説明

制御放出系の調製方法

本発明は、制御放出系の調製方法に関し、特に、薬物などの活性成分、好ましくは生物活性成分の制御放出のためにポリマー担体中に化合物を封入するための方法に関する。この方法により、活性成分の制御放出、特に制御された薬物送達のための系がもたらされる。本発明によると、用語「制御放出」は、徐放出、持続放出および遅延放出を含むあらゆる種類の制御放出を包含する。特に、本発明は、制御放出のための、ミセル、ナノ粒子、ミクロスフェアなどのポリマー担体または高分子デバイスおよび他の種類のポリマーデバイスに封入された、または他の方法で組み入れられた、またはそれらに結合した活性成分をもたらす。活性成分は、ポリマー担体または高分子デバイスに共有結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御放出系の調製方法に関し、特に、薬物などの活性成分、好ましくは生物活性成分の制御放出のためにポリマー担体中に化合物を封入するための方法に関する。この方法により、活性成分の制御放出、特に制御された薬物送達のための系がもたらされる。本発明によると、用語「制御放出」は、徐放出、持続放出および遅延放出を含むあらゆる種類の制御放出を包含する。特に、本発明は、制御放出のための、ミセル、ナノ粒子、ミクロスフェア、ヒドロゲルなどのポリマー担体または高分子デバイスおよび他の種類のポリマー担体またはデバイスに封入された、または他の方法で組み入れられた、またはそれらに結合した活性成分をもたらす。活性成分は、高分子デバイスまたは担体に結合、特に共有結合している。
【背景技術】
【0002】
ミセルなどのナノ粒子の高分子担体は、薬物の標的送達の有望な候補であると考えられる。こうした系は、さまざまな患部において、いわゆるERP効果(enhanced permeation and retention effect)を有するように構成することができる。標的送達のためのそのような高分子デバイスは、疎水性薬物などの多種多様な生物活性成分を含むことができる。
【0003】
この点については、疎水性修飾PEG-ポリメタクリルアミドブロックコポリマーをベースとするミセルについて記載しているUS-B-7,425,581およびEP-A-1 776 400を参照することができる。こうしたポリマーは、感温性と生分解性との独特の組合せを示し、これらがそれぞれ、容易に薬物を担持できる特性および制御放出特性をミセルにもたらす。
【0004】
さらに、マウスに静脈内投与した後、長時間ミセルが血液循環することを実現するために、ミセルのコアにおけるポリマーの架橋、すなわち、共有結合が必須であったことがRijckenらにより、Biomaterials 28 (2007年)、5581〜5593ページで明らかにされた。さらに、彼らは、未架橋のミセルと比較した場合、空の架橋したミセルが、腫瘍組織に6倍高い程度まで蓄積することを見いだした。
【0005】
しかしながら、高分子ミセル(または他のデバイス)中に非共有結合的に(物理的に)薬物または他の活性成分をカプセル化すると、in vivoにおいてなど、特に、活性成分がその活性を達成するよう意図された系に適用された後、活性成分が急速に減少することが多い。これは、急速な薬物拡散および/または担体の早期分解によるものである。この後者のメカニズムはミセルを架橋することによって防ぐまたは少なくとも遅らせることができるが、こうした架橋したミセルのコア中に非共有結合的に封入された薬物化合物は、静脈注入によってなどヒトまたは動物の体に取り込まれると直ちにバースト放出される傾向があった。安定化ミセルからの、この急速な放出は薬物拡散によるものである。
【0006】
さらに、上記US-B- 7,425,581およびEP-A-1 776 400に記載されているとおり、非共有結合的に封入された薬物を含むミセルの特性は、例えば、フリーズドライなどの攻撃的な処理(aggressive processing)の結果として悪影響を受けることが見いだされた。特に、医学的用途、具体的には薬物送達用途においては、薬物-担持粒子の良好な保存安定性が重要である。本発明は、例えば、凍結乾燥(フリーズドライ)によって、薬物送達系の長期生成物安定性を提供するための方法を提供することを目的とする。
【0007】
従来技術において、薬物を共有結合的にカプセル化するための方法が開発されてきた。共有結合的なカプセル化では、薬物分子などの活性成分はポリマー鎖に化学的に結合される。こうしたポリマーは、親水性のものとすることができ、その結果、かかる系は、それ自体を投与することができる、ポリマー-薬物複合物と称される。あるいは、ポリマーは、両親媒性のものとすることができ、水性環境において、それ自体を投与することができる、ミセルが形成される。そのような種類のミセルは、静脈内投与の際、個別の構成成分への分解につながる、安定性の問題に悩まされることもある。こうしたポリマーの修飾は、例えば有機合成を用いることによって行うことができる。
【0008】
