラム含む希釈活性化水溶液に基体を浸漬することによって活性化した。この処理の後、基体を脱塩水ですすいだ。その後、リットル当たり0.10グラムを超えない有効量の銀含有塩、そしてより具体的には硝酸銀、還元剤及び沈着制御剤(deposition control agent)を含む沈着溶液に基体を浸漬した。沈着後、コーティングされた基体を沈着溶液から取り出し、そして脱塩水ですすいだ。最後に、希酸中に白金及び金の塩をリットル当たり0.001〜0.1グラム含む安定化溶液に基体を浸漬した。安定化処理後、基体を脱塩水で再びすすぎ、その後、乾燥した。
【0052】
異なるタイプのカテーテルのコーティングには異なる量の銀を使用した(下記参照)。
【0053】
基体上で、抗菌コーティングの上面上に親水性コーティングを塗布して本発明の実施例を形成したのに対して、いくつかの参照カテーテルでは、比較例として親水性コーティングなしのままにした。
【0054】
本発明に従って調製された基体は、公知のコーティング法に従ってコーティングし、ここでイソシアネートを用いてPVP結合用にポリ尿素ネットワークを形成した。より具体的には、比較例によるコーティングは、2%(質量/体積)の濃度に塩化メチレンに溶解したジイソシアネート(デスモジュールIL(Desmodur IL)と称する)を含むプライマー溶液に基体を15秒間浸漬することによって調製した。その後、カテーテルを周囲温度で60秒間乾燥し、次いで、塩化メチレンに溶解したポリビニルピロリドン(PVP K90)7%(質量/体積)を含む溶液に3秒間浸漬した。次いで、カテーテルを35℃で30分間洗い流し、その後80℃で60分間硬化し、最終的に室温に冷却させ、そして水ですすいだ。
【0055】
親水性コーティングは、乾燥時に10〜20μm、そして湿潤時に100〜200μmの厚さを有した。
【0056】
上述のことに基づいて、以下の群のカテーテルを試験した:
A)抗菌銀コーティングを有するが、親水性コーティングのないカテーテル。
B)A)よりも高い銀濃度の抗菌銀コーティングを有し、かつ親水性コーティングを有するカテーテル。
C)A)とほぼ同じ濃度の抗菌銀コーティングを有し、かつ親水性コーティングを有するカテーテル。特に、A)及びC)によるカテーテルは、カテーテルA)が親水性コーティングを有してない他は、本質的に同一であった。
【0057】
これらのカテーテルでは、表面の全銀濃度、そしてまた合成尿でそれぞれ15秒、30秒及び5分間浸出したときの放出された銀の量を測定した。各群につき少なくとも3つの異なるカテーテルを毎回試験した。
【0058】
これらの測定結果を、以下の表1に示す:
【表1】

【0059】
銀イオンの平均放出度は、浸出した銀の量及び銀の平均総量の平均的な商として算出した。
【0060】
これらの測定結果から、以下は、特に注目すべきである:
・銀の浸出量は、群B及びCよりも、親水性コーティングを有しない群Aでより有意に変化している。この効果は、より長い浸出時間についてさらにより顕著である。
・結果的に、親水性コーティングは、抗菌コーティングからの銀イオンの放出をより予測可能及び制御可能にする安定化効果を有すると結論付けることができる。
・浸出した銀の平均量は、コーティング中にほぼ同じ総量の銀を有する群A及びCについてはほぼ同じであった。
・従って、親水性コーティングは、抗菌コーティングからの全体レベルの銀イオンの放出に対して明確な作用を示さないと結論付けることができる。
・銀イオンの放出レベルで見られた変動の低下における大きな改善は、群B及びCについてはほぼ同じであった。同時に、群Bの銀の総量は、群Cと比較して約2倍であった。従って、このポジティブな効果は、抗菌コーティング中の銀イオンの総量に依存しないことは明らかである。
【0061】
結論及び概要
さて、本発明を、種々の実施態様に関連して議論してきた。しかしながら、当業者には当然のことながら、いくつかのさらなる別法が可能である。例えば、微量作用金属を含む多くの他のタイプの抗菌コーティングも、他のタイプの親水性コーティングも、使用することができる。さらに、血管カテーテルなどのような尿道カテーテルとは別のタイプのカテーテルに、又は親水性コーティングを有する別のタイプの医療デバイスに本発明を使用することは可能である。
【0062】
当業者には当然のことながら、上記のものに類似したいくつかのこのような別法を、本発明の精神から逸脱することなく使用でき、そしてすべてのこのような改変は、特許請求の範囲に定義された本発明の一部と考えるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体材料、該基体材料の表面の少なくとも一部の上に配置された親水性表面コーティング、及び該基体材料と該親水性表面コーティングとの間に配置された微量作用金属を含む抗菌層を含み、ここで該親水性表面コーティングは、親水性表面コーティングを通して微量作用金属イオンの制御放出を与えるのに十分大きな厚さを有する医療デバイス。
【請求項2】