Ulbrichらが、J. Contr. Rel. 87 (2003年)、33〜47ページの論文で抗癌剤であるドキソルビシンと結合した水溶性のHPMAコポリマーについて記載している。ドキソルビシンは、ヒドラゾン結合またはシス-アコニット酸残基のいずれかを含む加水分解に不安定なスペーサを介してポリマー担体に付着している。
【0009】
Rihovaらが、J. Contr. Rel. 74 (2001年)、225〜232ページにおいて、さらにKovarらが、J. Contr. Rel. 99 (2004年) 301〜314ページにおいて、加水分解放出可能なドキソルビシンを含む複合物についても記載している。
【0010】
Nakanishiらが、J. Contr. Rel. 74 (2001年) 295〜302ページにおいてドキソルビシン用のポリマーミセル担体系について記載している。まず、ドキソルビシンは、ポリエチレングリコールおよびポリアスパラギン酸のブロックコポリマーに結合される。次に、この修飾ポリマーを水性環境に溶解させることによってミセル担体系が形成される。この担体系は、さらに遊離(物理的に封入された)ドキソルビシンを包含する。
【0011】
Panarinら、Pharmaceutical Chemistry Journal 23、(1989年)、689〜694ページでは、水溶性ポリマーで誘導体化されたグルココルチコイドの誘導体が開示されている。具体的には、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロンまたはデキサメタゾンは、ビニルピロリドンの無水マレイン酸とのコポリマーによってアシル化され、上記のグルココルチコイドのポリエステルを形成することが開示されている。
【0012】
ポリマー合成の際に、重合可能な薬物誘導体を共重合することによって薬物分子を共有結合させることもできる。Davaranら、J. Contr. Rel. 58、1999年、279〜287ページでは、薬物含有モノマーがメタクリル酸またはヒドロキシエチルメタクリレートとフリーラジカル共重合される。アクリルポリマーの主鎖は、エステルまたはアミド結合などの加水分解可能な結合を介して付着した側鎖置換基として、薬物単位を有する。
【0013】
こうした既知の系の欠点は、有機合成を行って薬物分子を高分子量のポリマー鎖に結合する必要があること(結果として問題を有する)、ならびに新しいポリマーのプラットフォーム技術(platform technology)の適用性が限られる各薬物分子に対して新しいポリマーを開発する必要があることである。さらに、ポリマー-薬物複合物では、薬物分子の共有結合に主に水溶性ポリマーが用いられるため、こうしたポリマー-薬物複合物を水溶性の薬物に適用することは制限を受ける場合が多い。その上、親水性ポリマー-薬物複合物は水溶液と接触したままであるため、水溶液中で安定性が低下し、それにより容易に分解されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】US-B-7,425,581
【特許文献2】EP-A-1 776 400
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Rijckenら、Biomaterials 28 (2007年)、5581〜5593ページ
【非特許文献2】Ulbrichら、J. Contr. Rel. 87 (2003年)、33〜47ページ
【非特許文献3】Rihovaら、J. Contr. Rel. 74 (2001年)、225〜232ページ
【非特許文献4】Kovarら、J. Contr. Rel. 99 (2004年) 301〜314ページ
【非特許文献5】Nakanishiら、J. Contr. Rel. 74 (2001年) 295〜302ページ
【非特許文献6】Panarinら、Pharmaceutical Chemistry Journal 23、(1989年)、689〜694ページ
【非特許文献7】Davaranら、J. Contr. Rel. 58、1999年、279〜287ページ
【非特許文献8】Kimら、Polym. Adv. Technol.、10 (1999年)、647〜654ページ
【非特許文献9】Leeら、Macromol. Biosci. 6 (2006年) 846〜854ページ
【非特許文献10】Huら、Macromol. Biosci. 9 (2009年)、456〜463ページ
【非特許文献11】Kimら、J. Control. Rel. 138 (2009年) 197〜204ページ
【非特許文献12】Bonthaら、J. Control. Rel. 114 (2006年) 163〜174ページ
【非特許文献13】Leeら、Angew. Chem 121 (2009年) 5413〜4516ページ
【非特許文献14】Nishiyamaら、Cancer Res. 63 (2003年)、8977〜8983ページ
【非特許文献15】Miyataら、J. Control. Rel. 109 (2005年) 15〜23ページ
【非特許文献16】Chemical Reviews 1971、volume 71、number 6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明により、上記の欠点を克服する方法が提供される。すなわち、薬物分子などの活性成分は、まず水性環境でポリマー相、特に富ポリマー相に非共有結合的に封入され、次いで3D-ポリマーネットワークに結合される、方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
具体的には、本発明により、活性成分を組み入れたポリマーマトリックスを含む制御放出系の調製方法であって、
(i)反応性部分を含む活性成分を、活性成分の反応性部分と反応可能な少なくとも1つの反応性部分を含むポリマー鎖を含む水溶液またはディスパージョンと混合するステップであり、ポリマー鎖がさらに分子内または分子間で架橋可能である、ステップと;
(ii)ポリマーマトリックスの形成と同時に、活性成分がこのポリマーマトリックス、すなわち形成された高分子ネットワークに封入されるような条件下で、この混合物を架橋に供して、ポリマーマトリックスを形成させるステップ
を含む、方法が見いだされた。ステップ(i)において、ポリマー鎖は、好ましくは互いに相互作用して(本明細書の下記参照のこと)水相にポリマー部分相を形成する。すなわち、比較的ポリマー鎖に富んだ相と比較的にポリマー鎖に乏しい相とが作り出される。最良の形態では、活性成分は、富ポリマー鎖相に存在するのが好まれる。富ポリマー鎖部分相における活性成分の部分局在(sub-location)は、活性成分とポリマー鎖との間の物理的な相互作用によって生じる。ステップ(i)では、活性成分はポリマー鎖と共有結合を形成しない。架橋ステップ(ii)においてのみ、活性成分とポリマー鎖が一緒になり3D-ネットワークを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】遊離薬物、安定化高分子ミセルに非共有結合的および共有結合的に封入されたデキサメタゾンをマウスに静脈内投与した後の体内分布プロフィールおよび腫瘍蓄積を示すグラフであり、マウスは6、24または48時間後に屠殺された。
【発明を実施するための形態】
【0019】
高分子担体またはデバイスを形成するポリマーの架橋と同時に、活性成分がポリマー担体と共有結合する。本発明の方法を用いて形成される架橋した活性成分-ポリマー複合物は、未架橋のポリマー粒子よりも高い熱力学的安定性を示す。さらに、高分子担体に共有結合させることにより、封入された薬物分子の急速な放出が妨げられる。
【0020】
本発明の方法は、薬物分子を予め単一のポリマー鎖に直接結合しておく必要はないため、これにより感熱性特性および/または薬物-担持ミセル形成の容易さなど、使用されるポリマーの初期特性が完全に保持される。一定の種類のポリマー、例えば生分解可能な感熱性ブロックコポリマーの使用により、薬物-担持デバイスの組成物を迅速かつ容易に変更/最適化できる、広く適用可能なプラットフォーム技術が提供される。
【0021】
本方法は、架橋後に高分子担体を形成できるポリマー鎖と非共有結合的に相互作用するあらゆる活性成分に対して適応可能である。水相において、ポリマー鎖(架橋ステップの前)が特定の構造、または少なくとも富ポリマー鎖ドメインとして構築されるのが好ましく、活性成分はこうした構築物中に局在化される。あらゆる種類の物理的相互作用が可能であるが(下記を参照のこと)、好適な実施形態では、この活性成分はどちらかと言えば疎水性、または少なくとも非親水性である。
【0022】
別の要件は、活性成分が高分子デバイスまたは担体のベースを形成するポリマー鎖の部分と反応できる部分を含む(または反応性置換基で修飾できる)ことだけである。
【0023】
ミセルのコア中などの、担体のコア中に薬物分子を共有結合的に封入すると、架橋した担体が体内で長時間、血液循環することから薬物が恩恵を受けることとなり、この結果、腫瘍組織における薬物濃度が上昇する。このように、本発明は、上で引用したUS-B-7,425,581およびEP-A-1 776 400を超える利点を有する。
【0024】
さらに、本発明の方法によって調製された生成物を凍結乾燥に供することによって、この生成物の長期生成物安定性を得ることができる。例えば、本発明の方法により調製された薬物-担持ミセルは、形態を損なうことなく容易にフリーズドライし、その後再懸濁することができ、乾燥粉末として長期保存性が得られる。
【0025】
このため、本発明は、水性環境において高分子担体に(薬物)分子を非共有結合的に封入するための方法に関し、これにより、この高分子担体のポリマー鎖は少なくとも1つの反応性部分を含む。この非共有結合的な封入の後、任意であるが、一般的には修飾された(薬物)分子とポリマー鎖との間で同時に起こる架橋反応が続き、これにより絡み合ったネットワークが形成される。