基体材料、該基体材料の表面の少なくとも一部の上に配置された親水性表面コーティング、及び該基体材料と該親水性表面コーティングとの間に配置された微量作用金属を含む抗菌層を含み、ここで該親水性表面コーティングは、3μmを超える乾燥時の厚さを有する医療デバイス。
【請求項3】
親水性表面コーティングは、5μmを超える乾燥時の厚さを有し、そして好ましくは10μmを超える、請求項1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
親水性表面コーティングは、5〜30μmの範囲、そして好ましくは10〜20μmの範囲の乾燥時の厚さを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
抗菌層の微量作用金属は、銀、そして好ましくはさらに金及び/又は白金金属のような安定剤を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
親水性表面コーティング及び抗菌層は、0.01〜1.0マイクログラム/cm2の範囲、そして好ましくは0.05〜0.5マイクログラム/cm2の範囲、そして最も好ましくは0.10〜0.30マイクログラム/cm2の範囲で微量作用金属の遊離イオンの制御放出を与えるように適合される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項7】
親水性表面コーティングは、湿潤液体で濡らしたときに表面摩擦が有意に低下するポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
親水性ポリマーは、ポリビニル化合物、ポリラクタム、特にポリビニルピロリドンなど、多糖類、特にヘパリン、デキストラン、キサンタンガム、誘導体化多糖類、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリヒドロキシアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、特にポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリル酸、上述ポリマーのコポリマー、ビニル化合物とアクリレート又は無水物とのコポリマー、ビニルピロリドンとヒドロキシエチルメチルアクリレートとのコポリマー、ポリビニルピロリドンのカチオン性コポリマー、及びポリメチルビニルエーテルとマレイン酸無水物とのコポリマーの少なくとも1つである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項9】
医療デバイスは、カテーテル、そして好ましくは尿道カテーテルである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項10】
親水性表面コーティングは、浸透圧を高める化合物をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項11】
基体材料を備え;
該基体材料の表面の少なくとも一部の上に抗菌層を配置し;そして
該抗菌層の上面上に親水性表面コーティングを配置する:工程を含み、
ここで、該親水性表面コーティングは、親水性表面コーティングを通して微量作用金属イオンを制御放出するのに十分大きな厚さを有する、微量作用金属を含む抗菌層からの微量作用金属イオンの制御可能な放出を得る方法。
【請求項12】
基体材料を備え;
該基体材料の表面の少なくとも一部の上に抗菌層を配置し;そして
該抗菌層の上面上に親水性表面コーティングを配置する:工程を含み、
ここで、該親水性表面コーティングは3μmを超える乾燥時の厚さを有する、
微量作用金属を含む抗菌層から微量作用金属イオンの制御可能な放出を得る方法。
【請求項13】
親水性コーティングは、ポリ尿素ネットワークを形成し、それによって該ポリ尿素ネットワークは、基体中の活性水素基に共有結合を形成する、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
基体材料をコーティングする工程は、基体の表面に、最初にイソシアネート化合物0.05〜40%(質量/体積)を含む溶液、そしてその後、ポリビニルピロリドン0.5〜50%(質量/体積)を含む溶液を順に塗布し、そして高温で硬化するサブ工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
親水性コーティングは、照射によって基体に架橋される、請求項11又は12に記載の方法。

【公表番号】特表2012−504995(P2012−504995A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530496(P2011−530496)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063188
【国際公開番号】WO2010/043565
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(501249869)アストラ・テック・アクチエボラーグ (22)
【Fターム(参考)】