【0026】
ミセルなどの得られた薬物-担持高分子デバイスは、活性成分の早期放出は示さず、長時間の血液循環が示された。これにより、例えば腫瘍蓄積が(大いに)促進される。
【0027】
分解可能なリンカーを介して薬物が封入されると、治療上活性な化合物の持続した放出が確保される。生理的条件下で薬物分子などの活性成分と高分子担体との間の、好ましくは分解可能な、リンカーまたは連結基が切断されることによって、または本明細書の下で説明および詳述されているような局所の環境要因または外部刺激によって、担体からの(薬物)分子の制御放出が達成される。さらに、このカプセル化は、そうでなければ遊離薬物が静脈内投与された後、直ちに起こると考えられる、有毒な高ピーク薬物レベル(toxic high drug peak level)に血液が暴露されるのを防ぐ。さらに重要なことに、薬物の正常な組織への移動を防ぐことによって、急性毒性作用を減少させることができる。反対に、(薬物)分子は、架橋したミセルのコアなどの、架橋したポリマー担体の形成された3次元のネットワーク内に閉じ込めることによって上記の環境から完全に保護され、これにより早期分解および/またはクリアランスを防ぐ。こうした特有の態様により、適所に適時、予測される有効用量で薬物が送達される。
【0028】
本発明の段階的な方法は、2つの基本的な連続的ステップを含む。
【0029】
第一のステップでは、架橋性ポリマーおよび活性成分が水性環境において混合される。すなわち、任意に好ましくは水またはエタノールのような低級アルコールもしくはテトラヒドロフランなどの水混和性溶媒である適切な溶媒中の活性成分を、ポリマー水溶液またはディスパージョンに添加することによって達成されるのが好ましい。存在するポリマーおよび活性成分は、ポリマーと活性成分とが密接して接触するよう選択され、好適な実施形態では、活性成分は、ポリマー鎖と接触していることが好ましい。言い換えると、第一のステップにおいて、ポリマー鎖と活性成分との間の物理的な非共有結合性相互作用により、高分子デバイスの特定領域において化合物の選択的局在化がもたらされる。
【0030】
第一のステップの結果、活性成分を形成する分子が溶液中のポリマー鎖内およびポリマー鎖間に非共有結合的に封入される。本明細書および添付の特許請求の範囲において、「非共有結合性相互作用」の概念は、共有結合性でないあらゆる相互作用、すなわち、原子間のあらゆる弱い結合、または電子対の共有が関与しない結合を意味する。非共有結合性相互作用の例としては、疎水性、芳香族、水素結合、静電気、ステレオコンプレックス(stereocomplex)および金属イオン相互作用がある。
【0031】
本発明の方法の、第二の基本的なステップでは、非共有結合的に封入された活性成分は、新たに形成する/形成されたポリマーネットワークに共有結合する。すなわち、ポリマー鎖が架橋する反応が起こる。これは、分子間および分子内の両方で起こることがあるが、分子間の架橋が明らかに好ましく、分子間の架橋が好ましい任意のステップが本請求の方法の好適な実施形態である。架橋ステップと同時に、活性成分の反応性部分も共架橋し、ポリマーと活性成分との絡み合ったネットワークが形成される。
【0032】
このステップは、開始剤を必要とする場合が多いが、物理的な環境によって架橋および複合物を形成する反応が引き起こされることもある。開始剤が必要とされる場合、開始剤は、活性成分と共にポリマー溶液に添加されてもよいが、前の段階または後の段階において反応系に添加されてもよい。
【0033】
活性成分の適切な量は、ポリマー+活性成分の重量に対して1〜10重量%の量などの0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜15重量%の量である。活性成分の組み入れの程度は95〜100%と高くすることができるため、形成される3D-ネットワークに同様の量を組み入れることができる。
【0034】
本発明の好適な方法によると、両親媒性ポリマーは、溶媒に完全に溶解させてもよい;
(生物)活性化合物は、溶媒中に含めても、または上記ポリマーを溶解した後に添加してもよく、この(生物)活性化合物は、ポリマー溶液中全体に分布されることになる;
次に、この系は、特定の環境(例えば、温度、pH、溶媒)変化を受けることもあり、これにより少なくともポリマーの一部がポリマーの他の部分と異なる挙動を示す状態がもたらされ、クラスター化が起こる;
(生物)活性薬剤の物理的特性により、こうした薬剤は新たに形成されたクラスター化したポリマーの溶液の特定の領域に局在化する;
この局在化の後、架橋が起こって、その好適な領域に(生物)活性化合物が固定される。
【0035】
本発明の方法の好適な実施形態において、感熱性ブロックコポリマーが使用される。例えば、活性成分は水性環境において混合され、ここには下限臨界溶液温度(LCST)未満または臨界ミセル形成温度(CMT: critical micelle formation temperature)未満の温度においては未架橋の感熱性ブロックコポリマーも存在している。このLCST未満のいかなる温度においても、上記系は溶液の状態であり、このCMT未満のいかなる温度においても、ミセル形成は起こらない。ただし、そのような系、粒子またはミセルは、加熱することによって形成され、それにより疎水性コア中に疎水性活性成分を封入する。次に、さらにコア中で絡み合ったミセルのネットワークを形成する架橋反応は、LCSTまたはCMTよりも高い温度において起こる。この架橋反応は、ポリマー溶液の加熱前または未架橋の粒子またはミセルの形成後のいずれかにおいて開始剤を添加することによって促進することができる。
【0036】
本発明で使用できる適切なポリマー鎖は、例えば、感熱性ブロックコポリマーである。特に、部分的にメタクリル化されたオリゴラクテート単位を有するPEG-b-ポリ(N-ヒドロキシアルキルメタクリルアミド-オリゴラクテート)をベースとするコポリマーが好適である。種々の他の(メタ)アクリルアミドエステルは、感熱性ブロックコポリマーの構成に使用でき、例えば、HPMAm(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)またはHEMAm(ヒドロキシエチルメタクリルアミド)のエステル、好ましくは(オリゴ)乳酸エステルおよびN-(メタ)アクリロイルアミノ酸エステルである。好適な感熱性ブロックコポリマーは、HPMAm-乳酸エステルポリマーなどのメタクリレート基によって修飾されうる官能基を含むモノマーから得られる。
【0037】
使用できる他の種類の機能的な感熱性(コ)ポリマーは、疎水性修飾ポリ(N-ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド、反応性官能基を含むモノマーとのN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)のコポリマー組成物(例えば、酸性のアクリルアミドおよびN-アクリルオキシスクシンイミドなどの他の成分(moieties))または類似のポリ(アルキル)2-オキサゾリンのコポリマーなどである。
【0038】
別の好適な感熱性基は、NIPAAmおよび/またはアルキル-2-オキサゾリンをベースとするものが可能であり、このモノマーは、ヒドロキシル、カルボキシル、アミンまたはスクシンイミド基を含む、(メタ)アクリルアミドまたは(メタ)アクリレートなどの反応性官能基を含むモノマーと反応できる。
【0039】
適切な感熱性ポリマーは、US-B-7,425,581およびEP-A-1 776 400に記載されている。
【0040】
ただし、必ずしも感熱性である必要はなく、架橋性反応基を含む、もしくは架橋性反応基で修飾されてもよい他の種類の両親媒性ブロックコポリマーまたはイオン性ミセルが使用されてもよい。そのような場合、直接溶解、透析および溶媒蒸発などの最新技術の方法を使用して、ミセルを形成できる。
【0041】
水中で富ポリマー相を形成し(conform)(例えば、疎水性相互作用またはイオン性相互作用により)、反応性部分を含むもしくは、反応性部分を結合するために使用可能な部分を含むこうした他の種類のポリマーは、例えば、(例えば、Kimら、Polym. Adv. Technol.、10 (1999年)、647〜654ページに詳細に記載されているような)PEG-PLA-メタクリレート、(例えば、LeeらがMacromol. Biosci. 6 (2006年) 846〜854ページで記載しているような)メタクリル化PLA-PEG-PLA、(例えば、Huらが、Macromol. Biosci. 9 (2009年)、456〜463ページにおいて記載しているような)メタクリル化PEG-ポリカプロラクトン、ならびにポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸および/またはポリカプロラクトンをベースとする(ブロックコ)ポリマーを含む他の反応性部分である。
【0042】
さらに、イオン性相互作用によりミセルを形成できるポリマーを使用することができ、例えば、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(メタクリル酸)コポリマーと二価金属カチオンとのブロックイオノマー複合体(block ionomer complex)(例えば、Kimらが、J. Control. Rel. 138 (2009年) 197〜204ページにおいて、さらにBonthaらが、J. Control. Rel. 114 (2006年) 163〜174ページにおいて記載しているような)、ポリ(エチレングリコール)およびポリ(アミノ酸)のブロックコポリマーをベースとするポリイオン複合体(polyionic complex)(例えば、Leeら、Angew. Chem 121 (2009年) 5413〜4516ページ;Nishiyamaら、Cancer Res. 63 (2003年)、8977〜8983ページ、またはMiyataら、J. Control. Rel. 109 (2005年) 15〜23ページにおいて教示されているような)などである。
【0043】
一般に、適切な溶媒系で異なる部分相を作り出すことができるあらゆるポリマーを、そのような部分相に選択的に局在させることが可能な生物活性薬剤と共に使用することができる。
【0044】
ポリマーに封入される活性成分としては、薬物分子、ペプチド/タンパク質、造影剤、遺伝物質またはこうした化合物の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、こうした活性成分は、本明細書の上に記載されているポリマーのポリマー鎖と物理的な非共有結合的な様式で相互作用する傾向のあるような性質をもつものである必要がある。好適な実施形態において感熱性ポリマーを使用する場合、本発明は、特に疎水性化合物のカプセル化に有用である。logPが1を超える、好ましくは2を超える活性成分で良好な結果が得られる。logPの定義については、Chemical Reviews 1971、volume 71、number 6を参照できる。
【0045】
ポリマー鎖および活性成分は、以下に限定されるものではないが、末端二重結合(例えば、ビニル基、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド)を含む反応性部分および/もしくは重合可能な部分、特にフリーラジカル重合可能な部分ならびに不飽和化合物(例えば、炭素-炭素二重結合を含む直鎖)を含むか、またはこれらを含むように修飾されてもよい。当然のことながら、活性成分は、フリーラジカル開始反応のみにより反応基から結合が形成されるよう選択または修飾される。これにより、目的とする最終用途において活性成分が所望の効果を維持することが保証される。
【0046】
使用されるポリマーは、活性成分の反応基と架橋および反応できるだけの十分に多くの反応性置換基を含む必要がある。例えば、10〜15%のポリマーのモノマー単位が反応性置換基を有すると、適切な結果が得られるが、最大100%のモノマー単位が反応性置換基で誘導体化されてもよい。
【0047】
活性成分の放出速度は、反応性部分を活性成分に結合するための、異なる種類のリンカーを使用することによって、容易に制御することができる。周知の適切な種類の分解可能なリンカー分子としては、エステルに限定されるものではないが、カーボネート、カルバメート、コハク酸もしくはオルトエステル、ケタール、アセタール、ヒドラゾンおよび酵素により分解可能なリンカー(例えば、ペプチド)またはこれらの組合せが挙げられる。さらに、感光性/感温性/超音波感受性(ultrasound- sensitive)などの周知のあらゆる種類の刺激応答性(stimuli sensitive)リンカー、および他のリンカーを使用することもできる。生物活性成分を修飾する場合、その治療活性を確実にするために、放出の際に本来の分子だけが放出され、誘導体は放出されないように結合の種類に注意を払う。生分解可能な結合を用いることによって、特定の制御放出プロフィールにより薬物分子などの本来の活性成分が放出され、その後その活性、特にその治療効果を発揮することになる。
【0048】
本発明の方法によって得られる生成物は、ミセル、ナノ粒子、ミクロスフェア、ヒドロゲルなどのポリマー担体および他の種類のポリマー担体、または封入され活性成分でコーティングされたデバイスなどの、制御放出のために封入された、もしくは他の方法で組み入れられた活性成分を含むデバイスである。
【0049】
上記のとおり、本発明の方法の、第二の基本的なステップにおいて、架橋および結合が達成される。これには、重合による架橋のために、以下に限定されるものではないが、KPS(過硫酸カリウム)/TEMED、光開始剤、熱不安定性の(thermo labile)開始剤、レドックス開始剤および開環メタセシス重合のための金属配位子を含む数種類の(フリーラジカル)開始剤を使用してもよい。さらに、リビングフリーラジカル重合技術を利用してもよい(例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP)および可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT))。カプセル化された活性成分の最終用途に応じて、開始剤の残基は、繰返し洗浄することによって、または他の既知の技術によって除去することができる。
【0050】
例として、本発明の方法の特定の実施形態の形成を記載する。この実施形態では、部分的にメタクリル化されたオリゴラクテート単位を有するPEG-b-ポリ(N-ヒドロキシアルキルメタクリルアミド-オリゴラクテート)をベースとするコポリマーから開始される。疎水性(薬物)分子は、カルバミン酸エステルなどの分解可能なリンカーを介して薬物分子に付着した重合可能な部分で誘導体化される。上記感熱性ブロックコポリマーの水溶液は、その後、ポリマーのCMT未満、すなわちミセル形成されない温度で、(わずかに)疎水性の薬物分子の、水混和性有機溶媒(好ましくは、低沸点の例えばエタノールまたはテトラヒドロフランなど)の少量の濃縮溶液(典型的には、10:1の体積比)と混合される。その後、開始剤溶液(KPS-TEMED)が添加され、次いで直ちに臨界ミセル形成温度(CMT)を超えるまで急速に加熱される。この結果、単分散高分子ミセル(大きさが約70nm)が形成される。これには、(薬物)化合物が疎水性相互作用により疎水性コアに非共有結合的に局在化している。ミセル形成後、窒素雰囲気が作り出される。これにより、開始剤のラジカルが、メタクリル化ポリマーと、反応性部分を有する重合可能な薬物化合物との重合を誘導することになる。この架橋プロセスの結果、絡み合ったネットワークが形成され、ミセルの大きさまたは均一性に影響を与えることなくミセルのコア内に共有結合的に薬物が固定される。
【0051】
このように、(薬物)分子は、架橋したミセルに共有結合的に封入される。本実施形態におけるミセルは、生理環境において未修飾オリゴラクテート単位の(部分的な)加水分解後、水和によって膨潤し、その後、分解可能なリンカーが切断される際に薬物が放出される。この切断は、局所の環境要因または外部刺激によるものでもよい。
【0052】
本発明の方法は、ミセルを形成できるポリマーの使用に限られるものではない。これも、高分子ナノ粒子、ミクロスフェア、ヒドロゲルまたはコーティング中への(薬物)分子の非共有結合的な封入および次いで起こる共有結合的な架橋を可能にする。(薬物)化合物を含むこうしたデバイスの適用に関して、本発明は、以下の非限定的な実施形態を包含する:
(a)in vivoにおける投与の際の、例えば、経口適用、血流への注入または器官もしくは腫瘍への直接注入による、架橋したミセルに封入された(薬物)分子の制御放出;
(b)局所投与の際の、架橋した高分子ミクロスフェアまたはヒドロゲルに封入された薬物および/またはタンパク質の制御放出;および
(c) 封入された薬物分子によるデバイスのコーティングの際の、(薬物)分子の制御放出。これは、感熱性ポリマーの相転移温度を超える温度に保たれている医療用デバイスに氷冷のポリマー水溶液および(有機溶媒の)薬物溶液を二重にスプレーすることなどにより、次いで起こる架橋および溶媒の蒸発の後、架橋したコーティングが形成される。
【0053】
ここで、本発明について、以下の非限定的実施例により説明する。
【実施例】
【0054】
本実施例では、デキサメタゾンをモデル薬物の化合物として選択した。これは、デキサメタゾンの二重の作用メカニズム、すなわち、炎症性サイトカインおよび癌化促進シグナル(pro-oncogenic signal)のダウンレギュレーションのためである。このため、デキサメタゾンは、抗炎症薬として広く使用されており、最近では、腫瘍への標的送達後にコルチコステロイドの顕著な抗腫瘍効果が確認された。
【0055】
特に、3H-デキサメタゾンを分解可能なカルバミン酸エステルリンカーを介してメタクリレート単位で修飾し、血液および組織サンプルの液体シンチレーション計数により個別に薬物および担体の薬物動態および体内分布を追跡するために14C標識ポリマーを使用した。部分的にメタクリル化されたオリゴラクテート単位を有するPEG-b-ポリ(N-2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド-オリゴラクテート)(CMTが11℃)をベースとする上記の特定の実施形態によって、修飾されたデキサメタゾンを物理的に封入し、次いで、架橋したミセルのコアに共有結合的に付着させた。遊離薬物、または架橋した高分子ミセルに非共有結合的にもしくは共有結合的に封入されデキサメタゾンを、B16F10腫瘍を有するマウスに静脈内投与し、そのマウスを6、24または48時間後に屠殺した。その結果を図1に示す。図1には、マウスに静脈内投与した後の、遊離薬物、ミセル中に非共有結合的に封入されデキサメタゾンおよび共有結合的に封入されデキサメタゾンの体内分布プロフィールおよび腫瘍蓄積が示されている。これらのマウスは6、24または48時間後に屠殺されている。
【0056】
架橋したミセルに未修飾デキサメタゾンを非共有結合的に封入しても、薬物の血液循環を引き延ばさなかった。しかしながら、共有結合的に封入されたデキサメタゾンの場合、遊離デキサメタゾンの0.3%と比較して、6時間後の血流に95%を超える共有結合的な薬物-担持ミセルがなおも存在していた。その上、皮下腫瘍1グラムあたりに、共有結合されたデキサメタゾンの注入量のうちの10パーセントが蓄積された。これは、遊離デキサメタゾンと比較すると23倍多い。最終的に、薬物とミセルの間の生分解性リンカーが、封入された薬物の治療活性を決定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分を組み入れたポリマーマトリックスを含む制御放出系の調製方法であって、
(i)反応性部分を含む活性成分を、前記活性成分の前記反応性部分と反応可能な少なくとも1つの反応性部分を含むポリマー鎖を含む水溶液またはディスパージョンと混合するステップであり、前記ポリマー鎖がさらに分子内または分子間で架橋可能である、ステップと;
(ii)ポリマーマトリックスの形成と同時に、前記活性成分がこのポリマーマトリックスに封入される、好ましくは共有結合的に封入されるような条件下で、この混合物を架橋に供して、前記ポリマーマトリックスを形成させるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(i)における前記ポリマー鎖が、連続水相中に富ポリマー鎖相を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記活性成分が、前記水相と比較して前記ポリマー相により高濃度に存在し、好ましくは前記ポリマー相に本質的に存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー鎖が感熱性ポリマー鎖である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記活性成分が水性環境で混合され、未架橋のポリマー鎖も、最初は下限臨界溶液温度(LCST)未満の温度で存在し、その後、前記LCSTよりも高い温度でステップ(ii)が行われる;または最初は臨界ミセル形成温度(CMT)未満の温度で存在し、その後、前記CMTよりも高い温度でステップ(ii)が行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記感熱性ポリマー鎖が、N-ヒドロキシアルキル-(メタ)アクリルアミドまたはN-(メタ)アクリロイルアミノ酸の疎水性修飾エステルをベースとする(コ)ポリマーから選択される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー鎖が、メタクリル化されうる官能基を含み、HPMAm(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)またはHEMAm(ヒドロキシエチルメタクリルアミド)の(オリゴ)乳酸エステルを含む、N-ヒドロキシアルキルメタクリルアミド-オリゴラクテートの(コ)ポリマーなどである、請求項4、5または6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
感熱性ポリマー鎖が、N-イソプロピルアクリルアミドおよび/またはアルキル-2-オキサゾリン由来のモノマーも含む、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記感熱性ポリマーをベースとするポリマーを形成するミセル、ヒドロゲル、微粒子および/またはコーティングを用いる、請求項4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマーがPEGとのジ-またはトリブロックコポリマーである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記活性成分が、薬物分子、ペプチド、タンパク質、造影剤、遺伝物質またはこれらの化合物の組合せである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマー鎖および前記活性成分が、重合可能な、特にフリーラジカル重合可能な部分を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記重合可能な、特にフリーラジカル重合可能な部分が、末端二重結合、好ましくはビニル基、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基を含む;または不飽和化合物、好ましくは炭素-炭素二重結合を含む直鎖である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記重合可能な部分が、分解可能な結合を介して前記活性成分に結合される、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−505200(P2013−505200A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527760(P2011−527760)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050556
【国際公開番号】WO2010/033022
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(506308769)ウニフェルジテイト・ユトレヒト・ホールディング・ベスローテン・フェンノートシャップ (4)
【氏名又は名称原語表記】Universiteit Utrecht Holding B.V.
【Fターム(参考)】